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年金の相続手続き~被相続人が亡くなったら忘れずに!

この記事で分かること

  • 年金受給者が死亡したら年金支給を止めなければいけない。
  • 遺族は未支給年金や遺族年金(条件あり)を受け取れる。
  • 未支給年金や遺族年金は相続財産ではない。
  • 相続放棄をしても未支給年金・遺族年金は受け取れる。

年金の相続では、受け取れる年金の種類と、受け取った年金の分け方、税処理について知っておくことが大切です。未支給年金は、ほとんどの場合で発生しますから受け取り手続きを忘れずに行いましょう。遺族年金や死亡一時金の受け取りができるかの確認も行います。

年金受給者が死亡したときに行う相続手続き

年金を受給していた方が亡くなった場合、

  • 年金受給者死亡届の提出
  • 未支給年金の請求

などの手続きを行います。

また、国民年金または厚生年金に加入していた方が亡くなった場合には、一定の要件を満たすことで

  • 遺族年金(遺族基礎年金・遺族厚生年金・寡婦年金)
  • 死亡一時金

が請求できます。

以下でそれぞれ解説していきます。

年金受給者死亡届の提出

年金受給者が死亡したとき、はじめに行うのは「年金受給者死亡届(報告書)」の提出です。年金受給者死亡届を年金事務所または年金相談センターへ提出することにより、年金の支給が停止されます。

年金証書と、亡くなったことを証明する書類(死亡の記載のある戸籍謄本・死亡診断書など)を添付します。

年金受給者死亡届(報告書)の記入例:日本年金機構公式サイトより抜粋

年金受給者死亡届の提出期限

年金受給者死亡届の提出は、速やかに行わなければいけません。提出期限は年金受給者が死亡した日から、国民年金が14日以内、厚生年金は10日以内です。

葬儀などであわただしくしていると、10日はあっという間ですので注意しましょう。

年金受給者死亡届の提出が遅れると不正受給に

年金受給者死亡届の提出をしないと、受給者が亡くなっているのに年金が支給されてしまいます。遺族は受給者が亡くなったあとの年金を受け取る権利はありませんから、多く受け取ってしまった年金は返還することになります。

年金受給者死亡届の提出が必要ないケース

亡くなった方が日本年金機構にマイナンバー登録をしていた場合、基本的には年金受給者死亡届を提出する必要がありません。

年金受給者死亡届の提出について
提出先 年金事務所
街角の年金相談センター
添付書類 亡くなった方の年金証書
死亡の事実がわかる書類(戸籍謄本・死亡診断書など)
提出期限 厚生年金 死亡から10日以内
国民年金 死亡から15日以内

未支給年金の請求

未支給年金とは、年金受給者の死亡前の年金で、死亡までに支給されなかった分を言います。年金は2カ月に1度、後払いされるため、未支給年金が発生します。

未支給年金の具体例

公的年金は2・4・6・8・10・12月の15日に前月分と前々月分が支払われます。例えば、年金受給者が3月31日に死亡した場合、4月15日に支給されるはずだった2月と3月分の年金が未支給年金になります。

年金受給者の死亡により発生した未支給年金は、死亡した月の分までは支給され、遺族が受け取ってよいことになっています。上記の3月31日に死亡した場合、2月・3月分の未支給年金は4月15日に振り込まれます。

未支給年金を受け取るには請求手続きが必要

ただし、未支給年金の支給は自動的に遺族に行われるものではありません。未支給年金を受け取るには、受け取る権利を持つ遺族が請求手続きを行う必要があります。

未支給年金を受け取れる遺族

未支給年金を請求できるのは、亡くなった年金受給者と生計を同じくしていた親族です。受け取る権利のある順は以下のとおりです。

  1. 配偶者
  2. 父母
  3. 祖父母
  4. 兄弟姉妹
  5. その他の3親等内の親族
3親等内の親族:日本年金機構公式サイトより抜粋

未支給年金請求時の添付書類

未支給年金を請求する際は、「未支給年金請求書」に必要事項を記入し、下記のものを添付します。

  • 被相続人(亡くなった方)の年金証書
  • 被相続人と請求者の関係性のわかる書類(戸籍謄本など)
  • 被相続人と請求者が生計をともにしていたことがわかる書類(住民票の写しなど)
    ※被相続人と請求者が別世帯の場合は「生計同一についての別紙の様式」の添付が必要
  • 受け取りを希望する金融機関の通帳(コピー可)
未支給【年金・保険給付】請求書の記入例:日本年金機構公式サイトより抜粋

未支給年金の請求期限

未支給年金の請求期限は、年金受給者が亡くなってから5年です。通常は年金受給者死亡届の提出と同時に請求します。

遺族年金の請求

遺族年金は、生前家族の生計を維持しており、国民年金または厚生年金に加入していた方が亡くなった場合に、遺族に支払われる年金です。

家計を支えていた方が亡くなると、当然、遺族の生活は厳しくなります。遺族年金はこうした遺族の生活を支えることを目的に支給される年金です。

遺族年金は遺族基礎年金と遺族厚生年金の2種類

遺族年金には、

  • 遺族基礎年金
  • 遺族厚生年金

の2種類があります。一定の条件を満たしている場合に、遺族基礎年金と遺族厚生年金の両方、またはいずれか一方が受け取れます。

遺族年金の請求先

遺族年金請求書の提出先は、通常は住所地の市区町村役場です。ただし、国民年金第3号被保険者期間中に死亡した場合のみ、提出先は年金事務所または街角の年金相談センターとなります。

第3号被保険者とは、第2号被保険者(会社員など)に扶養されている配偶者のことです。たとえば夫の収入だけで生活しており働いていない専業主婦や、扶養内(社会保険上の扶養範囲となる年収130万円未満)で働いているパート主婦などがこれにあたります。

遺族基礎年金

国民年金に加入していた被相続人が生計維持をしていた子のある配偶者、または子は、遺族基礎年金を受け取れます。

遺族基礎年金を受け取れる人:日本年金機構公式サイトより抜粋
  • 子(18歳到達年度の末日を経過していない子、もしくは20歳未満で障害年金の障害等級1級・2級の子)のいる配偶者、または子
遺族基礎年金の支給要件:日本年金機構公式サイトより抜粋
  • 被相続人が国民年金に加入していた
  • 受取人が被相続人に生計を維持されていた

遺族厚生年金

遺族厚生年金は、厚生年金に加入していた被相続人に生計を維持されていた遺族が受け取る年金です。

遺族厚生年金を受け取れる人:日本年金機構公式サイトより抜粋
  • 子・孫(18歳到達年度の末日を経過していない、もしくは20歳未満で障害年金の障害等級1級・2級)
  • 夫・父母・祖父母(55歳以上)

遺族厚生年金は、基本的には夫に生計を維持されていた妻または子が受け取るものです。

自力での生計維持が難しい遺族への給付を目的としているため、夫は55歳以上でないと支給の対象とならず、30歳未満の子のない妻は5年間の有期給付となっています。

また、子のいる配偶者や子は、それぞれの要件を満たしている場合、遺族基礎年金と遺族厚生年金の両方を受け取ることができますから、忘れずに手続きを行いましょう。

遺族厚生年金の支給要件:日本年金機構公式サイトより抜粋
  • 被相続人が厚生年金保険に加入していた
  • 受取人が被相続人に生計を維持されていた

遺族基礎年金・遺族厚生年金請求時に必要な書類

遺族基礎年金や遺族厚生年金を請求する際は、支給要件を満たしていることを証明する書類などの添付が必要です。

遺族基礎年金・遺族厚生年金請求時に必要なもの:日本年金機構公式サイトより抜粋
必要書類等 備考
年金手帳 ・提出できないときは、その理由書
年金請求書 ・市区町村役場または年金事務所・街角の年金相談センターで入手し、必要事項を記入する
戸籍謄本(記載事項証明書) ・被相続人との続柄・請求者の氏名や生年月日の確認のため
・受給権発生日以降で、提出日から6カ月以内に交付されたもの
世帯全員の住民票の写し ・マイナンバー記入で添付を省略可能
被相続人の住民票の除票 ・世帯全員の住民票の写しに含まれている場合は不要
・マイナンバー記入で添付を省略可能
請求者の収入が確認できる書類 ・所得証書・課税(非課税)証明書・源泉徴収票など
・マイナンバー記入で添付を省略可能
子の収入が確認できる書類 ・義務教育終了前は不要
・高等学校等在学中の場合は在学証明書または学生証など
・マイナンバー記入で添付を省略可能
市区町村長に提出した死亡診断書(死体検案書)のコピーまたは死亡届の記載事項証明書 ・死亡の事実の確認
・死亡の原因の確認
・死亡年月日の確認
受取先金融機関の通帳など ・預金通帳またはキャッシュカード(コピー可)
印鑑 ・認印可
年金証書 ・他の公的年金から年金を受け取っていた場合に必要
合算対象期間が確認できる書類 ・国民年金に加入していなかった期間や、加入していたが保険料を納付していなかった期間がある場合に必要

第三者行為が死亡原因の場合に必要な書類

死亡の原因が病気などではなく、第三者行為(交通事故など、原因の一部または全部に第三者の過失があること)によるものだった場合には、下記の書類も必要です。

死亡の原因が第三者行為の場合に必要な書類:日本年金機構公式サイトより抜粋
第三者行為事故状況届 ・所定の様式あり
交通事故証明または事故が確認できる書類 ・事故証明がとれない場合は事故の内容がわかる新聞のコピーなどでも可
確認書 ・所定の様式あり
被害者に被扶養者がいる場合、扶養していたことがわかる書類 ・源泉徴収票・健康保険証のコピー・学生証のコピーなど
損害賠償金の算定書 ・損害賠償金額がすでに決定している場合
・示談書など、受領額がわかるもの

寡婦年金の請求

寡婦年金は遺族年金の一種です。国民年金の第1号被保険者、つまり自営業者などであった夫を亡くした妻へ有期給付される年金です。

寡婦年金を受け取れる人:日本年金機構公式サイトより抜粋
  • 60歳から65歳までの妻
寡婦年金の支給要件:日本年金機構公式サイトより抜粋
  • 被相続人が10年以上、第1号被保険者として保険料を払っていた
  • 婚姻期間が10年以上ある
  • 被相続人に生計を維持されていた
  • 被相続人が老齢基礎年金を受給したことがない
  • 被相続人が障害基礎年金の受給権者ではない

死亡一時金の請求

死亡一時金は、遺族基礎年金の支給要件を満たさない場合でも、被相続人が支払った年金が掛け捨てにならないように調整するものです。また、死亡一時金と寡婦年金はどちらか一方しか受け取れません。

死亡一時金を受け取れる人:日本年金機構公式サイトより抜粋
  • 遺族(配偶者・子・父母・孫・祖父母・兄弟姉妹の順)
死亡一時金の支給要件:日本年金機構公式サイトより抜粋
  • 被相続人が36カ月以上、第1号被保険者として保険料を支払っていた
  • 被相続人に生計を維持されていた
  • 被相続人が老齢基礎年金を受給したことがない
  • 被相続人が障害基礎年金の受給権者ではない
  • 遺族が遺族基礎年金や寡婦年金を受給していない

死亡一時金は遺族基礎年金や寡婦年金と併給できませんが、遺族厚生年金を受給していたとしても受け取ることができます。

ワンポイントアドバイス
遺族基礎年金・寡婦年金・死亡一時金は併給できませんが、遺族厚生年金は併給できることに注意しましょう。不明な点は弁護士などの専門家へ相談することをおすすめします。

未支給年金や遺族年金に相続税はかからない

未支給年金・遺族年金・死亡一時金を受け取ることで、相続税の負担は増えません。遺産分割の対象にもなりませんから注意しましょう。

未支給年金は相続財産ではないので、相続税はかからない

未支給年金は、相続財産ではありません。年金を受給していた被相続人と生計をともしていた家族に請求権があり、請求できる順番も決まっています。

そのため、他の相続人に請求する権利はなく、相続税もかかりません。

未支給年金に税金がかかるケースとは

未支給年金は請求者の一時所得になります。他の一時所得と合算して50万円を超えた場合には所得税・住民税がかかります。

遺族年金・寡婦年金・死亡一時金は税金なし

遺族年金も相続財産にはならず、相続税はかかりません。遺産相続の分割対象でもありません。

また、未支給年金は一時所得として扱われますが、遺族年金や寡婦年金、死亡一時金は残された遺族の生活維持が目的という性質上、非課税となっています。

ワンポイントアドバイス
未支給年金や遺族年金は他の相続人と分ける必要はありません。相続人間でもめそうなら弁護士へ相談しましょう。

相続放棄した遺族も年金は受け取れる

未支給年金や遺族年金は相続財産ではありませんから、相続放棄をしても請求できます。他の相続財産とは分けて考えましょう。

年金を受け取っても単純承認にならない

相続人となった際には「単純承認」「限定承認」「相続放棄」という3つの選択肢があります。限定承認と相続放棄を選択する際は手続きが必要ですが、単純承認は特に手続きが必要なく、相続財産を受け取ったことで単純承認したとみなされます。

そのため年金を受け取ると、相続する意思があるとみなされて単純承認と判断されてしまうのではないかと心配する方もいらっしゃるでしょう。

しかし、未支給年金や遺族年金はそもそも相続財産ではないので、受け取ったとしても単純承認にはなりません。相続放棄を選択する予定でも、請求できる年金はしっかりと受け取りましょう。

ワンポイントアドバイス
手続きに期限のある、相続放棄や限定承認についての不明な点は弁護士などの専門家へ早めに相談することをおすすめします。

年金の相続手続きは弁護士に相談を

年金の相続手続きは、意外と複雑です。止め忘れ、請求方法、どの相続人が受け取るかなど、初めての手続きに戸惑うことも多いでしょう。

他の相続人ともめないためにも、相続手続きについては、弁護士などの専門家へ相談することをおすすめします。

遺産相続は弁護士に相談を
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