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深夜残業や休日出勤の強制がパワハラになることも|深夜に勤務の強要は違法?
この記事で分かること
- 深夜労働とは。割増賃金の計算方法について
- 現在は女性も深夜勤務に就かせることができるが、規制事項がある。
- 強制労働は労働基準法違反。違反すると罰則が科せられる場合がある。パワハラ行為に当たることある。
- 深夜労働のトラブルを防ぐには就業規則を改訂する必要
会社は深夜労働に関し36協定を結ぶ必要がなく、現在は女性の深夜勤務の制限も撤廃されたため、社員に割増賃金を支払えば基本的に深夜勤労働を命じることができます。しかし深夜勤務の強要は労働基準法の強制労働で禁止されており、パワハラ行為になることもあります。深夜勤務に関するトラブルを防ぐためにも、就業規則を整備しておく必要があります。
目次[非表示]
深夜労働の割増賃金や女性の深夜勤務について
深夜労働とは、夜の10時から午前5時までの労働のことで、地域や期間によっては午後11時から午前6時までのこともあります。時間外労働や休日労働のように36協定の届け出は必要ないため、会社は従業員に対し深夜に労働させることができます。
深夜労働の割増賃金
会社は従業員に深夜労働させた場合、その時間帯に深夜勤務手当として割り増し賃金を加算して支払わなければいけません。時間外労働や休日労働が深夜に及ぶ場合、手当が重複することもあります。
深夜労働 | 25%割増 |
---|---|
時間外労働+深夜労働 | 50%割増 |
休日労働+深夜労働 | 60%割増 |
女性の深夜勤務について制限は撤廃された
これまで女性に対して時間外労働が制限され、深夜労働も原則禁止されていました。
しかし昭和61年に男女雇用機会均等法が施行され、平成18年には労働者に対し性別を理由とする差別を禁止するなど、労働法は大幅な改正が行われました。会社は、女性社員も男性社員と同様に深夜勤務に従事させることができるようになりました。
女性を深夜勤務に就かせないことは均等法に抵触することも
さらに、平成28年には女性の活躍推進法が施行されるなど、男女の均等な雇用の機会と待遇の確保が図られています。
女性のみ深夜勤務の対象外にすることは、男女雇用機会均等法の性差別禁止に抵触し違法となることもありますので、就業規則に例外規定がある場合は改訂する必要があります。
雇用機会均等法により女性に対する差別は禁止され、女性労働者も深夜勤務に就かせることが可能になりました。
深夜勤務の規制事項にはどのようなことがある?
労働基準法では深夜労働に関する一般規定はありません。割増賃金の支払い義務を果たせば、会社の命令により社員を深夜勤務に従事させることができますが、助産婦、年少者等については以下のように特別規制が設けられています。
年少者の深夜労働の禁止
会社は、交替制に従事させる満16歳以上の男性の場合を除き、満18歳に満たない社員を深夜勤務に就かせることができません。(労働基準法第61条)男女雇用機会均等法が強化されている今日ですが、現行法では男女差別を残しています。
妊産婦の深夜労働拒否権
改正労働基準法において、妊産婦は時間外勤務、休日労働、深夜労働の拒否権があります。
会社は妊娠中の女性社員および産後1年未満の女性社員が請求した場合、上記の時間帯に働かせることはできません。管理官監督者についても、深夜労働拒否の請求は認める必要があります。
家族的責任を有する者への取扱い
育児介護休業法で、小学校就学前の子を養育する労働者または要介護状態にある対象家族を介護する労働者(「家族的責任を有する労働者」)が請求した場合、会社は深夜業を免除する義務があります。
請求方法
深夜業制限の請求は、1回につき1ヵ月以上6ヵ月以内の期間について、開始日と終了日を明らかにして、開始日の1月前までにします。この請求は、何回もすることができます。
回数の制限はありません。フルタイム社員だけでなく、深夜業制限の請求はパート社員等にも適用されます。
適用除外
以下の労働者は深夜業制限の請求できません。
- 当該事業主に引き続き雇用された期間が1年に満たない労働者
- 配偶者が常に当該子を養育することができる者として厚生労働省令で定める者に該当する場合(ただし介護の場合については適用されない)
- 当該請求できないことに合理的な理由があると認められる労働者(1週間の所定労働日数が2日以下の労働者等
不利益取扱いの禁止
育児介護休業法では、「事業主は、労働者が深夜業の制限の請求をし、深夜において労働しなかったことを理由として、当該労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならない」20条の2)」と定めています。
強制労働は法律違反。深夜勤務の強要はパワハラになることも
一方、強制労働は労働基準法で禁止されています。法律が制定された経緯やその具体的な内容について詳しく解説します。
強制労働の禁止とは
労働基準法では、強制労働を禁止する条項が設けられています。
労働基準法 第五条(強制労働の禁止)
使用者は、暴行、脅迫、監禁その他精神又は身体の自由を不当に拘束する手段によって、労働者の意思に反して労働を強制してはならない。
戦前、労働者を監獄部屋のような劣悪な環境に拘束し強制労働させていた過去の悪習を排除するため、憲法第18条(奴隷的拘束及び意に反する苦役の禁止)を受けて、労働者の意思に反する労働の強制を禁止した趣旨になっています。
憲法第18条 (奴隷的拘束及び意に反する苦役の禁止)
何人も、いかなる奴隷的拘束も受けない。又、犯罪に因る処罰の場合を除いては、その意に反する苦役に服させられない。
会社は、暴行、脅迫、監禁その他精神又は身体の自由を不当に拘束する手段によって、労働者の意思に反して労働を強制することを禁止する、という条項です。
現代とは合っていない法律に思われるかもしれません。しかし使用者と労働者の間には未だに封建的な慣習が残っており、見えないところで強制労働が行われていることもあるので、あえてこのような規定を設けていると言えます。
違反すると労働基準法で最も重い罰則
会社は「強制労働の禁止」規定に違反した場合、労働基準法で最も重い罰則が科されることがあります。(1年以上10年以下の懲役又は20万円以上300万円以下の罰金)
深夜労働の強要がパワハラ行為にあたることも
社員が妊産婦であったり、家族的責任や健康上の問題がない限り、会社は社員に深夜労働に従事させることができます。
しかし、終業時刻間際の深夜勤務の業務命令や、社員の予定や生活設計を壊すような不利益な業務命令の場合はパワハラ行為にあたることがありますので注意しましょう。また業務命令を拒否したことが理由の解雇や、今後の業務評価に影響するような上司の発言も同様です。
深夜労働の強要がパワハラ行為になることもありますので、注意が必要です。
社員に深夜勤務してもらうには。トラブルを防ぐために就業規則等の改訂を
深夜労働の項目を就業規則に明記
深夜勤務は労働基準法36条の36協定の必要がないため、会社が社員に問題なく深夜勤務に従事してもらうためには、就業規則の規定で深夜勤務が義務付けられている必要があります。
女性労働者に深夜勤務をさせない規定は削除
今までの、女性労働者の深夜労働の禁止に関し、就業規則に「女性労働者に深夜勤務をさせない」旨の例外規定が残っている場合は改訂する必要があります。
労働契約に深夜勤務の条件がない場合は異動規定で対応
社員を採用した際に深夜勤務なしの労働契約であった場合、男性でも勤務条件を理由に深夜勤務を拒否することがあるかもしれません。このようなトラブルを避けるためにも就業規則の異動規定を整備し、会社は社員に対し配置転換を命じ、深夜勤務のシフトに就かせる権限があることを記載しておきます。
会社は、例外を除き割増賃金を支払えば社員に深夜勤務を命じることができますが、強制労働は労働基準法違反になります。労働契約や就業規則の解釈をめぐるトラブルを避けるために、深夜勤務に関する記載事項について専門家に相談することをおすすめします。
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