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家庭裁判所での遺産分割~審判・調停手続きの実際
この記事で分かること
- 遺産分割は、相続人同士の話し合いだけで決まるのが、ベストである。
- 家庭裁判所では、審判よりも調停で解決するほうがベターである。
- いずれの方法をとるにせよ、まずは法律専門家である弁護士に相談することが、解決への第一歩である。
遺産分割は、まず相続人同士の話し合いを行い、それでだめなら家庭裁判所での手続、というのが通常の解決の流れです。それには、法律知識と情報収集能力が必要です。遺産分割前に行う、相続人と遺産範囲の確定という作業は、特にそうです。弁護士という頼れる専門家を味方に付けることで、そうした難関を乗り切ることができます。
目次[非表示]
遺産分割は、財産を大切に守っていくためのもの
たとえば、Aさんという男性が亡くなったとします。生前のAさんは、自宅とその敷地、総額500万円の預貯金をそれぞれ所有していました。Aさんは亡くなったので、もはやこれらの財産の所有者ではありません。所有権をはじめとする権利や義務を持つことができるのは、生まれてから亡くなるまでというのが、民法の原則です。かといって、これらの財産が誰のものでもなくなるということになると、財産には誰も手をつけることができなくなり、Aさんが築き上げた家と敷地は朽ち果て、預貯金も金融機関の金庫に眠ったままになってしまいます。これではAさんは浮かばれず、草葉の陰で嘆き悲しむことになるでしょう。のみならず、財産の有効活用という社会的な目線から考えても、とてももったいないことです。
財産を受け継ぐことが、相続ということ
そこで、これらの財産を、Aさんと一定の関係のある人に受け継いでもらい、こうした不都合をなくそうというのが、民法が定める相続という制度です。これは、財産を受け継いだ人の生活を充実させ、安定させることにもつながります。(法律は、具体例に基づいて学ぶと、理解しやすいです。以下では、しばしばABCDEが登場して、皆さんの理解のお手伝いをしていきます。)
遺産分割は、まず話し合いから
相続人が全員そろい、遺産もAさんの物であったことがはっきりしたところで、遺産分割の開始となります。遺産分割は、後々の円満な親族関係を保つために、共同相続人同士の話し合いによって決めるのが理想的といえます。BCDEが集まって、Aさんへの思い、Aさんにしてあげたことやしてもらったこと、それぞれの生活状況など諸々のことを話しながら、遺産である自宅・敷地・預貯金をどのように分けるかを話し合うのです。分け方はまったくの自由で、相続分は関係なく、たとえばBがすべてをもらう、あるいはCはまったくもらわないといった分割でもかまいません。
話がまとまったら、遺産分割協議書を作ろう
遺産分割の仕方が決まったら、これを「遺産分割協議書」という書類にまとめます。「遺産分割協議書」は、金融機関に持っていって預貯金の払い戻しを受けたり、登記所に行って登記申請書と一緒に提出するという形で使われます。
話し合いがまとまらないときは、家庭裁判所へ
BCDEの言い分が折り合わず、話し合いがまとまらない場合は、BCDEのうちの誰からでも、家庭裁判所に遺産分割の申立てをすることができます。この申立てには、審判の申立てと調停の申立ての2通りがあります。審判とは、裁判官の判断で遺産分割を決める手続です。調停とは、裁判所が間に入っての話し合いによって遺産分割を決める手続です。どちらを申し立ててもかまいません。
できれば、調停で解決を
審判の申立ては、Aさんの亡くなった時の住所地を担当区域とする家庭裁判所、またはBCDE全員で決めた家庭裁判所に対して行います。ただ、遺産分割は、親子・兄弟姉妹など、血縁関係にある人たちの間で行われます。この関係は、他人同士の関係とは異なり、一生付いて回る関係です。裁判官の判断で分割方法を決める審判に対しては、多かれ少なかれ、誰かしらの不満が生じ、血縁関係にしこりを残すものです。それに対して調停は、相続人全員の合意によって成立するものなので、こうしたリスクは少なくなります。そこで、家庭裁判所の実務では、受付段階でなるべく調停の申立てを促し、審判の申立てがなされた場合でも、裁判官の判断により、調停に回されることがほとんどです。
調停の申立人以外は、みな相手方
遺産分割調停の申立ては、BCDEのうちであれば、人数を問わず、誰が「申立人」になってもかまいません。申立人以外の人は、自動的に「相手方」となります。申立ては、相手方の住所地を担当区域とする家庭裁判所(したがって、これがいくつかの裁判所に分かれるときは、そのいずれかの裁判所)、またはBCDE全員で決めた家庭裁判所に対して行います。申立書および添付書類(遺産目録、当事者目録、弁護士への委任状など)の他に、被相続人1人につき1200円分の収入印紙と、申立人・相手方双方への通知用の郵便切手(内訳は、裁判所によって異なります。)が必要です。
調停を進めるのは、調停委員会
申立てがなされると、担当の裁判官が決められ、裁判官に付く裁判所書記官の下に申立書類一式(家事調停事件記録。関係書類の一まとまりを、「事件記録」といいます。)が配付されます。書記官から裁判官へ記録が提出され、裁判官が記録を読んだ後に、裁判官によって2名以上の担当調停委員が選任されます。選任に当たっては、離婚などの男女関係を扱う調停では、公平を期すために、調停委員は男女一組の形で選ばれることが普通です。これに対して、遺産分割のように財産関係を扱い、しかも専門知識を必要とする調停では、弁護士が調停委員のひとりとして選ばれることが多いです。
調停委員会の仕事
こうして結成された裁判官と調停委員の計3名以上からなるグループを「調停委員会」といいます。調停委員会は、BCDEの間に立って(といっても、BCDEが一同に会するわけではなく、調停委員会がBCDEひとりひとりと話しをするという形です。)、さまざまな提案をするなどして、BCDE全員の合意によって遺産分割の仕方が決まることを目指します。
調停がうまくいく場合と、うまくいかない場合
話がまとまった場合
遺産分割について最終的な合意がなされると、調停委員会、BCDE全員、および裁判所書記官が一同に会し、裁判官より調停の成立が宣言され、合意の内容が述べられます。これを裁判所書記官が聞き取り、家事調停調書という書類にまとめます。この調書に基づいて、預貯金の払い戻しや不動産登記が行われることになります。
話がまとまらなかった場合
最終的に合意に至らなかった場合には、裁判官が「調停不成立」を宣言し、自動的に、審判の手続に移ります。審判では、裁判官が、BCDEそれぞれの言い分を聞き、遺産の状況について調べ、BCDEのAさんとの生前の関係、BCDEそれぞれの生活状況など諸々の事情を把握します。これらを総合的に考えて、最も公平と思われる遺産分割の仕方を「審判」という形で決定します。この決定に不服のある相続人は、上級の裁判所に不服申立てをすることができます。
家庭裁判所での遺産分割調停・審判の流れ
家庭裁判所での遺産分割調停・審判の流れをフローチャートにすると、以下の通りです。
- 遺産分割の
審判申立て or 調停申立て
↓ - 調停に付する決定
↓ - 審判手続 or 調停手続
↓ - 審 判 or 調停不成立 or 調停成立
↓ - 不服申立て
審判と調停の比較
審判 | 調停 | |
---|---|---|
申立人 | 共同相続人のいずれか | 左に同じ |
相手方 | 申立人以外の相続人全員 | 左に同じ |
申立先 | 亡くなった方の最後の住所地を担当区域とする家庭裁判所 | 相手方の住所地を担当区域とする家庭裁判所 |
申立時にかかる費用 | ①調停費用 亡くなった方一人につき収入印紙1200円分 ②通知用の郵便切手(裁判所によって異なる) |
左に同じ |
家裁の担当者 | ①裁判官、裁判所書記官 ②複雑なケースでは、家庭裁判所調査官も関与 |
①調停委員会(裁判官、2名以上の家事調停委員) ②複雑なケースでは、家庭裁判所調査官も関与 |
終わり方 | 裁判官による審判 | 成立または不成立 (不成立の場合は、自動的に、審判手続に移る) |
不服申し立て | できる(他人(裁判官)が決めたことだから) | できない(自分で決めたことだから) |
遺産分割で悩んだら、裁判所の前にまず弁護士に相談を
これまでは、話を分かりやすくするために、Aさんの遺産はプラスの財産だけで、相続人も妻Bと子どもCDEという単純な例でお話ししました。
実際は、とても複雑なケースが多い
現実には、借金などのマイナス財産を残して亡くなる方もいます。マイナスの財産も、遺産です。プラスとマイナスの財産がゴチャ混ぜで、整理するのにひと苦労するケースもあります。相続人が孫やひ孫まで含めて大勢いたり、自分はAさんから認知されていたという人が現れたり、愛人に遺産の一部を与えるという内容の遺言が見つかったりということもあります。
まずは、弁護士に相談しよう
このような複雑なケースでも、法律に則って、きちんとした遺産分割をしなければなりません。それには、民法だけでなく、戸籍法、不動産登記法などの関係法令の知識が必要です。情報を収集し整理する能力も必要です。法律にさほど明るくなく、情報の収集整理の経験にも乏しい一般の方にとっては、かなりの難題です。したがって、法律に明るく、情報の収集整理の経験も豊かで、裁判所の手続にも精通し、しかも相手方との交渉にも長けた専門家に任せるのが、一番よい方法といえます。その専門家こそが、弁護士です。
弁護士に任せるメリットは、たくさんある
確かに、弁護士を頼めばお金がかかります。しかし、弁護士に任せることで、自分だけで遺産分割調停に臨んだ場合に費やされる多大な時間と労力を節約できます。精神的負担も軽減できます。専門家に任せているという「安心感」も持てます。したがって、弁護士に支払うお金も、決して、過ぎた出費とはいえないでしょう。
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