2020/9/7 266view

遺産の使い込みへの対処法~使われた預金・財産は返還請求可能

この記事で分かること
  1. 遺産の使い込みとは、一部の相続人などが遺産を勝手に自分のものにすることである。
  2. 預貯金の勝手な引き出しが、遺産使い込みの代表的パターンである。
  3. 遺産の使い込みは、遺産分割を妨げ、相続人間の対立を激化させる。
  4. 遺産の返還を話し合いで解決することは困難である。
  5. 遺産の返還は、不当利得返還請求または不法行為に基づく損害賠償請求として求めることができる。
  6. 遺産を取戻すには、遺産使い込みの証拠が決め手となる。
  7. 使い込み遺産を取戻すなら、まず弁護士に相談することが一番である。

一部の相続人などが遺産を勝手に独り占めすることが時として起こります。遺産の使い込みと呼ばれる行為です。他の相続人は遺産の返還を求めますが、これに応じないことがほとんどです。話し合い解決は難しく、裁判による解決となります。裁判では、使い込みの証明が決め手です。使い込み遺産の取戻しを考えるなら、まず弁護士に相談することから始めましょう。

遺産・相続財産の使い込みとは

本来、遺産・相続財産は相続人同士で分け合うべきものです。ところが時として、一部の相続人などが遺産・相続財産を勝手に自分のものにしてしまうことがあります。これを、遺産・相続財産の使い込みといいます。

この記事では、遺産・相続財産使い込みの実際の姿、および使い込まれた遺産・相続財産を取り返す方法について解説します。

ワンポイントアドバイス
遺産・相続財産を使い込むほどの人は、モラルや一般常識からかけ離れた感覚の持ち主であることがほとんどです。そうした人を相手に、使い込まれた遺産・相続財産を取り返すことは、決して容易なことではありません。高度な交渉力が求められます。その点、弁護士は法律的な交渉のプロです。高度な交渉力を身に付けています。使い込まれた遺産・相続財産を取り返したいと思ったら、まず弁護士に相談しましょう。

遺産・相続財産の使い込みでよくあるケース

遺産・相続財産の使い込みとは、具体的にどのようなことをいうのでしょうか。よくあるケースについて解説します。

預貯金の引き出し・使い込み

一部の相続人が、被相続人(遺産・相続財産を残して亡くなった人)の預貯金を勝手に引き出し、使ってしまうことは、遺産・相続財産の使い込みに当たります。使い込みとして最も多いケースです。

賃料の横取り

一部の相続人が、被相続人が経営していたアパートの住人から受け取った賃料を、そのまま自分のものにしてしまうことは、遺産・相続財産の使い込みに当たります。

生命保険の解約

一部の相続人が、被相続人が加入していた生命保険を勝手に解約して、解約返戻金を自分のものにしてしまうことは、遺産・相続財産の使い込みに当たります。

保有財産の処分

一部の相続人が、被相続人が所有する不動産や株式を勝手に売却して、代金を自分のものにしてしまうことは、遺産・相続財産の使い込みに当たります。

相続人以外の第三者による使い込み

相続人でない人が使い込みをすることもあります。同居している長男の妻(いわゆる嫁)がしゅうとしゅうとめの遺産・相続財産を使い込むケースのように、相続人以外の親族による使い込みが行われることがあります。

介護ヘルパーが訪問先の利用者の遺産・相続財産を使い込むケースのように、親族以外の者による使い込みが行われることもあります。

ワンポイントアドバイス
遺産・相続財産の使い込みには、さまざまなパターンがあります。使い込みパターンに応じた対処が必要です。使い込みをされた側の人は、ついつい感情的になり、冷静な判断ができなくなりがちです。遺産・相続財産の使い込みを疑ったら、まず弁護士に相談しましょう。トラブルパターンを冷静に分析して、それにふさわしい対処法をアドバイスしてもらえるでしょう。

遺産の使い込みがもたらすトラブル

遺産の使い込みは、どのようなトラブルを招くのでしょうか。最も深刻な2つのトラブルを紹介します。

遺産分割で受け取れる遺産の金額が減る

遺産の使い込みがあると、その分だけ、遺産分割する財産が減ってしまいます。その結果、各相続人の取り分が、本来もらえる分よりも少なくなってしまいます。相続人にとって酷な結果となります。

親族間での感情対立の激化

遺産の使い込みをした人は、他の相続人からすれば、勝手に遺産を持って行って得をした許せない存在です。使い込みをした人からすれば、自分がその分をもらって当然という、それなりの意識があります。ここに、使い込みをした人とされた人との間の、激しい感情対立が生じます。

ワンポイントアドバイス
遺産の使い込みという法律的トラブルの解決には、法律知識が不可欠です。両者の間に立って中立的な立場から、冷静に、解決への道筋を探る手続も必要です。こうしたニーズに応えられる存在が、弁護士です。遺産の使い込みがもたらすトラブルが起きたら、まず弁護士に相談しましょう。

遺産の使い込みが話し合いで解決しづらい理由

遺産の使い込みを話し合いで解決しようとする場合、使い込みをされた相続人は、使い込みをした人に対して、使い込み財産の返還を求めます。使い込みをした人が財産の返還に応ずれば、一件落着です。

しかし実際は、使い込みをした人が財産の返還に応じないことがほとんどです。それは、どのような理由によるものなのでしょうか。大きく3つの理由が考えられます。

当事者の使い込み意識の欠如

1つ目の理由は、使い込んだ人に使い込みの意識がないことです。

特に、被相続人と同居している、または同居していた、あるいは、被相続人を介護している、または介護していた人は、使い込み意識が薄れがちです。同居や介護の苦労の見返りに、「このくらいもらってもいいだろう」という意識を抱きがちです。「使い込みをしている」「悪いことをしている」という意識とはほど遠いものです。

使い込み意識のないところに、「使い込みをしている」と責められることで、逆に心情を害され、返還に応じない気持ちに拍車をかける結果となってしまいます。

被相続人との同居・介護・生活費を口実にした正当化

2つ目の理由は、使い込んだ人が、被相続人との同居・介護・生活費支出を口実に、自らの正当性を積極的に主張することです。

「私は、親と同居し、介護し、生活費を支出している。親についてもお金がかかる。私の財産だけでなく、親の財産も使うのは当然だ。」と、自らの正当性を主張します。さらには、「お前たちは、親に何もしていないではないか。そんなお前たちから使い込み呼ばわれされるいわれはない。」と、相手方の親への無関心を非難します。いずれも、返還に応ずるのとは正反対の気持ちです。

こうした主張や非難に対して、使い込みをされた側も態度を硬化させ、対立は深まります。

使い込みへの疑念が晴れない

3つ目の理由は、使い込みをされた側の疑念が晴れないことです。

使い込みをされた側は、最初の使い込みを知ると、他にも使い込みがあるのではないかと疑います。使い込みを知った相続人の自然な心理です。それが、相手に対する「他にも使い込みをしているんだろう」という攻撃につながります。警察捜査における余罪追及の如しです。

他の使い込みのない相手からすれば、濡れ衣もいいところです。心外極まりない気持ちになります。財産の返還に応ずる気持ちは、ますます遠ざかります。

ワンポイントアドバイス
使い込み遺産の取り返しは、話し合いで解決されるのがベストです。しかし、当事者同士だけだと、互いに感情的になり、解決は期待できないことがほとんどです。そこで、弁護士に間に入ってもらうのもひとつの方法です。感情的になっている当事者をなだめながら、法律に則った、両者が妥協できる解決案を考えてもらえるメリットがあります。使い込み遺産の取り返しを話し合いで解決したいと思ったら、まず弁護士に相談してみましょう。

遺産の使い込みへの正しい対処法は?

判例は、遺産の使い込みへの対処法として2つ方法を認めています。不当利得返還請求と不法行為に基づく損害賠償請求です(最高裁平成16年4月20日判決)。

遺産の使い込みをされた人は、不当利得返還請求または不法行為に基づく損害賠償請求という形で、使い込み遺産の返還を求めることができます。

それぞれの方法について解説します。

不当利得返還請求

不当利得とは、法律が認めた理由もないのに他人の財産を勝手に自分のものにすることにより、他人の財産を損なう行為をいいます。

不当利得によって財産を損なわれた人は、利得を得た者に対して、利得の返還を求めることができます。これが、不当利得返還請求です。

遺産の使い込みは、法律が認めた理由もないのに他人の遺産を勝手に自分のものにすることにより、他人の遺産を損なう行為です。不当利得に当たります。使い込みによって遺産を損なわれた人は、使い込んだ者に対して遺産の返還を求めることができます。不当利得返還請求に当たります。

不当利得返還請求権には時効がある

不当利得返還請求権には時効があり、一定の期間が経つと消滅してしまいます。この期間を、消滅時効期間といいます。不当利得返還請求権の消滅時効期間は、不当利得があった時から10年間です。使い込みの場合でいえば、遺産の使い込みがあってから10年間です。

不法行為に基づく損害賠償請求

不法行為とは、わざとまたはうっかり、社会的に許されない方法で、他人に損害を与える行為をいいます。

不法行為によって損害を受けた人は、不法行為を行った者に対して、損害賠償を求めることができます。これが、不法行為に基づく損害賠償請求です。

遺産の使い込みは、わざと、社会的に許されない方法で、相続人に損害を与える行為です。不法行為に当たります。使い込みによって損害を被った人は、使い込んだ者に対して損害賠償を求めることができます。不法行為に基づく損害賠償請求に当たります。

不法行為に基づく損害賠償請求権の消滅時効

不法行為に基づく損害賠償請求権も、不当利得返還請求権と同様、一定の期間が経つと消滅してしまいます。これも消滅時効期間です。

不法行為に基づく損害賠償請求権の消滅時効期間は、被害者が損害と加害者を知った時から3年間です。使い込みの場合でいえば、被相続人または相続人が、遺産の使い込みの事実および使い込みをした者を知ってから3年間です。

ワンポイントアドバイス
不当利得返還請求権と不法行為に基づく損害賠償請求権の大きな違いは、消滅時効期間の長さです。不当利得返還請求権の消滅時効期間の方が長いので、遺産の使い込みから長期間経ってからの返還請求であれば、不当利得返還請求の方が効果的といえます。その他の点、たとえば請求する内容、相手の使い込みを立証する難しさについては、ほとんど同じです。

遺産・財産使い込みの証拠と証明方法

相手が遺産・財産の使い込みを認めない場合、遺産の返還を求めるには、使い込みがあった事実を証明しなければなりません。どのような証明方法があるのでしょうか。

まず、使い込みを裏付ける2つの事柄を解説します。次に、2つの事柄を証明する証拠について解説します。

使い込みを裏付ける2つの事柄

使い込みを裏付ける事柄として、払い戻しの額・頻度・時期、および被相続人の判断能力の2つが考えられます。それぞれについて解説します。

払い戻しの額・頻度・時期

金融機関から被相続人のお金が払い戻された場合、払い戻しの額・頻度・時期が、使い込みを裏付ける事柄となります。

払い戻しが高額または頻繁である場合、使い込みがあったことが裏付けられます。高齢者である被相続人の生活に多額のお金は必要ないのが普通だからです。

被相続人の死亡直前または死亡後の払い戻しがあった場合、使い込みがあったことが裏付けられます。被相続人が死亡直前にお金を必要とすることはなく、死亡後の払い戻しは相続人の共有下にあるお金を勝手に払い戻したことになるからです。

被相続人の判断能力

被相続人の生前、金融機関からお金が払い戻された場合、被相続人の判断能力が使い込みを裏付ける事柄となります。

払い戻しがされた当時、被相続人が重度の認知症などのため、お金が必要かどうか、いくら位のお金が必要か、払い戻すにはどんな方法をとったらよいかなどについて正しく判断できなかったとしたら、使い込みがあったことが裏付けられます。被相続人がきちんとした払い戻し手続をすることは想定できないからです。

使い込み内容を証明する証拠

被相続人のお金が金融機関から払い戻された事実を証明するには、預貯金の通帳、取引履歴、解約請求書類が有力な証拠となります。

預貯金通帳

払い戻しの事実は、預貯金通帳に必ず記帳されます。払い戻しの記帳があることで、払い戻しがなされたことが証明されます。

預貯金の取引履歴

預貯金通帳が見当たらないときは、金融機関から預貯金の取引履歴を入手しましょう。取引履歴とは、預貯金の入出金の経過を記録したものです。

取引履歴に払い戻しの記載があれば、払い戻しがなされたことが証明されます。

預貯金の解約請求書類

預貯金が解約された場合、取引履歴を明らかにしない(開示しない)金融機関があります。預貯金が解約された後は取引履歴を開示しなくてもよい場合があることを認めた裁判例もあります(平成23年8月3日東京高裁判決)。

こうした場合、預貯金の解約請求書類の写しを入手する必要があります。解約請求書類には預貯金を解約して払い戻しを受ける意思が記載されるので、払い戻しがなされたことが証明されます。

被相続人の判断能力を裏付ける証拠

払い戻し当時、被相続人に判断能力がなかったことについて、医療記録と介護記録が有力な証拠となります。

カルテ・診断書などの医療記録

病院や開業医などの医療機関が作成するカルテ・診断書などの医療記録が、被相続人の判断能力についての証拠になります。

医療記録に、被相続人が重度の認知症であるなどの医師の所見が記載されていれば、払い戻し当時、被相続人には正常な判断能力がなかったことが証明されます。

介護記録

老人ホームやデイサービスセンターなどの介護施設が作成する介護記録も、被相続人の判断能力についての証拠になります。

介護記録に、被相続人の重度な認知症などの症状を示す行動が記載されていれば、払い戻し当時、被相続人には正常な判断能力がなかったことが証明されます。

証拠の確保が使い込み立証のカギに

有力な証拠である預貯金の取引履歴や解約請求書類、医療記録や介護記録は、どのように入手したらよいのでしょうか。

取引履歴については、戸籍謄本など相続人であることを示す書類を提出すれば、金融機関は取引履歴を明らかにしなければならないという最高裁判所の判例があります(最高裁平成21年1月22日判決)。

解約請求書類については、取引履歴の場合のように、金融機関の開示義務を認めた判例はありません。しかし、戸籍謄本など相続人であることを示す書類を提出すれば、解約請求書類の写しがもらえる金融機関があります。それ以外の金融機関については、解約請求書類の開示交渉となります。

医療記録と介護記録については、医療機関や介護施設の開示義務を認めた判例はないので、開示交渉となります。

ワンポイントアドバイス
機関・施設によっては、個人情報保護を理由に、証拠となる書類や記録の開示を拒むケースもあります。その点、弁護士は交渉のプロです。機関・施設に対し、法律を根拠に、書類や記録を開示する必要性を筋道立てて説明してくれます。開示の可能性が高まります。使い込みの証拠が必要になったら、まず弁護士に相談しましょう。

遺産・相続財産の使い込みを巡るトラブルは、弁護士に相談を

使い込まれた遺産・財産を取り返すことが話し合いでは困難である以上、裁判を起こすしかありません。裁判を起こし、裁判手続を有利に進めるには、法律知識と裁判実務経験が必要です。一般の人には難しいことです。弁護士は、法律知識と裁判実務経験を兼ね備えた専門職です。

その他にも弁護士に解決を依頼するメリットがあります。大きなメリットとして、次の3つを挙げることができます。

弁護士は遺産使い込みの状況を正確に把握できる

使い込みを認めない相手に対しては、使い込みを証明することが必要となります。使い込みの証明には、金融機関・医療機関・介護施設から、証明手段となる書類や記録を入手しなければなりません。

提供を拒む機関・施設に対しては、提供を求める交渉が必要となります。弁護士は、交渉のプロフェッショナルです。弁護士による交渉によって、書類や記録が開示される可能性が高まります。

それでも記録提供を拒む機関・施設もあります。そうした場合、弁護士照会という方法があります。法律で定められた制度です。所定の手続を経て弁護士会から照会を受けた機関・施設は、照会に答える法律的な義務があります。最高裁判所の判例からも明らかです(最高裁平成28年10月18日判決)。

弁護士の参画が相手へのプレッシャーに

こちら側に弁護士が付いたことを相手が知ることで、相手への心理的プレッシャーになります。「法律のプロが相手では、自分の使い込みは隠し通せないかもしれない。だったらこの際、使い込んだ財産を返そう。」という気持ちになる可能性が高まります。

法律に基づき相続問題全体の解決が可能

遺産使い込みの事実がはっきりしたことで、遺産の範囲が確定します。遺産の範囲が確定することで、家庭裁判所での遺産分割の調停または審判が可能となります。

弁護士に遺産使い込みを明らかにしてもらった流れで、遺産分割調停または審判の手続代理人になってもらうこともできます。弁護士としても、遺産使い込みの問題から関わっているので、争いの内容を熟知しています。調停や審判にも取り組みやすいことは明らかです。

使い込まれた遺産・財産を取り返す場合、弁護士を味方に付けることで、取り返せる可能性が非常に高まります。遺産・相続財産の使い込みを巡るトラブルは、まず弁護士に相談しましょう。

遺産相続は弁護士に相談を
法律のプロがスムーズで正しい相続手続きをサポート
相続人のひとりが弁護士を連れてきた
遺産分割協議で話がまとまらない
遺産相続の話で親族と顔を合わせたくない
遺言書に自分の名前がない、相続分に不満がある
相続について、どうしていいのか分からない
上記に当てはまるなら弁護士に相談