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自筆証書遺言とは?書き方・保管制度・注意点を徹底解説

この記事で分かること

  • 自筆証書遺言の基本(6つのメリット・7つのデメリット)
  • 法律で定められた書き方の5つのルール(自筆・日付・氏名・押印・訂正)
  • 2019年改正で財産目録は自筆不要となったこと、2020年からの法務局保管制度
  • 自筆証書遺言の文例(シンプル・分配・不動産・預貯金・付言事項)
  • 自筆証書遺言が無効になる主な原因と、公正証書遺言との比較

自筆証書遺言は、本人が自筆で作成する最も手軽な遺言書です。費用がかからず内容も秘密にできる一方、形式不備で無効になるリスクがあります。本記事では書き方の5つのルール、2019年改正の財産目録ルール、2020年からの法務局保管制度、無効になる原因、公正証書遺言との比較、文例、FAQまで詳しく解説します。

自筆証書遺言の基本

「遺言書を作成したいが、公正証書遺言は費用が高い」「手軽に自分で遺言書を残せる方法はないか」「自筆証書遺言の書き方や注意点を知りたい」――こうした疑問を持つ方は多いはずです。

自筆証書遺言は、本人が自筆で作成できる最も手軽な遺言書です。費用もかからず、思い立ったらすぐに作成できる利点があります。一方で、形式不備や紛失・偽造のリスクもあり、書き方を正しく理解しておく必要があります。読者の方が「自筆証書遺言を残したい」と考えているなら、まずは正確な書き方とルールを理解することが重要です。本記事では、自筆証書遺言の基本、メリット・デメリット、書き方、文例、法務局保管制度まで、弁護士目線で詳しく解説します。

自筆証書遺言とは

自筆証書遺言とは、遺言者本人がその全文・日付・氏名を自書し、押印して作成する遺言書です(民法968条)。

公正証書遺言が公証役場で公証人が作成するのに対し、自筆証書遺言は本人が自宅などで手軽に作成できます。証人も不要で、費用もかからないのが大きな特徴です。

ただし、形式要件を厳格に守る必要があり、一つでも不備があると遺言全体が無効となるリスクがあります。

3種類の遺言書の中での位置づけ

民法は3種類の遺言書を定めており、自筆証書遺言はその一つです。

種類 作成方法 費用 無効リスク 検認
自筆証書遺言 本人が自筆 無料(保管制度は3,900円) 高い 必要(法務局保管なら不要)
公正証書遺言 公証役場で作成 数万円〜数十万円 極めて低い 不要
秘密証書遺言 本人作成・公証役場で証明 11,000円 中程度 必要

実務では、自筆証書遺言と公正証書遺言の2つがほぼすべてを占めています。

自筆証書遺言の利用件数と傾向

正確な統計はありませんが、自筆証書遺言の作成件数は公正証書遺言(年間約11万件)と同等以上と推計されています。

特に2020年7月の法務局保管制度開始以降、自筆証書遺言の利用は安定的に増えています。手軽さと保管の安心を両立できる選択肢として、多くの方に活用されています。

2020年からの法務局保管制度の影響

2020年7月10日から、自筆証書遺言の法務局保管制度が始まりました。

この制度は、自筆証書遺言の主なデメリット(紛失・偽造リスク・形式チェックの不安)を大幅に軽減するものです。法務局で保管された遺言書は検認も不要となるため、自筆証書遺言の使い勝手が大きく向上しています。

これにより、「自筆証書遺言は不確実」というイメージは過去のものとなりつつあります。

自筆証書遺言の6つのメリット

自筆証書遺言の主なメリットを6つ整理しておきましょう。

メリット1 費用が無料(または低額)

最大のメリットは、費用がほぼかからないことです。

自宅で自分で作成する分には、紙とペン以外の費用は必要ありません。法務局保管制度を利用しても、1通3,900円の保管手数料で済みます。

公正証書遺言が数万円〜数十万円の費用がかかるのに比べ、圧倒的にコストを抑えられます。

メリット2 手軽にすぐ作成できる

「思い立ったらすぐに作成できる」のも大きな魅力です。

公証役場での予約・打ち合わせも不要で、自宅で必要な道具(紙・ペン・印鑑)を揃えればすぐに作成可能です。「明日に備えて今夜書いておきたい」というケースにも対応できます。

メリット3 内容を秘密にできる

自筆証書遺言は、本人が一人で作成するため、内容を完全に秘密にできます。

家族にも、専門家にも、公証人にも知られずに遺言を残せます。デリケートな内容を含む場合に有効です。

ただし、内容のレビューを受けられないため、形式不備のリスクは高くなります。

メリット4 証人不要

公正証書遺言や秘密証書遺言には証人2人が必要ですが、自筆証書遺言は証人不要です。

証人の手配が不要なため、誰にも知られずに作成・保管できます。

メリット5 何度でも書き直せる

自筆証書遺言は、何度でも書き直し・撤回が可能です。

家族構成の変化、財産状況の変化、本人の意思の変化に応じて、柔軟に内容を更新できます。古い遺言書を破棄して、新しい遺言書を作成するだけで撤回できます。

メリット6 法務局保管制度で偽造リスクを回避

2020年からの法務局保管制度を活用すれば、自筆証書遺言の主なデメリットを大幅に軽減できます。

  • 紛失リスクの回避
  • 偽造・変造リスクの回避
  • 形式チェックを受けられる
  • 検認手続きが不要
  • 死亡時に相続人へ通知される(死亡時通知)

低コストで安心感を得られる制度として、活用がおすすめです。

自筆証書遺言の7つのデメリット

メリットも多い自筆証書遺言ですが、デメリットも理解しておく必要があります。

デメリット1 形式不備で無効になるリスク

最大のデメリットは、形式不備で無効になるリスクです。

自筆・日付・署名・押印など、民法が定める形式要件を一つでも欠くと、遺言全体が無効となります。本人は気づかないまま不備のある遺言書を残してしまうこともあります。

公証人のチェックがないため、形式面のリスクは公正証書遺言よりはるかに高くなります。

デメリット2 内容不備で執行不能となるリスク

形式が有効でも、内容に不備があれば執行できないことがあります。

  • 財産の特定が曖昧(「自宅」「預金」だけでは不十分)
  • 受遺者の特定が不明確
  • 遺留分への配慮がない
  • 遺言執行者の指定がない

専門知識がないと、後で「執行できない遺言」になっている可能性があります。

デメリット3 偽造・変造・隠匿のリスク

自筆証書遺言を自宅で保管している場合、家族の誰かが内容を改ざんしたり、隠匿したりするリスクがあります。

「亡くなった後に遺言書が発見されない」「都合の悪い相続人が遺言書を破棄した」というケースは、実際に発生しています。法務局保管制度の活用で、このリスクは回避できます。

デメリット4 紛失のリスク

自宅保管の場合、紛失のリスクもあります。

「保管場所を忘れた」「家族の引越し・片付けで紛失」「火災・水害で失われた」など、思わぬトラブルで遺言書が失われる可能性があります。

デメリット5 検認手続きが必要

自筆証書遺言(自宅保管)は、相続発生後に家庭裁判所での検認手続きが必要です。

検認には1〜2ヶ月かかり、相続手続きの遅延要因となります。法務局保管なら検認不要ですが、自宅保管の場合は手続きの遅れを覚悟する必要があります。

デメリット6 自筆である必要がある

自筆証書遺言は、財産目録を除く全文を自筆で書く必要があります。

パソコンで作成した文書、代筆、ワープロ印刷などは無効です。文字を書くのが困難な方には、自筆証書遺言の作成自体がハードルとなります。

デメリット7 遺言能力をめぐる紛争リスク

自筆証書遺言は、遺言者の判断能力(遺言能力)が後で争われやすい形式です。

公正証書遺言の場合、公証人が本人の判断能力を確認しているため、後で争われるリスクは低いです。自筆証書遺言は単独で作成するため、「本人が認知症だったのではないか」「他人に書かされたのではないか」という主張が出やすくなります。

自筆証書遺言の書き方の5つのルール

自筆証書遺言を有効に作成するための5つのルールを確認しておきましょう。

ルール1 全文を自筆で書く(財産目録を除く)

自筆証書遺言は、全文を遺言者本人が自筆で書く必要があります(民法968条1項)。

具体的には、本文(誰に何を渡すかの記載)はすべて自筆である必要があります。パソコン、ワープロ、代筆は無効です。

ただし、2019年の改正により、財産目録については自筆でなくても可能となりました(後述)。

ルール2 日付を正確に記載する

遺言書には、正確な日付を記載する必要があります。

  • 「令和○年○月○日」と具体的に記載
  • 「○年○月吉日」「○年○月」など曖昧な記載は無効
  • 「○歳の誕生日」など特定可能なら有効

複数の遺言書が見つかった場合、日付の新しいものが優先されるため、日付の特定は重要です。

ルール3 氏名を自筆で記載する

遺言者の氏名を、本文の末尾に自筆で記載します。

通称や芸名でも、本人と特定できれば有効とされる判例もありますが、後の紛争を避けるため、戸籍上の正式な氏名を使うのが安全です。

ルール4 押印する

氏名の後に押印が必要です。

  • 実印でも認印でも有効
  • 拇印・指印でも有効とする判例あり
  • 後の紛争を避けるため、実印が望ましい

押印を忘れると、遺言全体が無効となるため注意が必要です。

ルール5 訂正は厳格な方法で行う

遺言書を訂正する場合、民法が定める厳格な方法に従う必要があります(民法968条3項)。

訂正の方法:

  • 変更する場所を明示する
  • 変更した旨を付記し、そこに署名する
  • 変更場所に押印する

訂正方法を誤ると、訂正部分は無効となり、訂正前の記載が有効となります。または、訂正自体が遺言全体の無効原因となることもあります。

訂正が多くなった場合は、書き直すほうが安全です。

2019年改正で変わった財産目録のルール

2019年1月13日施行の民法改正で、自筆証書遺言の財産目録に関するルールが変わりました。

財産目録は自筆でなくてもOK

改正前は、財産目録もすべて自筆で書く必要がありました。複雑な財産の場合、手書きで詳細を記載するのは大きな負担でした。

改正後は、財産目録は自筆でなくてもOKとなりました(民法968条2項)。パソコン作成、代筆、通帳のコピーを添付する形でも有効となります。

財産目録の作成方法

財産目録の主な作成方法は次のとおりです。

  • パソコンで作成して印刷
  • 本人以外の人(代筆)が作成
  • 不動産登記事項証明書のコピーを添付
  • 預金通帳の表紙・該当ページのコピーを添付

これにより、複雑な財産でも正確な目録を作成しやすくなりました。

財産目録に必要な署名押印

財産目録に自筆でない部分がある場合、その各ページに署名押印が必要です(民法968条2項後段)。

両面に記載がある場合は、両面に署名押印します。これは、自筆でない部分の真正性を担保するための要件です。

パソコン作成・通帳コピーの活用

具体的な活用例:

【財産目録】
1 不動産:別紙登記事項証明書のとおり
2 預貯金:別紙通帳コピーのとおり
3 上場株式:別紙残高証明書のとおり

このように本文では「別紙のとおり」と参照し、財産目録(別紙)で詳細を記載する形が便利です。

財産目録の各ページには、遺言者の署名押印を忘れずに行いましょう。

自筆証書遺言の文例

自筆証書遺言の具体的な文例を紹介します。

シンプルな文例

財産すべてを一人に渡すシンプルな文例:

遺言書
遺言者○○○○は、遺言者の有する一切の財産を、長男○○○○(昭和○年○月○日生)に相続させる。
令和○年○月○日
遺言者 ○○○○ (押印)

シンプルですが、明確で執行しやすい遺言です。

配偶者と子に分配する文例

配偶者と子に分配する文例:

遺言書
第1条 遺言者○○○○は、遺言者の有する別紙物件目録記載の不動産および○○銀行○○支店の預金全額を、妻○○○○(昭和○年○月○日生)に相続させる。
第2条 遺言者は、上記以外の財産を、長男○○○○(昭和○年○月○日生)に相続させる。
令和○年○月○日
遺言者 ○○○○ (押印)

財産を特定し、それぞれの相続人に分配する形式です。

不動産を特定する文例

不動産を特定する場合の記載例:

所在:○○県○○市○○町○○丁目○○番地
家屋番号:○○番○○
種類:居宅
構造:木造瓦葺2階建
床面積:1階○○㎡ 2階○○㎡

登記事項証明書の記載どおりに正確に記載することが重要です。

預貯金を特定する文例

預貯金を特定する場合の記載例:

○○銀行○○支店 普通預金 口座番号○○○○○○○ 名義人○○○○

金融機関名・支店名・預金種別・口座番号・名義人を明記します。

付言事項の活用例

法的効力はないものの、付言事項を活用することで家族へのメッセージを残せます。

【付言事項】
妻○○○○には、長年にわたって私を支えてくれてありがとう。長男○○○○には、家業を継ぐ重責を引き受けてくれて感謝しています。次男○○○○とも力を合わせ、家族みんなで助け合っていってください。私の遺志を尊重し、相続をめぐって争うことのないよう、心からお願いします。

付言事項で「なぜこの分配にしたか」「家族への感謝」を伝えることで、相続人の納得感が高まり、トラブル防止につながります。

自筆証書遺言保管制度の活用

2020年から始まった法務局保管制度は、自筆証書遺言の使い勝手を大幅に向上させました。

法務局保管制度とは

法務局保管制度は、自筆証書遺言を法務局で保管してもらう制度です(法務局における遺言書の保管等に関する法律)。

2020年7月10日から始まり、自筆証書遺言の主なデメリット(紛失・偽造・形式不備のリスク)を大幅に軽減する画期的な制度として活用されています。

制度を利用するメリット

制度を利用するメリットは次のとおりです。

  • 紛失のリスクがない(法務局で保管)
  • 偽造・変造のリスクがない
  • 形式チェックを受けられる(完全ではないが基本的な形式は確認される)
  • 検認手続きが不要
  • 遺言者の死亡時に相続人へ通知される(死亡時通知)
  • 本人以外は遺言書の存在を確認できない(生前のプライバシー保護)

これにより、自筆証書遺言の使い勝手が公正証書遺言に近づきました。

保管申請の手続き

保管申請の手続きの流れは次のとおりです。

  1. 遺言書を作成する(規定の様式に沿って)
  2. 申請する法務局を選ぶ(遺言者の住所地・本籍地・所有不動産の所在地)
  3. 事前予約をする
  4. 本人が法務局に出向く(代理人不可)
  5. 必要書類を提出して保管申請
  6. 保管証を受領

予約から保管完了まで、通常1〜2週間程度です。

必要書類と費用

保管申請に必要な書類と費用は次のとおりです。

  • 自筆証書遺言(規定の様式に沿ったもの)
  • 保管申請書(法務局のサイトからダウンロード)
  • 本人確認書類(運転免許証・マイナンバーカードなど)
  • 住民票(本籍地記載のもの・3ヶ月以内発行)
  • 保管手数料:1通3,900円(収入印紙)

費用が安く、手軽に利用できる制度です。

保管後の確認・撤回

保管後の主な手続きは次のとおりです。

  • 保管されている遺言書の内容を確認したい:閲覧請求(手数料1,400円)
  • 保管を撤回したい:保管申請の撤回(手数料はかかるが廃止可能)
  • 遺言書の内容を変更したい:撤回して新しい遺言書を保管申請

遺言者は、いつでも閲覧・撤回が可能です。柔軟な運用ができる点も魅力です。

自筆証書遺言の検認手続き

自筆証書遺言を自宅保管している場合、相続発生後に検認手続きが必要です。

検認とは

検認とは、家庭裁判所が遺言書の存在・内容を確認する手続きです(民法1004条)。

検認の目的は、遺言書の現状を保全し、偽造・変造を防止することにあります。遺言の有効性を判断するものではないため、検認を受けても形式不備があれば無効となります。

検認手続きの流れ

検認手続きの流れは次のとおりです。

  1. 遺言書を発見した相続人が家庭裁判所に検認の申立て
  2. 家庭裁判所が相続人全員に検認期日を通知
  3. 検認期日に裁判所で遺言書を開封・確認
  4. 検認調書の作成
  5. 検認済証明書の発行

申立てから検認期日まで1〜2ヶ月程度かかります。

法務局保管なら検認不要

法務局保管制度を利用した自筆証書遺言は、検認手続きが不要です。

これにより、相続手続きを大幅にスピードアップできます。法務局保管制度の大きなメリットの一つです。

検認に必要な書類と期間

検認に必要な書類と期間は次のとおりです。

項目 内容
必要書類 申立書、被相続人の出生〜死亡の戸籍謄本、相続人全員の戸籍謄本、遺言書原本
手数料 800円(遺言書1通)+郵便切手
所要期間 申立て〜検認期日まで1〜2ヶ月

自宅保管の場合、これらの負担が発生する点を理解しておきましょう。

自筆証書遺言が無効になる主な原因

自筆証書遺言が無効になる主な原因を理解しておきましょう。

原因1 自筆要件違反

最も多い無効原因が、自筆要件の違反です。

  • パソコンで作成(財産目録以外)
  • 代筆
  • カーボン紙でのコピー
  • 署名のみ自筆で本文は印刷

財産目録以外の本文は、必ず本人の自筆である必要があります。

原因2 日付の不備

日付の不備も典型的な無効原因です。

  • 日付の記載がない
  • 「○年○月吉日」のような曖昧な記載
  • 「2024年○月」と日付がない

日付は具体的に特定できるよう、正確に記載する必要があります。

原因3 署名・押印の不備

署名・押印の不備も無効原因です。

  • 署名がない
  • 押印がない
  • 署名が他人による(代筆)

特に押印忘れは多い不備の一つです。

原因4 訂正方法の不備

訂正方法の不備で無効となるケースもあります。

民法所定の訂正方法を守らないと、訂正部分が無効となります。場合によっては、遺言全体の無効原因となることもあります。

訂正が必要な場合は、書き直すほうが安全です。

原因5 遺言能力の不存在

遺言能力(判断能力)がない状態で作成した遺言は、無効です。

認知症の進行で判断能力が低下していた場合、後で「遺言能力がなかった」として無効を主張される可能性があります。判断能力に不安がある時期の遺言作成は、医師の診断書を取得するなどの対策が必要です。

原因6 強迫・錯誤・詐欺

強迫・錯誤・詐欺による遺言は、取り消しまたは無効となります。

「家族から強要されて書かされた」「内容を誤解して書いた」「だまされて書かされた」というケースが該当します。これらの主張は立証が難しいですが、後の紛争原因となります。

自筆証書遺言と遺留分

自筆証書遺言を作成する際、遺留分への配慮は重要です。

遺留分とは

遺留分とは、法定相続人(兄弟姉妹を除く)に保障される最低限の取り分です(民法1042条)。

遺留分の割合は次のとおりです。

  • 配偶者・子のみが相続人:法定相続分の1/2
  • 親のみが相続人:法定相続分の1/3
  • 兄弟姉妹:遺留分なし

遺言書で遺留分は奪えない

自筆証書遺言でも、遺留分は奪えません。

遺留分を侵害する内容の遺言書は、後で遺留分侵害額請求が起こり、結局は財産が分散することになります。家族間のトラブルの種にもなります。

遺留分を踏まえた遺言設計

遺留分を踏まえた遺言書の設計が重要です。

  • 各相続人の遺留分を計算する
  • 遺留分を侵害しない分配を心がける
  • 侵害する場合は代償措置を準備する
  • 付言事項で理解を求める

弁護士に相談すれば、遺留分を踏まえた適切な設計をサポートしてもらえます。

自筆証書遺言と公正証書遺言の比較

自筆証書遺言と公正証書遺言を比較しておきましょう。

確実性で比較

確実性では、公正証書遺言が圧倒的に優位です。

公正証書遺言は公証人が作成するため、形式不備のリスクがほぼありません。一方、自筆証書遺言は本人作成のため、形式不備のリスクが残ります。

ただし、法務局保管制度を活用することで、自筆証書遺言の確実性も大幅に向上しています。

費用で比較

費用面では、自筆証書遺言が圧倒的に優位です。

遺言書 費用
自筆証書遺言(自宅保管) 0円
自筆証書遺言(法務局保管) 3,900円
公正証書遺言 数万円〜数十万円

費用を抑えたい場合は、自筆証書遺言が選択肢となります。

手間で比較

手間の面でも、自筆証書遺言が手軽です。

公正証書遺言は、公証役場との打ち合わせ・必要書類の収集・証人の手配など、相応の準備が必要です。自筆証書遺言なら、自宅で一人で作成できます。

状況別の最適な選択

状況別の最適な選択は次のとおりです。

状況 最適な選択
確実性を最優先(複雑な家族関係) 公正証書遺言
事業承継・遺留分問題あり 公正証書遺言
シンプルな相続でコストを抑えたい 自筆証書遺言(法務局保管)
手軽にすぐ作成したい 自筆証書遺言
複数の財産を含む 公正証書遺言または法務局保管

自筆証書遺言の保管方法

自筆証書遺言の保管方法を整理しておきましょう。

保管方法1 自宅で保管

最も一般的なのが、自宅での保管です。

  • 金庫
  • 引き出しの奥
  • 本棚の本の間
  • 仏壇

紛失・偽造のリスクがあるため、家族の誰かに保管場所を伝えておくことが重要です。

保管方法2 銀行の貸金庫

銀行の貸金庫での保管も選択肢です。

ただし、被相続人の死亡後、貸金庫の開錠には相続人全員の同意が必要となることがあり、緊急時の取り出しに支障が出る可能性があります。

保管方法3 法務局保管制度

最もおすすめなのが、法務局保管制度の活用です。

紛失・偽造のリスクがなく、検認も不要、死亡時通知もあるため、自筆証書遺言の安心感を最大化できます。

費用も3,900円と低額で、自宅保管の不安を解消できる優れた制度です。

保管方法4 弁護士に預ける

信頼できる弁護士に遺言書を預けるのも一つの方法です。

特に、その弁護士を遺言執行者に指定する場合、預けておくことで死後すぐに執行が始められます。

保管場所を家族に伝える重要性

自宅保管・銀行の貸金庫・弁護士保管のいずれの場合も、保管場所を家族の一部に伝えておくことが重要です。

「遺言書を残したが、誰にも保管場所を伝えなかった」では、せっかくの遺言が発見されない可能性があります。信頼できる相続人や友人に伝えておきましょう。

法務局保管制度なら、死亡時通知制度により、相続人に自動的に通知が届くため、この心配がありません。

自筆証書遺言の変更・撤回

自筆証書遺言は、いつでも変更・撤回が可能です。

いつでも変更・撤回が可能

民法1022条により、遺言者はいつでも遺言の全部または一部を撤回できます。

家族構成の変化、財産状況の変化に応じて、柔軟に内容を更新できます。

新しい遺言書での撤回

新しい遺言書を作成することで、古い遺言を撤回できます。

新しい遺言書には「令和○年○月○日付の遺言書を撤回する」と明記するのが一般的です。

遺言書の破棄による撤回

遺言書本人が遺言書を破棄することでも、撤回が可能です(民法1024条)。

破ったり、燃やしたりすることで、遺言は撤回されたものとみなされます。

注意すべきポイント

変更・撤回の際の注意点は次のとおりです。

  • 新しい遺言書には古い遺言書の撤回を明記
  • 複数の遺言書が併存する場合、矛盾する部分は新しいものが優先
  • 法務局保管の遺言を撤回する場合は別途手続きが必要
  • 確実性を高めるなら新しい公正証書遺言に切り替えるのも一案

自筆証書遺言のFAQ

自筆証書遺言について、よくある質問にお答えします。

Q1 鉛筆で書いてもいい?

法律上、筆記具に制限はありませんが、鉛筆は消えやすく改ざんの恐れがあるため、避けるべきです。万年筆・ボールペンなど、消えにくい筆記具を使いましょう。

Q2 横書きでもいい?

問題ありません。縦書き・横書きどちらでも有効です。自分が書きやすいほうを選びましょう。

Q3 縦書きと横書きどちらが良い?

法的にはどちらでも有効ですが、伝統的に縦書きが選ばれることが多いです。法務局保管制度を利用する場合は、所定の様式に従う必要があります。

Q4 押印は実印でなければダメ?

実印でなくても有効です。認印、拇印・指印でも有効とされる判例があります。ただし、後の紛争を避けるため、実印を使用するのがおすすめです。

Q5 複数枚にわたる場合は?

複数枚にわたる場合、ホチキスで綴じ、各ページの継ぎ目に契印(または割印)を押すのが安全です。法的には、全ページが一体の遺言書として認識できれば有効とされます。

Q6 入院中でも作成できる?

可能です。判断能力があり、自筆できる状態なら、入院中でも作成できます。ただし、判断能力に不安がある場合は、医師の診断書を取得するなどの対策が必要です。

Q7 認知症の親でも作成できる?

判断能力(遺言能力)があれば可能ですが、認知症の進行度によります。後で遺言能力を争われるリスクがあるため、医師の診断書取得や、公正証書遺言の選択を検討すべきです。

Q8 遺言書が複数見つかった場合は?

日付の新しい遺言書が優先されます。矛盾しない部分は両方が有効となりますが、矛盾する場合は新しい遺言が優先します。

Q9 法務局保管制度の利用件数は?

法務局保管制度の年間利用件数は約1〜2万件で、年々増加傾向にあります。今後さらに利用が拡大していくと予想されています。

Q10 自筆証書遺言は何年有効?

期限はありません。一度作成すれば、撤回しない限り永久に有効です。ただし、状況の変化に応じて見直し・書き直しを推奨します。

自筆証書遺言の作成を検討すべきケース

自筆証書遺言が向いているケースを整理しておきましょう。

ケース1 財産がシンプルで相続人も少ない

財産が預貯金中心でシンプル、相続人も配偶者と子1〜2人のみといったケースでは、自筆証書遺言で十分な場合があります。

複雑な配分や事業承継などがないなら、自筆証書遺言(できれば法務局保管)が手軽な選択肢となります。

ケース2 急いで遺言を残したい

「明日に備えて今夜書いておきたい」「入院前に急いで残したい」など、緊急時には自筆証書遺言が便利です。

公正証書遺言は予約・打ち合わせ・書類準備が必要なため、緊急時の作成には時間がかかります。

ケース3 費用を抑えたい

費用を抑えたい場合、自筆証書遺言が最適です。

自宅保管なら0円、法務局保管でも3,900円で済むため、コストパフォーマンスは公正証書遺言の比ではありません。

ケース4 内容を秘密にしたい

「絶対に内容を秘密にしたい」というニーズがあれば、自筆証書遺言が選択肢となります。

ただし、法務局保管制度を利用する場合は、職員が形式を確認するため、ある程度の内容は知られます。完全な秘密保持なら自宅保管が必要です。

避けるべきケース

自筆証書遺言を避けるべきケースは次のとおりです。

  • 財産規模が大きい(数千万円〜)
  • 事業承継がある
  • 家族関係が複雑(再婚・養子・認知している子など)
  • 遺留分問題が予想される
  • 遺言能力に不安がある
  • 判断能力低下の懸念がある

これらに該当する場合は、公正証書遺言を選ぶほうが安全です。

自筆証書遺言の実例とよくある失敗

最後に、自筆証書遺言の実例とよくある失敗例を紹介しておきましょう。

失敗例1 日付を「吉日」と記載

「令和6年5月吉日」と記載した遺言書は、日付が特定できないため無効となります。最高裁の判例でも、「吉日」表記は無効とされています。

失敗例2 押印を忘れた

全文を自筆で書き、署名もしたが、押印を忘れたケースです。押印は法律上の必須要件のため、欠けると遺言全体が無効となります。

失敗例3 訂正方法を誤った

誤字を二重線で消しただけで、訂正の付記・署名・押印を行わなかったケースです。訂正部分が無効となり、当初の記載が有効と判断されます。

失敗例4 財産の特定が曖昧

「私の不動産」「銀行の預金」だけの記載では、財産の特定ができず、執行に支障が出ます。不動産は所在・地番、預貯金は金融機関・支店・口座番号まで明記する必要があります。

失敗例5 ホチキスを外したまま保管

複数枚にわたる遺言書のホチキスを外して保管した結果、ページの順序が分からなくなったり、一部が紛失したりするケースです。ホチキス止めと契印は重要です。

失敗例を避ける3つのポイント

失敗例を避けるための3つのポイントは次のとおりです。

ポイント1として、書く前に本記事のような信頼できる情報源で形式要件を確認すること。ポイント2として、書いた後に弁護士に内容をレビューしてもらうこと。ポイント3として、できれば法務局保管制度を利用すること、です。

これらを実践することで、自筆証書遺言の失敗リスクを大幅に減らせます。

自筆証書遺言を弁護士に相談するメリット

自筆証書遺言も、弁護士に相談するメリットがあります。

形式不備のチェック

弁護士に内容を見てもらうことで、形式不備のリスクを回避できます。

「自筆要件は守れているか」「日付・署名・押印は適切か」「訂正方法は正しいか」――専門家の目でチェックを受けることが、無効リスクの回避につながります。

内容の専門的レビュー

内容面でも、専門的なレビューを受けられます。

  • 財産の特定が明確か
  • 受遺者の特定が明確か
  • 遺留分への配慮があるか
  • 後の紛争のタネはないか

専門知識がないと見落としがちなポイントを、弁護士がチェックしてくれます。

遺留分を踏まえた設計

遺留分を踏まえた遺言設計は、専門知識が必要な部分です。

弁護士に相談すれば、遺留分を計算した上で、後のトラブルを避ける内容に整えてもらえます。

保管方法のアドバイス

保管方法についても、専門家のアドバイスが有用です。

「自宅保管が良いか、法務局保管が良いか」「公正証書遺言への切り替えはどうか」など、状況に応じた最適な選択をサポートしてもらえます。

遺言執行者としての就任

弁護士を遺言執行者に指定することで、確実な遺言の実現が可能となります。

特に自筆証書遺言は検認手続きが必要(法務局保管除く)なため、遺言執行者として弁護士に任せることで、家族の負担を軽減できます。

ワンポイントアドバイス
自筆証書遺言は、費用がかからず手軽に作成できる便利な遺言形式です。2020年からの法務局保管制度を活用すれば、紛失・偽造リスクを大幅に回避でき、検認も不要になります。「自筆証書遺言を残したい」と考えているなら、まずは法務局保管制度の活用を検討しましょう。複雑な内容や大きな財産の場合は、形式不備のリスクを避けるため、弁護士に内容をチェックしてもらうか、公正証書遺言を選ぶのが安全です。

まとめ

自筆証書遺言は、本人が自筆で作成する最も手軽な遺言書です。費用がほぼかからず、誰にも知られずに作成でき、何度でも書き直せる柔軟性があります。一方で、形式不備で無効になるリスク、紛失・偽造のリスク、検認手続きの必要性などのデメリットもあります。

書き方の基本ルールは、全文を自筆で書く(財産目録を除く)、日付を正確に記載、氏名を自筆で記載、押印する、訂正は厳格な方法で行う、の5つです。2019年改正により財産目録は自筆不要となり、利便性が向上しました。

2020年から始まった法務局保管制度を活用すれば、自筆証書遺言の主なデメリットを大幅に軽減できます。3,900円の低コストで、紛失・偽造リスクの回避、検認不要、死亡時通知などのメリットが得られる優れた制度です。

読者の方が「自筆証書遺言を作成したい」と考えているなら、まずは正しい書き方を守り、法務局保管制度の活用を検討しましょう。複雑な内容や大きな財産がある場合は、相続に強い弁護士に相談することをおすすめします。早めの準備が、確実な意思の実現と家族の幸せにつながる最善策となります。

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