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家族信託とは?認知症に備える財産管理の仕組み
「親が認知症になったら、実家を売ることも預金を下ろすこともできなくなる」。そんな話を聞いて、不安になった方も多いのではないでしょうか。実際、判断能力が衰えた人は、契約や財産の処分を自分で行えません。銀行は本人の意思が確認できなければ、家族であっても預金の引き出しに応じないのが原則です。
こうした事態に備える方法として注目されているのが、家族信託です。家族信託とは、財産を持つ人が、信頼できる家族に財産の管理や処分を任せる契約のことです。親が元気なうちに契約しておけば、その後に認知症になっても、子が親に代わって財産を管理し、必要なら売却することもできます。
この記事では、家族信託の仕組み、成年後見や遺言との違い、メリットとデメリット、契約の手順と費用、税金の扱い、トラブルを防ぐ注意点までを、弁護士の視点で整理します。家族信託は自由度の高い制度だからこそ、設計を誤ると思わぬ問題を招きます。検討を始める前に、全体像をつかんでおきましょう。
たとえば、こんな相談がよく寄せられます。80代の父が一人で実家に暮らしていて、いずれは施設に入る予定だ。施設の費用は実家を売って用意したいが、そのころに父が認知症になっていたら売れないと聞いた。どうしておけばよいのか。家族信託は、まさにこうした悩みに応えるための仕組みです。
家族信託は、2007年に施行された改正信託法によって使いやすくなりました。もともと信託は、信託銀行などが報酬を得て行う商事信託が中心でしたが、家族のあいだで営利を目的とせずに行う民事信託の活用が広がり、その代表的な使い方が「家族信託」と呼ばれるようになりました。法律上の特別な制度名ではなく、家族を受託者とする民事信託の呼び名です。
家族信託に登場する三人の役割
家族信託には、委託者、受託者、受益者という三つの立場があります。
| 立場 | 役割 | 典型例 |
|---|---|---|
| 委託者 | 財産を託す人 | 親 |
| 受託者 | 託された財産を管理・処分する人 | 子 |
| 受益者 | 財産から生じる利益を受け取る人 | 親(委託者と同じ人にすることが多い) |
もっとも多いのは、親が委託者と受益者を兼ね、子が受託者になる形です。財産の名義は子に移りますが、財産から得られる利益(家賃収入や売却代金)は引き続き親のものです。名義と利益を分けることで、親の生活を守りながら、管理の権限だけを子に移せるのが家族信託の核心です。
信託できる財産・できない財産
家族信託の対象にできる財産は、法律上は幅広く、金銭、不動産、株式などが代表的です。一方で、性質上、信託に向かないものや、できないものもあります。
| 信託できる主な財産 | 信託できない・難しい財産 |
|---|---|
| 現金・預金(信託口口座に移す) | 年金を受け取る権利 |
| 自宅や賃貸物件などの不動産 | 借金などのマイナスの財産 |
| 上場株式(対応する証券会社に限る) | 農地(農業委員会の許可が必要で、実務上は難しい) |
| 自社株式 | 預金口座そのもの(口座の中のお金を移す) |
預金については、親名義の口座をそのまま信託するのではなく、中のお金を受託者が管理する信託口口座へ移す形をとります。また、借金は信託できないため、住宅ローンが残っている不動産を信託する場合は、金融機関の承諾を得ておく必要があります。
信託監督人と受益者代理人
三人の当事者のほかに、受託者の仕事ぶりをチェックする人を置くこともできます。信託監督人は、受託者が契約どおりに財産を管理しているかを監督する役割です。受益者代理人は、判断能力が衰えた受益者に代わって、受託者に報告を求めたり、契約の変更に同意したりする役割を担います。受託者以外の兄弟や、弁護士などの専門家が就任するのが一般的です。
なぜ今、家族信託が注目されているのか
高齢化が進み、認知症の方の財産が動かせなくなる問題は、多くの家庭にとって身近なものになりました。銀行は、預金者が認知症であることを知ると、本人保護のために口座の取引を制限することがあります。家族が代わりに引き出そうとしても、正式な代理権がなければ応じてもらえません。
これまでは、判断能力が衰えた後の備えとして成年後見が主に使われてきましたが、使い勝手の悪さから利用をためらう家庭も少なくありませんでした。家族信託は、元気なうちに家族の間で管理の方法を決めておけるため、成年後見の弱点を補う方法として相談が増えています。
成年後見・遺言との違い
判断能力の衰えや相続に備える制度には、家族信託のほかに成年後見と遺言があります。それぞれ、できることと始まる時期が違います。
| 比べる点 | 家族信託 | 成年後見(法定後見) | 遺言 |
|---|---|---|---|
| 始まる時期 | 契約した時 | 判断能力が衰えてから家庭裁判所が選任 | 亡くなった時 |
| 管理する人 | 本人が選んだ家族 | 家庭裁判所が選ぶ(専門家になることも多い) | 遺言執行者 |
| 財産の運用・売却 | 契約の範囲で柔軟にできる | 本人の財産を守るのが原則で、積極的な運用は難しい | 生前は対象外 |
| 自宅の売却 | 契約で定めれば受託者が売れる | 家庭裁判所の許可が必要 | 生前は対象外 |
| 身上監護(介護契約など) | できない | できる | できない |
| 家庭裁判所の監督 | なし | あり | なし |
| 二代先までの承継の指定 | できる | できない | 原則できない |
家族信託は財産の管理に特化した仕組みで、介護施設との契約や入院の手続きといった身の回りのことまでは扱えません。そのため、家族信託と任意後見契約を組み合わせる方法もよく使われます。財産は家族信託で、身上監護は任意後見で、という役割分担です。
成年後見と比べたときの家族信託の利点は、財産の使い方の自由度にあります。成年後見人の役割は、本人の財産を守ることです。そのため、本人のためにならない支出や、財産を減らすおそれのある投資、相続税対策としての生前贈与などは、原則として認められません。さらに、弁護士や司法書士が後見人に選ばれると、本人が亡くなるまで報酬の支払いが続きます。東京家庭裁判所の目安では、管理する財産が1,000万円以下なら月額2万円程度とされ、長期になれば負担は小さくありません。
遺言との違いも押さえておきましょう。遺言は亡くなった後の財産の行き先を決めるものですが、家族信託は生前の管理から死後の承継まで、一つの契約で連続して定められます。たとえば「自分が生きている間は自分が受益者、亡くなった後は妻、妻が亡くなった後は長男」と、受益者を順に指定することもできます。これを受益者連続型信託といい、遺言ではできない承継の設計です。
どの制度が合うかを考えるときは、「いつから」「何を」「誰が」管理するのかという三つの軸で整理すると、判断しやすくなります。元気なうちから財産の管理を任せたいなら家族信託、判断能力が衰えた後の生活全般を支えてほしいなら後見、亡くなった後の分け方を決めたいなら遺言が基本です。多くの家庭では、どれか一つではなく、複数を組み合わせることで漏れのない備えになります。
たとえば、アパートと自宅を持つ80代の父の場合、アパートと自宅は家族信託で長男に管理を任せ、預金の一部と介護施設との契約は任意後見で備え、信託しなかった預金や株式の分け方は遺言で決める、という組み合わせが考えられます。それぞれの制度が得意な部分を受け持つことで、判断能力が衰えた後も、亡くなった後も、財産が止まることなく家族のために使われ続けます。
反対に、預金が数百万円程度で不動産もないなら、家族信託の初期費用に見合う効果は得にくく、任意後見や遺言だけで足りることが多いでしょう。守りたい財産の種類と金額を、まず書き出してみてください。
任意後見との違い
任意後見は、判断能力があるうちに、将来の後見人を自分で選んで契約しておく制度です。家族信託と同じく元気なうちに備える点は共通しますが、効力が生じるのは判断能力が衰えて家庭裁判所が任意後見監督人を選んだ後です。監督人には報酬がかかり、財産の積極的な運用が難しい点は法定後見と同様です。一方、介護施設との契約など身上監護ができるのは任意後見の強みです。財産の管理は家族信託、身の回りのことは任意後見、と組み合わせるのが実務でよく使われる形です。
家族信託のメリット
家族信託が選ばれる理由は、主に次の点にあります。
- 認知症になっても財産が凍結されない:受託者が管理を続けられるため、実家の売却や賃貸物件の修繕、預金の払い出しができる
- 家庭裁判所の関与がない:成年後見のように、報告や許可のたびに裁判所の手続きを踏む必要がない
- 管理する人を自分で選べる:家族の中で信頼できる人に任せられる
- 二代先、三代先まで財産の行き先を決められる:先祖代々の土地を特定の家系に残したい場合などに使える
- 共有不動産の問題を防げる:兄弟で共有する予定の不動産を、一人の受託者に管理させることで、売却時に全員の同意を集める手間を省ける
とくに、親名義の実家を将来売って介護費用に充てたいと考えている家庭では、家族信託の効果がはっきり表れます。
具体的な場面を三つ挙げてみます。一つ目は、アパートを経営している親が高齢になったケースです。家族信託で子を受託者にしておけば、親が認知症になっても、子が入居者との契約更新や修繕の発注、建て替えの判断を続けられます。二つ目は、障害のある子がいる親のケースです。親が亡くなった後も、ほかの子や親族が受託者として財産を管理し、障害のある子の生活費に充てる仕組みを作れます。三つ目は、再婚した夫婦のケースです。夫の財産をまず妻の生活のために使い、妻が亡くなった後は前妻との子に渡す、といった承継の順番を決めておけます。
親が認知症になってから実家を売るには、成年後見人を選任し、居住用不動産の売却について家庭裁判所の許可を得る必要があります。家族信託を結んでおけば、受託者の判断で売却できます。
相続手続きが簡単になる
信託した財産は、委託者が亡くなっても遺産分割の対象になりません。契約で定めた次の受益者や帰属権利者に、そのまま引き継がれます。遺産分割協議のために相続人全員の実印と印鑑証明書を集める必要がなく、預金の解約や不動産の名義変更の手続きも短期間で済みます。相続人が多い家庭や、相続人の中に連絡の取りにくい人がいる家庭では、この点も大きな利点です。
家族信託のデメリットと注意点
自由度が高い分、家族信託には注意すべき点もあります。メリットだけで判断すると、後で困ることになりかねません。
| デメリット | 内容 |
|---|---|
| 判断能力があるうちしか契約できない | 認知症が進んでからでは契約できず、成年後見しか選べなくなる |
| 身上監護はできない | 介護施設との契約や入院手続きは、別に任意後見などで備える必要がある |
| 受託者の負担が大きい | 財産の分別管理、帳簿の作成、毎年の報告など、長期にわたる責任を負う |
| 損益通算ができない | 信託した賃貸不動産の赤字を、ほかの所得と相殺できない |
| 遺留分の問題は残る | 信託で財産の行き先を決めても、ほかの相続人の遺留分を侵害すれば請求される |
| 初期費用がかかる | 契約書の作成、公正証書、登記などの費用が必要 |
遺留分については、裁判例で、遺留分を免れる目的で組まれた信託の一部を無効とした例があります。家族信託は遺留分を回避する手段にはならない、と考えておくのが安全です。
損益通算ができない点も、賃貸経営をしている家庭では見落とせません。たとえば、信託したアパートで修繕費がかさみ200万円の赤字が出ても、親の年金などほかの所得と差し引きできず、赤字は切り捨てられます。大規模な修繕を予定しているなら、信託の時期を工夫する必要があります。
もう一つ見落とされがちなのが、受託者自身の生活への影響です。受託者は、信託財産の管理に関して第三者と契約を結ぶ当事者になります。賃貸物件で入居者とトラブルが起きれば、受託者が対応しなければなりません。受託者に選ばれた子が遠方に住んでいる、仕事が忙しいといった事情があるなら、管理会社への委託も含めて、現実に続けられる体制かどうかを検討してください。
受託者の負担についても、具体的に知っておきましょう。受託者には、信託法で次のような義務が課されています。
- 善管注意義務:財産を、専門家として求められる程度の注意を払って管理する
- 分別管理義務:信託財産と自分の財産をはっきり分けて管理する
- 帳簿作成・報告義務:収支を記録し、受益者に報告する。毎年1回、財産の状況を示す書類を作る
- 忠実義務:受益者の利益のためだけに行動し、信託財産を自分のために使わない
取引の場面で説明を求められることがある
家族信託はまだ広く知られた制度ではないため、不動産の売却や賃貸の契約の場面で、相手方や仲介業者から受託者の権限について説明を求められることがあります。登記事項証明書の信託目録や信託契約書の写しを示せば、受託者に売却の権限があることを確認してもらえます。取引をスムーズに進めるためにも、契約書で受託者の権限をはっきり書いておくことが大切です。
家族信託の手続きと流れ
家族信託は、家族で話し合うところから始まり、契約、財産の移転、登記という順で進みます。
- 何のために信託するのか(認知症対策、実家の売却、事業の承継など)を家族で話し合う
- 信託する財産(不動産、預金、株式など)と、受託者・受益者・信託の終わり方を決める
- 信託契約書の案を作り、家族全員で内容を確認する
- 公証役場で信託契約を公正証書にする
- 金融機関で信託口口座を開設し、信託する預金を移す
- 不動産は法務局で所有権移転と信託の登記をする
- 受託者が財産の管理を始め、帳簿を付ける
信託契約は法律上は公正証書でなくても成立しますが、金融機関の多くは信託口口座の開設に公正証書を求めます。また、契約時点で委託者に判断能力があったことを後から争われないためにも、公正証書にしておくのが確実です。
信託口口座は、受託者個人の財産と信託財産を分けて管理するための専用口座です。受託者が亡くなっても、信託財産が受託者の相続財産に混ざらないようにするために欠かせません。ただし、信託口口座を扱っている金融機関はまだ限られているため、事前に取引先の金融機関に確認してください。
契約書には、少なくとも次の事項を盛り込みます。
| 条項 | 内容 |
|---|---|
| 信託の目的 | 委託者の生活と療養の支援、財産の適切な管理など |
| 信託財産 | 不動産の所在・地番、預金の額などを特定する |
| 当事者 | 委託者・受託者・受益者、後継受託者、信託監督人 |
| 受託者の権限 | 管理、売却、賃貸、借入れの可否 |
| 信託の終了 | 委託者の死亡など終了の事由と、残余財産の帰属先 |
話し合いを始めてから契約と登記を終えるまでは、2か月から3か月程度を見込んでおくとよいでしょう。親の体調によっては急ぐ必要がありますが、家族の合意を置き去りにして進めると、後の争いの種になります。
不動産の信託登記で記録されること
不動産を信託すると、登記簿の所有者欄は受託者の名義になり、登記の原因は「信託」と記録されます。あわせて信託目録が作られ、委託者・受託者・受益者の氏名や、信託の目的、受託者の権限、信託の終了事由などが登記されます。誰でも登記簿を取得すれば内容を見られるため、家族の事情を細かく書きすぎないよう、目録に載せる内容は専門家と相談して決めてください。
家族信託にかかる費用と税金
家族信託の初期費用は、専門家への報酬、公正証書の作成手数料、登記の費用に分かれます。
| 費用の種類 | 目安 |
|---|---|
| 専門家のコンサルティング・契約書作成 | 信託財産の額の1%前後とする事務所が多い(最低額30万円程度) |
| 公正証書の作成手数料 | 数万円程度(財産額によって異なる) |
| 信託の登録免許税 | 土地は固定資産税評価額の0.3%、建物は0.4% |
| 司法書士の登記報酬 | 10万円前後から |
税金の面では、委託者と受益者が同じ人(親)であれば、財産の名義が子に移っても、利益を受けるのは親のままなので、贈与税はかかりません。これを自益信託といいます。反対に、受益者を子にすると、親から子への贈与とみなされて贈与税がかかります。
親が亡くなって受益権が次の受益者に移ると、その時点で相続税の対象になります。信託した財産も、通常の相続財産と同じように評価され、小規模宅地等の特例も要件を満たせば使えます。家族信託は相続税を減らす制度ではないことを、誤解しないようにしてください。
費用の感覚をつかむために、例を挙げます。評価額3,000万円の実家と預金2,000万円を信託する場合、信託財産の1%を報酬とする事務所なら、コンサルティングと契約書作成で約50万円です。これに公正証書の手数料、登録免許税(土地の評価額が2,000万円なら6万円、建物が500万円なら2万円)、登記の報酬が加わり、合計で70万〜80万円程度になるのが一般的な水準です。成年後見で専門家に月2万円の報酬を10年間払い続ける場合と比べると、長期的には家族信託のほうが負担が小さくなることもあります。
信託を始めた後にかかる手間と費用
初期費用のほかに、継続的な手間もあります。信託財産から生じる収益が年間3万円を超える場合、受託者は毎年、税務署に信託の計算書を提出しなければなりません。賃貸不動産を信託したなら、受益者の確定申告で信託分の収支を別に記載する必要もあります。受託者に報酬を払う契約にした場合は、その報酬も継続的な支出になります。
家族信託が向いているケース・向かないケース
家族信託は万能ではありません。家族の状況によっては、ほかの制度のほうが適していることもあります。
| 向いているケース | 向かないケース |
|---|---|
| 親が元気なうちに、実家の売却や賃貸経営を子に任せたい | 親の判断能力がすでに衰えている |
| アパートなど管理が必要な不動産を持っている | 財産が預金だけで、金額もそれほど多くない |
| 障害のある子の将来の生活を支える仕組みを作りたい | 受託者を任せられる家族がいない |
| 先祖代々の土地を特定の家系に承継させたい | 家族の仲が悪く、受託者への不信が予想される |
| 兄弟で共有になる不動産の管理を一本化したい | 身上監護を中心に備えたい |
預金だけなら、代理人カードや任意後見で足りることもあります。家族信託は初期費用がかかるため、守りたい財産の内容と、将来どのような管理が必要になるかを見極めてから選んでください。
親亡き後の問題に備える
障害のある子を持つ親にとって、自分が亡くなった後に子の生活をどう支えるかは切実な問題です。遺言で子に財産を相続させても、子が自分で管理できなければ、結局は成年後見が必要になります。家族信託なら、親が亡くなった後も、兄弟や親族が受託者として財産を管理し、障害のある子を受益者として生活費や施設の費用を渡し続ける仕組みを作れます。子が亡くなった後の残りの財産を、世話をしてくれた兄弟に渡すところまで、一つの契約で決めておけます。
トラブルを防ぐための設計のポイント
家族信託のトラブルの多くは、契約の設計段階で防げます。契約書を作る際は、次の点を具体的に決めておいてください。
- 受託者が亡くなったり病気になったりしたときの、次の受託者(後継受託者)
- 受託者に認める権限の範囲(売却してよいか、借入れをしてよいか)
- 信託が終わる時期(委託者の死亡時など)と、残った財産を誰に渡すか
- 受託者の報酬を払うかどうか
- 家族への報告の方法と頻度
とくに注意したいのは、受託者以外の家族の理解です。親と長男だけで契約を進めると、後から知った二男や長女が「財産を独り占めしようとしている」と受け取り、相続のときに争いが噴き出すことがあります。家族全員が集まる場で、信託の目的と内容を説明しておくことが、何よりの予防策になります。
実際にあったトラブルとして、次のような例があります。受託者の長男が、信託した預金から自分の子の学費を払っていた。受託者の長男が先に亡くなり、後継受託者を決めていなかったため、信託が機能しなくなった。契約書に売却の権限を書いていなかったため、親が施設に入った後も実家を売れなかった。どれも、契約書の設計と家族への説明で防げたものです。
受益者連続型信託を使う場合は、信託の開始から30年を経過した時点で受益者だった人の次の世代までしか、受益権の承継を定められないという期間の制限もあります。何代にもわたる設計をするときは、この点も踏まえて専門家と検討してください。
家族信託を弁護士に相談するメリット
家族信託は、司法書士、税理士、行政書士など、さまざまな専門家が扱っています。そのなかで弁護士に相談するメリットは、将来の紛争を見据えた設計ができる点にあります。
家族信託は遺留分や遺産分割と密接に関わるため、契約の内容によっては、相続のときにほかの家族から請求を受けたり、契約の有効性を争われたりすることがあります。
弁護士は、どのような信託なら争いを招きにくいか、遺言と組み合わせてどう手当てするかを、紛争の実務を踏まえて助言できます。家族の間ですでに意見の対立があるなら、なおさら弁護士の関与が役立ちます。
家族信託は、親の判断能力があるうちにしか始められません。「そのうち考えよう」と先送りにしているうちに契約できなくなる、というのがもっとも多い後悔です。親が元気な今こそ、家族で話し合い、専門家に相談するタイミングだと考えてください。
相談の前に準備しておきたいこと
- 信託したい財産の一覧(不動産の固定資産税納税通知書、預金の残高、株式の明細)
- 家族構成と、それぞれの家族の関わり方
- 親の健康状態と、主治医の意見
- 信託で実現したいこと(実家を売りたい、賃貸経営を続けたい、特定の人に承継したいなど)
目的がはっきりしているほど、設計の選択肢を具体的に示してもらえます。
家族信託に関するよくある質問
親が認知症と診断された後でも家族信託はできますか
診断を受けていても、契約の内容を理解し判断できる程度の能力が残っていれば、契約できる可能性があります。ただし、後から契約の有効性を争われるおそれがあるため、医師の意見を得たうえで、公正証書で作成するのが安全です。判断能力が十分でなければ、成年後見を利用することになります。
家族信託をすると、親の年金も子が管理するのですか
年金は法律上、本人に支払われるもので、信託財産にすることはできません。年金は本人の口座に入り、そこから生活費などに使われます。年金が振り込まれた後の預金の一部を信託財産に移すことはできます。
受託者は必ず家族でなければなりませんか
家族以外の個人も受託者になれますが、報酬を得て繰り返し受託者になることは信託業法の規制を受けるため、弁護士や司法書士が受託者を引き受けることは原則としてありません。専門家は、契約書の作成や信託監督人として関わるのが一般的です。
家族信託と遺言、どちらを優先すべきですか
信託した財産には遺言の効力が及ばないため、同じ財産について両方で違う定めをすると、信託契約の内容が優先されます。信託しなかった財産は遺言で行き先を決めておく、というように、両方を組み合わせて漏れのないように設計するのが基本です。
家族信託をしていても、相続放棄はできますか
相続放棄は、信託財産以外の遺産について行うものです。受益権を受け取る立場にある人が相続放棄をしても、信託契約で次の受益者に指定されていれば、受益権は相続とは別に取得すると考えられています。借金がある場合の扱いは複雑になるため、放棄を検討する際は必ず専門家に確認してください。
途中で家族信託をやめることはできますか
契約で定めた方法で終了させられるほか、委託者と受益者の合意で終了させることもできます。終了の条件や、終了したときに財産を誰に戻すかは、契約書にあらかじめ書いておくと混乱を防げます。
家族信託をすると、親は自宅に住めなくなりますか
住み続けられます。名義は受託者に移りますが、受益者である親が自宅に住む利益は変わりません。固定資産税の通知は名義人の受託者に届くようになるため、信託財産から支払う段取りを決めておいてください。
家族信託の内容は、ほかの兄弟の同意がないと決められませんか
信託契約は委託者と受託者の合意で成立するため、法律上はほかの兄弟の同意は要りません。ただし、同意なく進めると相続のときに争いになりやすいため、内容を説明し、理解を得ておくことを強くおすすめします。
信託した不動産を売ったお金はどうなりますか
売却代金は信託財産として信託口口座に入り、引き続き受託者が管理します。受益者である親の施設費用や生活費に充てる場合は、受託者が信託口口座から支払います。売却によって譲渡所得が生じた場合、確定申告をして税金を納めるのは、受託者ではなく受益者です。
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基礎控除額
4,200万円
課税対象額
800万円
相続税の総額(概算)
80万円
申告が必要です
※ 配偶者の税額軽減・小規模宅地等の特例を考慮しない概算です。実際の税額は個別事情により異なります。