閉じる

49,031view

人事異動が不当だと訴えられたら?会社側は負けるリスクも

この記事で分かること

  • 人事異動は拒否できないが、権利の濫用や契約内容に反する一方的な命令は不当な人事異動
  • 裁判は労働紛争解決の最終手段。会社にとって風評やコスト面でリスクが大きい
  • もし裁判を起こされたら、答弁書作成のため早急に弁護士を探す必要がある

従業員は原則として人事異動の命令を拒否できません。しかし会社の権利の濫用や、契約内容に反する一方的な命令の場合は不当な人事異動となります。従業員が会社を訴える方法は紛争調整委員会のあっせんや労働審判、そして裁判などがあります。会社は裁判を起こされたら約3週間で答弁書を作成・提出しなければならないため、訴状が届いたらすぐに弁護士を探す必要があります。

会社が権利を濫用した場合は不当な人事異動になる

人事異動とは、会社が従業員に対して職種・職務・勤務場所などの変更を命じることです。原則として、従業員は人事異動の命令を拒否できません。拒否すると業務命違反に当たり、懲戒処分の対象となります。

不当な人事異動とは

しかし会社が勝手な都合で配置転換を命じると、不当な人事異動となるケースもあります。具体的には、命令が会社側の権利の濫用に当たる場合や、採用時に決めた職種・勤務地の範囲を超える命令を言い渡した場合です。

権利の濫用に当たる場合

会社が配置転換を命じる権利を濫用すると、不当な人事異動となります。権利の濫用とは「業務上の必要性がない」「嫌がらせなど不当な動機・目的がある」「従業員が大きな不利益を被る」という3つのケースがあります。このうち大きな不利益を被るケースでは、従業員が重病の家族を介護していて、もし転勤となれば介護できる人が誰もいなくなる、といった事情がある場合などは転勤を拒否できると判断した判例があります。

採用時に職種や勤務地を限定している場合

特定の職種で採用した従業員を他の職種に配置転換する場合、本人の同意を得ずに会社が一方的に命令した場合は不当な人事異動とみなされます。また、採用時に特定のエリアのみで勤務する条件で契約していたり、転勤がないことを条件に採用している場合も、会社の命令で転勤させることはできません。この場合も本人の同意があってはじめて配置転換が有効とみなされます。

ワンポイントアドバイス
従業員が「不当な人事異動だ」と主張した場合、まずは命令が権利の乱用に当たるかどうか、そして採用時の契約内容を超える命令になっていないかどうかを確認してみてください。

従業員が人事異動を不当だと訴える様々な手段

人事異動が不当だと主張する従業員と会社が直接交渉しても解決に至らなかった場合、従業員は次のステップとして社外の第三者機関に訴える行動に出ます。しかし、裁判は費用や時間がかるため、従業員がいきなり裁判を起こすケースはほとんどありません。

労働紛争の主な解決手段

労働者が労働紛争を解決するために利用する機関は、労働基準監督署や労働局、そして裁判所の労働審判などが考えられます。いずれも話し合いによる解決手段です。

労働基準監督署への申告

厚生労働省の出先機関である労働基準監督署は、事業主が労働基準法などの法律をきちんと守っているかどうかを監督し、違反している事業主には指導を行なっています。従業員が申告する際に費用もかかりません。しかし、人事異動に関しては法律の定めがありません。従業員が労働基準監督署に相談しても、会社に対して書類の提出を求めたり調査に入ることは考えにくいでしょう。

紛争調整委員会のあっせん

各都道府県の労働局には紛争調整委員会が設置されています。そして、労働紛争を解決したい従業員があっせんを申し立てた場合、委員会の中から指名されたあっせん委員が紛争当事者(会社と従業員)の間に入り、公平・中立な第三者として解決に向けたあっせんを行うのです。あっせんの利用は無料です。双方があっせんに合意した場合、あっせん案は民法上の和解契約の効力があります。従業員があっせんを申請した場合、会社があっせん期日に参加するかどうかは自由に選べますが、労働紛争は早期に解決したほうが双方にメリットがあります。

労働審判

労働審判は裁判所を利用する紛争解決の手続きです。会社と従業員の労働関係のトラブルを、労働審判官(裁判官)1名と労働関係の専門知識を持つ労働審判員2名で構成された労働審判委員会が審理と調停によって解決へ導きます。期日は原則3回以内で、手続き終了までの期間が2〜3ヶ月程度で済むケースが主流です。注意したいのは、従業員に申し立てられた労働審判を会社側が欠席すると、申立人(従業員)側に有利な結果になりやすいという点です。

ワンポイントアドバイス
あっせんの開始通知や労働審判の申立書が突然会社に届いたら、どのように対応すればいいか戸惑うでしょう。主張したい内容に応じて資料や証拠を用意する必要もあります。早期解決のためにも、対応に不安がある方は労働問題に強い弁護士に相談してみてください。

人事異動が不当だと裁判で訴えられることは風評や金銭的なリスクが大きい

裁判は会社と従業員の労働紛争を解決するための最終手段です。従業員が人事異動を不当だと主張してきた場合、裁判で訴えられる前に和解しておくほうが賢明です。裁判となると会社は経営上のリスクを負うことになります。

裁判で訴えられるリスクとは

裁判で従業員に訴えられると、会社の評判が落ち、さらに時間も費用もかかるといったリスクがあります。

会社の評判が落ちる

昨今、長時間労働や不当解雇など労使間トラブルには社会から厳しい目が向けられています。人事異動が不当だとして従業員に裁判で訴えられた場合、紛争調整委員会のあっせんや労働審判は非公開で行われますが、裁判は原告・被告の名前や事件の内容が公開されます。会社側の悪意の有る無しに関係なく世間からマイナスイメージを持たれてしまったり、最悪の場合は顧客や取引先からの信用を落とす可能性もあります。

裁判には時間も費用もかかる

労働審判は期日が原則3回以内と決まっていて2〜3か月程度で結論が出るのに対し、訴訟の場合は期日の回数に制限がなく、判決や和解に至るまでに1年以上を要する場合もあります。会社側はその間、裁判に必要な書面の作成や証拠の収集、さらには証人尋問のリハーサルなどに人員を割かなければなりません。また、弁護士を立てずに裁判に臨むことは現実的ではないため、弁護士費用も必要です。

ワンポイントアドバイス
第一審で和解に至らず判決を受けた場合、原告・被告のいずれかが控訴すれば裁判はさらに長引きます。裁判は会社にとって負担が大きいため、なるべく裁判外で解決を図るほうがいいでしょう。

人事異動が不当だと裁判で訴えられたら、弁護士を依頼し和解を目指す

裁判は、労働紛争をめぐる法的な権利について、関係会社・従業員のうちどちらの主張が正しいか裁判所に判断を求める手続きです。しかし実際には判決に至る前に和解するケースが多く、和解したほうが会社・従業員の双方にメリットがあります。

裁判の流れ

従業員が裁判を起こすと会社側に訴状が届き、裁判所から第一回期日の指定と呼び出しを受けます。第一回期日は提訴から約1か月後です。訴えられた会社側は第一回期日までに申立書に対する主張をまとめた答弁書を提出することになります。

弁護士に依頼する

会社は訴状を受け取ったらすぐに弁護士に相談しましょう。顧問契約を結んでいる弁護士がいない場合は弁護士探しから始める必要があります。弁護士はそれぞれ得意分野が異なるので、労働問題に強い弁護士を探して相談するのがポイントです。

答弁書作成の時間は約3週間しかない

答弁書の作成は弁護士が行いますが、訴状の内容の認否や関連資料の準備などは会社側の役目です。答弁書は訴状が届いてから約3週間で作成・提出という厳しいスケジュールとなるうえ、会社にとって不利な内容にならないよう慎重に検討しながら作業を進めなければなりません。答弁書作成に充てる時間を少しでも長くとるために、弁護士の決定はスピーディーに行う必要があるのです。

裁判期日に行われること

裁判期日は書面による主張や証拠調べが行われます。第一回期日は原告の訴状と被告の答弁書が陳述され、第二回目期日からは双方が準備書面を提出して主張と立証を行います。主張と書面の証拠で足りない場合は、原告・被告や証人が出廷し証人尋問が行われる場合もあります。証人尋問を受ける場合は事前の準備・リハーサルも必要です。

和解のメリット

裁判では、当事者同士が合意すれば判決を待たずに和解するケースが多く見られます。和解のメリットのひとつは、裁判を長期化させずに済むため裁判にかける人的・時間的・金銭的コストを減らせる点です。また、会社側が和解を提案すれば、敗訴による社会的・金銭的ダメージを回避できます。仮に会社側が勝訴した場合でも、原告の従業員にとっては不満が残る結果となり、社内に悪影響を及ぼしかねません。和解を目指すことはどちらの当事者にとってもメリットがあると言えます。

ワンポイントアドバイス
裁判で訴えられた場合、第一回期日までの短期間に重要な書面の準備を行う必要があります。弁護士選びでもたついている暇はありません。企業の危機管理の一環として、何かあったときにすぐに相談できる弁護士がいると安心です。

人事異動が不当だと訴えられたら、慌てずに労働問題に強い弁護士に相談してみてください。ケースごとに最前の解決方法やとるべき行動を提案してくれるはずです。問題が大きくならないうちに解決しておくことが重要です。

企業の法的対応は弁護士に相談を
法的リスクを低減し、安定したビジネス運用を実現
  • ライバル企業や顧客から訴訟を起こされた
  • 取引の中で法令違反が発覚した
  • 契約書作成時の法務チェック
  • ネット上での風評被害・誹謗中傷
  • M&A・事業展開・リストラ時の法的リスクの確認
上記に当てはまるなら弁護士に相談