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相続欠格|法定相続人の資格を失うケース
この記事で分かること
- 相続欠格者になるのは、被相続人を殺害したケースや、被相続人に対する詐欺・脅迫行為によって遺言書を作成させたり変更させたりしたケース、遺言書を隠匿・破棄したケースなど重大なケースに限られる
- 相続欠格者になったら、撤回したり覆したりすることはできない
- 相続欠格者になっても代襲相続は可能
- 相続欠格者以外から相続権を奪いたい場合には、相続人廃除や遺言、生前贈与などを利用すると良い
相続人が相続欠格者になるのは一定の重大な非行がある場合です。相続欠格を取り消すことはできませんが、相続欠格者の子どもは代襲相続によって相続可能です。「誰が正当な相続権を持っているか」は遺産相続の際に非常に重要となりますので、迷ったときには弁護士に相談してみましょう。
相続欠格とは
相続欠格とは、本来は法定相続人になっているけれども、相続権が認められなくなることです。
民法は、相続人となり得る人について定めを置いています。民法によって認められた相続人のことを「法定相続人」と言います。そして、相続が開始したときに遺言書が残されていなければ、法定相続人が全員参加して遺産分割協議を行って遺産を分配することが基本です。
しかし、たとえば相続人に大きな問題行為がある場合などでは、たとえ法定相続人であっても相続させるべきではないケースがあります。そのような場合、当該相続人は「相続欠格者」となって、相続権が認められなくなります。
相続欠格になるケース
それでは、具体的にどのようなケースで相続欠格者となるのでしょうか?
相続欠格者になるパターンは、民法891条に列挙されており、これ以外の場合に相続欠格者となることはありません。具体的には以下の5つです。
- 故意に被相続人や同順位以上の相続人を死亡させたり死亡させようとしたりして、刑に処せられた場合
- 被相続人が殺害されたことを知りながら、告訴や告発をしなかった場合
- 詐欺や脅迫の手段で被相続人が遺言したりを取り消したり変更したりするのを妨げた場合
- 詐欺や脅迫の手段で被相続人に遺言をさせ、取り消させ、変更させた場合
- 被相続人の遺言書を偽造・変造・破棄・隠蔽した場合
以下で、それぞれのケースについて、詳しく見ていきましょう。
①故意に被相続人や同順位以上の相続人を死亡させたり死亡させようとしたりして、刑に処せられた場合
わざと被相続人や、自分と同じ順位以上の相続人を死なせてしまったケースです。死なせようとして失敗した場合(未遂のケース)でも相続欠格者となります。また、殺人罪や殺人未遂罪が成立する場合だけではなく、介護が必要な状態の被相続人を見捨てた(遺棄した)ケースにおいても「死なせよう」とい故意があったのであれば、この要件に該当します。典型的なのは、親の遺産をより多く相続するために兄弟を殺したり、兄の遺産を相続するために甥姪(兄の子ども)を殺したりするケースです。
そうした事件を起こした結果「刑に処せられた」場合に相続欠格者となります。刑に処せられたとは、刑事事件となって有罪判決を受けたことを意味するので、たとえ被相続人や相続人を死なせていても、刑事事件になっていなければ相続欠格者にはなりません。
②被相続人が殺害されたことを知りながら、告訴や告発をしなかった場合
次に問題になるのが、被相続人が殺されたと知っているのに、犯人を告訴・告発しなかった場合です。たとえば、親が殺されて犯人を知っているのに、捜査機関に申告をせずに犯人をかばったケースなどです。
ただし、これについては一定の除外事由がもうけられています。相続人自身に判断能力がない場合や、殺害者が相続人の直系血族や配偶者であった場合には、刑時告訴・告発をしなくても相続欠格者になりません。判断能力がないケースとは、たとえば精神障害や認知症で通常人より著しく判断能力が欠けている場合や、相続人が小さい子どものケースなどです。
殺害者が自分の配偶者や直系血族(親や祖父母、子どもや孫、ひ孫など)である場合には、犯人をかばう気持ちも当然なので、あえて刑事告訴や告発をしなくても相続権が認められています。
なお、兄弟姉妹や甥姪の系統は「傍系血族」となるので、この除外事由に該当しません。もし、兄弟姉妹や甥姪が被相続人を殺したことを知ったら、刑事告訴・告発をしないと自分が「相続欠格者」となってしまうので、注意が必要です。
③詐欺や脅迫の手段で被相続人の遺言を取り消させた、変更を妨げた場合
被相続人が遺言をしようとしているときや、遺言を取り消そうとしたり変更しようとしていたりするとき、その内容が自分にとって都合が悪いケースがあります。そのような場合において、被相続人を脅したり騙したりして、遺言の作成・取消・変更を妨害すると相続欠格者となります。たとえば、父親が、次男にすべての遺産を相続させるという内容の遺言をしようとしていると知った長男が、父親を脅して遺言作成を妨害した場合などです。
④詐欺や脅迫の手段で被相続人の遺言をさせ、取り消させ、変更させた場合
もう1つは、被相続人に対し、脅したり騙したりして遺言書を書かせたり取り消させたり変更させたりした場合です。たとえば、叔父の多額の遺産を狙った甥が、叔父を脅して「すべての遺産を甥に相続させる」と言う内容の遺言書を無理矢理書かせたケースなどです。
③と④の違いは、③は遺言書の作成、変更、取消を「妨害した」ケースであるのに対し、④は遺言書を無理矢理作成させたり取り消させたり変更させたりしたケースであることです。
⑤被相続人の遺言書を偽造・変造・破棄・隠蔽した
最後に、被相続人の遺言書を発見した相続人がその遺言書に手を加えてしまったり破棄してしまったりした場合です。具体的には、被相続人の遺言書を偽造したり(勝手に被相続人名で遺言書を作成してしまうこと)、変造したり(被相続人が書いた遺言書を書き換えてしまうこと)、見つけた遺言書を隠したり破り捨てたりしてしまったりしたケースにおいて、相続人が欠格者となります。
以上のように、相続欠格者となるケースはかなり限定されています。法律上当然に相続権を奪うケースなので、そう簡単に認められるものではありません。
相続欠格に該当しない人から相続権を奪いたいケース
民法上、相続欠格者となるのは上記の5つのケースに限られていますが、それに該当しないケースでも、相続権を奪いたいと考えることがあります。その場合、被相続人としてはどのような方法をとることができるのでしょうか?
考えられる方法は、遺言や生前贈与、相続人廃除です。以下で、それぞれに就いてみてみましょう。
遺言
遺言は、遺言者が最終の意思を明らかにした書類です。遺言において、財産の処分方法を書いておけば、法定相続に優先するので、相続させたくない相続人から相続権を奪うことができます。
ただし、遺言によって完全に相続権を奪うことができるのは、兄弟姉妹と甥姪のみです。その他の相続人には「遺留分」が認められるので、完全に相続権を奪うことができません。遺留分とは、兄弟姉妹以外の法定相続人に当然認められる遺産に対する権利です。いかに遺言書を書いても、相続開始後に遺留分権利者が遺留分減殺請求(遺留分を請求する手続き)することを止めることはできません。
遺留分減殺請求を防止するためには、遺留分権利者自らの意思で家庭裁判所に申し立てをして、「生前の遺留分放棄」を認めてもらう必要があります。もし、相続人と相談ができる状況であれば、一度話合いをして生前の遺留分放棄の申し立てをさせた上で遺言書を作成しておけば、その相続人に遺産を渡さずに済みます。
生前贈与
次に利用できるのが生前贈与です。生前贈与とは、被相続人(予定者)が生きている間に、希望する人に財産を無償で受け継がせる方法です。贈与の相手は法定相続人であってもかまいませんし、法定相続人以外の人に生前贈与することもできます。たとえば、孫や長男の嫁、お世話になった人に財産を贈与することも可能ですし、法人や団体などに財産を寄付することもできます。
ただし、死亡前の一年以内に行われた生前贈与については、遺留分減殺請求の対象になります。また、法定相続人への生前贈与については、基本的に死亡の何年前に行われたものであっても、特別受益に該当して遺留分減殺請求の対象になってしまうので、注意が必要です。
このようなことからすると、生前贈与の方法によって相続を避けたいときにも、相続人に遺留分放棄の申し立てをさせる必要があるケースが多いでしょう。
相続人廃除
3つ目の方法が、「相続人廃除」です。相続人廃除とは、相続人に非行がある場合において、被相続人が家庭裁判所に申し立てをして、相続権を奪ってしまう方法です。
相続人廃除が認められるのは、相続人に著しい非行があったり被相続人を虐待したりしたケースです。非行というのは、たとえば被相続人にお金の無心をし続けて被相続人に迷惑をかけた場合や、重大な刑事事件を起こして有罪判決を受け、被相続人に迷惑をかけた場合などであり、虐待というのは被相続に暴行を振るったりした場合などです。
相続人廃除が認められるケースは相続欠格よりも範囲が広いので、たとえ相続人に欠格事由がなくても、廃除が認められる可能性があります。
相続人廃除をするためには、家庭裁判所に申し立てをして認めてもらう必要があり、廃除の決定があったら、役所に届出をして戸籍謄本に記録しなければなりません。相続欠格のように「何もしなくても当然に欠格者となる」わけではないので、注意が必要です。
また、相続人廃除は、遺言によっても行うことができます。この場合には、必ず遺言執行者を指定しておく必要があり、もし指定されていない場合には死後に遺言執行者を選任しなければなりません。
相続欠格者となった場合の効果
次に、相続欠格者となったら具体的にどのような効果があるのか、見てみましょう。
相続できない
まず、本人が相続できなくなることは当然です。
代襲相続は起こる
日本の相続制度には「代襲相続」があります。代襲相続とは、推定相続人が被相続人よりも先に亡くなっているケースにおいて、推定相続人の子どもが代わりに相続することです。たとえば、子どもや親よりも先に死亡しているケースでは、子どもの子どもである「孫」が代襲相続によって相続人となります。
相続欠格者となった場合、欠格者本人には非行がありますが、その子どもには非がないのですから、相続権を奪う理由がありません。そこで、欠格者に子どもがいたら、次順位の人に相続権が移ることはなく、代襲相続によって欠格者の子どもが相続人となります。
相続欠格の撤回はできない
相続欠格は、被相続人の意思と関係なく成立してしまいます。たとえば、相続人が遺言書を破棄したら、遺言者が「別にかまわない」と思っていても欠格者になってしまうのです。このようなとき、相続欠格を撤回したり効果を覆したりすることはできるのでしょうか?
実は、いったん相続欠格者となってしまったら、もはやどのような手段を用いても撤回したり覆したりすることはできません。被相続人の意思を持っても変えることができないので、注意が必要です。
遺贈も不可
それでは、いったん相続人が相続欠格者となってしまったら、その相続人に遺産を受け渡す方法はないのでしょうか?まず思いつくのは「遺贈」かもしれません。相続欠格となって法定相続できなくなっても、遺言によって相続させることができるのでしょうか?
実は、これも認められていません。相続欠格者は、遺贈によっても遺産を受け継ぐことができないので、欠格者に対して遺贈する遺言書を書いても無効です。
生命保険なら可能
相続欠格者に遺産を受け渡すためにとりうる方法が、2つあります。1つは生命保険の受取人に指定することです。法律上、生命保険は遺産の範囲に含まれないと考えられているので、相続欠格者であっても死亡保険金を受けとることができますし、生命保険金を遺産分割の対象にする必要もありません。
ただし、相続欠格者になるような非行のある相続人に対し、高額な死亡保険金を渡す生命保険契約を設定するのは危険とも言えるかも知れません。周囲の人と、よく相談した方が良いでしょう。
生前贈与も可能
相続欠格者に対して生前贈与することも可能です。生前贈与は、生前に被相続人と相続人が個人的に行う契約行為であり、相続や遺贈とは別であると考えられているからです。そこで、相続欠格者にどうしても遺産を残したいのであれば、生前贈与の活用を検討すると良いでしょう。
相続欠格や廃除についてきちんと理解しておきましょう
相続手続きをスムーズに進めるためには、相続欠格や廃除の制度について正確に理解しておくことが大切です。「誰が相続人になるのかよくわからない」なら、相続に強い弁護士に相談してみましょう。
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