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自筆証書遺言とは?書き方・メリット・無効を防ぐ注意点を解説

この記事で分かること

  • 自筆証書遺言の定義と、公正証書遺言・秘密証書遺言との違い
  • 2019年民法改正・2020年法務局保管制度開始による最新の自筆証書遺言の変化
  • 自筆証書遺言の5つのメリットと5つのデメリット
  • 法的に有効な自筆証書遺言を作成するための6つのルール
  • 自筆証書遺言が無効になりやすいNG例と、確実に有効なものにするための弁護士活用法

自筆証書遺言は紙とペンがあれば誰でも作成できる手軽な遺言書ですが、形式不備で無効になるリスクが高い点に注意が必要です。本記事では2019年民法改正と2020年法務局保管制度を踏まえた最新の書き方ルール、具体的な記載例、無効になりやすいNG例、偽造や紛失を防ぐ保管方法、検認手続きまで、弁護士目線で網羅的に解説します。

自筆証書遺言とは

「自分の財産を、自分の意思で渡したい相手に確実に届けたい」――そう考える方にとって、遺言書は最も確実な手段です。中でも自筆証書遺言は、紙とペンさえあれば誰でも作成できる気軽さから、多くの方に選ばれています。

ただし、気軽に作れる反面、書き方のルールを少しでも間違えると無効になってしまうという落とし穴もあります。読者の方が「自筆証書遺言を作りたい」と考えているなら、まずは制度の正確な仕組みと注意点を理解することから始めましょう。

自筆証書遺言の定義と特徴

自筆証書遺言(じひつしょうしょゆいごん)とは、遺言者が遺言の全文・日付・氏名を自分の手で書き、これに押印して作成する遺言書のことです。民法968条に定められた遺言の方式の一つで、最も身近な遺言の形といえます。

特徴をまとめると、次のとおりです。

  • 遺言者が自分の手で全文を書く(財産目録は例外)
  • 証人や立会人は不要
  • 作成にあたって費用がかからない
  • いつでも、どこでも作成できる
  • 内容を誰にも知られずに作れる

ドラマや小説で登場する手書きの遺言書のほとんどは、この自筆証書遺言です。書籍の裏表紙や手紙の裏など、自筆であれば紙の種類を問わず有効になります。

他の遺言書(公正証書遺言・秘密証書遺言)との違い

民法が定める遺言には、自筆証書遺言のほかに公正証書遺言と秘密証書遺言があります。それぞれの違いを表で確認しておきましょう。

項目 自筆証書遺言 公正証書遺言 秘密証書遺言
作成者 遺言者本人 公証人 遺言者本人(代筆・パソコン可)
証人 不要 2人以上必要 2人以上必要
費用 不要 財産額に応じて発生 11,000円(定額)
内容の秘密性 完全に秘密にできる 公証人と証人に知られる 内容は秘密にできる
無効リスク 高い(形式不備の恐れ) 極めて低い 中程度
家庭裁判所の検認 必要(法務局保管なら不要) 不要 必要

自筆証書遺言は手軽さで群を抜きますが、無効リスクの高さがネックです。確実性を最優先するなら公正証書遺言、秘密性を保ちつつ作成日や存在を公的に証明したいなら秘密証書遺言という選択肢もあります。

2019年の民法改正で何が変わったか

自筆証書遺言の制度は、2019年1月13日施行の民法改正で大きく変わりました。改正の最大のポイントは、財産目録についてパソコンでの作成が認められたことです。

それまでは遺言書のすべてを自筆で書く必要があり、財産が多い高齢者にとっては大きな負担となっていました。改正後は、不動産の登記事項証明書や預金通帳のコピーを財産目録として添付することも可能になっています。

ただし、財産目録以外の遺言本文は今でも自筆が必須です。また、財産目録の各ページに署名と押印が必要となる点に注意してください。

2020年7月開始の法務局保管制度

2020年7月10日からは、自筆証書遺言を法務局で保管してもらえる制度がスタートしました。法務局の遺言書保管制度です。

この制度を利用すれば、自筆証書遺言の最大の弱点であった紛失・偽造・破棄のリスクをほぼ排除できます。また、法務局で保管された遺言書については、家庭裁判所の検認手続きが不要となるため、遺言の執行もスムーズに進みます。

利用には1通あたり3,900円の手数料がかかりますが、安全性を考えれば極めて有用な制度といえます。

自筆証書遺言を作成できる人・できない人

自筆証書遺言は誰でも自由に作れるわけではありません。一定の条件を満たした人だけが、有効な遺言書を残せます。

満15歳以上であれば作成できる

民法961条は、遺言を作成できる年齢を満15歳以上と定めています。通常の契約行為では20歳(2022年4月以降は18歳)未満の方は親権者の同意が必要ですが、遺言については15歳から単独で作成可能です。

これは、遺言が遺言者本人の最終意思を尊重するための制度であり、後見的な介入をなじまないと考えられているためです。

成年被後見人が作成する場合の条件

成年被後見人(認知症などで判断能力を欠く状態と家庭裁判所に認定された人)は、原則として遺言を作成できません。ただし、次の条件を満たせば例外的に有効な遺言を残せます。

  • 一時的に判断能力が回復していること
  • 医師2人以上の立会いがあること
  • 医師が「遺言時に判断能力があった」と遺言書に付記し、署名・押印すること

成年被後見人ではない被保佐人・被補助人は、特に制限なく遺言を作成できます。

認知症の方が作成した遺言の有効性

認知症の診断を受けているからといって、すぐに遺言が無効になるわけではありません。重要なのは、遺言を書いた時点で判断能力(遺言能力)があったかどうかです。

しかし実務上、認知症の方が作成した遺言は、後に「無効ではないか」と争われやすい傾向があります。不利益を受けた相続人が「あの時の親は認知症が進んでいて遺言の意味を理解していなかった」と主張するケースが多いのです。

認知症の疑いがある場合は、遺言作成時の判断能力を客観的に証明できるよう、医師の診断書を取っておく、ビデオ撮影を行う、専門家の立会いを得るといった対策を講じておきましょう。

ワンポイントアドバイス
高齢の方が自筆証書遺言を作成する場合、後の紛争を避けるためにも作成時の判断能力を裏付ける資料を残しておきましょう。長谷川式認知症スケールの検査結果、主治医の診断書、作成過程を記録したメモなどが有効です。万全を期すなら、判断能力に疑義が生じにくい公正証書遺言を選択することも検討してください。

自筆証書遺言の5つのメリット

自筆証書遺言が選ばれる理由は、何といってもその手軽さです。具体的なメリットを順に見ていきましょう。

メリット1 時間と場所を選ばずに作成できる

自筆証書遺言は、紙とペンと印鑑があれば、いつでもどこでも作成できます。自宅のリビングで一人静かに書いてもよし、入院中の病室で書いてもよし、思い立ったその瞬間に着手できる手軽さは大きな魅力です。

公正証書遺言を作成するには公証役場まで足を運ばねばならず、原則として平日の日中しか対応してもらえません。これに対し、自筆証書遺言なら時間の制約を受けずに自分のペースで作成できます。

メリット2 証人が必要ない

公正証書遺言や秘密証書遺言の作成には、2人以上の証人の立会いが必要です。しかも、推定相続人や受遺者、その配偶者や直系血族は証人になれないという制限もあります。

身近に頼れる人がいない方や、家族にすら遺言の存在を知られたくない方にとって、この制限は大きな壁となります。自筆証書遺言なら証人が一切不要なので、こうした悩みから解放されます。

メリット3 作成に費用がかからない

自筆証書遺言は、作成自体に費用がかかりません。紙とペンと印鑑だけで完成します。

公正証書遺言は財産額に応じて数万円〜10万円以上の手数料がかかりますし、秘密証書遺言も11,000円の定額手数料が必要です。費用を最小限に抑えたい方にとって、自筆証書遺言は理想的な選択肢です。

ただし、後述する家庭裁判所の検認手続きには800円の収入印紙代が必要となります。また、法務局の保管制度を利用する場合は1通3,900円の手数料が発生します。

メリット4 内容を誰にも知られず作れる

自筆証書遺言の内容は、遺言者本人以外、誰にも知られません。家族にも、専門家にも、内容を秘密にしたまま作成できます。

「妻に内緒で愛人に財産の一部を渡したい」「特定の子だけに多く相続させたい」など、家族関係に微妙な事情がある場合、内容の秘密性が確保できる点は重要です。

メリット5 修正・撤回が自由にできる

自筆証書遺言は、いつでも自由に修正・撤回できます。気持ちや家族関係が変わったときに、すぐに書き直せる柔軟性も大きな利点です。

公正証書遺言を修正する場合も法的には可能ですが、改めて公証役場での手続きが必要となり、手間と費用がかかります。気軽に書き直せる自筆証書遺言は、人生のステージに応じて遺言の内容を更新したい方に向いています。

ワンポイントアドバイス
自筆証書遺言は気軽に作成できる反面、確実性に欠ける面があります。財産規模が大きい場合や家族関係が複雑な場合は、メリットだけでなくデメリットも考慮し、公正証書遺言との比較検討をおすすめします。費用をかけてでも確実性を取るのが、相続トラブル防止の鉄則です。

自筆証書遺言の5つのデメリット

手軽さの裏返しとして、自筆証書遺言にはいくつかのデメリットがあります。これらを理解せずに作成すると、せっかくの遺言が無効になりかねません。

デメリット1 形式不備で無効になりやすい

自筆証書遺言は、民法が定める厳格な様式を守らなければ無効になります。よくある形式不備の例は次のとおりです。

  • パソコンやワープロで本文を作成した
  • 署名や押印が漏れている
  • 日付が記載されていない、または「吉日」など特定できない記載になっている
  • 訂正方法を誤った
  • 夫婦や親子で1通の遺言を共同で作成した

法律の専門知識がない方が自分で作成すると、これらのミスを犯すリスクは決して低くありません。

デメリット2 内容が不明確だと無効になる

形式が正しくても、内容が曖昧であれば該当部分が無効になります。

たとえば、「自宅は長男に」と書いただけでは、どの不動産を指すか特定できないとして、無効と判断される恐れがあります。「家にある現金は妻に」も同様で、いつの時点の現金を指すか不明確です。

財産の特定は、不動産なら登記事項証明書のとおりに正確に記載し、預貯金なら金融機関名・支店名・口座種別・口座番号まで明記する必要があります。

デメリット3 偽造・改ざんのリスクがある

自筆証書遺言は遺言者本人が保管することが多く、誰の目にも触れずに置かれている状態が一般的です。そのため、悪意のある人物が内容を書き換えたり、偽造したりするリスクがあります。

特に、遺言者と筆跡が似ている家族や、遺言者の印鑑にアクセスできる人がいる場合、偽造のハードルは下がってしまいます。

なお、遺言書を偽造・変造した者は、民法891条により相続欠格となり、相続権を失います。また、私文書偽造罪として刑事罰の対象にもなりますが、それでも偽造を試みる人は後を絶ちません。

デメリット4 紛失・破棄の恐れがある

自宅で保管していた遺言書を、本人が紛失してしまうケースもあれば、遺言者の死後に発見した家族が、自分に不利な内容だからと破棄してしまうケースもあります。

遺言書の存在を誰も知らなければ、紛失や破棄に気づくことすらできません。「巧妙な場所に隠したつもりが、本人の死後に誰にも発見されなかった」というケースも、実際に存在します。

デメリット5 家庭裁判所の検認が必要

自筆証書遺言は、遺言者の死亡後、家庭裁判所での検認手続きを経なければ執行できません(法務局の保管制度を利用した場合を除く)。

検認とは、遺言書の存在と内容を相続人全員に確認させ、後の偽造・変造を防ぐための手続きです。申立てから検認完了まで1〜2ヶ月程度かかるため、その間は遺言に基づく相続手続きが進められません。

検認には、相続人全員の戸籍謄本など多数の書類が必要となり、相続人にとっては大きな負担となります。

自筆証書遺言の正しい書き方6つのルール

無効リスクを最小化するため、自筆証書遺言の正しい書き方を順に確認していきましょう。

ルール1 全文を自筆で書く(財産目録は除く)

遺言書の本文は、すべて遺言者自身の手で書かなければなりません。パソコン、ワープロ、代筆はいずれも認められません。

筆記用具は基本的に自由ですが、後から消えたり改ざんされたりしないよう、消えない筆記具(ボールペン・万年筆など)を使うことを強くおすすめします。鉛筆や消せるボールペンは避けましょう。

2019年改正以降、財産目録についてはパソコンでの作成や登記事項証明書のコピー・通帳のコピーの添付が認められています。ただし、財産目録の各ページに署名と押印が必要です。

ルール2 作成日付を明確に書く

遺言書には、必ず作成日付を記載します。日付は年月日まで特定できる形で書く必要があります。

良い例は「令和7年5月12日」「2026年5月12日」など。NGなのが「令和7年5月吉日」「2026年5月」「私の70歳の誕生日」のような特定できない表記です。

日付が特定できないと、遺言書全体が無効になります。複数の遺言書が存在する場合、日付の新しいものが優先されるため、日付の明確化は極めて重要です。

ルール3 氏名を自書する

遺言書の末尾には、遺言者の氏名を自筆で書きます。戸籍上の正式な氏名を使うのが最も安全です。

ペンネームや雅号でも、遺言者を特定できれば有効と判断される余地はありますが、争いを避けるためにも本名を記載しましょう。

ルール4 押印する

氏名の横に押印します。印鑑の種類について民法は特に定めていないため、認印でも実印でも構いません。シャチハタやスタンプ印は避けるべきとされており、安全面を考えれば実印での押印が推奨されます。

実印で押印し、印鑑証明書を遺言書と一緒に保管しておけば、後の本人性証明もスムーズです。

ルール5 訂正は法律で定められた方法で行う

書き間違いを訂正する場合、民法968条3項が定める方法に従う必要があります。具体的には次のとおりです。

  1. 訂正したい箇所に二重線を引く
  2. 訂正印を押す(遺言書本文と同じ印鑑)
  3. 余白などに「○行目△△を××に訂正」と変更内容を記載する
  4. 変更内容の記載に署名する

この手順を一つでも欠くと、訂正そのものが無効となります。訂正箇所が多い場合は、いったん破棄して新しく書き直すほうが確実です。

ルール6 財産と相続人を具体的に特定する

財産と相続人は、誰が読んでも同じ理解になる形で特定する必要があります。

不動産の場合は、登記事項証明書の記載と一致させるのが鉄則です。

  • 所在:○○県○○市○○町○丁目
  • 地番:○番○
  • 地目:宅地
  • 地積:○○㎡

預貯金なら、金融機関名・支店名・預金種別・口座番号まで明記します。「○○銀行○○支店、普通預金、口座番号1234567」のように記載しましょう。

相続人については、続柄と氏名・生年月日まで書くと特定が確実です。「長男 山田太郎(昭和○年○月○日生)」のように記載します。

自筆証書遺言の具体例とテンプレート

実際の書き方をイメージしやすいよう、具体例を見てみましょう。

基本的な記載例

シンプルな自筆証書遺言の例は次のようなものです。

遺言書サンプル
遺言書

遺言者 山田太郎は、次のとおり遺言する。

第1条 遺言者は、遺言者の所有する別紙財産目録1記載の不動産を、長男 山田一郎(昭和55年4月1日生)に相続させる。

第2条 遺言者は、別紙財産目録2記載の預貯金を、妻 山田花子(昭和25年3月10日生)に相続させる。

第3条 遺言者は、この遺言の遺言執行者として、弁護士 ○○○○を指定する。

令和7年5月12日

住所 ○○県○○市○○町○丁目○番○号
遺言者 山田太郎 ㊞

このように、誰に・どの財産を・どのように相続させるかを、明確に記載することがポイントです。

不動産を相続させる場合の書き方

不動産を相続させる場合は、登記事項証明書の記載とまったく同じ表記にします。

「土地」と「建物」は別の不動産として扱われるため、両方を相続させたい場合は両方を個別に記載してください。「自宅一式」のような表現では、特定不十分として無効になる恐れがあります。

マンションの場合は、敷地権の表示まで含めて記載する必要があります。複雑な場合は、登記事項証明書のコピーを財産目録として添付する方法が便利です。

預貯金を相続させる場合の書き方

預貯金は次のように特定します。

  • ○○銀行○○支店 普通預金 口座番号○○○○○○○
  • ○○信用金庫○○支店 定期預金 口座番号○○○○○○○

複数の口座を一人に相続させる場合は、すべての口座を列挙するか、財産目録にまとめて記載する形が分かりやすいでしょう。

遺言執行者を指定する場合の書き方

遺言執行者を指定しておくと、遺言の内容を確実に実現してもらえます。指定の文言は次のとおりです。

「遺言者は、この遺言の遺言執行者として、弁護士○○○○(東京弁護士会所属、住所○○)を指定する」

弁護士に依頼することで、相続人の負担を軽減し、トラブルが生じた場合の対応もスムーズに進められます。

自筆証書遺言が無効になりやすいNG例

実際に無効と判断されることの多いミスを確認しておきましょう。

パソコンで全文を作成した

「読みやすさを優先してパソコンで作成した」というケースが少なくありませんが、本文をパソコンで作成した遺言書は全体が無効になります。本文は必ず自筆で書きましょう。

財産目録だけはパソコンで作成可能ですが、本文と財産目録の区別を間違えると無効になります。

日付を「○月吉日」と書いた

「令和7年5月吉日」のように、日が特定できない記載は遺言書全体が無効になります。

「吉日」は風習として使われることもありますが、法的にはまったく機能しません。必ず「○月○日」と日まで特定して書いてください。

夫婦で1通の遺言を作成した

「夫婦の意思は同じだから」と1通の遺言書に夫婦で連名で書くケースがありますが、これは民法975条で禁止されている共同遺言にあたり、全体が無効になります。

夫婦であっても、遺言は1人ずつ別の用紙に書く必要があります。

財産の特定が不十分

「家は妻に」「貯金は子に」のような曖昧な記載は、財産が特定できないとして該当部分が無効になります。

不動産は登記事項証明書のとおり、預貯金は金融機関名・支店名・口座種別・口座番号まで明記してください。

訂正方法を誤った

訂正方法が法律の要件を満たしていない場合、訂正部分が無効となります。

具体的には、訂正印を押していない、変更内容を記載していない、署名がない、といったミスです。訂正箇所が多くなりそうなら、最初から書き直したほうが安心です。

ワンポイントアドバイス
自筆証書遺言は、本人が「これで完璧」と思っていても、専門家から見ると無効になりかねないミスが含まれているケースが少なくありません。完成したら必ず一度、相続に強い弁護士にチェックを依頼しましょう。数千円〜数万円の費用で、せっかくの遺言が無駄になるリスクを大幅に減らせます。

自筆証書遺言の保管方法

書き上げた遺言書を、いかに安全に保管するかも重要な問題です。3つの選択肢があります。

自宅で保管する場合の注意点

最も手軽なのは自宅での保管ですが、紛失・偽造・破棄のリスクは避けられません。自宅で保管する場合は、次のような工夫が有効です。

  • 金庫・貸金庫など施錠できる場所に保管する
  • 家族の中で信頼できる人に保管場所を伝えておく
  • 遺言の存在自体は家族に知らせておく
  • 定期的に存在を確認する

「誰にも気づかれない場所」を選ぶと、本当に誰にも発見されないリスクがあります。少なくとも1人は信頼できる人に保管場所を伝えておきましょう。

法務局の遺言書保管制度を活用する

2020年7月から始まった法務局の遺言書保管制度は、自筆証書遺言の保管問題を大きく解決します。

メリットは次のとおりです。

  • 紛失・偽造・破棄のリスクを完全に排除できる
  • 形式面の最低限のチェックを法務局が行う
  • 遺言者の死亡後、家庭裁判所の検認手続きが不要
  • 相続人への通知制度がある

費用は1通3,900円で、保管期間は遺言者の死亡後50年間です。原本に加え、画像データも150年間保管されます。

利用するには、申請者本人が法務局に出向く必要があり、本人確認も厳格に行われます。遺言の偽造を疑われる余地もなくなるため、相続トラブル防止に極めて効果的です。

弁護士に保管を依頼する

遺言書の作成を弁護士に相談した場合、そのまま弁護士事務所で保管してもらうことも可能です。

弁護士に保管を依頼するメリットは、遺言者の死亡時に確実に内容が実現される点と、遺言執行までワンストップで任せられる点にあります。

費用は事務所によりますが、年間数千円〜数万円程度が相場です。法務局の保管制度と組み合わせて、遺言書の写しを弁護士に預けておく方法も実用的です。

遺言者の死亡後に必要な手続き

遺言者が亡くなった後、自筆証書遺言を発見した家族が取るべき手続きを確認しておきましょう。

遺言書の検認手続き

法務局保管以外の自筆証書遺言は、家庭裁判所での検認手続きが必要です。

検認は、遺言書の存在・形状・状態を相続人全員に確認させ、後の改ざんを防ぐ手続きです。家庭裁判所が遺言書の内容を有効と認定する手続きではない点に注意してください。

検認の手続きの流れは次のとおりです。

  1. 遺言書発見者または保管者が家庭裁判所に検認の申立てを行う
  2. 家庭裁判所が相続人全員に検認期日を通知する
  3. 検認期日に出席した相続人の前で遺言書を開封・確認する
  4. 検認調書が作成される
  5. 申立人が「検認済証明書」の発行を受ける

検認には1〜2ヶ月程度かかります。検認済証明書がないと、不動産の名義変更や預貯金の解約手続きに支障が出るため、早めに進めることが重要です。

検認を経ない場合のペナルティ

検認を経ずに遺言を執行した場合、5万円以下の過料が課される可能性があります(民法1005条)。

ただし、検認を怠ったからといって遺言自体が無効になるわけではありません。とはいえ、相続手続きの実務上はほぼ確実に支障が出るため、検認は省略せずに行いましょう。

遺言書を発見した場合の対応

自宅などで自筆証書遺言を発見した場合、開封せずにそのまま家庭裁判所に持ち込むのが原則です。封がされている遺言書を勝手に開封すると、5万円以下の過料の対象になります。

ただし、開封してしまっても遺言自体が無効になるわけではないので、慌てる必要はありません。すみやかに検認の申立てを行いましょう。

自筆証書遺言を確実に有効なものにするための弁護士活用法

自筆証書遺言は手軽に作れる反面、無効リスクが高い遺言形式です。弁護士のサポートを受けることで、リスクを大幅に減らせます。

事前の内容チェックを依頼する

完成した自筆証書遺言を、弁護士に事前にチェックしてもらう方法があります。

弁護士は、形式の不備、内容の曖昧さ、解釈の余地が生じる表現などを指摘してくれます。修正方法のアドバイスも具体的に受けられるため、無効リスクを大幅に減らせます。

費用は事務所によりますが、チェックのみなら数千円〜数万円程度で済むケースが多いです。せっかくの遺言を無駄にしないための投資と考えれば、決して高い費用ではありません。

遺言執行者として指定する

遺言書の中で、弁護士を遺言執行者に指定しておく方法も有効です。

遺言執行者は、遺言の内容を実現する責任を負います。弁護士なら、相続人間でトラブルが起きた場合の対応や、複雑な手続きも円滑に進められるため、遺言の実現がスムーズになります。

家族を遺言執行者に指定すると、他の相続人との対立に巻き込まれる恐れがあります。中立的な立場で動ける弁護士に任せたほうが、家族の負担も軽減されます。

付随する相続対策もまとめて相談する

遺言書の作成は、相続対策の一部に過ぎません。生前贈与、遺留分対策、相続税対策、事業承継など、考えるべきことは多岐にわたります。

弁護士に相談すれば、これら全体を見渡したうえで、最適な相続戦略を提案してもらえます。「遺言だけ作って終わり」ではなく、総合的な対策を講じることで、本当の意味で家族にとって望ましい相続を実現できるのです。

ワンポイントアドバイス
自筆証書遺言を作成するなら、最低限の費用で済ませたい気持ちは理解できます。それでも、一度は相続に強い弁護士のチェックを受けることを強くおすすめします。弁護士費用を惜しんで遺言が無効になれば、本来渡したかった相手に財産が渡らず、相続争いまで起きかねません。「数万円の費用と数千万円の財産の行き先」を天秤にかけて、賢い判断をしてください。

まとめ

自筆証書遺言は、紙とペンさえあれば誰でも作成できる手軽な遺言書です。費用がかからず、内容を秘密にでき、いつでも修正できるという大きなメリットがあります。

一方で、形式不備や内容の曖昧さによって無効になりやすい、偽造・紛失のリスクがある、家庭裁判所の検認が必要、といったデメリットも存在します。2019年の民法改正で財産目録のパソコン作成が可能となり、2020年からは法務局の保管制度がスタートしたことで、利便性と安全性は大きく向上しました。

読者の方が自筆証書遺言の作成を検討しているなら、本記事で紹介した6つのルールを守り、無効になりやすいNG例を避けることから始めましょう。財産規模が大きい場合や家族関係が複雑な場合は、公正証書遺言との比較検討も忘れずに行ってください。

何より大切なのは、専門家のサポートを受けることです。相続に強い弁護士に一度相談すれば、自筆証書遺言の選択が本当に最適か、内容に問題がないか、付随する対策は十分かを総合的に判断してもらえます。早めの行動が、家族にとって望ましい相続を実現する第一歩となります。

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