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判決が出ても出て行かない借主を、どう退去させるか
家賃の滞納を理由に明け渡しの訴訟を起こし、判決も出た。ところが、借主は判決が確定しても部屋に居座ったまま。電話にも出ず、話し合いにも応じない。家主としては、一日も早く部屋を取り戻して新しい借主に貸したいのに、どうすればよいのか分からない。こうした場面で使うのが、明渡しの強制執行、いわゆる強制退去です。
明渡しの強制執行は、裁判所に所属する執行官が、判決などに基づいて、借主を建物から退去させ、家主に建物を引き渡す手続きです。借主が自分から出て行かなくても、執行官が現場に出向き、専門の業者の手を借りて、部屋の荷物を運び出し、鍵を替えて、建物を家主に引き渡します。
ここで改めて確認しておきたいのは、判決を持っていても、家主が自分で借主を追い出したり、荷物を運び出したりしてはならない、ということです。強制退去は、必ず執行官の手によって行われなければなりません。自分で行えば、判決があっても違法な自力救済として、損害賠償を求められたり、刑事責任を問われたりするおそれがあります。
この記事では、債権回収の相談を受ける弁護士の立場から、明渡しの強制執行の仕組み、申立てに必要な書類、明渡しの催告から断行までの流れ、かかる費用、残された荷物の扱い、費用を抑えるための工夫までを説明していきます。
強制退去は、家主が取りうる最後の手段です。手続きの全体像を知っておけば、どの段階で何をすべきかが分かり、無駄な時間や費用をかけずに済みます。借主の立場からも、強制退去がどのように進むのかを知っておくことは、自分で引っ越すかどうかを判断する材料になります。
強制退去の前にできること|任意の退去を促す
強制退去は、家主にとっても借主にとっても、負担の大きい手続きです。時間も費用もかかり、借主の生活にも大きな影響を与えます。できることなら、強制執行に至る前に、借主に自分から退去してもらうのが望ましいといえます。
| 段階 | 任意の退去を促す方法 |
|---|---|
| 判決の前 | 訴訟の中の和解で、明け渡しの期日と条件を決める |
| 判決の直後 | 判決書を示して、退去の時期を話し合う |
| 強制執行の申立ての後 | 申立てをしたことを伝え、断行の前の退去を促す |
| 明渡しの催告の後 | 引渡し期限までの自主的な退去を促し、引越しの費用の負担も検討する |
任意の退去を促すときは、強制執行を進めていることを隠さず、淡々と伝えることが大切です。いつ明渡しの催告があり、いつ断行されるのかを示し、その前に自分で引っ越すほうが、借主にとっても負担が小さいことを説明します。脅すような言い方は避け、事実を伝えることに徹してください。
借主が退去できない理由を知る
判決が出ても借主が居座るのは、多くの場合、引っ越し先が見つからない、引越しの費用がない、といった事情があるからです。家賃を滞納するほどお金に困っている借主は、新しい部屋を借りるための初期費用も用意できないことがよくあります。借主の事情を聞き、自治体の住まいの支援や、生活の相談の窓口を紹介することで、退去につながることもあります。
引越しの費用を負担するときの注意
借主に引越しの費用の一部を負担する場合は、実際に退去したことを確かめてから支払うのが原則です。先に支払ってしまうと、借主が退去しないまま費用だけを受け取る、ということにもなりかねません。退去の日に部屋の鍵を受け取り、荷物がすべて運び出されたことを確かめたうえで、合意した額を支払う段取りにしておきましょう。
合意による退去の書面
借主が自分から退去することに合意したら、退去の日、部屋に残した物の処分についての同意、滞納分の家賃の扱いなどを書いた合意書を交わします。とくに、部屋に残した物は処分してよいという同意を書面でもらっておくことが大切です。この同意がないと、退去後に残された荷物を家主が勝手に処分できず、あらためて手続きが必要になることがあります。
明渡しの強制執行とは
明渡しの強制執行は、民事執行法に基づく手続きで、一般には強制退去とも呼ばれます。建物や土地の明け渡しを命じる判決などに基づいて、執行官が占有者を退去させ、債権者に引き渡すものです。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 申し立てる先 | 建物の所在地を管轄する地方裁判所の執行官 |
| 必要なもの | 明け渡しを命じる判決などの債務名義、執行文、送達証明書 |
| 行う人 | 執行官(家主が依頼した業者が作業を手伝う) |
| 流れ | 申立て、明渡しの催告、明渡しの断行 |
| 期間 | 申立てから断行まで、おおむね1〜2か月 |
建物の一部や、土地の明け渡しの場合
アパートの一室だけでなく、店舗や事務所、一戸建て、土地の明け渡しにも、同じ手続きが使えます。土地の上に借主の建物が建っている場合は、建物を取り壊して土地を明け渡させる判決が必要になり、建物の取り壊しには、別の手続き(代替執行)を使います。取り壊しの費用は大きくなるので、事前に見積もりを取っておく必要があります。
使える債務名義
明渡しの強制執行に使える債務名義は、次のようなものです。
- 建物の明け渡しを命じる確定判決、または仮執行宣言つきの判決
- 明け渡しの約束を記した裁判上の和解調書(訴訟の中の和解、即決和解)
- 明け渡しを定めた調停調書
公正証書は、お金の支払いについては債務名義になりますが、建物の明け渡しについては債務名義になりません。賃貸借契約を公正証書にしていても、明け渡しを強制するには、訴訟や即決和解で債務名義を取る必要があります。
強制退去と、家賃の回収は別の手続き
明渡しの強制執行は、建物を取り戻すための手続きで、滞納分の家賃を回収するものではありません。滞納分の家賃は、判決などに基づいて、借主の給料や預金を差し押さえる別の強制執行で回収します。借主が退去した後の住所や勤務先が分かれば、明け渡しの後にあらためて回収を進めることができます。
強制退去までの全体の流れ
| 段階 | 内容 | 目安の時期 |
|---|---|---|
| 債務名義の取得 | 明け渡しの判決や和解調書を得る | 訴訟を起こしてから数か月 |
| 執行文と送達証明 | 裁判所で書類をそろえる | 数日から1週間 |
| 強制執行の申立て | 執行官室に申し立て、予納金を納める | 書類がそろい次第 |
| 明渡しの催告 | 執行官が現地で引渡し期限を告げる | 申立てから2〜3週間 |
| 明渡しの断行 | 荷物を運び出し、建物の引渡しを受ける | 催告から原則1か月後 |
強制退去と刑事責任
家主が執行官の手続きによらずに借主を追い出した場合、住居侵入、器物損壊、窃盗などの罪に問われることがあります。借主から損害賠償を求められれば、滞納分の家賃を上回る額の支払いを命じられることもあります。どれほど滞納が長くても、法律の手続きを踏むことが、結局は家主自身を守ることになります。
申立ての準備
明渡しの強制執行を申し立てるには、次の書類をそろえます。書類に不備があると、申立てが受け付けられず、手続きが遅れます。
| 書類 | 内容 |
|---|---|
| 強制執行申立書 | 執行官室に用意された書式を使う |
| 執行力のある債務名義の正本 | 判決などに執行文を付けたもの |
| 送達証明書 | 債務名義が借主に届いたことの証明 |
| 確定証明書 | 判決が確定していることの証明(仮執行宣言つきでない判決の場合) |
| 物件の地図や間取り図 | 執行官が現場を特定するため |
| 委任状 | 弁護士が代理する場合 |
申立書には、債権者と債務者の住所と名前、明け渡しを求める建物の所在と部屋の番号、債務名義の内容を書きます。建物の特定を誤ると、執行官が現場で建物を確かめられないので、登記簿の記載や、部屋の番号を正確に書いてください。
執行文と送達証明書の取り方
判決に執行文を付けてもらうには、判決を出した裁判所の書記官に申請します。和解調書の場合も、和解が成立した裁判所に申請します。送達証明書は、判決や和解調書が借主に届いたことの証明で、同じ裁判所で交付を受けられます。判決の場合は、確定したことを示す確定証明書もあわせて取り寄せておきましょう。
予納金
申立ての際には、執行官の手数料や旅費などに充てる予納金を納めます。額は裁判所や物件の数によって決まっています。手続きが終わると精算され、余りがあれば返ってきます。
申立てから断行までの期間の目安
申立てから明渡しの催告までは、執行官の予定にもよりますが、2〜3週間ほどです。催告から引渡し期限までは原則1か月なので、申立てから断行まで、全体で1か月半から2か月ほどを見込んでおきます。年末年始や、執行官の予定が混み合う時期には、さらに時間がかかることもあります。
執行官との打ち合わせ
申立ての後、執行官と打ち合わせをして、明渡しの催告の日時を決めます。打ち合わせは、執行官室で行うのが一般的です。この打ち合わせでは、物件の状況、借主の家族構成、荷物の量の見込み、鍵の状態などを伝えます。借主が高齢であったり、子どもがいたりする場合は、執行官が福祉の機関と連携することもあります。
借主の家族や同居人への配慮
借主に家族がいる場合、とくに子どもがいる場合は、強制退去が家族の生活に大きな影響を与えます。執行官は、子どもの通学や、家族の転居先についても配慮しながら手続きを進めます。家主の側でも、打ち合わせの段階で分かっている家族の状況を伝えておくと、執行官が福祉の機関と連携しやすくなります。
明渡しの催告|退去の期限を告げる
明渡しの強制執行は、原則として、明渡しの催告と、明渡しの断行の二段階で行われます。いきなり荷物を運び出すわけではありません。まず行われるのが、明渡しの催告です。
- 執行官が、家主や代理人、業者とともに物件を訪れる。
- 借主が不在でも、執行官は鍵を開けて中に入ることができる(解錠の業者が同行する)。
- 執行官が、室内の状況や荷物の量を確かめる。
- 執行官が、借主に、決められた日(引渡し期限)までに退去するよう告げる。
- 室内に、引渡し期限と断行の予定日を記した公示書を貼る。
引渡し期限は、原則として、催告の日から1か月後とされます。事情によっては、執行官の判断で期限が変わることもあります。借主には、この1か月の間に、自分で引っ越す機会が与えられます。
借主が在宅していた場合
催告の日に借主が在宅していれば、執行官が直接、引渡し期限までに退去するよう告げます。借主から事情を聞き、引っ越しの予定や、荷物の処分についての意向を確かめることもあります。借主が退去の意思を示せば、引渡し期限の前に自分で引っ越してもらい、断行を行わずに済むことも少なくありません。
催告の後に入り込んだ人も退去させられる
明渡しの催告があった後に、借主が別の人を部屋に住まわせたり、部屋を又貸ししたりしても、催告の効力はその人にも及びます。そのため、断行の日に、借主以外の人が住んでいても、同じ手続きで退去させることができます。
催告の日に荷物の処分について話し合う
借主が在宅していた場合は、催告の日に、荷物の処分についての意向を確かめておくと、断行の費用を抑えられることがあります。借主が、持っていく物以外は処分してよいと同意すれば、断行の日に保管する荷物が減り、保管の費用がかからずに済みます。同意は書面でもらっておきましょう。
公示書の意味
室内に貼られる公示書には、明渡しの催告があったこと、引渡し期限、断行の予定日などが書かれています。この公示書を勝手にはがしたり、壊したりすると、刑罰の対象になります。公示書は、借主だけでなく、部屋に出入りする人すべてに対して、明け渡しの手続きが進んでいることを示す役割を果たします。
催告の日に家主がすること
催告の日には、家主本人か、代理人の弁護士が立ち会います。執行官が室内を確かめる際に、部屋の設備の状態や、借主が勝手に取り付けた物がないかを一緒に確かめておくと、明け渡しの後の修繕の見通しを立てやすくなります。借主が在宅していれば、執行官の立ち会いのもとで、退去の予定を尋ねることもできます。
業者の見積もり
催告の日には、断行の日に荷物を運び出す専門の業者も同行し、荷物の量を見て、搬出と保管の費用を見積もります。荷物が多いほど、費用は高くなります。
明渡しの断行|荷物を運び出して引き渡す
引渡し期限までに借主が退去しなければ、断行の日に、実際に明け渡しが行われます。強制退去の手続きの山場です。
- 執行官、家主や代理人、業者が物件を訪れる。
- 借主が室内にいれば、執行官が退去を求める。不在なら解錠して中に入る。
- 業者が、室内の荷物をすべて運び出す。
- 鍵を新しいものに取り替える。
- 執行官が、建物を家主に引き渡す。
断行は、部屋の広さや荷物の量にもよりますが、多くの場合、数時間で終わります。借主が抵抗する場合は、執行官が警察の援助を求めることもできます。
断行の日の立ち会い
断行の日も、家主本人か、代理人の弁護士が立ち会います。業者が荷物を運び出す間、執行官とともに作業の様子を確かめ、運び出した荷物の一覧を確認します。作業が終わると、執行官から建物の引渡しを受け、新しい鍵を受け取って、手続きが終わります。
運び出した荷物の扱い
運び出した荷物は、おおむね次のように扱われます。価値のある物は、業者の倉庫などで一定期間保管されます。借主が引き取りに来れば、引き渡します。引き取りに来なければ、執行官が売却し、売れなかった物は廃棄されます。価値のない物は、断行の日に、その場で処分されることもあります。
保管の期間が長くなるほど、保管の費用がかかります。そのため、断行の日に、その場で売却の手続きをとる運用も広く行われています。
断行の日に借主が戻ってきたら
断行の作業中に借主が戻ってくることもあります。その場合でも、執行官の手続きは続けられます。借主が自分の荷物を持ち出したいと求めれば、執行官の判断で、身の回りの物を持ち出すことが認められることもあります。借主と家主が現場で直接言い争うことは避け、執行官に対応を任せてください。
断行の後にすること
断行で建物の引渡しを受けたら、すぐに部屋の状態を写真で記録し、修繕が必要な箇所を確かめます。借主の負担すべき原状回復の費用は、敷金から差し引き、足りなければ借主や連帯保証人に請求します。新しい借主の募集は、修繕が終わってから始めます。
家主が荷物を処分してはいけない
断行の前に、借主が部屋を空けたまま連絡がとれなくなった場合でも、家主が勝手に荷物を処分することはできません。荷物の所有権は借主にあるからです。荷物の処分も含めて、執行官の手続きに任せる必要があります。
荷物の売却の仕組み
執行官は、運び出した荷物のうち、売却できそうな物について、売却の手続きをとります。断行の日にその場で売却する方法では、家主や業者が買い受けることも認められていて、買い受けた物はそのまま処分できます。売却代金は、執行の費用に充てられます。家財の多くは中古の日用品で、ほとんど値がつかないのが実情です。
残された荷物に借主の大切な物があった場合
運び出した荷物の中に、写真や手紙、位牌など、借主にとって大切な物が含まれていることもあります。こうした物は、売却の対象にならなくても、執行官の判断で一定期間保管され、借主が引き取りに来れば返されます。家主の側でも、借主と連絡がとれるなら、引き取りを促しておくと、後のトラブルを防げます。
強制退去にかかる費用
明渡しの強制執行には、次のような費用がかかります。家主にとって、最も気になる点の一つでしょう。
| 費用 | 内容 |
|---|---|
| 予納金 | 執行官の手数料、旅費など。申立ての際に納める |
| 解錠の費用 | 催告と断行の日に、鍵を開ける業者への支払い |
| 搬出・運搬の費用 | 荷物を運び出し、倉庫に運ぶ業者への支払い |
| 保管の費用 | 荷物を倉庫で保管する期間の費用 |
| 廃棄の費用 | 価値のない荷物を処分する費用 |
| 鍵の交換の費用 | 新しい鍵に取り替える費用 |
| 弁護士費用 | 依頼する場合 |
費用の中でとくに大きいのが、荷物の搬出、運搬、保管、廃棄にかかる業者への支払いです。予納金よりも、こちらのほうがかさむことが多いでしょう。部屋の広さや荷物の量によって大きく変わり、ワンルームの部屋と、家財の多い一戸建てとでは、費用に大きな差が出ます。業者の見積もりは、催告の日に確かめることができます。
予納金の額は、明け渡しを求める物件の数や、執行官が現場に出向く回数によって変わります。予納金のほかに、業者への支払いは、家主が業者と直接契約して支払うのが一般的です。執行官が業者を紹介してくれることもあるので、申立ての段階で相談しておくとよいでしょう。
強制退去の費用は、判決を取るまでの訴訟の費用とは別にかかります。明け渡しの訴訟を起こす段階から、強制執行まで進んだ場合の費用も含めて、全体の予算を考えておくと安心です。
費用は借主に請求できる
強制執行にかかった費用は、執行の費用として、借主に請求することができます。ただし、明け渡しを求められる借主は、多くの場合、家賃を滞納するほどお金に困っているので、実際に回収できることは少ないのが実情です。家主がいったん費用を負担することを前提に、準備を進める必要があります。
費用の見積もりを早めに取る
強制退去の費用は、事前に見積もりを取っておかないと、予算を大きく超えることがあります。催告の日に業者の見積もりが出たら、断行まで進んだ場合の総額と、借主に引越しの費用の一部を負担して自主的に退去してもらう場合の費用を比べてみましょう。比較の結果をもとに、借主との話し合いの方針を決めることができます。
明け渡しの後に修繕が必要になる場合、その費用も家主の負担として見込んでおく必要があります。借主の負担すべき原状回復の費用は敷金から差し引けますが、滞納が長く続いた借主の場合、敷金はすでに滞納分に充てられて残っていないこともあります。修繕の費用も含めて、明け渡しにかかる総額を考えておきましょう。
費用を抑えるための工夫
- 明渡しの催告の後、借主の自主的な退去を促す
- 引越しの費用の一部を負担する代わりに、断行の前に退去してもらう
- 断行の日に、価値のない荷物はその場で処分できるよう、執行官と相談する
- 保管の期間を短くするため、断行の日の売却の手続きを利用する
家主が引越しの費用の一部を負担しても、断行にかかる業者の費用より安く済むことはよくあります。費用の総額で比べて、どちらが得かを判断してください。
強制退去で起こりやすいトラブル
強制退去の現場では、思わぬ事態が起こることもあります。現場で慌てないためにも、よくある場面を知っておきましょう。事前に想定しておくと、慌てずに対応できます。
| 起こりやすいこと | 対応 |
|---|---|
| 借主以外の人が住んでいた | 占有移転禁止の仮処分や明渡しの催告があれば、その人も退去させられる。なければ、その人に対する債務名義が必要になることがある |
| ペットが残されていた | 執行官と相談し、保護団体などに引き取りを依頼する |
| 現金や貴重品、重要な書類が見つかった | 執行官が記録し、保管する。家主が持ち去ってはならない |
| 借主が室内で抵抗した | 執行官が警察の援助を求めることができる |
| 荷物が非常に多い | 業者の費用が大きくなるため、事前の見積もりと予算の確保が必要 |
事業用の物件の場合
店舗や事務所の明け渡しでは、住居と比べて、残された物が多く、大型の什器や機械が含まれることもあります。搬出や保管の費用が大きくなるので、事前の見積もりがとくに大切です。借主の事業が続いている場合は、商品や在庫の扱いについても、執行官と相談して進めます。
借主が亡くなっていた場合
強制退去の準備を進めているうちに、借主が亡くなっていたことが分かることもあります。この場合、賃貸借契約は借主の相続人に引き継がれるため、相続人を相手に手続きを進める必要があります。判決を得た後に借主が亡くなった場合は、相続人に対する承継執行文を付けてもらいます。相続人が誰かを調べるには戸籍を取り寄せる必要があり、時間がかかるので、早めに弁護士に相談してください。
占有者を特定しておく重要性
明渡しの判決は、判決の相手になった人に対してしか効力がありません。訴訟の前に占有移転禁止の仮処分をしておかず、訴訟の途中で借主が別の人を住まわせていた場合、強制執行の日にその人を退去させることができず、あらためてその人を相手に手続きが必要になることがあります。明け渡しを求める段階から、誰が部屋に住んでいるかを確かめ、必要なら仮処分をしておくことが、スムーズな強制退去の前提です。
具体例で考える|判決の後も居座った借主の強制退去
ある家主が、二部屋に台所のついたアパートの借主に対して、家賃10か月分の滞納を理由に明け渡しの判決を得ました。判決は確定しましたが、借主は退去せず、家主からの連絡にも応じませんでした。
困った家主は弁護士に依頼し、建物の所在地を管轄する地方裁判所の執行官室に、明渡しの強制執行を申し立てました。執行官との打ち合わせで、借主が一人暮らしであること、家財の量はそれほど多くないことを伝え、催告の日を決めました。
催告の日、借主は不在でした。執行官は解錠の業者に鍵を開けさせて中に入り、室内の状況を確かめて、引渡し期限を1か月後とする公示書を貼りました。同行した業者は、荷物の量を見て、搬出と保管の費用を見積もりました。
催告から2週間後、借主から弁護士に連絡があり、「引っ越し先が見つかったが、引越しの費用がない」と相談されました。家主は、断行の費用の見積もりと比べ、引越しの費用の一部を負担して自主的に退去してもらうほうが安く済むと判断しました。借主は引渡し期限の前に退去し、断行は行わずに済みました。部屋の修繕を終えた後、家主は新しい借主に貸すことができました。
この例のように、明渡しの催告は、借主に退去を決断させるきっかけになります。断行まで進めば、業者の費用がかさみ、荷物の保管や処分の手間もかかります。催告から断行までの1か月を、借主との話し合いに使うことが、費用と時間を抑える鍵になります。
この例では、家主が費用の総額を比べて判断したことで、断行の手間も、荷物の保管や処分の費用もかけずに、部屋を取り戻すことができました。強制執行の手続きを進めながらも、借主との話し合いの窓口を閉ざさないことが、結果として家主の負担を軽くします。
強制退去の手続きは、判決を取るまでの訴訟とは違い、現場での作業や業者の手配など、実務的な準備が多い手続きです。初めての家主が一人で進めるのは負担が大きいので、訴訟から強制執行まで一貫して弁護士に任せることをおすすめします。弁護士は、執行官との打ち合わせや業者の手配にも慣れているため、手続きをスムーズに進められます。
家賃の滞納から強制退去まで進む事案は、滞納が始まった初期の対応が遅れていることがほとんどです。滞納が1か月を超えたら督促し、数か月に達したら契約の解除と訴訟に進む、という基準を持っておくと、強制退去にまで至る前に解決できる可能性が高まります。
強制退去に関するよくある質問
判決が出たら、すぐに強制退去できますか
判決が確定するか、仮執行宣言がついていれば、強制執行を申し立てられます。申立てから明渡しの催告まで2〜3週間、催告から断行まで原則1か月かかるので、判決から実際の明け渡しまでは、1〜2か月ほどを見込んでおく必要があります。
強制退去の費用を、借主の連帯保証人に請求できますか
連帯保証人は、賃貸借契約から生じる借主の債務を保証しているので、明け渡しの強制執行にかかった費用も、保証の範囲に含まれることがあります。ただし、2020年4月以降の契約で個人が連帯保証人になっている場合は、保証契約で定めた極度額が上限になります。保証契約の内容を確かめてください。
借主が病気や高齢の場合でも、強制退去できますか
できます。ただし、執行官は、借主の状況に配慮して手続きを進めます。借主が病気で動けない場合などは、福祉の機関や親族と連携し、転居先を確保してから断行することもあります。
家賃保証会社がついている場合はどうなりますか
家賃保証会社の契約によっては、明け渡しの訴訟や強制執行の費用を保証会社が負担したり、手続きを代わりに進めたりすることがあります。保証会社との契約書を見直し、費用の負担と役割の分担を確かめてから進めましょう。
競売で買った不動産に、前の所有者が住み続けている場合はどうなりますか
競売で不動産を買い受けた人は、裁判所に引渡命令を申し立て、その命令に基づいて明渡しの強制執行をすることができます。訴訟を起こす必要はありません。引渡命令の申立てには、代金を納めてから一定の期間内という期限があるので注意してください。
