2019/9/19 78view

相続財産管理人とは~相続財産管理人の役割と選任前後の手続を解説

この記事で分かること
  1. 相続人がいない、相続人がいるかいないか分からないとき、相続財産は法人となる。
  2. 相続財産管理人選任審判の申し立ては、相続債権者、特別縁故者、相続放棄者からが多い。
  3. 相続財産管理人選任の前後を通じて3回の公告によって、相続人の出現を期待する。
  4. 相続財産管理人の仕事は、複雑で専門的なものが多い。
  5. 相続財産管理人の選任を考えるのなら、まず弁護士に相談するのが一番である。

相続財産管理人の仕事は、相続財産を管理しながら、相続人を探したり、相続債権者などに弁済したりと、複雑で手のかかる仕事です。そこでは、法律の専門知識が欠かせません。弁護士や司法書士などの法律専門職が選任されることも多いです。相続財産管理人の選任を検討するなら、法律専門職の筆頭である弁護士に相談することが一番です。

相続財産管理人とは

相続財産管理人とは、相続人のいないことがはっきりしているとき、または相続人がいるかいないかはっきりしないときに、相続財産を管理する人のことです。

相続財産管理人については、民法の951条から959条という条文に定められています。

この記事では、相続財産管理人を置くことを検討している人を対象に、相続財産管理人の役割と選任前後の手続について解説します。

ワンポイントアドバイス
この記事は、相続財産管理人について、まずこれだけは知っておこうという、基本的なことがらを解説したものです。実際に相続財産管理人を立てることになれば、細かな手続についての知識が必要になります。この記事に書かれていないことも多くあります。そこで、実際に相続財産管理人を立てる場合、法律のプロである弁護士の力を借りることをお勧めします。その際、この記事を読んで相続財産管理人の基本を頭に入れたうえで弁護士に相談すれば、弁護士による説明も理解しやすいものになるでしょう。

相続財産管理人が必要となるケース

相続財産管理人が必要となるのは、相続人のいないことがはっきりしているとき、または相続人がいるかいないかはっきりしないときのいずれかです。

このうち、相続人のいないことがはっきりしているときには、2とおりの場合があります。
ひとつは、初めから相続人がいない場合です。もうひとつは、初めは相続人がいたけれども、全員が相続放棄をしたために、相続人がいなくなってしまった場合です。

それぞれについて、もう少し詳しく見てみましょう。

相続人がいない場合

相続人がいない場合とは、相続財産を残して亡くなった人(被相続人)について、初めから相続人がいない場合です。

たとえば、80歳のAさんがいます。両親はもちろん、祖父母・曽祖父母も亡くなりました。一人っ子なので、兄弟姉妹は一人もいません。生涯独身なので、妻も子供もいません。妻でない女性との間に子供をもうけたこともありません。誰かと養子縁組したこともないので、養親も養子もいません。まさに天涯孤独のAさんです。

Aさんが遺産を残して亡くなりました。亡くなった時から、Aさんには相続人はいません。初めから相続人がいない場合の一例です。

相続財産全部の包括承継人がいる場合

被相続人の遺言により相続財産全部をもらうことになった人、つまり相続財産全部の包括承継人がいるときは、相続人がいない場合には当たらないというのが最高裁判所の判例です。民法では、包括承継人は相続人と同じ権利義務を持つとされています。包括承継人が相続財産全部をもらうことは、相続人が全相続財産全部を相続するのと同じことになるわけです。

相続人が全員相続放棄した場合

相続人が全員相続放棄した場合とは、被相続人について、初めは相続人がいたけれども、相続人全員が相続放棄をしたため、最終的に相続人がいなくなった場合です。

たとえば、80歳のAさんには、一人息子Bさん、100歳の母Cさん、ただ一人の兄弟姉妹である弟Dさんがいます。妻Eさんは故人です。

Aさんが亡くなりました。Aさんは生前に多額の借金を作っていました。相続人として借金を背負うのは、誰でもいやです。相続人になる予定の人は、相続放棄を考えます。相続放棄をすれば、初めから相続人でなかったことになるので、借金を背負わずにすみます。

第1順位の相続人であるBさんが、相続放棄をしました。Bさんは、初めから相続人でなかったことになります。すると、第2順位のCさんが相続人となります。Cさんも相続放棄をしました。すると、第3順位のDさんが相続人になります。Dさんも相続放棄をしました。後に続く相続人はいません。

これで、相続人は一人もいなくなりました。相続人全員が相続放棄をしたために相続人がいなくなった一例です。

ワンポイントアドバイス
被相続人に初めから相続人がいないといえるためには、被相続人が生まれてから亡くなるまでの戸籍を調べなくてはなりません。親族の知らないところで、子供をもうけていたことなどもありうるからです。しかし、その人の一生の戸籍の在りかを調べるのは容易ではありません。結婚、離婚、子の氏の変更、養子縁組、転籍などによって戸籍が転々とすることがあるからです。戸籍の在りかが分かっても、取り寄せるのが一苦労です。取り寄せた後に戸籍を解読することも、慣れない人には大仕事です。しかし、弁護士は、「職務上請求」という方法で、一般の人が取り寄せるよりも容易に取り寄せることができます。戸籍の解読も、慣れたものです。ある人の一生の戸籍を調べることになったら、まず弁護士に相談することをお勧めします。

相続財産管理人の選任を申し立てるのは誰?

相相続財産管理人を置くことを、選任といいます。続財産管理人の選任を申し立てるのは、相続財産管理人を置きたいと思う人です。それは、どのような人なのでしょうか。

相続財産管理人を置きたいと思う人として実際に多いのは、次の3つのタイプであるといわれています。

  1. 被相続人に対して何らかの債権を持っていて、相続財産の中から債権を回収したいと思っている人(相続債権者)
  2. 被相続人と特別のつながりがあったことを理由に、相続財産の全部または一部をもらいたいと思っている人(特別縁故者)
  3. 相続人にならない手続(相続放棄)をしたけれども、相続財産を次に管理する人が決まるまで、ひとまず相続財産を管理しなければならない人(財産管理を続けている相続放棄者)

相続財産管理人を置きたいと思う人の3つのタイプそれぞれについて、少し詳しく見てみましょう。

相続債権者

被相続人に対して債権を持っていた人を、相続債権者といいます。被相続人にお金を貸していた人などです。

たとえば、被相続人がある人からお金を借りていた場合、貸主にお金を返さなくてはならないことを被相続人の債務といいます。被相続人の債務そのものは、相続人に引き継がれます。相続人が、自分が引き継いだ債務を果たさないとき、債権者は相続財産の中から債権を回収することができます。

債権の回収は、相続財産を管理する人を通じてしなければなりません。相続財産の中から債権に見合った財産を勝手に持ってくることは、許されません。

相続債権者が、債権を回収するために相続財産管理人を置きたいと思う理由が、ここにあります。

特別縁故者

 
被相続人と一緒に暮らしていたなど、被相続人と特別のつながり(縁故)があった人を、特別縁故者といいます。

縁故をもとに被相続人の生活を支えた特別縁故者の中には、生活を支えた見返りとして、相続財産の全部または一部をもらいたいと思う人がいます。

相続財産の全部または一部をもらいたい特別縁故者は、家庭裁判所に相続財産分与の審判を申し立てます。家庭裁判所は、申立人と被相続人の縁故の程度を調べます。そのうえで、財産分与を認めるかどうか、認めるとしてどのくらいの財産を分与するかを、審判によって決めます。

財産分与を認められた特別縁故者は、相続財産を管理する人を通じて、分与財産をもらいます。家庭裁判所で認められたからといって、相続財産の中から分与財産を勝手に持ってくることは、許されません。

特別縁故者が、財産分与を受けるために相続財産管理人を置きたいと思う理由が、ここにあります。

財産管理を続けている相続放棄者

相続財産とはいっても、借金などのマイナス財産が多いと、相続をしたくないと思うのが普通です。そんなときは、家庭裁判所で、自分が相続人にならない手続を取ることができます。これを、相続放棄といいます。

相続放棄が認められると、被相続人が亡くなった時からすでに、相続人ではなかったことになります。相続財産に手を出すことはできなくなります。その代わり、相続財産を管理しなくてもよいことになります。

しかし、それでは困ることが起こります。相続放棄によって相続人が1人もいなくなってしまった場合です。たとえば、被相続人には相続財産として一軒の家があったとします。相続放棄をした人が、「この家はもはや、相続放棄をした私とは関係ないから、あとは知らない。」と、家をほったらかしてしまったら、どうなるでしょうか。空き家になった家は朽ち果て、財産としての価値が下がってしまいます。空き家がいつまでもあることは、防災や防犯のうえで、隣近所の迷惑にもなります。

そこで、相続放棄をした人は、次に相続財産を管理すべき人が管理を始めるまで、財産の管理を続けなければならない決まりになっています。せっかく相続放棄をしたのに、相続財産の管理を続けなければならないのでは、相続放棄をした意味が薄れてしまいます。相続財産を管理すべき人に早くバトンタッチしたいと思うわけです。
  
相続放棄をした人が、財産管理の負担から抜け出すために相続財産管理人を置きたいと思う理由が、ここにあります。

相続財産法人とは

相続人のいないことがはっきりしている、または相続人がいるかいないかはっきりしない相続財産は、財産それ自体が法人となります。これを、相続財産法人といいます。

相続財産が法人となれば、代表者が置かれます。代表者は、法人を管理します。法人自体が財産なので、代表者は財産を管理することになります。法人代表者と財産管理者という2つの顔を持った人こそが、相続財産管理人です。

単なる財産では、代表者が置けません。相続人がいない、または相続人がいるかいないかはっきりしないので、相続人の代理人も置けません。相続財産を法人とするのは、相続人がいない、または相続人がいるかいないかはっきりしない相続財産に相続財産管理人を置くことができるようにするための、ひとつのフィクションと考えることができます。 

ワンポイントアドバイス
相続財産管理人を置きたいと思う人は、本文にある3タイプの人だけではありません。それ以外にも、相続財産管理人を置いたほうがよいケースも考えられます。3タイプの場合はもちろんのこと、3タイプ以外で相続財産管理人を置いたほうがよいのではと思うケースに行き当たったら、ためらわずに弁護士に相談しましょう。

相続財産管理人の選任申し立て~決定までの流れ

相続財産管理人を選任する手続は、家庭裁判所で行われます。

家庭裁判所での相続財産管理人選任の手続は、次の3つの段階に分かれます。

  1. 審判の申立て
  2. 審判手続
  3. 相続財産管理人選任の公告

順番に見ていきましょう

相続財産管理人選任審判の申立て

相続財産管理人選任の第1段階は、家庭裁判所に相続財産管理人選任の審判を申し立てることです。

申立てについては、次の4つの項目が重要です。

  1. 申立人
  2. 申立先
  3. 申立て費用
  4. 申立て書類

項目ごとに見ていきましょう。

申立人

審判を申し立てることのできるのは、利害関係人と検察官です。

利害関係人とは

利害関係人とは、相続財産管理人を置くか置かないかにより、法律上の影響を受ける人をいいます。相続債権者、特別縁故者、財産管理を続けている相続放棄者が、トップ3です。
    

検察官が申し立てる場合とは

申立人に検察官を加えたのは、検察官が申し立てた審判によって相続財産管理人を置いて、相続人のいない財産を国のものにすること(国庫帰属)を目指したためであるといわれています。しかし、検察官も多忙であることから、検察官が申し立てた例は、ほとんどないようです。

申立先

審判の申立先は、相続が開始した地、つまり被相続人の最後の住所地を担当区域とする家庭裁判所です。

申立て費用

申立てにかかる費用は、申立手数料、郵便切手、官報公告料です。予納金(よのうきん)が必要となることもあります。

申立手数料

家庭裁判所に審判をしてもらうことに対して支払う手数料です。申立ての時に、被相続人一人について、収入印紙800円分を納めます。

郵便切手

審判の関係者への通知に使う切手です。申立ての時に納めます。内訳は各家庭裁判所によって違うので、事前に確認しましょう。

官報公告料

相続財産管理人が選任されると、そのことが官報という国の機関紙に掲載されます。これを、官報公告といいます。相続債権者などが、誰が相続財産管理人になったかを知ることができるようにするためです。官報に掲載してもらう料金を、官報公告料といいます。相続財産管理人が選任された時に家庭裁判所に納めます。金額は3775円です。

予納金(よのうきん)

相続財産管理人の活動経費や相続財産管理人への報酬は、相続財産の中からまかなわれます。しかし、相続財産が少ない場合、活動経費や報酬がまかないきれない可能性があります。そうした場合に備えて納めるのが、予納金です。相続財産管理人が選任された時に家庭裁判所に納めます。金額は、20万円から100万円くらいです。相続財産の多い少ない、活動経費や報酬の予想額をもとに、裁判官が決めます。

申立て書類

審判の申立て書類は、申立書と添付書類に分けることができます。

申立書

  
家庭裁判所に対して、相続財産管理人の選任の審判を求める書類です。書式は、各家庭裁判所の受付窓口でもらえます。裁判所のウェブサイトからダウンロードすることもできます。
参考)裁判所WEBサイト|相続財産管理人の選任の申立書
http://www.courts.go.jp/saiban/syosiki_kazisinpan/syosiki_01_15/index.html

添付書類

  
被相続人の生まれてから亡くなるまでの全ての戸籍謄本または戸籍記載事項証明書など、いくつかの書類が必要となります。各家庭裁判所によって若干の違いがあるので、事前に確認しましょう。おおよそどのような書類が必要になるかについては、裁判所のウェブサイトをご参照ください。

参考)裁判所WEBサイト|相続財産管理人の選任
http://www.courts.go.jp/saiban/syurui_kazi/kazi_06_15/index.html

相続財産管理人選任の審判手続

相続財産管理人選任の第2段階は、家庭裁判所での審判手続です。

審判手続について、次の2項目に分けて見てみましょう。

  1. 審判手続の大まかな流れ
  2. 選任についての2つの問題~資格の有無、選任されない理由

審判手続きのおおまかな流れ

審判手続の大まかな流れは、次のとおりです。

審判では、相続財産管理人を置くべきかどうか、相続財産管理人にふさわしい人は誰か、という2つのテーマについて審理されます。
             
審理は、審判期日において裁判官が関係者から話を聴く、調査期日において家庭裁判所調査官が関係者から話を聴く、関係者や関係機関に文書で問い合わせるという、3つのパターンが中心となります。

裁判官が審判のテーマについての判断の確信に達したところで、裁判官による審判が行われます。

審判には、申立てを認める審判と申立てを認めない審判とがあります。申立てを認める審判は、「〇〇を被相続人××の相続財産管理人に選任する」という審判です。申立てを認めない審判は、「申立てを却下する」という審判です。どちらの審判に対しても、不服申し立てはできません。

選任についての2つの問題~資格の有無、選任されない理由

相続財産管理人の選任について、2つの問題があります。ひとつは、選任されるのに資格が必要かということ。もうひとつは、審判が却下されて相続財産管理人が選任されない場合のその理由についてです。

順番に見ていきましょう。

選任されるのに資格は必要?

相続財産管理人として選任されるのに、特別の資格は必要ありません。一部の関係者に肩入れしない公正で中立な立場に立てること、相続財産をきちんと管理できること、管理人としての仕事をスムーズに処理できること。この3つの要件を満たす人であれば十分です。

実際の審判では、弁護士や司法書士といった法律系資格のある人が選任されることもあります。それらの資格を持っていることで、相続財産管理人としてふさわしいであろうことが推し測れるからです。

選任されない理由とは?

相続財産管理人選任の審判を申し立てたのに、審判が却下され、相続財産管理人が選任されないこともあります。その理由は何なのでしょうか。

申立てが認められるには、次の3つの要件が必要です。

  1. 相続財産があること。
  2. 相続人がいないこと。または、相続人がいるかいないかはっきりしないこと。  
  3. 相続財産管理人による相続財産の管理が必要であること。

これらすべての要件を満たさないと、相続財産管理人は必要ないものとして、申立ては却下されてしまいます。たとえば、家庭裁判所が被相続人の戸籍を細かく調べてみたら、生前に一人の子供を認知していたことが分かったような場合です。この場合、認知された子供が相続人になるので、②の要件を満たさないことになるわけです。

相続財産管理人選任の公告

相続財産管理人選任の第3段階は、相続財産管理人選任の公告です。

相続財産管理人を選任する審判が行われると、家庭裁判所は、そのことを裁判所内に掲示するとともに、官報に掲載します。この掲示と掲載が、相続財産管理人選任の公告に当たります。

この公告は、2つの働きをします。ひとつは、相続債権者など相続財産管理人の選任を待ち望んでいた人たちが、相続財産管理人に対して行動を起こすきっかけとなる働きです。もうひとつは、どこかにいるかもしれない相続人に対して、相続人であると名乗り出るよう促す働きです。

ワンポイントアドバイス
相続財産管理人の選任の手続は、すべて家庭裁判所で行われます。一番大事なことは、審判の申立てを却下されることなく、相続財産管理人を選任する審判を勝ち取ることです。そのためには、申立てが認められるための要件をしっかりと確認すること、その要件を裏付ける書面を漏らさずに裁判所に提出すること、審判や調査の場で相続財産管理人の必要性を説得力を持って話すことが必要です。こうしたことを一般の人がこなすのは、大変な苦労が伴います。苦労が実らず、申立て却下という徒労に終わる可能性もあります。相続についての法律知識があり、裁判所での実務経験も豊かな職種、弁護士の力を借りることが何よりの方法です。

相続財産管理人の立場

  
家庭裁判所によって選任された相続財産管理人。相続財産管理人は、法律的に見て、どのような立場に立つのでしょうか。

相続財産法人との関係、および相続人との関係。この2つの関係における相続財産管理人の立場を見てみましょう。

相続財産法人との関係における相続財産管理人の立場

判例によれば、相続財産管理人は相続財産法人の代表者であるとされています。代表者といえば、社団法人や財産法人の理事、株式会社の取締役または代表取締役に相当する立場です。

法人の代表者は、法人を代表するとともに、法人の管理を行います。相続財産法人は相続財産そのものです。相続財産法人を管理することは、相続財産そのものを管理することを意味します。こうして、相続財産管理人は相続財産を管理する立場に立ちます。

相続人との関係における相続財産管理人の立場

民法の条文によれば、相続財産管理人は、これから現れるかもしれない相続人の法定代理人という立場に立ちます(興味のある方は、民法の953条→28条→103条という条文のつながり、および956条1項を読んでみてください)。

相続財産について、姿を現さない相続人がいると想定して、その代理人として相続財産の管理に当たるわけです。こうして、相続財産管理人は相続財産を管理する立場に立ちます。

ワンポイントアドバイス
相続財産管理人が相続財産を管理する立場は、2つの側面から根拠付けられることが本文から分かります。それだけ、相続財産管理人は重要な立場にあるということです。こうした立場の重要性を理解したうえで、相続財産管理人を置くかどうかを検討することが大切です。できれば、法律の専門家である弁護士に相談しながら検討しましょう。ひとりで考えるよりも、自分のケースにとって、よりふさわしい方向が見出せるかと思われます。

相続財産管理人の仕事

相続財産管理人の仕事は、ひとことでいえば、相続財産の管理です。ここでは、「管理」ということばでひとくくりにされた仕事の細かな内容を見ていきましょう。

相続財産管理人の仕事の流れ

相続財産管理人の仕事の流れをフローチャートで見てみましょう。  が相続財産管理人の仕事、  が家庭裁判所の仕事です。 
            

相続財産管理人の個々の仕事

相続財産管理人の個々の仕事のうち、特に重要と思われるものについて、見てみましょう。

ここでは、次の8つの仕事について解説します。

  1. 管理財産の保存・利用・改良
  2. 権限外行為の許可審判の申立て~特に不動産売却について
  3. 請求申出の公告
  4. 相続人捜索の公告の審判の申立て
  5. 相続債権者や受遺者への弁済
  6. 相続人が現れたとき
  7. 報酬付与の審判の申立て
  8. 残余財産の国庫帰属

管理財産の保存・利用・改良

相続財産管理人は、管理している財産について、これを保存する行為、およびその性質を変えない範囲で利用し、または改良する行為をすることができます。

保存行為とは、財産の現状を保つ行為です。雨漏りのする家屋を修理する契約をすることなどです。利用行為とは、財産によってもうけを得ることです。お金を利息付で貸し付ける契約をすることなどです。改良行為とは、財産の価値を増す行為です。家にエアコンを取り付ける契約をすることなどです。

権限外行為の許可審判の申立て~特に不動産売却について

処分行為は、保存・利用・改良の範囲を超える行為です。たとえば、家屋に抵当権を付ける行為は、普通の家屋から担保に入った家屋へと、その性質を変える行為です。家屋を売却する行為は、家屋の所有者が変わるという大きな変化をもたらす行為です。これらの行為は、もしかしたらいるかもしれない相続人にとって重大なことがらです。相続財産管理人といえども勝手に行うことはできません。

しかし、処分行為がどうしても必要になる場合があります。たとえば、相続財産である家屋の損傷がひどく、頻繁にあちこちの修理をしなければならない場合です。修理の都度、修理代を支払っていくよりも、家屋を売ってお金に変えて金融機関に預けたほうが、預貯金利息が付く点からしても有利です。

こうした場合、相続財産管理人は、家庭裁判所に、権限外行為の許可を求める審判を申し立てることができます。家屋売却などの処分行為は相続人への影響が大きい行為だけに、それが本当に必要なのかどうか家庭裁判所がチェックしようというものです。

家庭裁判所の審判は、権限外行為を許可する審判と許可しない審判(申立て却下の審判)とに分かれます。許可する審判が出れば、相続財産管理人は家屋売却などの処分行為をすることができます。許可しない審判が出れば、それができなくなります。許可しない審判に対して、申立人は不服申し立て(即時抗告)をすることはできません。

売却代金振込口座の開設について

権限外行為許可の審判があった後、相続財産である家屋が売れたとします。売却代金を振り込んでもらう金融機関口座は、どうしたらよいのでしょうか。

相続財産管理人が、新たに口座を作ります。口座名義は「被相続人A相続財産管理人B」とします。売却代金は、相続財産である家屋が形を変えたものです。相続財産であることに変わりないので、相続財産管理人が管理します。相続財産管理人の肩書名義の専用口座で管理すれば、管理人個人の財産と混ざることもないので、最もよい方法といえます。

不動産が売れないときはどうする?

権限外行為許可の審判をもらったのに、家屋などの不動産が売れないときは、どうなるのでしょうか。

不動産売買は契約です。契約は、当事者双方の合意によって成立します。当事者双方が合意せず、契約が成立しなければ、不動産は売れません。売れなかった不動産は、そのまま残らざるを得ません。

最終的には、残余財産として、国の財産となります(国庫帰属)。

請求申出の公告

相続財産管理人選任の公告から2ヶ月たっても相続人が現れないとき、相続財産管理人は、相続債権者と受遺者(被相続人の遺言によって財産をもらう人)に対して、権利を申し出るよう求めます。これを、請求申出の公告といいます。

公告は、官報に掲載して行います。

申し出るべき期間内に権利の申し出のない相続債権者と受遺者は、損をします。相続債権者は、貸したお金を返してもらえないなど、債務を果たしてもらえなくなります。受遺者は、遺言によってもらえるはずだった財産をもらえなくなります。
  

相続人捜索の公告の審判の申立て

請求申出の公告から2ヶ月たっても相続人、相続債権者、受遺者が現れないとき、相続財産管理人は、家庭裁判所に、相続人捜索の公告を求める審判を申立てることができます。

家庭裁判所は、申立てを認めるかどうかを審判します。申立てを認める審判があると、家庭裁判所は、相続人に対して、相続人としての権利を主張するよう求めます。これを、相続人捜索の公告といいます。

公告は、裁判所への掲示または官報への掲載によって行います。

主張すべき期間内に権利の主張がないと、相続人、および相続財産管理人が知らない相続債権者と受遺者は、その権利を失います。つまり、相続人の相続権、相続債権者の債権、受遺者が遺言によって財産をもらう権利は、それぞれ消えてなくなります。

相続債権者や受遺者への弁済

請求申出の公告の期間内に名乗り出た相続債権者や受遺者がいると、相続財産管理人が、弁済をします。弁済とは、相続債権者に対する債務を果たすこと(被相続人が借りていたお金を返すことなど)、遺言にしたがって財産を与えることです。弁済の財源は、相続財産です。弁済の順序は、相続債権者、受遺者の順に行います。

相続人のいない相続財産の固定資産税は誰が支払う?

相続人のいない相続財産の中に土地や家屋といった不動産がある場合、それにかかる固定資産税は誰が支払うのでしょうか。

結論からいうと、相続人のいない相続財産の固定資産税は、相続財産管理人が支払うことになります。理由は、以下のとおりです。

相続人のいない相続財産は、被相続人の死亡と同時に、相続財産法人となります。法人は、個人と同じく、物の持ち主(所有者)となることができます。

相続財産については、相続財産法人が所有者です。固定資産税は、不動産の所有者が支払います。相続財産の中の不動産にかかる固定資産税は、相続財産法人が支払うことになります。

相続財産管理人は、相続財産法人の代表者であり、相続財産を管理する人です。法人の場合、支払うという行為は、法人の手足である代表者または管理する人が行います。よって、相続人のいない相続財産の固定資産税は、相続財産管理人が支払うことになります。

相続人が現れたらどうなる?

3度にわたる公告を行っていく中で、相続人が現れたら、相続財産法人や相続財産管理人はどうなるのでしょうか。

相続人が現れると、相続財産法人は初めから成立しなかったことになります。相続財産については、以後、相続人が所有者となり、相続人が管理していくことができます。もはや相続財産法人は、必要ないのです。ただ、それまでに相続財産管理人が行った仕事は、白紙にはなりません。仕事の効力は残ります。たとえば、相続債権者への弁済の効力は、そのまま残ります。相続債権者が弁済としてもらったお金を相続人に返さなくてもよいのです。

相続人が現れると、相続財産管理人が持っていた「相続人の法定代理人」という立場は、なくなります。相続人は、自ら相続財産を管理できます。もはや相続人の法定代理人は必要ないのです。ただ、相続財産管理人は、それまでの相続財産の管理のために、相続財産の中からどんな名目でいくら使ったかを、相続人に報告しなければなりません。自分が現れるまでに、相続財産管理人が相続財産をどのように管理してきたか、相続人としては知りたいところだからです。
 

報酬付与の審判の申立て

相続財産管理人は、家庭裁判所に、相続財産管理人としての仕事の見返りとして、それ相当な報酬を自分に与える審判を申し立てることができます。 

申立てを受けた家庭裁判所は、報酬を与えるかどうか、与えるとしたらいくら与えるかを審判の形で決めます。相続財産管理人としての仕事の大変さの度合い、相続財産の額の大小、申立人のふところ具合などを参考にします。財源は、相続財産です。

審判に対しては、それがどんな結果であれ、不服申し立てはできません。

報酬はいくら?

  
相続財産管理人に与えられる報酬は、いくらくらいなのでしょうか。

報酬額は、それぞれのケースごとに、裁判官が決めます。金額についての決まりはありません。審判例では、弁護士・司法書士・行政書士などの法律専門職だと月に1万円~5万円くらい、親族だと報酬ゼロというのが大勢を占めます。ビジネスとして行うか、親族の助け合いとして行うかの違いでしょうか。

残余財産の国庫帰属

特別縁故者への財産分与の処理が終わり、さらに相続財産管理人への報酬付与の処理が終わると、相続人がいない、または相続人がいるかいないか分からない場合の手続はすべて終わりとなります。そのうえで残った相続財産は、国の財産となります。これを、国庫帰属といいます。

国庫帰属となることが決まると、相続財産管理人は、それまでの相続財産の管理のために相続財産の中からどんな名目でいくら使ったかを、国に報告しなければなりません。国としては、国民の相続財産をいただく以上、それまでの相続財産の動きを頭に入れたうえで、これをきちんと管理していかなければならないからです。

ワンポイントアドバイス
相続財産の管理といっても、実に様々な仕事があることが分かります。これらの仕事をきちんとこなすには、正しい法律知識が必要です。家庭裁判所との関わりも多いので、裁判実務経験も必要です。法律知識と裁判実務経験を身に付けた専門職こそが弁護士です。相続財産管理人の仕事を理解したいと思ったら、まず弁護士に相談することをお勧めします。

相続財産管理人の選任を検討するなら、まず弁護士に相談を

相続財産管理人を置く場合、選任前と選任後を通じて、とても複雑で細かい手続があります。そこでは、民法や家事事件手続法などの法律知識が必要となります。家庭裁判所での裁判実務経験も大切です。一般の人がこなすには、大変な苦労が伴います。ひとつ手続を間違えると、多かれ少なかれ何らかの不利益をこうむる結果になります。それでは、せっかくの苦労も水の泡です。相続財産管理人の選任を検討するなら、まず弁護士に相談しましょう。

遺産相続は弁護士に相談を
法律のプロがスムーズで正しい相続手続きをサポート
相続人のひとりが弁護士を連れてきた
遺産分割協議で話がまとまらない
遺産相続の話で親族と顔を合わせたくない
遺言書に自分の名前がない、相続分に不満がある
相続について、どうしていいのか分からない
上記に当てはまるなら弁護士に相談