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負担付贈与の仕組みとメリット・デメリット|税金も徹底解説

この記事で分かること
- 負担付贈与の定義と、普通の贈与との違い
- 負担付贈与のメリット・デメリット
- 負担付贈与にかかる贈与税・所得税の計算方法と節税対策
- 負担付贈与で起こりやすいトラブルと、弁護士に相談すべきタイミング
負担付贈与とは、財産をもらう人があげる人に対して一定の義務を負う贈与のことです。住宅ローンの引き継ぎや介護などが典型例です。普通の贈与と異なり、担保責任や独自の税金計算が発生し、メリットだけでなくデメリットもあります。本記事では、契約書の作り方から贈与税の計算、節税対策、解除の方法まで、弁護士が実務目線で詳しく解説します。
目次[非表示]
負担付贈与とは何か
「子どもに家を譲りたいけれど、まだ住宅ローンが残っている」「お世話になっている人に毎月いくらか渡したい。その代わり、自分の介護を頼みたい」――こんな思いを抱いたことはありませんか。こうした願いを叶える方法のひとつが、負担付贈与です。
普通の贈与とどう違うのか。税金はどうなるのか。契約書は必要なのか。実は、知らずに進めてしまうと、思わぬ落とし穴が待っているのが負担付贈与の世界です。
この記事では、負担付贈与の基本から、メリット・デメリット、税金、契約のポイント、トラブル事例まで、弁護士の視点から丁寧に解説していきます。じっくり読み進めてみてください。
負担付贈与の定義
負担付贈与とは、財産をもらう人が、財産をあげる人や第三者に対して、一定の義務(負担)を負う形の贈与をいいます。この「義務」が、いわゆる「負担」です。負担が付いているから、負担付贈与と呼ばれます。
たとえば、父親が息子に家を贈与する代わりに、息子が父親の残りの住宅ローンを払い続ける。このようなケースが、典型的な負担付贈与です。
負担付贈与は民法で認められた契約形態
負担付贈与は、民法第553条にきちんと定められた契約形態です。条文では、負担付贈与については、その性質に反しない限り、双務契約に関する規定が適用されると規定されています。
つまり、単なる「あげます・もらいます」という関係ではなく、双方が義務を負い合う対等な契約だ、ということです。この点が、負担付贈与の法律上の重要な特徴になります。
負担を受ける人は第三者でもよい
意外と知られていないのですが、負担付贈与における負担の対象は、財産をあげる人本人に限られません。第三者でも構わないのです。
たとえば、こんなケースを考えてみましょう。父親が娘に1000万円を贈与する代わりに、娘が父親の知人に毎月3万円を支払う。これも立派な負担付贈与です。負担の相手方は、贈与者の家族でも、知人でも、特定の団体でも、自由に設定できます。
負担付贈与の具体例
「定義はわかったけど、実際にどんな場面で使われるの?」と感じている方も多いと思います。ここからは、負担付贈与の代表的な4つの具体例を紹介します。読みながら、ご自身の状況に近いものがないか、考えてみてください。
住宅ローンを引き継ぐケース
最もよく見かけるのが、住宅ローンを引き継ぐ形の負担付贈与です。
親が子どもに自宅を贈与する。その代わり、子どもが残りの住宅ローンを支払っていく――こうしたケースは、相続対策としても活用されています。親世代としては、住宅という大きな財産を生前のうちに渡せる安心感があります。子世代にとっても、ローン残高分は実質的に自己負担となるため、税負担を抑えながら不動産を取得できる利点があります。
介護や生活サポートを負担するケース
高齢化が進む現代日本では、介護絡みの負担付贈与も増えています。
たとえば、高齢の母親が娘に対して、毎月10万円を贈与する。その代わり、娘は母親の介護を週3回行う。こうした取り決めも負担付贈与です。
口約束で介護をお願いしても、関係がこじれたり、約束が反故にされたりすることがあります。負担付贈与として法的に位置付けておけば、義務として認識されるため、双方が安心して取り決めを履行しやすくなります。
土地や不動産の一部利用を認めるケース
土地を贈与する際、その一部を贈与者が引き続き利用できるように負担を設定するケースもあります。
具体例を挙げてみましょう。父親が息子に広い土地を贈与する。ただし、その一部を父親が家庭菜園として使い続けることを条件にする。これも負担付贈与に該当します。完全に手放すのは寂しい、けれど名義は子どもに移したい、といったときに使いやすい仕組みです。
事業承継に活用されるケース
中小企業の事業承継でも、負担付贈与は重要な選択肢のひとつです。
父親が経営する会社の株式を息子に贈与する。その代わりに、息子は会社が抱える借入金の連帯保証人になり、返済の責任を負う。事業を引き継ぐ覚悟と責任を、法的に明確にする手段として活用されています。
負担付贈与のメリット
負担付贈与には、普通の贈与にはない4つのメリットがあります。順番に見ていきましょう。
財産をあげる人が見返りを受けられる
普通の贈与は、文字通り「あげる」だけの行為です。一方、負担付贈与では、財産をあげる代わりに、何らかの見返りを受け取れます。
たとえば、自宅を渡す代わりに住宅ローンを引き継いでもらう。預貯金を渡す代わりに介護をしてもらう。こうした形で、贈与者にも実質的な利益が残ります。「タダではあげたくないけれど、近しい人だから売買にもしたくない」という方には、ぴったりの仕組みといえるでしょう。
確実な恩返しが法的に保証される
「お世話になった人に何か返したい」と思っても、口約束だけでは心もとないものです。受贈者の気が変われば、それで終わってしまいます。
負担付贈与であれば、受贈者の負担は法律上の義務です。義務を果たさなければ、契約解除や損害賠償といった法的措置の対象になります。長年お世話になった親族や知人に確実に恩返しをする手段としても、負担付贈与は心強い味方です。
スムーズな事業承継ができる
会社経営者が後継者に経営権を渡す場面を想像してみてください。株式の贈与だけだと、後継者は経営権だけを手にして、債務は先代に残ったまま、ということがあり得ます。
負担付贈与なら、株式と同時に、会社の借入金や個人保証も引き継がせる設計が可能です。会社の経営も、債務関係も、ひとつの契約で整理できる。事業承継の現場では非常に重宝されている方法です。
贈与税の課税対象が少なくなる
税金の面でも、負担付贈与には魅力があります。
普通の贈与にかかる贈与税は、原則として「もらった財産の額-基礎控除110万円」を基礎に計算されます。一方、負担付贈与では、「もらった財産の額-負担した額-基礎控除110万円」が課税対象です。負担分を差し引けるため、贈与税の課税ベースが小さくなります。
ただし、これにはいくつか注意点があるので、後ほど「税金」のセクションで詳しく説明していきます。
負担付贈与と普通の贈与との4つの違い
ここで、負担付贈与と普通の贈与との違いを整理しておきましょう。表で比較すると、特徴がよくわかります。
| 項目 | 普通の贈与 | 負担付贈与 |
|---|---|---|
| もらう人の負担 | なし | あり |
| あげる人の担保責任 | 原則なし | 負担の限度であり |
| 贈与税の計算 | もらった額-110万円 | もらった額-負担額-110万円 |
| あげる人の税金 | 原則なし | 譲渡所得税がかかる場合あり |
| 不動産の評価 | 相続税評価額 | 時価 |
それぞれの違いを、もう少し詳しく見ていきます。
違い①:もらう人に負担がある
最大の違いは、もらう人が義務を負うかどうかです。
普通の贈与では、もらう人は完全な「もらいっぱなし」です。何の見返りもいりません。これに対して負担付贈与では、もらう人に法律上の義務が生じます。義務を果たさないと、契約解除や損害賠償のリスクを背負うことになります。
違い②:あげた人に担保責任が生じる
普通の贈与では、贈与した物に欠陥があっても、原則として贈与者は責任を負いません。「タダであげたものに文句を言うな」というのが基本姿勢です。
しかし、負担付贈与は違います。受贈者が負担を負っている以上、贈与者にも、欠陥のない物を渡す責任、つまり担保責任があります。たとえば、シロアリ被害のある家を贈与した場合、贈与者は受贈者から修補や損害賠償を求められる可能性があります。
違い③:贈与税の計算方法が異なる
贈与税の計算方法も、両者では異なります。
普通の贈与の課税対象は「もらった額-110万円」。負担付贈与の課税対象は「もらった額-負担額-110万円」です。負担分を差し引けるという点で、見た目には負担付贈与の方が有利に思えます。
ただし、不動産の場合は注意が必要です。不動産の評価方法が変わる影響で、結果的に普通の贈与より贈与税が高くなるケースもあります。
違い④:あげた人にも税金がかかる場合がある
普通の贈与では、あげる人に税金はかかりません。財産が減るだけだからです。
ところが負担付贈与では、贈与者に譲渡所得税がかかる場合があります。「タダであげたのに、なぜ自分が税金を払うの?」と感じるかもしれません。これは、税法上、負担を「対価」とみなす考え方があるためです。詳しくは、税金のセクションで具体例を交えて説明します。
負担付贈与の法律的な意味
負担付贈与は、財産を移転させる法律行為です。だからこそ、法的な性質を正しく理解することが大切です。ここでは、押さえておきたい4つのポイントを解説します。
負担付贈与は契約である
まず大前提として、負担付贈与は契約です。贈与者と受贈者、両者の合意があって初めて成立します。一方が「あげる」と言っても、もう一方が「もらう」と承諾しなければ成立しません。
この「契約」という性質が、後で説明する解除や担保責任の話につながっていきます。
口頭でも成立するが書面が望ましい
法律上、贈与契約は口頭でも成立します。負担付贈与も同様です。
しかし、口頭の合意だけだと、後で「言った、言わない」のトラブルになりがちです。「家をあげる代わりにローンを払うって約束したじゃないか」「いや、そんなこと言ってない」――こうした水掛け論を避けるためにも、書面化しておくのが鉄則です。
契約書がないと撤回されるリスクがある
書面によらない贈与は、各当事者が自由に解除できると民法に定められています。口頭の約束だけだと、贈与者が気が変わって「やっぱりあげない」と言い出しても止められません。
きちんとした契約書、できれば公正証書を作成しておけば、こうした撤回リスクから自分を守れます。重要な財産を動かす場面では、書面化を徹底することをおすすめします。
当事者が負う法律的義務
負担付贈与契約が成立すると、両当事者にどんな義務が発生するのでしょうか。
財産をあげる人の義務
贈与者は、契約で定めた財産を、契約どおりに渡す義務を負います。「家を贈与する」と決めたなら、家を引き渡し、登記を移転する。「毎年100万円を渡す」と決めたなら、毎年きちんと振り込む。当然のように見えますが、これも法的な義務です。
履行しなければ、受贈者から履行を求められたり、契約を解除されたりする可能性があります。
財産をもらう人の義務
受贈者は、契約で定めた負担を履行する義務を負います。「住宅ローンを払う」「介護をする」「土地を畑として使わせる」など、契約に書かれた負担をきちんと果たさなければなりません。
「贈与なんだから、もらえばそれで終わり」という感覚で受け取ると、後で大変なことになります。負担付贈与は契約――この意識を、もらう側もしっかり持っておきましょう。
負担付贈与契約は解除できる
「契約書を作ったけれど、相手が約束を守らない」――こんなときはどうすればいいのでしょうか。
結論からいえば、負担付贈与契約は、一定の場合に解除できます。
負担付贈与は双務契約にあたる
民法では、双務契約――つまり当事者の双方が義務を負う契約――では、相手方が義務を果たさないとき、もう一方の当事者が契約を解除できると定められています。
負担付贈与は、贈与者が財産を渡す義務を、受贈者が負担を履行する義務を、それぞれ負う契約です。両者ともに義務を負っているため、双務契約に該当します。したがって、相手方が義務を果たさないときは、解除が可能です。
解除の具体的な流れ
具体例で見てみましょう。
Aさんは、Bさんに毎年100万円を贈与する代わりに、Bさんは週2回、Aさんの入浴介助を行う、という負担付贈与契約を結びました。Aさんは約束どおり100万円を支払いました。ところがBさんは、最初の数回だけ介助をして、その後は何かと理由をつけて来なくなりました。
このような場合、AさんはBさんに対して、相当の期間を定めて履行を催告できます。それでもBさんが履行しないとき、Aさんは契約を解除できます。
解除の意思表示は、書面で行うのが安全です。後日のトラブル防止のため、内容証明郵便で送るのが一般的です。
解除した場合に渡した財産は取り戻せる
契約が解除されると、契約は最初から存在しなかったことになります。すでに渡した財産は、原則として返してもらえます。
先ほどの例でいえば、Aさんは支払い済みの100万円について、Bさんに返還を請求できます。Bさんが任意に返さない場合は、訴訟を起こして強制的に取り戻すことも可能です。
贈与財産に不備があった場合の担保責任
負担付贈与では、贈与した物に不備があった場合、贈与者が責任を負うことになります。これを「担保責任」といいます。普通の贈与にはない、負担付贈与特有の責任です。
担保責任とは何か
担保責任とは、贈与した物や権利に欠陥があったときに、贈与者がもらった人に対して負う責任のことです。中身は主に、損害賠償責任と契約解除の受忍義務の2つです。
たとえば、住宅を贈与したらシロアリ被害があった、車を贈与したらエンジンが故障していた、土地を贈与したら境界線にトラブルを抱えていた――こうした場合、贈与者が責任を問われる可能性があります。
負担付贈与における担保責任の範囲
ただし、負担付贈与における担保責任は、無限ではありません。「負担の限度において」担保責任を負うと法律で定められています。
具体例で説明します。残り1000万円の住宅ローンを引き継ぐ条件で住宅を贈与したところ、シロアリ被害が発覚した。修補費用が1500万円かかると判明した。このとき、贈与者の担保責任の範囲は、負担額である1000万円が上限です。
つまり、受贈者が負担した分までは責任を負うが、それを超える部分については免責される、という考え方です。
普通の贈与との担保責任の違い
普通の贈与では、贈与者は原則として担保責任を負いません。「タダでもらったものに、欠陥があったとしても文句を言わないでくれ」というのが、民法の基本的なスタンスだからです。
これに対して負担付贈与では、受贈者も対価のような負担を払っているため、贈与者にもそれに見合った責任を負わせる――そうしないと、受贈者があまりに不利益になってしまいます。両者のバランスを保つため、担保責任の制度があるのです。
負担付贈与にかかる税金
負担付贈与で最も頭を悩ませるのが、税金の問題です。「贈与税ってどう計算するの?」「あげる側にも税金がかかるって本当?」――こうした疑問を、ひとつずつ解いていきましょう。
もらった人にかかる贈与税
まず、財産をもらった人には、贈与税がかかります。これは普通の贈与と同じです。
贈与税の対象になる部分の計算
負担付贈与の場合、贈与税の課税対象は次の式で計算されます。
贈与税の課税対象=もらった財産の額-負担した額-基礎控除110万円
具体例で見てみましょう。
5000万円相当の住宅を贈与してもらい、住宅ローン残債1000万円を引き継いだ場合。計算式は次のようになります。
5000万円-1000万円-110万円=3890万円
この3890万円が、贈与税の課税対象になります。
ただし、不動産の場合は要注意です。普通の贈与では、不動産の評価は相続税評価額(路線価や固定資産税評価額)によりますが、負担付贈与では時価(実勢価格)で評価することが、国税庁の通達で定められています。時価は相続税評価額より高くなる傾向があるため、思ったより贈与税が高くなる可能性があります。
贈与税の具体的な計算式
課税対象が決まったら、次は税額の計算です。贈与税の計算式は、
贈与税額=課税対象額×贈与税率-控除額
となります。先ほどの例(課税対象3890万円)で、直系尊属(親)から成年(18歳以上)の子への贈与の場合、税率55%、控除額400万円が適用されます。
3890万円×55%-400万円=1739万5000円
つまり、約1740万円の贈与税がかかる計算です。住宅をもらえる嬉しさだけで決断すると、納税で苦労する可能性があるので、事前のシミュレーションが欠かせません。
具体的な税率や控除額は、国税庁ウェブサイトの「贈与税の速算表」で確認してください。
あげた人にかかる所得税・住民税
「あげた側にも税金がかかる」と聞くと、驚く方が多いです。しかし、負担付贈与ではこれが現実に起こります。
譲渡所得税が発生するケース
具体例で考えてみましょう。
Aさんが1000万円で購入した家を、Bさんに贈与しました。Bさんは、その家の住宅ローン残債1200万円を引き継ぐことになりました。
このとき、税法上はどう見るのか。Aさんは「1000万円で買った家を、1200万円分のローンと引き換えに渡した」と評価されます。差し引き200万円が、Aさんにとって「譲渡による利益」と認定されるのです。
この200万円に対しては、譲渡所得税(所得税)と住民税がかかります。「もらう側だけでなく、あげる側にも税金がくる」というのは、まさにこういう仕組みです。
相続時精算課税制度の活用
贈与税の負担を軽くする方法として、相続時精算課税制度の活用も検討できます。
これは、2500万円までは贈与税を非課税とし、贈与した人が亡くなったときに、贈与財産を相続財産に加えて相続税で精算する制度です。原則として、60歳以上の父母や祖父母から、18歳以上の子や孫への贈与に使えます。
負担付贈与でも、この制度の適用を受けられるケースがあります。ただし、適用の可否や有利不利は個別事情で大きく変わるため、税理士や税法に詳しい弁護士への相談が不可欠です。
不動産取得税にも注意
忘れがちなのが、不動産取得税です。
不動産を贈与で取得した場合、受贈者には都道府県から不動産取得税がかかります。贈与税とは別物です。負担付贈与で不動産を取得した場合も、当然に対象となります。
「贈与税の計算ばかりに気を取られて、不動産取得税の納付通知が来てから慌てる」というケースが少なくありません。事前にチェックしておきましょう。
負担付贈与のデメリット
ここまでメリットを中心に見てきましたが、当然デメリットもあります。3つの代表的なデメリットを押さえておきましょう。
あげた人に課税される場合がある
すでに説明したとおり、負担付贈与では、贈与した側にも譲渡所得税や住民税がかかる場合があります。
「タダで譲ったつもりが、結果的に自分も税金を払うことになった」という事態は、贈与者にとって大きな痛手です。事前のシミュレーションなく贈与を進めると、こうした想定外の税負担に直面します。
不動産は贈与税が高くなりやすい
不動産を負担付贈与する場合、評価方法は時価によります。時価は、相続税評価額の約1.2倍になることが多いです。
たとえば、相続税評価額が4000万円の不動産でも、時価は4800万円ほどになるケースがあります。普通の贈与なら4000万円を基礎に贈与税を計算しますが、負担付贈与では4800万円を基礎にすることになります。同じ不動産でも、贈与の形を変えるだけで贈与税の額が大きく違ってくるのです。
金銭評価できない負担は控除されない
もうひとつ重要な点が、金銭評価できない負担は、贈与税の計算で控除されないということです。
たとえば、「親の介護を毎週する」という負担。この負担そのものに金銭的価値があることは間違いないのですが、税務上は具体的金額として評価しにくいため、贈与税の課税対象から差し引くことはできません。
「介護してもらう代わりに財産をあげる」という負担付贈与の場合、もらった側は実質的に大きな労力を負担しているのに、税金の計算上はその負担分が考慮されない、という点に注意が必要です。
負担付贈与における節税対策
「できるだけ税金を抑えたい」と考えるのは当然のことです。負担付贈与の節税対策として、3つの方向性を紹介します。
不動産以外を選択する
最もシンプルな節税策は、贈与する財産を不動産以外にすることです。
預貯金、上場株式、現金などの金融資産であれば、普通の贈与でも負担付贈与でも、評価額は変わりません。不動産のように「時価評価で高くなる」という問題は起きません。さらに、不動産取得税もかからないので、トータルの税負担が大幅に軽減できます。
贈与税の課税対象をゼロにする工夫
贈与税の課税対象は、「もらった財産の額-負担額-110万円」です。この計算式の答えがゼロ以下になるように設計すれば、贈与税はかかりません。
具体的には、もらう財産の額と負担額を、110万円以内の差に収めるという方法です。たとえば、住宅ローン残債2900万円の住宅を贈与する場合、住宅の時価が3000万円であれば、課税対象は3000万円-2900万円-110万円=マイナス10万円。贈与税は発生しません。
ただし、この方法は計算をかなり厳密にやる必要があります。素人判断で進めると、思わぬ税金が発生する恐れがあるため、必ず専門家に確認してもらいましょう。
相続時精算課税制度を併用する
すでに紹介した相続時精算課税制度を併用するのも、有力な選択肢です。
ただし、この制度を一度選択すると、その後は暦年贈与(毎年110万円までの非課税枠を使う贈与)に戻れません。一長一短があるので、ライフプラン全体を見据えて判断する必要があります。
負担付贈与契約書の作り方
負担付贈与を実行するなら、契約書の作成は必須です。口約束だけでは、後からいくらでもトラブルが起こり得ます。
契約書に記載すべき項目
負担付贈与契約書には、最低限、以下の項目を明記しておきましょう。
- 贈与者と受贈者の氏名・住所(当事者を特定するため)
- 贈与する財産の特定(不動産なら所在地・地番・面積など、預貯金なら金融機関名・口座番号など)
- 負担の内容(何を、いつまでに、どのように行うか)
- 負担の相手方(贈与者本人か、第三者か)
- 履行時期(贈与の実行日、負担履行の期限など)
- 解除条件(負担が履行されない場合の取扱い)
- 担保責任の範囲(必要に応じて制限を設ける場合)
- 契約締結日と署名押印
これらの項目が抜けていると、後で解釈をめぐる争いが起きやすくなります。
公正証書にするメリット
契約書は、私文書よりも公正証書にしておくのが望ましいです。公正証書にする主なメリットは次のとおりです。
- 契約内容の真正性が公的に証明される
- 原本が公証役場に保管されるため、紛失・改ざんのリスクがない
- 金銭の支払いについては、強制執行認諾文言を付けることで、訴訟を経ずに強制執行が可能
- 当事者の意思能力に疑問が生じた場合の証拠にもなる
特に、高齢の贈与者から子どもや孫に対して大きな財産を贈与するような場合、公正証書にしておくと、後の相続でのトラブル防止にも役立ちます。
負担付贈与でよくあるトラブル事例
実務上、負担付贈与をめぐってさまざまなトラブルが発生しています。代表的なものを3つ紹介します。
負担を履行してもらえないケース
最も多いのが、受贈者が負担を履行しないケースです。
「住宅をもらったが、ローンの返済を滞らせている」「介護を約束したのに、最初の半年だけで来なくなった」――こうした状況では、贈与者は契約解除や履行請求といった手続きを取ることになります。
ただし、関係が親子や親族間だと、法的措置に踏み切るのは心理的に難しい面があります。「身内だから話せばわかる」と先延ばしにしているうちに、財産は受贈者の名義のまま、贈与者は何も得られない、という事態に陥ることもあります。
遺留分をめぐるトラブル
負担付贈与は、相続のときに他の相続人と争いになることがあります。
たとえば、長男に多額の財産を負担付贈与した場合。亡くなった後、他の兄弟姉妹から「自分たちの遺留分を侵害している」と主張されるケースです。負担付贈与で渡した財産は、原則として遺留分侵害額請求の対象になります。
「負担を付けたから普通の贈与より少ない」と考えていても、遺留分の計算では負担の評価が問題になり、結局は他の相続人と対立するきっかけになりがちです。
他の相続人との対立
特定の相続人にだけ負担付贈与をすると、他の相続人から「不公平だ」「家族を分断するつもりか」と反発されることもあります。
贈与の段階では大喜びしていた家族が、相続のときには真っ向から対立しているのは、よくある光景です。負担付贈与を行う際は、家族全員で十分な話し合いを持っておくことが、トラブル予防の最大のポイントです。
負担付贈与を考えるなら弁護士への相談を
ここまで読んで、「負担付贈与って思った以上に複雑だな」と感じた方も多いのではないでしょうか。
負担付贈与は、確かに便利な制度です。住宅、介護、事業承継など、さまざまな場面で活用できます。一方で、契約・税金・担保責任・相続との関係など、押さえるべきポイントが多岐にわたります。少しでも判断を誤ると、想定外の税金や、家族間の深刻なトラブルにつながりかねません。
「自分のケースで負担付贈与を使うべきか」「契約書はどう作ればいいのか」「税金はいくらかかるのか」――こうした疑問は、専門家の力を借りて、ひとつずつ解消していくのが一番です。
弁護士は、契約書の作成、解除や担保責任の判断、相続との関係、トラブル対応など、負担付贈与のあらゆる局面でサポートできます。税理士と連携することで、税金面の対策もしっかり詰められます。
「贈与をしたいけれど、どうすれば一番いいか迷っている」「親から負担付贈与の話があったが、本当に受けて大丈夫か」――そんなときは、ためらわずに弁護士に相談してみてください。少しの相談で、後の大きなトラブルを防げる可能性が十分にあります。
あなたとご家族にとって、最善の財産承継が実現できるよう、まずは一歩、専門家への相談から始めてみましょう。
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