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強要とならないよう社員に退職してもらいたい

この記事で分かること

  • 退職奨励は違法ではありませんが、退職強要は違法です。
  • ✓退職奨励が執拗に行われたり脅迫的な言動や態度で行われた場合は、退職強要にあたる可能性があります。
  • トラブル防止の策として、退職を目的とした配置転換や仕事の取り上げをしないことなど、わだかまりなく退職してもらうように気を付ける必要があります。

退職の強要としてトラブルになることを避けるために企業がとれる策は、退職奨励のやり方やその頻度に注意を払い、なるべく気持ちよく辞めてもらうように心がけること等です。難しい問題なので、事前に企業法務に強い弁護士に相談することをおすすめします。

退職奨励は合法だが退職強要は違法

いつの時代も労使間でのトラブルは無くならないものです。ハラスメントや過重労働等様々なものがありますが、中でも解雇の問題は社員の生活に大きな影響を与えるため、こじれがちです。会社としては円満に退職させたいので、通常解雇に先立って退職奨励が行われますが、やり方がまずいと退職強要になり得るので注意が必要です。

退職奨励とは

企業を経営していると、社員との労働契約を解除せざるを得ない場面が必ず出てくるでしょう。そうしたときには通常先に退職奨励を行うことになります。円満に退職させる方法について理解を深めるために、まずは退職奨励の法的な位置づけを見ていきましょう。

解雇と退職奨励の関係

解雇とは会社都合による一方的な労働契約の打ち切りが“会社都合退職”です。それに対して退職奨励とは会社側から社員に退職を促すことで、社員がこれに応じた場合、処理上は“自己都合退職”となります。会社側としては、会社都合退職者を出すと様々なデメリットが生じるため、なるべく自己都合退職にさせたいスタンスです。従って余程のことがない限り解雇に先んじて退職奨励が行われます。

退職奨励そのものは違法でない

会社には様々な人材がいます。仕事ができ、周囲からの人望も厚いムードメーカー的な社員もいる一方で、著しく業績が悪かったり、いつも問題を起こすトラブルメーカーも存在し、後者には退職を勧めなければならない場面が出てくるかもしれません。会社に何の貢献もしていない社員や、むしろ損害を与える社員に対して退職を勧めるのは企業側にとっては当然のことであり、退職奨励・退職勧奨そのものは違法ではありません。

ワンポイントアドバイス
社員を辞めさせないといけなくなった場合、単に解雇するのではなく、退職奨励によって自己都合退職をさせることが重要です。後々に強制的に解雇されたと訴えられて問題にならないように、退職奨励について知っておきましょう。

退職強要ではなく、退職奨励のつもりが違法になる場合

職奨励は“雇用契約の合意解約の申し入れ”であり、違法ではありません。しかし、やり方によっては退職強要となり、不法行為に当たります。ここでは退職奨励が退職強要になるのはどのようなケースがあるのか紹介します。

長時間・数回に渡り行った場合

退職奨励が繰り返し執拗に行われた場合、退職強要に当たる可能性があります。これに関して、平成13年の全日空事件では不法行為としています。事件は全日空が客室乗務員に対して、能力の問題から退職勧奨をしたところ応じなかったため解雇し、その後同客室乗務員に慰謝料等を求める訴訟を起こされたものです。当ケースでは約4ヵ月の間に30回以上の退職勧奨の面談を行い、その中には8時間もの長時間に及ぶものもあったと言います。裁判所は「全日空が行った退職勧奨の頻度、面談の時間の長さ、社員に対する言動は、許容できる範囲をこえており、違法な退職強要として不法行為となる」等とし、全日空に対し90万円の慰謝料の支払いを命じる判決が下ったのです。

脅迫的言動・態度で行った場合

また脅迫的言動・態度で行った場合も退職強要となります。全日空事件では面談の際に、大声を出したり、机を叩く等の威圧的・脅迫的な態度もありました。これらの点も加味されて、退職の強要不法行為の判決が下されたのです。そのほかにも「お前のような能無しは我が社には必要ない」と罵倒したり、暴言を吐く等高圧的なスタンスで退職勧告をした場合等も退職強要となります。さらに、ケースによっては強要罪や名誉毀損罪に問われることもあるので注意しましょう。

ワンポイントアドバイス
退職勧奨は違法ではありませんが、退職強要は違法です。使用者は退職勧奨のつもりでも長時間・数回に渡って行われたり、脅迫的な言動や態度で行われた場合は、退職強要にあたる可能性があります。

退職強要トラブルにならないための対策

そうは言っても、幾度となくトラブルを繰り返す等勤務態度が目に余る社員や、会社の業績に全く貢献しない“給料泥棒”と言いたくなるような社員等、雇用契約を継続するのがはばかられるケースもあるでしょう。では、退職強要とならないように辞めてもらうためには企業はどんな策をとればよいのでしょうか。

退職を目的とした配置転換や仕事の取り上げをしない

まず、退職を目的とした配置転換や、仕事の取り上げはしてはいけません。参考となる判例に平成27年4月判決の大和証券事件があります。事件は大和証券が、勤務評価が悪かった社員に対して、退職して子会社に転籍することを勧告し、社員も応じて転籍したものの、その後、退職・転籍は強要されたものである等として、会社を訴えたものです。この事例では退職勧奨を行っていた時期に、約4カ月もの間当該社員を隔離し、「追い出し部屋」で執務させ、他の社員との接触を遮断し、朝会等にも出席させなかったのです。裁判所はこの行為が、社員を退職に追い込むための嫌がらせであり退職強要に当たるとして、会社に150万円の慰謝料の支払い命令を下しました。

退職勧奨の時間・回数に注意する

前述の通り、何度も執拗に退職勧奨をすれば強要となり得るので注意が必要です。ただ、平成22年のサニーヘルス事件では1週間に1回あたり30分程度の面談を7回行って退職勧奨が行われたしたものの、適法な範囲とされています。退職勧奨については法律に規定はなく、非常に難しいところですが、常識的な範囲で行わなければ退職強要となる可能性が高いと言えます。

社員から退職強要と主張されないためにすべきこと

無事に退職に応じてはくれたものの、後になって退職強要だったと主張されトラブルになるケースは少なくありません。ここではそれを防ぐ為の策や言葉選びのコツ等を紹介します。

退職奨励の際の言葉選びに注意する

退職奨励の際の言葉には気を付けなければなりません。退職奨励の説明の仕方がまずかったためにトラブルに発展したケースに、平成16年判決の昭和電線電纜事件があります。事件は勤務態度を理由に退職勧告をされた社員が、それに一旦は応じ辞職したものの後に退職の合意は無効であるとし会社を訴えたものです。企業は退職勧奨の際社員に対して「自分から退職する意思がないということであれば解雇の手続をすることになる」等と説明したことが争点となりましたが、裁判所は「本件では本来解雇できるほどの理由はなく、解雇は法的には認められないのに、会社の説明により、社員が退職届を出さなければ当然解雇されると誤信して退職届を提出した」等とし、企業に約1400万円の損害賠償を命じています。

退職奨励の面談の際にはなるべく本人の否定はしない

また人と人との話し合いですから、同じ内容を伝えるにしても言い方一つで随分と心象が変わってきます。ですから、退職奨励の面談の際にはできるだけ本人の否定は避け、あくまでも会社とのミスマッチを退職奨励の理由としてあげるようにしましょう。下手に刺激すると後々トラブルに発展しかねないので、注意が必要です。

退職届を提出してもらう

退職奨励の結果、退職の時期その他の処遇についてまとまったら、必ず、退職届を提出してもらうことが大切です。退職届は“社員が退職勧奨に応じて退職を承諾したこと”を示す書類になるので必ず取得しましょう。

ワンポイントアドバイス
退職強要トラブルを避けるためには、退職を目的とした配置転換や、仕事の取り上げをしないこと、退職奨励の時間や回数に気を付けることが大切です。その上で、本人の否定をするのではなく、あくまでも会社とのミスマッチが退職して欲しい理由である旨を伝えるようにしましょう。

退職の強要トラブルにならないためには

退職にまつわるトラブルは非常にこじれやすく、訴訟に発展することも少なくありません。企業としてもなるべく波風立てず、円満に退職してもらいたいところでしょう。そこで最後に退職の強要としてトラブルならないように企業が心がけるべきことを解説します。

できるだけわだかまりなく辞めてもらえるようにする

仮に社員が退職奨励に応じてくれたとしても、内心恨めしく思っての退職の場合、後々トラブルに発展しかねません。なるべく遺恨を残さないように辞めてもらうことが企業にとって重要です。

社員に退職するメリットと会社にとどまるデメリットを言い聞かせる

大前提として、退職奨励は「辞めさせる」のではなく、「辞めてもらう」ものです。それゆえ、社員が自発的に辞める気になることが重要です。そのためには社員に会社に残るメリットは小さいこと、退職すればより良い条件で働ける可能性があること等を言い聞かせることが必要になります。

退職後のことを一緒に考える

社員の退職後の就職先の相談に乗る、あるいは使用者目線で見た社員の長所や秀でたスキルを伝え、どんな職種が適しているのかカウンセリングをする等、社員の退職後のことを一緒に考える等するとよいでしょう。

ワンポイントアドバイス
退職奨励をうまく進めるためには、できるだけしこりを残さずに退職してもらう心構えが大切です。社員の立場になり、十分な説明をした上で、退職後のことについても一緒に考えてあげましょう。

退職強要や奨励を考えたら、労働問題に強い弁護士に相談

退職奨励を行うことは会社から“戦力外通告”をされることです。社員にとってみれば不愉快極まりないでしょう。会社に裏切られたとの思いに駆られ、いい加減に業務を行ったり、反抗的・非協力的な態度をとるようになることも少なくありません。特に長年勤めあげてきた社員や熱心だった社員ならなおさらです。

また、退職奨励は伝え方ひとつで大きく展開が変わることもあります。退職奨励が退職強要に当たるとして、後々訴訟を起こされるケースも少なくありません。

退職奨励は会社の利益のために行うものですが、円満に退職してもらうためには、社員の身になって考えるスタンスも大切であり、そうした姿勢が結局は、企業を無用なトラブルから回避させます。会社側のリスクを回避するためにも、労働問題に強い弁護士に相談しながら進めるのが得策です。

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