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知財戦略を考えるには?経営方針に求められる知財戦略

この記事で分かること

  • 日本では特許取得数は多いが休眠特許も多いため、積極的活用が必要
  • 知財戦略には、自社の技術を利用する場合もあれば他社の技術を利用する場合もある
  • 経営戦略は、事業戦略・研究開発戦略・知財戦略の三位一体の戦略として考える

知的財産には、特許だけでなく商標や意匠、実用新案なども含んでいますが、往々にして特許について語られることが多く見受けられます。ここでは、特許に関する話題を中心に知財戦略について解説していきます。

日本の知的財産の現状

かつての日本では、「自社の開発した発明を守るには、特許などの知的財産権を取得することが重要だ」と考えられていたため、どんどん知的財産権が取得されていました。しかし、特許などを取っても、それを有効活用できている企業は決して多くはありません。

特許数は世界第3位だが、休眠特許も多い

特許庁の調査によると、日本の特許出願件数は、2005年をピークに年々減少し、2016年は318,381件となっています。世界の特許出願総件数でみると、日本は2015年の時点で中国、アメリカに次ぐ第3位の出願件数となっています。

しかし、特許庁のデータでは特許権の未利用は2015年の時点で52.2%となっており、特許登録件数の半数以上が使われていないことを示しています。このうち、防衛目的の特許が32.6%なので、19.6%が休眠特許になってしまっていることになります。

特許の積極的活用が必要

特許を取るだけ取って眠らせておくのは非常にもったいないことです。そのため、積極的に活用する方法を考えましょう。そのためにはまず企業の自己分析を行い、そこから所有する知的財産をどう活用していくのかを考えましょう。

強みの分析:SWOT分析

知的財産を経営戦略に活かすためには、自社の強みと弱みを把握することがまず大切です。それらの分析は、「SWOT分析」と呼ばれる方法を使って行います。SWOT分析とは企業の強み(Strength)、弱み(Weakness)、機会(Opportunity)、脅威(Threat)の略で、企業の内部・外部の両面から企業の特徴を明らかにするために使われます。

守りの特許・攻めの特許

特許には、「守りの特許」と「攻めの特許」の両方の側面があります。内部構造や仕組みを見れば発明のアイデアがわかってしまうような、特許でしか守れない技術には「守りの特許」が重要な戦略になります。しかし、市場優位性を保つには「攻めの特許」も必要です。特許技術を使ってモノ・サービスを作って売ることが特許活用の基本になりますが、自らは特許を実施せず権利化して収益を得る手法を取る企業もあります。

知財は資金調達にも使える

知財は、金融機関から融資を受ける際の担保にもなります。また、自社の知財権を他社にライセンスして、ライセンス収入を得ることも可能です。さらに、自社で利活用していない休眠特許を他社に譲渡することで、収益を上げることもできます。このように、知財は自分で利活用するだけでなく、資金調達の手段としても使えるのです。

ワンポイントアドバイス
日本は世界でも有数の特許取得数を誇りますが、それらを有効活用できているとはまだまだ言えません。特許は製品やサービスの開発だけでなく、資金調達の手段にもなりうるので、さまざまな知財の活かし方を考えることが大切です。

知財戦略の方法とは

では、具体的にどのような知財戦略を取っていけばよいのでしょうか。まずは自社のおかれた状況を把握した上で、自社で知財権を取る方法や他社の知財権をビジネスに活かす方法について考えてみましょう。

3つのステージにより知財戦略を変える

内田・鮫島法律事務所 代表パートナー弁護士・弁理士の鮫島正洋氏によれば、企業にはそれぞれ知財ステージと呼ばれる段階があり、そのステージは3つに分けられると言います。それぞれのフェーズの特徴とその時期にすべきことについて見ていきましょう。

知財ステージ1:導入期・成長期

このステージでは、製品やサービスのレベルが市場の求める水準に追い付いていないため、自社の技術力や開発力を高めるために投資すべき時期であると言えます。この時期は、技術開発に投資することで、特許取得を進める時期になります。

知財ステージ2:成熟期

ステージ2に上がると、市場の求めるレベルに自社の技術が追い付きます。必要な特許は相当数取得されているため、新たな特許を取ることが難しくなります。このステージでは、市場でシェアを高めることによって、技術開発にかけた投資を回収する時期となります。

知財ステージ2:衰退期

特許の有効期限である20年が経過すると、技術が広く一般に使えるようになり、特許を取得したことによる市場の支配力や競争力が落ち始める時期となります。そのため、製品やサービスに新たな付加価値を持たせることで、競争力を維持しなくてはならなくなります。

参考:鮫島正洋・小林誠『知財戦略のススメ コモディティ化する時代に競争優位を築く』(日経BP社、2016年)pp.34-35

知財戦略に自社の技術を使う場合

自社のいるステージがわかったら、具体的に知財戦略をどう組み立てていくかを考えます。まずは、自社がすでに持っている技術や発明を利活用するケースを見てみましょう。

知財を独占使用する

知財の活用方法として真っ先に思いつくのが、独占的に使用することではないでしょうか。市場で排他的に独占使用することで、競争優位性を保てて大きな利益を上げることが期待できます。しかし、他社との係争が起こる可能性も否定できません。

ノウハウ戦略

独自のノウハウを他社から見えないように「ブラックボックス化」することによって、オリジナリティや競争力を維持する方法です。何をノウハウとするのかを明確にして第三者から見ても秘密情報であることがわかるようにします。また、社外に漏れないように、厳格に管理をすることが必要です。

他社にライセンスする

他社とライセンス契約を結び、自社の知財権を他社に使用させる方法もあります。ライセンス料の収入が見込める点がメリットですが、知財権を使用することによって出る利益を独占できない点がデメリットであると言えます。

自社以外の技術を利用する方法もある

また、自社で技術開発を行うだけでなく、他の企業や研究機関で行われている技術開発を事業に利用する方法もあります。もちろん、コストはかかりますが、自社で技術開発を行う労力コストや時間を節約できる点がメリットではないでしょうか。

ライセンスを受ける

自社の技術だけでは課題を解決することが難しく、外部機関などの技術が必要になる場合は、他の企業や研究機関からライセンスを受ける方法もあります。ただし、社内開発にかける時間・費用とライセンスを受けるための費用のバランスを考えることが必要です。

外部と共同研究を行う

自社の技術だけでは開発が難しいときに、他の企業や研究機関と共同研究を行って開発を進める方法があります。お互いの強みを生かすことができ、研究開発費の節約にもつながりますが、知的財産権を自由に使えない、外部に自社のノウハウなどが漏れてしまうリスクもはらんでいます。

ワンポイントアドバイス
まずは自社の技術力のレベルが今どのステージにいるのかを把握しましょう。それを踏まえた上で、どのような知財戦略を取っていくかを考えることが大切です。

経営方針に知財戦略を盛り込もう

大手有名企業を中心に、経営方針に知財戦略を盛り込んでいる企業が多く見られます。経営方針に知財戦略に関する項目を入れることは、クライアントや株主に対して、自社の知財力を示すとともにコンプライアンス意識をアピールできることにつながります。

知財戦略には三位一体の経営戦略が欠かせない

知財を戦略的に利用するための企業経営には、事業戦略・研究開発戦略・知財戦略の三位一体となった経営戦略が欠かせません。では、事業戦略・研究開発戦略・知財戦略とは具体的にはどのようなことを指すのでしょうか。

事業戦略との連携

新規事業に参入したり、他社と事業提携を結んだりする場合は、知財に関する情報収集が欠かせません。新規事業に参入する場合は他社の真似になっては権利侵害になりますし、他社との事業提携をするにも、相手の持つ知財に関してリサーチを行うことが大切です。

研究開発戦略との連携

また、他社から見た自社の技術力を知りたいときや、研究開発テーマを新たに設定したいときには、研究開発戦略と知財戦略の連携が必要です。また、他社と共同研究を行う際にも、自社にないリソース・技術力を持っているところに関して調査するために知財部門と研究開発部門の連携を行うことになります。

知財戦略の構築

知財部門では、先行技術調査、自社の発明を特許出願するか否かの判断、特許マップを作成しての同業他社の動向調査などを行います。これらの情報を事業戦略や研究開発戦略に活かしていきます。

経営方針で示すべき知財戦略

自社の知財戦略は経営方針に示し、対外的にアピールすることが大切です。では、具体的にどのような戦略について外部に情報発信することが必要なのでしょうか。

知財管理体制の整備

まずは、すべての社員への知財教育を徹底することが大切です。大手企業では社員研修やイーラーニングを使用するところもあります。また、社内体制としては、知的財産管理部門を設け、国内外の研修・事業部門や研究開発部門との人材ローテーションを通じて知的財産担当要員の育成・活用を行うのがよいでしょう。

先行研究事前調査の徹底

研究開発の際には、他社の知的財産権を侵害しないよう、計画や設計・製造の各段階で入念に先行研究調査を行うことが必要です。もし、自社が開発した製品の中に他社の知的財産権を侵害するものがあれば、製品の製造が差止になるだけでなく、莫大な損害賠償まで請求されるおそれもあります。自力で先行研究を行うのは手間暇がかかるため、労力を削減するにも弁護士や弁理士などの専門家の力を借りて行うのがよいでしょう。

模倣品対策

他社が自社の知的財産を無許可で利用した模倣品が出回れば、クライアントからの信用問題にも関わります。そのため、模倣品対策には力を入れることが重要です。また、日本の知的財産権は海外には及ばないため、少しでも展開する可能性があるなら海外でも特許出願をしておくほうがよいでしょう。その際、出願する国はよく検討することが大切です。

ワンポイントアドバイス
自社の知財を存分に活かすには、自社の知財権を守るだけではなく、他社の知財権を侵害しないことが非常に重要です。新規事業を立ち上げたり、新製品を開発するときには、他社の権利を侵害しないよう、先行技術調査などを徹底的に行いましょう。

知財戦略を考えるときには、弁護士に相談しよう

知財戦略を立てるときには、知財に詳しい弁護士や弁理士などの専門家にアドバイスをもらうことが重要です。知財について詳しい人が社内にいなければ、まちがった方向性に進んでいくこともあるかもしれません。知財戦略を経営に活かすためにも、早めに弁護士や弁理士などの専門家に相談するようにしましょう。

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