目次[非表示]
判決を取っても払わない相手から、どう回収するか
訴訟で勝ち、相手に支払いを命じる判決が出た。支払督促に相手が異議を出さず、仮執行宣言もついた。これで一安心と思っていたのに、相手からは一向に振り込みがない。判決はただの紙切れなのか、と途方に暮れる方もいるかもしれません。
そうではありません。判決などを持っていれば、裁判所の力で相手の財産を差し押さえ、そこから回収することができます。これが強制執行です。相手が自分から払わなくても、預金を銀行から直接受け取り、給料を勤務先から毎月受け取り、不動産を競売にかけて代金から配当を受けることができます。
ただし、強制執行は申し立てれば自動的に回収できる手続きではありません。差し押さえる財産を債権者の側で見つけ、特定しなければならず、財産の種類によって手続きも費用も大きく変わります。相手に財産がなければ、どんなに手を尽くしても回収はできません。
この記事では、債権回収の依頼を受けている弁護士の立場から、強制執行の仕組み、必要な書類、財産の種類ごとの手続きの違い、相手の財産を調べる方法、費用と期間、強制執行で回収を成功させるための考え方までを、順に説明していきます。
強制執行とは|裁判所の力で権利を実現する手続き
強制執行は、民事執行法に基づき、判決などで認められた権利を、裁判所や執行官の力で強制的に実現する手続きです。お金の支払いを求める権利であれば、相手の財産を差し押さえてお金に換え、そこから債権者に支払わせます。
強制執行は、大きく金銭の支払いを目的とするものと、それ以外のものに分けられます。
| 区分 | 内容 | 例 |
|---|---|---|
| 金銭執行 | 相手の財産を差し押さえて換金し、お金を回収する | 売掛金、貸金、損害賠償金、家賃の回収 |
| 明渡し・引渡しの執行 | 建物から相手を退去させる、特定の物を引き渡させる | 家賃を滞納した借主の退去、売った車の返還 |
| 代替執行 | 相手の代わりに第三者に行わせ、費用を相手に負担させる | 違法な建物の取り壊し |
| 間接強制 | 命令に従うまで一定の金額を払わせて、履行を促す | 子どもとの面会の実施、差止めの命令の遵守 |
債権回収で使うのは、主に金銭執行です。金銭執行は、差し押さえる財産の種類によって、不動産執行、動産執行、債権執行の三つに分かれます。
建物の明渡しの強制執行
家賃を滞納した借主が、判決が出ても建物から出ていかない場合は、明渡しの強制執行を申し立てます。執行官が借主のもとを訪れて、期限を定めて退去を求め、期限までに退去しなければ、当日に荷物を運び出して建物を明け渡させます。運び出した荷物の保管や処分には費用がかかるため、申立ての際には、専門の業者の手配も含めて準備が必要です。
自力で取り立てることは許されない
判決を持っていても、債権者が自分の手で相手の財産を持ち出したり、相手の店のレジからお金を取ったりすることは許されません。法律で決められた手続きによらずに権利を実現することは、自力救済として禁じられていて、たとえ正当な権利があっても、窃盗や不法行為の責任を問われるおそれがあります。強制執行は、この自力救済を禁じる代わりに、国家が権利の実現を引き受ける仕組みだといえます。
強制執行の前に、任意の支払いを求める
判決などを手に入れた段階で、いきなり強制執行を申し立てるのではなく、一度相手に支払いを求める書面を送ることもよくあります。判決が出たことで、相手も支払いから逃れられないと悟り、自分から支払ってくることが少なくないからです。支払いの期限を短く区切り、期限までに支払いがなければ強制執行に進むと伝えておけば、相手に無用な時間を与えずに済みます。ただし、相手が財産を隠すおそれがある場合は、書面を送らずに差押えを先に行うべきです。
強制執行に必要な三つの書類
強制執行を申し立てるには、原則として次の三つがそろっている必要があります。
| 書類 | 内容 | 手に入れる方法 |
|---|---|---|
| 債務名義 | 強制執行で実現できる権利を示した公的な書面 | 判決、仮執行宣言つきの支払督促、和解調書、調停調書、強制執行認諾文言つきの公正証書など |
| 執行文 | その債務名義で強制執行ができることを証明する文言 | 判決などは裁判所の書記官、公正証書は公証人に申請して付けてもらう |
| 送達証明書 | 債務名義が相手に届いたことを証明する書面 | 債務名義を作った裁判所や公証役場に申請する |
債務名義にはいくつもの種類がある
債務名義の代表は確定判決ですが、ほかにも強制執行の根拠になる書面があります。どの手続きで回収を進めるかを考えるときは、最終的にどの債務名義を手に入れるかを意識しておくことが大切です。
- 確定した判決、仮執行宣言つきの判決
- 仮執行宣言つきの支払督促
- 裁判上の和解調書、調停調書
- 強制執行を受け入れる旨の文言がある公正証書(執行証書)
- 少額訴訟の判決
債務名義が手に入る手続きの中でも、どれを選ぶかで強制執行までの時間が変わります。相手が争わない見込みなら支払督促、少額であれば少額訴訟、相手と話し合いができるなら調停や裁判上の和解というように、相手の出方に合わせて、最も早く債務名義を取れる手続きを選びます。
執行文が要らない場合
少額訴訟の判決と、仮執行宣言つきの支払督促には、原則として執行文を付けなくても強制執行ができます。手続きを簡単にするための特別な扱いです。ただし、債権者や債務者に相続などの変更があった場合には、執行文が必要になります。
執行文と送達証明書の取り方
判決に執行文を付けてもらうには、判決を出した裁判所の書記官に、執行文付与の申立書を出します。判決が確定していることを示すため、あわせて確定証明書も取り寄せておくとよいでしょう。公正証書の場合は、公正証書を作った公証役場で、公証人に執行文を付けてもらいます。
送達証明書は、判決などが相手に届いたことを証明する書面で、これも判決を出した裁判所や公証役場に申請します。公正証書は、作成の時点で相手に交付されていれば、その場で送達したものとして扱われ、証明書を受け取れます。三つの書類がそろって、はじめて強制執行の申立ての準備が整います。
差し押さえる財産の種類と手続きの違い
強制執行でどの財産を差し押さえるかは、債権者が選びます。一度に複数の財産を差し押さえることもできますが、請求額を大きく超える差押えは認められません。回収のしやすさ、かかる費用と時間は、財産の種類によって大きく違います。
| 比べる点 | 債権執行 | 不動産執行 | 動産執行 |
|---|---|---|---|
| 主な対象 | 預金、給料、取引先への売掛金、保険の解約返戻金 | 土地、建物、マンション | 現金、商品、機械、貴金属、車以外の動産 |
| 申し立てる先 | 相手の住所地の地方裁判所 | 不動産の所在地の地方裁判所 | 財産の所在地の執行官 |
| 回収までの期間 | 数週間から | 半年から1年以上 | 数週間から数か月 |
| 費用 | 比較的少ない | 予納金が高額になりやすい | 執行官の手数料など |
| 回収の見込み | 口座や勤務先が分かれば高い | 抵当権が先にあると配当が少ない | 換金できる価値が低いことが多い |
相手が会社か個人かで狙う財産が変わる
相手が会社であれば、預金のほか、取引先に対する売掛金が有力な差押えの対象になります。売掛金を差し押さえると、取引先は相手に代金を払えなくなり、債権者に直接支払うことになります。取引先に知られることを嫌って、相手が自分から支払いに応じることも少なくありません。
相手が個人であれば、給料と預金が中心になります。勤務先が分かれば、給料を毎月差し押さえられます。自営業者であれば、店の売上が入る口座や、取引先からの入金を狙うことになります。
最もよく使われるのは債権執行
実務で最もよく使われるのが、預金や給料を差し押さえる債権執行です。手続きが比較的簡単で、費用も少なく、差押えが決まれば、銀行や勤務先から直接お金を受け取れます。相手の口座のある銀行と支店、あるいは勤務先が分かっていれば、まず検討すべき手段です。
不動産執行は時間と費用がかかる
相手が土地や建物を持っていれば、不動産執行で競売にかけることができます。ただし、評価や入札の手続きに時間がかかり、裁判所に納める予納金も高額になりがちです。さらに、銀行の抵当権がついていれば、売却代金はまず銀行の債権の返済に充てられ、一般の債権者に残る額はわずかになることもあります。登記簿で抵当権の額を確かめてから申し立てるかを判断します。
不動産執行の大まかな流れは、差押えの登記、執行官による現況の調査と評価人による評価、売却基準価額の決定、入札、売却許可、代金の納付、配当という順です。入札で買い手がつかなければ、条件を変えて売却をやり直すこともあり、全体で1年を超えることも珍しくありません。
動産執行は「空振り」になりやすい
動産執行では、執行官が相手の事務所や自宅に行き、現金や商品、機械などを差し押さえます。ただ、生活に欠かせない家具や衣服、66万円までの現金などは差し押さえが禁止されていて、中古の家財道具は換金してもほとんど値がつきません。差し押さえる物がなく、執行不能で終わることも多い手続きです。
一方で、店舗の売上金や在庫商品がある事業者に対しては、動産執行が有効なこともあります。執行官が店に来るというだけで、相手が支払いに応じることも少なくありません。
動産執行の当日、相手が不在で鍵がかかっていても、執行官は鍵を開けて中に入ることができます。そのための解錠の業者も、申立ての際に手配しておくのが通常です。相手の店舗や倉庫に在庫商品がある場合は、執行官がその場で差し押さえ、後日、競り売りなどで換金します。
給料の差押えの限度
給料を差し押さえる場合、相手の生活を守るため、差し押さえられる額には限度があります。原則として、税金や社会保険料を差し引いた手取り額の4分の1までです。手取りが44万円を超える場合は、33万円を超える部分の全額を差し押さえられます。一度差し押さえれば、請求額に達するまで、毎月の給料日ごとに効力が続きます。
預金にも同じような保護があり、給料が振り込まれた直後の口座を差し押さえると、相手から差押えの範囲を狭めるよう申し立てられることがあります。ただ、これは相手の申立てを受けて裁判所が判断するもので、差押えそのものが無効になるわけではありません。
どの財産から狙うかの考え方
複数の財産が見つかった場合は、回収までの早さと確実さ、費用のつり合いを考えて、狙う順番を決めます。一般的には、預金、給料、取引先への売掛金といった債権執行から始め、それで足りなければ不動産執行を検討し、動産執行は相手に心理的な圧力をかけたい場面に限って使う、という順序が多くなります。相手の不動産に抵当権がなく、評価額が高い場合は、不動産を先に押さえておくことも考えます。
保険の解約返戻金や、相手が受け取る予定の敷金、出資金の払戻しなども、債権執行で差し押さえられることがあります。相手の財産は現金や不動産だけではありません。相手が誰に対してどんなお金を受け取る立場にあるかを、広い視野で探してみてください。
強制執行の流れ
ここでは、最もよく使われる預金の差押えを例に、強制執行の流れを見ていきます。給料や売掛金の差押えも、基本の流れは同じです。
- 判決などの債務名義を手に入れ、執行文の付与と送達証明書の交付を受ける。
- 相手の口座がある銀行と支店を特定する。
- 相手の住所地を管轄する地方裁判所に、債権差押命令の申立書を出す。
- 裁判所が差押命令を出し、銀行と相手に送る。銀行はその時点の預金を払い戻せなくなる。
- 銀行が、預金の有無や額を回答する陳述書を裁判所と債権者に送る。
- 差押命令が相手に届いてから1週間が過ぎると、債権者は銀行から直接取り立てられる。
- 取り立てた額を裁判所に届け出て、手続きが終わる。
差押えの効力が及ぶのは、差押命令が銀行に届いた時点の預金残高です。その後に入金されたお金には及ばないため、相手の口座にお金が入っているタイミングを見計らって申し立てることが、回収額を左右します。たとえば、取引先からの入金が集中する月末の直後を狙う、といった工夫が考えられます。
動産執行の当日、相手が不在で鍵がかかっていても、執行官は鍵を開けて中に入ることができます。そのための解錠の業者も、申立ての際に手配しておくのが通常です。相手の店舗や倉庫に在庫商品がある場合は、執行官がその場で差し押さえ、後日、競り売りなどで換金します。
取り立てと転付命令
預金や売掛金を差し押さえた後の回収の方法には、二つあります。一つは、差押命令が相手に届いてから1週間が過ぎた後に、銀行などから直接取り立てる方法です。もう一つが転付命令で、差し押さえた債権そのものを債権者に移してもらう方法です。
転付命令が確定すると、差し押さえた債権は債権者のものになり、ほかの債権者が後から差し押さえても影響を受けません。その反面、移ってきた債権が実際には回収できなくても、元の請求は消えたものとして扱われます。銀行の預金のように確実に払われる債権であれば転付命令が有利ですが、相手の取引先の売掛金など、払われるかどうか分からない債権では、取り立てを選ぶのが安全です。
ほかの債権者と競合したとき
同じ預金や売掛金を、ほかの債権者も差し押さえてくることがあります。差し押さえた額の合計が債権の額を超える場合、銀行などは預金を法務局に供託し、裁判所が債権者ごとの請求額に応じて配当します。先に差し押さえたからといって優先されるわけではないので、ほかの債権者より早く、取り立てまで終えることが大切です。
相手の財産を調べる方法
強制執行の成否を最も大きく左右するのは、相手の財産の所在をつかめるかどうかです。債権者の側で差し押さえる財産を特定しなければならず、見つからなければ、判決を持っていても回収はできません。
この問題に対応するため、2020年4月に民事執行法が改正され、相手の財産を調べる手続きが大きく強化されました。
| 手続き | 内容 | ポイント |
|---|---|---|
| 財産開示手続 | 相手を裁判所に呼び出し、自分の財産を明らかにさせる | 正当な理由なく出頭しない、うそをつくと、6か月以下の拘禁刑または50万円以下の罰金 |
| 預貯金の情報取得 | 銀行などの金融機関に、相手の口座の有無、支店、残高を回答させる | 財産開示手続を先にしなくても申し立てられる |
| 不動産の情報取得 | 登記所に、相手が所有する不動産の情報を回答させる | 財産開示手続を先に経ていることが必要 |
| 勤務先の情報取得 | 市町村や年金機構に、相手の勤務先を回答させる | 養育費などの請求と、人の生命や身体の侵害による損害賠償に限られる |
一般の売掛金や貸金の回収では、勤務先の情報取得は使えません。それでも、預金の情報取得を使えば、複数の銀行に一度に照会して、相手の口座と残高を知ることができます。回答を得たうえで、残高のある口座を狙って差し押さえることができるので、空振りを避けやすくなります。
自分でできる財産の調べ方
裁判所の手続きを使う前に、自分で調べられることもあります。
- 不動産の登記簿を法務局で取り寄せ、所有者と抵当権を確かめる
- 取引の記録から、相手が支払いに使っていた口座の銀行と支店を控える
- 相手の会社のウェブサイトや求人情報から、取引先や事業所の所在地を調べる
- 相手が個人なら、以前聞いていた勤務先が今も同じかを確かめる
情報取得の手続きの進め方
預貯金の情報取得は、相手の住所地を管轄する地方裁判所に申し立てます。照会する金融機関を指定する必要があるので、相手の住所や事業所の近くにある銀行、信用金庫、ゆうちょ銀行などを候補に挙げます。金融機関ごとに手数料がかかるため、やみくもに多くの金融機関を指定するのではなく、可能性の高いところから絞り込むのが得策です。
回答が届くまでには、申立てから数週間から1か月ほどかかります。その間、相手には申立てのことは伝わりません。回答が届いたら、すぐに差押えを申し立てることで、相手に預金を動かす時間を与えずに回収できます。
強制執行にかかる費用と期間
強制執行の費用は、差し押さえる財産の種類によって大きく違います。申し立てる前に、回収できる見込みの額と比べておきましょう。
| 手続き | 主な費用 | 回収までの目安 |
|---|---|---|
| 債権執行(預金、給料) | 申立ての手数料4,000円(債務者一人、債務名義一つにつき)と郵便切手代 | 申立てから1か月ほど。給料は完済まで毎月 |
| 不動産執行 | 申立ての手数料4,000円と、評価や売却のための予納金 | 半年から1年以上 |
| 動産執行 | 執行官への予納金 | 申立てから数週間で執行。換金はその後 |
強制執行にかかった費用のうち、手数料や予納金などの執行費用は、回収したお金から優先して差し引くことができ、相手の負担になります。これに対し、弁護士に支払った費用は執行費用に含まれず、原則として自己負担になります。
予納金の額は、裁判所や財産の内容によって異なります。とくに不動産執行では、まとまった額を先に納める必要があるため、回収できる見込みの額と比べて、申し立てるかどうかを慎重に判断します。
相手が倒産したら強制執行は止まる
強制執行の途中で相手が破産の手続きに入ると、進めていた強制執行は効力を失い、新たに申し立てることもできなくなります。破産手続の開始前にすでに取り立てを終えていれば、その回収は原則として有効ですが、まだ取り立てていない差押えは失効し、その財産は破産管財人の管理に移ります。
民事再生の手続きが始まった場合も、強制執行は中止されます。相手の経営が危ういと感じたら、差押えから取り立てまでを急ぐことが、回収を確保するうえで大切です。
相手が強制執行に対抗してくる場合
相手の側にも、強制執行に対抗する手段があります。判決の後にすでに支払ったのに強制執行を受けた、判決の後に和解した、といった事情があれば、相手は請求異議の訴えを起こして強制執行を止めることができます。また、差し押さえた物が実は第三者のものだという場合には、その第三者から第三者異議の訴えが起こされることもあります。
こうした訴えが起こされても、それだけで強制執行が止まるわけではありませんが、相手が担保を積んで執行の停止を求めれば、手続きが止まることもあります。判決の後に相手と交わした約束や、受け取った支払いは、きちんと記録しておいてください。
予納金は、手続きに実際にかかった費用を差し引いた残りが、手続きの終了後に返ってきます。動産執行で差し押さえる物が見つからずに終わった場合も、使われなかった分は返還されます。
具体例で考える|判決を取った後の回収
ある設備工事会社は、施主の会社に対して工事代金600万円を求める訴訟を起こし、勝訴の判決を得ました。ところが、施主は判決が確定しても支払わず、連絡もとれなくなりました。
工事会社から依頼を受けた弁護士は、まず相手の財産を調べました。工事代金の支払いのために以前やり取りしていた銀行が2行分かっていたので、この2行と、地域の主な信用金庫を対象に、預貯金の情報取得を申し立てました。回答の結果、そのうち1行の支店に約250万円の預金があることが分かりました。
弁護士はすぐにその口座の差押えを申し立て、250万円を回収しました。残りの350万円については、財産開示手続を申し立て、施主の代表者を裁判所に呼び出しました。代表者は、取引先の元請けに対して工事代金の売掛金を持っていることを明らかにし、その売掛金を差し押さえることで、さらに200万円を回収できました。
残った150万円は、代表者が個人で連帯保証していたため、代表者個人に対する請求に切り替えました。判決を取っただけで止まっていれば、回収はゼロだったかもしれません。財産を調べる手続きを重ねて使ったことで、大部分を回収できた例です。
個人を相手にした例も挙げておきます。交通事故で車を壊され、修理代80万円を求める判決を得た方が、加害者から支払いを受けられずにいました。加害者の勤務先は、事故の際に聞いていたので分かっていました。
弁護士は勤務先の給料を差し押さえ、手取りの4分の1にあたる月6万円ほどを、毎月勤務先から受け取れるようにしました。1年あまりで遅延損害金を含めた全額を回収しています。勤務先が分かっている相手であれば、給料の差押えは時間はかかっても確実な方法です。
二つの例に共通しているのは、相手の財産の手がかりを持っていたことです。工事会社は取引の中で相手の銀行を知っており、事故の被害者は加害者の勤務先を聞いていました。強制執行は、手がかりさえあれば、裁判所の手続きを重ねることで回収を大きく前に進められます。
強制執行を成功させるための考え方
強制執行で回収を成功させるには、判決を取る前から、差押えのことを考えておく必要があります。
訴訟の前から財産の手がかりを集める
相手の口座、取引先、不動産などの情報は、取引をしている間のほうがはるかに手に入れやすいものです。支払いが止まってからでは、相手も警戒して情報を出さなくなります。取引の記録や、相手から受け取った書類を大切に保管し、財産の手がかりになる情報を控えておきましょう。
財産が失われそうなら仮差押えを
訴訟には時間がかかります。その間に相手が財産を処分してしまえば、判決を取っても回収できません。相手の経営が危ういと感じたら、訴訟の前に仮差押えで財産を凍結しておくことを検討してください。
和解で回収するという選択
強制執行は、あくまで相手が任意に支払わない場合の最後の手段です。差押えを受けると、相手は取引先や銀行からの信用を失い、事業を続けることが難しくなることもあります。相手が支払う意思を見せているなら、分割払いの和解で確実に回収するほうが、結果として多くの額を回収できることもあります。強制執行の可能性を示しながら、和解の余地を探るのが、回収の現実的な進め方です。
公正証書で差押えの準備をしておく
取引先と分割払いの合意をするときや、個人にお金を貸すときに、強制執行を受け入れる文言を入れた公正証書を作っておけば、支払いが止まった時点で、訴訟を経ずにすぐ強制執行を申し立てられます。訴訟に数か月かかる間に相手の財産が減っていく危険を考えると、公正証書の作成費用は十分に見合う備えです。回収が長期にわたる分割払いほど、公正証書にしておく意味は大きくなります。
強制執行は、申立ての書類の作成、財産の調査、ほかの債権者との競合への対応など、専門的な判断が続く手続きです。とくに、相手が財産を隠そうとしている場合や、相手が倒産に近い状況にある場合は、手続きの順番を誤ると回収の機会を失います。判決を取った段階で、弁護士に回収の見通しを相談しておくと安心です。
強制執行に関するよくある質問
判決が出れば、裁判所が自動的に差し押さえてくれますか
いいえ。強制執行は、債権者が申し立てなければ始まりません。差し押さえる財産も、債権者の側で特定する必要があります。判決を得た後は、相手の財産を調べ、申立ての準備を進めてください。
相手に財産がない場合はどうなりますか
差し押さえる財産がなければ、回収はできません。ただし、判決などで確定した権利は10年間有効で、その間に相手の財産状況が変われば、あらためて強制執行ができます。財産開示手続などを使って、定期的に相手の財産を確かめることも考えられます。
強制執行を申し立てると、相手に事前に知られますか
債権差押命令は、銀行など第三者に先に送られ、その後に相手に送られるのが通常です。そのため、相手が事前に預金を引き出すことは難しくなっています。一方、財産開示手続は相手を裁判所に呼び出すので、申し立てたことが相手に伝わります。
強制執行は自分で申し立てられますか
申し立てることはできます。債権執行の申立書の書式は裁判所に用意されています。ただし、差し押さえる財産の特定や、第三者からの情報取得手続の使い方など、判断を要する場面が多いため、請求額が大きい場合は弁護士に相談することをおすすめします。
判決から何年たっても強制執行できますか
判決などで確定した権利は、確定から10年で時効にかかります。10年以内であれば強制執行を申し立てられ、差押えなどの手続きをとれば時効は更新されます。10年が近づいても回収できていない場合は、時効を止めるための手続きを検討してください。
