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取引先の滞納で経営状態が悪化!?売掛金や未収金の回収にどう対処する?
この記事で分かること
- 売掛金を回収する上では取引先の“信用力”を把握し、スピーディに対応することが重要です。
- 取引先が滞納する理由によってとるべき回収方法は異なるので臨機応変な対応が必要です。
- 悪質な財産処分は保全手続きで予防可能です。債務者が財産隠しを働いた場合、“詐害行為取消権”によって判決を得ずとも差押えできます。
- 債権者は他にもいる可能性があるので担保権を設定する等して、優先的に返済するよう仕向けることが大切です。
- 売掛金には消滅時効があるので注意しましょう。
売掛金を回収する上では取引先の出方に合わせてスピーディかつ臨機応変な対応をとることが重要です。また債権者は他にもいる可能性があるので担保権を設定するなどして、優先的に返済するよう仕向けることが大切です。売掛金が消滅時効にかからないよう気をつけましょう。
目次[非表示]
売掛金回収には取引先の“信用力”の把握が大切
いくら請求しても、取引先が売掛金や未収金等貸付金の返済してくれない場合、そのまま放置していると自社の資金繰りが悪化し、最悪倒産に追い込まれる危険性があります。ではそのような場合、どう対処すべきなのでしょうか。
売掛金と未収金の違い
そもそも売掛金と未収金の違いとは何でしょうか。普段から業務で経理に携わっていない限り正確な違いを知らないことも多いでしょう。そこで本題に入る前にまずは売掛金と未収金の定義を明確にしておきます。
売掛金と未収金の違い
“売掛金”と“未収金”。両者とも債権であり、混同されがちですが実は似て非なるものです。売掛金は、会社の本来の営業取引(売り上げ)により発生した債権です。商品代の未払い料金等が該当します。
一方、未収金は本来の営業取引以外で発生した債権です。例えば会社の資金で購入した物件の家賃収入等が該当します。また、取引先に資金を融通し生じた利息や、外注先に材料を有償支給した場合に発生した債権等も未収金の勘定となります。
売掛金回収での問題
債権の回収は、当然債務者にとっては債務の履行を意味します。そして債務の履行には支払い能力と支払い意思が必要です。
売掛金回収で問題となる2つの要素
債務の履行には2つの基本要素があります。一つは「返済能力」です。お金を払う債務であれば金が無いと返済はできません。二つ目は「返済意思」です。返済能力があってもその意思がなければ債務の履行は行われません。勿論債務者の中には初めから素直に返済するものもいますが、中には債権者から何らかの圧力をかけられてようやく債務の履行意志を持つものもいます。これに対してどのような圧力をかけるかが問題になってきます。
債権者側も柔軟な対応が必要
「返済能力」と「返済意思」の2つ要素を総合したものが「信用」です。債権者側は債務者の信用力をもとに債権回収の見込みを立てることになります。しかし、2つの要素は日々変動していくものです。特に返済能力に関してはさまざまな理由で変化していくため、債権者側の対策も変化しなくてはなりません。どんな場合でも頑なな手段をとるのではなく、事態に応じた回収手段をとることが大切と言えるのです。
未収債権の回収に移る前に覚えてくべきこと
売掛金を回収する前に、事前にやっておくべきことや債権回収において心がけるべきことについて説明します。
迅速な回収が大切
まず、未収債権回収においてはスピードが極めて大切になることも覚えておく必要があります。なぜならば相手方の会社が倒産したり、経営状態が悪化すれば回収できる額が少なくなるばかりでなく、自社の経営状態が悪化し、倒産の危機を招くリスクもあるからです。
取引先の信用調査をする
また未収債権回収に着手する前に、現在相手方にどの程度の資産があるのかを調べる必要があります。例えば不動産なら登記所に行けば調べられますし、商品や機械類等動産は取引所に行けば分かるでしょう。資産調査をするのは、取引先が経営悪化等の理由で「支払えない」のか、それとも別の何らかの理由で「支払わない」のかを見極めるためです。そもそも無いところからはお金を回収できませんし、相手方の状況によって回収方法も大きく変わってくるのです。信用調査抜きにして債権回収はおぼつかないと言っても過言ではありません。
相手方の状況はどうなっているのかを、しっかりと調査することが大切です。
売掛金を支払えない理由により回収方法も異なる
未収債権を回収するには督促や調停、訴訟等、強制執行等の手段がありますが取引先が滞納する理由によって、とるべき回収方法は異なるのです。貸し倒れにならないためにはどうしたらよいのか、ケース別に解説していきます。
支払い能力はあるが支払い意思がないケース
この場合は、いきなり訴訟や強制執行等の法的措置をとるのは賢明ではありません。これらの措置には少なくない手間やコストもかかり、法的措置を実行するまでの間、売掛金の回収はできないわけです。そう考えると、まずは交渉による解決を試み、それが叶いそうにない場合に法的措置に出るのが上策と言えます。
まずは内容証明郵便で支払い督促
まずは支払い意思を起こさせる必要があります。そのために有効なのが書面で支払いの請求を催促することです。ただその際注意すべきが、宛先や差出人、日付を郵便局が証明してくれる“内容証明郵便”を利用することです。内容証明郵便を使って支払い督促を出せばその事実が証拠として残り、後々債務者にしらを切られることも防ぐことができます。
それでも支払わなければ支払い督促
それでも支払いの意思がない様子なら、次は簡易裁判所の書記官を通じて債務者に支払いを督促する支払い督促手続きをとりましょう。支払い督促は裁判所を介す分内容証明郵便よりも強い心理的圧力をかけられますが、やはり法的強制力はなく、異議申し立てがあれば通常訴訟に移行します。
訴訟は最後の手段
依然として支払う姿勢が見られない場合訴訟を提起しましょう。裁判に勝てば判決による強制執行で有無を言わせず差押えることができます。もっとも支払い能力があるケースでは強制執行するまでもなく、勝訴すれば支払いに応じてくれる可能性が高いでしょう。
支払い意思はないが自社に債務がある場合
また、取引等では双方が債務と債権の両方を持っているケースがあります。次に見ていくのはこの、取引先に支払い意思はないものの、自社に債務があるケースです。
相殺する
この場合、自社債務と相殺することで実質的に売掛金の回収ができることになります。ただし相殺するには「相殺適状」でなければなりません。相殺適状の要件は以下の3つです。
- 当事者双方が同種の債権を対立させていること。
- 相殺の意思表示をした側の持つ債権“自働債権”が弁済期にあること。
- 相殺禁止事由に該当しないこと。
なお相殺禁止事由には、「相殺を禁ずる合意がある」「相殺された側の持つ債権“受働債権”が不法行為によって生じたものであったり差押え禁止債権に当たる等、法律上相殺が禁じられている」などがあります。
支払い意思はあるが支払い能力がないケース
取引開始時は返済能力があったものの何らかの理由で取引先の経営が苦しくなり、現在は支払うつもりはあるものの支払い能力がないケースです。
この場合、調停や内容証明郵便での督促をしても支払いは期待できません。よって端から訴訟手続きをとるのが得策です。
返済し忘れていたケース
取引先が滞納するケースの内、極稀に思い違いやミスが延滞理由であることがあります。この場合、当然法的措置をとる必要はなく、滞納している旨を伝えれば解決します。
悪質な財産処分や財産隠しに対抗し売掛金を回収しよう
“回収無くして売り上げなし”と言うように、取引において売掛金の確実な回収は極めて重要です。しかし差押えから逃れるために財産を処分したり、嘘をついて凌ごうとする等姑息な債務者がそれを阻んできます。そのような場合、どう対処すればよいのでしょうか。
財産処分には保全手続きで備えよう
再三の督促にも関わらず一向に支払う様子がない場合は訴訟による強制執行で回収すべきであることは前述しました。しかし、訴訟には時間がかかります。その間に債務者が財産を処分してしまえば、せっかく苦労して勝訴判決を得たところで無駄になります。そうした事態を防ぐために、「保全手続き」をとっておきましょう。
保全手続きで財産処分を予防
訴訟による強制執行での回収を検討する際必ず覚えておきたいのが「仮差押・仮処分」と呼ばれる保全手続きです。債務者の財産を保持し、債権者の権利を暫定的に保護するもので、手続きを行うことで、判決が出てから強制執行が執り行われるまでの間に債務者が差押から逃れるために財産を処分するのを防げるのです。
財産隠しのケースでは裁判の判決なしでも差押え可能
売掛金や未収金の回収に出向いても、お金が無いので返したくても返せない等と先方が返済に応じてくれないケースがあります。しかし相手が「無い」と言ったからと言って本当にお金が無いとは限りません。実際は財産を持っているのに相手が嘘をついている可能性があるわけです。このようなケースでは債権者は判決を得ずとも差押えて債権回収できます。
債務者が財産を隠す“詐害行為”
債務者が差押えから逃れるため不動産を他人名義にしたり、動産を隠していたりするケースがあります。いわゆる「財産隠し」です。このように強制執行の対象となる債務者の財産を不当に減少させる行為を「詐害行為」と言います。
“詐害行為取消権”によって差押え
例えば会社の資産のほとんどが社長の個人名義になっていたり、家族の名義になっていることもありますが、差押えを回避するため故意に他人名義にしているのであればそれは違法行為になります。民法424条では「債権者は債務者が債権者を害することを知ってした法律行為の取り消しを裁判所に請求できる」とする規定があり、債権者は債務者が詐害行為によって隠した財産を差押えることができるのです(詐害行為取消権)。
売掛金回収において注意すべきこと
ここまで売掛金回収方法を解説してきました。しかし債権者が複数いる場合もあるわけです。最後にそのような状況でも確実に売掛金を回収するためのコツや注意点、他の債権者との争いに勝つためのポイント等、売掛金回収において知っておくべき知識を紹介します。
他の債権者との争いに勝つには
債権者は自社のみとは限りません。滞納するような債務者即ち取引先は多くの場合他の会社からも返済の督促を受けていて、支払いの順序は債務者が考える重要度によって決まるのです。どのように、取引先に“他の債権者より優先的に支払いをしよう”と思ってもらうか、また他の債権者の裏をかいた回収作戦をたてられるかが重要になります。
担保権を設定する
売掛金回収手段として裁判による強制執行を紹介してきましたが、担保権を設定していれば、そうした措置をとらずとも支払いに応じてくれる可能性が高まります。さらに返済を受けられない場合担保権を実行することで判決を得ることなく債権回収が可能です。
売掛金回収に関わる担保権には不動産等を担保にとる“抵当権”や債務者から受け取った質物を債権者が所有し、他の債権者よりも優先的に弁済を受けることができる“質権”などがあります。
狙いは“集合物譲渡担保”
支払い能力は何も目に見えるものだけとは限りません。例えば商品や自動車、機械等の有形財産は他の債権者にもすぐに見つけられ抵当のターゲットにされてしまいます。他の債権者が見落としがちなのが、倉庫に保管してある仕掛け品や在庫商品などです。これら出入りのある品物を担保としてとることができます(集合物譲渡担保)。
売掛金には消滅時効が存在する
売掛金も債権の一つであり消滅時効が存在することもポイントです。ここでは売掛金の消滅時効期間や、時効を成立させないための方法について説明します。
売掛金の消滅時効は業務内容によって違う
売掛金の消滅時効は債権の内容によって違います。例えば飲食代は1年、商品の売買代金債権は2年、工事の設計、施工等の工事代金債権は3年です。
消滅時効を成立させないためには
時効のカウントは支払期限の翌日から始まります。消滅時効が成立してしまえば1円たりとも回収できません。それを防ぐには、時効の中断が必要です。時効の中断方法は大きく「裁判上の請求」「仮処分、仮差押、差押え」「債務の承認」があります。
裁判上の請求とは訴訟等、裁判所を介して請求するものです。債務の承認は債務が存在することを相手方に認めさせることです。前者2つは手間もコストもかかりますが、債務の承認はメールのやり取りや書面、録音データ等があれば証拠となるので手っ取り早いです。時効が迫っている場合等は有効でしょう。
3年後に改正民法が施行される
なお、平成29年6月2日に公布された民法の一部を改正した法律では、「書面協議による消滅時効の完成猶予施」が新設されました。現行では当事者が話し合っている間でも消滅時効は進行しましたが、当事者双方において協議を行う旨の合意を書面でした場合には、合意があったときから1年間は消滅時効の完成を猶予することができ、合意の更新も最長で5年までできることになったのです。しかし新法の施行は一部の規定を除き平成32年4月1日からになります。
売掛金の回収で困ったら、弁護士に相談
売掛金や未収金の回収では、スピードや柔軟性もさることながら、いかに頭を使って債務者の支払い意思を喚起する回収計画を立てられるかがカギとなります。滞納された時に備えて、取引の際は内容を書面にして残すよう普段から心がけることも大切です。
- 状況にあわせた適切な回収方法を実行できる
- 債務者に<回収する意思>がハッキリ伝わる
- スピーディーな債権回収が期待できる
- 当事者交渉に比べ、精神的負担を低減できる
- 法的見地から冷静な交渉が可能
- あきらめていた債権が回収できる可能性も