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相続と贈与・遺贈はどう違う?〜それぞれのメリットとデメリットを解説!

この記事で分かること

  • 財産移転の方法には相続・遺贈・死因贈与がある。
  • それぞれの制度の特徴を押さえておくことが重要である。
  • 意思を反映するためには遺言書の作成が有効である。
  • 積極財産だけでなく消極財産の考慮も必要になる。

相続には、死因贈与と遺贈という制度もあります。故人が遺言によって与える財産の割合を決める遺贈は、遺言の中身を知られずに済み、放棄もできます。一方、死因贈与は生前、個人が(贈与者)と受贈者との契約で、贈与者の死亡によって財産を確実に与えることができます。

相続と死因贈与・遺贈の違いとは

相続制度において、誰に相続させるかの解決法には2種類あります。1つは社会で認められた規範に沿って行われる法定相続制度、もう1つは死者の生前の意思に基づく遺言制度です。

法定相続とは

法定相続とは、被相続人の意思が遺言として残されていない場合に適用される制度で、相続は被相続人の死亡によってのみ開始します(民法、以下条文番号のみの場合は同法、882条)。

被相続人が死亡すると、直ちに相続が開始されます。戦前は家督相続という家の財産を相続する制度があり、隠居によって開始される相続がありましたが、戦後、家督相続制度は廃止され、死亡によってのみ相続が開始されるようになりました。

民法では、被相続人が遺言をしないまま死亡し、相続人が複数いる場合、その財産は相続人の共有となります(898条)。総相続財産に対して、各相続人が有している権利の割合を相続分といい、被相続人の指定がない場合、その割合は民法の規定によって決められます(900条、901条)。たとえば、相続人が配偶者と子供2人なら、配偶者が2分の1、子供がそれぞれ4分の1です(900条1号)。

遺産分割

まだ、遺産共有の状況のときの相続財産は各相続人に暫定的に帰属しているに過ぎません。そこで、どの財産が誰のものになるかを決める必要があり、それを遺産分割といいます。相続人が協議して決める遺産分割協議、協議ができない場合は家庭裁判所に調停や審判を申し立てて、遺産の分割を行います。

遺贈とは何か

遺贈とは遺言によって財産を他人に無償で与える行為です(964条本文)。
遺贈には包括遺贈と特定遺贈があります。

包括遺贈

全財産もしくは財産の割合で示された一部を第三者に無償で与えるものです。

特定遺贈

特定の財産だけ(土地や預金など)を第三者に無償で与えるものです。

包括遺贈も特定遺贈も遺留分を侵害することはできません(964条但し書き)。そして遺言による遺贈は単独行為であって契約ではありません。

受遺者の条件と、遺贈の放棄

遺贈を受ける者を受遺者と言いますが、個人はもちろん、法人でも受遺者になれます。また、胎児も受遺者となれますが、生きて生まれなければ遺贈は効力を生じません(965条、886条)。受遺者が遺贈を放棄すると、遺贈は遺言者の死亡の時に遡ってその効力を失います(986条2項)。

実務での遺贈、付款を伴う場合が多い

遺贈には包括遺贈と特定遺贈の2つがありますが、実際にはこれらに条件をつけたり、負担をつけたりすることが多く見られます。例えば、「A不動産は長男に譲る。ただし、母親を扶養すること」という負担付きの遺贈だったり、「長男が結婚したら、A不動産を長男に譲る」という停止条件付きの遺贈だったりなどがあります。

死因贈与とは何か

死因贈与とは、贈与者の死亡によって効力が発生する贈与です。

死因贈与は民法が定める典型契約の贈与(549条)の一種です。遺贈が単独行為なのに対して、死因贈与は契約です。しかし遺贈も死因贈与も死んだ者から他の者に財産が移転するという点においては似ているため、死因贈与の性質に反しない限り遺贈の規定が準用されます(554条)。

準用されない遺贈の規定

死因贈与は、性質に反しない限り遺贈の規定が準用されます。贈与は契約ですから、行為能力のない者が行うことはできません。

ワンポイントアドバイス
被相続人の財産を移転する方法は、相続以外に遺贈や死因贈与があります。死亡によって効力が発生する点は共通しますが、それぞれ移転できる人や条件が異なります。状況や希望によって使い分けると良いでしょう。

遺贈と死因贈与、それぞれのメリット・デメリット

それでは法定相続、遺贈、死因贈与のメリット、デメリットを考えていきましょう。

法定相続のメリット・デメリット

被相続人の意思が遺言で示されない場合には法定相続が適用されますが、そのメリット、デメリットを考えていきましょう。

法定相続のメリット

法定相続の場合、被相続人が自身の有していた財産の配分する権利を行使せずに、社会で公認された規範に任せるということになります。そうなると相続人にだけ相続がなされ、その配分も民法に規定されたものが基準になりますから、相続人にとって予測がしやすくなります。

法定相続のデメリット

相続人だけに相続されることが、逆に相続人でないけれども相続を期待していた人には不満が残る結果となりかねません。たとえば長年内縁関係にあって、老後も面倒を看ていという場合であっても、内縁関係者は相続人ではありませんから相続分はもちろん寄与分(904条の2)も主張することができません。そうした点で紛争が発生しかねないのです。

遺贈のメリットとデメリット

遺贈の場合、被相続人が「相続させたいと思う人」に、「相続させたい財産を相続させられる」メリットがあります。

特に相続人以外の者に財産を分与したい時に、被相続人が遺留分を侵害しない範囲において、財産処分権を全うできる点はメリットと言えるでしょう。また、秘密証書遺言(970条)を用いることによって、死ぬまで誰に相続させるかを秘密にすることができます。

一方、遺贈は単独行為のため、確実に行われる保障がありません。遺贈の相手は遺贈の放棄ができますから、被相続人の思惑通りに財産処分ができるとは限りません。また、遺言は厳格な方式が定められており、それに反すると遺言が無効とされるリスクを常に負っています。法律の専門家が関わらない自筆証書遺言の場合は特にそのリスクがあります。

死因贈与のメリット・デメリット

死因贈与は遺贈と違って契約ですから、相手が勝手に契約を破棄することはできませんし、放棄もできません。被相続人の意思が実行されるという点においては、遺贈よりは確実です。また、贈与契約は口頭でも成立します。遺言の厳格な要式が必要とされない点も大きなメリットと言えるでしょう。

一方、負担付きの死因贈与であれば、相手が負担部分を履行していた場合には、撤回はできない点はデメリットになります。

負担付贈与とは

受贈者が何らかの義務や負担を負うことを強いることで、贈与を受けるのが負担付贈与です。負担付死因贈与を受ける人は、贈与者が死亡して相続が発生する日まで、決められた義務と負担を全うしなければなりません。

ワンポイントアドバイス
法律に基づいて標準的な割合で遺産を分配した場合には法定相続、被相続人の意思を強く反映させたいなら遺贈や贈与が望ましいと言えます。特に贈与は契約のため、相手の都合で勝手に破棄することはできません。

法定相続にするか、遺贈・死因贈与を決める

被相続人にすれば、法定相続、遺贈、死因贈与と、どのように使い分ければいいのか考えてみましょう。どのような相続をすればいいのかは、残された財産や誰に遺したいかということを総合的に考えて決めることになるでしょう。究極的には人生観の問題と言えるかもしれません。

自分の財産処分をコントロールしたい場合

自分の財産の処分にまで責任を持ちたいのであれば、遺言をして遺贈か贈与をするとよいでしょう。特に贈与であれば、相手は放棄できないので、その帰属先がはっきりするメリットがあります。

相続人だけで決めさせたい

自己の財産については相続人に任せたい、社会に公認された規範で処分されたいと望むのであれば法定相続制度に委ねるのがいいかもしれません。遺贈、贈与がなければ相続人以外の者が相続することはありません。後は遺産分割協議に託せばいいというのも一つの考え方でしょう。

「相続させる」は遺贈か

遺言に「○○に特定の財産を相続させる」と書いた場合、これは遺産分割方法の指定なのか、特定遺贈かどちらにも解釈できます。通常は遺贈と解すべき特段の事情がない限り、遺産分割方法の指定と理解されます(最判平成3年4月19日)。仮に特定遺贈と解釈すれば、遺産に債務が多ければ、相続人としては相続を放棄して、特定遺贈を受けるということが考えられます。そのような状況にあって、その者に有利なように相続させたいと考えるのであれば、遺贈であることをはっきり書くべきでしょう。なお、遺産分割方法の指定と解釈する場合は、相続人としてその特定の財産を相続するため、債務も相続しなければなりません。

遺贈と死因贈与のどちらを選ぶべきか

財産を相続させたいと思う人に、相続開始まで知られたくないという事情があれば遺贈、特に秘密証書遺言にするとよいでしょう。もっとも相手が遺贈を放棄する可能性はあります。逆に贈与は相手に相続させることを知らせることになりますが、相手が同意しなければ成立しません。その意味では確実に相続させることができます。

特定遺贈と包括遺贈

特定遺贈は特定の財産を遺贈する場合で、権利ないし財産的利益のみが受益者に与えられます。包括遺贈では積極財産だけでなく、消極財産も一緒に遺贈することになります。

債務が多い場合には包括遺贈された方もあまりありがたくない、ということも考えられます。そうなると特定遺贈の方が受け取る方はありがたいということも言えそうです。しかし、相続開始までに状況の変化で被相続人が特定遺贈する予定の財産を売却してしまうこともあり、その場合、特定遺贈は効力をなくしてしまいます。

その意味では財産構成に変化があっても、残った財産の一定割合、あるいは全部を相続できる包括遺贈がありがたいという考えもできます。そのような事情が発生する可能性を踏まえ、相続させたい人に与えたい財産がより行きやすい方法に決めるべきでしょう。

ワンポイントアドバイス
自分が一生かけて築いた財産を、意思を持って誰かに引き継ぎたい場合は、遺贈や贈与の形を選択すべきです。ただし包括遺贈の場合は、債務が多いと受遺者にとってはありがたくないこともありますので注意しましょう。

遺贈か死因贈与で迷ったら弁護士に相談

財産を誰にどのように移転させるのかを考えるのは、先ゆく者にとって最後の大仕事と言えます。ただし、法的な制度を踏まえると、意思通りに移転するのには考慮しなくてはならないことが多く出てきます。「そんなはずではなかった」とならないよう、専門家のサポート受けながら遺言を作成するのが賢い方法と言えるでしょう。希望通りの遺し方をするためには、遺産相続に強い弁護士に相談することをおすすめします。

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