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相続における熟慮期間とは?延長(伸長)は認められる?
この記事で分かること
- 熟慮期間とは、相続を承認するか放棄するかを考える期間。
- 熟慮期間は、自分が相続人になったことを知った時から計算する。
- 相続人が亡くなれば、承認・放棄する権利が相続される。
- 相続人が未成年者などの場合、法定代理人が承認・放棄を判断する。
- 熟慮期間は、延長することができる。
- 熟慮期間での相続の判断は弁護士に相談を。
相続人は、熟慮期間内に、相続を承認するか放棄するかを決めなければなりません。それには、遺産状態の調査と把握が重要になります。期間が足りなくなれば、家庭裁判所での熟慮期間の延長手続も必要です。一般の人がこれらをこなすのは、とても大変です。熟慮期間に関することは、まず弁護士に相談するのが一番です。
目次[非表示]
相続における熟慮期間とは
相続の世界には、「熟慮期間」ということばがあります。「熟慮」とは、「じっくり考える」という意味です。「熟慮期間」とは、何についてじっくり考える期間なのでしょうか。
相続の3つのパターン
人が財産を残して亡くなると、残された財産(遺産)を受け継ぐ資格のある人(相続人)が現れます。相続人の、遺産に対する取り扱い方には、次の3つのパターンがあります。
単純承認
相続人は、不動産・動産・金銭などのプラスの遺産か、借金債務・売買代金債務などのマイナスの遺産かを問わず、全ての遺産をそっくりそのまま受け継ぐことができます。これを単純承認といいます。
限定承認
相続人は、受け継いだプラスの遺産によって賄える範囲内でのみ、マイナス遺産である借金債務などの支払い(弁済)を行うことを条件に、遺産を受け継ぐことができます。これを限定承認といいます。
放棄
相続人は、プラスかマイナスかを問わず、全ての遺産の受け継ぎを拒むことができます。これを放棄といいます。
熟慮期間とは、相続の承認・放棄を考える期間である
相続人が、単純承認・限定承認・放棄のうちのどれにするかを決めるには、遺産の内容を調べなければなりません。遺産の内容を調べた上で、単純承認・限定承認・放棄のどれにするかをじっくりと考えて決めるための期間が、熟慮期間です。
限定承認・放棄をせずに熟慮期間が過ぎたらどうなる
相続人が、限定承認も放棄もすることなく、熟慮期間が過ぎた場合、相続人は単純承認をしたものとみなされます。熟慮期間内に限定承認も放棄もしないのは、単純承認をする気持ちがあると考えられるからです。
熟慮期間は、自分が相続人になったことを知った時から計算する
法律では、熟慮期間は3ヶ月間と定められています。この3ヶ月間は、相続人が、自分が相続人になったことを知った時から計算します(起算点)。このことを、詳しく見てみましょう。
「自分が相続人になったことを知った時」とは
「自分が相続人になったことを知った時」とは、被相続人が死亡したこと、そのことによって自分が被相続人の相続人になったこと、の2つを知った時を意味します。
相続人が複数のときは、相続人ごとに熟慮期間を計算する
相続人が2人以上いる場合、相続人ごとに熟慮期間を計算します。熟慮期間は、相続人おのおのが単純承認・限定承認・放棄のいずれかを決める期間であり、また、被相続人の死亡と自分が相続人になったことを知る時は相続人ごとに異なるからです。
熟慮期間経過後に被相続人の借金が見つかったら
知らぬ間の借金
一例を挙げます。相続人が、被相続人の遺産について、限定承認も放棄もしないまま、熟慮期間が過ぎました。これにより、相続人は、単純承認をしたものとみなされます。
ところが、その後しばらくして、実は被相続人がサラ金から借金をしていたことが分かりました。相続人は、単純承認をしているので、被相続人の借金債務も受け継ぎ、サラ金業者に返済しなければならないことになります。
本来なら、相続人は、借金の返済を免れるために、放棄をしたいところです。しかし、熟慮期間が過ぎているので、もはや放棄ができません。相続人は、被相続人の借金を知っていたら、熟慮期間内に放棄をしていたはずです。被相続人の借金を知らなかったがために放棄ができなくなった相続人にとっては、気の毒な話です。
相続人が相続放棄をして、借金返済を免れることが可能になる救済策はないのでしょうか。
熟慮期間の起算点を遅らせるという方法
最高裁判所の判例は、次のように考えます。相続人が、被相続人の遺産を調べることがとても難しく、被相続人には借金債務がないと勝手に思っても仕方がないといえるときは、例外的に、相続人が被相続人の借金債務のあることを知った時、または知ることができた時から熟慮期間を計算することができます。その時から3ヶ月以内に放棄をすれば、借金返済をしなくてすみます。
たとえば、10年間所在不明で、家族との通信も途絶えていた被相続人が、生前にサラ金から借金をしていた場合を考えます。被相続人死亡の連絡が相続人に入れば、この時に、相続人は、被相続人の死亡と、自分が相続人になったことを知ることになります。
しかし、相続人からして、被相続人の10年間の生活暦は全く分からず、どこでどんな財産を築き、どこでどんな借金をしたかなど、遺産の内容を調べることは、到底できない話です。相続人が、被相続人には借金債務がないと勝手に思っても仕方がないというべきです。
従って、相続人は、被相続人のサラ金からの借金を知った時、または知ることができた時から3ヶ月以内であれば、放棄をすることができます。
借金を返済しなければならない場合も
相続人が、被相続人の遺産を容易に調べることができて、借金債務のあることを容易に知ることができるときは、原則どおり、相続人が、被相続人の死亡と、自分が相続人になったことを知った時から熟慮期間を計算します。
すでに熟慮期間が過ぎていれば、単純承認となり、借金債務も受け継ぐことになる結果、サラ金に返済をしなければならなくなります。
相続人が承認・放棄をせずに死亡した場合の熟慮期間
相続人が、熟慮期間経過後に死亡した場合、相続人が熟慮期間経過による単純承認によって受け継いだ被相続人の遺産は、相続人(前相続人)の相続人(後相続人)へと受け継がれます(再転相続)。
では、相続人が、熟慮期間経過前に死亡した場合、相続人の承認または放棄をする権利はどうなるのでしょうか。
相続人の承認・放棄権は後相続人が受け継ぐ
前相続人が、熟慮期間経過前に死亡した場合、前相続人の承認または放棄をする権利は、再転相続として、後相続人へと受け継がれます。承認または放棄する権利も、前相続人の遺産だからです。
前相続の熟慮期間はいつから計算する?
後相続の熟慮期間は、後相続人が、前相続人が死亡したことと、自分が前相続人の相続人となったことを知った時から計算します。
前相続の熟慮期間も、後相続人が、前相続人が死亡したことと、自分が前相続人の相続人となったことを知った時から計算します。前相続人が被相続人の死亡と自分(=前相続人)が被相続人の相続人になったことを知った時から計算するとなると、後相続人にとって前相続の熟慮期間が短くなってしまい、じっくり考えることが難しくなってしまうからです。
この2つの熟慮期間の間に、後相続人は、後相続の承認か放棄か、および前相続の承認か放棄かを、それぞれ決めることになります。
後相続人が後相続を放棄すると
後相続人が後相続を放棄すると、前相続の承認または放棄をすることができなくなります。後相続を放棄すると、後相続人は前相続人の相続人ではないことになり、前相続人の承認または放棄する権利を受け継ぐことができなくなるからです。
相続人が未成年者や成年被後見人の場合の熟慮期間
相続を承認するか放棄するかの問題は、場合により、相続人がプラスの遺産をもらう機会を逃したり、逆にマイナスの遺産を背負ってしまうこともあり、その選択には慎重な判断が必要です。
相続人が未成年者や成年被後見人である場合、こうした慎重な判断をする力が不十分なため、本人だけで決めることはふさわしくありません。保護者的立場にある親権者や成年後見人(まとめて法定代理人)が、本人に同意を与えたり、本人に代わって判断することになります。
相続人が未成年者や成年被後見人である場合、熟慮期間はどの時点から計算するのでしょうか。
熟慮期間は、法定代理人が、本人が相続人となったことを知った時から計算する
相続人が未成年者や成年被後見人である場合の熟慮期間は、法定代理人が、本人が相続人となったことを知った時から計算します。
相続人が未成年者や成年被後見人である場合、承認や放棄を事実上決めるのは、本人に同意を与えたり、本人に代わって判断する、法定代理人だからです。
熟慮期間は、延長することができる
熟慮期間は、原則として3ヶ月間です。しかし、場合により、この期間を延長することが認められています。
熟慮期間の延長を要する場合とは
熟慮期間の延長を要するのは、3ヶ月間では遺産を調べるのに時間が足りない場合です。たとえば、遺産の場所と相続人の住所が遠く離れている、遺産があちこちに分散している、債務もあったりして遺産の内容が複雑である、などの事情により、遺産を調べるのに時間がかかる場合です。
このような場合、そのまま3ヶ月間が過ぎると、相続人は単純承認をしたことになってしまい、プラスもマイナスも含めた全ての遺産を受け継がなくてはならなくなります。こうしたことを防いで、相続人が承認か放棄かをじっくり考えることができるように、熟慮期間の延長が認められています。
熟慮期間を延長するには、家庭裁判所の手続が必要
熟慮期間の延長をするには、相続人が、家庭裁判所に、相続の承認または放棄の期間伸長の審判を申し立てます。申立人が希望する伸長期間を、申立書に書きます。
申立先は、被相続人が亡くなった時の住所地を担当区域とする家庭裁判所です。家庭裁判所の期間伸長を認める審判により、熟慮期間が延長されます。
参考リンク:裁判所WEBサイト|家事審判の申立書 相続の承認又は放棄の期間の伸長
期間伸長の申立てを却下する審判に対しては、申立人は、上級の裁判所に即時抗告という不服申し立てをすることができます。
相続の承認・放棄と熟慮期間の延長に迷ったら、弁護士に相談を
自分が相続人となった場合、まず被相続人が残した遺産の内容を調べます。そのうえで、相続を承認するか放棄するかを決めます。限定承認と放棄をするのなら、家庭裁判所への申立てをしなければなりません。必要があれば、期間伸長の申立てもしなければいけません。これら全てを3ヶ月という熟慮期間内に行わなければなりません。
こうした活動をしていれば、3ヶ月はあっという間に過ぎてしまいます。まして、遺産内容が複雑だったり、分散していたりすれば、時間不足となることは明らかです。一般の人が、ある人は仕事を持ちながら、こうした活動をすることは、とても大変なことです。
ここは、プロの手を借りるのが一番です。遺産の調査と家庭裁判所での手続は、弁護士の専門とするところです。相続の承認・放棄と熟慮期間の延長に迷ったら、まず弁護士に相談しましょう。
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