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生前贈与は遺留分減殺請求できる?相続割合の対処法

生前贈与は遺留分減殺請求できる?相続割合の対処法

この記事で分かること

  • 生前贈与が遺留分侵害額請求の対象となる5つの条件
  • 相続人への10年以内・相続人以外への1年以内の期間制限
  • 2019年改正後の遺留分制度の変化(金銭債権化)
  • 被相続人・相続人双方の対策・対処法各10項目
  • 8つのケーススタディで具体的な対応方法

生前贈与は一定条件下で遺留分侵害額請求の対象となります。相続人への10年以内、相続人以外への1年以内、双方が遺留分侵害を知ってした贈与は期間制限なし。2019年改正後の金銭債権化、特別受益との関係、被相続人・相続人双方の対策・対処法、8つのケーススタディまで実用的に詳しく解説します。

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生前贈与と遺留分の関係の基本

「生前贈与は遺留分減殺請求の対象になるのか?」「どんな生前贈与が遺留分侵害として請求できる?」「10年以上前の贈与でも対象になる?」――こうした疑問は、被相続人の生前贈与により不公平な分配を感じている相続人や、生前贈与を検討している被相続人が必ず抱える切実なものです。

生前贈与は、一定の条件下で遺留分侵害額請求(2019年改正前は「遺留分減殺請求」)の対象となります。重要なポイントは、相続人への贈与は10年以内、相続人以外への贈与は1年以内、双方が遺留分侵害を知ってした贈与は期間制限なし、ということです。本記事では、生前贈与と遺留分の関係、対象となる生前贈与の条件、2019年改正の影響、対処法、ケーススタディまで、実用的な情報を弁護士・税理士目線で詳しく解説します。

2019年改正による「遺留分減殺請求」から「遺留分侵害額請求」へ

まず、2019年改正による制度変更を確認しておきましょう。

従来の「遺留分減殺請求」

2019年6月以前は、「遺留分減殺請求」と呼ばれていました。

遺留分を侵害された相続人は、遺贈・贈与の対象財産を現物で取り戻す権利がありました。

改正後の「遺留分侵害額請求」

2019年7月1日施行の民法改正により、「遺留分侵害額請求」となりました。

現物返還ではなく、金銭で侵害額相当の支払いを請求する権利となりました。

2つの違い

両制度の主な違いは、請求の対象(現物vs金銭)、計算の複雑さ(複雑vs シンプル)、相手方の負担(現物返還の困難さvs金銭の調達)、です。

項目 従来(遺留分減殺請求) 改正後(遺留分侵害額請求)
請求の対象 現物の返還 金銭の支払い
計算 複雑 シンプル
相手方の負担 現物返還の困難さ 金銭の調達

改正後は実務上シンプルになり、相手方も金銭で対応できるため、解決が容易になりました。

改正の適用関係

2019年7月1日以後に開始した相続から、新制度(遺留分侵害額請求)が適用されます。

それ以前に開始した相続には、旧制度(遺留分減殺請求)が適用されます。

本記事の記述

本記事では、特に断らない限り、2019年改正後の「遺留分侵害額請求」を前提として記述します。

生前贈与が遺留分侵害額請求の対象となる条件

生前贈与が遺留分侵害額請求の対象となる条件を見ていきましょう。

条件1 相続人への10年以内の贈与

被相続人の生前に、相続人(配偶者・子・親など)へ贈与した財産は、相続開始前10年以内のものが遺留分計算に算入されます(2019年改正後)。

10年経過後の贈与は、原則として対象外となります。

条件2 相続人以外への1年以内の贈与

相続人以外(内縁の妻・友人・公益団体など)への贈与は、相続開始前1年以内のものが対象となります。

これは、相続人以外への贈与は相続人への贈与より影響が小さいことを考慮した規定です。

条件3 双方が遺留分侵害を知ってした贈与(期間制限なし)

当事者双方(贈与者・受贈者)が、贈与が遺留分を侵害することを知ってした贈与は、期間制限なく遺留分計算に算入されます。

たとえば、遺留分を意図的に侵害する目的で、10年以上前から計画的に贈与した場合、すべての贈与が対象となります。

条件4 特別受益に該当する贈与

相続人への贈与のうち、住宅取得資金、結婚資金、開業資金、特別な学費などは「特別受益」として扱われ、遺留分計算でも特別な取り扱いを受けることがあります。

日常的な学費・生活費は対象外です。

条件5 評価時点

贈与財産は、贈与時の価格ではなく、相続開始時の価格で評価されます。

不動産が値上がりした場合、相続開始時の高い価格で算入されるため、注意が必要です。

2019年改正による「相続人への贈与」の期間制限

2019年改正で最も大きな変化が、相続人への贈与の10年期間制限です。

改正前の取り扱い

改正前は、相続人への贈与は期間制限なしで遺留分計算に算入されていました。

何十年も前の贈与でも、遺留分計算の対象となっていました。

改正後の取り扱い

改正後は、相続人への贈与は相続開始前10年以内のものが算入されます。

10年経過後の贈与は、原則として算入されません(双方が遺留分侵害を知ってした贈与を除く)。

改正の意義

改正の意義は、長期間前の贈与をめぐる紛争の防止、計算の効率化、被相続人の意思の尊重、にあります。

長期間前の贈与は、当時の価格・事情を再現することが困難で、紛争の原因となっていました。

改正の影響

改正により、相続人への長期間前の贈与は、遺留分計算に影響しなくなりました。

被相続人は、長期的な視点で生前贈与を計画でき、相続人への財産移転がしやすくなりました。

10年期限のカウント方法

10年期限のカウントは、相続開始時(被相続人の死亡日)から逆算します。

たとえば、2024年4月1日に被相続人が死亡した場合、2014年4月1日以降の贈与が対象となります。

適用関係

2019年7月1日以後に開始した相続から、10年期限が適用されます。

それ以前の相続には、改正前のルール(期間制限なし)が適用されます。

特別受益と遺留分の関係

特別受益と遺留分の関係を、詳しく見ていきましょう。

特別受益とは

特別受益とは、被相続人の生前に特定の相続人が受けた贈与のうち、特別な利益にあたるものです(民法903条)。

住宅取得資金、結婚資金、開業資金、特別な学費(留学費用など)、などが対象となります。

特別受益と遺留分の関係

特別受益にあたる贈与は、原則として遺留分計算でも算入されます。

2019年改正で、相続人への贈与は10年以内に限定されましたが、特別受益にあたる贈与もこの10年期間制限の対象となります。

2023年改正による10年期限

2023年4月1日施行の民法改正により、特別受益・寄与分の主張は相続開始から10年以内に限定されました(民法904条の3)。

これは、遺留分計算の10年期限とは別の規定です。

特別受益と遺留分の二重の10年期限

特別受益にあたる贈与は、(1)遺留分計算上は被相続人の死亡前10年以内(2019年改正)、(2)遺産分割での主張は被相続人の死亡から10年以内(2023年改正)、という二重の10年期限があります。

両者の関係を整理して理解することが重要です。

特別受益の評価

特別受益は、相続開始時の価格で評価します。

不動産の場合、相続開始時の市場価格・路線価などで評価します。

持戻し計算

特別受益は、相続財産に「持戻し」して計算します。

たとえば、相続開始時の財産5,000万円、特別受益(住宅資金贈与)3,000万円なら、計算上の財産は8,000万円となります。

特別受益の証拠

特別受益の主張には、客観的な証拠が必要です。

贈与契約書、銀行の取引履歴、贈与税申告書、関係者の証言、などが有力な証拠となります。

特別受益と遺留分のシミュレーション

具体的なシミュレーションで見ていきましょう。

被相続人A、子B・C。被相続人の財産5,000万円、子Bへの5年前の住宅資金贈与3,000万円(特別受益)。

遺留分計算の基礎財産=5,000+3,000=8,000万円。

各人の遺留分:B=1/4=2,000万円、C=1/4=2,000万円。

被相続人が遺言で全財産(5,000万円)をBに相続させた場合、Bは合計8,000万円取得、Cは0。

Cの侵害額=2,000-0=2,000万円。CはBに対して2,000万円の侵害額請求が可能。

このように、Bは生前贈与3,000万円+遺贈5,000万円=8,000万円取得しているため、Cの侵害額を充足する責任を負います。

相続人への10年以内の贈与の取り扱い

相続人への10年以内の贈与の取り扱いを詳しく見ていきましょう。

対象となる相続人

対象となる相続人は、配偶者、子(代襲相続人含む)、親(直系尊属)、兄弟姉妹(およびその代襲相続人である甥姪)、です。

ただし、兄弟姉妹・甥姪は遺留分がないため、これらへの贈与が遺留分計算に算入されても、本人らは遺留分を主張できません。

10年以内のすべての贈与

2019年改正後、相続人への10年以内のすべての贈与が、原則として遺留分計算の基礎財産に算入されます。

特別受益にあたるかにかかわらず、10年以内なら算入されます。

特別受益にあたる場合

特別受益にあたる贈与(住宅資金・結婚資金など)は、10年以内なら確実に算入されます。

2023年改正(特別受益10年期限)とも整合的です。

特別受益にあたらない場合

特別受益にあたらない通常の贈与(暦年贈与110万円など)も、10年以内なら遺留分計算に算入されます。

ただし、暦年贈与など扶養の範囲内の贈与は、特別受益とはみなされず、遺留分計算の対象外となる場合があります。判例の動向を注視する必要があります。

10年期限の例外

当事者双方が遺留分侵害を知ってした贈与は、10年経過後でも算入されます。

意図的な遺留分回避を防ぐための規定です。

立証責任

当事者双方が遺留分侵害を知っていたことは、遺留分侵害額請求をする側が立証する必要があります。

証拠の収集が重要です。

相続人以外への1年以内の贈与の取り扱い

相続人以外への1年以内の贈与の取り扱いを詳しく見ていきましょう。

対象となる相続人以外

対象となる相続人以外は、内縁の妻・夫、連れ子(養子縁組していない場合)、友人、公益団体、お世話になった人、などです。

1年以内のすべての贈与

相続人以外への1年以内のすべての贈与が、遺留分計算の基礎財産に算入されます。

1年経過後の贈与は、原則として算入されません。

1年期限の例外

当事者双方が遺留分侵害を知ってした贈与は、1年経過後でも算入されます。

ただし、立証は遺留分侵害額請求をする側にあります。

適用例

たとえば、被相続人が死亡前6ヶ月に内縁の妻に5,000万円を贈与した場合、これは遺留分計算に算入されます。

他の相続人(配偶者・子など)は、内縁の妻に対して遺留分侵害額請求が可能です。

1年経過後の贈与

1年経過後の贈与は、原則として遺留分計算に算入されません。

被相続人と相続人以外との早期の財産移転は、遺留分への影響を受けにくくなります。

2019年改正の意義

2019年改正により、相続人と相続人以外で期間制限が異なる(10年vs1年)構造が維持されました。

これは、相続人への贈与の方が遺留分への影響が大きいという考えに基づきます。

生前贈与に対する遺留分侵害額請求の手続き

生前贈与に対する遺留分侵害額請求の手続きを見ていきましょう。

ステップ1 生前贈与の事実の把握

最初のステップは、生前贈与の事実の把握です。

被相続人の銀行取引履歴(過去10年)、贈与税申告書、関係者の証言、被相続人の手紙・メモなどから、生前贈与の有無と内容を把握します。

ステップ2 遺留分侵害の判定

次に、生前贈与により遺留分が侵害されているかを判定します。

遺留分計算の基礎財産に生前贈与を加えて、自分の遺留分を計算します。実際取得分との差額が侵害額となります。

ステップ3 請求対象者の確認

請求対象は、受贈者(生前贈与を受けた人)です。

複数いる場合、まず受遺者(遺言で財産を取得した人)から、次に新しい贈与から順に請求対象となります(民法1047条)。

ステップ4 内容証明郵便での意思表示

時効1年内に、内容証明郵便で受贈者に対して遺留分侵害額請求の意思表示を行います。

配達証明を取得することが推奨されます。

ステップ5 交渉

意思表示後、受贈者との交渉を進めます。

弁護士の代理が有効です。

ステップ6 調停・訴訟

交渉で解決できない場合、家庭裁判所での調停、または地方裁判所での訴訟、に進みます。

ステップ7 解決と金銭支払い

解決すると、受贈者から遺留分侵害額相当の金銭が支払われます。

2019年改正により、現物返還ではなく金銭債権化されたため、実務上シンプルになりました。

複数の受遺者・受贈者がいる場合の請求順序

複数の受遺者・受贈者がいる場合の請求順序は、次のとおりです(民法1047条)。

順序1 受遺者

最初の請求対象は、遺言で財産を取得した受遺者です。

複数の受遺者がいる場合、取得財産の価額に応じて按分します。

順序2 受贈者(新しい贈与から順)

受遺者で侵害額が充足されない場合、受贈者(生前贈与を受けた人)に請求します。

複数の受贈者がいる場合、新しい贈与から順に請求対象となります。

順序の例

たとえば、被相続人が遺言で財産5,000万円をAに遺贈、5年前にBへ3,000万円贈与、10年前にCへ2,000万円贈与、と複数の財産移転がある場合。

請求順序は、(1)受遺者A、(2)新しい贈与の受贈者B、(3)古い贈与の受贈者C、です。

2019年改正後の取り扱い

2019年改正後、この請求順序は明確化されました。

従来の遺留分減殺請求では、減殺の順序が複雑でしたが、改正後はシンプルになりました。

受贈者の負担

受贈者は、自分が取得した贈与の範囲で侵害額を負担します。

たとえば、3,000万円の贈与を受けたBは、最大3,000万円までの負担となります。

被相続人の対策(生前贈与での遺留分対策)

被相続人の立場で、生前贈与での遺留分対策を見ていきましょう。

対策1 早期の贈与開始

遺留分対策としての生前贈与は、早期に開始することが重要です。

被相続人の死亡前10年以上前に贈与すれば、原則として遺留分計算の対象外となります(双方が遺留分侵害を知ってした贈与を除く)。

対策2 暦年贈与の活用

年110万円までの暦年贈与は、贈与税が課されません。

複数年にわたる暦年贈与は、長期間で見ると大きな財産移転となります。

対策3 教育資金一括贈与の活用

祖父母から孫への教育資金一括贈与(1,500万円まで非課税・2026年3月末まで)を活用すれば、孫への直接の財産移転が可能です。

孫は法定相続人でないため(代襲相続人・養子の場合を除く)、遺留分の対象とならない場合があります。

対策4 住宅取得資金贈与の活用

父母・祖父母から子・孫への住宅取得資金贈与(最大1,000万円まで非課税・2026年12月末まで)も有効です。

住宅取得という明確な目的のため、特別受益にあたる可能性が高くなります。

対策5 結婚・子育て資金一括贈与の活用

父母・祖父母から子・孫への結婚・子育て資金一括贈与(1,000万円まで非課税・2027年3月末まで)も有効です。

対策6 相続時精算課税の検討

相続時精算課税(累計2,500万円までの特別控除+年110万円の基礎控除)を活用すれば、大型贈与が可能です。

ただし、被相続人の死亡時に相続財産に加算されるため、遺留分計算にも影響します。

対策7 遺留分放棄の活用

被相続人の生前に、相続人が家庭裁判所の許可を得て遺留分を放棄することが可能です。

事業承継などで、特定の相続人に確実に財産を渡したい場合に有効です。

対策8 家族会議の開催

家族会議を開催し、被相続人の意思と贈与の理由を相続人全員に説明することで、後のトラブルを予防できます。

透明性と理解の促進が、遺留分紛争の予防に有効です。

対策9 遺言書での意思表示

遺言書で、生前贈与の経緯と被相続人の意思を明確に記載しておくことで、相続人の理解を促進できます。

公正証書遺言が推奨されます。

対策10 専門家との相談

複雑な事案では、弁護士・税理士・司法書士などの専門家との相談が不可欠です。

遺留分対策と税務対策を両立する戦略が立てられます。

相続人側の対処法(生前贈与で遺留分侵害された場合)

相続人の立場で、生前贈与により遺留分が侵害された場合の対処法を見ていきましょう。

対処法1 生前贈与の調査

最初の対処法は、生前贈与の事実を調査することです。

被相続人の銀行取引履歴(過去10年)、贈与税申告書、関係者の証言、被相続人の手紙・メモなど、可能な限りすべての情報を収集します。

対処法2 弁護士への早期相談

生前贈与の調査と並行して、弁護士に早期相談することが重要です。

時効(1年)が短いため、迅速な対応が必要です。

対処法3 銀行への取引履歴開示請求

銀行に対して、被相続人の取引履歴を開示請求できます。

法定相続人としての権利として、過去10年の取引履歴を取得可能です。

対処法4 内容証明郵便での意思表示

時効1年内に、内容証明郵便で受贈者に対して遺留分侵害額請求の意思表示を行います。

弁護士の代理が推奨されます。

対処法5 交渉

意思表示後、受贈者との交渉を進めます。

弁護士の代理により、感情的対立を回避しながら合意形成が可能です。

対処法6 調停・訴訟

交渉で解決できない場合、調停・訴訟に進みます。

費用と時間がかかるため、早期の解決を目指します。

対処法7 専門家との連携

弁護士・税理士・不動産鑑定士などの専門家との連携が、確実な対応につながります。

ワンストップ事務所の活用が効率的です。

対処法8 証拠の保全

生前贈与の事実を示す証拠は、確実に保全しましょう。

銀行の取引履歴は、保存期間(10年)に注意が必要です。

対処法9 双方が遺留分侵害を知っていたことの主張

10年経過後の贈与でも、当事者双方が遺留分侵害を知っていたと主張・立証できれば、遺留分計算に算入できます。

証拠収集が重要です。

対処法10 早期対応の重要性

遺留分侵害額請求は、時効1年(除斥期間10年)と短いため、早期対応が極めて重要です。

ためらわず弁護士に相談しましょう。

ケーススタディ

具体的なケーススタディで、生前贈与と遺留分の関係を見ていきましょう。

ケース1 相続人への10年以内の住宅資金贈与

【ケース】

被相続人:A(75歳)
相続人:子B・C
Aの財産:5,000万円
状況:子Bへの3年前の住宅資金贈与3,000万円

基礎財産=5,000+3,000=8,000万円。

各人の遺留分:B=1/4=2,000万円、C=1/4=2,000万円。

Aが遺言で全財産(5,000万円)をBに相続させたケース。

B=合計8,000万円取得、C=0。Cの侵害額=2,000万円。

CはBに対して2,000万円の侵害額請求が可能。Bは生前贈与3,000万+遺贈5,000万=8,000万円取得のため、2,000万円の支払い後も6,000万円残る。

ケース2 10年経過した贈与は対象外

【ケース】

被相続人:D(80歳)
相続人:子E・F
Dの財産:4,000万円
状況:子Eへの15年前の贈与4,000万円

2019年改正により、相続人への10年経過した贈与は遺留分計算の対象外。

基礎財産=4,000万円(Eへの15年前の贈与は算入されない)。

各人の遺留分:E=1/4=1,000万円、F=1/4=1,000万円。

Dが遺言で全財産(4,000万円)をEに相続させたケース。

E=4,000万円取得、F=0。Fの侵害額=1,000万円。FはEに侵害額請求可能。

ただし、15年前の贈与4,000万円は遺留分計算に影響しない。

ケース3 内縁の妻への1年以内の贈与

【ケース】

被相続人:G(80歳)
相続人:子H・I
内縁の妻:J(20年同居)
Gの財産:6,000万円
状況:内縁の妻Jへの6ヶ月前の贈与3,000万円

基礎財産=6,000+3,000=9,000万円(Jは相続人以外で1年以内の贈与のため算入)。

各人の遺留分:H=1/4=2,250万円、I=1/4=2,250万円。

Gが遺言で全財産(6,000万円)を内縁の妻Jに遺贈したケース。

H=0、I=0。各人の侵害額=2,250万円。H・IはJ(受遺者+受贈者)に対して各2,250万円の侵害額請求が可能。

ケース4 双方が遺留分侵害を知ってした贈与

【ケース】

被相続人:K(85歳)
相続人:子L・M
Kの財産:2,000万円
状況:子Lへの15年前の贈与5,000万円

原則として、15年前の贈与は10年経過のため遺留分計算の対象外。

しかし、Mが「K・Lの両者が、Mの遺留分を侵害することを知って贈与した」と立証できれば、15年前の贈与も算入可能。

証拠(K・Lの手紙、関係者の証言など)が決め手となる。立証できれば、基礎財産=2,000+5,000=7,000万円、Mの遺留分=1/4=1,750万円。

ケース5 教育資金一括贈与の活用

【ケース】

被相続人:N(70歳)
家族:子O(45歳)、孫P・Q(15歳・12歳)
Nの財産:1.2億円

NはP・Qに教育資金一括贈与の特例で各1,500万円ずつ(計3,000万円)を贈与。

これによりNの財産は9,000万円に減少。孫P・Qは法定相続人ではないため、遺留分計算に影響しない(相続人以外への1年以内の贈与でない限り)。

孫への直接の財産移転と相続税対策を両立できた事例。

ケース6 暦年贈与の長期活用

【ケース】

被相続人:R(65歳)
相続人:子S・T
状況:Rは10年間で子Sに毎年110万円(計1,100万円)を暦年贈与

2019年改正後、相続人への10年以内の贈与は遺留分計算に算入される。

1年目から10年目の贈与すべてが対象となる場合、合計1,100万円が基礎財産に算入される。

ただし、暦年贈与で扶養の範囲内の場合、特別受益とみなされないという判例もあり、解釈の余地がある。

ケース7 相続時精算課税の活用

【ケース】

被相続人:U(70歳)
相続人:子V・W
状況:UはVに相続時精算課税で5,000万円を贈与

被相続人の死亡時に、相続財産に加算される。

基礎財産にも算入されるため、Wの遺留分計算ではVへの5,000万円が考慮される。

ケース8 公益団体への遺贈

【ケース】

被相続人:X(80歳・独身・子なし・両親死亡・兄弟姉妹なし)
財産:1億円

Xは公正証書遺言で、全財産を公益団体に遺贈。

法定相続人がいないため、遺留分の問題なし。公益団体が全額(1億円)を取得。

法定相続人不在の場合の遺贈寄付の事例。

ケーススタディから学ぶ点

複数のケースから、10年以内の相続人への贈与の影響、10年経過後は原則対象外、内縁の妻など相続人以外への1年以内の贈与の影響、双方が遺留分侵害を知ってした贈与の立証の困難さ、孫への直接贈与の活用、暦年贈与の解釈、公益団体への遺贈、が確認できます。

生前贈与と遺留分に関するよくある質問

生前贈与と遺留分について、よくある質問にお答えします。

Q1 生前贈与は遺留分減殺請求(現在は遺留分侵害額請求)の対象になりますか?

はい、一定の条件で対象になります。相続人への贈与は10年以内、相続人以外への贈与は1年以内、双方が遺留分侵害を知ってした贈与は期間制限なし、です。

Q2 10年以上前の贈与は完全に対象外ですか?

原則として対象外ですが、双方が遺留分侵害を知ってした贈与は例外です。立証が必要です。

Q3 子の住宅資金贈与は遺留分計算に影響しますか?

はい、10年以内なら遺留分計算に算入されます(特別受益として)。

Q4 暦年贈与(年110万円)も遺留分計算に算入される?

10年以内の相続人への暦年贈与は、原則として算入されます。ただし、扶養の範囲内の場合は特別受益とみなされない可能性があります。

Q5 内縁の妻への贈与は遺留分計算の対象?

内縁の妻は相続人以外のため、1年以内の贈与のみが対象です。

Q6 孫への教育資金贈与は遺留分計算に影響する?

孫が法定相続人でない場合、相続人以外への贈与として扱われ、1年以内のみ対象です。代襲相続人や養子の場合は、相続人として10年以内が対象となります。

Q7 公益団体への遺贈は遺留分計算の対象?

1年以内の贈与なら対象です。遺贈(遺言による財産承継)は、相続開始時の財産として遺留分計算に算入されます。

Q8 遺留分侵害額請求の時効は?

相続開始と侵害を知った時から1年、または相続開始から10年です。

Q9 生前贈与が複数ある場合の請求順序は?

まず受遺者(遺言で財産を取得した人)、次に新しい贈与の受贈者から順に請求対象となります(民法1047条)。

Q10 生前贈与の調査方法は?

銀行の取引履歴開示請求(過去10年)、贈与税申告書の確認、関係者の証言、被相続人の手紙・メモなどで調査します。

被相続人と相続人双方への専門家活用

生前贈与と遺留分の事案では、専門家のサポートが極めて有効です。

弁護士の役割

弁護士は、生前贈与の調査、遺留分の判断、侵害額請求の代理、調停・訴訟、生前対策の遺言書作成、を担当します。

費用は、遺留分侵害額請求の代理で30万円〜100万円+成功報酬10〜20%、調停・訴訟で100万円〜500万円、生前対策で10万円〜100万円、が目安です。

税理士の役割

税理士は、相続税申告、贈与税申告、各種特例の適用、を担当します。

費用は、相続税申告で財産の0.5%〜1%(最低30万円)、贈与税申告で数千円〜数万円、相続税対策コンサルティングで30万円〜100万円、が目安です。

不動産鑑定士の役割

不動産がある相続では、不動産鑑定士の関与が有効です。

費用は、物件あたり20万円〜50万円、が目安です。

ワンストップ事務所の活用

弁護士・税理士・司法書士・不動産鑑定士が連携するワンストップ事務所は、生前贈与と遺留分の事案で大きなメリットがあります。

複雑な事案では、専門家チームの活用が効率的です。

無料相談の活用

多くの専門家が初回無料相談を提供しています。

複数の事務所で相談を受け、信頼できる専門家を選ぶことが大切です。

2024年現在の生前贈与と遺留分をめぐる動向

生前贈与と遺留分をめぐる2024年現在の動向を整理しておきましょう。

動向1 2019年改正の影響継続

2019年7月施行の民法改正(金銭債権化・相続人への贈与10年期限)の影響は継続中です。

実務上シンプルな対応が可能となっています。

動向2 2023年改正(特別受益・寄与分10年期限)

2023年4月施行の民法改正により、特別受益・寄与分の主張は相続開始から10年以内に限定されました。

遺留分計算の10年期限とは別の規定です。

動向3 2024年税制改正(暦年贈与7年加算)

2024年税制改正で、暦年贈与の生前贈与加算期間が3年→7年に延長されました。

ただし、これは相続税の規定で、遺留分計算とは別です。

動向4 暦年贈与から相続時精算課税へのシフト

2024年改正により、相続時精算課税の使い勝手が大幅に向上し、暦年贈与から相続時精算課税へのシフトが進んでいます。

遺留分計算では両者とも考慮が必要です。

動向5 デジタル資産の取り扱い

暗号資産・NFT・SNSアカウントなど、デジタル資産の生前贈与・遺留分計算が課題となっています。

評価方法、贈与の証拠保全などで、専門的判断が必要です。

動向6 国際相続の増加

海外資産・海外居住の相続人を含む国際相続が増加しています。

生前贈与と遺留分の国際的な対応が必要です。

生前贈与と遺留分対応のためのチェックリスト

最後に、チェックリストを整理しておきましょう。

チェック1 生前贈与の事実の把握

被相続人の銀行取引履歴・贈与税申告書などから、過去10年以内の生前贈与を把握しましたか?

チェック2 受贈者の確認

受贈者が相続人か相続人以外かを確認しましたか?

チェック3 期間の確認

相続人への贈与は10年以内、相続人以外への贈与は1年以内、を確認しましたか?

チェック4 特別受益への該当

特別受益(住宅資金・結婚資金・開業資金など)に該当するか確認しましたか?

チェック5 評価時点

贈与財産を相続開始時の価格で評価しましたか?

チェック6 遺留分計算

基礎財産+10年以内の相続人への贈与+1年以内の相続人以外への贈与-債務、で正確に計算しましたか?

チェック7 侵害額の算定

個別の遺留分-実際取得分-相続債務、で侵害額を算定しましたか?

チェック8 時効の管理

相続開始と侵害を知った時から1年(除斥期間10年)の時効を意識していますか?

チェック9 内容証明郵便での意思表示

時効内に、受贈者に対して内容証明郵便で意思表示を行いましたか?

チェック10 専門家への相談

複雑な事案では、弁護士・税理士・不動産鑑定士などの専門家に相談しましたか?

これらのチェックを通じて、適切な対応が実現できます。

ワンポイントアドバイス
生前贈与は、一定の条件下で遺留分侵害額請求(2019年改正前は「遺留分減殺請求」)の対象となります。重要なポイントは、相続人への贈与は10年以内、相続人以外への贈与は1年以内、双方が遺留分侵害を知ってした贈与は期間制限なし、ということです。2019年改正により、現物返還から金銭債権化されたため、実務上シンプルになりました。被相続人の立場では、早期の生前贈与開始、暦年贈与の活用、教育資金・住宅資金・結婚子育て資金などの特例の活用、家族信託の検討、遺留分放棄の活用、が有効な対策となります。相続人の立場では、生前贈与の事実調査、遺留分計算、内容証明郵便での意思表示、弁護士への早期相談、が重要な対処法です。時効1年と短いため、早期対応が不可欠です。複雑な事案(複数の贈与・不動産・債務多数など)では、相続に詳しい弁護士・税理士への早期相談が、確実な権利保護と家族関係の維持の両立につながる最善策となります。

まとめ

生前贈与は、一定の条件下で遺留分侵害額請求の対象となります。

重要なポイントは、相続人への贈与は相続開始前10年以内、相続人以外への贈与は相続開始前1年以内、双方が遺留分侵害を知ってした贈与は期間制限なし、ということです。

2019年7月施行の民法改正により、「遺留分減殺請求」が「遺留分侵害額請求」に変わり、現物返還から金銭債権化されました。実務上シンプルな対応が可能となっています。

特別受益(住宅資金・結婚資金・開業資金など)にあたる贈与は、10年以内なら確実に遺留分計算に算入されます。

被相続人側の対策として、早期の生前贈与開始、暦年贈与の活用、教育資金・住宅資金・結婚子育て資金などの特例の活用、家族信託の検討、遺留分放棄の活用、が有効です。

相続人側の対処法として、生前贈与の事実調査、遺留分計算、内容証明郵便での意思表示、弁護士への早期相談、が重要です。時効は1年(除斥期間10年)と短いため、早期対応が不可欠です。

読者の方が「生前贈与により遺留分が侵害されているか心配」「遺留分を考慮した生前贈与を検討したい」「複雑な事案で困っている」と考えているなら、まずは相続に詳しい弁護士・税理士に早めに相談することを強くおすすめします。早期の相談と適切な対応が、確実な権利保護と家族関係の維持の両立につながる最善策となります。

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