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相続税の障害者控除~適用の条件は?控除の仕組みと、対象者・控除額など解説

この記事で分かること

  • 障害者が相続人になった場合、相続税の障害者控除を使うことができる。
  • 相続税の障害者控除を使うには、5つの要件を満たす必要がある。
  • 控除額は、一般障害者と特別障害者とで異なる。
  • 障害者が使わなかった控除枠は、障害者でない他の共同相続人が使うことができる。
  • 相続税の障害者控除を使うなら、まず税に詳しい弁護士や税理士に相談しよう。

障害者が相続人になると、障害者控除を使って、相続税を安くすることができます。障害者控除を使うには、要件に適い、注意点を押さえることが大切です。障害者控除を正しく使って節税するなら、まず税に詳しい弁護士や税理士に相談しましょう。

相続税の障害者控除とは?

相続税の障害者控除とは、相続人が障害者の場合、納める相続税が安くなるシステムをいいます。

健常者ほど働けず、収入も少ない障害者が、相続税を納めることで生活がさらに苦しくなることを防ぐためです。

ワンポイントアドバイス
相続税の障害者控除は、相続人が障害者の場合のシステムです。被相続人(財産を残して亡くなった人)が障害者だった場合のシステムではありません。

相続税の障害者控除を受けるための要件

障害者である相続人が相続税の障害者控除を受けるには、どんな要件が必要なのでしょうか。

法律が定める要件は、次の5つです。

  • 障害者が法定相続人であること
  • 障害者が85歳未満であること
  • 障害者が相続または遺贈によって遺産を取得したこと
  • 障害者が遺産を取得した時に日本国内に住所があること
  • 遺産を取得した時に障害者であること

障害者が法定相続人であること

相続税の障害者控除を受けるには、被相続人の法定相続人でなければなりません。

つまり、法定相続の権利を持っている

  • 被相続人の配偶者
  • 被相続人の子
  • 被相続人の直系尊属(父母、祖父母など)
  • 被相続人の兄弟姉妹
  • 被相続人の孫
  • 被相続人のひ孫
  • 被相続人の甥姪

いずれかであることが条件となります。

障害者控除自体が「障害のある親族の生活が困ることのないように」という被相続人の気持ちを推し量って制定されている仕組みだからです。

被相続人の愛人など、法定相続人以外の人が遺言で財産をもらった場合、その人が障害者でも相続税の障害者控除を受けることはできません。

相続放棄した人も障害者控除の対象に

相続放棄して法定相続人でなくなった人も、相続税の障害者控除を受けることができます。

このことは、被相続人が亡くなる3年以内に生前贈与を受けた法定相続人が、被相続人死亡後に相続放棄をした場合に生きてきます。
通常、死亡3年以内の生前贈与は、相続財産とみなされ相続税がかけられますが、障害者控除を適用すれば生前贈与に対する相続税負担を回避することができます。

障害者が85歳未満であること

相続税の障害者控除を受けるには、85歳未満でなければなりません。

障害者が85歳以上の場合、残りの人生は長くないため、相続税による生活の圧迫に配慮する必要はほとんどないからです。

障害者が相続または遺贈によって遺産を取得したこと

相続税の障害者控除を受けるには、相続または遺贈によって遺産を取得したことが必要です。

そもそも相続税とは相続または遺贈によって遺産を取得した人にかけられる税金なので、当然な要件ではあります。

障害者が遺産を取得した時に日本国内に住所があること

相続税の障害者控除を受けるには、遺産を取得した時に日本国内に住所があることが必要です。
日本国内に住所がない障害者についてまで、国が相続税による生活の圧迫に配慮する必要はないからです。

「日本国内に住所がある」とは、日本国内を実際の生活の中心としていることを意味します。
日本国内に本籍や住民登録があっても、実際の生活の中心が外国であれば、「日本国内に住所がある」とはいえず、相続税の障害者控除は使えません。

留学や海外出張などは、一時的に日本国内を離れていたにすぎず、生活の中心は日本国内といえるので、相続税の障害者控除を使えます。

遺産を取得した時に障害者であること

相続税の障害者控除を受けるには、遺産を取得した時に障害者であることが必要です。
相続税の障害者控除は、遺産取得による相続税負担が障害者の生活を圧迫しないようにするためのシステムだからです。

遺産を取得した後に障害者になったとしても、遺産を取得した時に健常者であれば、普通に働いて収入を得ることができた以上、相続税の負担に配慮する必要はありません。

これら5つの要件がそろって初めて、相続税の障害者控除の申告ができます。

ワンポイントアドバイス
相続税の障害者控除の申告には、申告書のほか、計算書などの添付書類を提出しなければなりません。ミスのない申告をして、しっかりと障害者控除を受けるには、ひとりで無理して取り組むのでなく、まず税に詳しい弁護士や税理士に相談することをお勧めします。

相続税の障害者控除の控除額

相続税の障害者控除を申告した場合、相続税はどのくらい安くなるのでしょうか。

相続税の障害者控除の額は、一般障害者と特別障害者とで異なります。

一般障害者と特別障害者

一般障害者とは、次の人などです。

  • 身体障害者手帳、戦傷病者手帳、精神障害者保健福祉手帳の発行を受けている人
  • 精神保健指定医などにより知的障害と判定された人
  • 65歳以上の人で、障害の程度が障害者に準ずるものとして市町村長の認定を受けている人

一方、特別障害者とは、次の人などです。

  • 身体障害者手帳に身体上の障害の程度が1級または2級と記載されている人
  • 精神障害者保健福祉手帳に障害等級が1級と記載されている人
  • 重度の知的障害者と認定された人
  • いつも病床にいて、複雑な介護を受けなければならない人

一般障害者に比べ、特別障害者の方がより重度の障害を持つ方にあたります。

後述しますが、一般障害者・特別障害者として障害者控除の適用を受けるには市区町村への申請が必要です。
所得税および相続税の控除に対する申請で、介護保健における要介護認定とは別の手続きとなります。

一般障害者の控除額は年10万円

一般障害者の控除額は、85歳になるまでの年数1年につき10万円です。

85歳までの年数の1年未満は、障害者に有利となるよう、切り上げて1年とします。

たとえば、一般障害者である相続人が60歳3か月の場合、年数は「85歳-60歳3か月=24年9か月」となるところ、「9か月」を繰り上げて、「25年」となります。

本来の相続税額から「10万円×25年=250万円」を差し引いた額が、最終的な相続税額となります。

特別障害者の控除額は年20万円

特別障害者の控除額は、85歳になるまでの年数1年につき20万円です。

85歳までの年数の1年未満切り上げは、一般障害者の場合と同じです。

たとえば、特別障害者である相続人が60歳3か月の場合、本来の相続税額から「20万円×25年=500万円」を差し引いた額が、最終的な相続税額になります。

ワンポイントアドバイス
障害者の相続税は、障害の等級が1級か2級かで控除額が異なります。等級の区別も含め、相続税の障害者控除の申告について分からないときは、ひとりで悩むことなく、税に詳しい弁護士や税理士に相談しましょう。

障害者控除の控除枠は余っても他の相続人に使える

障害者控除枠が余った場合、余った枠をほかの相続人が使うことができます。

控除額>相続税額なら納税額はゼロ

控除額が相続税額を上回れば、納税額はゼロになります。

たとえば、特別障害者である相続人が60歳3か月で、本来の相続税額が300万円の場合、控除額は

  • 20万円×25年=500万円

となり、相続税額を上回るため、最終的な相続税額はゼロになります。

余った控除枠は扶養義務者のもとへ

障害者控除の特徴として、障害者が使って余った控除枠は、障害者の扶養義務者が活用できる、というものがあります。

先の、相続税額300万円、控除額500万円の特別障害者の例で言うと

  • 控除額 500万円 - 相続税額 300万円=控除額余り 200万円

余った控除枠200万円分は、障害者の扶養義務者に当たる共同相続人が使うことができます。

扶養義務者とは

扶養義務者とは、障害者から見た配偶者・直系血族(子・孫・父母、祖父母など)・兄弟姉妹、および家庭裁判所が決めた3親等内の親族をいいます。

たとえば、相続人が特別障害者である兄と障害者でない弟の2人で、本来の相続税はどちらも300万円の場合、兄の余った控除額200万円を弟が使って、弟に課される最終的な相続税額を

  • 弟の相続税額 300万円 - 兄の余った控除額 200万円=弟が支払う相続税額 100万円

と減じることができます。

余った相続税控除額を使えるようにすることで、障害者から親族への扶養(生活の援助)のひとつとして活用できる仕組みになっています。

ワンポイントアドバイス
障害者の扶養義務者に当たる共同相続人が何人もいる場合、余った控除枠を誰に使わせるかが問題になります。ひとつ間違えれば親族間の争いに発展するケースもあります。余った控除枠の行き先に困ったら、税に詳しい弁護士や税理士に相談しましょう。

相続税の障害者控除を利用する際の注意点

相続税の障害者控除は、相続人である障害者にとって、相続税が安くなるありがたいシステムですが、障害者控除を使う際の注意点を押さえることも大切です。

相続税の障害者控除を使う際の注意点を3つ紹介します。

過去の相続で使った障害者控除額は差し引かれる

過去に相続税の障害者控除を使ったことがあると、今回の相続税の障害者控除額から前回の障害者控除額が差し引かれます。

85歳で控除枠が使えなくなるのを見据えれば、徐々に控除枠を狭めていくのが好ましいからです。

一般障害者が、60歳0か月で父を、70歳0か月で母を相続した場合で考えてみましょう。

父を相続した時の障害者控除は、次の金額です。

  • 10万円×(85歳-60歳)=10万円×25年=250万円

母を相続した時の障害者控除は、次のうちの安い方の金額です。

  • 10万円×(85歳-70歳)=10万円×15年=150万円
  • 10万円×(85歳-前回の年齢60歳)-前回の控除額250万円=10万円×25年-250万円=0円

母の相続時は、150万円>0円なので障害者控除=0円、つまり障害者控除が使えないことになります。

過去に障害者控除を使うと、2回目の相続以降、障害者控除が使えないのが普通です。
ただ、最初の相続時に控除枠を使いきれなかった場合、最初の相続時と2回目以降の相続時とで障害者の障害の等級が変わった場合は、障害者控除が使えることもあります。

相続開始時に障害者であることが必要

相続税の障害者控除を受けるには、相続開始時、つまり被相続人が亡くなった時に障害者であることが必要です。
相続開始時に障害者であってこそ、障害者である相続人として障害者控除を受けるにふさわしいからです。

障害者であることは、障害者手帳の交付により証明されます。障害者といえるためには、相続開始時に障害者手帳を持っていることが原則です。

ただ、相続開始時に障害者手帳を持っていなくても、次の2つの要件に適えば、障害者として扱われ、障害者控除を受けることができます。

  • 相続税申告時に、障害者手帳を持っている、または障害者手帳の申請中である。
  • 医師の診断書により、相続開始時に障害者の状態であることが認められる。

相続開始時に障害者手帳を持っていなくても、相続税申告時に、障害者手帳を持っているか、障害者手帳をもらえることがほぼ間違いないといえるなら、障害者として扱いましょうという取り扱いです。

要介護認定だけでは障害者控除は受けられない

相続人が、介護保険の要介護認定を受けていても、障害者手帳を持っていなければ、障害者控除は受けられません。要介護認定は介護保険サービスを利用するための認定であり、障害者の認定とは異なるからです。

ただ、市区町村役場から、「障害者控除対象者認定書」をもらえれば、障害者控除を受けることができます。要介護認定とは別に、「障害者控除対象者認定書」の発行申請を市区町村役場にしましょう。

ワンポイントアドバイス
この3つの注意点は、相続税の障害者控除を使う際にぜひ押さえておきたいポイントです。理解がむずかしいときは、税に詳しい弁護士や税理士に問い合わせましょう。

相続税の障害者控除を利用したい場合は弁護士など専門家に相談を

相続税の障害者控除は、障害者の相続税負担を軽くして、その生活を守るのに役立つシステムです。

一方で、障害者控除を受けるための要件や、使う際の注意点など、しっかりと押さえなければならないポイントも多くあります。

専門知識と実務経験を必要とする分野です。一般の方が無理に取り組むと、思わぬ落とし穴にはまる危険があります。

相続税の障害者控除を利用するなら、まず税に詳しい弁護士や税理士など専門家に相談しましょう。

遺産相続は弁護士に相談を
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  • 相続人のひとりが弁護士を連れてきた
  • 遺産分割協議で話がまとまらない
  • 遺産相続の話で親族と顔を合わせたくない
  • 遺言書に自分の名前がない、相続分に不満がある
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上記に当てはまるなら弁護士に相談