2019/12/20 892view

生前贈与された財産は遺留分減殺請求できる?相続割合に納得できない場合

この記事で分かること
  1. 生前贈与された財産を取戻すには、遺留分減殺請求を行うのが一番である。
  2. 兄弟姉妹以外の法定相続人は、遺留分減殺請求を行うことができる。
  3. 減殺の対象となる生前贈与には3つのパターンがあり、このいずれかにあてはまることが必要である。
  4. 減殺請求は裁判以外でもできるが、裁判以外なら内容証明郵便が一番よい方法である。
  5. 生前贈与に対する遺留分減殺請求には、1年間と10年間という2種類の期間制限がある。
  6. 減殺請求により、遺留分に相当する財産が遺留分権者の物として戻ってくる。
  7. 法改正により、2019年7月からは、減殺請求により、遺留分権者は金銭支払い請求権を手にすることになる。

生前贈与に納得いかない遺留分権者は、遺留分減殺請求によって、贈与された財産を取戻すことができます。それには、減殺対象となる生前贈与の時期、減殺請求できる期間などについて注意が必要です。財産をしっかりと取戻すには、正しい法律知識が必要です。生前贈与された財産を遺留分減殺によって取戻したいと思ったら、まず弁護士に相談するのが一番です。

生前贈与に対する遺留分減殺請求とは

遺留分を損なう生前贈与が行われた場合、遺留分を持つ人(遺留分権者)が、生前贈与された財産のうち、損なわれた遺留分に相当する財産を取戻すことが、生前贈与に対する遺留分減殺です。

この記事では、生前贈与に対する遺留分減殺請求ができる場合・方法・期間、遺留分減殺された生前贈与の行方について解説します。

遺留分を損なう生前贈与は遺留分減殺請求で取戻せる

ある人が亡くなったとします。その人はある程度の財産を持っていました。本来ならば、法定相続人同士で遺産分けの話し合い(遺産分割協議)となるはずです。

ところが、故人の財産はすべて、生前に、1人の法定相続人に与えられていることがわかりました(生前贈与)。

当然、他の相続人は怒ります。いくら何でも1人でもらいすぎだ、不公平だと。そして、自分たちも遺産をもらう方法を考えます。

遺産はすべて1人の相続人に生前贈与されています。それなら、生前贈与された財産の中から自分たちがもらうべき分を取り返そうと考えます。取り返すには、法律的な根拠が必要です。それが、遺留分減殺(げんさい)請求です。

遺留分とは、兄弟姉妹以外の法定相続人が必ずもらえる遺産の割合です。兄弟姉妹以外の法定相続人が、遺留分権者です。

遺留分権者は、自分の遺留分を損ねた分の生前贈与について、これをなかったことにできます。これが、遺留分減殺です。遺留分減殺することを生前贈与をもらった人(受贈者)に伝えることが、遺留分減殺請求です。遺留分減殺請求により、遺留分を損ねた生前贈与分の財産が減殺請求した人の物として戻ってきます。

モデルケース:兄弟間の不公平

生前贈与により兄弟間に不公平が生じることがあります。生前贈与に対する遺留分減殺請求を行うモデルケースです。

弁護士への相談事例によく見られるモデルケースを一件紹介します。

勝手に生前贈与を進め兄だけが財産を独り占めした

“不仲な兄と弟。父の相続人となる人は、この2人のみ。父亡き後、遺産をめぐる兄弟の争いとなることは明らか。兄は父と生活を共にして助けてくれた。弟は、実家にも寄り付かず勝手きままな生活。死期の近いことを悟った父は、すべての財産を長男である兄に生前贈与した。”

父の死後、遺産はないので、兄弟間の遺産分割をめぐる争いは生まれません。しかし、争いは、兄への生前贈与に対する弟からの遺留分減殺請求へと姿を変え、続いていきます。

ワンポイントアドバイス
生前贈与に対する遺留分減殺については、対象となる生前贈与、減殺請求できる期間についての決まりがあります。遺留分減殺できる生前贈与かどうかはケースにより異なります。まず、この記事で生前贈与に対する遺留分減殺についての予備知識を頭に入れてください。そのうえで、あなたのケースの具体的な中身を弁護士に話しましょう。あなたにふさわしいアドバイスしてもらえることと思います。

生前贈与に遺留分減殺請求できる3つのパターン

生前贈与に対して遺留分減殺請求をするには、次の3つのパターンのいずれかに当てはまることが必要です。

相続開始1年以内に行われたすべての贈与

相続開始1年以内に行われたすべての贈与に対して、遺留分減殺請求ができます。条文に明らかです。

遺留分減殺の対象は、贈与した人(贈与者)が亡くなる直前の1年以内に行われた贈与でなければなりません。贈与者が亡くなる何年も前の贈与について減殺請求されることは、贈与された財産をもとに生活を築き上げた受贈者にとって迷惑な話だからです。

相続開始1年以前の贈与で、遺留分を損なうことを贈与者・受贈者ともに知っていた場合

生前贈与が遺留分を損なうことを、贈与者と受贈者の両方が知っていた場合です。条文に明らかです。

贈与者が亡くなる直前の1年以内に行われた贈与はもちろん、それよりも前に行われた贈与に対しても、遺留分減殺請求ができます。

生前贈与が遺留分を損なうことを受贈者が知っていた以上、贈与者が亡くなる何年も前の贈与に対して減殺請求されても、文句はいえません。生前贈与が遺留分を損なうことを贈与者が知っていた以上、受贈者への贈与が思い通りに行かなくなっても、文句はいえません。

「遺留分を損なうことを知っていた」とは

「遺留分を損なうことを知っていた」とは、贈与の時だけでなく将来においても遺留分を損なうことを知っていたことと考えるのが判例です(大審院判決昭和11年6月17日)。

生前贈与によって遺留分が損なわれても、その後で贈与者の財産が増えれば、遺留分を損なう状態は解消されます。遺留分権者は困ることはありません。遺留分を損なう状態が解消されると思っていた受贈者に対し、何年も経ってからの減殺請求の負担を強いるべきではありません。

特別受益に当たる贈与は時期を問わず減殺請求できる

婚姻、養子縁組、生計の資本のいずれかを目的とする相続人への生前贈与を、特別受益といいます。

特別受益に当たる生前贈与に対して遺留分減殺請求ができるかどうか、条文に明らかではありません。

この点について、最高裁判所は次の判断を示しています(最高裁判決平成10年3月24日)。

“民法903条1項の定める相続人に対する贈与は、右贈与が相続開始よりも相当以前にされたものであって、その後の時の経過に伴う社会経済事情や相続人など関係人の個人的事情の変化をも考慮するとき、減殺請求を認めることが右相続人に酷であるなどの特段の事情のない限り、民法1030条の定める要件を満たさないものであっても、遺留分減殺の対象となるものと解するのが相当である。“

特別受益に当たる生前贈与は、受贈者に厳しすぎるなどの特別の事情がない限り、生前贈与の時期を問わず、遺留分減殺の対象になるということです。

ワンポイントアドバイス
生前贈与の3パターンのいずれに当たるかの判断が重要です。贈与契約はいつ結ばれたか、
贈与者と受贈者は遺留分を損なうことを知っていたか、生前贈与が特別受益に当たるか、減殺請求を認めることが特別受益者に厳しすぎる特別の事情があるか。これらがポイントです。事実関係の調査と法律的判断が必要です。それらの専門家である弁護士に相談することをお勧めします。

遺留分減殺請求の方法

遺留分減殺請求は、遺留分権者から受贈者に対し、遺留分減殺をするとの意思をはっきりと示す方法で行います。

遺留分減殺請求を行うには、次の3つの方法があります。

内容証明郵便による通知

減殺の意思をはっきりと示すために、裁判を起こす必要はないとするのが判例です(最高裁判決昭和41年7月14日)。対面、電話、メール、手紙など、受贈者に対して遺留分減殺の意思をはっきりと示すものであれば、その方法を問いません。

減殺の意思を示したことがはっきりした形で残る方法として、内容証明郵便の利用をお勧めします。遺留分減殺の意思を示した手紙を内容証明郵便として受贈者に送る方法です。

手紙の内容が、発送者である遺留分権者の他、郵便局にも残ります。手紙を受贈者が捨ててしまったり、遺留分権者がなくしてしまっても、郵便局には内容が残ります。遺留分減殺の意思を示したことが確実に形で残ります。内容証明郵便の書式は、市販されています。

調停

遺留分減殺請求について裁判所できちんとした形で解決したい場合、調停と訴訟の2つの方法があります。ただし原則として、まず調停の申立てをしなければなりません。親族間の争いごとはなるべく話し合いで解決した方がしこりが残らず、後々の親族関係のためによいからです。

遺留分権者から受贈者に対して、遺留分減殺の調停を申し立てます。遺留分権者が申立人、受贈者が相手方となります。

申立先は、相手方である受贈者の住所地を担当区域とする家庭裁判所、または申立人と相手方の話し合いで決めた家庭裁判所です。

申立ては、申立書を提出する形で行います。申立て手数料として1200円分の収入印紙、当事者への通知用の郵便切手、相続関係を示す戸籍謄本などを添付します。郵便切手と添付書類の内訳については、申立てをする家庭裁判所に事前に確認しましょう。

申立てがあると、裁判官と2名の家事調停委員をメンバーとする調停委員会によって調停が行われます。

訴訟

調停で話がまとまらない場合、遺留分権者から受贈者に対して、遺留分減殺請求訴訟を起こすことができます。遺留分権者が原告、受贈者が被告となります。

訴訟を申し立てるには、被告の住所地、または贈与者(被相続人)の最後の住所地を担当区域とする地方裁判所または簡易裁判所です。請求額140万円以内であれば簡易裁判所、140万円を超えれば地方裁判所です。

訴訟の申立ては、訴状を提出する形で行います。請求額に応じた収入印紙、当事者への通知用の郵便切手、相続関係を示す戸籍謄本などを添付します。

訴訟の申立てがあると、担当の裁判官によって訴訟手続が行われます。

ワンポイントアドバイス
内容証明郵便には、遺留分減殺の意思をはっきりと正確に書くことが必要です。自信がないときは、弁護士など法律文書の専門家に相談しましょう。また、訴状の書き方には細かな決まりがあります。決まりに従わない訴状は受け付けてもらえません。一般の人が訴状を書くのは難しいです。訴訟を起こすのなら、はじめから弁護士に相談するのが一番です。

生前贈与に対する遺留分減殺請求が行える期間

生前贈与から何年も経って減殺請求されることは、受贈者にとって迷惑な話です。生前贈与された財産をもとに生活ができあがっているからです。受贈者の生活を安定させることも大切なことです。

減殺対象となるのは、原則として、贈与者が亡くなる直前の1年以内に行われた生前贈与に限られます。受贈者の生活安定に役立ちます。

ただし、遺留分が損なわれることを贈与者と受贈者が知っていた場合、および生前贈与が結婚資金などの特別受益に当たる場合、贈与者が亡くなる1年以前の生前贈与も減殺対象になります。

結局、減殺できる生前贈与の時期を制限するだけでは、受贈者の生活安定を図るには不十分です。

法律は、より十分な形で受贈者の生活安定を図るため、減殺請求について2種類の期間制限を設けました。消滅時効と除斥期間です。

贈与者死去と生前贈与を知ってから1年で減殺請求権は時効消滅

遺留分権者が、贈与者が亡くなったこと、および減殺すべき生前贈与があることの両方を知った時から1年間、減殺請求をしないと、減殺請求権は時効によって消滅します。

贈与が減殺できるものであるという認識が必要

時効期間の開始時(起算点)のうち、「減殺すべき生前贈与があることを知った時」の意味に注意が必要です。

判例(最高裁判決昭和57年11月12日)は、次の判断を示しています。

“民法1042条にいう「減殺すべき贈与があったことを知った時」とは、贈与の事実及びこれが減殺できるものであることを知った時と解すべきである”

生前贈与があったことは知っていた。しかし、遺産総額が不明なため、遺留分額が計算できない。あるいは、遺留分額を計算したが、計算を誤り、遺留分は損なわれていないと思った。これらの場合、贈与が減殺できるものであることを知ったことにはなりません。消滅時効は進行しません。

贈与の認識があれば贈与が減殺できるものとの認識もありとされる場合あり

昭和57年11月12日の最高裁判例は、次のようにもいっています。

“相続人の財産のほとんど全部が贈与されていて遺留分権利者が右事実を認識しているという場合においては、特段の事情が認められない限り、右贈与が減殺することのできるものであることを知っていたものと推認するのが相当というべきである。”

“特段の事情の認め難い本件においては、上告人は、おそくとも昭和49年11月11日頃には本件贈与が減殺することのできる贈与であることを知っていたものと推認するのが相当というべきであって、これと同旨の説示に基づいて本件遺留分減殺請求権が時効によって消滅したものとした原審の判断は、正当として是認することができる。”

ほとんど全部の財産が贈与されていることを知っている以上、特段の事情がない限り、減殺できるものであることも知っていたと考えるべきだ。よって、消滅時効の進行が始まる。そういう内容です。

贈与者死去から10年で減殺請求権は消滅

遺留分減殺請求権は、贈与者が亡くなった時から10年経つと、消滅します。遺留分権者が、故人が亡くなったことを知っても知らなくても、生前贈与があったことを知っても知らなくても、10年の存続期間の進行は始まります。

知った知らないに関係なく、故人が亡くなったという事実だけで、期間の進行が始まります。消滅時効と異なります。除斥期間といいます。

ワンポイントアドバイス
最高裁判例のいうように、贈与の事実を知ったことにより、減殺できることまで知ったことになる場合があります。気付かないうちに1年の消滅時効期間が過ぎてしまうリスクがあります。減殺請求権の期間制限について怪しいなと思ったら、ためらうことなく弁護士に相談しましょう。

減殺請求された贈与はどうなる?

たとえば、遺留分権者が受贈者に対し、内容証明郵便で遺留分減殺の請求をしました。受贈者がもらった生前贈与はどうなるのでしょうか。

遺留分権者への返却

判例(最高裁判決昭和51年8月30日)は、次の判断を示しています。

“遺留分権利者の減殺請求により贈与又は遺贈は遺留分を侵害する限度において失効し、受贈者又は受遺者が取得した権利は右の限度で当然に減殺請求をした遺留分権利者に帰属するものと解するのが相当”

“侵害された遺留分の回復方法としては贈与又は遺贈の目的物を返還すべきものであるが、民法1041条1項が、目的物の価額を弁償することによって目的物返還義務を免れうるとして、目的物を返還するか、価額を弁償するかを義務者である受贈者又は受遺者の決するところに委ねた”

ポイントは、次の4点です。

  • 減殺請求により、生前贈与は、遺留分を損なう限度において失効する
  • 生前贈与により受贈者が取得した権利は、遺留分を損なう限度で、遺留分権者に移る
  • 受贈者から遺留分権者への権利の移転は、本来は、生前贈与した物を返す方法で行うべきである
  • 受贈者は、生前贈与された物を返すか、その価額を支払うかのいずれかの方法を選ぶことができる。

2019年7月以降は金銭支払い請求権に

このほど民法が改正されました。2019年7月1日より、遺留分減殺請求された贈与は、次のようになります。

1046条1項
“遺留分権利者及びその承継人は、受遺者(特定財産承継遺言により財産を承継し又は相続分の指定を受けた相続人を含む。以下この章において同じ。)又は受贈者に対し、遺留分侵害額に相当する金銭の支払を請求することができる”

改正前の減殺は、受贈者から遺留分権者に対する、贈与財産の返還または価額の支払いです。

改正後の減殺は、受贈者から遺留分権者に対する、金銭の支払いとなります。

ワンポイントアドバイス
法改正後に、遺留分減殺としての金銭支払いを請求する場合、「遺留分侵害額」の評価が必要になります。それには、相続財産全体の金額評価、遺留分割合の計算、遺留分の金額評価をしなければなりません。専門的な知識と経験が必要です。まずは、相続に強い弁護士に相談しましょう。

生前贈与に対する遺留分減殺請求を検討するなら、まず弁護士に相談を

生前贈与に対する遺留分減殺請求をするには、いくつかの課題があります。相続財産全体を金額評価する、自分の遺留分割合を知りその金額評価をする、減殺請求できる生前贈与かどうか判断する、減殺請求の方法を決める、減殺請求期間を過ぎていないか判断する。

これらをきちんと行うには、相続についての法律知識、および財産評価の実務経験が必要です。一般の人にとっては、かなりの難題です。独りで無理に行えば、もらえるものがもらえなくなるなどのリスクがあります。

相続についての法律知識と、財産評価の実務経験のある専門家の力を借りるのが一番です。その専門家こそが弁護士です。生前贈与に対する減殺請求をするなら、まず弁護士に相談しましょう。

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