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遺産相続とは?相続人が知っておくべき相続ルールと手続きの流れ、注意点

この記事で分かること

  • 相続は非常に忙しく、複雑
  • 様々な事情が考慮されるからこそ、相続争いが起きる
  • 遺産相続はケースバイケースの解決が必要

被相続人の死亡から相続税の申告まで相続人に与えられた期限はわずか10ヶ月。この間にたくさんの手続きが必要となります。また、相続は家族の話し合いで行われますが家族の事情に応じた解決ができないと感情的な対立につながります。さらには家族の形も相続分に関わるので複雑な家庭こそ弁護士との協力が不可欠です。

遺産相続とは?

遺産相続とはある人の死亡したとき、生前に持っていた財産を受け継ぐことを言います。かつては遺産の他に家督や祖名の継承も民法で定められていましたが現在は専ら財産相続についてを表します。

遺産相続は財産承継の可否や法定相続分に基づいて公平に行われなければいけないため、様々な家族形態に対応できるような法律、通達、判例が入り混じっています。つまり、相続は財産の種類や家系図が複雑なほど難しくなります。

相続がいくら難しくても遺産分割協議は必要な上相続税の申告には10ヶ月という期限があります。この点はどの家庭も平等です。

相続財産とは?

被相続人から相続人へ承継される財産を相続財産と言います。相続人の持っているものは全て相続財産となるため「金目のものだけリストアップして残りは適当に処分」ではいけません。

それに資産価値は適切に評価しなければわからないものです。正しい財産評価は正しい相続税申告に不可欠なので、相続税を課される可能性が高いなら被相続人の持ち物を処分しないようお気をつけください。

形のある相続財産

相続財産にはこのようなものがあります。

  • 現金
  • 不動産
  • 家具家電
  • 宝石や貴金属
  • 骨董品
  • 有価証券
  • コレクション

骨董品やコレクションは必ず鑑定してもらうようにしてください。

形のない相続財産

財産が必ずしも形あるものとは限りません。ここで紹介するものもお金になるので立派な財産です。

  • 預金残高
  • 特許
  • 著作権
  • 電子取引している株や社債
  • 電話加入権
  • ゴルフ会員権

権利の財産評価は結構難しいので弁護士への相談が必須となります。

相続財産になる可能性が低いもの

原則、被相続人が持っていた財産は全て相続財産となりますがこのようなものは財産評価を求められないかもしれません

  • 日用品
  • 安価な家具家電
  • 価値の認められない服飾品

相続財産の把握は相続税を正しく支払うために必要です。ということは、金銭的価値の著しく低いものについては財産評価が不要となります。そもそも課税逃れを企てる人はもっと大きな財産を隠します。

ただし価値の不明なものを鑑定せず捨てないようご注意ください。、

みなし相続財産とは?

相続財産とは被相続人から相続人に承継される財産のことを言います。しかし、生命保険や死亡退職金のような「被相続人から承継されるものでないが相続財産に似ているもの」はみなし相続財産として相続税の計算に用いられます。

とはいえこれは税制上の問題にすぎません。死亡保険金や死亡退職金は民法上受取人の固有財産として扱われるので他の相続人と分割する心配は不要です。

相続はいつ開始されるの?

相続は被相続人の死亡によってのみ開始されます。気持ちはわかりますが被相続人が亡くなる前に財産を分割すると相続でなく贈与という扱いになり、相続税よりも高い贈与税を支払うことになるでしょう。

ちなみに被相続人の生死が不明であるときは失踪宣言が死亡と同じく扱われます。

相続は財産も負債も承継する効果を持つ

相続人にとって遺産相続は被相続人の財産を受け取れるプラスの意味を持つことが多いですが、実は負債も承継する効果を持っています。つまり、被相続人が持っている財産で弁済しきれないほどの債務を持っている場合、遺産相続で一方的に損をする可能性があります。

被相続人が生きているうちから財産目録をしっかり作成することで、相続人にとって相続がプラスなのかマイナスなのか判断することが可能です。そしてマイナスの意味しか持たないようであれば相続放棄が選択肢となります。

一度相続すると相続の撤回が困難です。相続放棄や限定承認の制度を知らないために多額の債務を負ってしまったケースや被相続人から連帯債務の事実を知らされていなかったケースもあります。

なぜ遺産分割協議書が必要なのか?

遺産相続をするためには遺産分割協議書の作成が必要です。不動産の名義変更や口座凍結の解除など諸々の手続きに遺産分割協議書が必要となるので、遺産分割は早めに済ませましょう。遺言がある場合は遺言に基づいた相続をするので遺産分割協議書の作成が不要となります。

では、なぜ遺産分割協議書が必要なのか?承継する人が決まったものから財産を移転しても良さそうに思います。しかし、相続財産は遺産分割協議が合意されるまで「共有関係」にあるのです。

つまり遺産分割が終わるまでは相続する人が決まっていてもその人の所有とすることができません。

ワンポイントアドバイス
遺産相続は被相続人の持っていた財産も債務も全て承継するライフイベントです。何よりも相続財産を把握し、適切な遺産分割協議と相続税申告をすることが重要です。遺産相続には膨大なケーススタディがあるので弁護士の力を借りると相続人の労力が一気に減ります。

遺産相続できるのは誰?いくらもらえる?

遺産相続は被相続人の家族なら誰でもできるわけではありません。被相続人の亡くなる前から誰が相続人になるのか確認しておくことが相続の手間を減らします。

遺産相続できる人は民法で決まっている

遺産相続できる人は民法で定められています。そのため相続人のことを法定相続人と呼ぶことが多いです。ちなみに相続人の地位は被相続人の死亡によって確定するので被相続人が生存している間は推定相続人と呼ばれます。

なぜなら推定相続人が相続前に亡くなった場合は相続権を失うからです。推定相続人が亡くなった場合は直系卑属に相続権が代襲されます。

配偶者と子は必ず相続人となる

推定相続人となる条件は家族構成にあります。民法によると配偶者はいかなる場合も相続人となりその他の相続人に対しては子がいない場合に相続が認められます。具体的には次のような決まりがあります。

  • 配偶者と子のみが財産を相続する(配偶者と子がそれぞれ2分の1ずつ)
  • 子がいない場合は配偶者と直系尊属が財産を相続する(配偶者3分の2、直系尊属3分の1)
  • 直系尊属もいない場合は配偶者と兄弟姉妹が財産を相続する(配偶者4分の3、兄弟姉妹4分の1)

これは子や直系尊属、兄弟姉妹の人数で変化しない法定相続分です。例えば子が3人いる被相続人の場合は配偶者が2分の1、子がそれぞれ6分の1ずつの法定相続分となります。配偶者がいない場合も子、直系尊属、兄弟姉妹という相続順位は変わりません。

法定相続分が”法廷”相続分と呼ばれる理由

もし、法定相続分で全ての遺産分割が終わるなら相続争いなど起こりません。そもそも相続財産が容易に分割できない場合さえ珍しくないのが現状です。法定相続分はあくまで裁判や調停での基準となる分け方であり遺産分割は原則自由なのです。

そのため、法定相続分は”法廷”相続分と呼ばれることがあります。争いを防ぐためにさっさと法定相続分どおり分けてしまうという考え方も悪くありません。

遺言で指定された人も遺産をもらえる

相続人は民法で決められていますが、遺言によって相続人でない人間に財産を承継することが可能です。遺言によって財産を渡すことを遺贈といい、財産を受け取った人は受遺者と言います。もちろん、受遺者も相続人と同じく相続税申告が必要です。

相続人は遺留分を持つ

では、遺言で全ての財産を相続人以外に渡すことができるのか?そんなことが認められれば相続法の意味がなくなります。よって相続人は遺産について最低限留保できる割合である遺留分を請求できます。これを遺留分減殺請求権と言います。

遺留分は直系尊属だけが相続人である時のみ財産全体の3分の1、それ以外の時は財産全体の2分の1と決められています。遺留分減殺請求で取り戻した財産は自由に分割します。

相続欠格、相続人の廃除で遺産がもらえなくなる人も

推定相続人が法定相続人とならないケースは死亡、相続放棄、そして相続人の廃除・相続欠格です。相続人の廃除・相続欠格はどちらも相続人の責めに帰すべき事由で相続人の地位を失います。

相続人の廃除

相続人の廃除とは、被相続人や遺言執行者が家庭裁判所に申し立て、家庭裁判所がある相続人から相続人の地位を奪う制度です。相続人の廃除が認められるのは被相続人への虐待や侮辱といった非行が見られる場合です。

相続人の廃除は申し立てがないと行われないので、「被相続人が受けた行為は相続人の廃除に当たるのではないか」と思ったら弁護士へご相談ください。

相続欠格

相続欠格とは次の事実を元に相続人の地位を失うものです。

  • 被相続人や相続人を殺した、あるいは殺そうとした
  • 被相続人への詐欺脅迫によって遺言を書かせた、逆に遺言を書かせなかった
  • 遺言の偽造、変造、秘匿、破棄

いずれも非行で済まされるような行為ではありませんね。相続欠格は申し立てによらず行われますが、警察への通報は必要だと思われます。これらは全て刑事罰に当たる可能性があります。

ワンポイントアドバイス

誰が相続人になるか、これは非常に重要な問題で相続順位の低い直系尊属や兄弟姉妹と揉めてしまう部分でもあると思います。しかし相続人の条件は民法で決められているためそれを覆すには遺言を行使するしかないでしょう。一方で相続分は遺産分割協議書で自由に決めることができます。

中には相続人としてふさわしいと思えない人もいると思えますが法律に勝る根拠はありません。どうしてもという時は相続人の廃除や相続欠格という制度が論点になるでしょう。

遺産相続の流れを紹介

ここでは遺産相続の流れを簡単に紹介します。いつまで遺産相続を終わらせるか?という疑問を解決しないまま、相続税申告の期限が10ヶ月、相続放棄および限定承認の期限が3ヶ月という事実を相続後に知って焦るケースが多発しています。

遺産相続の準備は被相続人が生きているうちから始めましょう。

財産の全容と評価額を調べる

葬儀が終わり死亡届などの手続きが終わったら相続を行います。相続に期限はありませんが相続税の申告は相続開始から10ヶ月以内にしなくてはいけません。

まずは相続財産を調べて財産目録を作りましょう。相続財産は被相続人の家にあるもの、届いている手紙、最近であればパソコンの履歴から調べることも可能です。そして把握された財産それぞれの評価額を計算します。

遺言がある場合は遺言を参考にしますが、相続税申告のためにはやはり正しい財産評価が必要です。

戸籍を取り寄せ法定相続人を調べる

法定相続人を調べるためには戸籍を取り寄せます。戸籍は途中で変わっていることが多いので被相続人が生まれてから亡くなるまでの戸籍を集めるのが原則です。ただし代襲相続という問題があるので、直系尊属や兄弟姉妹は自分と同じ相続順位の人と自分より高い相続順位の人全ての戸籍が必要となります。

戸籍の取り寄せは直接役所に出向くほか電話で郵送依頼することも可能です。本当に面倒くさい時は弁護士に委任することも可能です。

遺言がある場合も遺留分の問題があるので戸籍謄本と取り寄せるに越したことはありません。

遺産分割協議をする

遺産と法定相続人が把握できたら遺産分割協議を行います。遺産分割の内容を遺産分割協議書に反映し相続人全ての合意が得られたら遺産分割協議の終了です。遺産分割協議書には誰がどの財産を相続したか明確に記述し契印も忘れずに押します。遺産分割協議書の内容が不明確だと今後の手続きで書き直しを要求されるかもしれません。できれば弁護士に書いてもらいましょう。

遺言が存在した場合は遺言に則って遺産分割を行います。よって遺言がそのまま遺産分割協議書の代わりとなります。遺言は遺言執行者によって管理および実行され、相続人の一人が遺言執行者を担うこともあります。

相続税の計算をする

相続税は一度総額を計算してから各相続人に按分されます。そのため相続税の総額計算までは遺産分割協議の前に行って大丈夫です。

相続税の計算は次のように行います。

正味の遺産総額を計算する

遺産を把握したら債務と相殺して、みなし相続財産や生前贈与された一部の財産を足した金額を正味の遺産総額と言います。正味の遺産総額さえ計算すればあとは各種控除をするだけです。

各種控除をする

基礎控除は3000万円+法定相続人の数×600万円です。例えば法定相続人が2人である場合は基礎控除が4200万円となります。つまり正味の遺産総額が基礎控除より少ない場合は相続税を支払わなくて良いです。正味の遺産総額に死亡保険金や死亡退職金が含まれている場合はそれぞれにつき法定相続人の数×500万円の控除がされます。

他にも控除できるものがあれば引きます。その結果として導き出された数字が課税価格です。

課税価格から相続税の総額を計算する

課税価格から相続税を計算します。相続税の計算にはこちらの速算表を用いますが少し特殊な計算をするのでご注意ください。相続税の総額計算をする時はこの3手順を行います。

  1. 課税価格を法定相続分に分ける
  2. 各々の法定相続分に対して速算表の税率を掛け合わせる
  3. それぞれの法定相続分に対しての相続税を合計する

例えば課税価格が4000万円で相続人が配偶者と子2人の場合、相続税の総額は以下になります。

2000万円×0.15+1000万円×0.1×2=500万円

相続税の速算表
決定相続分に応ずる取得金額 税率 控除額
1,000万円以下 10%
3,000万円以下 15% 50万円
5,000万円以下 20% 200万円
1億円以下 30% 700万円
2億円以下 40% 1700万円
3億円以下 45% 2,700万円
6億円以下 50% 4,200万円
6億円超 55% 7,200万円

実際の相続に合わせて按分する

相続税の総額を出したら、実際の相続に合わせて按分します。そのため実際に相続した以上の相続税を納める心配はありません。極論、一つも財産を相続しなかった人は相続税も全く払いません。

相続税の申告をする

相続税の金額が確定したら相続税の申告を行います。相続税の申告は相続開始を知ってから10ヶ月ですが手続きが進まない時は期限を延長できるよう税務署に申し立てます。いざという時は相続税を法定相続分どおりに納めてから実際の相続分に応じて追納や還付の手続きをします。

個人に適用される相続税控除もある

相続税の総額については基礎控除や生命保険の控除などがされますが、相続税の申告寺にも配偶者控除や未成年の控除など個人に対する各種控除が使えます。

各種名義変更をする

預金口座や不動産、自動車などの名義変更を行います。名義変更が所有権の証明になる場合もあるので忘れずに行いましょう。もし名義変更を忘れたまま次の相続が起こると非常に面倒くさいです。

ワンポイントアドバイス
相続税申告までの手続きを被相続人の死亡を知ってから10ヶ月で行うのはなかなか骨が折れます。理想としては生前に財産目録が作られある程度遺産の行方が決まっている状態ですが多くの家庭は被相続人が亡くなってから相続について考えることとなります。こうなれば余程スムーズに遺産分割できない限り相続税申告やその他の手続きで疲弊してしまいます。だからこそ弁護士への依頼は結果として相続にかかるコストを減らすことになります。

遺産相続したくないときは?

状況によっては遺産を相続したくないときもあります。しかし相続人は法律によって決まっていますね。相続人が複数人いる場合は遺産分割協議で一切の遺産を引き継がないことに合意すれば良いのですが相続人が1人である場合や、夫妻の押し付け合いになりそうな時はそうもいきません。

そこで、遺産相続したくない時はこのような選択肢があります。

遺産相続したくないときは相続放棄

相続放棄は申し立てた相続人に相続がなかったことにするための手続きです。そのため相続放棄をした方は遺産分割協議への参加ができず、何か遺産や負債を引き継ぐこともありません。遺贈を受けた場合も相続人は相続放棄できるし、相続人でなくても包括遺贈蜂起が可能です。

相続放棄は何らかの事情で遺産を受け取りたくない場合や負債含めマイナスの財産しかないときに用います。

相続放棄は家庭裁判所に申し立てます。受理されれば一応は相続放棄できたことになりますが財産の処分や遺産分割協議書へのサインをした場合は単純承認したものとして相続放棄が却下されます。

相続放棄の効果は裁判で決まるので相続放棄が受理された後も安易に財産へ触れないようご注意ください。

負債の相続が心配なら限定承認も可能

負債の相続はしたくないが、もし資産が残っているなら相続したいという場合は限定承認をします。限定承認も家庭裁判所に申し立てますが相続人全ての合意が必要な点において相続放棄と異なります。

相続放棄と限定承認の期限はいつまで?

相続放棄と限定承認は、いずれも相続開始を知ってから3ヶ月以内が期限です。それを過ぎた後も一部のケースで相続放棄および限定承認が認められているものの法律の活用が難しく弁護士の力を借りるのが一般的です。

相続放棄された財産はどうなる?

相続人が全て相続放棄した場合は次の順位の推定相続人が法定相続人となります。最終的に被相続人の兄弟姉妹やその甥・姪が相続放棄をしたら誰にも相続されなかったことになるので相続財産管理人が管理します。

そして債権者への弁済や特別縁故者への財産分与が終わったら国の所有となります。

ワンポイントアドバイス
遺産相続、特に負の遺産相続を避けたいなら相続放棄や限定承認をご活用ください。負債の大きさによっては相続人の人生が左右されます。相続放棄や限定承認の期限まで3ヶ月を熟慮期間と呼びますが、熟慮期間をすぎたら弁護士へ相談しましょう。

遺産相続はなぜトラブルになりやすいのか?

遺産相続について回るのが相続争いです。各メディアでその大変さが取り上げられますが、仲良く過ごしている家族でさえ相続ではトラブルになりやすいことも理解すべきです。

こちらでは遺産相続がなぜトラブルになりやすいのか紹介します。

”公平な相続”のイメージが揃うことは少ない

被相続人の死が悲しいことである一方、遺産相続は財産をもらえるプラスの機会であることも否定できません。おそらく近しい家族ほど「このくらいの相続があるはずだ」と考えていると思います。

しかし遺産相続への期待や価値観は各人で異なるものです。よって相続人全員が”公平な相続”を望んでいる場合さえ相続争いのリスクが拭えません。

特別受益と寄与分をどう捉えるか

相続争いの原因となりやすいのが特別受益と寄与分です。

特別受益とは被相続人から特別に受けたといえる利益のことで、学校の進学費用や結婚費用、そのた経済的な援助がこれに当たります。

寄与分とは被相続人に対して与えた利益のことで介護や生活援助などがこれに当たります。

特別受益や寄与分を含めて公平な遺産分割をしないと誰かが不当に得をすることになります。もちろんこれらの概念は法律及び判例に認められているものです。

本当に公平なラインは裁判をしないとわかりませんが、お互いがしてあげた、してもらったと思っていることは案外他人と認識が異なるものです。相続争いを避ける基本は正しい情報共有にあります。

家族だからこそ感情的になってしまう

頭では正しいとわかっていても受け入れられないことはあるでしょう。相続もその一つです。法的に認められない部分での公平不公平は出てくるし、同じ価値でも欲しい財産と欲しくない財産には必ず差が生じます。

論理的に解決できず感情的になってしまうと、妥協の幅が驚くほど狭くなるものです。それでも第三者の存在である弁護士が間に入ることで家族のわだかまりを幾分解消できるかもしれません。

大事にしたくないという気持ちはわかりますが、遺産分割協議の紛糾はすでに大事なのです。

見ず知らずの相続人が出現することも

相続人は、被相続人との血の繋がりが問われます。逆に言えば全く見ず知らずの人間でも血の繋がりがあると分かれば相続人となります。相続人が増えると遺産の取り分が減ることからやはり感情的な対立を引き起こしてしまうでしょう。相続人を名乗り出た人に何の非もないのにです。

はっきり言えばこの問題は隠し子の存在を明かさなかった被相続人、異母兄弟の存在を明かさなかった被相続人の親の責任です。相続人のためを考えた行動を心がけてください。

ワンポイントアドバイス
相続分の多い少ないはときに相続人同士の序列意識やこれまでの評価につながる場合もあります。ですから相続に納得してもらえるよう被相続人が生前から相続について話しておくことや、いっそのこと遺言を書いて相続分を決めておくことが有効です。

遺産相続の準備時期は早いほうが良い!そのメリットは?

ここまでご覧いただいたように遺産相続の時期は早いに越したことがありません。遺産相続の準備をするメリットにはこのようなものがあります。

  • 生前贈与をはじめとした節税ができる
  • 相続争いを防ぎやすくなる
  • 相続のサポートをしてあげられる
  • 弁護士を雇っておくと相続人が安心できる

生前贈与をはじめとした節税ができる

まず、相続の準備を行うメリットは節税です。例えば現金を不動産に変えることで相続時に評価額を下げることができます。生命保険に入っておくことも控除額を増やします。他にも相続財産を圧縮する方法があれば相続税を減らせるので節税のためだけに弁護士や税理士を雇うのも珍しくありません。

さらに、財産を相続開始前に贈与する生前贈与ではこのような控除を受けられます。

  • 暦年贈与につき毎年110万円
  • 孫の教育資金に最大1500万円
  • 結婚・出産・保育の資金に最大1000万円
  • 住宅購入で数100万円〜1500万円ほど

税金を減らすにはとにかく財産を圧縮すること。そのためにも渡せる財産は相続人に渡してしまいましょう。子育て資金や教育資金にはタイミングがあるためやはり早めの準備が肝心です。

ただし生前贈与のうち相続開始までの3年間に行われた財産は正味の遺産総額に含まれるので節税効果が期待できません。また、抵当権付物件などを贈与する場合は詐害行為取消権を使われる恐れがあります。

相続争いを防ぎやすくなる

相続について真剣に話し合っておくと相続争いを防ぎやすくなります。これは決して被相続人を想って相続争いをやめてくれるわけではありません。むしろ事前に相続争いへ発展しそうな論点を洗い出して解決することが目的です。

相続に対する不意打ちは相続人同士の関係を悪化させるどころか被相続人への疑念を持たせることにもなります。隠し財産ならまだしも隠し子は相続を混乱させます。隠し負債など論外です。

遺言を作る上でも各相続人の希望を聞いておくことが有益になるでしょう。

相続のサポートをしてあげられる

相続で大変なのは財産の洗い出しから財産評価までです。できれば被相続人が存命の段階で財産目録の作成から各財産の評価までできておくことが望ましいです。さらに名義変更などがある場合は、相続開始後の手続きについてまとめておくことも相続人を大いに助けます。

弁護士を雇っておくと相続人が安心できる

弁護士を雇っておくと相続の準備を適切に行えるし相続後の動きがスムーズになります。戸籍の取り寄せや相続税の計算、遺産分割協議の仲裁に各種放擲手続きと相続に関わることが何でも相談できます。税理士だと税に関する手続きしかお任せできないので、民法全般に対応できる弁護士がいた方が安心できます。

ベストは被相続人が生きている間から顧問のように関わってもらい、節税や財産分与、遺言の作成など適宜相談できる環境を作ることです。家庭の事情を把握した状態であれば弁護士の対応が一層早くなるからです。

なにより相続人にとっては相続に関する手続きの正解を知っている人がそばにいることが精神的な負担を軽くします。

ワンポイントアドバイス
相続準備に早期から取り組むことは被相続人にも相続人にもメリットばかり。弁護士に相談する場合もそれ以上の節税や時間コストの削減につながることが大事です。相続税申告でミスがあると追徴税がかかる可能性があるので手続きが1回で終わることの恩恵は想像以上に大きいです。たとえ相続人が1人でも不動産屋や有価証券、各種権利ば遺産に含まれるなら財産評価が非常に難しくなります。

遺産相続で知っておきたいQ&A

家族の数だけ相続があるという言葉はまさにその通りで遺産相続についてのQ&Aも挙げればキリがないです。そこで、こちらでは遺産相続に関わる問題の中でもよくある論点をまとめました。

隠し子や養子の相続分はどう計算するの?

隠し子や養子の相続分は実子と同じです。かつては非嫡出子と嫡出子の相続分に差をつけていましたが法の下の平等に反するということで法改正されました。養子の相続分は普通養子も特別養子も変わりません。

なんと、養子になった人は実親と養親両方の遺産を相続することができます。

法定相続人が亡くなっているが、その家族が生きている場合は?

法定相続人が被相続人死亡前に亡くなっていることもあるでしょう。その時は当該相続人の直系卑属に相続権が引き継がれます。これを代襲相続と呼びます。代襲相続は子と直系尊属について限度がなく、兄弟姉妹については1代と定められています。

よって相続順位が最も低いのは被相続人の甥・姪となります。

代襲相続は直系卑属にのみ行われるので亡くなった相続人に配偶者がいてもその方には相続分が移りません。したがって「相続人が亡くなってからも献身的に尽くしてくれた」という場合は遺言で相続分を与えることになります。

ちなみに、被相続人の孫が被相続人の養子となっていてかつ代襲相続をしていた場合は両方の法定相続分を得ます。

遺産分割の仕方で相続税の総額は変動する?

遺産分割の仕方で相続税が変動することはありません。あくまで相続税の総額は課税価格を法定相続分に沿って分け、それを足し合わせて算出します。

遺産分割協議に参加できない人がいるときは?

遺産分割に参加できない人がいる時には複数のケースが考えられます。それでも全員の合意が原則です。

まず、相続人が遠方にいたり忙しかったりする場合は電話や書面でやりとりします。次に相続人が成年被後見人である場合はその代理人が参加します。

相続人に未成年の人がいる場合はその法定代理人が遺産分割協議に合意します。相続人の所在が見つからない時は法定相続分だけ残し相続財産管理人に委ねます。

何をどうやっても遺産分割協議がまとまらないときは?

お互いの合意で決められない時は裁判所で手続きするしかありません家事審判や調停、それでも解決しない時は訴訟で遺産相続を終わらせます。

「愛人に全ての遺産を渡す」という遺言書が!遺産を取り戻すにはどうする?

遺留分減殺請求をすれば遺産のうち2分の1、相続人が直系尊属のみである場合は3分の1を取り戻すことができます。ただ、個人で遺留分減殺請求する場合は法定相続分に準じた値を請求可能です。

被相続人の兄弟から遺留分の請求をされた

被相続人の兄弟姉妹は遺留分減殺請求権を持ちません。特に応じなくて大丈夫です。

兄弟姉妹の中には当然に被相続人の遺産を承継できるものだと勘違いされる方が多くいるので、ご自身の兄弟が亡くなった時は自分に相続権があるかどうかよくご確認ください。

遺言が無効になることはある?

遺言が無効になることはあります。それも結構な確率です。遺言には3つの種類がありその中で最も確実なのは公正証書遺言です。

自筆証書遺言

自筆証書遺言は被相続人の手で執筆された遺言です。遺言の様式が守られていなかったり一部代筆になっている場合は遺言が無効になってしまうので弁護士に見てもらいながら書くことが重要です。

次の法改正によって財産目録の部分はパソコン作成及び代筆が可能となりました。

公正証書遺言

公正証書遺言は公証役場で公証人という法律のプロに書いてもらう遺言書です。法律に詳しい人間が遺言書を作ることでまず様式不備が起きません。ただ、それ以外の理由で無効になることはあります。

公正証書は口伝えで作るので余すことなく遺言の内容を共有してください。

秘密証書遺言

秘密証書遺言は自筆でもパソコンでも作成可能ですが封をして公証役場に保管します。秘密証書というくらいですから生前見られて困るような内容を書くことに使われるのでしおう。採用される数は非常に少なく他社の校閲を入れづらいことから最もリスクの高い遺言書と言えます。

遺言に従いたくないときはどうすれば良い?

遺言は法的拘束力を持つので相続人の1人が訴えて遺言の有効性が確認できればそれにしたがった遺産分割しかできません。逆に言えば相続人全てが遺言を無視すると合意した場合は依存に従わない遺産分割をすることが可能です。

もちろん、遺言に背いた遺産分割をしたときは遺産分割協議書が必要です。

不動産を相続したときは登記も変えなければいけないの?

不動産を相続した時は登記も変えなくてはいけません。相続によって登記を変えることを相続登記と言います。相続登記を怠った人のせいでいま土地の所有者がわからず混乱しています。目立った罰則がなくても登記を変えてください。

不動産を守るために相続人へ売ることは可能?

不動産を守るために贈与でなく相続人に売却することで破産した時に不動産で弁済することを避けようとする動きがあります。しかし不動産を守るという目的でも不当に安い価格で売買すれば債権者の不利益になることは明確です。詐害行為取消権を行使される恐れがある点はご理解ください。

お墓はどうやって相続する?

お墓については祭祀承継という形で相続します。お墓や仏壇などは常識的な価格である限り相続財産に含まれません。財産相続とは別ですが遺産分割協議書に同じく記載します。遺言で祭祀継承者を決めることも可能です。

ワンポイントアドバイス
相続は家族構成が少し異なるだけでも相続分や遺産分割協議の仕方、各種控除に変化があります。ここで紹介したQ&Aはほんの一例ですから他にも細かい疑問があれば法律に詳しい人へ相談してください。

遺産相続は手続きが多くて難しい!トラブルの予防・解決は弁護士へ相談を

遺産相続は手続きが多くて難しい。それにもかかわらず相続をきちんと終わらせないとのちのち相続人が困ることになります。遺産相続にまつわるトラブルの予防・解決は経験豊富な弁護士に相談しましょう。相続に対する不安が消え、相続手続きの正解が見えてくるはずです。

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