20,884view
二次相続をふまえた節税対策~一次・二次トータルの相続税を考慮する
この記事で分かること
- 夫婦の遺産相続では、一次相続と二次相続に分かれる。
- 一次相続よりも二次相続の方が相続税が高くなる。
- 二次相続では、基礎控除額が減り、配偶者軽減措置が使えない。
- 二次相続を見据えた節税対策では、生前贈与、生命保険加入、小規模宅地の特例が効果的である。
- 二次相続を見据えた具体的な節税対策については、弁護士や税理士など、相続と税の専門家に相談することが一番である。
夫婦の遺産相続は一次相続と二次相続に分かれ、一次相続よりも二次相続の方が相続税が高くなります。二次相続を見据えた節税対策が必要です。具体的な節税対策については、弁護士や税理士など、相続と税の専門家に相談することが一番です。
二次相続とは
夫婦のうち先に亡くなった人の遺産を相続するのが、一次相続です。夫婦のうち後に亡くなった人の遺産を相続するのが、二次相続です。
子どものいる夫婦がいたとします。夫が亡くなりました。夫の遺産は、妻と子どもが相続します。子どもにとって一番目の相続です。一次相続です。
その後、妻が亡くなりました。妻の遺産は、子どもが相続します。子どもにとって二番目の相続です。二次相続です。
一次相続、二次相続とは、子どもの立場から見た、両親の遺産相続の呼び名です。
この記事では、二次相続のあらまし、および二次相続をする際の注意点について解説します。
一次相続との違い
子どもにとって、二次相続は一次相続よりも相続税が高くなります。理由は2つです。
- 基礎控除額が減ること
- 配偶者の税額軽減が適用されないこと
それぞれについて解説します。
基礎控除額が減る
二次相続は、一次相続よりも基礎控除額が減ります。相続人の数が減るからです。
相続税の計算式です。
相続税額=課税対象額×相続税率
課税対象額=遺産の評価額-基礎控除額
基礎控除額=3,000万円+600万円×相続人数
夫婦とひとり息子の家族がいたとします。夫が亡くなりました。夫の相続人は、妻と息子の2人です。一次相続です。基礎控除額は、3,000万円+600万円×相続人数2=4,200万円です。
その後、妻が亡くなりました。妻の相続人は息子1人です。二次相続です。基礎控除額は、3,000万円+600万円×相続人数1=3,600万円です。
二次相続では一次相続よりも、4,200万円-3,600万円=600万円、基礎控除額が減ります。相続人1人分の基礎控除額が減るわけです。
基礎控除額が減れば課税対象額が増えます。よって相続税額も増えます。
配偶者の税額軽減が適用されない
二次相続では、配偶者の税額軽減措置が適用されません。
配偶者である相続人には、税額軽減措置があります。次の不等式に当てはまれば、配偶者にかかる相続税はゼロです。
配偶者が取得した遺産の金額
< 遺産総額×配偶者の法定相続分 または 1億6,000万円 のいずれか多い方
一次相続では、配偶者は相続人です。配偶者は税額軽減措置を使って、相続税をゼロにすることができます。
二次相続では、配偶者が被相続人です。相続人にはなりません。二次相続では、多くの場合、子どもが相続人です。子どもは配偶者ではありません。税額軽減措置を使えません。相続税をゼロにはできません。
二次相続シミュレーション~一次相続との相続税の違い
子どもにとって二次相続が一次相続よりも相続税が高くなることをシミュレーションしてみましょう。
モデルは、父、母、一人息子である長男の3人家族です。父は自宅(評価額5,000万円)と宅地(評価額1億円)の持ち主です。母には3,000万円の貯金があります。
相続税の計算式です。
相続税額=課税対象額×相続税率
課税対象額=遺産の評価額-基礎控除額
基礎控除額=3,000万円+600万円×相続人数
各相続人の相続税額=各相続人の課税対象額×相続税率
各相続人の課税対象額=課税対象額×法定相続分
各相続人の相続税納税額=全相続人の相続税合計額×各相続人の遺産取得割合
一次相続の例
父が亡くなりました。遺産は、自宅(評価額5,000万円)と宅地(評価額1億円)です。相続人は、母と息子の2人です。法定相続分にしたがって遺産分割します。
遺産の評価額=5,000万円+1億円=1億5,000万円
基礎控除額=3,000万円+600万円×相続人数2=4,200万円
課税対象額=1億5,000万円-4,200万円=1億800万円
母が納める相続税
母の課税対象額=1億800万円×法定相続分1/2 =5,400万円
母の相続税額=5,400万円×相続税率30%-控除額700万円=920万円
母の相続税納税額=(920万円+920万円)×遺産取得割合1/2 =920万円
母の遺産取得額=1億5,000万円×法定相続分1/2 =7,500万円
7,500万円<1億6,000万円なので、配偶者税額軽減措置により、母の相続税納税額は920万円から0円に減額
息子が納める相続税
息子の課税対象額1億800万円×法定相続分1/2 =5,400万円
息子の相続税額=5,400万円×相続税率30%-控除額700万円=920万円
息子の相続税納税額=(920万円+920万円)×遺産取得割合1/2 =920万円
二次相続の例
母が亡くなりました。遺産は、自分の貯金3,000万円と、父の遺産としてもらった7,500万円です。相続人は、息子1人です。
遺産の評価額=3,000万円+7,500万円=1億500万円
基礎控除額=3,000万円+600万円×相続人数1=3,600万円
課税対象額=1億500万円-3,600万円=6,900万円
息子の相続税額=6,900万円×相続税率30%-控除額700万円=1,370万円
息子の相続税納税額=1,370万円×1=1,370円
一次・二次トータルで支払う相続税を考慮した対策が大事
息子の相続税納税額は、一次相続よりも二次相続の方が、1,370万円-920万円=450万円多くなります。基礎控除額が減ったこと、配偶者税額軽減措置がないことが原因です。
一次相続で相続税を減らしても、二次相続で相続税が増えたのでは、節税努力も水の泡です。子どもが両親の遺産を相続する場合、一次相続の相続税だけでなく、二次相続の相続税までも見据えたトータルな相続税対策が大事です。
二次相続を見据えた節税対策
両親に財産がある場合、子どもが直面する一次相続と二次相続。二次相続までも見据えた節税対策が必要です。
節税のポイントは、二次相続で相続税負担を減らすことです。効果的な節税策として、次の3つを挙げることができます。
- 親から子どもへ生前贈与をする
- 親が生命保険に加入する
- 小規模宅地の特例を利用する
それぞれについて解説します。
親から子どもへ生前贈与をする
二次相続となる親から子どもに生前贈与をします。
贈与された財産は確実に子どものものになります。生前贈与した分だけ二次相続の遺産が減り、二次相続の相続税が安くなります。
生前贈与には贈与税がかかります。でも、贈与される人ごとに年間110万円までは非課税です。何人かの子どもに110万円以内ずつ贈与すれば非課税で済みます。1人の子どもに毎年110万円以内ずつ贈与しても非課税で済みます。
親が生命保険に加入する
二次相続となる親が生命保険に加入します。子どもを保険金の受取人にします。
生命保険金は確実に子どもに支払われます。二次相続で増えた相続税を賄えます。
生命保険金は「みなし相続財産」として、相続税がかかります。でも、「500万円×相続人数」の金額まで非課税です。その分、相続税が安くなります。
小規模宅地の特例を利用する
家と宅地を二次相続する場合、宅地について小規模宅地の特例を利用できます。
小規模宅地の特例を使うと、宅地の評価額が80%下がります。特例を使える面積は、330㎡までです。評価額が下がることで相続税も下がります。
条件が2つあります。子どもが親と生計を一にしていたこと、親が亡くなった後も子どもが10か月間以上その家に住んでいることです。
二次相続を見据えた相続税対策は専門家に相談を
この記事を読まれているのは、ご両親が亡くなったため、または亡くなったときに備えて、二次相続で注意すべき点を知りたい方かと思います。
実際にご両親の遺産を相続するとき、あなたに必要なのは、あなたのケースにふさわしい相続税対策です。相続税対策とひとくちにいっても、対策の仕方はケースにより千差万別なのです。
あなたのケースにふさわしい相続税対策をあなた自身で見つけ出すことは、とても難しいことです。相続と税の詳しい知識、さまざまな相続パターンの実務経験が必要だからです。
相続と税の詳しい知識と、さまざまな相続パターンの実務経験。この両方を兼ね備えた専門家の代表が、弁護士と税理士です。こうした専門家に相談することで、あなたがご両親の遺産をなるべく少ない税負担で相続できる可能性が高まります。
この記事が、あなたが専門家に相談する際の予備知識として活用され、実りある相談となれば幸いです。
法律のプロがスムーズで正しい相続手続きをサポート
- 相続人のひとりが弁護士を連れてきた
- 遺産分割協議で話がまとまらない
- 遺産相続の話で親族と顔を合わせたくない
- 遺言書に自分の名前がない、相続分に不満がある
- 相続について、どうしていいのか分からない