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遺言書の正しい書き方と無効になるNG例を解説

この記事で分かること

  • 遺言書の3種類(自筆証書遺言・公正証書遺言・秘密証書遺言)の特徴と選び方の3つの判断基準(財産規模・年齢/健康状態・内容の複雑さ)
  • 自筆証書遺言の正しい書き方|民法968条の5つの要件(全文自書・日付・氏名・押印・訂正方式)
  • 無効になるNG例10パターン(「2026年5月吉日」型の日付不特定・パソコン作成・押印漏れ・夫婦共同遺言など)とそれぞれの回避法
  • 2020年7月施行の法務局による自筆証書遺言保管制度(手数料3,900円・検認不要・全国312か所)の活用法と利用手続き
  • 公正証書遺言の作成手順・必要書類・2025年10月改正後の最新の公証人手数料(遺言加算13,000円・用紙代1枚300円)
  • 遺言書に書ける内容(法定遺言事項10種類)と書いても法的効力のない付言事項の違いと活用法
  • 遺言書の書き直し・撤回ルール(民法1022条〜1024条)、専門家への依頼判断と費用相場

遺言書の3種類の特徴と選び方の判断基準、自筆証書遺言の書き方(民法968条の5要件)、無効になるNG例10パターンと回避法、2020年7月施行の法務局保管制度(3,900円・検認不要)の活用法、公正証書遺言の作成手順と2025年10月改正後の手数料、遺言の書き直し・撤回ルール(民法1022条〜1024条)、専門家への依頼判断と費用相場を解説します。

遺言書を書こうとする方が、最初に知っておくべきこと

「家族に争いを残したくない」「特定の財産を特定の相続人に渡したい」「お世話になった人に少し財産を残したい」という気持ちから、遺言書の作成を考え始める方は多いです。インターネットで「遺言書 書き方」を検索すると、テンプレートや書式例が大量に出てきますが、形式不備で無効になる遺言書も少なくありません。

遺言書は、民法に定められた厳格な方式で作成しないと、効力が認められません。日付の書き方が「2026年5月吉日」と曖昧なだけで無効になる、判子(実印)を押さなかっただけで無効になる、というように、形式的なミスで作成者の意思が反映されない結果になります。せっかく書いた遺言書が無効になり、結局相続人同士で揉める事態を避けるには、書き方のルールを正確に理解する必要があります。

本記事では、(1)3種類の遺言書(自筆証書・公正証書・秘密証書)の特徴と選び方、(2)自筆証書遺言の正しい書き方を民法968条のルールに沿って解説、(3)無効になるNG例10パターンと回避法、(4)2020年7月から始まった法務局による自筆証書遺言保管制度の活用法、(5)公正証書遺言の作成手順と費用、(6)遺言書に書ける内容と書いても効力のない内容、(7)書き直し・撤回のルール、までを解説します。

遺言書は、家族への最後のメッセージであり、財産配分の指示書です。書き方を間違えなければ、家族間の争いを大きく減らせる強力な仕組みです。逆に、書き方を間違えると、作成者の意思に反する結果を残すこともあります。実態をフラットに見ていきましょう。

遺言書の3種類|自分に合うのはどれか

民法は、普通方式の遺言として3種類を認めています。(1)自筆証書遺言、(2)公正証書遺言、(3)秘密証書遺言、です。実務で使われるのは主に最初の2つで、秘密証書遺言は年間100件前後と利用が極めて少ない状況です。3つの違いを表で整理してから、選び方を見ていきます。

3種類の比較

項目 自筆証書遺言 公正証書遺言 秘密証書遺言
作成方法 本人が自筆で作成 公証人が作成(本人が口述) 本人が作成(自筆不要)、公証人が存在を証明
証人 不要 2人必要 2人必要
費用 0円(法務局保管は3,900円) 数万〜10万円程度(財産規模による) 13,000円+作成費
偽造・紛失リスク あり(保管次第) なし(原本は公証役場で保管) あり(本人保管)
無効リスク あり(形式不備) 極めて低い あり(形式不備)
検認の要否 必要(法務局保管なら不要) 不要 必要
内容の秘密性 高い 公証人と証人に知られる 非常に高い
実務での利用 多い(増加傾向) 最も多い ごく少数

自筆証書遺言|手軽だが、形式不備のリスクが大きい

自筆証書遺言は、遺言者本人が全文(財産目録を除く)・日付・氏名を自書し、押印して作成する遺言です(民法968条)。

最大のメリットは、(1)費用がほぼゼロ、(2)誰にも内容を知られずに作成できる、(3)思い立ったらすぐに書ける、(4)書き直しも容易、です。手軽さでは3種類の中で最も優れています。

最大のデメリットは、形式不備による無効リスクです。日付の書き方、署名、押印、訂正方法、財産の特定、など、民法の方式を1つでも外すと遺言全体が無効になります。

保管リスクも問題です。自宅で保管した場合、相続人に発見されない、紛失する、改ざんされる、特定の相続人に隠匿される、というリスクがあります。

これらのリスクを大きく軽減したのが、2020年7月施行の法務局による自筆証書遺言保管制度です。法務局に保管を依頼することで、紛失・改ざんリスクをほぼゼロにし、家庭裁判所の検認も不要になります。詳細は後述します。

公正証書遺言|費用はかかるが、最も確実

公正証書遺言は、遺言者が公証役場に出向き、公証人に口述した内容を公証人が遺言書として作成する遺言です(民法969条)。証人2人の立会いが必要です。

最大のメリットは、(1)無効になるリスクが極めて低い(公証人が法的に有効な形式で作成する)、(2)原本が公証役場で保管され、紛失・改ざんリスクがない、(3)家庭裁判所の検認が不要(遺言者死亡後すぐに執行できる)、(4)自筆できない高齢者・障害のある方でも作成可能、です。

デメリットは、(1)費用が数万〜10万円程度かかる、(2)公証役場に出向くか公証人を呼ぶ必要がある、(3)証人2人を確保する必要がある、(4)内容を公証人と証人に知られる、です。

費用は、相続させる財産の価額に応じて決まります(後述)。財産規模5,000万円なら手数料5万円前後、1億円なら7万円前後、3億円なら10万円前後が目安です。

3種類の中で最も信頼性が高く、相続実務では公正証書遺言の作成が標準的な選択肢になっています。

秘密証書遺言|現在の実務での利用はごく少数

秘密証書遺言は、遺言者が作成した遺言書を封筒に入れ、公証人と証人2人の前で「自分の遺言書である」と申述して、公証人がその事実を証明する遺言です(民法970条)。

内容は本人しか知らず、公証人も中身を確認しません。秘密性は最も高くなりますが、(1)費用と手間がかかる(公証役場の利用料13,000円+遺言書自体の作成費用)、(2)中身の形式不備があれば無効になる、(3)検認も必要、というデメリットがあります。

公正証書遺言と比べて、メリットが「秘密性のみ」に絞られ、信頼性で劣るため、実務での利用件数は極めて少なくなっています。日本公証人連合会の統計でも、秘密証書遺言は年間100件前後で、公正証書遺言の10万件超とは大きな差があります。

どれを選ぶべきか|3つの判断基準

3種類のうちどれを選ぶかは、次の3つの基準で判断します。

基準1:財産規模と相続人の関係性

財産規模が小さく(2,000万円程度以下)、相続人間の関係が良好で争いの懸念が低い場合は、自筆証書遺言+法務局保管制度が現実的な選択肢になります。費用がほぼゼロで、保管制度を使えば紛失・改ざんリスクも回避できます。

財産規模が大きい(5,000万円以上)、または相続人間に対立がある可能性がある、認知症や行方不明など特殊な相続人がいる場合は、公正証書遺言が安全です。費用は5万〜10万円程度かかりますが、無効リスクを排除し、相続人間の争いを最小化できます。

基準2:遺言者の年齢と健康状態

遺言者が70歳以上、または健康状態に懸念がある場合は、公正証書遺言を強く推奨します。理由は、(1)後日「認知症で意思能力がなかった」と無効を主張されるリスクを、公証人の関与で大きく減らせる、(2)自筆能力が低下していても作成可能、(3)時間的な余裕がない場合に確実に有効な遺言を残せる、からです。

遺言者が比較的若く(60代まで)、健康な状態で、書き直しも視野に入れる場合は、自筆証書遺言で始めて、後日必要に応じて公正証書遺言に切り替える、という選択肢もあります。

基準3:複雑な内容を含むか

遺言の内容が、(1)相続人以外への遺贈、(2)複数の不動産の分配、(3)非上場株式の承継、(4)子の認知、(5)遺言執行者の指定、(6)祭祀承継者の指定、など複雑な内容を含む場合は、公正証書遺言が望ましいです。形式不備のリスクが高く、専門的な記載が必要だからです。

遺言の内容が、(1)主な財産1〜2点を特定の相続人に相続させる、(2)シンプルな割合指定、など単純な場合は、自筆証書遺言でも十分対応可能です。

自筆証書遺言の正しい書き方|民法968条のルール

自筆証書遺言を選ぶ場合、民法968条の要件を完全に満たす必要があります。1つでも欠けると、遺言全体が無効になります。順に解説します。

要件1:全文を自書する(財産目録を除く)

遺言書の本文は、すべて遺言者本人が手書きで書く必要があります。パソコンで作成して印刷したもの、第三者が代筆したもの、本人が押印したもののスタンプで作られた文字、などは無効です。

2018年の民法改正により、財産目録(別紙としての財産リスト)については、パソコン作成・通帳のコピー添付・登記事項証明書の添付、などが認められるようになりました。ただし、財産目録の各ページに遺言者の署名押印が必要です。

本文の自書要件は、(1)病気で手が震える場合に他人が手を添えて書くと「自書」に該当しない可能性、(2)外国語での記載は可能だが、日本語の方が無難、(3)カーボン紙で複写したものも「自書」と認められた判例があるが、現代では避けるべき、というポイントがあります。

要件2:日付を正確に書く

遺言書には、作成日を正確に書く必要があります。「2026年5月18日」「令和8年5月18日」のように、年・月・日が特定できる形で書きます。

無効になるNG例として有名なのが、「2026年5月吉日」のような日付不特定の記載です。最高裁の判例でも、「吉日」のように日付が確定できない記載は無効と判断されています。

複数の遺言書がある場合、日付が新しいものが優先されます(民法1023条)。書き直した場合は、日付を必ず新しく書き、古い遺言書は破棄するのが安全です。

要件3:氏名を自書する

遺言者の氏名を、本文と同じく自書します。戸籍上の氏名で記載するのが望ましいですが、芸名や通称でも、本人を特定できれば有効とされた判例もあります。

氏のみ・名のみの記載は、本人特定の観点から避けるべきです。フルネームで戸籍通りに書きます。

要件4:押印する

遺言者の押印が必要です。実印が望ましいですが、認印でも有効とされます。指印(指紋を朱肉で押す)も判例で有効とされていますが、リスクを避けるなら印鑑が無難です。

押印漏れは、形式不備による無効の代表例の1つです。署名のすぐ下、または横に確実に押印します。複数枚にわたる場合は、各ページに契印を押すのが安全です。

要件5:加筆・訂正は正しい方式で

作成後に内容を訂正する場合、民法968条3項の方式に従う必要があります。具体的には、(1)変更箇所を斜線または二重線で消す、(2)正しい内容を書き加える、(3)変更場所に押印(訂正印)、(4)変更場所の余白に「○行目○字削除、○字加入」と付記して署名、です。

この訂正方式を守らないと、訂正部分のみ無効になり、元の記載が有効として残ります。気づかずに進めると、意図しない結果になりかねません。

訂正があまりに多い場合は、訂正せず新たに書き直す方が安全です。

無効になるNG例10パターン|なぜ無効になるかを理解する

自筆証書遺言が無効になる典型パターンを、10個整理します。実際の判例や行政書士・弁護士の実務でよく問題になるケースです。

NG例1:「2026年5月吉日」と日付が不特定

最も有名な無効パターンです。最高裁判決(昭和54年5月31日)で、日付が特定できない記載は無効とされました。「○月吉日」「○年春」「○月末」などは、すべて無効になります。

回避法は、必ず「2026年5月18日」のように年月日を特定して書くこと。書き間違いを防ぐため、書き始める前にカレンダーで日付を確認することを推奨します。

NG例2:パソコンで作成して印刷

自筆証書遺言の本文をパソコンで作成し、印刷して署名押印する形式は、自書要件を満たさず無効です。

2018年改正で財産目録のみパソコン作成が認められましたが、本文・日付・氏名は自書必須です。手書きが面倒という理由で本文をパソコン作成すると、遺言全体が無効になります。

回避法は、本文を必ず手書きで作成すること。手書きが困難な状況なら、公正証書遺言を選択します。

NG例3:押印を忘れた、または不適切な押印

押印がない遺言書は、署名があっても無効です。

判例で問題になったのは、(1)押印を完全に忘れたケース、(2)消しゴム印やスタンプを使ったケース、(3)封筒だけに押印して遺言本文には押印しなかったケース、などです。

回避法は、署名のすぐ下に印鑑(認印でも可、実印が望ましい)を必ず押すこと。指印は判例で有効とされていますが、可能なら印鑑を使います。

NG例4:夫婦共同で1通の遺言書を作成

夫婦が連名で1通の遺言書を作成する「共同遺言」は、民法975条で禁止されており、無効です。

これは、夫婦間で意思の自由が阻害される懸念、一方が撤回したい場合に他方の同意が必要になる問題、などから禁止されています。

回避法は、夫婦それぞれが別々の遺言書を作成すること。内容を相互に補完する形でも、1通にまとめてはいけません。

NG例5:財産の特定が不十分

「私の不動産を長男に相続させる」「銀行預金を妻に相続させる」のような、財産を具体的に特定できない記載は、執行段階で問題になります。完全に無効ではないものの、相続人間の解釈で争いになりがちです。

回避法は、不動産なら登記事項証明書通りの所在・地番、預貯金なら銀行名・支店名・口座番号、有価証券なら証券会社名と銘柄、を明記すること。「自宅」のような曖昧な表現は避けます。

NG例6:相続人の特定が不十分

「長男に相続させる」のように、相続人を続柄でしか書かない場合、複数の解釈の余地が出ることがあります。再婚や養子縁組が絡むと特に問題化します。

回避法は、相続人の氏名(戸籍通り)・続柄・生年月日、を明記すること。「長男 山田太郎(昭和○年○月○日生)」のように特定します。

NG例7:訂正方式の不備

作成後に内容を訂正する際、民法968条3項の方式(変更場所への押印+余白への変更内容の付記と署名)を守らないと、訂正部分が無効になります。

回避法は、訂正がある場合は方式を正確に守ること。または、訂正が多くなったら新たに書き直すこと。

NG例8:遺言能力がない状態での作成

重度の認知症や、薬の影響で意識が朦朧とした状態で作成された遺言書は、遺言能力がないとして無効とされる可能性があります(民法963条)。

判例では、認知症が進行した遺言者の遺言書が、医療記録・周囲の証言・遺言の合理性などから総合的に判断され、無効とされたケースが複数あります。

回避法は、遺言者の意思能力が十分なうちに作成すること。認知症の診断が出ている場合は、医師の診断書を添えるか、公正証書遺言で公証人の関与を得る形にします。

NG例9:遺留分を完全に無視した内容

遺留分(相続人に保障された最低限の取り分)を完全に無視した内容の遺言書は、形式的には有効ですが、遺留分権利者から遺留分侵害額請求が出れば、結果として意図通りに財産が渡らないことがあります。

回避法は、各相続人の遺留分を意識した配分にすること。遺留分を侵害する内容にする場合は、その旨を遺言書に記載し、理由を付すと、相続人の理解を得やすくなります。

NG例10:遺言執行者の指定がない

遺言執行者の指定がない場合、遺言の執行は相続人全員で行うか、家庭裁判所が選任した遺言執行者が行います。相続人間に対立がある場合、執行が遅れる原因になります。

回避法は、遺言執行者を遺言書で指定すること。信頼できる家族、または専門家(弁護士・司法書士・税理士)を指定します。

法務局による自筆証書遺言保管制度|2020年7月から始まった画期的な仕組み

自筆証書遺言の最大の弱点(紛失・改ざんリスク・検認の必要性)を大きく軽減したのが、2020年7月10日から始まった「自筆証書遺言書保管制度」です(法務局における遺言書の保管等に関する法律)。

制度の概要

法務局(全国312か所の遺言書保管所)が、自筆証書遺言の原本を保管する制度です。遺言者本人が法務局に出向き、職員の前で遺言書を提出すると、(1)形式不備の有無の外形チェック、(2)原本の保管、(3)画像データの保管、(4)遺言者死亡後の相続人への通知、というサービスを受けられます。

費用は、保管申請時の3,900円のみ。長期保管費用は別途かかりません。

最大のメリット|検認が不要になる

保管制度を利用した自筆証書遺言は、家庭裁判所での検認手続きが不要になります。検認は、相続人全員の出席を得て1〜2か月かかる手続きで、これを省略できるのは大きなメリットです。

通常の自筆証書遺言(法務局保管なし)では、遺言者死亡後に発見した相続人が、家庭裁判所に遺言書を提出して検認を受ける必要があります。検認なしで遺言を執行(銀行手続き、不動産登記など)できないため、検認の省略は実務上大きな時間短縮になります。

他のメリット

保管制度の他のメリットは、(1)原本が法務局で保管され、紛失・改ざんリスクがゼロ、(2)職員の外形チェックで明白な形式不備を防げる(ただし内容の有効性は保証されない)、(3)遺言者死亡後、相続人が法務局で遺言書の有無を全国一括で検索できる、(4)指定した相続人に法務局から死亡通知を送る仕組みがある、です。

制度利用の手続き

利用手続きは、(1)遺言書を自筆で作成、(2)法務省指定の様式で作成(A4・余白指定・片面記載など細かい指定あり)、(3)法務局に予約のうえ訪問、(4)本人確認書類と遺言書を提出、(5)職員が外形チェックして受理、(6)保管証の交付、という流れです。

注意点として、(1)代理人による申請はできず本人が出向く必要がある、(2)遺言書は法務省指定の様式に従う必要がある(用紙サイズ・余白・ホチキスNGなど)、(3)職員のチェックは形式的なものであり、内容の有効性は保証されない、です。

保管制度を活用すべきケース

保管制度の活用が特に有効なのは、(1)費用を最大限抑えたい(公正証書より圧倒的に安い)、(2)自筆証書遺言の紛失・改ざんリスクをなくしたい、(3)相続人の検認手続きの負担を減らしたい、(4)遺言者の身近に相続人がおらず発見してもらえない懸念がある、です。

公正証書遺言と比較すると、費用は1/15〜1/30程度に抑えられます。一方で、内容の有効性は公正証書遺言の方が確実なため、複雑な内容や財産規模が大きい場合は、依然として公正証書遺言が望ましい選択肢になります。

公正証書遺言の作成手順と費用

公正証書遺言は、形式不備の心配がなく、最も信頼性の高い遺言書です。作成手順と費用を整理します。

作成の流れ

公正証書遺言の作成は、次の流れで進みます。

ステップ1:遺言内容の検討。相続人の構成、財産の内容、誰に何を相続させるか、を整理します。必要に応じて弁護士・税理士に相談し、遺留分や相続税への影響を確認します。

ステップ2:必要書類の準備。(1)遺言者の本人確認書類(印鑑証明書、運転免許証など)、(2)遺言者の戸籍謄本、(3)財産を取得する相続人の戸籍謄本、(4)相続人以外の受遺者がいる場合は住民票、(5)不動産の登記事項証明書、(6)預貯金の通帳のコピーまたは残高証明書、(7)固定資産税評価証明書、などを揃えます。

ステップ3:公証役場との打ち合わせ。遺言内容と必要書類を持参し、公証人と内容について事前打ち合わせを行います。1〜2回の打ち合わせで、公証人が遺言書の素案を作成します。

ステップ4:証人2人の確保。証人になれない人(未成年、推定相続人、受遺者、その配偶者・直系血族など)を避けて、信頼できる2人を確保します。証人が見つからない場合、公証役場で紹介してもらうことも可能(別途費用1人5,000円〜1万円程度)。

ステップ5:公証役場での作成日。遺言者と証人2人が公証役場に出向き、公証人の前で遺言内容を口述します。公証人が読み上げて内容を確認し、遺言者と証人が署名押印して、公正証書が完成します。所要時間は30分〜1時間程度。

作成費用の計算

公正証書遺言の手数料は、相続させる財産の価額により決まります(2025年10月の公証人手数料令改正後の最新基準)。基本手数料は、(1)100万円まで5,000円、(2)200万円まで7,000円、(3)500万円まで11,000円、(4)1,000万円まで17,000円、(5)3,000万円まで23,000円、(6)5,000万円まで29,000円、(7)1億円まで43,000円、(8)3億円まで43,000円+5,000万円ごとに13,000円加算、(9)10億円超は別途、です。

複数の相続人に分割する場合は、相続人ごとに価額を計算して手数料を合算します。さらに、(1)遺言加算(全体額が1億円以下の場合に13,000円が加算される。2025年10月改正で11,000円から増額)、(2)用紙代(原本が3枚を超える場合は1枚300円。2025年10月改正で250円から増額)、(3)正本・謄本の発行手数料(電子データ1通2,500円、書面の場合は1枚300円)、などが追加されます。

財産規模別の費用目安は、5,000万円で5万〜8万円、1億円で7万〜10万円、3億円で10万〜15万円程度です(2025年10月改正後の遺言加算13,000円・用紙代1枚300円を反映)。

公正証書遺言の活用が特に有効なケース

公正証書遺言を強く推奨するのは、(1)財産規模が5,000万円以上、(2)相続人間に対立の懸念がある、(3)遺言者が70歳以上、(4)遺言者の健康状態に懸念がある、(5)複雑な内容(複数の不動産、非上場株式、子の認知など)、(6)相続人に行方不明者・認知症の方・海外居住者がいる、(7)将来の遺言能力争いを予防したい、です。

これらに該当する場合、自筆証書遺言で済ませると、形式不備や遺言能力争いで無効になるリスクが高まります。多少の費用をかけても、公正証書遺言で確実な遺言を残す方が、結果として家族の負担を減らします。

遺言書に書ける内容と、書いても効力のない内容

遺言書には、法律で効力が認められる事項(法定遺言事項)と、書いても法的効力がない事項(付言事項)があります。何が書けて何が書けないか、整理します。

法律で効力が認められる事項

法定遺言事項は、遺言書に書くことで法的効力を持つ事項です。代表的なものは、(1)相続分の指定(各相続人の取り分の割合を指定)、(2)遺産分割方法の指定(特定の財産を特定の相続人に渡す)、(3)遺贈(相続人以外への財産の譲渡)、(4)相続人の廃除・廃除の取消、(5)遺言執行者の指定、(6)子の認知、(7)未成年後見人の指定、(8)祭祀承継者の指定、(9)生命保険受取人の変更、(10)信託の設定、です。

このうち、相続実務で頻繁に使われるのは、(1)〜(5)です。子の認知や未成年後見人指定は、特殊な事情がある場合に使われます。

書いても法的効力がない事項(付言事項)

付言事項は、遺言書に書いても法的効力がない事項です。具体的には、(1)葬儀・お墓の希望、(2)家族へのメッセージ、(3)遺産分割についての願い(法定遺言事項以外のもの)、(4)相続人への感謝の言葉、などです。

法的効力はありませんが、付言事項を書くこと自体は推奨されます。遺言書に「なぜこの分配にしたか」「家族に望むこと」を書いておくと、相続人の感情的な受け入れがスムーズになり、争いを減らす効果が期待できます。

具体例として、「長男に多くの財産を相続させるのは、家業を継いでくれることへの感謝の気持ちであり、次男・三男にもそれぞれの人生で活躍してほしいから」というメッセージを添えると、相続人間の理解が得やすくなります。

遺言書の書き直し・撤回|変更したい場合のルール

遺言書は、いつでも何度でも書き直し・撤回が可能です。書き直しのルールを整理します。

撤回の自由(民法1022条)

遺言者は、いつでも遺言の方式に従って、過去の遺言の全部または一部を撤回できます。撤回には他の相続人の同意は不要で、遺言者の単独の意思で完結します。

重要な点は、「遺言の方式に従って」撤回する必要があることです。口頭で「あの遺言は取り消す」と言っても、撤回の効力はありません。新たな遺言書を作成するか、または前の遺言書を物理的に破棄する、という方法を取ります。

複数の遺言書がある場合の処理

複数の遺言書が見つかった場合、原則として日付が新しい遺言書が優先されます(民法1023条1項)。

ただし、新しい遺言書が古い遺言書の全部を撤回するわけではなく、内容が抵触する部分のみ撤回となります。例えば、古い遺言で「自宅を長男に、預金を次男に」と書き、新しい遺言で「自宅を次男に」と書いた場合、自宅の指定は次男に変更され、預金の指定はそのまま長男が承継します。

混乱を避けるためには、書き直す際に「過去の遺言はすべて撤回する」旨を明記するのが望ましいです。

遺言書の破棄による撤回

遺言者が遺言書を故意に破棄した場合、その部分は撤回したものとみなされます(民法1024条)。自筆証書遺言を破り捨てたり、シュレッダーにかけたりすれば、撤回として扱われます。

ただし、公正証書遺言は原本が公証役場で保管されているため、自分の手元の正本・謄本を破棄しても撤回にはなりません。撤回するには、新たな遺言書を作成する必要があります。

法務局保管制度を利用している場合の撤回

法務局に保管している自筆証書遺言を撤回するには、(1)法務局に保管申請の撤回を申請する、または(2)新たな遺言書を作成して内容を上書きする、という方法を取ります。

保管申請の撤回は法務局窓口で行います。手数料は無料で、本人確認のうえ即時に処理されます。

書き直し・撤回の実務的な注意点

書き直し・撤回を進める際は、(1)古い遺言書と新しい遺言書の関係を明確にする(撤回するのか、一部修正するのか)、(2)古い遺言書は確実に破棄するか、新しい遺言書で「過去の遺言を撤回する」と明記する、(3)書き直しの理由を付言事項として残しておくと、後日の解釈で参考になる、(4)公正証書遺言の場合は公証役場で改めて作成する、ことが大切です。

遺言書作成を専門家に依頼するか|判断のフレーム

遺言書の作成を、自分でやるか専門家に依頼するかは、事案の特性で判断します。

専門家依頼を推奨するケース

次のいずれかに該当する場合は、専門家(弁護士・司法書士・行政書士・税理士)への依頼を検討します。(1)財産規模が5,000万円以上、(2)相続人が複雑(再婚・養子・認知の問題など)、(3)財産の中に不動産・非上場株式・事業用財産がある、(4)遺留分を意識した配分が必要、(5)遺言執行者の選定で迷っている、(6)遺言者が高齢または健康状態に懸念がある、(7)複雑な信託設定や事業承継を含む、です。

これらに該当する事案では、遺言書の文言1つで結論が大きく変わることがあります。専門家の関与で、(1)法的に確実な遺言を作成、(2)遺留分・相続税への影響を整理、(3)将来の紛争予防策を組み込む、ことが可能になります。

各専門家の役割

遺言書作成に関わる専門家の役割は、(1)弁護士は紛争予防と遺留分対策・遺言執行者の引き受け、(2)司法書士は遺言書作成支援と不動産対策・遺言執行者の引き受け、(3)行政書士は遺言書素案の作成、(4)税理士は税負担への影響の試算、(5)公証人は公正証書遺言の作成、です。

財産規模・事案の複雑さで、必要な専門家の組み合わせが変わります。シンプルな自筆証書遺言なら行政書士で十分、複雑な公正証書遺言なら弁護士+税理士+公証人の連携が標準的、というのが目安です。

費用相場

専門家への依頼費用の目安は、(1)自筆証書遺言の作成支援:行政書士で3万〜10万円、(2)公正証書遺言の作成支援:弁護士で10万〜30万円(公証人手数料は別)、(3)遺言執行者就任:相続発生時に遺産の0.5〜3%の報酬、(4)税理士による相続税試算:5万〜30万円、です。

公正証書遺言の作成費用は、専門家への依頼料+公証人手数料の合計で、15万〜40万円程度が標準的な範囲です。

専門家を選ぶときのポイント

専門家を選ぶ際は、(1)相続専門事務所か(年間の取扱件数)、(2)遺言書作成の実績、(3)費用見積もりの明確さ、(4)他士業との連携体制、(5)担当者との相性、を確認します。

複数の事務所で初回相談(30分5,000円〜1万円、初回無料の事務所もあり)を受けて比較するのが、後悔の少ない選び方です。

本人で作成する場合のサポート活用

専門家への依頼費用を抑えたい場合、(1)法務局の窓口でのアドバイス(形式チェック)、(2)市区町村の無料法律相談、(3)書籍やウェブサイトのテンプレート、(4)弁護士・司法書士の単発相談(30分5,000円〜1万円程度)、を活用しながら本人で作成する選択肢もあります。

シンプルな内容(主な財産を特定の相続人に相続させる程度)なら、本人作成+法務局保管制度の組み合わせで、トータル4,000円程度に収めることも可能です。

読者へのまとめ|遺言書作成を進めるための行動指針

本記事の最後に、遺言書作成を考え始めた方が今すぐ取るべき行動を、優先順位順に整理します。

今日中にすべきこと|財産と相続人の整理

遺言書を書く前に、(1)自分の財産の概略(預貯金・不動産・有価証券・生命保険・借入金など)、(2)推定相続人の構成、(3)誰に何を残したいかの希望、をメモにまとめます。これがあれば、自筆証書遺言を書き始めることも、専門家相談に進むこともスムーズです。

1週間以内にすべきこと|遺言書の種類の選択

財産規模・健康状態・内容の複雑さから、3種類のどれを選ぶかを決定します。本記事の判断基準を参考に、(1)自筆証書遺言+法務局保管、(2)公正証書遺言、(3)現時点では作成保留(状況を整理してから)、のいずれかを選びます。

判断に迷う場合は、弁護士・司法書士・行政書士の初回相談を受けて、専門家の見立てを得ます。

1か月以内にすべきこと|遺言書の作成

自筆証書遺言を選んだ場合は、本記事の書き方ルールに従って作成。書き終えたら法務局の保管制度を利用するため、最寄りの法務局に予約を入れます。

公正証書遺言を選んだ場合は、公証役場に連絡して相談予約を入れます。必要書類を準備し、1〜2か月で完成する流れです。

半年〜1年で見直す|定期的なメンテナンス

遺言書は1度作成して終わりではなく、定期的な見直しが必要です。(1)財産状況が変わった(不動産売却、新規購入など)、(2)家族関係が変わった(結婚、離婚、子の誕生など)、(3)税制改正があった、(4)遺言執行者の状況が変わった、などの変化があれば、書き直しを検討します。

書き直しの目安は、3〜5年に1度。または、上記の変化があった時点、です。

遺言能力があるうちに完成させる

最も大切なのは、遺言者の意思能力が十分なうちに完成させることです。高齢になってからの遺言は、(1)認知症による遺言能力の喪失リスク、(2)後日の遺言能力争いのリスク、(3)書き直しの体力的負担、が大きくなります。

60代〜70代前半の元気なうちに最初の遺言書を作成し、その後定期的に見直す、という流れが理想的です。

遺言書は、家族への最後のメッセージであり、財産配分の指示書です。書き方を間違えなければ、家族の負担を大きく減らし、争いを予防する強力な仕組みです。本記事の内容を参考に、自分と家族にとって最善の形を選んで作成することが、安心できる相続準備への第一歩になります。

ワンポイントアドバイス
遺言書の書き方で最も大切なのは、「3種類の選択」「書き方ルールの完全な遵守」「定期的な見直し」の3点です。3種類の遺言書のうち、財産規模5,000万円以上・相続人間に対立懸念・遺言者が70歳以上のいずれかに該当するなら公正証書遺言、それ以外でシンプルな内容なら自筆証書遺言+法務局保管制度、が現実的な選択肢です。秘密証書遺言は実務での利用が極めて少なく、原則として選択肢から外して問題ありません。自筆証書遺言の必須要件は、(1)全文を自書(財産目録を除く)、(2)日付を正確に(「2026年5月吉日」のような曖昧表現はNG)、(3)氏名を自書、(4)押印、(5)訂正は民法968条3項の方式、の5点です。1つでも欠けると遺言全体が無効になる場合があります。2020年7月施行の法務局による自筆証書遺言保管制度は、手数料3,900円で(a)原本の安全な保管、(b)紛失・改ざんリスクの排除、(c)家庭裁判所の検認の不要化、(d)相続人への通知サービス、を提供する画期的な制度です。費用を抑えつつ確実な遺言を残したい場合に積極的に活用したい選択肢です。公正証書遺言は費用5万〜10万円程度(財産規模による)かかりますが、(a)無効になるリスクが極めて低い、(b)原本が公証役場で保管され紛失・改ざんがない、(c)検認不要、(d)遺言能力争いを予防、というメリットがあり、複雑な内容・大きな財産規模の場合は強く推奨されます。書き終えた後は、3〜5年ごとに見直し、財産状況や家族関係の変化があれば書き直すことで、最新の意思を反映できます。遺言者の意思能力が十分なうち(60代〜70代前半が理想)に作成を始めることが、確実な遺言を残すための基本になります。

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