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遺留分侵害額請求(減殺請求)の時効~起算点はいつから?時効を止める方法

この記事で分かること

  • 遺留分侵害額支払請求権には、期間が1年間と10年間の2つの消滅時効がある。
  • 1年間の消滅時効の起算点については、遺留分の計算が必要である。
  • 時効の中断により、遺留分侵害額支払請求権の消滅時効を止めることができる。
  • 遺言や遺贈・贈与の無効確認裁判では、時効は中断しない。
  • 除斥期間は中断しない。
  • 遺留分侵害額支払請求権の消滅時効については、相続に詳しい弁護士に相談しよう。

遺留分侵害額支払請求権は、消滅時効の完成によって消えてしまいます。それを防ぐのが、時効の中断という方法です。ただ、中断原因を誤解すると、時効により権利を失う結果になります。素人判断は禁物です。遺留分侵害額支払請求権の消滅時効については、相続に詳しい弁護士に相談するのが一番です。

遺留分侵害額請求(減殺請求)の2つの消滅時効

遺留分侵害額支払請求権には、2つの消滅時効があります。

遺留分侵害額支払請求権とは、亡くなった人(被相続人)の遺産について、遺留分を持つ相続人(遺留分権利者)が、自分の遺留分に満たない分をお金で見積もり、その支払いを受遺者(じゅいしゃ)(遺言により財産をもらった人)や受贈者(じゅぞうしゃ)(生前贈与により財産をもらった人)に請求できる権利です。

2018年7月の民法改正で新設された権利です。2019年7月1日から使えるようになっています。

遺留分侵害額支払請求権は、永遠の権利ではありません。一定の期間使わないでいると、消えて使えなくなります。消滅時効といいます。

遺贈や生前贈与から何年も経ち、もらった財産をベースとした生活ができあがっている時に、突然、遺留分侵害額の支払いを請求されたのでは、受遺者や受贈者の生活が狂ってしまうからです。

では、どのくらいの期間使わないでいると、遺留分侵害額支払請求権が消えてしまうのでしょうか。

この点について、民法は2つの期間を定めました。消滅時効期間といいます。

  • 遺留分権利者が、贈与または遺贈があったことを知ってから1年間
  • 相続開始から10年間

2つの期間のうち、どちらかが先に完成することで、遺留分侵害額支払請求権が消えます。もうひとつの期間は、出る幕がなくなります。

贈与または遺贈があったことを知ってから1年間

遺留分権利者が、贈与または遺贈があったことを知ってから1年間、遺留分侵害額支払請求権を使わないと、権利は消えてしまいます。

贈与または遺贈があったことを知ってから1年あれば、遺留分侵害額支払請求をするには十分な期間だろうと民法は考えたわけです。

相続の例
たとえば、男性Aさんが亡くなりました。遺産は、土地と家だけです。Aさんには前妻との間の子Bさん、後妻Cさんがいます。Aさんには借金などの債務はなく、生前贈与もしていません。ただ、「土地と家をすべてCに与える」という遺言を残しました。Cさんへの遺贈です。

土地と家をお金に見積もると、合計1,000万円です。Bさんには1⁄2の遺留分があります。
Cさんにすべての遺産が行くと、Bさんの遺留分=1,000万円×1⁄2=500万円が満たされません。BさんはCさんに対し、遺留分侵害額として500万円の支払いを求めることができます。

Bさんが、AさんからCさんへの遺贈を知ってから1年間、Cさんに対して500万円の支払請求をしないと、BさんのCさんに対する遺留分侵害額支払請求権は時効によって消えてしまいます。BさんはCさんに対して500万円の支払いを求めることができなくなります。

相続開始から10年間(除斥期間)

遺留分権利者が、相続開始から10年間、遺留分侵害額支払請求権を使わないと、権利は消えてしまいます。

相続開始とは、被相続人が亡くなることです。

前の例で、Aさんが2010年7月1日午後3時00分に亡くなったとします。翌7月2日から数えて10年経った時、つまり2020年7月2日午前0時になった時、Bさんの遺留分侵害額支払請求権は時効によって消えます。BさんはCさんに対して500万円の支払いを求めることができなくなります。

Bさんが、AさんからCさんへの遺贈を知るか知らないかには関係ありません。10年経ったということだけで、Bさんの請求権が消えます。

遺留分権利者が遺贈や生前贈与があったことを知らなくても、期間の経過ということだけで請求権を消してしまうことから、民法は10年間という長めの期間を設けたわけです。

10年間の期間は、除斥期間と呼ばれています。「除斥」とは、「請求権者の資格を取り除く」という意味です。「遺贈や生前贈与を知るか知らないかに関係なく請求権を消してしまうよ」という意味が含まれています。

ワンポイントアドバイス
遺留分侵害額支払請求権の消滅時効は生まれたばかりのシステムです。一般の方たちには、まだまだなじみのないものです。遺留分侵害額支払請求権の消滅時効についての疑問は、相続に詳しい弁護士に質問してみましょう。

遺留分の起算点はいつから?

遺留分侵害額支払請求権の消滅時効期間の計算を始める時点(起算点)を見てみましょう。

10年の除斥期間の起算点は、相続が開始した時、つまり被相続人が亡くなった時なので、はっきりしています。

「遺留分権利者が贈与または遺贈があったことを知ってから1年間」の起算点について、詳しく見てみましょう。

「贈与または遺贈があったことを知る」の意味

民法の条文では、「贈与または遺贈があったことを知る」とは、次の2つを知ることとされています。

  • 被相続人が亡くなったこと
  • 遺贈または生前贈与によって自分の遺留分が満たされなくなったこと

両方を知ってから1年以内に遺留分侵害額支払請求をしないと、権利は時効により消えてしまいます。

「被相続人が亡くなったこと」を知るのは、被相続人が行方不明などでない限り、容易なのが普通です。

「遺贈または生前贈与によって自分の遺留分が満たされなくなったこと」を知るには、自分の遺留分がどれだけなのかをはっきりさせなくてはなりません。
遺留分は、

(プラス遺産額+死亡前1年以内の贈与額-マイナス遺産額)×遺留分割合

という特別な計算式によって割り出されます。

ワンポイントアドバイス
遺留分侵害額支払請求権の消滅時効の起算点は、いつまで権利を使えるかに関わる大切な事柄です。起算点についてよく分からないときは、相続に詳しい弁護士に相談しましょう。

遺留分の時効を止める方法(時効の中断)

受遺者や受贈者に遺留分侵害額の支払いを求めても、なかなか支払ってくれないことがあります。そうこうしているうちに、1年または10年の時効期間が過ぎてしまい、請求権が消えてしまうことも考えられます。

受遺者や受贈者が支払いを拒み続けることで請求権が消えてしまうのでは、何のための請求権か分かりません。受遺者たちからすれば、まさに「ごね得」です。

こうした場合のために、時効の中断というシステムがあります。

時効の中断で時効期間は振り出しに

時効の中断とは、それまで進んできた時効期間をいったんストップさせ、振り出しへとリセットし、時効期間をゼロから進め直すことです。

たとえば、遺留分権利者が遺贈のあったことを知ってから6か月後に時効が中断されると、それまでの6か月間の消滅時効の進行はご破算となり、新たに1年間の消滅時効期間が進み始めます。

時効を中断するには、時効期間をリセットさせるにふさわしい方法が必要です。民法は、時効を中断させる方法をいくつか定めています。

実務で使われることの多い4つの方法を紹介します。

裁判上の請求

裁判上の請求により、消滅時効が中断されます。

裁判上の請求とは、遺留分権利者が受遺者または受贈者を相手に、遺留分侵害額を支払えという裁判を起こすことです。

裁判を起こした時点で、消滅時効の進行がストップします。判決が確定した時点で、消滅時効がリセットされ、時効期間がゼロから進行し始めます。

強制執行

強制執行により、消滅時効が中断されます。

強制執行とは、遺留分権利者の申立てにより、裁判所が受遺者または受贈者の財産を差し押さえ、競売にかけ、落札代金の中から遺留分権利者に遺留分侵害額を支払う手続です。

強制執行を申し立てた時点で、消滅時効の進行がストップします。強制執行の手続が終わった時点で、消滅時効がリセットされ、時効期間がゼロから進行し始めます。

催告

催告により、消滅時効が中断されます。

催告とは、遺留分権者から受遺者または受贈者に対し、遺留分侵害額を支払えと請求することです。

請求の方法に決まりはありません。実務では、証拠を残すため、配達証明付き内容証明郵便が使われます。

催告された時点で、消滅時効の進行がストップします。催告から6か月以内に裁判上の請求を起こし、判決が確定した時点で、消滅時効がリセットされ、時効期間がゼロから進行し始めます。

催告は、消滅時効の進行をストップさせるだけで、時効期間をリセットさせるまでの力はないことに注意しましょう。

仮差押え

仮差押えにより、消滅時効が中断されます。

仮差押えとは、遺留分権利者の申立てにより、裁判所が受遺者または受贈者の財産を仮に差し押さえ、受遺者または受贈者が財産を減らせないようにして、強制執行に備える手続です。

仮差押えがされた時点で、消滅時効の進行がストップします。仮差押えから6か月以内に強制執行を申立て、強制執行の手続が終わった時点で、消滅時効がリセットされ、時効期間がゼロから進行し始めます。

催告と同じく、仮差押えは、消滅時効の進行をストップさせるだけで、時効期間をリセットさせるまでの力はないことに注意しましょう。

2020年4月より「時効の完成猶予と更新」に

2017年の民法改正により、「時効の中断」という呼び名が変わることになりました。「時効の完成猶予」「時効の更新」という呼び名に変わります。

時効の完成猶予とは、時効の進行をストップさせることです。時効の更新とは、時効を振り出しへとリセットし、時効期間をゼロから進め直すことです。

新しい呼び名は、2020年4月1日から使われる予定になっています。

ワンポイントアドバイス
本文で紹介した時効中断方法の中でも、裁判上の請求と強制執行は強力な中断方法です。いずれも裁判所での手続です。専門知識と実務経験が必要です。一般の方だけで取り組むのは難しいです。裁判手続のプロである弁護士への相談をお勧めします。

遺留分を無効にしないための注意点

遺留分侵害額支払請求権は、遺留分を実のあるものにするための大切な権利です。しっかり守っていかなければなりません。

遺留分侵害額支払請求権を守る方法の代表が、時効の中断です。ただ、時効の中断方法を誤解すると、逆に遺留分侵害額支払請求権を失うことになるので注意が必要です。

注意しなければならない3つの点を紹介します。

遺言無効確認の裁判では時効中断しない

遺言無効確認の裁判を起こしても、遺留分侵害額支払請求権の消滅時効は中断しません。

相続人が、被相続人の遺言があることを知ったとき、これは本人の書いたものでないとか、民法が決めた条件が抜けているなどを理由に、遺言が無効であることを確認してくれという裁判を起こすことがあります。

遺言無効確認の裁判を起こしても、遺留分侵害額支払請求権の消滅時効は中断しません。遺言無効確認の裁判は、時効中断方法のひとつである裁判上の請求に当たらないからです。

遺言無効確認の裁判を起こしたことで遺留分侵害額支払請求権の消滅時効が中断したと思って安心していると、遺言があることを知った時から1年経った時点で遺留分侵害額支払請求権が時効により消えてしまい、思わぬ損を生じます。

こうしたことがないよう、遺言無効確認の裁判を起こすのと合わせて、配達証明付き内容証明郵便を使って、ひとまず遺留分侵害額支払請求の催告をしておくことをお勧めします。

ただ、催告から6か月以内に裁判上の請求をしないと消滅時効はリセットされないことに注意しましょう。

遺贈や生前贈与の無効確認裁判では時効中断しない

遺贈または生前贈与の無効確認の裁判を起こしても、遺留分侵害額支払請求権の消滅時効は中断しません。

相続人が、被相続人が遺贈や生前贈与をしたことを知った時、被相続人はだまされた、あるいは脅されたことを理由に、遺贈や生前贈与が無効であることを確認してくれという裁判を起こすことがあります。

遺贈または生前贈与の無効確認の裁判を起こしても、遺留分侵害額支払請求権の消滅時効は中断しません。遺贈または生前贈与の無効確認の裁判は、時効中断方法のひとつである裁判上の請求に当たらないからです。

遺贈または生前贈与の無効確認の裁判を起こしたことで遺留分侵害額支払請求権の消滅時効が中断したと思って安心していると、遺贈や生前贈与をしたことを知った時から1年経った時点で遺留分侵害額支払請求権が時効により消えてしまい、思わぬ損を生じます。

配達証明付き内容証明郵便での催告をしておいた方がよいこと、催告から6か月以内に裁判上の請求をしないと消滅時効はリセットされないことは、遺言無効確認の裁判の場合と同じです。

10年の除斥期間は中断しない

相続開始から10年間の除斥期間は、中断しません。

たとえば、相続開始から6年経った時点で裁判上の請求をしても、除斥期間の進行はストップしませんし、除斥期間がゼロからにリセットされることもありません。残り4年が経った時点で、除斥期間が完成し、遺留分侵害額支払請求権は消えてしまいます。

除斥期間は、期間の進行と完成だけを理由に、権利を消してしまうシステムです。進行の途中で裁判上の請求などがあっても、何ら影響を受けない期間なのです。

こうした点で、除斥期間は、1年間の消滅時効期間と違うことに注意しましょう。

ワンポイントアドバイス
時効の中断は、権利が消えるのを防ぐ一方、ひとたび誤解すると思わぬ損を招く、まさに諸刃の剣です。時効の中断については、剣で自分の身を切らぬよう、法律のプロである弁護士のアドバイスを受けましょう。

遺留分の時効が心配な場合は弁護士に相談を

遺留分侵害額支払請求権の消滅時効については、2つの時効期間、期間の起算点、時効の中断、中断方法の誤解により権利を失う危険など、理解と対応の難しい事柄が多いです。

一般の方が、書籍やインターネットなどからの知識や情報をもとにひとりで取り組んでも、とても太刀打ちできるものではありません。無理な取り組みは、思わぬ損を招き、自分の首を絞めることにもなりかねません。

ここは、法律のプロの力を借りるのが一番です。遺留分侵害額支払請求権の消滅時効が心配だったら、まず相続に詳しい弁護士に相談しましょう。

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