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遺言の効力とは~遺言で何ができる?遺言の効力を活かす方法を解説。

この記事で分かること

  • 遺言の効力とは、遺言が遺族らに与える法律的な影響力のことである。
  • 遺言でできることは、法律によって限られている。
  • 遺言をもってしてもできないこともある。
  • 原則として、遺言書は検認を受けなくてはならない。
  • 通常の遺言には3つの方式があり、それぞれメリット・デメリットがある。
  • 遺言が無効になってしまうことがある。
  • 無効な遺言を作らず、遺言者の思いを確実に実現するには、弁護士から遺言書についての助言をもらうのが一番である。

遺言には厳しい方式が決められ、遺言でできることも限られ、検認という手続も必要となります。こうした厳しいルールに対応するには、法律知識と裁判実務経験が欠かせません。遺言を作ることになったら、まずこれらの知識と経験に秀でた法律の専門家である弁護士に相談しましょう。

遺言が持つ効力とは

遺言が持つ効力とは、遺言の中に示された故人の思いが、遺族その他の人に対して与える法律的な影響力をいいます。

遺言は、人がその生涯を閉じるに当たり、自分の最後の思いを、遺族その他の人たちに向けて発したものです。その中に法律的な内容が含まれている場合、遺言は、遺族その他の人に対して、法律的な影響力を与えます。これが、遺言の効力に他なりません。

遺言の効力については、大きく3つのポイントに分けることができます。遺言によってどんなことができるのか、遺言が効力を持つには何が必要か、遺言が効力を持たないのはどんな場合か、の3つです。

この記事では、これら3つのポイントを中心に、遺言の効力について解説します。

ワンポイントアドバイス
遺言には、法律的な内容の他に、「兄弟皆で助け合って、仲良く暮らしてください。」など、家族に向けてのメッセージ的な内容が含まれることがあります。この記事でいうところの遺言の効力には、こうしたメッセージ的な内容は含まれません。故人から家族に向けたメッセージが尊いものであることに変わりはありません。ただ、遺言の効力を考えるとき、そうしたメッセージはひとまず後回しとされます。

遺言でできること(法定遺言事項)

遺言をする人を、遺言者といいます。遺言者は、遺言によって、遺族その他の人に対して、どのような法律的な効力を生じさせることができるのでしょうか。

遺言によって法律的な効力を生じさせることができる事柄を、法定遺言事項といいます。主なものを解説します。

相続分の指定または指定の委託

相続人が手にすることのできる遺産の割合を、相続分といいます。遺言者は、遺言によって、相続人の全員または一部の者の相続分を自ら決めることができます。たとえば「長男Aの相続分を2分の1とする。」という遺言です。

遺言者は、遺言によって、相続分を決めることを第三者に委ねることもできます。たとえば「弁護士Bに、相続人全員の相続分を決めることを委ねる。」という遺言です。自分亡き後の状況に応じて相続分を決めたいときに用いられる方法です。

ここでいう「第三者」に相続人は含まれないという考え方が有力で、そのように判断した裁判例もあります(大阪高裁決定昭和49年6月6日)。相続分の指定を委ねられた相続人は、自分にだけ有利で、他の相続人に対して不公平な決め方をする可能性が高いからです。

指定相続分と法定相続分。どちらが優先する?

遺言で決められた相続分は、法律が決めた相続分(法定相続分)よりも優先します。法定相続分は、相続分についての故人の思いを推し測ったものに過ぎず、それよりも遺言に示された遺言者のはっきりとした思いを優先するべきだからです。

遺産分割方法の指定または指定の委託

複数の相続人の間で個々の遺産を具体的に分けることを、遺産分割といいます。

遺言者は、遺言によって、相続人の全員または一部の者あるいは遺産の全部または一部について、遺産分割の方法を自ら決めることができます。たとえば「土地Xは長男Aが取得する。」という遺言です。「土地Xを長男Aに相続させる。」という遺言も、原則として、遺産分割方法を決めたものであるとするのが判例です(最高裁判決平成3年4月19日)。

遺言者は、遺言によって、遺産分割方法を決めることを第三者に委ねることもできます。たとえば「弁護士Bに、遺産全部の分割方法を決めることを委ねる。」という遺言です。相続分を決めることを委ねる場合と同じく、自分亡き後の状況に応じて分割方法を決めたいときに用いられる方法です。

委ねられた人は、法定相続分に従って、遺産分割方法を決めなければなりません。指定相続分がない限り、法定相続分によるしかないからです。

遺言と異なる遺産分割はできる?

相続人同士の話し合いによって、遺言によって決められた方法とは違う方法での遺産分割を行うことができるのでしょうか。

これを認めない考え方が有力です。遺産分割方法についての遺言者の思いを尊重すべきであること、遺言者が亡くなると同時に遺言の効力が生じ、遺言者が決めたとおりの形で遺産分割が完了するため、もはや話し合いによる遺産分割の余地はないことが、その理由です。

遺産分割の禁止

遺言者は、遺言によって、遺言者が亡くなってから5年以内の期間を決めて、遺産分割を禁止することができます。遺産分割について揉めることが予想されるため冷却期間を置いたほうがよい場合、相続人が未成年者や若年者であるため、遺産分割に参加できるくらいの精神面の成長を待ったほうがよい場合などに利用されます。

禁止期間を5年以内としたのは、遺産が分割されずに相続人たちの共有という状態が長引くと、誰も遺産を自由に利用することができず、遺産の有効活用が妨げられるからです。

分割禁止できる範囲は、遺産の全部または一部のいずれでもよいとされています。状況により、分割禁止すべき範囲も異なってくるからです。

遺言で決められた遺産分割禁止の期間内になされた遺産分割は、無効です。分割を禁止しようという遺言者の思いに反するからです。

遺言執行者の指定または指定の委託

遺言執行者とは、認知の届出など、遺言に記されたことを実際に行う人をいいます。遺言者は、遺言によって、自ら遺言執行者を決め、または遺言執行者を決めることを第三者に委ねることができます。

執行の要る遺言と要らない遺言

遺言には、遺言者が亡くなることで遺言が効力を生ずれば、それだけで、遺言の内容が実現されるものがあります。たとえば、遺言による相続分の指定などです。

一方で、遺言者が亡くなって遺言の効力を生じるだけでは遺言の内容は実現されず、実現のための具体的な手続が必要となる遺言もあります。たとえば、遺言による認知です。

認知の場合、遺言が効力を生じただけでは、認知の効力は生じません。遺言に基づいて市区町村役場で認知の届出をすることによって初めて認知の効力が生じます。このように、遺言に基づいて遺言内容を実現するための手続を行うことを、遺言の執行といいます。

遺言の執行のための費用はどうする?

たとえば、遺言執行に先立つ遺言書検認の費用(家庭裁判所への審判申立費用など)、遺言に基づいて認知届を行う際にかかる費用(市区町村役場までの交通費、届出書に添付する書類の費用など)は、遺言の執行のための費用です。

こうした費用はすべて、遺言者の遺産の中からもらうことができます。遺言の執行は、遺言者の思いを実現するための手続なので、その費用も遺言者の遺産をもってまかなうべきだからです。

任意認知

法律上の夫婦でない男女の間に生まれた子供(非嫡出子)について、主に父親が、自分の子供であると自ら認めることを、任意認知といいます。(これに対して、裁判によって、父親とされる人の意思に反してでも、認知したものとすることを、強制認知といいます。)

任意認知は、父親の生存中に行うことが難しいときは、遺言によって行うことができます。父親が亡くなって遺言が効力を生じた後、遺言執行者が、市区町村役場に、認知の届出を行います。

推定相続人の廃除/廃除の取消し

相続人となる予定の者(推定相続人)について、相続される人(被相続人)への虐待など、相続人としてふさわしくない振る舞いがあり、被相続人も自分の相続人となることを望まない場合、被相続人は、家庭裁判所に、推定相続人廃除の審判を申し立てることができます。廃除の審判の確定により、廃除された推定相続人は相続人の資格を失います。

被相続人は、遺言によって廃除の思いを示すこともできます。この場合、被相続人が亡くなって遺言が効力を生じた後、遺言執行者が、家庭裁判所に、推定相続人廃除の審判を申し立てます。

被相続人の気持ちが変わったら

廃除された者の改心により、被相続人に廃除の気持ちがなくなった場合、被相続人は、家庭裁判所に、廃除取消しの審判を申し立てることができます。

被相続人は、遺言によって廃除取消しの思いを示すこともできます。この場合、被相続人が亡くなって遺言が効力を生じた後、遺言執行者が、家庭裁判所に、推定相続人廃除の審判の取消しを申し立てます。

財産の処分

遺言者は、遺言によって、自分の財産を他人にあげることができます。これを遺贈といいます。遺贈の相手は、相続人に限らず、誰でもかまいません。

受遺者が先に亡くなったら

遺贈によって財産をもらう人を受遺者といいます。遺言者が亡くなるよりも前に受遺者が亡くなったら、遺贈はどうなるのでしょうか。

法律は、このような場合、遺贈の効力は生じないとしました。受遺者の子供などが受遺者の資格を受け継ぐ規定がない以上、このように取り扱うしかないからです。

遺贈の効力がなくなる結果、遺言者が遺贈しようとした財産は、他の遺産と共に、法定相続人が相続することになります。

いつから受遺者の物になる?

遺言は、遺言者が亡くなった時に効力を生じます。遺言によって行う遺贈は、遺言者が亡くなった時に効力を生じます。従って、遺言者が亡くなると同時に、遺贈された財産は受遺者の物になります。

遺言が見つかる前に転売されていたら

ある土地を遺贈することが書かれた遺言が見つかる前に、その土地が相続人によって第三者に転売されてしまうことがあります。この場合、受遺者と買受人のどちらが土地を手にすることができるのでしょうか。決め手は、どちらが先に土地の登記をしたかにあります。

実際にも重要な問題なので、例を挙げて解説します。

Aさんが土地Pを残して亡くなりました。相続人は、ひとり息子のBさんだけです。土地PはBさんがもらうことになります。Bさんは、事業の資金を得るため、土地PをC不動産に売りました。ところが、その後、Aさんの遺言が見つかりました。そこには、土地Pを愛人Dさんに与えると書かれていました。DさんはC不動産に対して、土地Pを返せといえるのでしょうか。

受遺者が他の権利者に勝つ方法を示した判例があります(最高裁判決昭和39年3月6日)。この判例に示された考え方をこのケースに当てはめると、次のようになります。

「BさんはAさんの相続人として、Aさんの遺言者としての立場を受け継ぎます。土地Pについては、売主BさんからC不動産への売却によりC不動産が土地Pの所有権を手にする一方で、Aさんの遺言者の立場を受け継いだBさんからDさんへの遺贈によりDさんが土地Pの所有権を手にします。土地Pについて、B→C、B→Dという2つの権利の動きが重なります。この2つの動きは互いに、一方が立てば他方が立たないという、いわば食うか食われるかの関係にあります。不動産について食うか食われるかの関係にある者同士の勝敗は、先に登記をした方が勝つというのが民法の決まりです。従って、Dさんは、C不動産よりも先に登記をしない限り、土地Pを返すように求めることはできません。」

生前にもできる法定遺言事項

法定遺言事項のうち、任意認知、推定相続人の廃除とその取消し、財産の処分については、遺言でなく、生前の行為によっても行うことができます。

任意認知は、父親が、市区町村役場への届出によって行います。推定相続人の廃除とその取消しは、被相続人が、家庭裁判所への審判申し立てによって行います。

財産の生前処分には、生前贈与と死因贈与があります。生前贈与は、あげる人ともらう人との贈与契約により、財産をもらう人の物にする方法です。死因贈与は、あげる人ともらう人との死因贈与契約により、あげる人が亡くなった時に、財産をもらう人の物になる方法です。

ワンポイントアドバイス
法定遺言事項は、本文に挙げたものの他にもいくつかあります。遺言を準備したいと考えている人にとって、遺言に書いてよいものかどうか迷う事柄も多いかと思います。そうしたときは、独りで悩むことなく、遺言に詳しい弁護士に相談することが一番です。

遺言でできないこと

遺言については、遺言者の思いを最大限に重んじて、できる限りその思いを実現させてあげようというのが、法律の基本的な考え方です。

その一方で、法律は、遺言によって遺言者の思いをもってしても立ち入ることのできない領域を定めました。遺留分という領域です。それは、どのようなものなのでしょうか。あらましを解説します。

遺留分を侵害する遺贈

兄弟姉妹を除いた法定相続人には、必ずもらうことのできる権利の割合が保障されています。これを、遺留分といいます。遺留分を持つ人(遺留分権者)は、ほとんどの場合、妻と子供なので、ここでは妻と子供を遺留分権者として解説します。

遺留分という制度を設けた理由は、2つあります。ひとつは、故人の遺産は、妻や子供の協力があってでき上がった場合が多いことです。もうひとつは、生活の糧を故人の遺産に求めることで、妻や子供の生活が成り立つ場合が多いことです。

妻と子供がもらう財産がその遺留分に満たない場合、妻と子供は、他の人に遺贈された財産の中から、遺留分に満たない分の財産を取戻すことができます。遺留分に基づいて遺贈された財産を減らして少なくする(減殺する)という意味で、これを遺留分減殺請求権といいます。

遺贈は遺言によってなされるものですので、まさに、遺留分は遺言に勝るという姿そのものです。

ワンポイントアドバイス
誰が遺留分権者か、遺留分権者の持つ遺留分の割合(遺留分率)はどのくらいなのかについては、まさにケースバイケースです。自分が遺言を書いた場合の遺留分権者と遺留分率を知りたいと思ったら、まず弁護士に相談しましょう。

遺言が効力を持つ期間

遺言が、その効力として、法律的な影響力を持てるのは、いつからいつまでなのでしょうか。

遺言の効力が生まれる時

遺言の効力は、遺言者が亡くなった時に生まれます。遺言は、遺言者が、自分亡き後のことについて記したものだからです。

遺言の効力がなくなる時

遺言に記された遺言者の思いのすべてが実現された時に遺言の役割が終わり、遺言の効力はなくなります。遺言に記されたことすべてが実現されるまでは遺言を守ってほしいというのが遺言者の思いだからです。

ワンポイントアドバイス
遺言は、遺言者が法律の定めた方式に従って作り終えた時に成立します。成立した遺言は、遺言者が亡くなった時に効力を生じます。遺言が成立する時と効力を生ずる時は、別々であることに注意しましょう。

遺言の効力と検認手続

遺言は、それが文書の形をしていることから、遺言書とも呼ばれます。遺言書を預かっている人、遺言書を発見した相続人は、遺言者が亡くなったことを知った後、できるだけ早く、遺言者が亡くなった時の住所地を担当区域とする家庭裁判所に、遺言書検認の審判を申し立てなくてはなりません。

検認はなぜ行う?

遺言書検認の審判では、家庭裁判所が、申立人や相続人の立会いの下、遺言書の現在の状態を記録します。

具体的には、裁判所の職員が、遺言書および遺言書が入っていた封筒などのコピーを取り、裁判所の記録に綴るという方法で行われます。これにより、遺言書に遺言者以外の者の手が加えられることを防ぎ、遺言者の思いが守られます。いわば、遺言書に対する証拠保全の手続です。

公正証書遺言については、検認の手続は必要ありません。公正証書遺言は、遺言が作られた時から、遺言の原本を公証人が公証役場で保管するため、遺言者以外の者が手を加える危険がないからです。

検認は遺言の効力に影響なし

遺言書の検認では、遺言書の現状を記録します。そして、検認の役割は、ここまでです。本当に遺言者が書いたものか、誰かが手を加えてないかなどの問題には一切立ち入りません。

本当に遺言者が書いたものか、誰かが手を加えてないかなどを疑う人は、検認後の遺言書であっても、遺言が無効であるとの判決を求めて、地方裁判所に裁判を起こすことができます。

封印ある遺言書の無断開封は厳禁

遺言書に封印(封筒などの封をのり付けし、その上に遺言者の印鑑を押すこと)がある場合、遺言書は、家庭裁判所での検認審判の中で、相続人またはその代理人の立会いがなければ、開封することはできません。

封印には無断開封を禁ずる遺言者の思いが込められていること、無断開封によって遺言書に手を加えられることを防いで遺言者の思いを守る必要があることが、その理由です。

検認のない遺言、無断開封された遺言の効力は?

検認を経ずに遺言に記されたことを行った場合(たとえば、Aに与えると遺言に書かれた土地をA名義に登記した場合)、封印のある遺言書を検認審判以外の場所で開封した場合、どのような結果になるのでしょうか。

検認を経ずに遺言に記されたことを行った人、封印のある遺言書を無断開封した人には、5万円以下の過料が課せられます。過料とは、民事上の手続を守らせるため、その違反に対するペナルティーとして課せられる金銭であり、刑罰ではありません。

ペナルティーを課せられても、遺言に記されたことを行った結果はそのままにされ、元に戻されることはありません(登記の名義が遺言者の名義に戻されることはなく、A名義のままとされます)。

ペナルティーを課せられても、無断開封された遺言が無効になることはありません。ただし、無断開封された遺言書に手が加えられる可能性は否定できないため、無断開封した人と、開封した人が手を加えたことを疑う相続人との間で、新たな争いの火種となることは、十分に予想されます。

ワンポイントアドバイス
遺言書に手を加えられることを防いで、遺言者の思いを守るとともに、相続人間の争いを予防するという意味で、遺言書の検認はとても重要な手続です。とはいえ、昔から遺言は争いの火種となることが多く、しかも家庭裁判所というあまり行きたくない場所での手続でもあることから、遺言書を預かったり見つけた人にとっては、争いに巻き込まれることを恐れるあまり、つい尻ごみしてしまう手続です。そういうときは、遺言問題や裁判所にも慣れた弁護士が頼りになります。遺言書を預かったり、遺言書を見つけたときは、なるべく早く弁護士に相談しましょう。

遺言の3つの方式~メリット・デメリット比較

遺言は、民法に定める方式に従わなければ、することができません。民法に定める方式に従わない遺言は、無効です。遺言が効力を持つためには、民法に定める方式に従うことが必要です。

民法に定める方式には、普通方式と特別方式があります。遺言の多くは、普通方式の遺言です。普通方式は、3種類に分かれます。ここでは、3種類の普通方式について、それぞれの作成ポイントとメリット・デメリットを簡単にまとめてみました。

自筆証書遺言 公正証書遺言 秘密証書遺言
作成のポイント ①全文・日付・氏名を遺言者自身が書く。
②押印する。
③訂正の仕方に決まりあり。
①証人の立会いが必要。
②公証人に口で述べる。
③公証人が筆記し読み聞かせる。
④遺言者と証人が承認し、署名押印する。
⑤公証人が認証する。
①遺言者が署名押印する。
②遺言者が封印する。
③公証人と証人に、自分の遺言であること等を述べる。
④公証人が封紙に遺言者の述べたことを書いて書名押印する。
メリット ①人に知られずに独りで作ることができる。
②紙・ペン・印鑑があれば作ることができる。安上がりである。
①方式違反がない。
②検認は不要。すぐに内容実現ができる。
③公証人が原本を保管する。
①内容を秘密にできる。
②全文は代書やワープロなどでもよい。
③他人が作る・手を加える・隠すことができない。
デメリット ①方式違反をしやすい。
②検認が必要。開封や内容実現に時間がかかる。
①公証人手数料がかかる。
②受遺者の働きかけで作られることが多い。
①手続が面倒である。
②公証人手数料がかかる。
③公証人は保管しないので信用できる人に預ける必要がある。

3種類の方式は、いずれも、遺言者の思いが正しく表されること、他人が作ったり手を加えたりできないようにすることを目指す点では、共通です。

遺言書キットを用いた遺言の効力

最近、文房具会社から発売されているものに、「遺言書キット」と呼ばれるものがあります。遺言書用紙と解説書をセットにしたものです。

遺言書キットで作成できるのは自筆証書遺言です。自筆証書遺言について法律が定めた方式に従って作成されなければなりません。その点、解説書が付いていることで、遺言者には心強い味方となるでしょう。

それでも、結果的に、法律が定めた方式に従ったものにならなければ、遺言としての効力は生じません。家庭裁判所の検認審判を受けなければならないことも、一般の自筆証書遺言と同じです。

ワンポイントアドバイス
遺言書キットには解説書が付いているので、何も参照せずに遺言を書く場合に比べれば、有効な遺言ができる可能性は高まります。しかし、独りで遺言を書くことには変わりありません。自筆証書遺言としての大切な点が抜けるおそれは、否定できません。遺言書キットを使って書いた遺言書でも、やはり一度は弁護士に目を通してもらうことが重要です。

遺言が無効となるケース

いずれの方式であれ、遺言者は、自分亡き後のことを一生懸命に考えて、遺言を残します。しかし、せっかく作った遺言書でも、効力が生じなければ、遺言者の思いは実現しません。遺言者はすでに故人ですから、書き直すこともできません。

せっかく作った遺言書が無効になるという、遺言者にとって悲劇ともいえる事態を避けるためには、遺言が効力を生じない、つまり無効になってしまうのはどんなケースなのかを知ることが必要です。

ここでは、遺言が無効になってしまう主なケースについて解説します。

方式に問題がある

遺言が有効であるためには、民法に定める普通方式または特別方式のいずれかの方式に従わなければなりません。民法に定める方式に従わない遺言は、無効となってしまいます。

遺言能力に問題がある

人は誰でも、15歳以上であれば、遺言をすることができます。これを、遺言能力といいます。

契約では、相手と交渉するというプロセスがあります。交渉というプロセスにおいては、相手との駆け引きに負けないだけの判断能力が必要です。民法は、このレベルの判断能力は、20歳にならないと身に付かないと考えました。

遺言は、その中身を自分独りで決めることができます。契約のように相手と交渉するというプロセスがありません。相手との交渉のない遺言では、契約の場合ほどの判断能力は必要ありません。自分が遺言の中でどんなことを書いているのか、この遺言によって家族その他の人にどんな影響を与えるのかを理解できるレベルの判断能力で足りるのです。そして、民法は、15歳になれば、このレベルの判断能力が身に付くであろうと考えたわけです。

従って、14歳未満の人が作った遺言は、遺言能力のない人が作った遺言として、無効となってしまいます。

認知症の人の書いた遺言の効力は?

たとえば90歳の認知症を患うお年寄りが書いた遺言は、15歳以上の人が書いた遺言だから有効と考えてよいのでしょうか。

確かに、15歳以上であることだけからすれば、遺言能力には問題ありません。しかし、遺言にしろ契約にしろ、他の人に対して何らかの法律的な影響を与える行為を行うには、自分が行っていることの法律的な意味、自分が行ったことが他の人にどんな法律的な影響を与えるかを正しく判断できる力がなくてはなりません。この力を、意思能力といいます。

意思能力のない人が行ったことは、他の人に対して何も影響を与えない、つまり無効であると考えられています。自分が行っていることの法律的な意味、自分が行ったことの他の人への法律的な影響を正しく判断できてこそ、行ったことから生まれる法律的な責任を負わせることができるからです。

認知症と一言でいっても、その程度は人により千差万別です。その人が、遺言を書いている時に、その法律的な意味と法律的な影響を正しく判断できていたのであれば、その遺言は、遺言能力も意思能力もある人が書いたものとして、有効です。しかし、遺言を書いている時に、その法律的な意味と法律的な影響を正しく判断できていなかったのであれば、その遺言は、遺言能力はあっても意思能力がない人が書いたものとして、無効となります。

詐欺・強迫による遺言

詐欺や強迫による遺言は、遺言者が取り消すことができます。遺言者が亡くなった後は、遺言者の相続人が取消権を相続し、取り消すことができます。

長男が母親に「長男は他の子供より倍の法定相続分がある。」とだまして、長男がたくさんの財産をもらう遺言を書かせたら、これは詐欺による遺言です。父親の愛人が父親に「私に財産の半分をよこすという遺言を書かないと、私たちの関係を家族にばらすわよ。」と脅して、愛人が財産の半分をもらうという遺言を書かせたら。これは強迫による遺言です。

こうした遺言が取り消されれば、遺言は無効となります。

ワンポイントアドバイス
せっかく書いた遺言が無効になったのでは、遺言者としての苦労が水の泡です。そうした事態にならないよう、遺言を書いた時点で、遺言に詳しい弁護士に遺言書を見せましょう。無効とならないものかどうかを専門家の目で確認してもらうことをお勧めします。

遺言に納得がいかない場合は弁護士に相談を

思案をめぐらせて書いた遺言でも、いまひとつ腑に落ちない点がある、有効なものか自身が持てないといった場合があります。相続人からしても、故人の名で書かれた遺言があるが、果たして本当に遺言としての効力があるのか疑わしいといった場合もあります。

遺言が効力を生じた時点では遺言者はすでに故人となり、遺言の真偽を確かめることができません。それだけに、遺言にはいくつかの厳しいルールが決められていて、ルールに反する遺言は無効とされます。

こうしたルールを正しく理解することが、有効な遺言を作るための第一歩です。ルールは民法の条文や判例に事細かに示されています。これらをマスターしようとしたら、一般の人には並々ならぬ苦労が伴います。しかも、ひとつ間違えば、せっかくの遺言が無効になったり、自分の思いとは異なる遺産分けになったりして、遺言者が草葉の陰で嘆き悲しむことにもなりかねません。

自分で書いた遺言に自身が持てない。親などが書いた遺言に納得できない。こうしたときは、独りで悩んでいないで、まずは法律の専門家である弁護士に相談しましょう。

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