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遺産分割審判とは?審判の流れと進み方、調停との違いを徹底解説

この記事で分かること

  • 遺産分割審判は、話し合いではなく、裁判官が決める手続である。
  • 遺産分割審判では、審判書が重要である。
  • 遺産分割審判では、審判以外の裁判というものがある。
  • 不動産の遺産分割は、一切の事情を基に分割方法が決められる。
  • 遺産分割審判には、即時抗告という不服申し立て方法がある。
  • 遺産分割審判の審判に基づいて強制執行ができる。

遺産分割審判には、調停とは異なる点がいろいろあります。調停のような話し合いの場ではなく、お互いの主張をぶつけ合う場です。自分に有利な審判を勝ち取るには、審判のルールを知り、裁判官の心をつかむテクニックが必要です。これは、一般の人には難しいことです。遺産分割審判を申立てるのなら、まず弁護士に相談しましょう。

遺産分割審判とは

人が財産を残して亡くなると、その財産(遺産)は、法律により受け継ぐ資格を認められた人たち(共同相続人)の間で分け合います。

これを遺産分割といいます。分け方が話し合いで決まれば、それが何よりです。決まらないときは、家庭裁判所で決めることになります。その決め方のひとつが、遺産分割審判です。

遺産分割審判は遺産分割調停と並ぶ公的な解決システム

家庭裁判所は国が設けた機関です。家庭裁判所での遺産分割は、国の力を借りて遺産の分け方を決める、公的な解決システムです。このシステムには、2つの種類があります。遺産分割審判と遺産分割調停です。遺産分割をしたい人は、審判と調停のいずれかを選んで、家庭裁判所に申立てをすることができます。

ワンポイントアドバイス
遺産分割に加わる人たちのほとんどは、親族同士です。物の売り買いのように、そのとき限りの付き合いではありません。親族関係は、一生付いて回る関係です。後々の付き合いのことを考えれば、遺産分割は、裁判官が一方的に決めるよりも、話し合いにより、皆が納得できる形で決めたほうがよいといえます。そこで、家庭裁判所では、遺産分割審判が申し立てられても、明らかに調停が成立する見込みがないと思われる場合を除いて、まず調停を行うという取り扱いがなされています。

遺産分割審判と遺産分割調停の違い

家庭裁判所での解決システムである遺産分割審判と遺産分割調停。この2つは、具体的にどのような点が違うのでしょうか。表にまとめてみました。

遺産分割審判 遺産分割調停
申立てをする人(申立人) 共同相続人のいずれか(2人以上でもよい) 左に同じ
申立てを受ける人(相手方) 申立人以外の共同相続人全員 左に同じ
申立てをする先 亡くなった人の最後の住所地を担当区域とする家庭裁判所 相手方(複数の場合は、そのいずれか)の住所地を担当区域とする家庭裁判所
申立てにかかる費用 ①国に納める費用(手数料)
亡くなった人一人につき収入印紙1200円分
②通知用の郵便切手(裁判所によって異なる)
左に同じ
家庭裁判所の担当者 ①裁判官、裁判所書記官
②複雑なケースでは、家庭裁判所調査官も関与
①調停委員会(裁判官および2名以上の家事調停委員)
②複雑なケースでは、家庭裁判所調査官も関与
終わり方 裁判官による審判 成立、不成立、取下げなど
不服申し立て できる できない

調停が不成立になれば自動的に審判に移行

遺産分割調停において、当事者(申立人と相手方)の間で話がまとまる見込みがなくなったとき、家庭裁判所は、調停を不成立として終了させることができます。

この場合、遺産分割調停を申し立てた時にさかのぼって、遺産分割審判が申し立てられたものとみなされます。つまり、遺産分割調停が不成立になると同時に、遺産分割審判の手続へと自動的に切り替わります。

ワンポイントアドバイス
家庭裁判所での遺産分割は、調停成立で終了するのがベストです。皆の合意によって分割の仕方が決まり、後々にしこりを残しにくいからです。それには、相続人全員が調停に出席することが必要です。そのためにも、申立てをする人は、申し立て前に、相手方全員に、遺産分割調停の申立てをすることを知らせておきましょう。人によっては、突然の家庭裁判所からの呼出通知に反感を覚え、調停出席を拒むことが考えられるからです。

遺産分割審判申立ての注意点

遺産分割審判を申し立てる場合、申立てのルールを知ることが必要です。中でも、管轄と費用についてのルールが重要です。

遺産分割審判申立ての管轄裁判所

全国には50の家庭裁判所があります。その中の、どの家庭裁判所に遺産分割審判の申立てをしたらよいかが問題となります。申立先の家庭裁判所を決めるルールを管轄といいます。管轄ルールよって決まる、申立先となる家庭裁判所のことを、管轄家庭裁判所といいます。

法律では、「相続が開始した地」を担当区域に持つ家庭裁判所に申立てをせよ、とされています。「相続が開始した地」とは、「被相続人の住所」をいいます。被相続人とは、遺産を残して亡くなった人のことです。従って、「被相続人の住所」とは、被相続人が亡くなった時の住所ということになります。

たとえば、被相続人Aさんが亡くなった時の住所が東京都中野区だったとすると、中野区を担当区域に持つ家庭裁判所、つまり東京家庭裁判所が管轄家庭裁判所ということになります。

調停の管轄は

遺産分割調停を申し立てる場合、相手方の住所地を担当区域に持つ家庭裁判所が管轄家庭裁判所となります。

遺産分割審判を起こすには費用が必要

遺産分割審判は国の力を借りて行う遺産分割です。従って、国に費用を支払わなければなりません。これを、審判の手数料といいます。

金額は法律によって決められていて、被相続人一人につき1200円です。1200円分の収入印紙を遺産分割審判の申立書に貼るという方法で支払います。手数料は、ひとまず申立人が支払い、最終的な負担をどうするかは、審判において裁判官が決めます。

調停の費用は

遺産分割調停の費用も、審判と同じく、被相続人一人につき1200円です。支払い方法も審判と同じです。

ワンポイントアドバイス
家庭裁判所が遺産分割審判を行うには、当事者に審判の日時を伝えて、家庭裁判所に来てもらう必要があります。当事者に審判の日時を伝えるのは、通知書を郵送する方法で行います。この郵送に使う郵便切手も、手数料と一緒に、ひとまず申立人が家庭裁判所に納めます。切手の内訳は、各家庭裁判所によって違うので、申立先の家庭裁判所に事前に確認しましょう。

遺産分割審判に欠席したらどうなる

遺産分割は、遺産の状態、被相続人と共同相続人の関係など、遺産をめぐる状況を反映したものでないと、本当にふさわしい分割とはいえません。それは、家庭裁判所の審判で遺産分割を行う場合でも、同じです。

そのため、家庭裁判所は、遺産をめぐる状況を正しく把握する必要があります。それに最も役立つのは、審判の席で当事者から遺産をめぐる状況を聞き取ることです。当事者に審判の日時を知らせて、家庭裁判所に来てもらわなければいけません。これが、当事者に対する審判期日への呼び出しという手続です。

それでは、当事者が、呼び出された期日に家庭裁判所に来なかったら、どうなるのでしょうか。

正当な理由なく欠席すると過料の対象に

期日の呼び出しには、簡易の呼び出しと正式な呼び出しの2つがあります。簡易の呼び出しは、「期日通知書」を普通郵便で送る方法です。この場合は、期日に欠席しても、ペナルティーはありません。

これに対し、正式の呼び出しは、「呼出状」を特別送達という特別な郵便で送ります。この場合、まず呼出状を受け取った当事者には、呼出状に書かれた期日に審判に出席する義務が生じます。そして、審判期日に正当な理由なく欠席した場合、出席義務違反に対するペナルティーとして、5万円以下の過料を支払わなければならなくなります。

「正当な理由」とは、老親の介護で家を空けられないなど、常識的に考えてもっともといえる理由をいいます。「過料」とは、裁判手続き上の義務違反に対するペナルティーとして課される金銭をいいます。刑法上の刑罰ではありません。

調停に欠席したらどうなる

呼出状による呼び出しを受けた遺産分割調停に正当な理由なく欠席した場合、審判と同じく、5万円以下の過料を支払わなければならなくなります。

ワンポイントアドバイス
呼出状を受け取った当事者が、やむを得ない事情があるときは、代理人を審判に出席させることができます。やむを得ない事情とは、自分自身の急病など、代理人を立てる以外に方法がないことをいいます。この場合、当事者本人が出席しなくても、過料はありません。ただ、急病が治れば出席できるような場合は、代理人を立てるのではなく、審判期日の変更をお願いしましょう。遺産をめぐる状況を家庭裁判所に正確に把握してもらうには、代理人よりも事情を知っている本人が話すに越したことがないからです。

遺産分割審判の審判書とは

遺産分割審判の中で審判期日を重ねていくと、当事者双方の言い分(主張)や証拠が出尽くして、あとは裁判官の審判を待つだけという状態になります。法律の条文では、「裁判をするのに熟したとき」と表現されています。これを、審理の終結といいます。

遺産分割審判の審理が終結すると、裁判官は、審判書の作成に取りかかります。裁判官が作成する遺産分割審判の審判書とは、どのようなものなのでしょうか。

審判書には裁判官の最終判断が示される

審理の終結までの間に、当事者双方から様々な主張や証拠が出されます。裁判官は、それらの主張や証拠をベースにして、遺産分割の仕方を決めます。裁判官が決めた遺産分割の仕方は、審判書の中に示されます。それが、裁判官による、遺産分割についての最終判断となります。

審判書には、主文、理由の要旨、当事者名、審判をした裁判所名が書かれます。このうち、主文と理由の要旨が重要です。主文には、「相続人Aは、B土地を取得する」というように、具体的な遺産の分け方が書かれます。理由の要旨には、裁判官が主文のように判断した理由の要点が書かれます。

この主文と理由の要旨によって、裁判官の最終判断が示されることになります。

審判書の作成をもって審判が成立する

審判は、その内容が裁判官の頭の中にあるうちはもちろん、裁判官がそれを口にしただけでは、まだ審判とはいえません。審判書という形になって初めて、審判ということができます。つまり、審判書の作成が、審判が成立する要件ということになります。

審判書を作成する理由は、3つあります。一つ目は、当事者が、裁判官の判断の内容をきちんと分かるようにするためです。二つ目は、当事者が不服申し立てをするかどうかを判断する際のデータとするためです。三つ目は、不服申し立てを受けた裁判所が、家庭裁判所の審判が適切かどうかを判断する際のデータとするためです。

審判は当事者への告知が必要

審判書の作成によって審判が成立しても、それだけで審判の効力が生ずるわけではありません。成立と効力発生は、別物です。審判書に審判の効力を生じさせるには、告知という手続が必要となります。

告知とは、審判の当事者に対して、審判書の内容を知らせることをいいます。具体的には、審判の席で当事者に審判書を読んで聞かせる、郵便で当事者に審判書謄本を送るなどの方法で行われます。

告知を審判書の効力発生の要件としたのは、当事者が知らないうちに審判の効力が発生することがないようにするためです。

不服申し立てのできる審判では確定が必要

審判には、不服申し立てができるものと、そうでないものとがあります。不服申し立てができない審判については、原則どおり、告知の時に効力が発生します。

不服申し立てができる審判については、不服申し立てができる期間、または現に不服申し立てをしている間は、当事者への告知がなされていても、審判の効力発生は保留となります。審判自体が、不服申し立てを受けた裁判所によって取り消される可能性があるからです。

従って、不服申し立て期間が過ぎたために不服申し立てができなくなった時、または現に行われている不服申し立てが退けられた時、つまり審判が確定した時に審判の効力が発生します。

調停は調停調書への記載により成立

遺産分割調停では、合意の内容が調停調書に記載された時に、調停が成立します。この時点で、調停の効力も発生します。当事者全員の前で合意内容が述べられるので、改めて告知は不要だからです。

ワンポイントアドバイス
審判書の簡略化が認められる場合があります。不服申し立てができない審判については、申立書に主文を記載して、審判書に代えることができます(代用審判)。たとえば、子の氏の変更(子供の籍を父の戸籍から母の戸籍に移すことなど)を許可する審判では、申立書の下部空白に「上記申立を許可する。裁判官△△」というゴム印が押されることがあります。簡略化されているとはいえ、これも審判書に変わりありません。

遺産分割審判における前提問題についての判断

遺産分割審判によって遺産の分け方を決めるには、遺産が被相続人の物であったことが必要です。しかし時には、遺産とされる物が確かに被相続人の物であったかどうかがはっきりせず、これをはっきりさせないと遺産分割ができない場合があります。これを、遺産範囲確定の問題といいます。

他にも、自分は相続人といっている者が本当に相続人か(相続人の確定)、被相続人の遺言といわれている物が本当に被相続人が書いた物か(遺言の効力確定)、といった問題が生ずることがあります。

遺産分割審判において、遺産の分け方が本体の問題だとすると、遺産範囲の確定などは、その前提問題ということができます。これらをまとめて、遺産分割の前提問題といいます。遺産分割の前提問題について、裁判官は、遺産分割審判の中で判断できるのでしょうか。

ここでは、その代表例である遺産範囲確定の問題について、具体例をもとに見てみましょう。

審判の中で遺産範囲確定の判断ができる

Aさんが土地Xを残して亡くなりました。奥さんは亡くなっていますので、相続人は息子のBさんとCさんです。遺産である土地の分け方をめぐってBさんCさんの話がつかないため、BさんはCさんを相手方として家庭裁判所に遺産分割審判の申立てをしました。

審判の途中で、生前にAさんから土地Xを買ったというDさんが現れました。Dさんにとっては、遺産分割によって土地XがBさんCさんの物になっては困るので、遺産分割の結果に影響を受ける人(利害関係人)という立場で、審判に加わることになりました(利害関係参加)。

審理が終結し、裁判官が裁判書を作成しました。その中で、裁判官は、DさんがAさんから土地Xを買ったという事実はない、土地XはBさんとCさんが2分の1ずつ取得する、という判断を示しました。「DさんがAさんから土地Xを買ったという事実はない」というのが、遺産範囲確定の問題についての判断です。

このように、遺産分割審判の審判書の中で、遺産分割の前提問題である遺産範囲確定の問題について判断することについては、これをしてもよいというのが最高裁判所の判例です。

遺産分割の前提問題は訴訟で決めるのが賢明

これに怒ったDさんは、土地Xは自分の物であることを認めてくれという裁判(所有権確認訴訟)を、地方裁判所に起こしました。地方裁判所は、審理の末、土地XはDさんの物であるという判決を下しました。BさんとCさんが上級の裁判所に不服申し立てをしましたが、認められず、土地XはDさんの物であるという判決が確定しました。

この結果、家庭裁判所の審判における判断と地方裁判所の判決における判断とが、食い違うことになります。こうした場合、地方裁判所の判断が優先します。家庭裁判所の審判には、後から下される判決に対して、自分とは違う判断をしてはならないといえる力(既判力)がないからです。

家庭裁判所は、Dさんの土地について、BさんとCさんが遺産分割するという審判をしたことになり、審判の効力はなくなってしまいます。

このことは、遺産範囲の確定に限らず、相続人の確定や遺言の効力確定が前提問題になった場合でも、同じです。遺産分割の前提問題については、まず民事訴訟ではっきりさせるのが賢明なやり方です。従って、民事訴訟の結果が出るまでは、遺産分割審判の申立てをしないでおきましょう。

遺産分割審判の途中で前提問題が出てきたら、民事訴訟の結果が出るまで審判は中断されます。

ワンポイントアドバイス
遺産分割審判の途中で前提問題が顔を出す可能性がある以上、審判申立ての段階で弁護士に相談しましょう。前提問題は民事訴訟で争われるので、民事訴訟についての専門的な知識と経験が必要となります。また、審判の初めから関わった方が弁護士としても対応がしやすいです。

遺産分割審判における「審判以外の裁判」とは

遺産分割審判の本題は、当事者の間でどのように遺産を分けるかということです。この点についての裁判官の最終判断が審判です。

その最終判断である審判がなされるまでの手続の途中で、審判とは別に、裁判官が判断を示すことがあります。これを「審判以外の裁判」といいます。それは、具体的にどのようなものなのでしょうか。最終判断である審判とは、どんな違いがあるのでしょうか。

「審判以外の裁判」とは、派生的な事柄についての判断である

遺産分割審判の手続を進めていくと、本題である遺産の分け方とは別に、手続に関することについて裁判官が判断をしなければならない場面が生じてきます。本題である遺産の分け方を木の幹とすれば、幹から枝が生えるように生じてくる事柄です。こうした派生的な事柄についての判断が、審判以外の裁判です。

具体的にはどのようなものがあるのでしょうか。代表的な2つの例を見てみましょう。

移送の裁判

移送とは、遺産分割審判の申立てを受けた家庭裁判所から、他の家庭裁判所に審判の場を移すことです。たとえば、被相続人が東京都中野区で亡くなったということで東京家庭裁判所に申し立てたところ、後になって、実は神奈川県横浜市で亡くなっていたことが分かったため、審判の場を、東京家庭裁判所から横浜家庭裁判所に移すような場合です。

審判の場を移すことは、出席の手間などの面で当事者にとって重大な問題です。そこで、裁判官の判断によって、審判の場を移すことがよいかどうかを決めることになっています。

除斥の裁判、忌避の裁判

除斥とは、裁判官と当事者の関係からして、公平な審判ができないのではないかという不安がある場合に、裁判官が担当から外れることです。たとえば、当事者の一方に裁判官の親類がいる場合です。除斥の原因は、裁判官と当事者の親族関係など、法律で定められています。

忌避とは、除斥原因以外の事情があるため、公平な審判ができないのではないかという不安がある場合に、裁判官が担当から外れることです。たとえば、当事者の一方に裁判官の友人がいる場合です。

除斥も忌避も、審判の公平さを保つために重要なことです。そこで、裁判というきちんとした手続を経て、除斥や忌避をするかどうかを決めることになっています。

「審判以外の裁判」は、審判よりも手続がシンプルである

木にたとえれば、審判が幹で、審判以外の裁判が枝であるように、審判以外の裁判は審判よりも重要度が低いです。そのことから、次の2つの点で、両者は異なっています。

一つ目は、審判以外の裁判では、必ずしも審判書の作成をしなくてもよいことになっています。審判については、原則として、審判書の作成をしなくてはならないことと異なります。

二つ目は、審判以外の裁判では、不服申し立てができる場合でも、審判の確定を待たずに、告知によって裁判の効力が生じます。審判については、不服申し立てができる場合には、審判の確定によって初めて効力が生じることと異なります。

遺産分割調停でも「裁判」がある

遺産分割調停において調停が不成立となっても、審判に移行する前に、家庭裁判所は遺産分割の審判をすることができます。これを調停に代わる審判といいます。

ワンポイントアドバイス
審判以外の裁判は、審判ほどの重要性はないにしても、当事者への影響は少なからずあります。審判ほど目立つ手続ではないため、つい見落としがちです。遺産分割審判で弁護士に付いてもらえば、プロの目で審判手続を見てもらえるので、そうした見落としをせずにすみます。

審判による不動産の遺産分割

遺産分割審判において、裁判官が最も頭を悩ますのは、土地や建物といった不動産についての遺産分割であるといわれています。

不動産は、お金などと違って、相続人が持つ相続資格の割合(相続分)で割り算をしただけで分け方が決まる物ではないからです。遺産分割審判において不動産を扱うとき、裁判官は、どのようなことに注意して審判をするのでしょうか。

遺産の社会的経済的価値を下げないことが重要

不動産は、銀行に預けたお金や自宅の中のパソコンなどとは違って、常に世の中と接しています。雨風にさらされ、誰でも触ることができるというように、物理的に世の中と接しています。

それだけではありません。土地の場合、駐車場にすれば、自動車を止める所がなくて困っている人たちのために役立ちます。建物の場合、リフォームして託児所にすれば、働くお母さんたちは大助かりです。このように、不動産は、社会や経済の動きと常に接しています。

不動産は、持ち主のための財産であることは間違いありません。しかし、それにとどまらず、不動産は社会と経済のためにも役立つ財産です。遺産分割審判において不動産を扱うときは、不動産の社会的経済的な価値を損なうことがないように配慮することが必要となります。

家庭裁判所での遺産分割審判が、国の力を借りた公的な解決システムであることからしても、裁判官には、社会と経済という公的な視点を取り入れた審判をすることが求められます。

審判による遺産分割でも、法定相続分の財産は確保できる?

遺産分割審判の当事者は、共同相続人として、それぞれ法律で認められた相続分を持っています。遺産が不動産である場合、当事者は不動産に対してそれぞれの相続分を持っています。

遺産分割審判では、裁判官は、相続分に従って分割方法を決めなければならないとされています。従って、遺産分割審判の対象となる遺産が不動産である場合、各相続人は、不動産に対する自分の相続分の実現を家庭裁判所に求めることができます。

不動産価値の維持と相続分実現の調和が大切

不動産に対する相続分の実現は、持ち主が何人にもなったり、不動産そのものがいくつかに分けられたりして、不動産が使いずらい物となる可能性があります。

これは、不動産の社会的経済的な価値の後退を意味します。そこで、相続人の相続分を実現することと、不動産の社会的経済的価値を維持することとを、どのように調和させるかが問題となります。

民法は、遺産分割は遺産と相続人を含めた一切の事情を考えて行うべし、という原則を定めています。「一切の事情」には、不動産の社会的経済的価値を維持するという要請も含まれます。そこから、相続人の相続分実現と不動産の社会的経済的価値の維持とが調和されるように遺産分割をせよ、という分割ルールが生まれます。

分割ルールの実現として、次の3つの分割方法が認められています。

現物分割

不動産を物理的に分割するやり方です。建物については、1階と2階との分割などが考えられます。土地については、まさに土地に線を引いての分割です。

相続人の相続分は、そのまま実現されます。不動産の部分部分で持ち主が違うことにより利用しにくいということになれば、その社会的経済的価値は後退します。そうでない限り、不動産の社会的経済的価値は維持されます。

換価分割

不動産を売って、その代金を相続分に応じて相続人の間で分けるやり方です。相続人の相続分が、そのまま実現されます。不動産も、持ち主が買主に変わるだけで、不動産の状態そのものは変わらないので、その社会的経済的価値も維持できます。分割ルールに最も近い分割方法です。

代償分割

不動産を相続人の一部がもらい、もらった不動産の価値ともらった人の相続分との差をお金で計算して、他の相続人に支払うやり方です。

相続人の相続分は、そのまま実現されます。不動産の持ち主が2人以上になって利用しにくいということになれば、その社会的経済的価値は後退します。そうでない限り、不動産の社会的経済的価値は維持されます。

裁判官は、当事者の実質的公平を目指して審判をする

裁判官は、相続人の相続分実現と不動産の社会的経済的価値の維持との調和を胸のうちに置きつつ、当事者それぞれの状況に応じた実質的に公平な分割となるように、現物分割、換価分割、代償分割のいずれかによる分割を決めることになります。

調停での法定相続分の取り扱い

遺産分割調停では、共同相続人の話し合いによって分割方法を決めるので、本人さえよければ、法定相続分に満たない分割でも問題ありません。

ワンポイントアドバイス
不動産は、価値が高額であることから、相続人間の思いが激しく衝突します。裁判官も、分割の仕方に頭を悩まします。それだけに、自分に有利に判断してもらえるよう、いかに裁判官に働きかけるかが重要となります。裁判官への働きかけこそ、弁護士の得意とするところです。不動産の遺産分割をすることになったら、まず弁護士に相談しましょう。

遺産分割審判に対しては即時抗告により不服申し立てができる

遺産分割審判の審理が終結すると、裁判官は審判書を作成して、審判をします。審判書の中において、裁判官が、これが最もふさわしいと判断した遺産の分け方が示されます。

審判は、裁判官の当事者に対する一方的な判断です。当事者からすれば、手続の中で可能な限りの主張と証拠提出をしたので、どんな審判になっても悔いはないなどという、あたかもスポーツの世界のような心境にはなれません。審判の内容が、自分にとって納得いかないものであれば、到底受け容れられるものではありません。

そこで、遺産分割審判での審判の内容に不服のある当事者は、上級の裁判所に不服申し立てができることになっています。この不服申し立てを、即時抗告といいます。

即時抗告できる場合

遺産分割審判での最終判断である審判に対して、不服のある当事者は、即時抗告をすることができます。即時抗告ができる期間は、当事者が家庭裁判所から審判の内容を知らされた日(審判の告知を受けた日)から数えて、2週間です。

即時抗告は、審判をした家庭裁判所に、抗告状という書面を提出して行います。抗告状には、家庭裁判所の審判を受け容れられない具体的な理由を書きます。

即時抗告の審理は、抗告裁判所において行われます。抗告裁判所は、審判をした家庭裁判所を管内に持つ高等裁判所です。たとえば、審判をしたのが長野家庭裁判所であれば、長野家庭裁判所を管内に持つ東京高等裁判所が抗告裁判所になります。

即時抗告できない場合

遺産分割審判での最終判断である審判において、本題である遺産の分け方を決めるのに併せて、申立人が負担した手数料(被相続人一人につき1200円)と郵便切手代、各当事者が負担した裁判所までの交通費などの費用(これら全部をまとめて審判費用といいます。)の最終的負担者を決めます。

多くの場合、「審判費用は各自の負担とする」との審判がなされます。従って、申立人が負担した手数料と切手代は、最終的に申立人が負担することになります。

ところが、被相続人や当事者が多い場合、申立人が申立時に負担する手数料と切手代は、それ相当の金額になります。そこで、申立人としては、これらを最終的に自分の負担とさせられることに不満が生じ、不服申し立てをしたいと思うことでしょう。

この場合、本題である遺産の分け方についての不服申し立てと一緒であれば、費用負担についても不服申し立てをすることができます。しかし、遺産の分け方には不服はないので、費用負担の部分についてだけ不服申し立てをしたいと思っても、これは認められません。

いわば枝葉の事柄である費用負担について不服申し立てを認めれば、本題である遺産の分け方についての審判も確定しないことになり、本題の解決が遅れ、本末転倒となるからです。

調停の場合、結果に不服申し立てはできない

遺産分割調停では、成立と不成立について、いずれも不服申し立てはできません。不服がないからこそ成立したのであり、不成立については不服申し立てを認める規定がないからです。

ワンポイントアドバイス
即時抗告をするために提出する抗告状をきちんと書かないと、場合によっては抗告裁判所で審理してもらえない可能性があります。また、抗告裁判所では、即時抗告を申し立てた当事者を呼んで、話を聴くことが原則とされています。抗告状をきちんと書くこと、抗告裁判所でしっかりと話をすることは、一般の人には難しい仕事です。即時抗告を考えた段階で、弁護士に相談するのが一番です。

遺産分割審判に基づく強制執行

たとえば、遺産分割審判において代償分割とする審判がなされたにもかかわらず、遺産をもらった相続人が他の相続人に代償金を支払おうとしない場合、他の相続人はどのようにしたら代償金を手にすることができるのでしょうか。

審判が確定すると、強制執行が可能になる

遺産分割審判において、金銭の支払いなどを命ずる審判が確定すると、審判の内容を強制執行によって実現できる力(執行力)が審判に与えられます。

代償分割とする審判は、遺産をもらう相続人に対して、他の相続人への代償金という金銭の支払いを命ずる審判です。他の相続人は、代償分割とする審判の審判書を地方裁判所に提出して、代償金支払いのための強制執行を申し立てることができます。

審判が確定する時とは

遺産分割審判における審判は、確定するまでは、執行力が生じません。審判が確定するのは、これ以上不服申し立てができない状態になった時です。たとえば、即時抗告のできる期間が過ぎた時、即時抗告をしたけれども抗告裁判所で即時抗告が退けられた時です。

調停でも強制執行はできる?

金銭の支払いなどを定めた遺産分割調停の成立調書は、執行力を持ちます。成立調書に基づいて強制執行をすることができます。

ワンポイントアドバイス
強制執行は、相手に対する強制手段を用いるものであることから、手続が法律によって事細かに決められています。一般の人には、とても手の及ばない世界です。強制執行を考えるのなら、まず弁護士に相談しましょう。

遺産分割審判を有利に進めるには、弁護士に相談を

遺産分割審判は家庭裁判所で行われますが、調停のような話し合いではなく、当事者同士が主張をぶつけ合う裁判の一種です。主張や証拠提出のやり方次第で、有利にも不利にもなります。

そこでは、法律知識、裁判実務経験の他に、法定テクニックというものが必要になります。それは、一般の人には到底できそうもないことです。遺産分割審判を申立てようかと考えたら、まず弁護士に相談しましょう。

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