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相続財産管理人とは|選任前後の手続きと費用を徹底解説

相続財産管理人とは|選任前後の手続きと費用を徹底解説

この記事で分かること

  • 相続財産管理人とはどのような立場で、どんな役割を持っているのかがわかる
  • 相続財産管理人の選任申立てができる人と、必要な手続き・費用・書類が理解できる
  • 相続財産管理人の主な仕事内容と、家庭裁判所での審判の流れ
  • 相続放棄後の管理義務や、特別縁故者・相続債権者の権利行使に必要な知識が身につく
  • 相続財産管理人の選任までの期間や報酬の相場、注意すべきポイントが把握できる

相続財産管理人とは、相続人がいないか、いるかいないか不明なときに、相続財産を管理する人のことです。家庭裁判所の選任を受け、財産の保存・処分、債権者への弁済、特別縁故者への分与、最終的な国庫帰属まで担います。本記事では、申立てができる人・必要書類・費用・予納金・選任後の流れを、弁護士の視点から具体例とともにわかりやすく解説します。

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相続財産管理人とは何か

「親族が亡くなったが、相続人がまったくいない」「相続放棄をしたものの、空き家を放置するわけにもいかない」「貸したお金が回収できないまま債務者が亡くなった」――こうした場面で登場するのが、相続財産管理人という存在です。

聞き慣れない言葉かもしれません。しかし、相続人不在のケースが急増する現代日本では、知っておくと役に立つ場面が確実にあります。

この記事では、相続財産管理人の役割から、選任申立ての流れ、費用、業務内容、注意点まで、弁護士の視点で丁寧に解説していきます。

ワンポイントアドバイス
相続財産管理人の制度は、複雑な手続きと専門知識を要するため、一般の方が独力で進めるのは難しい分野です。本記事を読んで全体像をつかんだうえで、具体的な手続きは弁護士に相談することを強くおすすめします。

相続財産管理人の役割

相続財産管理人とは、相続人のいないことがはっきりしているとき、または相続人がいるかいないかはっきりしないときに、家庭裁判所から選任されて相続財産を管理する人のことをいいます。

具体的には、相続財産を適切に保管し、債権者への弁済を行い、特別縁故者への分与を実施し、最終的に残った財産を国庫に帰属させる――こうした一連の業務を担います。いわば、宙に浮いた相続財産を、法律にしたがって整理していく舵取り役です。

民法951条以下に定められた制度

相続財産管理人については、民法の951条から959条までの条文に詳しく定められています。

条文をひもとくと、相続人のいない相続財産は「相続財産法人」として法人格を持つこと、その代表者として相続財産管理人が置かれること、相続債権者や受遺者に対する公告・弁済の手続き、特別縁故者への財産分与、最終的な国庫帰属まで、一連の流れがきちんと規定されています。

民法に基づく制度ですから、勝手な運用はできません。家庭裁判所の関与のもとで、法定の手続きを順番に進めていくことになります。

相続財産清算人との違い(2023年法改正の影響)

ここでひとつ注意すべき点があります。2023年4月施行の改正民法により、従来の「相続財産管理人」のうち相続人不存在の場合に選任されるものは、「相続財産清算人」と名称が変更されました。

ただし、実務上は「相続財産管理人」の呼称も広く残っており、家庭裁判所の書類でも両方の表現が用いられることがあります。本記事でも、わかりやすさを優先して「相続財産管理人」と表記しています。

法改正のポイントとしては、公告期間が短縮され、選任から国庫帰属までの全体の手続きが従来より短い期間で終わるようになりました。これは利用者にとって大きな改善です。

相続財産管理人が必要になる4つのケース

相続財産管理人を置くべき場面は、大きく分けて次の4つです。順番に見ていきましょう。

初めから相続人が存在しないケース

最も典型的なのが、被相続人に最初から相続人がいないケースです。

たとえば、こんな状況を考えてみてください。80歳のAさんは、両親も祖父母も他界しています。一人っ子で兄弟姉妹もいません。生涯独身で、子どももいません。養子縁組もしていません。まさに天涯孤独の方です。

Aさんが財産を残して亡くなった場合、相続人になれる人は誰もいません。それでも、Aさんの預貯金や不動産といった財産は確実に存在しています。誰も管理しなければ、放置されたままです。こうした財産を整理するために、相続財産管理人が必要になります。

相続人全員が相続放棄したケース

二つ目は、相続人がいたものの、全員が相続放棄をしてしまった場合です。

借金などのマイナス財産が多い相続では、相続人になる予定の人たちが連鎖的に相続放棄をすることがあります。

具体例を挙げましょう。Aさんには長男B、母C、弟Dがいました。Aさんは多額の借金を残して亡くなりました。第1順位の相続人であるBが相続放棄。次の順位のCも相続放棄。さらに次の順位のDも相続放棄。これで相続人は誰もいなくなります。

しかし、Aさんが残した家や預貯金は依然として存在します。借金の債権者も、不動産がある以上、放置するわけにはいきません。こうした宙ぶらりんの財産を管理するために、相続財産管理人が必要になります。

相続人がいるかいないか不明なケース

三つ目は、相続人がいる可能性も、いない可能性も、両方ある場合です。

たとえば、被相続人が長く音信不通だった親族と、戸籍上はつながっているケース。被相続人の生前の戸籍を細かく調べてみると、認知された子どもがいたかもしれない、養子縁組をしていたかもしれない、といった可能性が浮上することがあります。

実際に相続人がいるかどうかはっきりしないまま、財産だけが残されている状態は、誰にとっても不便です。そこで、相続財産管理人を置いて、財産を管理しながら相続人の有無を確定していく必要があります。

相続財産法人とは何か

四つ目に押さえておきたいのが、相続財産法人という考え方です。

民法では、相続人のいない相続財産、または相続人がいるかいないか不明な相続財産は、財産自体が法人になるとされています。これが相続財産法人です。

法人になれば、代表者を置けます。その代表者として相続財産を管理するのが、まさに相続財産管理人です。

「財産が法人になる」というのは少し不思議な感覚ですが、これは相続財産を管理する仕組みを作るための、法律上のフィクションだと考えてください。代表者が置けるようにするための法的工夫なのです。

ワンポイントアドバイス
「相続人がいない」と確定するためには、被相続人の出生から死亡までのすべての戸籍を取り寄せて確認する必要があります。一般の方には大変な作業です。弁護士であれば「職務上請求」という方法で、効率的に戸籍を取り寄せ、解読することができます。戸籍調査の段階から弁護士の力を借りるのが得策です。

相続財産管理人の選任を申し立てられる人

相続財産管理人の選任申立ては、誰でもできるわけではありません。法律上「利害関係人」または「検察官」と定められています。

実務でよく登場するのは、次の5つのタイプです。

相続債権者

被相続人に対して債権を持っていた人を、相続債権者といいます。お金を貸していた人、未払いの代金がある取引先などが典型例です。

被相続人の債務は、本来であれば相続人に引き継がれます。しかし、相続人がいないと、債権を回収する相手がいなくなってしまいます。

そこで、相続財産管理人を選任してもらい、その管理人を相手として債権を回収する――これが相続債権者にとっての利用方法です。たとえば、貸付金の回収、未払いの工事代金の請求、家賃の未収分の回収など、幅広い場面で活用されています。

特別縁故者

被相続人と特別なつながりがあった人を、特別縁故者といいます。

具体的には次のような人が該当します。

  • 被相続人と長年同居していた内縁の配偶者
  • 被相続人の介護に長年あたっていた知人
  • 被相続人を経済的に支えていた友人
  • 被相続人と特別な信頼関係にあった事実上の養子

特別縁故者は、家庭裁判所に申立てをして、相続財産の全部または一部の分与を受けられる可能性があります。ただし、財産分与を受けるには、まず相続財産管理人が選任されていることが前提です。そのため、特別縁故者自らが選任申立てを行うケースが多くなっています。

財産管理を続けている相続放棄者

意外と知られていませんが、相続放棄をした人も、選任申立ての利害関係人になります。

なぜでしょうか。相続放棄をした人は、最初から相続人ではなかったことになるので、財産を相続することはできません。ただし、次に相続財産を管理すべき人が現れるまで、財産の管理義務が残ることがあります。

たとえば、被相続人の家に住んでいた人が相続放棄をしたとしても、その家を放置していたら隣家の迷惑になりますし、管理が行き届かなければ防災・防犯上の問題も生じます。「相続放棄したから知らない」では済まないのです。

この管理義務から解放されるためには、相続財産管理人を選任してもらい、業務を引き継いでもらう必要があります。空き家問題が深刻化する現代では、このパターンが急増しています。

受遺者・共有持分の他の共有者など

そのほかにも、利害関係人として認められる人がいます。

  • 遺言で財産をもらうことになっていた受遺者
  • 被相続人と不動産を共有していた他の共有者
  • 被相続人と賃貸借契約を結んでいた賃貸人・賃借人
  • 被相続人の不動産に抵当権を設定していた抵当権者

これらの人々も、被相続人の死亡によって法律上の影響を受ける立場にあるため、利害関係人として選任申立てができます。

検察官

法律上は、検察官も選任申立てができることになっています。これは、相続人がいない財産を最終的に国庫に帰属させる仕組みとの関係で定められたものです。

ただし、実務では検察官が申立てをすることはほとんどありません。検察官には捜査や公訴維持といった本来業務があり、相続財産の処理にまで手が回らないのが実情です。実際の申立ては、ほぼすべて利害関係人によって行われています。

ワンポイントアドバイス
「自分は利害関係人にあたるのか?」と迷うケースは少なくありません。たとえば、被相続人と長年同居していたものの法的な親族関係はない場合、特別縁故者にあたる可能性があります。判断に迷ったら、自己判断せずに弁護士に相談しましょう。

相続財産管理人の選任申立ての流れ

実際に申立てをする場合の流れを、ステップごとに見ていきます。

申立先となる家庭裁判所

相続財産管理人選任の申立先は、被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所です。

「被相続人の住んでいた場所」が基準になるので、申立てをする側が遠方に住んでいる場合は、その家庭裁判所まで出向く必要が出てきます。書類のやりとりは郵送でも可能ですが、審判の進行に応じて家庭裁判所からの照会や問い合わせがあるため、ある程度の手間は覚悟しておきましょう。

申立てに必要な費用

申立てには複数の費用がかかります。トータルでは想像以上に高額になるケースがあるので、事前にしっかり把握しておきましょう。

費用の種類 金額の目安 納付タイミング
申立手数料(収入印紙) 800円 申立て時
郵便切手 数千円程度(家裁ごとに異なる) 申立て時
官報公告料 5000円前後(時期により変動) 選任後
予納金 20万円~100万円程度 選任時

それぞれ詳しく見ていきましょう。

申立手数料

家庭裁判所に審判をしてもらうための手数料です。被相続人1人について、収入印紙800円分を申立書に貼って納めます。

郵便切手

家庭裁判所が関係者に通知を送るための切手です。金額や内訳は家庭裁判所ごとに異なります。事前に申立先の家庭裁判所に確認しておきましょう。

官報公告料

相続財産管理人が選任されると、その事実を官報に公告する必要があります。官報に掲載してもらうための料金が官報公告料です。選任後に納付します。

予納金

申立て費用の中で最も大きい負担となるのが予納金です。

予納金とは、相続財産管理人の活動経費や報酬の財源を確保するために、申立人があらかじめ家庭裁判所に納めるお金のことです。本来、これらは相続財産から支払われるべきものですが、相続財産が少ない場合や換価に時間がかかる場合に、申立人が立て替える形になります。

金額の目安は20万円から100万円程度。相続財産の規模、想定される業務量、地域などによって、家庭裁判所が個別に決定します。不動産がある場合や、業務が長期化しそうな場合は、より高額になる傾向があります。

「申立てさえすれば数千円で済む」と誤解している方が時々いますが、予納金まで考えると相当の負担になることを覚悟しておく必要があります。

申立てに必要な書類

申立書類は、申立書本体と添付書類に分かれます。

申立書

家庭裁判所に対して、相続財産管理人の選任を求める書類です。書式は家庭裁判所の窓口で受け取れますし、裁判所のウェブサイトからもダウンロードできます。

申立書には、申立人の情報、被相続人の情報、申立ての理由、利害関係を示す事情などを記入します。

添付書類

主な添付書類は次のとおりです。

  1. 被相続人の出生から死亡までのすべての戸籍謄本
  2. 被相続人の住民票除票または戸籍附票
  3. 申立人の戸籍謄本(利害関係を示すため)
  4. 財産を証する資料(不動産登記事項証明書、預貯金通帳のコピーなど)
  5. 利害関係を示す資料(金銭消費貸借契約書、賃貸借契約書など)
  6. 相続人の調査資料(相続人がいないことを示すため)

被相続人の戸籍については、生まれてから亡くなるまでのすべての戸籍をたどる必要があります。本籍地を何度も移している場合や、古い戸籍の解読が必要な場合は、相当な時間と労力がかかります。

ワンポイントアドバイス
予納金の負担は、申立人にとって最大のハードルです。「予納金を準備できないから申立てを諦める」というケースも実際にあります。ただし、相続財産から将来的に回収できる場合もあるため、すぐに諦めるのではなく、弁護士に見通しを相談してみる価値はあります。

相続財産管理人選任の審判手続き

申立てをした後、家庭裁判所では審判手続きが行われます。

審判手続きの流れ

審判手続きは、おおむね次のように進みます。

  1. 申立書の受理
  2. 家庭裁判所による書類審査
  3. 必要に応じた関係者への照会・調査
  4. 裁判官による判断
  5. 選任審判または却下審判の発令

審判では、まず「相続財産管理人を置くべきかどうか」が検討されます。次に「誰を相続財産管理人にするか」が決まります。

家庭裁判所の調査官が、関係者から事情を聴いたり、関連機関に文書で問い合わせたりすることもあります。事案によっては数か月の時間を要します。

選任に必要な3つの要件

家庭裁判所が申立てを認めるには、次の3つの要件を満たしている必要があります。

  1. 相続財産が存在すること
  2. 相続人がいないこと、または相続人がいるかいないか不明であること
  3. 相続財産管理人による管理が必要であること

これらが揃っていないと、申立ては却下されます。たとえば、戸籍を細かく調べた結果、認知された子どもの存在が判明した場合は、②の要件を満たさないため、却下されることになります。

選任される人に資格はあるか

相続財産管理人になるのに、特別な国家資格は必要ありません。法律上は、適切な管理ができる人であれば誰でも構わないことになっています。

ただし、実務では、弁護士や司法書士といった法律専門職が選任されるケースが圧倒的に多いです。理由はシンプルで、相続財産管理人の業務には法律知識と裁判所手続きの経験が不可欠だからです。

申立人の側で「この人を選任してほしい」と候補者を提示することも可能です。多くの場合、申立てを依頼した弁護士がそのまま相続財産管理人として選任されます。

選任の公告

相続財産管理人が選任されると、その事実が官報に掲載されます。これを選任の公告といいます。

公告の目的は2つあります。

ひとつは、相続債権者などが相続財産管理人に対して権利行使ができるようにすることです。「誰に弁済を求めればいいかわからない」という状況を解消する役割を果たします。

もうひとつは、どこかにいるかもしれない相続人に対して、名乗り出るよう促す役割です。「実は相続人だった」という人に、権利主張の機会を与える趣旨です。

相続財産管理人の法的な立場

選任された相続財産管理人は、法律上、どのような立場に立つのでしょうか。実は、相続財産管理人には2つの顔があります。

相続財産法人の代表者としての立場

ひとつ目の顔は、相続財産法人の代表者です。

相続人のいない相続財産、または相続人の有無が不明な相続財産は、法律上、相続財産法人という法人になります。法人である以上、代表者が必要です。その代表者として、相続財産管理人が活動します。

会社に取締役がいるように、相続財産法人には相続財産管理人がいる――こう考えるとわかりやすいでしょう。

相続人の法定代理人としての立場

ふたつ目の顔は、これから現れるかもしれない相続人の法定代理人です。

民法は、相続財産管理人に、まだ姿を見せない相続人の代理人としての役割も与えています。相続人が後から判明した場合に備えて、その人の利益を守りながら財産を管理する立場です。

つまり、相続財産管理人は「法人の代表者」と「相続人の法定代理人」という二重の立場で、相続財産を管理しているのです。

ワンポイントアドバイス
相続財産管理人は二重の立場を持つだけに、責任も重くなります。財産を勝手に処分したり、特定の関係者に肩入れしたりすると、損害賠償責任を問われる可能性があります。だからこそ、専門家である弁護士が選任されるケースが多いのです。

相続財産管理人の主な仕事

相続財産管理人の業務は、ひと言でいえば「相続財産の管理」です。しかし、その中身は多岐にわたります。代表的な業務を見ていきましょう。

相続財産の保存・利用・改良

最も基本的な業務は、相続財産の保存・利用・改良です。

  • 保存行為:財産の現状を維持する行為。雨漏りする家屋の修繕、預貯金の保全など。
  • 利用行為:財産を活用して収益を得る行為。建物の賃貸、預貯金を定期預金で運用するなど。
  • 改良行為:財産の価値を高める行為。家屋への設備設置、土地の整備など。

これらは相続財産管理人の権限の範囲内で行えます。ただし、財産の性質を変えてしまうような大きな変更(処分行為)は、別途家庭裁判所の許可が必要です。

権限外行為の許可申立て

権限の範囲を超える処分行為については、家庭裁判所に「権限外行為の許可」を求める審判を申し立てます。

不動産売却の場合

代表的な処分行為が、不動産の売却です。

被相続人の自宅を維持し続けるのは、固定資産税や修繕費の負担が重くなることがあります。空き家のまま放置すると、近隣への迷惑にもなりかねません。こうした場合、不動産を売却して現金化したほうが合理的な選択になります。

ただし、不動産の売却は所有権を完全に移転する行為であり、後で相続人が現れたときの影響も大きいため、家庭裁判所の許可が必須です。許可を得ずに売却すると、無効になるリスクがあります。

売却代金の管理方法

不動産が売れた場合、売却代金は新しく開設した管理口座に振り込んでもらいます。口座名義は「被相続人○○ 相続財産管理人△△」とするのが一般的です。

これは、相続財産管理人個人の財産と相続財産を明確に区別するためです。混同してしまうと、横領を疑われたり、税務上の問題が生じたりする恐れがあります。

請求申出の公告

選任の公告から2か月が経過したら、相続財産管理人は次の段階の公告を行います。これが請求申出の公告です。

相続債権者と受遺者に対して、自分の権利を申し出るよう促す手続きです。期間内に申し出をしなかった場合、その権利は実質的に行使できなくなる可能性があります。

公告は官報への掲載によって行います。公告期間中に名乗り出てきた相続債権者・受遺者には、財産から弁済をしていきます。

相続人捜索の公告の申立て

請求申出の公告の期間が過ぎても、相続人や債権者が現れない場合、次は相続人捜索の公告に進みます。

これは家庭裁判所の審判による公告で、「もし相続人がいるなら、期間内に名乗り出てください」と全国に呼びかけるものです。

期間内に相続人が現れなかった場合、相続人がいないことが法的に確定します。同時に、その時点で名乗り出ていなかった相続債権者・受遺者の権利も、原則として消滅します。

相続債権者・受遺者への弁済

請求申出の公告期間内に名乗り出た相続債権者・受遺者には、相続財産から弁済をします。

弁済の順序は、まず相続債権者、その後に受遺者です。これは、債権者の保護を優先する民法の考え方に基づいています。

弁済の財源が不足する場合は、優先順位や按分の問題が生じます。複雑な計算が必要になるため、弁護士の知識が活きる場面です。

固定資産税の支払い

相続財産に不動産が含まれている場合、固定資産税の支払いも相続財産管理人の業務になります。

不動産の所有者は相続財産法人ですが、法人自体が支払い行為をすることはできません。実際の手続きは、代表者である相続財産管理人が、相続財産の中から支払うことになります。

固定資産税の支払いを怠ると、延滞金が発生したり、最悪の場合は不動産が公売にかけられたりする恐れもあります。きちんと管理しておく必要があります。

残余財産の国庫帰属

すべての手続きが終わって、それでも財産が残った場合、残った財産は国に帰属します。これを国庫帰属といいます。

つまり、相続人がいない財産は、最終的に国のものになるわけです。「縁もゆかりもない国に渡るくらいなら、自分が世話になった人に譲りたい」と思う方は、生前に遺言書を作成しておく必要があります。

ワンポイントアドバイス
相続財産管理人の業務は、選任から終了まで1年以上かかることが珍しくありません。不動産の売却や債権者対応が複雑なケースでは、2~3年に及ぶこともあります。長丁場になるからこそ、信頼できる弁護士を選任することが大切です。

相続人が現れた場合の処理

業務を進めている途中で、思いがけず相続人が現れることもあります。その場合、どんな処理が行われるのでしょうか。

相続財産法人の消滅

相続人が現れると、相続財産法人は最初から成立していなかったことになります。法律上のフィクションだったものが、現実の相続関係に置き換わるイメージです。

相続財産は、その時点で相続人の所有物になります。

相続財産管理人の任務終了

相続財産法人がなくなる以上、相続財産管理人の任務も終了します。「相続人の法定代理人」という立場も、本人が現れた以上は不要です。

相続人への報告義務

ただし、それまでに行った業務はすべて消えるわけではありません。相続財産管理人が行ってきた業務(弁済、修繕、売却など)の効力は、そのまま残ります。

そのうえで、相続財産管理人は、相続人に対して詳細な報告をする必要があります。

  • これまでに財産をどのように管理してきたか
  • どのような収入・支出があったか
  • 現在の財産の状況はどうなっているか

報告書を作成して相続人に引き渡し、業務を引き継ぐ流れになります。

相続財産管理人の報酬

相続財産管理人の報酬についても、押さえておきましょう。

報酬の決まり方

相続財産管理人は、家庭裁判所に対して「報酬付与の審判」を申し立てることができます。

家庭裁判所は、業務の内容、業務量、相続財産の規模、申立人の経済状況などを考慮して、報酬額を決定します。報酬付与の審判には不服申立てができないため、家庭裁判所の判断が最終的なものとなります。

報酬の相場

実務上の相場は、おおむね次のとおりです。

  • 弁護士・司法書士などの専門職:月額1万円~5万円程度
  • 親族など専門職以外:報酬なしのケースが多い

業務全体の報酬総額としては、数十万円から数百万円になるケースもあります。財産の規模や業務の複雑さによって幅があります。

報酬の財源

報酬の支払い財源は、原則として相続財産です。

ただし、相続財産が少ない場合は、申立人が納めた予納金から支払われます。予納金が高額になる理由は、まさにここにあります。

相続財産管理人の選任までにかかる期間

「申立てから選任まで、どれくらい時間がかかるのか?」――これも気になるポイントです。

申立てから選任までの期間

申立てから選任の審判までは、おおむね1~3か月程度が目安です。

書類の不備がなく、要件を明確に満たしているケースでは早く進みます。逆に、戸籍調査が複雑だったり、関係者への照会が必要だったりすると、長期化することもあります。

業務全体が終わるまでの期間

選任後の業務全体が終わるまでには、最短でも10か月~1年程度かかります。

これは、選任の公告から2か月、請求申出の公告から2か月、相続人捜索の公告から最低6か月という、法定の期間が決まっているためです。

不動産の売却が必要なケース、債権者対応が複雑なケース、特別縁故者の財産分与申立てがあるケースなどでは、2年~3年に及ぶこともあります。長期戦を覚悟しておきましょう。

相続財産管理人の選任で注意すべきポイント

最後に、相続財産管理人の選任で見落としがちな注意点を3つお伝えします。

予納金が高額になる可能性

すでに何度か触れていますが、予納金は申立人にとって大きな負担になります。

「相続財産から回収できるはず」と楽観視していると、想定通りに回収できないこともあります。特に、相続財産の主要部分が不動産で、売却に時間がかかったり、思ったような価格で売れなかったりするケースでは、予納金がそのまま戻ってこない可能性も否定できません。

申立て前に、回収の見込みについて弁護士と十分に検討しましょう。

相続放棄をしても管理義務が残る場合がある

相続放棄をした人は、「これでもう関係ない」と思いがちです。しかし、現実はそう単純ではありません。

民法上、相続放棄をした人は、次に管理する人が現れるまで、自己の財産と同一の注意で管理を継続する義務があります。空き家を放置して近隣に被害を及ぼせば、損害賠償を求められる可能性もあります。

このリスクから完全に解放されるには、相続財産管理人を選任してもらうしかありません。費用負担はありますが、長期的なリスクを考えると、選任申立てを検討する価値があります。

申立てが却下される可能性

申立てをしたからといって、必ず認められるとは限りません。

家庭裁判所の調査によって、相続人の存在が判明することがあります。被相続人の戸籍を細かく調べた結果、認知した子どもが見つかった、養子縁組が判明した、といったケースです。

こうした場合、要件を満たさないため申立ては却下されます。申立て前に、戸籍調査をしっかり行っておくことが、却下リスクを減らすコツです。

ワンポイントアドバイス
相続財産管理人の選任は、申立て前の準備が成否を分けます。戸籍調査、財産調査、利害関係を示す資料の整備――どれも時間と専門知識を要します。「とりあえず申立てしてみよう」では、却下されたり、業務が長期化したりするリスクが高まります。申立てを検討する段階から、弁護士に伴走してもらうのが賢明です。

相続財産管理人の選任は弁護士に相談を

相続財産管理人の制度は、相続人不在のケースを整理するための重要な仕組みです。一方で、選任前から終了まで、複雑で長期にわたる手続きが続きます。

民法、家事事件手続法、不動産登記法、相続税法、戸籍法――関わる法律は多岐にわたります。家庭裁判所での実務経験も求められます。一般の方が独力で進めるのは、率直に申し上げて、かなり困難です。

申立書類の準備、戸籍調査、予納金の見通し、選任後の業務――どの段階でも、弁護士の専門知識と経験が役に立ちます。

「相続人がいない親族の財産が放置されている」「相続放棄したけれど不動産の管理が負担だ」「貸したお金を回収できないまま相手が亡くなった」「長年お世話した方の遺産を譲り受けたい」――こうしたお悩みをお持ちなら、まず弁護士にご相談ください。

早めの相談が、結果的に時間も費用も節約することにつながります。あなたの状況に最も適した解決方法を、弁護士と一緒に見つけていきましょう。

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