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公正証書遺言のメリットとデメリット
この記事で分かること
- 公正証書遺言とは公正証書の形で遺言を残すこと
- 公正証書のメリットはその確実性と安全性にある
- 公正証書のデメリットは手間と費用にある
公正証書遺言は公正証書という形で残す遺言のことです。法律のプロである公証人が遺言者に代わって作成することから自筆証書遺言のような様式不備がないという大きなメリットがあります。その反面、公正証書遺言は遺産額や相続人数に応じた費用がかかる点に注意が必要です。
目次[非表示]
公正証書遺言とはどのような遺言書なのか
公正証書遺言とは公証役場で公証人に作成してもらった遺言書で、最も確実かつ安全な遺言書と言えます。公証役場は全国にあるのでお近くの公証役場を探してみましょう。
まずは公正証書遺言の簡単なご紹介をします。
公正証書遺言は口伝えで遺言を書いてもらう
公正証書遺言は遺言者が公証人に口伝えをして、その内容をまとめてもらいます。公証人が率先して遺言の内容を考えてくれたりアドバイスしてくれたりするわけではありません。しかし、公証人が作成することで遺言書の様式不備は防げるし内容の間違いも起きづらくなります。
公証人に口伝えするのが嫌だという場合は自筆証書遺言や秘密証書遺言という選択肢になりますが自分で書かなければいけないので確実性に不安が生じます。
公証人は法律のプロ
公証人は公正証書遺言を書いてくれる人ですが、法務省によって任免されます。一応資格試験について公証人法で定められているのですが、弁護士や検事、裁判などは試験が免除されるため基本的には法律のプロがそのまま任命されています。これなら遺言書の作成を安心して任せられますね。
ちなみに、十分な数の公証人を確保できるためか公証人の資格試験は一度も実施されたことがないそうです。
公正証書遺言は証人を2名以上揃えなければいけない
公正証書遺言を作成するためには証人を2名揃える必要があります。証人は未成年や推定相続人、公証人の4親等以内の親族からは選べないので、信頼できる他人を探します。公証役場で証人を探してもらうことも可能ですが有料です。
公正証書遺言には費用がかかる
公正証書遺言は作成するだけで手数料がかかります。財産に応じた費用はこちらです。
財産の価額 | 手数料 |
---|---|
100万円まで | 5,000円 |
200万円まで | 7,000円 |
500万円まで | 11,000円 |
1,000万円まで | 17,000円 |
3,000万円まで | 23,000円 |
5,000万円まで | 29,00円 |
1億円まで | 43,000円 |
1億円超~3億円まで | 5,000万円ごとに13,000円を加算 |
3億円超~10億円まで | 5,000万円ごとに11,000円を加算 |
10億円超 | 5,000万円ごとに8,000円を加算 |
他にも幾らかの手数料がかかりますが、詳しくは公正証書遺言のデメリットの項目で紹介します。
公正証書遺言を作成するために必要な書類は?
公正証書遺言を作るために必要な書類は遺言者の印鑑登録証明書と戸籍謄本です。不動産がある場合は登記簿謄本や評価証明書が、法定相続人以外に財産を渡す場合は受遺者の住民票を忘れずに持って起きましょう。
公証役場の場所はインターネットで簡単に検索できます。
公正証書遺言のメリットは確実性と安全性
遺言書を公正証書で作成することはこのようなメリットがあります。
- 遺言が無効になりづらい
- 遺言を安全に保管できる
- 家庭裁判所での検認がいらない
- 自分で遺言書を書けない人でも利用できる
遺言が無効になりづらい
公正証書遺言は公証人の手で作成される遺言書です。したがって法律を知らない人が作成する遺言書のように様式不備が起きません。例えば財産が不明確であるとか署名捺印がない、日付が書かれていないと言ったことでも遺言は効力を持たないので自筆証書遺言を作成する場合は最新の注意を払わなくてはいけません。
公正証書遺言は、自分で作成する自筆証書遺言や秘密証書遺言に比べて無効になりづらいのです。
ちなみに、公正証書遺言が無効になる場合は遺言者が「実は重度の認知症だった」という場合です。いくら様式が整っていても十分な行為能力がなければ有効になると却って危ないのです。
遺言を安全に保管できる
公正証書遺言は公証役場で保管してもらえます。つまり公正証書遺言は紛失したり誰かに破棄されてしまうリスクがないのです。これは確実な遺言の実現にとって重要なメリットです。
遺言が執行されない理由として紛失や破棄は無視できません。自宅に遺言書を保管することは意外とリスクが高いのです。
に厳重な隠し場所を選んだとしても長期にわたって発見されなければ遺言は効力を発揮できません。遺言は法的拘束力を持ちますが遺言通りにできない状況なら相続人の意思が優先されるのです。ただし相続人全員の合意ができなければ遺産分割協議をやり直す羽目になります。どちらも望ましくありませんね。
家庭裁判所での検認がいらない
公正証書遺言は公証人のチェックを受けた時点で真正とみなされます。よって家庭裁判所での検認が入りません。とくに遺産分割をすぐに行いたい時や相続登記をしなければいけない時にはこのメリットを感じやすいです。
遺産分割を手早く済ませられることは遺族の肉体的、精神的なストレスを和らげてくれます。
自筆証書遺言や秘密証書遺言を家庭裁判所で検認してもらう場合、申し立てから手続き終了までの期間はおよそ数日が一般的です。しかし、時には1ヶ月から1月半かかることもあるようです。
自分で遺言書を書けない人でも利用できる
公正証書遺言は口伝えで作成してもらうことから文字を書けない状態の人でも利用できます。自筆証書遺言は手書きで書かなくてはいけないので、文字を書けない場合は間違いなく公正証書遺言を使うことになるでしょう。
平成11年の民法改正で口伝えができない人も公正証書遺言を作成できるようになっています
逆に言語能力や聴覚能力の不足で口伝えができないという場合は民放の基準で認められた通訳者の手助けを受けるかもしくは筆談での意思疎通をすることで利用できます。
公正証書遺言のデメリットは費用の高さ
公正証書遺言を利用することはこのようなデメリットがあります。
- 費用が高い
- 公証人は正しい方式で遺言を書く人に過ぎない
- 公正証書遺言ができるまで時間がかかるかもしれない
- 信頼できる証人を見つけづらい
費用が高い
自筆証書遺言は手書きで作成して保管するだけだから0円
秘密証書遺言は公証役場での認証を受けるため11000円
一方、公正証書遺言は遺言の内容によって数万円がかかります。
まず、こちらの表をおさらいしましょう。
財産の価額 | 手数料 |
---|---|
100万円まで | 5,000円 |
200万円まで | 7,000円 |
500万円まで | 11,000円 |
1,000万円まで | 17,000円 |
3,000万円まで | 23,000円 |
5,000万円まで | 29,00円 |
1億円まで | 43,000円 |
1億円超~3億円まで | 5,000万円ごとに13,000円を加算 |
3億円超~10億円まで | 5,000万円ごとに11,000円を加算 |
10億円超 | 5,000万円ごとに8,000円を加算 |
このように財産の価額に合わせて手数料が異なるのですがこれは受遺者や相続人が受け取る金額に応じたものです。
つまり、3000万円の遺産を1人に引き継ぐ場合は23000円で同じく3000万円の財産を3人に1000万円ずつ引き継ぐ場合は17000円×3=51000円かかります。
しかも相続する財産が合わせて1億円に満たない場合は11000円の手数料がかかります。
それでも相続財産の大きさを考えれば決して高いとは言えないし、遺産が大きいほど遺言書が無効になるデメリットが強くなるはずです。
逆に遺産の額が少ない場合は「相続争いのリスク」に応じて公正証書遺言を作るか、自筆証書遺言を作るか、そもそも遺言を用意しないか選ぶと良いでしょう。生前贈与で済ませるのも一つの手です。
公証人は正しい方式で遺言を書く人に過ぎない
公証人は法律のプロとして遺言を作成してくれますが、それ以上のことはしてくれません。例えば子の認知をどうしたらいいか、誰にどんな財産を渡したら円満に収まるのかといったことが気になっても公証人はあまり有益な答えをくれないのです。
あくまで公証人は遺言者の要望を聞いて遺言を作成するのが仕事。遺言の内容を相談したい時は民間の弁護士に相談しましょう。
公正証書遺言ができるまで時間がかかるかもしれない
公正証書遺言を作成するには必要な書類と証人を揃える手間があります。さらに公証人との打ち合わせを数回行うことになるでしょう。事前にしっかり遺言の内容をまとめているなら少ない時間で作成できる一方、遺言の内容をあまり考えていない人は何回も公証人と打ち合わせする羽目になります。
公正証書遺言作成の打ち合わせは電話でも可能ですが公正証書遺言の手続きと最終確認は公証役場で行う必要があります。この点も注意してください。
公証役場に行けない場合は出張してもらえる
公証役場に行けない場合は公証人が出張してくれます。ただし出張をお願いした場合は1日2万円、4時間でも1万円の日当がかかります。遺産の価額に応じた手数料も1.5倍に上がるので面倒だからという理由で出張を頼むのは賢明と言えません。
自筆証書遺言は時間がかからないと言えるのか?
公証人との打ち合わせが必要な公正証書遺言と比べた時、自筆証書遺言は好きな時に書き進められて余計な手続きを求められないぶん楽だと思われるかもしれません。
ところが自筆証書遺言を作成する場合は遺言の書き方を自分で調べ、様式が間違っていないか何度もチェックし、内容が間違っていたらその都度指定の様式で修正しなければ行けないので簡単と言えません。そもそも手書きでの作成を求められる時点でかなりの手間がかかっています。
よって公正証書遺言は必ずしも自筆証書遺言より手間がかかると限らないのです。
信頼できる証人を見つけづらい
証人がすぐに見つかる場合とそうでない場合があります。身内や受遺者を証人にできないため、人付き合いが少ないと大いに苦労するでしょう。仮に証人が見つかった場合でも口の軽い人を選ぶと遺言の内容が漏れてしまいます。
どうしても信頼できる証人が見つからない時は公証役場で探してもらえます。ただし料金がかかります。
公証人は遺言の内容をアドバイスしてくれない。望ましい公正証書遺言を作成するなら弁護士に相談を
公正証書遺言は「様式不備・内容不明確による無効」という一般人にとって最も高いハードルをクリアしてくれます。文書の作成が苦手でそれなりの相続財産がある人は迷わず公正証書遺言を選びましょう。(財産が少ない、文章作成が得意という場合は自筆証書遺言の方が安上がりです)
ただし、公証人は遺言を代わりに書いてくれるだけでより良い遺言を残すためのアドバイスはしてくれません。公正証書遺言の内容は相続案件に強い弁護士と一緒に作りましょう。
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