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株式相続の全体像
「父が証券会社で株式投資をしていたが、相続手続きはどう進めるのか?」「父が経営していた会社の非上場株式を相続することになったが、評価額が分からない」――株式の相続は、預貯金や不動産と比べて手続きが複雑で、専門知識が必要となります。
特に非上場株式は、評価方法・譲渡制限・事業承継など独自の論点が多く、適切な対応をしないと後々大きなトラブルを招きます。読者の方が「株式の相続をスムーズに進めたい」「事業承継を考えている」と悩んでいるなら、まずは制度の全体像を理解することから始めましょう。本記事では、株式相続の手続き、評価方法、税金、トラブル事例まで、弁護士目線で詳しく解説します。
株式も相続財産に含まれる
株式は当然ながら相続財産に含まれ、相続税の課税対象となります。
ただし、預貯金や不動産と異なり、「株主」という地位を承継する点が特徴です。株式には議決権・配当請求権・残余財産分配請求権など、財産的価値だけでなく経営参加権も含まれています。
特に非上場株式の場合、その会社の経営権そのものに影響するため、相続による株式の分散は事業継続に深刻な影響を与えることがあります。
上場株式と非上場株式の違い
株式相続を考えるうえで、まずは上場株式と非上場株式の違いを理解しておきましょう。
| 項目 | 上場株式 | 非上場株式 |
|---|---|---|
| 市場での取引 | あり(証券取引所) | なし |
| 評価方法 | 市場価格(終値など) | 類似業種比準方式・純資産価額方式・配当還元方式 |
| 譲渡制限 | 原則なし | ほぼすべての会社で「あり」 |
| 名義変更 | 証券会社で対応 | 会社の株主名簿書換 |
| 流動性 | 高い(売却容易) | 低い(売却困難) |
| 相続税対策の余地 | 限定的 | 大きい(事業承継税制等) |
上場株式は市場価格があり手続きも比較的明快ですが、非上場株式は評価方法・譲渡制限・事業承継など複雑な論点が絡みます。
株式相続で押さえるべき3つのポイント
株式相続を進めるうえで、特に押さえるべきポイントは次の3つです。
- 株式の存在確認:被相続人が保有していた株式を漏れなく把握する
- 評価額の算定:相続税申告のための適正な評価額を確定する
- 名義変更手続き:証券会社または会社で名義変更を行う
これらを適切に進めるには、戸籍収集・遺産分割協議・税務評価など、多岐にわたる作業が必要です。
2024年4月の相続登記義務化との関係
2024年4月から相続登記が義務化されましたが、これは不動産の話で、株式の名義変更に法律上の期限はありません。
ただし、放置すると次のような問題が発生します。
- 株主の地位を主張できず、配当も受け取れない
- 相続税の申告期限(10ヶ月)に間に合わない
- 株主総会の議決権を行使できない
- 長期間放置すると相続人の相続(数次相続)で手続きが複雑化
このため、株式の相続も「できるだけ早く」進めるのが鉄則です。
上場株式の相続手続きの流れ
まずは上場株式の相続手続きを見ていきましょう。
STEP1 株式の有無と保有状況の確認
最初のステップは、被相続人が保有していた株式の有無と保有状況を確認することです。
確認方法は次のとおりです。
- 自宅にある証券会社からの郵送物(取引残高報告書など)を探す
- 被相続人のメールボックスを確認(電子交付の場合)
- 証券保管振替機構(ほふり)に「登録済加入者情報の開示請求」を行う
- 被相続人の預金通帳から証券会社への入出金履歴を確認
- 配当金の振込履歴から発行会社を特定
ほふりへの開示請求は、相続人が利用できる便利な制度です。被相続人の名前で口座を持っている証券会社を一括で確認できるため、株式の見落とし防止に有効です。
STEP2 証券会社の特定
株式の存在が確認できたら、被相続人が利用していた証券会社を特定します。
主要な証券会社は次のとおりです。
- SBI証券、楽天証券、マネックス証券などのネット証券
- 野村證券、大和証券、SMBC日興証券、みずほ証券などの大手証券
- 地方銀行系の証券会社
複数の証券会社で口座を持っていることもあります。それぞれの証券会社で別途手続きが必要です。
STEP3 相続人の確定と必要書類の収集
次に、相続人を確定し、必要書類を収集します。
主な書類は次のとおりです。
- 被相続人の戸籍謄本(出生から死亡まで)
- 相続人全員の戸籍謄本
- 相続人全員の印鑑証明書(発行から3〜6ヶ月以内)
- 遺産分割協議書または遺言書
- 証券会社所定の相続手続き書類
戸籍の収集は、最も時間がかかる作業です。複数の市区町村にまたがる場合、すべて取り寄せるのに1〜2ヶ月かかることもあります。
なお、2024年3月から戸籍の広域交付制度が始まり、本籍地以外の市区町村でも戸籍を取得できるようになりました。これにより戸籍収集の負担は大幅に軽減されています。
STEP4 遺産分割協議書の作成
相続人が複数いる場合、遺産分割協議書で株式の分配を決めます。
遺産分割協議書に株式について記載する例
被相続人○○○○の所有していた下記の株式は、相続人△△△△が取得する。
記
銘柄:○○株式会社 普通株式
株数:100株
預託先証券会社:○○証券会社○○支店
銘柄・株数・預託先を明記することが重要です。曖昧な記載は、後の手続きでトラブルの原因となります。
STEP5 証券会社で名義変更手続き
最後に、証券会社で名義変更手続きを行います。
手続きの流れ:
- 受贈者(相続人)の証券口座を開設(同じ証券会社の場合は既存口座でOK)
- 証券会社に相続手続き書類を提出
- 証券会社が書類を確認・審査
- 株式が受贈者の口座に移管される
- 移管完了通知が届く
証券会社によって書類のフォーマットや手順が異なるため、事前に各社のホームページや窓口で確認しましょう。
手続きにかかる期間
上場株式の相続手続きにかかる期間の目安は次のとおりです。
| 手続き内容 | 期間 |
|---|---|
| 戸籍収集 | 2週間〜2ヶ月 |
| 遺産分割協議 | 1ヶ月〜数ヶ月 |
| 証券会社での名義変更 | 2〜4週間 |
| 合計 | 2〜6ヶ月 |
相続税申告期限(10ヶ月)を意識して、早めに着手することが重要です。
上場株式相続で必要な書類
上場株式の名義変更で必要となる書類を詳しく見ていきましょう。
証券会社で必要となる書類一覧
証券会社で名義変更を行う際、一般的に必要となる書類は次のとおりです。
| 書類 | 取得先 | 注意点 |
|---|---|---|
| 被相続人の戸籍謄本(出生〜死亡) | 市区町村役場 | 出生から死亡まで連続したもの |
| 相続人全員の戸籍謄本 | 市区町村役場 | 現在の戸籍 |
| 相続人全員の印鑑証明書 | 市区町村役場 | 発行から3〜6ヶ月以内 |
| 遺産分割協議書 | 相続人で作成 | 銘柄・株数を明記 |
| 遺言書(ある場合) | 被相続人作成 | 検認済みの自筆証書または公正証書 |
| 証券会社所定の届出書 | 証券会社から取得 | 事前にダウンロードまたは郵送依頼 |
証券会社によって独自の書類を要求されることもあるため、事前確認が必須です。
戸籍関係書類の取得方法
戸籍関係書類の取得は、相続手続きで最も手間のかかる作業です。
被相続人の出生から死亡までの戸籍を、本籍地のある市区町村役場で順番に取得します。本籍を移していると、複数の役場を回る必要があります。
2024年3月から開始された戸籍の広域交付制度を活用すれば、本籍地以外の市区町村でも被相続人と直系尊属・直系卑属の戸籍を一括取得できます。窓口で本人確認書類(運転免許証など)を提示すれば、その場で複数の戸籍を取得できる便利な制度です。
遺産分割協議書の作成上の注意
株式の遺産分割協議書を作成する際の注意点は次のとおりです。
- 銘柄(会社名)を正確に記載する
- 株数を明記する
- 預託先の証券会社名を記載する
- 相続人全員が署名押印(実印)する
- 各相続人の印鑑証明書を添付する
特に銘柄については、似た名前の会社と混同しないよう正確に記載することが重要です。
受贈者側で開設する証券口座
株式を引き継ぐ受贈者が、その証券会社で口座を持っていない場合は、新規に口座を開設する必要があります。
口座開設に必要な書類:
- 本人確認書類(運転免許証など)
- マイナンバー確認書類
- 銀行口座情報
- 印鑑
口座開設には2〜4週間かかることもあるため、相続手続きと並行して進めるのがおすすめです。
非上場株式の相続手続きの流れ
次に、より複雑な非上場株式の相続手続きを見ていきましょう。
非上場株式相続の特徴
非上場株式の相続には、上場株式にはない次のような特徴があります。
- 市場価格がないため、評価が複雑
- 譲渡制限がかかっていることがほとんど
- 会社の経営権に直接影響する
- 事業承継の問題と密接に関係する
- 株式の換金が困難
特に同族会社の株式は、相続人間の対立や事業継続のリスクを伴います。
STEP1 株式の存在確認(株主名簿の確認)
最初に、被相続人が会社の株主であることを確認します。
確認方法:
- 会社の株主名簿を確認
- 株券(発行されている場合)を確認
- 会社の登記簿(会社が情報提供している場合)を確認
- 過去の配当金支払の記録を確認
中小企業の場合、株主名簿の管理が不十分なケースもあります。書類が見つからない場合は、会社の経営陣に直接問い合わせる必要があります。
STEP2 定款の確認(譲渡制限の有無)
非上場株式は、ほとんどの会社で譲渡制限がかかっています。
譲渡制限とは、株式の譲渡について会社の承認を必要とする制度です。これは、見知らぬ第三者が株主になることを防ぎ、会社の経営の安定を保つための制度です。
会社の定款で次のような項目を確認します:
- 譲渡制限の有無
- 承認機関(取締役会・株主総会・代表取締役など)
- 相続による取得の場合の取り扱い
- 相続人に対する売渡請求権の規定
特に「相続人に対する売渡請求権」の規定がある場合、会社が相続人に対して株式の売却を強制できることがあります。これは想定外のトラブルの原因となるため、定款を必ず確認しましょう。
STEP3 相続人の確定
上場株式と同様に、戸籍を収集して相続人を確定します。
非上場株式の場合、会社の経営者である被相続人の家族関係が複雑なケースもあります。先妻との子、認知している子、養子など、忘れがちな相続人がいないか慎重に確認しましょう。
STEP4 遺産分割協議
非上場株式の遺産分割協議では、評価額が大きな争点となります。
評価方法によって評価額が大きく変わるため、専門家(税理士・公認会計士)の関与が不可欠です。事業承継の場合は、後継者への株式集中と他の相続人への代償金支払いをセットで考える必要があります。
STEP5 株主名簿の書換え
最後に、会社に株主名簿の書換えを請求します。
請求の流れ:
- 会社に株主名簿書換請求書を提出
- 遺産分割協議書のコピーなどの証明書類を添付
- 必要に応じて譲渡承認手続きを行う
- 会社が株主名簿を書換え
- 新しい株主名簿の確認
中小企業の場合、書換え手続きの様式が定まっていないこともあるため、会社の総務担当者や顧問税理士と相談しながら進めましょう。
非上場株式の評価方法
非上場株式の相続税評価は、専門性の高い作業です。
評価方法は3種類
非上場株式の評価方法は、主に次の3つです。
| 評価方法 | 特徴 | 適用される場面 |
|---|---|---|
| 類似業種比準方式 | 業界の上場会社と比較して評価 | 同族株主が取得・大会社 |
| 純資産価額方式 | 会社の純資産から評価 | 同族株主が取得・小会社 |
| 配当還元方式 | 配当金額から逆算して評価 | 少数株主(同族株主以外) |
どの方式を採用するかは、会社の規模と株主の立場で決まります。
類似業種比準方式
類似業種比準方式は、業界の上場会社の指標と比較して評価する方法です。
比較する3つの要素:
- 1株あたりの配当金額
- 1株あたりの利益金額
- 1株あたりの純資産価額
これらの要素を業界平均と比較し、調整した上で評価額を算出します。上場会社のデータを参照するため、客観性が高い評価方法です。
ただし、計算は専門的で、税理士でないと正確な算出は困難です。
純資産価額方式
純資産価額方式は、会社の資産から負債を差し引いた純資産を株式数で割って評価する方法です。
計算式:
(資産総額 – 負債総額 – 法人税相当額) ÷ 発行済株式数
「会社を清算した場合に株主に配分される金額」というイメージです。会社の財務状況がそのまま反映されます。
不動産が多い会社、利益が安定しない会社は、この方式での評価額が大きくなる傾向があります。
配当還元方式
配当還元方式は、過去の配当金額から株価を逆算して評価する方法です。
計算式:
(年配当金額 ÷ 10%) × (1株あたりの資本金等の額 ÷ 50円)
少数株主(同族株主以外の少数派株主)が取得する場合に適用される評価方法です。経営に関与しない株主にとっては、配当を受け取る権利が中心となるため、配当金額をベースに評価します。
通常、類似業種比準方式や純資産価額方式より低い評価額となります。
会社規模による評価方式の選択
実際に適用される評価方式は、会社の規模によっても変わります。
| 会社規模 | 評価方式(同族株主の場合) |
|---|---|
| 大会社 | 類似業種比準方式 |
| 中会社 | 類似業種比準方式と純資産価額方式の併用 |
| 小会社 | 純資産価額方式(または併用) |
会社規模は、従業員数・取引金額・総資産価額などで判定されます。これも専門的な判定が必要で、税理士の関与が不可欠です。
非上場株式の相続税対策
非上場株式は、相続税対策の余地が比較的大きい財産です。
事業承継税制(特例措置)の活用
中小企業の事業承継を支援する税制として、事業承継税制があります。
特例措置(令和9年12月31日までの時限措置)では、次のような恩典があります。
- 非上場株式の100%に対する相続税・贈与税の納税猶予
- 後継者が代表者として10年間継続するなどの要件を満たせば、最終的に免除
- 事前に「特例承継計画」を都道府県に提出する必要(令和8年3月31日まで)
これを活用すれば、事業承継に伴う多額の相続税・贈与税を実質的に回避できます。
ただし、要件が複雑で、運用にも継続的な手間がかかります。専門家(税理士・弁護士)のサポートが不可欠です。
株式評価額の引き下げ対策
非上場株式の評価額を引き下げるための代表的な対策は次のとおりです。
- 役員退職金の支給(純資産の減少)
- 不動産の取得(評価減効果)
- 含み益のある資産の売却(法人税相当額の活用)
- 配当の抑制(類似業種比準方式の引き下げ)
- 大会社化(類似業種比準方式の比重増加)
これらの対策は、長期的な戦略のもとで実施する必要があります。短期的な操作は税務署に否認されるリスクもあります。
持株会社を活用した対策
事業会社の上に持株会社を設立し、株式を集約する方法もあります。
メリット:
- 株式の評価額引き下げ効果が期待できる
- 事業会社の経営権を集中できる
- 承継の柔軟性が高まる
ただし、設立コストや継続管理コストがかかるため、相当な規模の事業でないとメリットが薄れます。
生前贈与による分散
生前贈与で株式を後継者に少しずつ移転する方法もあります。
メリット:
- 暦年贈与の活用で計画的に移転
- 相続時精算課税制度の活用も可能
- 株価が低いタイミングで移転すれば節税効果大
事業承継税制と組み合わせて活用することで、節税効果を最大化できます。
株式の遺産分割方法
株式の遺産分割には、複数の方法があります。
方法1 現物分割
現物分割は、株式そのものを各相続人に分配する方法です。
メリット:
- シンプルで分かりやすい
- 株式の流動性を維持できる(上場株式の場合)
デメリット:
- 非上場株式の場合、経営権が分散する
- 株主が増えると会社の意思決定が複雑化
非上場株式の現物分割は、事業継続に深刻な影響を与えるため、注意が必要です。
方法2 代償分割
代償分割は、特定の相続人が株式を取得し、その代わりに他の相続人に金銭(代償金)を支払う方法です。
メリット:
- 株式の集中ができる(事業承継に有効)
- 他の相続人も公平な取り分を受け取れる
デメリット:
- 代償金の支払い資金が必要
- 評価額をめぐる争いが起きやすい
事業承継のケースでは、代償分割が最も活用される方法です。
方法3 換価分割
換価分割は、株式を売却して現金化し、その代金を分配する方法です。
メリット:
- 分配が容易
- 明確な評価額が確定する(上場株式の場合)
デメリット:
- 非上場株式は売却が困難
- 譲渡所得税が発生する
- 事業継続が前提なら採用できない
上場株式の場合、相続人間で意見対立があるなら、換価分割が現実的な解決策となります。
方法4 共有(おすすめできない)
株式の共有は、複数の相続人が共同で株式を所有する方法です。
これはおすすめできません。理由は次のとおりです。
- 議決権の行使に共有者全員の合意が必要
- 1人でも反対すると意思決定不能
- 会社の経営に支障をきたす
- 後の遺産分割を先延ばしにするだけ
非上場株式の共有は、特に事業継続に深刻なリスクをもたらします。可能な限り早期に解消すべきです。
株式相続でよくあるトラブル事例
実務でよく発生する株式相続のトラブルとその予防策を見ていきましょう。
事例1 株式の存在を知らなかった
被相続人が株式を保有していたことを家族が知らず、何年も経ってから発見されるケースです。
「父が亡くなった後、書類整理で証券会社からの郵送物を発見」「ほふりへの開示請求で初めて株式の存在が判明」――こうしたケースは少なくありません。
予防策としては、家族で財産の保管場所を共有しておくこと、定期的に財産目録を作成しておくことです。
事例2 非上場株式の評価をめぐる対立
非上場株式の評価額をめぐって、相続人間で意見が対立するケースです。
「事業を継ぐ長男は低い評価を主張、他の相続人は高い評価を主張」――こうした対立は典型的です。評価方法の選択や個別資産の評価で、結果が大きく変わります。
予防策としては、客観的な専門家(税理士・公認会計士)の評価を取得し、それをベースに協議することです。
事例3 譲渡制限で名義変更ができない
非上場株式の譲渡制限が原因で、相続による名義変更ができないケースです。
「相続人が会社に名義変更を求めたが、会社が承認しない」「相続人に対する売渡請求権が行使され、強制的に売却させられた」――こうした事態を防ぐには、定款の事前確認が不可欠です。
事例4 事業承継と他の相続人の遺留分
事業承継で後継者に株式を集中させた結果、他の相続人から遺留分侵害額請求を起こされるケースです。
「会社の株式評価額が高く、遺留分の侵害額が数千万円になった」「後継者が代償金を支払えず、株式の一部を譲り渡すことに」――こうした事態は、事業継続を脅かします。
予防策としては、生前から遺留分を踏まえた財産配分の計画、遺留分の事前放棄(家庭裁判所の許可)、生命保険を活用した代償金原資の確保などが考えられます。
事例5 配当金の受領をめぐる争い
相続発生後、配当金の受領をめぐって相続人間で争いになるケースです。
「相続発生から名義変更までの期間の配当金は誰のものか?」――法律上は相続人の共有財産ですが、実際の受領者が独占してしまうケースもあります。
予防策としては、配当金の管理を明確にしておくこと、遺産分割協議書に配当金の取り扱いを明記することです。
トラブル予防のポイント
株式相続でのトラブルを予防するための主なポイントは次のとおりです。
- 生前から家族で財産情報を共有する
- 遺言書を作成して株式の分配を明確化する
- 定款を事前に確認する
- 非上場株式は専門家の評価を取る
- 事業承継には早期からの計画を立てる
- 遺留分への配慮を忘れない
- 必要に応じて弁護士・税理士に相談する
準確定申告と株式の譲渡所得
株式相続では、税金の問題も重要です。
被相続人の準確定申告
被相続人が株式の譲渡などで所得を得ていた場合、相続人は準確定申告を行う必要があります。
準確定申告は、被相続人の死亡から4ヶ月以内に行います。被相続人がその年に得た所得(1月1日から死亡日まで)を申告します。
株式関連で準確定申告が必要となる主なケース:
- その年に株式を売却して譲渡益が出た場合
- 配当金を受け取って総合課税を選択していた場合
- その他の所得と合わせて確定申告の対象となる場合
相続後の株式売却と取得費
相続した株式を売却する場合、譲渡所得税が課されます。
譲渡所得の計算:
譲渡所得 = 売却価格 – (取得費 + 譲渡費用)
ここで重要なのは、取得費が「被相続人の取得費」を引き継ぐ点です。相続時の評価額ではなく、被相続人が買った時の価格が取得費となります。
たとえば、被相続人が10年前に100万円で買った株式が、相続時に500万円、売却時に600万円なら、譲渡所得は500万円(600万円-100万円)となります。
取得費加算の特例
相続税を支払って取得した株式を売却する場合、取得費加算の特例を活用できます。
これは、支払った相続税の一部を取得費に加算できる制度です。譲渡所得が減少し、譲渡所得税の負担が軽減されます。
適用要件:
- 相続税の申告期限から3年以内に売却する
- 相続税を実際に支払っている
この特例を活用することで、相続税と譲渡所得税の二重課税を緩和できます。
申告期限と注意点
主な申告期限を整理しておきましょう。
| 申告内容 | 期限 |
|---|---|
| 準確定申告 | 相続開始から4ヶ月以内 |
| 相続税申告 | 相続開始から10ヶ月以内 |
| 取得費加算特例の適用 | 相続税申告期限から3年以内に売却 |
これらの期限を逸すると、税務上の不利益が発生します。
株式相続の税金
株式相続にまつわる税金を整理しておきましょう。
相続税の対象
株式は当然ながら相続税の課税対象です。
評価額の算定方法:
- 上場株式:相続開始日の終値、または当月・前月・前々月の毎日の終値の平均額のうち最も低い価額
- 非上場株式:類似業種比準方式、純資産価額方式、配当還元方式
上場株式の評価方法は、株価変動の影響を緩和するための複数選択肢があります。複数の評価額のうち最も低い額を選択できる仕組みです。
譲渡所得税の取り扱い
相続した株式を売却する場合、譲渡所得税が課されます。
税率:
- 上場株式:20.315%(所得税15.315%+住民税5%)
- 非上場株式:20.315%(同上)
被相続人の取得費を引き継ぐ点と、取得費加算の特例の活用が重要です。
配当所得の課税
相続後に受け取る配当金は、配当所得として課税されます。
課税方法:
- 申告分離課税(20.315%)
- 総合課税(配当控除あり)
- 申告不要制度(源泉徴収のみで完結)
所得状況に応じて、有利な課税方法を選択できます。
相続時精算課税制度の活用
事業承継など計画的な株式移転には、相続時精算課税制度の活用も有効です。
メリット:
- 累計2,500万円まで贈与税非課税
- 株価が低いタイミングで移転すれば評価が固定
- 令和6年改正で年110万円の基礎控除が追加
ただし、一度選択すると暦年贈与に戻れない(同じ贈与者からの贈与について)など、注意点もあります。
株式相続の費用
株式相続にかかる費用を整理しておきましょう。
自分で手続きする場合の費用
すべて自分で手続きする場合の主な費用は次のとおりです。
| 費用項目 | 金額 |
|---|---|
| 戸籍謄本・住民票等 | 数千円〜1万円程度 |
| 印鑑証明書 | 数百円×相続人数 |
| 証券会社の手数料 | 無料が多い |
| 遺産分割協議書の印紙代 | 不要(株式のみの場合) |
上場株式の名義変更だけなら、自分で行えば数千円〜1万円程度で済みます。
専門家に依頼する場合の費用
専門家に依頼する場合の費用相場は次のとおりです。
| 依頼内容 | 費用相場 |
|---|---|
| 司法書士に名義変更を依頼 | 5万円〜15万円 |
| 行政書士に協議書作成を依頼 | 3万円〜10万円 |
| 弁護士に遺産分割を依頼 | 20万円〜50万円+成功報酬 |
| 税理士に申告を依頼 | 遺産総額の0.5%〜1% |
事案の複雑さに応じて、費用は大きく変動します。
非上場株式評価の費用
非上場株式の評価を税理士に依頼する場合、別途費用がかかります。
| 株式の規模 | 評価料金 |
|---|---|
| 小規模(資本金1,000万円以下) | 10万円〜20万円 |
| 中規模 | 20万円〜50万円 |
| 大規模(複数の事業展開) | 50万円〜100万円以上 |
非上場株式の評価は専門性が高く、複雑な事案では公認会計士の関与が必要となることもあります。
合計費用の目安
総合的な費用の目安は次のとおりです。
| パターン | 合計費用 |
|---|---|
| 上場株式のみ(自分で) | 数千円〜1万円 |
| 上場株式のみ(専門家依頼) | 5万円〜15万円 |
| 非上場株式あり(専門家依頼) | 20万円〜100万円以上 |
| 事業承継案件(複数専門家) | 100万円〜数百万円 |
費用と確実性のバランスを考えて、依頼するかどうかを判断しましょう。
株式相続を専門家に相談するメリット
株式相続、特に非上場株式や事業承継は、専門家のサポートが不可欠です。
弁護士に相談するメリット
弁護士に相談するメリットは次のとおりです。
- 遺産分割の交渉・代理
- 遺留分問題への対応
- 事業承継に伴う紛争の予防
- 遺言書の作成サポート
- 会社経営の継続性を考慮した提案
特に、相続人間で意見対立がある場合、弁護士の関与は不可欠です。
税理士に相談するメリット
税理士に相談するメリットは次のとおりです。
- 非上場株式の評価
- 相続税申告書の作成
- 事業承継税制の活用支援
- 株式評価額の引き下げ対策
- 準確定申告の対応
非上場株式の相続では、税理士の関与が必須です。
事業承継の場合は複数の専門家連携が必須
事業承継を伴う株式相続では、複数の専門家の連携が不可欠です。
- 弁護士:法的問題への対応、契約書作成
- 税理士:相続税・贈与税の対策、事業承継税制
- 司法書士:商業登記、株式の名義変更
- 公認会計士:財務的な評価、デューデリジェンス
ワンストップ対応の事務所を選ぶか、専門家同士の連携体制が整った事務所を選ぶことで、効率的な対応が可能となります。
まとめ
株式相続は、上場株式と非上場株式で手続きが大きく異なります。上場株式は証券会社での名義変更がメインで、比較的シンプルです。一方、非上場株式は評価方法の選択、譲渡制限の確認、事業承継への影響など、専門性の高い対応が必要となります。
評価方法は類似業種比準方式・純資産価額方式・配当還元方式の3種類があり、会社規模と株主の立場で決まります。非上場株式の評価では、専門家(税理士・公認会計士)の関与が不可欠です。
事業承継では、事業承継税制(特例措置)の活用、代償分割による株式集中、生命保険を活用した代償金原資の確保、遺留分への配慮など、複数の論点を総合的に検討する必要があります。
読者の方が「株式の相続を控えている」「事業承継を考えている」と悩んでいるなら、まずは相続に強い弁護士・税理士に相談することを強くおすすめします。早めの計画立案と専門家のサポートが、円満な相続と事業の継続を実現する最善策となります。
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基礎控除額
4,200万円
課税対象額
800万円
相続税の総額(概算)
80万円
申告が必要です
※ 配偶者の税額軽減・小規模宅地等の特例を考慮しない概算です。実際の税額は個別事情により異なります。
