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取適法(旧下請法)とはどんな法律か
取引先に発注した仕事の代金を、あとから値引きしてもらった。納品されたものを、都合で受け取らずにいる。よかれと思って、あるいは慣習として続けてきたそうした行為が、実は法律に触れているとしたら、どうでしょうか。発注する側の会社が、知らないうちに違反を重ねている。そんな事態を招きかねないのが、2026年1月1日に下請法から衣替えした取適法という法律です。まずは、この法律がどのようなものかを、正しく理解しておくことが大切です。
取適法は、正式には「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律」といい、発注する側の会社が、その立場の強さを利用して、発注を受ける側の会社に不当な扱いをすることを防ぐための法律です。取引において、発注する側と受ける側とでは、どうしても力の差が生じがちです。仕事を出してもらう側は、無理な要求をされても、取引を続けたい一心で受け入れてしまうことがあります。そうした弱い立場の事業者を守るのが、この法律の狙いです。
発注する側からすれば、取適法は自社を縛るもののように感じられるかもしれません。しかし、見方を変えれば、この法律は取引の公正さを保ち、健全な取引関係を築くための、共通のルールでもあります。受注側が安心して仕事に取り組める環境は、結局のところ、良い成果物や安定した供給となって、発注側にも返ってきます。取適法を守ることは、双方にとっての利益につながります。
もともと、力の強い企業がその立場を利用して相手に不当な要求をすることは、独占禁止法という法律によって、広く禁じられています。しかし、こうした問題は、完成品をつくる会社と、その部品などを請け負う会社との取引で、とりわけ多く見られました。そこで、こうした委託の取引について、より具体的で分かりやすいルールを定め、迅速に対処できるようにするために、独占禁止法を補う法律として、1956年に下請法(下請代金支払遅延等防止法)がつくられました。その下請法を大きく見直し、名前も改めて2026年1月1日に施行されたのが、取適法です。
発注する側の会社にとって、取適法は決して他人事ではありません。むしろ、自社が知らないうちに違反していないかを、常に気にかけておくべき法律です。悪意がなくても、慣習として続けてきた取引のやり方が、この法律に照らせば問題だった、ということは十分にありえます。違反すれば、行政からの指導や、場合によっては社名の公表といった、思わぬ不利益を被ることにもなりかねません。
とりわけ怖いのは、自社に違反の自覚がないまま、問題が積み重なっていくことです。長年続けてきた取引のやり方が、いつのまにか当たり前になり、それが取適法に照らせば問題だ、とは思いもしないまま続けてしまう。そして、ある日、行政の調査や取引先からの指摘によって、初めてそれが違反だったと気づく。こうした事態を避けるには、日ごろから自社の取引を、法律の目で点検しておくことが必要です。
この記事では、取適法がどのような取引を対象としているのか、発注する側にはどのような義務が課され、どのような行為が禁じられているのか、違反するとどうなるのか、そして会社は何に気をつけるべきかまでを、弁護士の視点から順を追って見ていきます。自社の取引に問題がないかを点検する手がかりとして、役立てていただければと思います。
読者の方のなかには、日ごろから多くの取引先に発注していて、取適法との関係が気になっている方もいるでしょう。あるいは、取引先から代金の扱いについて指摘を受けて、あわてて調べている方もいるかもしれません。どちらの場合でも、まずは取適法の基本を押さえ、自社の取引がその対象になるのかを確かめることが、出発点になります。順を追って見ていきます。
なお、この記事でお伝えするのは、取適法をめぐる基本の考え方です。実際には、取引の内容や当事者の規模によって、適用の有無や具体的な扱いが変わってきます。ここで得た知識を土台にしながら、判断に迷う場面では弁護士の確認も得て、慎重に対応を進めていただければと思います。基本を知っておくことが、思わぬ違反を避ける確かな支えになります。
取適法の対象となる取引と当事者
取適法は、すべての取引に適用されるわけではありません。まず押さえておきたいのは、この法律が対象とするのは、決められた種類の取引に限られる、という点です。自社の取引がその範囲に入るのかどうかを見極めることが、取適法を理解する第一歩になります。対象の取引は、大きくいくつかの類型に分けられます。
この類型のどれにあたるかを見極めることは、実務ではとても大切です。というのも、取引の類型によって、取適法が適用される当事者の規模の条件が異なってくるからです。自社が行っている委託が、どの類型にあたるのかを正しく整理しておかないと、対象になるかどうかの判断そのものを誤ってしまいます。自社の取引の中身を、この類型に照らして丁寧に確かめることが求められます。
一つは、物品の製造を他の会社に委託する取引です。自社が販売したり、他社から請け負ったりした物品について、その製造を別の会社に頼む場合が、これにあたります。もう一つは、物品の修理を委託する取引です。このほか、設計図やプログラム、映像やデザインといった、形のない成果物の作成を委託する取引や、運送や保守といった役務の提供を委託する取引も、取適法の対象になります。
これらの類型を見れば分かるように、取適法の対象は、いわゆる製造業の取引に限られません。情報や役務にかかわる委託も、幅広く対象に含まれます。そのため、自社は製造業ではないから関係ない、と思い込んでいると、思わぬところで取適法の適用を受けていた、ということが起こりえます。自社の取引がこれらの類型のいずれかにあたらないかを、確かめておくことが大切です。
ただし、対象となる取引の類型にあてはまるだけでは、取適法が適用されるとは限りません。もう一つの条件として、取引を行う会社どうしの規模の関係が問われます。取適法は、一定の規模を持つ発注側の会社と、それより規模の小さい受注側の会社との取引を対象としています。つまり、力の差が生じやすい組み合わせに限って、この法律が働く仕組みになっています。
この考え方の根底にあるのは、力の差があるところに、不当な扱いが生まれやすいという現実です。規模が同じくらいの会社どうしであれば、一方が無理を言っても、相手は対等に交渉できます。しかし、規模に大きな差があると、小さな会社は、大きな会社の求めを断りにくくなります。取適法が規模の関係を条件としているのは、まさにこうした力の不均衡を是正するためです。
この規模の関係は、資本金の額と、常時使用する従業員の数という二つの物差しで判断されます。従業員数の物差しは、2026年の改正で新しく加わりました。どの程度の規模の会社どうしの取引が対象になるかは、取引の類型によっても異なります。自社と取引先が、この基準に照らして取適法の対象となる関係にあるのかどうかは、慎重に確かめる必要があります。判断が難しい場合には、弁護士に確認するのが安全です。対象かどうかの見極めを誤ると、知らぬ間に違反を重ねることになりかねません。
この見極めが難しいのは、資本金の額という基準が、取引の類型ごとに異なる組み合わせで定められているためです。同じ相手との取引でも、委託する内容によって、取適法の対象になったりならなかったりすることもあります。自社の判断だけで対象外と決めつけてしまうと、実は対象だったという事態を招きます。少しでも判断に迷うときは、弁護士に確認するのが安全です。
規模の基準を整理すると、次のようになります。資本金の基準に当てはまらない場合でも、従業員数の基準で対象になることがある点に気をつけてください。
| 取引の類型 | 委託事業者(発注側) | 中小受託事業者(受注側) |
|---|---|---|
| 製造委託・修理委託・特定運送委託など | 資本金3億円超、または資本金1千万円超3億円以下、または常時使用する従業員300人超 | 資本金3億円以下、または1千万円以下(個人を含む)、または従業員300人以下 |
| 情報成果物作成委託・役務提供委託(プログラム作成、運送、倉庫保管、情報処理を除く) | 資本金5千万円超、または資本金1千万円超5千万円以下、または常時使用する従業員100人超 | 資本金5千万円以下、または1千万円以下(個人を含む)、または従業員100人以下 |
資本金と従業員数のどちらで判定するかは、組み合わせによって変わります。たとえば、資本金は1千万円でも従業員が400人いる会社が、従業員50人の部品メーカーに製造を頼む場合です。改正前は資本金の基準から外れて対象外でしたが、今は従業員数の基準で対象に入ります。減資をして規制を外れていた会社ほど、見直しが必要です。
委託事業者に課される義務
自社の取引が取適法の対象になると分かったら、次に理解すべきは、発注する側に課される義務です。取適法は、発注側の会社に対して、いくつかの具体的な義務を定めています。これらは、取引を公正なものにし、受注側の会社を守るための、いわば基本のルールです。一つずつ確認していきます。
まず求められるのが、発注の内容を書面などで明確に示すことです。何を、いつまでに、いくらで発注するのか。こうした取引の条件を、口頭のあいまいな約束で済ませるのではなく、はっきりと書面などのかたちで受注側に交付することが義務づけられています。条件が明確であれば、後の食い違いを防げますし、受注側も安心して仕事に取りかかれます。あいまいさを残さないことが、公正な取引の土台になります。
書面などで発注の内容を示すことは、単なる形式ではなく、後のトラブルを防ぐ実質的な意味を持ちます。条件が口約束のままだと、後になって、言った言わないの争いが生じやすくなります。何を、いつまでに、いくらで発注したのかが明確に残っていれば、双方が同じ理解のもとで取引を進められます。書面の交付は、受注側のためであると同時に、発注側自身を守るものでもあります。
次に、取引に関する記録を作成し、一定の期間、保存しておくことも義務づけられています。どのような発注を行い、どのように代金を支払ったのかといった記録を残しておくことで、取引の適正さを後から確かめられるようにします。記録の保存は、面倒に感じられるかもしれませんが、自社の取引が公正であったことを示す備えにもなります。
記録を残しておくことは、万一、取引をめぐって受注側との間に食い違いが生じたときにも、大きな意味を持ちます。どのような条件で発注し、いつ、いくら支払ったのかがはっきりと残っていれば、事実に基づいて冷静に話し合うことができます。記録のない取引は、争いになったときに、双方の記憶に頼るほかなく、解決を難しくします。地道な記録の積み重ねが、いざというときの支えになります。
さらに、代金の支払いについても、明確なルールがあります。受注側から納品を受けたら、決められた期間内に、代金を支払わなければなりません。仕事は受け取ったのに、代金の支払いをずるずると先延ばしにする。そうした遅延を防ぐことが、この法律の大きな目的の一つです。もし支払いが遅れた場合には、その遅れた分について、一定の利息を上乗せして支払う義務も生じます。
代金の支払いをめぐる問題は、取適法違反のなかでも、とりわけ多く見られるところです。発注側に悪気がなくても、社内の事務の流れが滞ったり、担当者の見落としがあったりして、支払いが遅れてしまうことがあります。しかし、理由がどうであれ、決められた期間を過ぎれば、それは違反になりえます。支払いの手続きが遅れないよう、社内の仕組みを整えておくことが欠かせません。
ここで押さえておきたいのは、これらの義務は、発注する側が公正に振る舞うための最低限のルールであり、守らなければそれ自体が取適法違反になるという発想です。書面を交付しなかった、支払いが遅れた、といったことは、うっかりでは済まされません。悪意がなくても、義務を怠れば違反となります。だからこそ、これらの義務を社内の実務にきちんと組み込んでおくことが、欠かせません。
これらの義務を確実に果たすには、担当者の心がけだけに頼るのではなく、仕組みとして根づかせることが肝心です。発注のたびに書面を交付する流れを定める、支払いの期限を管理する仕組みをつくる、記録を残す手順を決めておく。こうした仕組みがあれば、担当者が代わっても、うっかりの見落としがあっても、義務を守り続けられます。人ではなく仕組みで守るという発想が、違反を防ぐ鍵になります。
委託事業者に禁止される行為
取適法は、発注する側に義務を課すだけでなく、してはならない行為も、具体的に定めています。これらの禁止行為は、発注側がその立場の強さを利用して、受注側に不当な負担を押しつけることを防ぐためのものです。日ごろの取引のなかで、悪気なく行ってしまいがちなものも含まれます。自社に思い当たる点がないか、確かめながら読んでいただければと思います。
- 発注した物品や成果物の受け取りを、受注側に責任がないのに拒むこと。
- あらかじめ定めた代金を、後から一方的に減額すること。
- 受け取った物品などを、受注側に責任がないのに返品すること。
- 相場に照らして著しく低い代金を、一方的に押しつけること。
- 正当な理由なく、指定する物品などを強制的に購入させること。
- 取適法違反を申し出たことを理由に、取引を打ち切るなどの報復をすること。
これらのほかにも、発注後に、正当な理由なく発注の内容を変更したり、やり直しをさせたりすること、金銭や労務の提供を不当に求めることなどが、禁止されています。いずれも、発注する側からすれば、これくらいはよいだろう、という感覚で行ってしまいがちなものばかりです。しかし、受注側にとっては、断りにくい立場につけこまれた、不当な負担になっています。
発注する側が気づきにくいのは、自社にとっては小さなことでも、受注側にとっては経営を揺るがす負担になりうる、という点です。わずかな減額や、少しの支払いの遅れでも、規模の小さな会社にとっては、資金繰りを直撃することがあります。相手の立場に立って、その求めがどれほどの重みを持つのかを想像してみる。その一歩が、意図せぬ違反を防ぐことにつながります。
とりわけ注意したいのが、代金の減額と、著しく低い代金の押しつけです。景気が悪くなったから、予算が厳しいから、といった発注側の事情で、いったん決めた代金を後から下げたり、はじめから相場を大きく下回る額を求めたりする。こうした行為は、受注側の経営を直接に苦しめるものであり、取適法が特に厳しく禁じているところです。発注側の都合による値下げには、細心の注意が必要です。
ここで難しいのは、正当な交渉と、禁止される押しつけとの見分けです。取引の条件を話し合うこと自体は、当然に認められています。しかし、その話し合いが、発注側の一方的な都合を、立場の弱い受注側にのませるかたちになっていれば、それは禁止行為に近づきます。対等な立場での合意なのか、力を背景にした押しつけなのか。この違いを、発注する側は常に意識しておく必要があります。
これらの禁止行為は、たとえ受注側が同意していたとしても、許されるわけではありません。立場の弱い受注側は、発注側の求めに、本心では納得していなくても応じてしまうことがあるからです。受注側が受け入れたのだから問題ない、という理屈は、取適法のもとでは通用しません。発注する側は、相手が同意しているかどうかにかかわらず、自らの行為が禁止に触れないかを、常に確かめる必要があります。
2026年1月の改正で何が変わったか
取適法への改正は、名前が変わっただけではありません。約50年ぶりの大きな見直しで、発注する側の実務に直結する変更がいくつも入っています。とくに影響が大きいものを表にまとめました。
| 項目 | 改正前(下請法) | 改正後(取適法) |
|---|---|---|
| 呼び方 | 親事業者・下請事業者 | 委託事業者・中小受託事業者 |
| 規模の基準 | 資本金のみ | 資本金に加え、従業員数(300人・100人) |
| 対象の取引 | 製造・修理・情報成果物作成・役務提供の4類型 | 発荷主が運送事業者に運送を頼む特定運送委託を加えた5類型 |
| 支払いの方法 | 手形のサイトに上限の目安があった | 手形払いは禁止。電子記録債権やファクタリングも、期日までに満額の現金を得にくいものは禁止 |
| 代金の決め方 | 著しく低い代金の押しつけ(買いたたき)を禁止 | 受注側から価格の協議を求められたのに応じない、説明をしないまま一方的に代金を決めることも禁止 |
| 行政の関与 | 公正取引委員会と中小企業庁が中心 | 事業を所管する省庁にも指導・助言の権限 |
実務で見落としやすいのが、手形の扱いです。長年、支払いを手形で済ませてきた会社は少なくありません。取適法のもとでは、手形での支払い自体が支払遅延として扱われるため、振込などに切り替える必要があります。
価格協議の義務も、見過ごせません。原材料費や人件費の上昇を理由に、取引先から値上げの相談を持ちかけられたとします。「今期は予算が決まっているので」と取り合わず、従来の単価のまま発注を続けた。この対応は、協議に応じない一方的な代金の決定にあたるおそれがあります。すぐに値上げを受け入れる義務まではありませんが、話し合いの場を設け、自社の考えを根拠とともに説明することは欠かせません。
運送を頼む側も注意が必要です。自社の商品を顧客に届けるために運送会社に配送を任せる取引は、これまで規制の外にありました。今は特定運送委託として対象に入り、荷待ちや荷役を無償でさせることも問題になりえます。
取適法に違反するとどうなるか
では、もし取適法に違反した場合、発注する側の会社には、どのような事態が待っているのでしょうか。違反の結果を知っておくことは、日ごろの取引を律するうえで、とても大切です。安易な気持ちで禁止行為に手を染めれば、思いのほか重い代償を払うことになりかねません。
取適法に違反した疑いがある場合、行政の機関による調査が行われることがあります。取引の実態が調べられ、違反があると判断されれば、その行為をやめて、受注側が被った不利益を回復するよう、行政から求められることになります。たとえば、不当に減額した代金があれば、それを受注側に返すよう促されるなど、具体的な是正が求められます。
さらに、悪質な違反や、繰り返される違反については、行政による勧告が行われ、その内容や会社名が公表されることがあります。取引先や世間に対して、その会社が取適法に違反したことが知られてしまうわけです。これは、会社の信用を大きく傷つけます。長年かけて築いてきた信頼が、こうした公表によって一気に損なわれることは、経営にとって深刻な打撃になります。
公表という制度が設けられているのは、金銭の是正だけでは十分でないと考えられているからです。行政による指導や勧告の内容が明らかにされることで、他の会社に対しても、同じような違反をしないよう促す狙いがあります。つまり、公表は、その会社への制裁であると同時に、取引全体の公正さを守るための仕組みでもあります。発注する側は、この制度の重みを、しっかりと受けとめておく必要があります。
加えて、一定の義務違反については、罰則が定められている場合もあります。書面の交付を怠ったり、記録の作成や保存をしなかったりといった義務違反に対しては、罰金などの制裁が科されることもあります。悪意のない、事務的な怠りであっても、それが法律の定める義務違反にあたれば、こうした制裁の対象になりうる、という点を軽く見てはなりません。
このように、取適法違反の代償は、金銭的な負担にとどまらず、会社の信用の失墜という、目に見えにくいけれども深刻な損失にまで及びます。取引先との関係も悪化し、これまで築いてきた信頼関係が崩れることにもなりかねません。目先の利益のために禁止行為に手を出すことが、いかに割に合わないかが分かります。違反を防ぐことこそ、会社を守る道です。
信用の失墜が恐ろしいのは、それが一度損なわれると、回復に長い時間がかかるからです。公表によって取適法違反が知られれば、取引先は、この会社と取引を続けて大丈夫かと不安を抱きます。新たな取引先を得るうえでも、不利に働きます。金銭的な負担は、時間をかければ埋め合わせられるかもしれませんが、失った信用を取り戻すのは、はるかに難しいのです。
委託取引で会社が気をつけたいこと
取適法違反を避けるために、発注する側の会社は、日ごろの取引において何に気をつければよいのでしょうか。違反の多くは、悪意からではなく、法律への理解不足や、慣習を漫然と続けてしまうことから生じます。ですから、意識して取り組むべきことを、あらかじめ整理しておくことが有効です。ここでは、その要点を見ていきます。
まず取り組みたいのが、取引の条件を、はじめの段階で明確に定めておくことです。発注の内容や代金、納期や支払いの時期といった条件を、あいまいなまま進めるのではなく、書面などのかたちではっきりと示しておく。条件が明確であれば、後から一方的に変更したり、代金を減額したりする余地が生じにくくなります。あいまいさこそが、違反の温床になります。
次に大切なのが、社内で取適法についての理解を共有しておくことです。実際に発注を担当する社員が、取適法の義務や禁止行為を知らなければ、悪気なく違反を犯してしまいます。何が義務で、何が禁じられているのかを、取引にかかわる社員がきちんと理解しておく。研修や社内の周知を通じて、認識をそろえておくことが、違反の予防につながります。
発注を担当する社員が取適法を理解していることは、違反の予防だけでなく、取引先との良好な関係づくりにも役立ちます。ルールを踏まえたうえで、誠実に取引を進める会社は、受注側からも信頼されます。その信頼は、安定した取引や、質の高い成果物となって返ってきます。取適法の理解を社内に広げることは、単なる守りにとどまらず、会社の取引そのものを強くする取り組みです。
さらに、日ごろの取引を定期的に点検することも役立ちます。代金の支払いが遅れていないか、後から減額していないか、書面の交付を怠っていないか。こうした点を、折にふれて確かめる仕組みを設けておけば、問題を早い段階で見つけて、正すことができます。放置していれば重大な違反になりかねないことも、早めに気づけば、大事に至らずに済みます。
点検の仕組みは、大がかりなものである必要はありません。発注や支払いの記録を定期的に見直す、担当者どうしで気になる点を確認し合う、といった地道な取り組みでも、十分に効果があります。大切なのは、問題がないかを折にふれて確かめる習慣を、社内に根づかせることです。こうした習慣があれば、小さなほころびのうちに気づき、大きな違反へと発展する前に手を打てます。
こうした取り組みを積み重ねておけば、取適法違反という思わぬ落とし穴を、避けることができます。逆に、法律を軽く見て漫然と取引を続けていると、いつのまにか違反が積み重なり、行政の指導や信用の失墜という事態を招きます。公正な取引を心がけることは、受注側を守るためであると同時に、自社を守るためでもあります。
自社の取引を点検するときは、次の順で確かめていくと漏れを防げます。
- 外部に任せている仕事を洗い出し、5つの取引類型のどれにあたるかを整理する。
- 取引先ごとに資本金と従業員数を確かめ、規模の基準に当てはまるかを判定する。
- 発注書や契約書に、必要な事項がそろっているかを見直す。
- 支払期日が受領から60日以内か、手形払いが残っていないかを確かめる。
- 取引先から価格の相談があったときの対応窓口と記録の残し方を決める。
会社が取り組むべきことと弁護士の活用
ここまで、取適法の目的から、対象となる取引、発注側の義務と禁止行為、違反した場合の結果、そして日ごろの心がけまでを見てきました。あらためて整理すると、発注する側の会社が取り組むべきことは、いくつかの柱にまとめられます。自社の取引が取適法の対象かを見極めること。義務を確実に果たすこと。禁止行為に触れないこと。そして、日ごろから取引を点検すること。これらが基本の姿勢になります。
これらは、いずれも特別なことではありません。しかし、日々の取引のなかでは、つい慣習に流されたり、目先の都合を優先したりしがちなことでもあります。取適法違反が表面化してから慌てて対応するのではなく、何も起きていないうちに、社内の実務を整え、社員の認識をそろえておく。その地道な取り組みが、会社を守る土台になります。
とはいえ、取適法をめぐる判断は、細かな点まで含めると、非常に難しいものです。自社の取引がそもそも対象になるのか、この扱いは禁止行為にあたらないか、契約の条件をどう定めればよいのか。こうした判断を誤れば、知らないうちに違反を重ねることになります。少しでも不安があれば、自己流で判断せず、弁護士の助けを借りることをおすすめします。
とりわけ、委託取引を多く手がける会社や、取引の適正さに不安を抱える会社にとっては、企業の法務にくわしい弁護士に相談することが有効です。弁護士は、自社の取引が取適法の対象になるか、日ごろの扱いに問題がないかを、法律の考え方に照らして具体的に確かめてくれます。契約書のつくり方や、社内の体制づくりについても、助言を得られます。
また、問題が起きてからだけでなく、平時から相談できる体制を整えておくことにも意味があります。取引の条件を定めるときや、契約の内容を見直すときに、日ごろから助言を得られる関係を築いておけば、違反という落とし穴を未然に避けられます。公正な取引は、取引先との長い信頼関係を支え、会社の評判を守ります。信頼できる弁護士とつながっておくことが、その助けになります。
取適法は、発注する側にとって、窮屈な制約に見えるかもしれません。しかし、その本質は、力の差を利用した不当な扱いを戒め、公正な取引を実現するための、当たり前のルールです。それを守ることは、受注側を守るだけでなく、自社の信用と、健全な取引関係を守ることにほかなりません。この記事が、自社の取引を見つめ直し、公正な取引を続けるための一助となれば幸いです。
取適法に関するよくある質問
自社は製造業ではありませんが、取適法の対象になりますか
取適法の対象は、製造業の取引に限られません。物品の製造や修理の委託だけでなく、設計図やプログラム、映像やデザインといった形のない成果物の作成を委託する取引や、運送や保守といった役務の提供を委託する取引も、対象に含まれます。そのため、製造業でなくても、これらの委託を行っていれば取適法の適用を受けることがあります。まずは自社の取引が対象の類型にあたるかを確かめることが大事です。
取引先が同意していれば、代金を後から減額してもよいですか
受注側が同意していても、あらかじめ定めた代金を後から一方的に減額することは、取適法で禁止されています。立場の弱い受注側は、本心では納得していなくても、取引を続けたい一心で応じてしまうことがあるからです。受注側が受け入れたのだから問題ない、という理屈は通用しません。発注する側は、相手の同意の有無にかかわらず、自らの行為が禁止に触れないかを確かめる必要があります。
取適法に違反すると、どうなりますか
取適法に違反した疑いがあると、行政の機関による調査が行われ、違反があれば、行為をやめて受注側の不利益を回復するよう求められます。悪質な違反や繰り返される違反については、勧告が行われ、その内容や会社名が公表されることもあります。これは会社の信用を大きく傷つけます。また、書面の交付や記録の保存を怠るといった義務違反については、罰則が定められている場合もあります。
取適法への対応は、誰に相談すればよいですか
自社の取引が取適法の対象になるか、日ごろの扱いに問題がないかといった判断は難しいため、企業の法務にくわしい弁護士に相談することをおすすめします。弁護士は、取引が対象になるかを確かめ、義務や禁止行為に照らして自社の実務を点検してくれます。契約書のつくり方や社内の体制づくりについても助言を得られます。平時から相談できる関係を築いておけば、違反という落とし穴を未然に避けやすくなります。
