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成年後見制度とは?相続で後見人が必要なケースを解説

この記事で分かること

  • 成年後見制度の基本と法定後見・任意後見の違い、3つの類型(後見・保佐・補助)
  • 相続で成年後見人が必要となる5つの典型ケース
  • 成年後見人にできること・できないこと(相続税対策の贈与は原則不可など)
  • 成年後見人の選任手続きの流れと費用、必要書類
  • 成年後見制度と家族信託の比較、実務で起こりやすいトラブル事例と予防策

成年後見制度とは、認知症・知的障害・精神障害で判断能力が不十分な方を法的に保護する制度です。相続では、判断能力のない相続人がいると遺産分割協議が進まないため、後見人の選任が必要となります。本記事では法定後見と任意後見の違い、3類型の判定基準、必要となるケース、手続きと費用、家族信託との比較、トラブル事例まで詳しく解説します。

成年後見制度とは

「認知症の母が相続人になったが、遺産分割協議に参加できない」「知的障害のある兄弟がいて、相続手続きが進まない」「父が認知症のため預貯金の引き出しができず困っている」――こうした状況に直面したとき、活用すべきなのが成年後見制度です。

高齢化が進む日本では、相続が発生したときに相続人の中に判断能力が不十分な方がいるケースが急増しています。読者の方が「家族が認知症で相続手続きが進まない」「後見人をつけるべきか分からない」と悩んでいるなら、まずは制度の全体像を理解することから始めましょう。本記事では、成年後見制度の基本、相続で必要となる場面、手続きや費用、実務上のトラブル事例まで、弁護士目線で詳しく解説します。

判断能力が不十分な人を法的に保護する制度

成年後見制度(せいねんこうけんせいど)とは、認知症・知的障害・精神障害などの理由で判断能力が不十分な方の財産管理や身上監護をサポートし、本人の権利を守るための法的な制度です。民法に基づき、2000年4月から従来の禁治産制度に代わって導入されました。

この制度を利用すると、本人に代わって財産を管理したり、契約行為を行ったりする「後見人」が選任されます。判断能力が低下した方が悪質な契約に巻き込まれたり、必要な手続きができずに不利益を被ったりすることを防ぐのが目的です。

特に相続の場面では、遺産分割協議や不動産の名義変更、預貯金の解約などに本人の意思表示が必要となります。判断能力がない方は単独でこれらの手続きを行えないため、成年後見人の関与が不可欠となります。「家族で話し合って決めた」では済まされず、法律的な手続きを踏む必要があるのです。

2種類の成年後見制度(法定後見と任意後見)

成年後見制度は、大きく分けて2種類あります。

項目 法定後見 任意後見
利用時期 判断能力が低下した後 判断能力があるうちに契約
後見人の選任 家庭裁判所が選任 本人が事前に指定
権限の範囲 法律で定められた範囲 契約で自由に決定
開始時期 審判確定時 判断能力低下後・監督人選任時
費用 申立て費用+継続報酬 契約費用+監督人報酬
家庭裁判所の関与 強い(選任・監督) 監督人選任時のみ

法定後見は、すでに判断能力が低下した方を対象とする制度です。家庭裁判所への申立てを通じて開始されます。事後的に対処する形となるため、本人の意思を反映しにくいのが特徴です。

任意後見は、判断能力が十分なうちに「将来、判断能力が低下したらこの人に後見をお願いしたい」と契約で決めておく制度です。本人の意思を最大限尊重できる点が特徴で、近年その活用が拡大しています。

2024年の利用者数と制度改正の動向

最高裁判所事務総局家庭局の統計によると、2023年末時点で成年後見制度の利用者数は約25万人に達しています。高齢化が進むにつれ、利用者は年々増加傾向にあります。

ただし、認知症患者数(推計約700万人)に比べると利用率はまだ低く、制度の使い勝手の問題が指摘されています。これを受け、現在法務省で制度全体の見直しが進められており、近い将来に大きな改正が予定されています。

主な改正検討事項は次のとおりです。

  • 後見の期間制限を設けるか(現状は本人死亡まで継続)
  • 類型(後見・保佐・補助)の見直し
  • 本人の意思尊重の強化
  • 柔軟な財産管理を可能にする規定の追加

これらの改正により、現在より利用しやすく、本人の意思を尊重しやすい制度になることが期待されています。

禁治産制度との違い

成年後見制度は、2000年4月施行の改正民法により、それまでの「禁治産制度」を全面的に見直して導入されました。

禁治産制度との主な違いは次のとおりです。

項目 禁治産制度 成年後見制度
類型 禁治産・準禁治産の2類型 後見・保佐・補助の3類型
本人の自己決定 制限的 尊重
記録 戸籍に記載 登記制度
呼称 禁治産者 成年被後見人

特に大きな変化は、戸籍に記載されなくなったことと、本人の自己決定を尊重する姿勢が明確になったことです。プライバシーへの配慮、本人の尊厳尊重という観点で大きく進化した制度といえます。

法定後見制度の3つの類型

法定後見制度には、本人の判断能力の程度に応じて3つの類型があります。それぞれの類型を詳しく見ていきましょう。

後見(判断能力を欠く常況)

「後見」は、判断能力を欠く常況(ほぼ常に判断能力がない状態)にある方を対象とする類型です。重度の認知症、知的障害、精神障害などが該当します。

具体的には、次のような状態の方が後見類型に分類されます。

  • 自分の名前や住所も答えられない
  • 日常生活において常時介護が必要
  • 食事・排泄・着替えなどの基本動作にも支援が必要
  • 金銭の意味が分からない
  • 家族の顔も認識できない

後見人には包括的な代理権が付与され、本人に代わって財産管理・契約行為・遺産分割協議への参加など、ほとんどの法律行為を行えます。本人は単独で有効な法律行為ができず、行った行為は原則として取り消すことができます(日常生活に関する行為は除く)。

ただし、本人の身分に関する行為(婚姻、養子縁組、遺言の作成など)は代理できません。これらは本人にしかできない一身専属的な行為だからです。また、本人の住居用不動産の処分には、家庭裁判所の許可が必要です(民法859条の3)。

保佐(判断能力が著しく不十分)

「保佐」は、判断能力が著しく不十分な方を対象とする類型です。日常的な買い物程度はできるが、不動産売買などの重要な契約には支援が必要な状態を指します。

具体的には、次のような状態の方が保佐類型に分類されます。

  • 日常的な買い物はできる
  • 家族関係や住所は分かるが、複雑な契約内容は理解できない
  • 計算や複雑な意思決定が困難
  • 不動産の売買や借入などには支援が必要
  • 軽度から中等度の認知症が該当することが多い

保佐人には、民法13条1項に列挙された重要な行為への同意権が与えられます。本人がこれらの行為を保佐人の同意なしに行った場合、保佐人は取り消すことができます。

同意権の対象となる重要な行為は次のようなものです。

  • 借金をすること、保証人になること
  • 不動産その他重要な財産の売買
  • 訴訟行為
  • 贈与・和解・仲裁合意
  • 相続の承認・放棄、遺産分割
  • 新築・改築・増築または大修繕の契約
  • 長期間の賃貸借契約

代理権については、家庭裁判所の審判で個別に付与されます。包括的な代理権ではない点が、後見と異なります。

補助(判断能力が不十分)

「補助」は、判断能力が不十分な方を対象とする類型です。軽度の認知症などで、自分でほとんどのことはできるが、一部のことに支援が必要な状態を指します。

具体的には、次のような状態の方が補助類型に分類されます。

  • 日常生活はほぼ自立して送れる
  • 重要な財産管理や契約だけサポートが必要
  • 家族関係・社会関係は問題なく維持
  • 軽度の認知症や軽度の知的障害が該当することが多い

補助人の同意権・代理権は、本人の同意のうえで家庭裁判所が個別に定めます。本人の自主性を最大限尊重するための類型です。

補助類型は、本人の同意が必要(後見・保佐は本人の同意不要)という点が特徴的です。本人の意思を最大限尊重する制度設計になっています。

3類型の違いを表で確認

3類型の違いを整理すると次のようになります。

類型 判断能力 後見人の権限 本人の行為能力 本人の同意
後見 欠く常況 包括的な代理権 ほぼ制限される 不要
保佐 著しく不十分 重要な行為への同意権(民法13条1項) 重要な行為に保佐人の同意が必要 不要
補助 不十分 個別に定めた同意権・代理権 個別に定めた行為に補助人の同意が必要 必要

どの類型に該当するかは、医師の診断書をもとに家庭裁判所が判断します。「うちの親はどの類型に当てはまるか?」を最初から決めつけず、医師の客観的な評価を仰ぐことが重要です。

類型の判定基準

類型の判定は、家庭裁判所所定の様式の診断書をもとに、医師が次のような項目で判断します。

  • 長谷川式簡易知能評価スケール(HDS-R)の点数
  • MMSE(Mini-Mental State Examination)の点数
  • 日常生活の自立度
  • 意思疎通の能力
  • 計算能力と金銭感覚
  • 記憶力
  • 判断力

これらの総合的な評価により、後見・保佐・補助のどれに該当するかが決まります。診断書だけで判断が難しい場合は、家庭裁判所が鑑定を実施することもあります。

相続で成年後見人が必要になる5つのケース

相続の場面で成年後見人の選任が必要となる代表的なケースを見ていきましょう。

ケース1 認知症の親が相続人になった場合

最も多いのが、認知症の親が相続人となるケースです。

たとえば父が亡くなって、母と子が相続人となった場合、母が認知症で判断能力が低下していると、遺産分割協議に参加できません。この場合、母のために成年後見人を選任する必要があります。

特に高齢の配偶者が認知症で、子が遺産分割を進めたいというケースは典型的です。後見人がいなければ、預貯金の解約も不動産の名義変更もできません。

実務でよくある具体的なシナリオは次のとおりです。

  • 父の死亡。相続人は母(認知症)と子3人
  • 母名義の口座から葬儀費用を引き出そうとしても、銀行から「ご本人確認ができないため」と断られる
  • 父名義の不動産の売却を考えたが、母も共有持分を持っていて売れない
  • 遺産分割協議を進めようとしたが、母の署名押印が得られない
  • 子3人で「母の取り分は子で代わりに使う」と合意しても法的に無効

こうした状況を解決するには、母のために成年後見人を選任するしかありません。家族が「面倒だから」と先延ばしにすると、相続税の申告期限(10ヶ月)に間に合わなくなる恐れがあります。

ケース2 知的障害のある相続人がいる場合

相続人の中に知的障害のある方がいる場合も、成年後見人の選任が必要となります。

知的障害の程度によって、後見・保佐・補助のどの類型に該当するかが変わります。本人の判断能力に応じた適切な類型を選ぶことが重要です。

知的障害のある相続人は、相続発生時に初めて成年後見制度の利用を検討するケースも多いですが、両親が元気なうちから早めに対応を考えておくのが理想的です。特に、両親が亡くなった後の生活設計と財産管理を一体で考えることが、本人の幸福のために重要です。

具体例を見てみましょう。

  • 父が死亡し、母と子3人(うち1人は重度の知的障害)が相続人
  • 知的障害のある子(40歳)は、自分の名前は分かるが財産の概念が理解できない
  • 遺産分割協議には参加できないため、家庭裁判所に後見開始の申立て
  • 後見人には他の兄弟ではなく、利益相反のない第三者(弁護士)を選任
  • 後見人が本人を代理して、法定相続分(1/6)を確保する形で遺産分割

このように、専門職後見人を選任することで、知的障害のある相続人の権利を適切に守ることができます。

ケース3 精神障害のある相続人がいる場合

統合失調症や重度のうつ病などの精神障害により判断能力が不十分な方も、成年後見制度の対象となります。

精神障害は症状の変動があるため、判断能力の状態を慎重に評価する必要があります。医師の診断書を添えて家庭裁判所に申立てを行います。

精神障害の場合、状態が良いときは判断能力があるように見えても、悪化時には全く意思表示ができなくなることがあります。長期的に安定した支援を行うために、後見制度の活用を検討すべきケースです。

ケース4 遺産分割協議に参加できない相続人がいる場合

判断能力に問題がある相続人がいると、その人の同意なしに遺産分割協議を進めることはできません。

たとえ他の相続人が「とりあえず進めよう」と思っても、判断能力のない相続人の署名・押印を強行すると、後で協議自体が無効になる恐れがあります。実際に、判断能力のない相続人を含めて成立させた遺産分割協議が、後から無効と判断された判例もあります。

具体的なリスクは次のとおりです。

  • 遺産分割協議自体が無効と判断される
  • 不動産の名義変更を遡って取り消される
  • 分配済みの財産の返還を求められる
  • 相続税の申告内容に影響して、修正申告が必要
  • 家族関係に決定的な亀裂が入る

成年後見人を選任して正式に協議に参加させることで、適法かつ確実な遺産分割を実現できます。「面倒だから」と省略するのではなく、必要な手続きを踏むことが結果的に家族全体の利益になります。

ケース5 被相続人本人が認知症だった場合(遺言能力)

被相続人本人が生前に認知症だった場合、その方が作成した遺言の有効性が問題となることがあります。

遺言を作成するには「遺言能力」が必要です。認知症が進行していた場合、遺言能力がなかったとして遺言が無効と判断される可能性があります。

実務上、認知症の方の遺言能力の有無は、次のような証拠で判断されます。

  • 遺言作成時の医師の診断書
  • 長谷川式やMMSEなどの認知機能検査の結果
  • 遺言作成時のビデオ録画
  • 遺言内容の合理性
  • 遺言作成時に第三者の影響がなかったか
  • カルテや介護記録

このため、認知症の診断を受けた後に遺言を作成する場合は、医師の診断書、ビデオ撮影、公正証書遺言の選択など、有効性を裏付ける対策が不可欠です。後の紛争を避けるために、専門家の関与のもとで作成することを強くおすすめします。

成年後見人にできること・できないこと

成年後見人には強い権限がありますが、何でもできるわけではありません。範囲を正しく理解しておきましょう。

成年後見人の権限と職務

成年後見人の主な権限・職務は次のとおりです。

  • 本人の財産管理(預貯金・不動産・有価証券など)
  • 収入・支出の管理
  • 各種契約の締結・解除
  • 身上監護(医療・介護・施設入所などの手配)
  • 遺産分割協議への参加(本人の代わり)
  • 訴訟の追行
  • 家庭裁判所への定期報告
  • 本人の財産から日常生活費の支払い
  • 必要な医療・介護サービスの契約

包括的な権限を持つ一方で、本人にとって不利益となる行為や、本人の意思に反する行為はできません。後見人の業務は「本人の利益のため」が常に最優先です。

遺産分割協議への参加権限

成年後見人は、本人の代理人として遺産分割協議に参加できます。

ただし、後見人と本人の利益が相反する場合(両方が同じ相続の相続人である場合など)は、特別代理人の選任が必要となります。たとえば、母を後見、子が後見人で同じ被相続人の相続人――というケースでは、子が母を代理して協議に参加することはできません。

このような場合、家庭裁判所に「特別代理人」の選任を申し立てる必要があります。特別代理人は、その遺産分割協議に限って本人を代理する役割を担います。

相続税対策のための贈与は原則できない

これは見落とされがちですが、極めて重要なポイントです。

成年後見人は、本人の財産を本人のために管理することが職務です。相続税対策のための贈与は、本人にとって直接的な利益がないため、原則として認められません。

「母を後見にして、相続税対策のために子へ生前贈与をしてもらおう」と考えても、後見人はこれを実行できません。家族にとっては節税になっても、本人自身の利益にならないからです。

このため、相続税対策を考えるなら、本人が判断能力を有するうちに着手することが重要です。後見開始後は対策の選択肢が大幅に狭まります。具体的には次のような行為が制限されます。

  • 暦年贈与による相続税対策
  • 生命保険を活用した節税
  • 養子縁組による法定相続人の増加
  • 収益不動産の購入による評価額圧縮
  • 事業承継のための株式贈与

これらは「本人の利益にならない」と判断されるため、後見人は実行できないのです。

本人にとって不利な決定はできない

成年後見人は、常に本人の利益を最優先しなければなりません。

たとえば、遺産分割協議で本人の取り分を法定相続分以下にすることは、原則として認められません。他の相続人が「本人は施設に入っているから財産は要らないだろう」と主張しても、後見人はこれを受け入れず、法定相続分を主張する必要があります。

このため、相続人の中に被後見人がいると、遺産分割の柔軟性が大幅に制約されます。「全員で話し合って円満に決める」という遺産分割協議が難しくなるのが現実です。

家庭裁判所も、後見人の遺産分割協議への対応を厳しくチェックします。本人の取り分が法定相続分を下回る合意をした後見人は、義務違反として責任を問われる可能性があります。

不動産の処分には家庭裁判所の許可が必要

本人(被後見人)が居住している不動産を売却・賃貸・抵当権設定する場合は、家庭裁判所の許可が必要です(民法859条の3)。

居住用不動産は本人の生活の基盤となる重要な財産だからです。後見人が独断で処分すると、許可なしの処分として無効となるおそれがあります。

具体的には次のような行為が許可対象です。

  • 居住用不動産の売却
  • 居住用不動産の賃貸契約
  • 居住用不動産への抵当権設定
  • 居住用不動産の建物の取り壊し

これらの行為を行う際は、必要性の説明、適正価格での処分、本人の意思確認(可能な範囲で)などを家庭裁判所に説明することになります。

成年後見人の選任手続きの流れ

成年後見人を選任するための具体的な手続きを確認しておきましょう。

STEP1 家庭裁判所への申立て準備

成年後見の申立てができるのは次の人です(民法7条)。

  • 本人
  • 配偶者
  • 4親等内の親族
  • 未成年後見人・未成年後見監督人
  • 市区町村長(特定の事情がある場合)
  • 検察官

申立て先は、本人の住所地を管轄する家庭裁判所です。本人が施設に入所している場合は、施設の所在地ではなく住民票上の住所地で判断します。

STEP2 必要書類の収集

申立てに必要な書類は次のとおりです。

書類 取得先
申立書 家庭裁判所のサイトからダウンロード
本人の戸籍謄本・住民票 市区町村役場
本人の診断書 医師(家庭裁判所所定の様式)
本人の財産目録 申立人が作成
本人の収支予定表 申立人が作成
後見人候補者の住民票 市区町村役場
登記されていないことの証明書 法務局
本人の親族関係図 申立人が作成
愛の手帳・障害者手帳の写し(該当者) 申立人が用意

特に診断書は重要で、家庭裁判所が指定する所定の様式を使用する必要があります。主治医に依頼して取得しましょう。診断書の作成には1〜2週間かかることもあるため、早めの依頼がおすすめです。

STEP3 申立書の作成と提出

集めた書類と申立書を、本人の住所地を管轄する家庭裁判所に提出します。

申立書には、本人の状況、後見が必要な理由、後見人候補者などを記載します。書類が多く、内容も専門的なため、弁護士のサポートを受けることをおすすめします。

申立て時に納める費用は次のとおりです。

  • 収入印紙:800円(後見・保佐・補助いずれも)
  • 登記手数料(収入印紙):2,600円
  • 連絡用の郵便切手:数千円程度
  • 鑑定費用(必要な場合):5万円〜10万円程度

申立てを取り下げるには、原則として家庭裁判所の許可が必要です(法定後見の申立て後)。「やはり後見は不要」と思っても、申立て後に簡単に取り下げられない点に注意しましょう。

STEP4 家庭裁判所の調査・審理

申立てを受けた家庭裁判所は、次のような調査を行います。

  • 家庭裁判所調査官による本人・親族への面接
  • 本人の判断能力の鑑定(必要な場合)
  • 後見人候補者の適格性の審査
  • 親族への意見聴取
  • 提出書類の精査

調査・審理には通常2〜3ヶ月程度かかります。本人の状態や事案の複雑さによっては、より長期化することもあります。

調査の中で「親族間の意見対立がある」「本人の状態の評価が分かれている」などの問題があれば、より慎重な調査が行われ、審理期間が延びる傾向があります。

STEP5 後見開始の審判と後見人の選任

審理が完了すると、家庭裁判所は「後見開始の審判」を行い、後見人を選任します。

審判書が後見人に送達され、2週間以内に不服申立てがなければ確定します。確定後、家庭裁判所が法務局に登記の嘱託を行い、後見が正式に開始されます。

後見人は、選任後すみやかに次の業務を開始します。

  • 本人の財産目録を作成(就任後1ヶ月以内)
  • 本人の収支予定表を作成
  • 家庭裁判所への報告
  • 本人の財産の管理開始
  • 必要に応じて施設・医療機関等への報告

申立てから審判確定までの期間

実務上の目安として、申立てから審判確定までの期間は次のとおりです。

事案の特徴 期間の目安
標準的な事案(争いなし) 2〜3ヶ月
鑑定が必要な事案 3〜4ヶ月
親族間の対立がある事案 4〜6ヶ月以上
緊急の場合(審判前の保全処分) 1ヶ月以内

相続税の申告期限(10ヶ月)を意識して、早めに申立て準備を始めることが重要です。

成年後見制度の費用

成年後見制度の利用には、申立て時の費用と継続的な後見人報酬がかかります。

申立てにかかる初期費用

申立て時にかかる主な費用は次のとおりです。

費用項目 金額
収入印紙(申立手数料) 800円
登記手数料 2,600円
連絡用郵便切手 3,000〜5,000円程度
診断書取得費 5,000〜10,000円程度
戸籍・住民票取得費 2,000〜5,000円程度
鑑定費用(必要な場合) 5万円〜10万円程度

合計で1〜3万円程度、鑑定が必要な場合は5〜15万円程度になります。

後見人への報酬

後見人(特に専門職後見人)には、本人の財産から定期的な報酬が支払われます。

報酬額は家庭裁判所が決定し、本人の財産額や後見人の業務量に応じて変動します。目安は次のとおりです。

本人の管理財産額 月額報酬の目安
1,000万円以下 月2万円程度
1,000万円〜5,000万円 月3〜4万円程度
5,000万円超 月5〜6万円程度

年間で24万円〜72万円程度の報酬負担が発生します。これは本人の財産から支払われるため、家族の負担にはなりませんが、長期間にわたる継続費用となる点には注意が必要です。

たとえば、本人が80歳で後見開始し、95歳まで生きる場合、15年間で360万円〜1,080万円の報酬が本人の財産から支払われる計算となります。長期的に見ると、決して小さい金額ではありません。

親族が後見人になる場合は、報酬を辞退するケースも多いですが、希望すれば家庭裁判所に報酬付与の申立てを行うことができます。

弁護士に申立てを依頼する場合の費用

成年後見の申立て手続きを弁護士に依頼する場合、別途20万円〜30万円程度の費用がかかります。

書類の収集・作成、家庭裁判所とのやり取り、調査への対応まで一括して任せられるため、複雑な事案では弁護士に依頼するメリットが大きいといえます。

特に次のようなケースでは、弁護士依頼が望ましいでしょう。

  • 親族間で後見人候補者について意見が分かれている
  • 本人の財産が複雑(複数の不動産・事業など)
  • 遺産分割と並行して進める必要がある
  • 申立人自身も高齢で書類作成が困難
  • 急いで後見開始する必要がある

成年後見制度利用支援事業の活用

経済的に困難な場合は、市区町村が実施する成年後見制度利用支援事業を活用できることがあります。

この事業では、申立て費用や後見人報酬の助成を受けられる場合があります。利用要件は市区町村ごとに異なりますが、生活保護受給者や低所得者を対象とすることが多いです。

費用負担を理由に成年後見の利用を諦めることがないよう、地域の社会福祉協議会や市区町村役場で相談してみることをおすすめします。

成年後見人になれる人・なれない人

成年後見人には誰がなれるのでしょうか。要件を確認しておきましょう。

成年後見人の欠格事由

民法847条は、次の人物を成年後見人になれないと定めています。

  • 未成年者
  • 家庭裁判所で免ぜられた法定代理人・保佐人・補助人
  • 破産者(免責決定を受けていない者)
  • 本人に対して訴訟をした者、その配偶者・直系血族
  • 行方の知れない者

これらに該当しない限り、誰でも後見人になり得ます。ただし、家庭裁判所は欠格事由がないだけでなく、後見人としての適格性(本人の利益を守れる能力・人柄)も総合的に審査します。

親族が後見人になるケース

家庭裁判所が後見人を選任する際、申立人が候補者として親族(配偶者、子、兄弟姉妹など)を挙げることがあります。

親族が後見人になるメリットは、本人の事情をよく理解していること、報酬を抑えられることなどです。一方で、デメリットとして、財産管理の専門性が不足する、親族間のトラブルにつながりやすい、業務負担が大きいなどがあります。

近年は、親族間のトラブル防止や財産保護の観点から、専門職後見人が選任されるケースが増えています。

専門職後見人(弁護士・司法書士など)が選ばれるケース

次のような場合は、専門職後見人が選任される傾向があります。

  • 本人の財産が多額の場合(1,000万円以上が目安)
  • 親族間の関係が悪い、対立がある
  • 本人と後見人候補が利益相反する
  • 遺産分割など複雑な法律問題が絡む
  • 適切な親族候補者がいない
  • 本人に身寄りがない
  • 本人が悪質商法等の被害に遭った経緯がある

専門職後見人は、弁護士・司法書士・社会福祉士などが中心です。家庭裁判所の候補者名簿から選ばれます。

複数後見人や後見監督人の選任

事案の規模や複雑さに応じて、複数の後見人が選任されることもあります。たとえば、財産管理は弁護士、身上監護は親族、というように役割分担をするケースです。

また、親族が後見人になる場合に、専門職後見監督人が選任されることもあります。後見監督人は、後見人の業務を監督する立場で、不正防止と適切な後見運営を確保します。

後見監督人にも報酬が発生し、目安は月1〜3万円程度です。本人の財産から支払われます。

親族後見人と専門職後見人の選任率

最高裁判所の統計によれば、2023年の成年後見人の選任状況は次のとおりです。

後見人類型 選任率(おおよそ)
親族(子・配偶者・兄弟など) 約20%
弁護士 約25%
司法書士 約35%
社会福祉士 約15%
その他(法人後見等) 約5%

専門職後見人が選任される割合は約80%にのぼり、近年は親族後見人の割合が低下傾向にあります。これは家庭裁判所が財産保護を重視し、専門性のある後見人を選任する傾向が強まっているためです。

遺産分割協議における成年後見人の役割

相続で成年後見人が果たす具体的な役割を確認しておきましょう。

本人の代わりに遺産分割協議書に署名

成年後見人は、本人の代理人として遺産分割協議に参加し、協議書に署名押印します。

協議書には「成年後見人 ○○○○」と記載し、本人の氏名と後見人の氏名を併記するのが一般的です。後見人の印鑑は実印を使用します。

協議書の文面例

被相続人○○○○の相続人全員は、本日の協議により、下記のとおり遺産分割協議を成立させた。相続人 ○○○○(被後見人)
成年後見人 ○○○○ (実印)

法定相続分以上の取得を主張するのが原則

前述のとおり、成年後見人は本人の利益を最優先します。遺産分割協議では、少なくとも法定相続分を確保することが原則です。

「本人はもう施設に入っているから財産はいらない」「他の相続人に譲りたい」といった主張は、家庭裁判所に認められません。後見人がそのような遺産分割に応じると、義務違反として責任を問われる可能性があります。

これにより、相続人の中に被後見人がいると、遺産分割の柔軟性が制約されることになります。

特別代理人が必要なケース

成年後見人と被後見人が同じ相続の共同相続人である場合、利益相反の問題が生じます。

たとえば、母を後見、その子が後見人で、両者が父の相続人である場合、子が母を代理して協議に参加することはできません。子の取り分を増やすために母の取り分を減らす、といった利益相反の判断を防ぐためです。

このような場合、家庭裁判所に特別代理人の選任を申し立てる必要があります。特別代理人は、その遺産分割協議に限って本人を代理します。

特別代理人の選任にも費用と時間がかかります。申立て手数料、必要書類の収集、家庭裁判所の審理――すべて含めて1〜2ヶ月程度の追加期間が必要です。

家庭裁判所への報告義務

遺産分割協議が成立した後、後見人は家庭裁判所に報告書を提出します。

報告書には協議の内容、本人の取得分、合意までの経過などを記載します。家庭裁判所は、後見人が本人の利益を適切に守ったかをチェックします。

遺産分割協議のシミュレーション

具体的なシミュレーションを見てみましょう。

【ケース】
被相続人:父A(死亡)
相続人:母B(認知症・後見開始済)、子C、子D
遺産:預貯金3,000万円、自宅(評価額3,000万円)、計6,000万円

【法定相続分】
母B:1/2(3,000万円相当)
子C:1/4(1,500万円相当)
子D:1/4(1,500万円相当)

【協議の進め方】
成年後見人は、母Bの取り分が法定相続分(3,000万円相当)を下回らないよう主張する必要があります。「自宅は子Cが取得、母Bは預貯金で代償をもらう」「母Bが住み続けられるよう自宅を母B名義に」など、本人の生活と利益を踏まえた配分が考えられます。

一方、「母Bは施設にいるから取り分は不要」「子CとDで折半したい」という合意は認められません。これでは母Bの利益を害することになるからです。

任意後見制度の活用

判断能力があるうちに将来に備える方法として、任意後見制度があります。

任意後見と法定後見の違い

任意後見の最大の特徴は、本人が後見人を自分で選べることです。

法定後見では家庭裁判所が後見人を選任しますが、任意後見では本人が「将来、判断能力が低下したらこの人に後見をお願いしたい」と契約で決められます。家族、友人、信頼する弁護士などを指定できます。

また、後見人の権限の範囲も契約で自由に定められます。法定後見のような固定された権限ではなく、本人の希望に応じた柔軟な設計が可能です。

任意後見契約の締結方法

任意後見契約は、公証役場で公正証書として締結します。これは任意後見契約法で義務付けられているもので、自筆や私署証書では効力が生じません。

費用は基本手数料11,000円のほか、登記嘱託料、印紙代などを合わせて1.5万円〜2万円程度です。

任意後見人候補者には、信頼でき、かつ自分より長生きする可能性が高い人を選ぶのがポイントです。複数の候補者を順位付きで指定することもできます。

任意後見が始まるタイミング

任意後見契約は、結んでもすぐに効力が生じるわけではありません。

実際に判断能力が低下したと判断された段階で、家族や任意後見人候補者が家庭裁判所に「任意後見監督人選任」の申立てを行います。家庭裁判所が監督人を選任した時点で、任意後見人の権限が発生し、後見業務が始まります。

監督人の選任前は、本人の自己決定が尊重されます。

任意後見契約の3つの形態(将来型・移行型・即効型)

任意後見契約には、開始時期に応じて3つの形態があります。

形態 特徴 適したケース
将来型 判断能力低下後に任意後見開始 現在は判断能力が十分
移行型 判断能力があるうちは見守り契約、低下後に任意後見開始 段階的な支援を希望
即効型 契約締結後すぐに任意後見開始(軽度の判断能力低下の場合) すでに軽度の判断能力低下あり

最も活用されているのは「移行型」で、判断能力があるうちは見守り契約や財産管理委任契約で支援を受け、判断能力低下後に任意後見契約へ移行する形です。

成年後見制度のメリット・デメリット

成年後見制度の総合的な評価を整理しておきましょう。

3つのメリット

  • 本人の財産を保護できる:悪質商法や詐欺から本人を守れる
  • 必要な手続きを代行できる:遺産分割、不動産売買、施設入所などをスムーズに進められる
  • 公的な制度で透明性が高い:家庭裁判所の監督下で運営されるため、不正のリスクが低い

4つのデメリット・注意点

  • 原則として一生続く:本人が亡くなるまで後見が継続し、途中で止めることが難しい
  • 後見人報酬が継続的に発生:年間数十万円の負担が長期間続く
  • 柔軟な財産運用ができない:相続税対策の贈与、積極的な投資などは制限される
  • 身上監護に過度の期待はできない:後見人は事実上の介護はしない

家族信託との比較

近年、成年後見制度の代替手段として注目されているのが家族信託です。

家族信託は、本人(委託者兼受益者)が信頼できる家族(受託者)に財産を託す仕組みで、後見制度よりも柔軟な財産管理・承継が可能です。

項目 成年後見制度 家族信託
利用時期 判断能力低下後でも可 判断能力があるうちに契約
財産管理の柔軟性 低い(本人利益優先) 高い(自由に設計可能)
相続税対策 原則できない 可能
身上監護 含む 含まない
監督 家庭裁判所 原則として家族のみ
費用 申立て費用+継続報酬 初期設計費用が中心

家族信託は財産管理の柔軟性で優れますが、身上監護を含まない、第三者の監督がないという弱点もあります。両制度を組み合わせて活用することも可能です。

制度選択のフローチャート

どの制度を選ぶべきかは、本人の状況と目的によって変わります。

状況 適した制度
すでに判断能力が低下している 法定後見(後見・保佐・補助)
判断能力はあるが将来に備えたい 任意後見+移行型契約
柔軟な財産管理を希望 家族信託
本人と家族の両方の利益保護を重視 任意後見+家族信託の併用
身上監護も含めた包括支援を希望 任意後見または法定後見

複数の制度を組み合わせることで、本人と家族双方にとって最適な対応が可能になります。

成年後見の実務でよくあるトラブル事例

実務で発生しやすいトラブル事例とその予防策を見ていきましょう。

事例1 後見人による財産横領

最も深刻なトラブルが、後見人による財産横領です。

親族後見人が本人の財産を私的に流用したり、専門職後見人が複数の被後見人の財産を不正に使用したりするケースが、年に数件報告されています。

家庭裁判所は不正防止のため、後見制度支援信託・支援預金の活用や定期的な報告書提出を求めています。それでも完全に防ぐことは難しく、近年では家族から「親族後見人が財産を流用しているのではないか」という相談が増えています。

予防策としては、定期的な財産報告の確認、後見監督人の選任、複数後見人の設定などが考えられます。

事例2 家族と専門職後見人の対立

専門職後見人が選任された場合、家族と後見人の意見が対立するケースもあります。

たとえば「家族は本人を自宅で介護したいが、後見人は施設入所を勧める」「家族は親族の集まりに本人を連れて行きたいが、後見人が許可しない」など、価値観や立場の違いから対立が生じることがあります。

専門職後見人は本人の利益を最優先する立場ですが、家族の意見を無視することは望ましくありません。コミュニケーションを密に取り、本人を中心に据えた支援を行うことが重要です。

事例3 認知症の進行を見落とした遺産分割

軽度の認知症で「まだ判断能力はある」と判断して遺産分割協議を進めたが、後から無効を主張されるケースもあります。

「協議書に署名した時点で、本人には遺産分割を理解する能力がなかった」と他の親族が主張し、訴訟になる事例です。判決で協議が無効と判断されると、相続税申告のやり直し、不動産名義変更の取り消しなど、深刻な影響が生じます。

予防策としては、本人の判断能力に疑問がある場合は早めに医師の診断書を取得し、必要に応じて成年後見を活用することです。

トラブル予防のポイント

トラブル予防のための主なポイントは次のとおりです。

  • 本人の判断能力に疑問があれば早めに医師の診断を仰ぐ
  • 判断能力が境界線上にある場合は無理に協議を進めない
  • 親族間で意見対立があれば専門職後見人を希望する
  • 後見開始後は財産の動きを定期的に確認する
  • 本人の意思を可能な限り尊重した支援を心がける
  • 定期的な家族会議で情報共有を図る
  • 必要に応じて弁護士に相談する

成年後見制度の手続きを弁護士に依頼するメリット

成年後見制度の手続きは複雑です。弁護士に依頼するメリットを整理しておきましょう。

申立て書類の作成を任せられる

成年後見の申立てには多数の書類が必要で、内容も専門的です。

弁護士に依頼すれば、戸籍・住民票の取得、財産目録・収支予定表の作成、申立書の作成まで、ほぼすべての書類対応を任せられます。家族の負担を大幅に軽減できます。

専門職後見人として就任してもらえる

弁護士は、専門職後見人として家庭裁判所から選任されることがあります。

複雑な相続事案、相続税対策と並行した対応が必要なケース、親族間の対立があるケースなどでは、弁護士が後見人を務めることで本人と家族双方の利益を守れます。

遺産分割協議も一括で対応してもらえる

成年後見申立てと並行して遺産分割協議を進める必要がある場合、弁護士に一括で依頼できるのが大きなメリットです。

後見の手続き、遺産分割の交渉、必要に応じて特別代理人選任の申立てまで、相続全体を見据えた対応が可能です。

家族間の対立を防げる

弁護士が間に入ることで、家族間の感情的な対立を避けながら冷静に手続きを進められます。

成年後見が必要な状況では、家族の不安や疲弊が大きく、些細なきっかけで意見対立が起こりがちです。第三者の専門家が関与することで、合理的な判断と円滑なコミュニケーションが可能になります。

ワンポイントアドバイス
成年後見制度は「相続が始まってから」考えるのでは遅いケースが少なくありません。家族の中に高齢者や障害のある方がいるなら、判断能力があるうちに任意後見契約や家族信託の活用を検討しましょう。早めの準備が、いざというときの家族の負担を大幅に軽減します。「うちはまだ大丈夫」と思っているうちに、適切な対策を取ることが何より重要です。

まとめ

成年後見制度とは、認知症・知的障害・精神障害などで判断能力が不十分な方を法的に保護する制度です。法定後見と任意後見の2種類があり、法定後見はさらに後見・保佐・補助の3類型に分かれます。

相続の場面では、判断能力が不十分な相続人がいると遺産分割協議が進まないため、成年後見人の選任が必要となります。後見人は本人の利益を最優先するため、法定相続分以上の取得を主張するのが原則で、相続税対策の贈与は原則として認められません。手続きは家庭裁判所への申立てから始まり、必要書類の収集、調査・審理を経て後見が開始されます。費用は申立て時に1〜3万円程度、専門職後見人の場合は月2〜6万円程度の継続報酬が発生します。

判断能力があるうちに任意後見契約や家族信託を活用することで、より柔軟で本人の意思に沿った支援が可能となります。複数の制度を組み合わせて活用することで、本人と家族双方にとって最適な対応ができます。

読者の方が「家族に認知症の方や障害のある方がいる」「相続手続きが進まない」と悩んでいるなら、まずは相続と成年後見の両方に詳しい弁護士に相談することをおすすめします。手続きの代行から専門職後見人への就任まで、一括して対応してもらえる安心感は何物にも代えがたいといえます。早めの対応が、家族の負担を軽減する最善策となります。判断能力の問題はある日突然顕在化するものですので、いざというときに慌てないよう、今から準備を始めましょう。

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