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子どもがいない夫婦の相続~財産分与・遺言書準備における注意点

この記事で分かること

  • 子どもがいない夫婦の一方が亡くなると、子供に行くべき遺産は次順位の相続人が相続する。
  • 残された配偶者に多くの財産を残す方法が、遺贈である。
  • 遺贈は、遺留分を持つ人から財産の返還を迫られる場合がある。
  • 遺言の書き方には厳しい決まりがあり、これを守らないと有効な遺贈ができない。
  • 子供のいない夫婦が相続のことで悩んだら、まず弁護士に相談することが一番である。

子供のいない夫婦が、自分亡き後、なるべく多くの財産を、長年連れ添った配偶者に残したいと思ったら、遺言による財産分与が一番です。ただ、遺言の方式は厳格で、一つ間違えば遺言は無効となります。遺留分権者から遺産の返還を求められることもあります。子供がいない夫婦が相続問題で悩んだら、まず弁護士に相談するのが一番です。

子供がいない夫婦の相続

子供がいない夫婦の一方が財産を残して亡くなった場合、その遺産は、誰の下に行くのか。これが、子供がいない夫婦の相続という問題です。

子供がいない夫婦の相続の問題は、大きく2つに分けることができます。ひとつは、子供がいない夫婦の夫が財産を残して亡くなった場合、子供がいたとしたら子供に行くはずの遺産は、誰の下に行くのかという問題です。

もうひとつは、子供がいない夫婦の夫が、妻になるべくたくさんの財産を残したいと思ったとき、夫はどんな手を打てばよいかという問題です。

この記事では、この2つの問題について、解説します。なお、妻が夫を残して亡くなるケースもありますが、多くの場合、妻より夫のほうが遺産の額が多いことから、ここでは夫が亡くなったケースで考えることにします。

ワンポイントアドバイス
子供のいない夫婦の夫が財産を残して亡くなった場合、その財産はすべて、残された妻の物になると思いがちです。「妻だって夫の財産作りに協力したであろうから、子供の分も妻がもらって当然。」。普通の感覚からすれば、そう考えるのも無理はありません。しかし、法律はそのように考えません。相続についての法律は、とても複雑で難しいものです。法律に不慣れな人が理解するには、大変な苦労を伴います。子供がいない夫婦の相続については、法律の専門家である弁護士に相談するのが一番です。

子供がいない夫婦の夫が亡くなった場合

子供がいないとは、どのような場合をいうのでしょうか。ここでは、父親の遺産を受け継ぐ子供がいないことが問題となっています。従って、子供がいないとは、遺産を受け継ぐ資格、つまり相続権のある子供がいない場合ということになります。

相続権のある子供とは、実子のうちの嫡出子および認知された非嫡出子、ならびに養子をいいます。相続権のない子供とは、認知されていない非嫡出子をいいます。

従って、子供がいないとは、嫡出子、認知された非嫡出子、養子のいずれもいない場合をいいます。
  

法定相続人

子供がいない夫婦の夫が亡くなった場合、誰が法定相続人として、亡夫の遺産を受け継ぐのでしょうか。

子供の有無に関係なく、妻は常に相続人となります。

ここでいう「妻」は、法律上の妻、すなわち婚姻届をして法律上の夫婦となった場合の妻をいいます。  

内縁の妻、すなわち事実上は夫婦同様の関係にあるけれども、婚姻届をしていないために法律上の夫婦となっていない場合の妻は、法定相続人とはなりません。内縁の妻を相続人とした場合、内縁関係にあることをはっきりさせるのに時間がかかり、遺産分割が遅れ、他の相続人が迷惑するからです。

夫の親や祖父母

亡夫の親が健在なら、親が相続人となります。亡夫の両親ともに故人で、亡夫の祖父母が健在なら、祖父母が相続人となります。親も祖父母も健在なら、亡夫と世代の近い親が相続人となります。

妻と、亡夫の親または祖父母とで、共同相続人になります。

兄弟

亡夫の両親および祖父母ともに故人なら、亡夫の兄弟姉妹が相続人となります。兄弟姉妹が複数のときは、全員が同順位で相続人になります。

妻と、亡夫の兄弟姉妹とで、共同相続人になります。

甥姪

亡夫の兄弟姉妹の中に、亡夫よりも先に亡くなった人がいるとき、その亡くなった兄弟姉妹の子供、つまり亡夫の甥や姪が相続人になります。これを、代襲相続といいます。甥姪は、亡夫の他の兄弟姉妹と同順位で相続人になります。

妻と、亡夫の兄弟姉妹および姪甥とで、共同相続人になります。

「笑う相続人」になることも

自分のおじ(伯父・叔父)さんが亡くなったとき、悲しむ甥姪とそうでない甥姪とがいます。生前のおじさんと楽しい思い出のある甥姪は、おじさんの死を悲しむことでしょう。おじさんとの生前の付き合いがほとんどなく、これといった思い出もなければ、おじさんの死に涙ひとつ流さない甥姪となることでしょう。

代襲相続人となった甥姪は、おじさんの死を悲しむか悲しまないかに関係なく、その遺産を手にします。おじさんの死に涙ひとつ流すわけでもないのに、思わぬところから転がり込んだ遺産を手にして、心の中でほくそ笑んでいるであろう甥姪もいるはずです。このような相続人のことを、皮肉った表現で、「笑う相続人」と呼んだりします。

法定相続分

子供がいない夫婦の夫が亡くなった場合、法定相続人の相続分は次のようになります。

妻と、亡夫の親または祖父母が法定相続人の場合

妻と、亡夫の親または祖父母の相続分は、次のとおりです。

  • 妻の相続分は、3分の2です。
  • 亡夫の親または祖父母の相続分は、3分の1です。亡夫の両親ともに健在なら、相続分3分の1を両親が折半します。祖父母の場合も、同様です。

妻と、亡夫の兄弟姉妹が法定相続人の場合

妻と、亡夫の兄弟姉妹の相続分は、次のとおりです。

  • 妻の相続分は、4分の3です。
  • 亡夫の兄弟姉妹の相続分は、4分の1です。兄弟姉妹が複数いるときは、4分の1を人数で割ったものが兄弟姉妹それぞれの相続分となります。

甥姪

代襲相続人である甥姪の相続分は、亡くなった兄弟姉妹、つまり甥姪の親の相続分と同じです。

妻がなるべく多くの遺産をもらうには

夫婦間に子供がいないために、亡夫の親や兄弟姉妹が法定相続人となる場合、「夫に大したこともしてくれなかった義父母や義兄弟姉妹が、なぜ夫の遺産をもらえるのか。」と憤る妻もいることでしょう。こうした場合、妻がなるべく多くの遺産を手にする手立てはあるのでしょうか。

相続人の資格を奪うことは、原則として、できない

誰が相続人になるかは、法律によってはっきりと定められています。相続人の正式な呼び名を法定相続人というくらいです。義父母や義兄弟姉妹から、相続人の資格を奪うことは、原則としてできません。

遺産分割協議での交渉

妻は、義父母や義兄弟姉妹との間での遺産分割協議に臨むことになります。遺産分割協議では、法定相続分は一応の目安であり、きっちり法定相続分のとおりに分けなければならないものではありません。協議の中で、自分が亡夫に尽くしてきたこと等を話し、交渉することで、義父母や義兄弟姉妹が折れ、妻が法定相続分以上の遺産を手にすることができる場合も考えられます。

相続放棄の交渉

遺産分割協議の前に、義父母や義兄弟姉妹に自分が亡夫に尽くしてきたこと等を話し、相続放棄をしてもらうように交渉する方法も考えられます。義父母と義兄弟姉妹ともに相続放棄をしてくれれば、相続人は妻だけとなりますから、遺産分割協議を経ずに、亡夫のすべての遺産を手にすることができます。

ワンポイントアドバイス
法定相続人であっても、財産を残した人(被相続人)を殺害したりした人は、相続欠格に該当します。被相続人を虐待したりした人は、家庭裁判所から相続人廃除の審判を受けることがあります。相続欠格に該当し、または家庭裁判所から相続人廃除の審判を受けた人は、法定相続人の資格を失います。これらの要件に当てはまるかどうかの判断、および家庭裁判所での手続には、専門的な法律知識と実務経験が必要です。ある法定相続人について相続欠格または相続人廃除の可能性を疑ったら、まず弁護士に相談しましょう。

子なし夫婦の財産分与における遺言の有効

遺産分割協議や相続放棄の交渉は、妻の思うようにいくとは限りません。共同相続人の中には、自分は法定相続人として法律が認めた相続分があることを盾に、法定相続分どおりの遺産分割を求めたり、相続放棄を断固拒否したりする人がいることも十分に予想できます。

法定相続人の資格や法定相続分に関係なく、妻になるべく多くの遺産を与える方法はないのでしょうか。

遺言で妻に多くの財産を分与する

法定相続人の資格や法定相続分とは別の次元で、妻に遺産を与える方法があります。遺言による財産分与という方法です。これを、遺贈といいます。

遺贈により、妻に、その法定相続分以上の遺産を与えることもできます。妻に全財産を与えるという遺贈も可能です。

配偶者に税額軽減措置あり

妻が遺贈によって手にした財産に掛かる相続税については、税額の軽減措置があります。まず、妻が手にした遺産の額が1億6,000万円までであれば、相続税が掛かりません。また、妻が手にした遺産の額が1億6,000万円を超えても、法定相続分で計算した金額までは、相続税が掛かりません。

妻の生活を保障すること、妻も亡夫の財産作りに協力したであろうということが、軽減措置の目的と理由です。

贈与税は相続税よりも高税率

夫は、自分が健在のうちに、妻に自分の財産を与えることもできます。これを、生前贈与といいます。

贈与税の税率は、相続税の税率よりも高く設定されています。自分が健在のうちに財産を贈与して、相続税の支払いを免れることを防ぐためであるといわれています。従って、原則として、生前贈与よりも遺贈の方が、節税になるということができます。

一方で、生前贈与の時点では贈与税は課税されず、相続の時点で、生前贈与された財産も含めて相続税が計算されるという制度もあります。この制度を利用することにより、遺贈よりも生前贈与の方が節税になる場合もあり得るといわれています。

生前贈与と遺贈のどちらが節税になるかは、ケースバイケースです。税に詳しい弁護士または税理士に相談することをお勧めします。

家族以外へも財産分与できる

夫は、法定相続人以外の人に、遺贈をすることができます。遺贈は、遺言者の自由な意思に基づく財産の分与です。遺贈の相手を誰にするかについても、法定相続人に限らず、遺言者が自由に決めることができます。

遺留分を主張されると返還義務も

夫は、遺言によって、妻に全財産を遺贈することができます。妻は、亡夫の全財産をもらえると喜びたいところです。しかし、事はそう簡単ではありません。遺留分という制度があるからです。

遺留分とは、遺産について、兄弟姉妹を除く法定相続人が必ずもらえるものとして保障された権利の割合をいいます。なお、兄弟姉妹に遺留分がない以上、その代襲相続人である甥姪にも遺留分はありません。

遺留分権者は誰?

法定相続人のうち、妻は遺産全部の遺贈を受けた、子供はいない、両親は健在、兄弟姉妹または甥姪はいるけれども法律により遺留分はなし、というケースで考えます。妻が遺留分を主張することはあり得ません。従って、遺留分を主張するのは両親のみということになります。

遺留分の割合は?

両親の遺留分を計算してみます。遺留分権者は妻と両親です(妻が遺留分を主張することはあり得ませんが、遺留分権者であることには変わりないので、遺留分の計算上は妻も加えます。)。遺留分は、妻と両親合わせて2分の1です。

この2分の1を妻と両親とに細分します。細分の割合は法定相続分と同じなので、妻が3分の2、両親が3分の1となります。従って、妻は全体的遺留分 1/2 ×細分割合 2/3 = 1/3 、両親は全体的遺留分1/2 ×細分割合1/3 = 1/6 の遺留分をそれぞれ持ちます。両親それぞれの遺留分は、6分の1を折半した12分の1ずつとなります。(仮に、両親の一方が故人であれば、健在の親が6分の1の遺留分を持ちます。)

両親はそれぞれ、遺産の12分の1についての遺留分を主張し、妻が全てもらった遺産の12分の1ずつを自分たち両親に返すよう請求することができます。

遺留分の主張ができなくなる時

両親が、息子が亡くなったこと、および息子が妻に遺贈したことの2つを知った時から1年が経つと、両親は遺留分の主張ができなくなります。息子が亡くなってから10年が経ったときも、同じです。夫の死去から何年も経って遺留分の主張をされたのでは、遺贈の処理も終わって安心して暮らしている妻として、たまったものではないからです。

遺言書の注意点

夫が妻に財産を遺贈する遺言書を作る際の注意点を、3つ紹介します。

3種類の遺言

遺言には、自筆証書遺言、公正証書遺言、秘密証書遺言の3種類があります。他に、危急時遺言と隔絶地遺言がありますが、特殊なケースにおける遺言ですので、ここでは触れません。

自筆証書遺言とは、遺言者が、遺言の全文・日付・氏名を直筆で書いた上、自分の印鑑を押すことで完成する遺言です。

公正証書遺言とは、遺言者が公証役場という役所に行って、公証人という公務員の前で遺言内容を話し、公証人がそれを公正証書という公の文書にすることで完成する遺言です。

秘密証書遺言とは、遺言者が遺言を封筒などに入れて閉じ目に印鑑を押し、それを公証役場に持って行って、公証人に、その封の中に遺言者の遺言が入っている旨の公正証書を作ってもらうことで完成する遺言です。

自筆証書遺言の注意点

自筆証書遺言は、公証役場に持って行く必要がなく、3種類のうちで最も手の掛からない遺言です。しかし、公証人が関わっていない分、作成には注意が必要です。

直筆であることが必要ですので、代筆・ワープロ・録音・ビデオなどで遺言を作っても、自筆証書遺言とは認められません。いずれも、本人以外の者の作成、または本人が作成したものに他人が手を加えることが可能だからです。

日付は、年月日すべてが必要です。遺言作成当時に遺言を書くのに十分な判断能力があったかどうか、遺言が複数あるときにどれが優先するか等が問題となるケースがあるからです。

他にも細かな注意点があります。遺言に詳しい弁護士に相談することをお勧めします。

「相続させる」遺言の意味

遺言の中で「誰々に相続させる」ということばが使われた場合、何を相続させるかによって、遺言の法律的な意味が違ってきます。以下、3つの書き方について、解説します。

「P土地をAに相続させる」というように、特定の遺産を特定の相続人に相続させると書かれた場合、原則として、遺産分割方法の指定であるとの最高裁判所の判断が示されています。

「私の遺産すべてをAに相続させる」というように、全部の遺産を特定の相続人に相続させると書かれた場合、遺産全部の遺贈であると考えられています。

「私の遺産の半分をAに相続させる」というように、遺産の割合を特定の相続人に相続させると書かれた場合、相続分の指定であると考えられています。

遺贈であれば、遺留分権者から遺留分を主張される可能性があります。遺産分割方法の指定または相続分の指定であれば、遺留分を主張されることはありません。遺産を与える相手を遺留分の主張から守るには、遺言の表現にも注意が必要です。

ワンポイントアドバイス
本文にあるように、遺言の書き方次第で、遺言が無効になったり、遺留分の主張をされたりします。遺言は、遺言者の意思が正しく表現され、しかも有効なものとして扱われなければなりません。遺言の書き方が分からないときは、決して自己流で書くのではなく、まず遺言に詳しい弁護士に相談しましょう。

独身者・子供も配偶者もいない場合の相続

配偶者も子供もいない独身者が財産を残して亡くなった場合、この財産の行方はどうなるのでしょうか。

独身者の親が健在であれば、親が相続人となります。親が故人であれば、独身者の祖父母が相続人となります。親または祖父母が、独身者の遺産すべてを相続します。

親も祖父母も故人であれば、独身者の兄弟姉妹が相続人となります。独身者よりも先に亡くなった兄弟姉妹については、その子供、すなわち独身者の甥姪が相続人となります。これを代襲相続といいます。兄弟姉妹または甥姪が、独身者の遺産すべてを相続します。

ワンポイントアドバイス
独身者は既婚者に比べて、配偶者がいない分、亡くなった時に法定相続人がいない確立が高くなります。法定相続人がいない場合、まず本当に法定相続人がいないのかどうかを家庭裁判所が調べます。法定相続人がいないことがはっきりした場合、故人と生計を共にしていた等、特別のつながりのある人(特別縁故者)は、一定の期間内に、家庭裁判所に対して、遺産の分与を求めることができます。一定の期間内に特別縁故者が現れない場合、遺産は国の物になります(国庫帰属)。

子供がいない夫婦・家族の相続は弁護士に相談を

子供がいない夫婦の相続では、子供に代わる相続人は誰か、配偶者になるべく多くの財産を残すにはどうしたらよいかが問題となります。

財産を残す人にとっては、遺言の書き方が一番大切です。有効な遺言になること、配偶者が遺留分の主張をなるべくされない遺言にすることが、ポイントです。

配偶者にとっては、他の法定相続人や遺留分権者との交渉をいかに有利に進めるかがポイントとなります。

これらの問題をクリアするには、相続についての法律知識および相手方との交渉力が必要となります。弁護士は、法律知識が豊富で、交渉力にも長けた専門職です。子供がいない夫婦・家族の相続については、まず弁護士に相談しましょう。

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