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相続時精算課税制度とは?通常の贈与・相続と比べたメリットとデメリット
この記事で分かること
- 相続時精算課税制度は、財産の有効活用を目指す制度である。
- 相続時精算課税制度を使うと、2,500万円まで贈与税を非課税にできる。
- 相続時精算課税制度を使うと、遺産と生前贈与を合わせた額に相続税がかかる。
- 相続時精算課税制度には、いくつかのメリットとデメリットとがある。
- いったん相続時精算課税にすると、暦年課税に戻すことができなくなる。
- 節税額をシミュレーションして、相続時精算課税か暦年課税かを選択することが重要である。
- 相続時精算課税を検討するなら、税に詳しい弁護士や税理士に相談することが一番である。
相続時精算課税制度では、2,500万円という大きな非課税枠に目が引かれがちです。しかし、それだけで節税効果を生み出すとは限りません。他のいろんなことが、節税効果の有無に影響してきます。相続時精算課税か暦年課税かの選択は慎重に行わなければなりません。素人判断は大損のリスクをはらみます。税に詳しい弁護士や税理士といった税の専門家に相談することが一番です。
目次[非表示]
相続時精算課税制度とは
相続時精算課税制度とは、次の2つの特徴が組み合わさった制度です。
- 生前贈与に大きな非課税枠(贈与税がかからない部分)がある
- 生前贈与をした人が亡くなった時、相続税が遺産だけでなく生前贈与にもかけられる
相続時精算課税制度の目的とあらましについて解説します。
財産の有効活用を目指す制度
相続時精算課税制度は、財産の有効活用を目指す制度です。
わが国では平均寿命が伸びています。財産を使わずに持っている高齢者が増えています。現金、不動産など、眠ったままの財産が増えています。
若い世代へ生前贈与をすれば、若い世代の人たちによって財産を有効に活用できます。
生前贈与には贈与税がかかります。贈与税は相続税よりも高いです。高齢者は、財産をもらう者の負担を考え、自分が亡くなるまで財産を持ち続けようと考えます。
生前贈与に非課税枠を設ければ、財産をもらう者の負担が減ります。高齢者は、生前贈与に前向きになります。若い世代に財産が受け継がれ、有効に活用できるようになります。
相続時精算課税制度は、高齢者から若い世代への財産の受け継ぎを促し、その有効活用を目指す制度です。
相続時精算課税制度のあらまし
相続時精算課税制度のあらましは、次のとおりです。
生前贈与を受けた人(受贈者)は、贈与税を納めます。ここで、相続時精算課税制度の非課税枠が活かされます。非課税枠は2,500万円です。受贈者の納税負担が減ります。
生前贈与をした人(贈与者)が亡くなった時、贈与者の遺産と受贈者がもらった生前贈与を合算します。この合算額に対して相続税がかけられます。
この相続税額から、すでに納めた贈与税額を差し引きます。算出された金額を受贈者が納めます。
相続時に受贈者が納める税金額は、次の式で表すことができます。
(贈与者の遺産+受贈者がもらった生前贈与)×相続税率
-(受贈者がもらった生前贈与-2,500万円)×贈与税率
算出された金額がマイナスになるときは、払い過ぎの贈与税として、受贈者に払い戻されます。
贈与者の遺産を相続する時に、受贈者がもらった生前贈与も合わせて精算し、課税することから、相続時精算課税制度と名付けられました。
2500万円まで贈与税を非課税にできる
相続時精算課税制度を使うと、受贈者がもらった生前贈与のうち2,500万円まで税金がかかりません。
この非課税枠を使うか使わないかは、受贈者の自由です。使う場合は、税務署への届出が必要です。いったん行った届出は、後からキャンセルすることはできません。
相続時精算課税制度のメリット
相続時精算課税制度には、3つのメリットがあります。それぞれについて解説します。
生前贈与に大きな非課税枠
1つ目のメリットは、生前贈与に2,500万円という大きな非課税枠が生まれることです。生前贈与を非課税で行えるケースが多くなります。
非課税枠を超えても税率は一律
2つ目のメリットは、贈与額が非課税枠の2,500万円を超えても、超えた分にかかる贈与税は一律20%です。
相続時精算課税制度を使わないときの贈与税率は、10%から55%です。贈与額が多いほど、贈与税も高くなります。相続時精算課税制度では、贈与額が2,500万円を超える分が多いほど、贈与税は安上がりになります。
年をまたいでの非課税枠活用も可能
3つ目のメリットは、2,500万円の非課税枠を年をまたいで活用できることです。
たとえば、1年目に1,500万円、2年目に500万円、3年目に1,000万円の生前贈与をもらったとします。1年目の1,500万円については、丸々非課税です。2年目の500万円についても、丸々非課税です。3年目の1,000万円については、500万円についてだけ非課税、残りの500万円は課税対象となります。
2,500万円の非課税枠を、3年間をまたいで活用できます。柔軟な非課税枠の活用ができます。
相続時精算課税制度のデメリット
相続時精算課税制度にはデメリットもあります。重要なデメリットを4つ紹介します。
暦年贈与の非課税枠が使えない
1月1日から12月31日までの間に行われる贈与を、暦年贈与といいます。
暦年贈与の合計額のうち110万円までは贈与税がかかりません。申告不要の非課税枠です。
相続時精算課税制度を使うと、暦年贈与の非課税枠は使えません。納税負担の軽減には、相続時精算課税制度の非課税枠で十分だからです。
使える人が限られている
相続時精算課税制度を使える人は限られています。贈与者と受贈者について、次の条件をすべて満たすことが必要です。
- 贈与者が60歳以上の父母または祖父母であること
- 受贈者が20歳以上の子または孫であること
こうした条件を設けた理由は、次の2つです。
- 生前贈与は、親から子へ、祖父母から孫へというケースが多いこと
- 贈与者はそろそろ財産を子孫に譲りたい世代、受贈者は財産を任されても大丈夫な世代であること
税務署に届け出なければならない
相続時精算課税制度を使うには、受贈者が税務署へ届け出ることが必要です。
届け出には、届出書の他、いくつかの添付書類が必要です。届出書の書式や添付書類については、国税庁のWEBサイトで確認することができます。
参考リンク:国税庁WEBサイト「平成30年分贈与税の申告書等の様式一覧 №24」
届出のキャンセルができない
いったん相続時精算課税制度を利用する届出をすると、後からキャンセルはできません。
相続時精算課税制度を利用する届出があると、その贈与者と受贈者の間の生前贈与は、贈与者が亡くなるまで、すべて相続時精算課税の扱いとなります。途中から暦年贈与に戻すことはできません。
キャンセルを認めると、非課税枠によって課税されなかった生前贈与に対し、改めて課税し直さなくてはならなくなります。贈与者にとっても税務署にとっても手続の負担が増えてしまいます。相続時精算課税制度利用の届出をキャンセルできない理由です。
相続時精算課税制度と暦年贈与を比較
贈与税の課税の仕方には、相続時精算課税制度と暦年贈与の2つがあります。両者を比べると、次のような違いがあります。
相続時精算課税制度 | 暦年贈与 | |
---|---|---|
贈与者 | 60歳以上の父母または祖父母 | 誰でもよい |
受贈者 | 20歳以上の子または孫 | 誰でもよい |
非課税枠 | 利用開始年から通じて2,500万円 | 年間110万円 |
税務署への届出 | 必要 | 不要 |
税率 | 20% | 10%~55% |
相続財産との合算 | あり | なし |
相続時精算課税制度を利用すべきケース
相続時精算課税制度には、メリットとデメリットがあります。利用すべきかどうかは、ケースによってマチマチです。
相続時精算課税制度を利用するとメリットが大きいと思われるケースを2つ紹介します。
相続財産が基礎控除の範囲に収まる場合
1つ目は、相続財産が基礎控除の範囲に収まる場合です。
基礎控除とは相続税のかからない部分
基礎控除とは、相続財産のうち相続税のかからない部分です。計算式は次のとおりです。
3,000万円 + ( 600万円 × 法定相続人の数 )
相続財産が基礎控除の範囲に収まる一例
例を挙げます。父と息子の2人家族です。母は亡くなり、子供は息子1人です。父には3,500万円の預金があります。息子が家を建てることになりました。父は、資金の足しに、1,000万円を息子に生前贈与しました。
息子は、相続時精算課税の届出をしました。贈与された1,000万円は、2,500万円の非課税枠の範囲内なので、贈与税はかかりません。
父が亡くなりました。遺産は、「3,500万円-息子に贈与した1,000万円=2,500万円」です。相続税の対象は、「遺産2,500万円+贈与した1,000万円=3,500万円」です。
相続税の基礎控除を計算します。父の法定相続人は、息子1人です。基礎控除額は、「3,000万円+600万円×1人=3,600万円」です。
相続税の対象となる3,500万円は、基礎控除額を下回ります。相続税は1円もかからないことなります。
このケースのように相続財産が基礎控除の範囲に収まる場合、相続税精算課税制度を使うと、贈与税も相続税もかからないことが分かります。
財産の値上がりが予想される場合
2つ目は、財産の値上がりが予想される場合です。
財産の値上がりが予想される一例
例を挙げます。父と息子の2人家族です。母は亡くなり、子供は息子1人です。父は、土地Aを持っています。土地Aの路線価は1,000万円です。他に、預金2,000万円があります。
土地Aの近くに新しい駅ができる計画が発表されました。
息子が家を建てることになりました。父は、家の敷地用に、土地Aを息子に生前贈与しました。息子は、相続時精算課税の届出をしました。土地の路線価1,000万円は非課税枠2,500万円の範囲内なので、贈与税はかかりません。
近くに駅ができることがプラス評価され、土地Aの路線価が5,000万円に跳ね上がりました。
父が亡くなりました。遺産は預金2,000万円です。相続税の対象は、「遺産2,000万円+贈与した時の土地Aの路線価1,000万円=3,000万円」です。
相続税の基礎控除を計算します。父の法定相続人は、息子1人です。基礎控除額は、「3,000万円+600万円×1人=3,600万円」です。
相続税の対象となる3,000万円は、基礎控除額を下回ります。相続税は1円もかからないことなります。
値上がり前の贈与が大切
値上がりが予想される財産は、値上がり前に贈与することが大切です。相続時精算課税制度では、生前贈与に対する相続税は、贈与した時の額が基準になるからです。
土地Aの値上がり後に贈与をして、相続時精算課税の届出をしたとします。
「土地Aの路線価5,000万円-非課税枠2,500万円=2,500万円」に対して20%の贈与税がかかります。贈与税額は「2,500万円×0.2=500万円」です。
相続税の対象は、「遺産2,000万円+土地Aの路線価5,000万円=7,000万円」です。「7,000万円-基礎控除3,600万円=3,200万円」に対して20%の相続税がかかります。相続税額は「3,200万円×0.2-控除額200万円=440万円」です。
相続時精算課税制度を値上がり後の生前贈与に使うと、贈与税と相続税を納めなくてはならなくなることが分かります。
相続時精算課税制度の利用は実際の節税額をシミュレーションして慎重に
相続時精算課税制度の魅力は何といっても、生前贈与についての2,500万円という非課税枠です。その金額の大きさに引かれ、すぐに飛びつきたくなりがちです。
しかし、相続時精算課税制度では、生前贈与された金額は遺産と合体し、相続税の課税対象となることを忘れてはなりません。遺産だけに対する相続税よりも高額になることもあり得ます。
相続税精算課税制度を使うことが得か損かは、生前贈与後の遺産の額、法定相続人の人数、贈与財産の値上がりの可能性、贈与財産が収益(賃料など)を生み出すものかどうかなど、いくつかの条件が組み合わさることで変わってきます。
自分のケースにおいて、相続時精算課税制度を使う場合と使わない場合とをシミュレーションして、どちらが得かの見込みを立てることが大切です。
後から大損がわかっても取り消せない
いったん相続時精算課税制度を使う届出をしてしまうと、届出の取消しはできません。贈与者が亡くなるまで、この制度を使わなくてはなりません。暦年課税はもはや使うことができません。
「やってみたら暦年課税のほうが得だから、やっぱり相続時精算課税制度を使うのは止める」ということは許されません。
相続に強い弁護士や税理士に相談を
相続時精算課税制度を自分のケースに当てはめてシミュレーションをして、得になるか損になるかを予測するには、相続と税についての詳しい知識が必要です。一般の方が本やインターネットで調べながら対応できるレベルではありません。
相続時精算課税制度を使うかどうかに迷ったら、相続に強い弁護士や税理士に相談することが、相続で大損しないためのベストな選択です。
この記事にある相続時精算課税制度の解説を予備知識に、弁護士や税理士の門を叩きましょう。あなたのケースにふさわしいアドバイスをきっともらえるはずです。
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