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後見人と遺産相続の基本
「未成年の子が相続人になる場合、誰が代理する?」「認知症の親の相続手続きはどう進める?」「未成年後見人と成年後見人の違いは?」――こうした疑問は、未成年者や判断能力の不十分な相続人がいる家族が必ず抱える切実なものです。
遺産相続では、相続人が未成年者や判断能力の不十分な方の場合、本人だけでは手続きを進められません。このような場合、未成年後見人または成年後見人が代理して相続手続きを進めます。さらに、後見人と本人の利益が相反する場合は、特別代理人の選任も必要です。本記事では、後見制度の種類と違い、未成年後見制度の詳細、後見人の権限と相続手続きでの役割、特別代理人の選任、ケーススタディまで、実用的な情報を弁護士目線で詳しく解説します。
後見制度の種類と全体像
日本の後見制度には、大きく分けて未成年後見制度と成年後見制度の2つがあります。
未成年後見制度
未成年後見制度は、親権者がいない未成年者(18歳未満)を保護する制度です(民法838条以下)。
両親が死亡した、両親が親権喪失・親権停止となった、両親が行方不明、などのケースで利用されます。
未成年後見人は、親権者と同等の権限を持ち、未成年者の財産管理と身上監護を行います。
成年後見制度
成年後見制度は、判断能力の不十分な成年者を保護する制度です。
法定後見制度(本人の判断能力欠如後に家庭裁判所が選任)と任意後見制度(本人が判断能力があるうちに後見人を選んでおく)の2つに分かれます。
法定後見はさらに、後見・保佐・補助の3類型があり、本人の判断能力の程度に応じて選択します。
未成年後見と成年後見の主な違い
未成年後見と成年後見の主な違いは次のとおりです。
| 項目 | 未成年後見 | 成年後見 |
|---|---|---|
| 対象者 | 未成年者(18歳未満) | 判断能力不十分な成年者 |
| 選任の場面 | 親権者不在 | 判断能力低下 |
| 権限の範囲 | 包括的(親権同等) | 類型別(後見・保佐・補助) |
| 期間 | 18歳まで | 本人死亡まで |
両制度とも、家庭裁判所への申立てにより選任されます。
相続手続きでの後見人の役割
相続手続きで後見人が登場するのは、主に次のような場面です。
未成年の相続人がいて親権者がいない場合(未成年後見人)、判断能力の不十分な相続人がいる場合(成年後見人)、未成年者が被相続人の場合(その子が未成年の親権者となるが、稀)、です。
後見人は本人を代理して、遺産分割協議への参加、相続放棄の判断、相続税申告、不動産の名義変更、などの手続きを行います。
後見人と相続の重要ポイント
後見人と相続の重要ポイントとして、本人の利益保護が最優先、家庭裁判所の監督下での手続き、後見人と本人の利益相反時は特別代理人が必要、複雑な事案では弁護士などの専門家を後見人に選任、が挙げられます。
未成年後見制度の詳細
未成年後見制度について、詳しく見ていきましょう。
未成年後見人の選任
未成年後見人は、家庭裁判所への申立てにより選任されます。
申立人は、未成年者本人、未成年者の親族、利害関係人、検察官、などです。
選任の基準は、未成年者の利益、後見人の能力・適格性、未成年者との関係、などを総合的に考慮します。
未成年後見人になれる人
未成年後見人になれるのは、原則として個人(または法人)です。
個人の場合、未成年者の祖父母・叔父・叔母などの親族、または弁護士・司法書士などの専門家、が一般的です。
未成年後見人の権限
未成年後見人は、親権者と同等の権限を持ちます。
財産管理(預貯金の管理、不動産の管理、相続手続きなど)、身上監護(住居の決定、教育、医療など)、を担当します。
未成年後見人の義務
未成年後見人は、善管注意義務を負います。
未成年者の利益を最優先に行動し、適切な財産管理と身上監護を行う義務があります。
未成年後見監督人の選任
家庭裁判所は、必要に応じて未成年後見監督人を選任することができます。
監督人は、後見人の業務を監督し、不正行為を予防する役割を担います。
未成年後見の期間
未成年後見は、未成年者が18歳に達するまで続きます。
ただし、未成年者が結婚した場合、または家庭裁判所の判断で早期終了することもあります。
未成年後見の終了
未成年後見は、未成年者の18歳到達、未成年者の死亡、後見人の死亡(後継後見人の選任が必要)、解任、などの場合に終了します。
未成年後見人の報酬
未成年後見人の報酬は、家庭裁判所が決定します。
親族後見人は無報酬の場合もありますが、専門家後見人(弁護士・司法書士)は月2万円〜5万円程度が目安です。
未成年後見人の選任手続き
未成年後見人を選任するまでの手続きを、ステップごとに見ていきましょう。
ステップ1 申立て準備
最初のステップは、申立ての準備です。
申立書、未成年者の戸籍、財産目録、未成年後見人候補者の住民票・身分証明書、などを準備します。
ステップ2 家庭裁判所への申立て
未成年者の住所地を管轄する家庭裁判所に、未成年後見人選任の申立てを行います。
申立費用は、収入印紙800円+郵便切手3,000円程度、です。
ステップ3 家庭裁判所での審理
家庭裁判所が、申立内容を審理します。
未成年者の状況、申立人の事情、未成年後見人候補者の適格性、などを総合的に判断します。
必要に応じて、未成年者の意見を聴取することもあります。
ステップ4 審判
家庭裁判所が、未成年後見人を選任する審判を下します。
審判書が後見人に送付され、後見が開始されます。
ステップ5 戸籍への記載
未成年後見人の選任は、未成年者の戸籍に記載されます。
これにより、第三者に対しても後見人の権限が公示されます。
ステップ6 後見業務の開始
後見人は、後見業務を開始します。
財産目録の作成、家庭裁判所への報告、財産管理、相続手続き、などを行います。
ステップ7 定期的な報告
後見人は、家庭裁判所に定期的に報告を行います。
年1回程度、後見等事務報告書の提出が必要です。
成年後見制度と相続手続き
成年後見制度を活用した相続手続きについて見ていきましょう。
成年後見制度の3類型
成年後見制度には、後見・保佐・補助の3類型があります。
後見は、判断能力が常に欠けている状態(認知症が進行している、知的障害が重度など)。成年後見人は包括的な代理権を持ちます。
保佐は、判断能力が著しく不十分な状態(中程度の認知症など)。保佐人は限定的な代理権と同意権を持ちます。
補助は、判断能力が不十分な状態(軽度の認知症など)。補助人は本人が指定する範囲で代理権・同意権を持ちます。
成年後見人の選任
成年後見人の選任は、本人・配偶者・四親等内の親族・市町村長・検察官などが家庭裁判所に申し立てます。
家庭裁判所は、本人の判断能力、後見人候補者の適格性、本人との関係などを総合的に判断して選任します。
成年後見人の権限
成年後見人は、本人の財産管理と身上監護を担当します。
財産管理として、預貯金の管理、不動産の管理、相続手続き、契約の代理、など包括的な権限を持ちます。
身上監護として、住居の決定、医療の同意、介護サービスの契約、などを行います。
成年後見人と相続手続き
成年後見人は、本人(被後見人)が相続人となった場合、本人を代理して相続手続きを行います。
遺産分割協議への参加、相続放棄の判断、相続税申告、不動産の名義変更、などを担当します。
ただし、後見人の判断は本人の利益を最優先に行う必要があります。
任意後見制度の活用
任意後見制度は、本人が判断能力があるうちに、将来後見人になってもらいたい人を選んでおく制度です。
公正証書による任意後見契約の締結が必要で、本人の判断能力低下後に家庭裁判所が任意後見監督人を選任することで効力が発生します。
将来の相続手続きを見越して、信頼できる人を任意後見人に指定しておくことが推奨されます。
成年後見人の報酬
成年後見人の報酬は、家庭裁判所が決定します。
親族後見人は無報酬の場合もありますが、専門家後見人(弁護士・司法書士)は月2万円〜6万円程度が目安です。本人の財産規模により増減します。
特別代理人の選任が必要なケース
後見人と本人の利益が相反する場合、特別代理人の選任が必要となります。
利益相反の典型例
利益相反の典型的なケースは、未成年後見人と未成年者が共同相続人の場合、成年後見人と被後見人が共同相続人の場合、後見人が未成年者・被後見人の財産を譲り受ける場合、です。
たとえば、母が亡くなった父親と子の共同相続人となり、父親の親権者・後見人として子を代理する場合、母と子の利益が相反します。
特別代理人の役割
特別代理人は、利益相反の場面で本人を代理する人です。
家庭裁判所が選任し、その特定の手続きでのみ代理権を持ちます。
特別代理人の選任手続き
特別代理人の選任は、家庭裁判所への申立てにより行われます。
申立人は、後見人(親権者)、利害関係人、などです。費用は、収入印紙800円+郵便切手程度、です。
家庭裁判所は、特別代理人候補者の適格性を審査し、選任します。
特別代理人の選任に必要な書類
特別代理人選任申立書、未成年者の戸籍、後見人(親権者)の戸籍、利益相反の状況を示す書類、特別代理人候補者の住民票・身分証明書、遺産分割協議書案、などが必要です。
特別代理人の権限
特別代理人は、選任された特定の手続き(通常は遺産分割協議)についてのみ代理権を持ちます。
他の手続き(預貯金の解約、相続税申告など)については、原則として後見人(親権者)が代理します。
特別代理人になれる人
特別代理人になれるのは、利益相反のない人です。
親族(おじ・おばなど)、友人、弁護士・司法書士などの専門家、が一般的です。
専門家を選任することで、客観的・中立的な判断が期待できます。
特別代理人の報酬
特別代理人の報酬は、家庭裁判所が決定します。
通常は数万円〜10万円程度。専門家を選任する場合は、20万円〜50万円程度となることもあります。
未成年後見と相続の主要ケース
未成年後見が必要となる主要な相続ケースを見ていきましょう。
ケース1 両親同時死亡
事故などで両親が同時に死亡した場合、残された未成年の子に未成年後見人が必要となります。
通常、祖父母・叔父叔母などの親族、または家庭裁判所が選任する弁護士などが後見人となります。
ケース2 単独親権者の死亡
離婚により単独親権者の親が死亡した場合、未成年の子に未成年後見人が必要となります。
他の親(離婚した親)に親権が自動的に移るわけではないため、家庭裁判所への申立てが必要です。
ケース3 親の親権喪失・停止
親が親権喪失または親権停止となった場合、未成年の子に未成年後見人が必要です。
児童虐待などの場合に発生するケースです。
ケース4 親が長期にわたり育児不能
親が重病・精神疾患・服役などで、長期にわたり育児不能の場合、未成年後見人の選任が検討されます。
ケース5 親が行方不明
親が行方不明で、長期にわたり戻る見込みがない場合も、未成年後見人の選任が検討されます。
後見人による遺産相続手続きの流れ
後見人による遺産相続手続きを、ステップごとに見ていきましょう。
ステップ1 後見人の選任(必要な場合)
未成年後見人または成年後見人が未選任の場合、家庭裁判所への申立てで選任します。
被相続人の死亡時に既に後見人がいる場合、ステップ2から開始します。
ステップ2 相続人の確定
被相続人の戸籍を取得し、すべての相続人を確定します。
後見対象者(未成年者・被後見人)も相続人として確認します。
ステップ3 相続財産の調査
被相続人の財産・債務を調査し、財産目録を作成します。
被後見人にとって有利な相続か、相続放棄が必要かを判断するための重要な情報です。
ステップ4 相続放棄の検討
被相続人に多額の借金がある場合、相続放棄を検討します。
未成年後見人・成年後見人は、本人を代理して3ヶ月以内に家庭裁判所に相続放棄を申述できます。
ただし、未成年者本人の利益保護のため、慎重な判断が必要です。
ステップ5 利益相反の確認
後見人(親権者)と本人の利益が相反する場合、特別代理人の選任が必要となります。
利益相反の有無を確認し、必要に応じて家庭裁判所に申立てます。
ステップ6 遺産分割協議への参加
後見人(または特別代理人)が本人を代理して、遺産分割協議に参加します。
本人の利益を最優先に、適切な分配を主張します。
ステップ7 遺産分割協議書への署名
協議が整ったら、後見人(または特別代理人)が本人を代理して協議書に署名・押印します。
本人の実印と印鑑証明書も必要です。
ステップ8 相続税申告
財産が基礎控除を超える場合、相続税申告(10ヶ月以内)を行います。
後見人(または特別代理人)が本人を代理して申告します。
ステップ9 相続登記・名義変更
不動産がある場合、相続登記(3年以内・2024年義務化)を行います。
預貯金の名義変更、有価証券の名義変更なども進めます。
ステップ10 家庭裁判所への報告
後見人は、相続手続きの結果を家庭裁判所に報告します。
定期報告と特別な報告(相続発生時)の2種類があります。
後見人による相続のケーススタディ
具体的なケーススタディで、後見人による相続を見ていきましょう。
ケース1 父親死亡で未成年の子が相続人
【ケース】
被相続人:A(45歳・事故死)
相続人:配偶者B、未成年の子C(15歳)・D(12歳)
財産:5,000万円
BがC・Dの親権者として代理。ただし、Bも相続人のため利益相反となり、特別代理人を選任。
特別代理人(専門家)がC・Dを代理して遺産分割協議に参加。Bが自宅と預貯金の一部、C・Dに残りの預貯金を分配する形で合意。
解決まで4ヶ月。特別代理人の費用は約30万円。
ケース2 両親死亡で未成年後見が必要
【ケース】
被相続人:E(40歳)、配偶者F(同時死亡)
相続人:未成年の子G(10歳)・H(8歳)
財産:1億円
両親同時死亡のため、祖父母が未成年後見人として家庭裁判所に申立て。家庭裁判所は祖父を未成年後見人に選任。
未成年後見人(祖父)がG・Hを代理して相続手続き。財産は両親の遺産として子2人に均等分割。
解決まで6ヶ月。後見人(祖父)は無報酬。
ケース3 認知症の母親が相続人
【ケース】
被相続人:I(80歳)
相続人:配偶者J(78歳・重度認知症)、子K・L
財産:1.2億円
Jは認知症で意思能力欠如のため、成年後見人を選任。家庭裁判所は弁護士を成年後見人に選任。
成年後見人(弁護士)がJを代理して遺産分割協議に参加。Jの利益を最優先に、配偶者居住権・配偶者税額軽減を活用した分配。
解決まで8ヶ月。後見人費用は月3万円。
ケース4 未成年の子と親が共同相続人
【ケース】
被相続人:M(40歳)
相続人:配偶者N(38歳)、未成年の子O(8歳)
財産:6,000万円
NとOが共同相続人。NがOの親権者として代理する場合、利益相反となるため特別代理人が必要。
特別代理人(おじ)を選任し、Oを代理して遺産分割協議に参加。法定相続分どおりにN=3,000万円、O=3,000万円を分配。
解決まで3ヶ月。特別代理人(親族)は無報酬。
ケース5 未成年と判断能力不十分な相続人が混在
【ケース】
被相続人:P(85歳)
相続人:配偶者Q(82歳・軽度認知症)、子R(50歳)・S(48歳・知的障害)、孫T(15歳・Rの子)
財産:1.5億円
Qには成年後見人(補助)、Sには成年後見人(後見)を選任。Tはまだ未成年だが、Rが親権者として代理可。
複雑な関係のため、ワンストップ事務所に依頼。各成年後見人と特別代理人(必要に応じて)を活用し、適切な分配を実現。
解決まで1年。専門家費用合計約200万円。
ケース6 任意後見人の活用
【ケース】
被相続人:U(75歳)
家族:配偶者V(72歳・健康だが将来の認知症に備えて任意後見契約済み)、子W・X
財産:1億円
Uの死亡時、Vはまだ判断能力があるため、自分で相続手続きに参加。任意後見契約は、Vの判断能力低下後に効力発生予定。
今回は通常の相続手続きで対応。将来の二次相続に備えた任意後見の準備が功を奏した例。
ケース7 後見人と相続人の利益相反で訴訟
【ケース】
被相続人:Y
相続人:未成年の子Z(15歳)、ZのおじAA
状況:AAがZの未成年後見人
AAは、自分の利益のため、Zの相続分を不当に減らす遺産分割を主張した疑いあり。家庭裁判所が監督下で調査。
結果として、AAの不正行為が認められ、後見人を解任。新たな後見人(専門家)を選任して、適切な分配を実現。
解決まで1年6ヶ月。複雑な訴訟費用約400万円。
ケーススタディから学ぶ点
複数のケースから、利益相反時の特別代理人選任の重要性、専門家(弁護士・司法書士)を後見人とすることのメリット、両親同時死亡など緊急時の対応、認知症リスクへの早期対策(任意後見契約)、家庭裁判所の監督の重要性、が確認できます。
後見人と本人の利益相反への対応
後見人と本人の利益相反への対応を詳しく見ていきましょう。
利益相反の判断基準
利益相反は、後見人(親権者)の利益と本人の利益が対立する状況を指します。
典型例は、後見人(親権者)と本人が共同相続人の場合、後見人が本人から財産を譲り受ける場合、後見人と本人が訴訟当事者となる場合、などです。
特別代理人の必要性
利益相反がある場合、後見人が本人を代理することは禁止されています。
家庭裁判所に特別代理人の選任を申し立て、特別代理人が本人を代理します。
特別代理人の選び方
特別代理人候補者の選び方は、利益相反のない人、本人との関係が良好な人、相続手続きを理解できる人、を考慮します。
親族(おじ・おば・成人した兄弟姉妹など)、または弁護士・司法書士などの専門家、が一般的です。
複雑な事案では、専門家を選任することで適切な代理が期待できます。
特別代理人の選任申立て
特別代理人の選任申立ては、家庭裁判所に対して行います。
申立書、利益相反の状況を示す書類、特別代理人候補者の住民票・身分証明書、遺産分割協議書案などを提出します。
複数の特別代理人
複数の未成年者がいる場合、それぞれに異なる特別代理人が必要となることがあります。
未成年者間でも利益相反が発生する可能性があるためです。
たとえば、未成年の兄弟が共同相続人で、おじが両方の特別代理人になる場合、兄弟間の利益相反に注意が必要です。
特別代理人の業務範囲
特別代理人の業務範囲は、選任された特定の手続き(通常は遺産分割協議)に限定されます。
他の手続き(預貯金の解約、相続税申告など)は、原則として後見人(親権者)が代理します。
ただし、利益相反が継続する場合は、追加的な特別代理人の選任が必要です。
後見人による相続放棄
後見人による相続放棄について見ていきましょう。
相続放棄の必要性
被相続人に多額の借金がある場合、未成年の相続人・判断能力の不十分な相続人にとっても、相続放棄が必要となる可能性があります。
後見人(または特別代理人)が、本人を代理して相続放棄を申述します。
相続放棄の期限
相続放棄の期限は、後見人が「自己のために相続の開始があったことを知った時」から3ヶ月以内です。
後見人が後見開始後に被相続人の死亡を知った場合、知った時から3ヶ月以内が期限となります。
家庭裁判所の許可
未成年後見人が相続放棄をする場合、家庭裁判所の許可は不要です。
ただし、利益相反の場合、特別代理人が相続放棄を申述する必要があります。
成年後見人(後見類型)が被後見人を代理して相続放棄する場合も、家庭裁判所の許可は不要です。ただし、後見人と被後見人の利益相反の場合は、特別代理人が必要です。
相続放棄の判断
後見人は、本人の利益を最優先に相続放棄を判断します。
被相続人の財産・債務の調査、本人の生活状況、将来の影響、などを総合的に考慮します。
判断に迷う場合は、弁護士などの専門家に相談することが推奨されます。
後見人に関するよくある質問
後見人と相続について、よくある質問にお答えします。
Q1 未成年の子が相続人の場合、誰が手続きする?
親権者(原則として両親)が代理します。両親がいない場合、未成年後見人を家庭裁判所に申立てて選任します。
Q2 母親と未成年の子が同時に相続人の場合、母親が代理できる?
利益相反のため、原則として代理できません。家庭裁判所に特別代理人の選任を申立てる必要があります。
Q3 認知症の親が相続人の場合は?
成年後見人を選任して、後見人が代理します。後見開始前なら、後見人選任の申立てが必要です。
Q4 後見人を誰に頼めばいい?
親族(信頼できる人)、または弁護士・司法書士などの専門家、が一般的です。家庭裁判所が判断します。
Q5 未成年後見人と特別代理人の違いは?
未成年後見人は包括的な権限を持ち長期的な後見、特別代理人は特定の手続きのみで限定的な代理権、です。
Q6 後見人選任にどれくらいの期間がかかる?
申立てから選任まで1ヶ月〜3ヶ月程度です。家庭裁判所の混雑状況により異なります。
Q7 後見人の費用は誰が払う?
本人(未成年者・被後見人)の財産から支払われます。家庭裁判所が報酬額を決定します。
Q8 後見人と相続で利益相反になる典型例は?
後見人(親権者)と本人が共同相続人の場合、後見人が本人から財産を譲り受ける場合、などです。
Q9 任意後見制度はどう活用する?
本人が判断能力のあるうちに、信頼できる人を将来の後見人に指定する制度です。公正証書での契約が必要です。
Q10 後見人の業務に問題があったらどうする?
家庭裁判所に報告し、必要に応じて後見人の解任・新たな後見人の選任を申し立てます。
後見人の選任における専門家の活用
後見人と相続では、専門家のサポートが極めて有効です。
弁護士の役割
弁護士は、未成年後見人・成年後見人の選任申立て、特別代理人の選任、複雑な相続事案、利益相反への対応、家庭裁判所での手続き全般、を担当します。
複雑な事案では、弁護士への早期相談が不可欠です。費用は、申立て代理で20万円〜50万円、後見人就任時は月3万円〜6万円、が目安です。
司法書士の役割
司法書士も、後見人選任申立てを代理できます。相続登記、不動産の名義変更、を担当します。
費用は、申立て代理で10万円〜30万円、相続登記で5万円〜15万円、が目安です。
税理士の役割
税理士は、被後見人を含む相続税申告、修正申告、各種特例の適用、を担当します。
費用は、相続税申告で財産の0.5%〜1%(最低30万円)、が目安です。
ワンストップ事務所の活用
弁護士・税理士・司法書士が連携するワンストップ事務所は、後見人と相続の事案で大きなメリットがあります。
複雑な事案では、専門家チームの活用が効率的です。
無料相談の活用
多くの専門家が初回無料相談を提供しています。
複数の事務所で相談を受け、信頼できる専門家を選ぶことが大切です。
後見人と相続をめぐる2024年現在の動向
後見人と相続をめぐる2024年現在の動向を整理しておきましょう。
動向1 高齢化に伴う成年後見利用増
高齢化に伴い、成年後見制度の利用が拡大しています。
2023年末時点で、成年後見制度の利用者は約25万人を超えており、年々増加しています。
動向2 専門家後見人の増加
親族後見人によるトラブル(財産の使い込みなど)も増えているため、専門家後見人の選任が増加しています。
裁判所も、複雑な事案では専門家後見人を選任する傾向にあります。
動向3 任意後見制度の活用拡大
任意後見制度の活用も広がっています。
本人の意思を尊重した後見が可能なため、終活の一環として活用される事例が増えています。
動向4 成年後見制度改革の検討
成年後見制度については、本人の意思尊重や自己決定支援の強化など、改革に向けた議論が進んでいます。
今後、法改正により制度がより使いやすくなる可能性があります。
動向5 2024年4月相続登記義務化の影響
2024年4月から相続登記が義務化され、後見人を介した相続手続きでも、3年以内の登記が必要となりました。
後見人による期限管理の重要性が増しています。
動向6 デジタル遺品への対応
暗号資産・SNSアカウントなど、デジタル遺品の取り扱いも、後見人の業務として重要となっています。
専門的な知識が必要なケースが増えています。
後見と相続のためのチェックリスト
最後に、後見と相続のチェックリストを整理しておきましょう。
チェック1 後見の必要性の確認
未成年の相続人や、判断能力の不十分な相続人がいるか確認しましたか?
チェック2 後見人の選任状況
すでに後見人がいるか、新たに選任が必要かを確認しましたか?
チェック3 利益相反の有無
後見人(親権者)と本人の利益相反がないか確認しましたか?
チェック4 特別代理人の選任
利益相反がある場合、特別代理人の選任申立てを準備しましたか?
チェック5 相続放棄の判断
被相続人に借金がある場合、3ヶ月以内に相続放棄の判断をしましたか?
チェック6 遺産分割協議の代理
後見人または特別代理人が、本人を代理して協議に参加しましたか?
チェック7 各種手続きの実施
相続税申告、相続登記、名義変更など、各種手続きを進めましたか?
チェック8 家庭裁判所への報告
後見人として、家庭裁判所への定期報告を行っていますか?
チェック9 専門家への相談
不明点があれば、弁護士・税理士・司法書士に相談しましたか?
チェック10 将来への備え
将来の認知症リスクに備えて、任意後見契約などの検討をしていますか?
これらのチェックを通じて、適切な後見と相続手続きが実現できます。
後見制度における財産管理の実務
後見人の財産管理の実務について、より具体的に見ていきましょう。
財産目録の作成
後見人は、就任後できるだけ早期に、本人の財産目録を作成します。
不動産、預貯金、有価証券、現金、貴金属、保険、債務など、すべての財産を網羅します。家庭裁判所に提出する重要な書類です。
本人の財産の管理
後見人は、本人の財産を適切に管理する義務があります。
預貯金口座の管理、不動産の管理、有価証券の管理など、本人の利益のために行動します。後見人の個人財産との混同は厳禁です。
本人の生活費の支出
後見人は、本人の生活費・医療費・介護費などを本人の財産から支出します。
適切な支出か、家庭裁判所の監督を受けます。証拠書類(領収書など)を保管しておくことが重要です。
高額な財産処分
不動産の売却、大型の投資など、高額な財産処分は、家庭裁判所の許可が必要です。
本人の居住用不動産の売却は、特に慎重な判断が必要です(成年後見の場合、家庭裁判所の許可が必須)。
定期的な報告
後見人は、年1回程度、家庭裁判所に後見等事務報告書を提出します。
財産目録の更新、収支の報告、本人の状況の報告などを含みます。
報告義務違反は、後見人の解任事由となります。
後見人の解任
後見人が義務を怠った、不正行為があった、健康問題で業務遂行が困難になった、などの場合、家庭裁判所が後見人を解任することがあります。
親族・本人・検察官などが申立てる場合と、家庭裁判所の職権による場合があります。
後継後見人の選任
後見人が辞任、解任、死亡などで業務を継続できない場合、後継後見人が選任されます。
家庭裁判所が新たな後見人を選任し、業務が引き継がれます。
後見制度の費用負担
後見制度の費用負担についても、整理しておきましょう。
申立て費用
後見人選任・特別代理人選任の申立て費用は、収入印紙800円、郵便切手3,000円〜5,000円程度、です。
弁護士・司法書士に申立て代理を依頼する場合、追加で10万円〜30万円が目安となります。
後見人の報酬
後見人の報酬は、家庭裁判所が決定します。
親族後見人は無報酬または低報酬、専門家後見人(弁護士・司法書士)は月2万円〜6万円程度。本人の財産規模により増減します。
後見監督人の報酬
後見監督人が選任される場合、その報酬も家庭裁判所が決定します。
月1万円〜2万円程度が目安です。
費用負担者
これらの費用は、原則として本人(被後見人)の財産から支払われます。
本人の財産が乏しい場合、成年後見制度利用支援事業(自治体)による補助が受けられる場合もあります。
費用の長期的影響
未成年後見の場合、18歳まで継続するため、長期にわたる費用負担となります。
成年後見の場合、本人の死亡まで継続するため、さらに長期となります。
将来の費用負担を見越した、財産管理の計画が重要です。
まとめ
後見制度には、未成年後見制度(親権者がいない未成年者を保護)と成年後見制度(判断能力の不十分な成年者を保護)の2つがあります。
未成年後見人と成年後見人は、本人(未成年者・被後見人)を代理して、遺産分割協議への参加、相続放棄の判断、相続税申告、不動産の名義変更などの相続手続きを行います。
後見人(親権者)と本人の利益が相反する場合、特別代理人の選任が必要です。たとえば、母と未成年の子が共同相続人の場合、母が子を代理することは利益相反となるため、家庭裁判所に特別代理人選任の申立てが必要です。
未成年後見人・成年後見人・特別代理人の選任は、家庭裁判所への申立てで行います。専門家(弁護士・司法書士)を選任することで、客観的・適切な代理が期待できます。
2024年4月から相続登記が義務化され、後見人を介した相続手続きでも、期限管理の重要性が増しています。
読者の方が「未成年の子の相続手続きを進めたい」「認知症の親が相続人となった」「利益相反で対応に困っている」と考えているなら、まずは相続と後見に詳しい弁護士に早めに相談することを強くおすすめします。早期の専門家相談と適切な対応が、本人の確実な保護と適切な相続手続きの両立につながる最善策となります。
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※ 配偶者の税額軽減・小規模宅地等の特例を考慮しない概算です。実際の税額は個別事情により異なります。
