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回収が止まったとき、誰に相談すればよいか
取引先に何度請求しても支払いがない。電話をかけてもつながらず、メールの返事も途絶えた。社内で回収の担当者を決めて取り組んできたものの、これ以上どうすればよいのか分からない。そう感じたときが、外部の専門家に相談を考える時期です。
債権回収の相談先には、弁護士のほか、司法書士、行政書士、債権回収会社など、いくつかの選択肢があります。それぞれ扱える業務の範囲が法律で決まっていて、どこに相談するかによって、とれる手段も変わってきます。
弁護士は、債権回収のすべての段階を代理できる唯一の専門家です。交渉から訴訟、強制執行まで、金額の制限なく任せることができます。一方で、費用がかかることや、請求額が小さい場合には費用とのつり合いが問題になることもあります。
この記事では、債権回収の依頼を受けている弁護士の立場から、相談先ごとの違い、弁護士に依頼するメリットとデメリット、費用の仕組み、依頼から回収までの流れ、弁護士の選び方までを説明していきます。依頼するかどうかを決めるための材料として、自社の状況と照らし合わせながら読んでみてください。
相談を考えたいタイミング
「まだ自分たちで何とかなる」と考えて、相談を先延ばしにする会社は少なくありません。けれども、弁護士の立場から見ると、もっと早く相談してもらえていれば打てた手があった、という案件が多いのが実情です。次のような状況になったら、相談の時期だと考えてください。
- 支払期日から1〜2か月過ぎても入金がなく、具体的な支払いの予定も示されない
- 担当者や代表者と連絡がとれなくなった
- 分割払いの約束をしたのに、支払いが途中で止まった
- ほかの取引先も支払いを受けていないという話を聞いた
- 支払期日から4年以上たっている債権がある
債権回収の相談先と、できることの違い
他人の依頼を受けて、報酬を得て法律事務を行うことは、原則として弁護士にしか認められていません(弁護士法72条)。債権回収もこれにあたるため、弁護士以外の相談先には、扱える範囲に制限があります。
| 相談先 | 扱える範囲 | 向いている場面 |
|---|---|---|
| 弁護士 | 交渉、内容証明郵便、支払督促、訴訟、強制執行のすべて。金額の制限なし | 相手が争っている、請求額が大きい、強制執行まで見込まれる |
| 認定司法書士 | 請求額が140万円以下の事件の交渉と簡易裁判所での代理 | 140万円以下で、相手との争いが小さい |
| 司法書士(上記以外) | 裁判所に出す書類の作成 | 自分で手続きを進めたいが、書類作りを手伝ってほしい |
| 行政書士 | 内容証明郵便などの書類の作成 | 請求の書面だけを整えたい |
| 債権回収会社(サービサー) | 金融機関の貸付債権など、法律で定められた債権の回収 | 一般の売掛金や個人間の貸金は原則として扱えない |
注意したいのは、無資格の「回収代行業者」です。報酬を得て他人の債権を取り立てることは、弁護士や許可を受けたサービサー以外には禁じられています。こうした業者に依頼すると、違法な取り立てに巻き込まれ、依頼した側まで責任を問われるおそれがあります。
行政書士は、内容証明郵便などの書類を作ることはできますが、相手と交渉したり、裁判所の手続きで代理したりすることはできません。行政書士の名前で請求書を送っても、相手から反論があれば、その先の交渉は自分で行うか、あらためて弁護士に依頼することになります。最初は書面だけで十分と思っていても、相手の反応によっては次の手が必要になることを念頭に置いて、相談先を選んでください。
司法書士と弁護士の違い
認定司法書士は、請求額が140万円以下の事件であれば、交渉や簡易裁判所での訴訟を代理できます。少額の債権であれば、司法書士に依頼する選択肢もあるでしょう。
ただし、相手が控訴して地方裁判所に移った場合や、途中で請求額が140万円を超えることが分かった場合には、司法書士は代理を続けられません。また、強制執行のうち、地方裁判所が扱う債権執行や不動産執行の申立てについては、書類の作成はできても代理はできません。相手の対応次第で手続きが長引く可能性があるなら、最初から弁護士に依頼しておくと、途中で依頼先を変える手間が省けます。
相手が会社か個人かで変わること
相手が会社であれば、登記簿で本店や代表者、不動産の有無を調べられ、取引先や取引銀行の情報から差押えの対象を探しやすくなります。一方、代表者個人が連帯保証していなければ、会社に財産がないときに代表者の個人資産から回収することはできません。
相手が個人であれば、勤務先が分かれば給料の差押えという強力な手段があります。ただし、住所が変わっていたり、勤務先が分からなかったりすると、所在の調査から始める必要があります。どちらの場合も、相手について分かっている情報は、できるだけ詳しく弁護士に伝えてください。
弁護士に債権回収を依頼するメリット
弁護士に依頼する最大のメリットは、回収できる可能性が上がることです。あわせて、回収にかかる時間を短くできることも見逃せません。その理由を、いくつかの面から見ていきましょう。
相手の対応が変わる
弁護士の名前で内容証明郵便が届くと、相手の受け止め方は大きく変わります。これまで支払いを後回しにしていた相手も、放っておけば訴訟や差押えに進むことを具体的に意識し、支払いの優先順位を上げるからです。実際に、弁護士名の請求書を送っただけで、数日のうちに入金された例は少なくありません。
交渉の窓口を任せられる
取引先と直接やり取りを続けるのは、精神的に大きな負担です。相手が言い訳を重ねたり、感情的になったりすると、本来の業務にも支障が出ます。弁護士に依頼すれば、相手との連絡はすべて弁護士が引き受けます。相手が「弁護士を通して話すなら」と冷静になり、話が前に進むことも多くあります。
最適な手段と順番を選べる
債権回収の手段は多く、どれを、どの順番で使うかによって、回収の結果が変わります。相手の資産状況、争いの有無、時効までの期間などを踏まえて、交渉から仮差押え、訴訟、強制執行まで、最も効果的な組み立てを考えるのが弁護士の役割です。
強制執行まで一貫して任せられる
判決を取っても、相手が払わなければ強制執行が必要になります。弁護士であれば、財産開示手続や、金融機関や登記所から情報を取り寄せる手続きを使って相手の財産を調べ、差押えまで一貫して進めることができます。
| メリット | 内容 |
|---|---|
| 心理的な圧力 | 弁護士名の請求で、相手が支払いを優先するようになる |
| 負担の軽減 | 相手との交渉や書類作成を任せ、本業に集中できる |
| 手段の選択 | 状況に応じて最適な回収の手段と順番を選べる |
| 時効の管理 | 時効が迫っている債権も、適切な手続きで期間を確保できる |
| 財産の調査 | 裁判所の手続きで相手の預金や不動産を調べられる |
| 一貫した対応 | 交渉から強制執行まで、依頼先を変えずに進められる |
弁護士名の請求書が効く理由
弁護士名の内容証明郵便には、通常、支払いの期限と、期限までに支払いがなければ法的な手続きをとる予定であることが書かれています。相手にとっては、訴訟を起こされれば会社の信用に関わり、差押えを受ければ取引先や銀行に知られることになります。この現実的なリスクを具体的に示すことが、支払いを促す力になります。
ある精密部品の販売会社では、社内の担当者が半年にわたって請求を続けても支払われなかった売掛金300万円が、弁護士名の内容証明郵便を送った翌週に全額振り込まれました。相手は資金がなかったわけではなく、請求の強い相手から先に支払っていただけでした。
回収の見込みを左右する要素
弁護士が回収の見込みを判断するときは、主に次の点を見ています。依頼する前に、自社の案件がどの程度当てはまるかを考えておくと、相談の場で見通しを共有しやすくなります。
| 要素 | 見込みが高い | 見込みが低い |
|---|---|---|
| 証拠 | 契約書、納品書、請求書、相手の受領の記録がそろっている | 口頭の注文で、書面がほとんどない |
| 相手の資産 | 営業を続けている、不動産や取引先への売掛金がある | 事業を止めている、財産が見当たらない |
| 争いの有無 | 相手が金額を認めている | 品質や数量をめぐって争っている |
| 時間の経過 | 支払期日から間もない | 何年も放置している、時効が近い |
| 担保や保証 | 代表者の連帯保証や担保がある | 保証も担保もない |
弁護士に依頼するデメリットと注意点
弁護士に依頼すれば必ず回収できる、というわけではありません。依頼してから後悔しないよう、よい面だけでなく限界も知っておきましょう。依頼する前に知っておきたい注意点もあります。
費用がかかる
弁護士に依頼すると、相談料、着手金、報酬金などの費用がかかります。回収できた額から報酬を支払うとしても、着手金は回収の結果にかかわらず必要になるのが一般的です。請求額が小さい場合には、費用のほうが回収額を上回る、いわゆる費用倒れになるおそれがあります。
相手に財産がなければ回収できない
判決を取っても、相手に財産がなければ回収はできません。相手が倒産寸前であったり、すでに財産をすべて処分していたりすれば、どんなに優れた弁護士が手を尽くしても、回収できる額には限界があります。依頼の前に、相手の資産状況についての見通しを弁護士と共有しておくことが大切です。
取引関係への影響
弁護士が前面に出ると、相手との取引関係は変わります。今後も取引を続けたい相手であれば、弁護士名の請求がかえって関係を悪化させることもあります。関係を保ちながら回収したいなら、まずは社内の担当者が交渉し、弁護士は後ろで助言する、という関わり方も選べます。
顧問弁護士とスポットの依頼の違い
| 比べる点 | 顧問弁護士に任せる | 案件ごとに依頼する |
|---|---|---|
| 相談のしやすさ | 支払いが遅れた段階ですぐに相談できる | 弁護士を探すところから始まる |
| 会社の事情の理解 | 取引や業界の事情を踏まえた助言がもらえる | 毎回、事情の説明が必要 |
| 費用 | 毎月の顧問料。回収の着手金が割り引かれることもある | 案件ごとに着手金と報酬金 |
| 向いている会社 | 取引先が多く、未払いが時々起こる | 未払いがまれにしか起こらない |
相手が弁護士を立ててきたとき
こちらが請求を続けるうちに、相手が弁護士に依頼して、「支払いには応じられない」「金額に争いがある」と回答してくることがあります。相手に弁護士がつくと、交渉は法的な主張のぶつけ合いになり、自社だけで対応するのは難しくなります。相手の主張に反論し、必要なら訴訟に進むためにも、この段階ではこちらも弁護士に依頼するのが得策です。
相手の弁護士から、破産や民事再生の申立ての準備に入ったという通知が届くこともあります。その場合は、個別の取り立てを控え、手続きの中で債権を届け出ることになりますが、相殺や担保による回収の余地がないかは、すぐに確かめてください。
弁護士費用の仕組み
債権回収の弁護士費用は、いくつかの項目で構成されています。金額は事務所ごとに自由に決められているため、項目の意味を理解したうえで、見積もりを比べることが大切です。
| 費用の項目 | 内容 | 支払う時期 |
|---|---|---|
| 相談料 | 法律相談の費用。初回は無料としている事務所もある | 相談のとき |
| 着手金 | 依頼するときに支払う費用。回収の結果にかかわらず返ってこない | 依頼のとき |
| 報酬金 | 回収できた額に応じて支払う成功報酬 | 回収できたとき |
| 実費 | 裁判所に納める手数料、郵便切手、登記簿の取得費用など | その都度 |
| 日当 | 遠方の裁判所への出張など、弁護士が拘束される時間の費用 | その都度 |
着手金と報酬金は、請求額や回収額に一定の割合をかけて計算する事務所が多く見られます。内容証明郵便の作成だけ、支払督促の申立てだけ、といった部分的な依頼を定額で受けている事務所もあります。
費用倒れを避けるための考え方
請求額が小さい場合は、次のような工夫で費用を抑えられます。
- 内容証明郵便の作成と送付だけを依頼し、相手の反応を見る
- 支払督促や少額訴訟は自分で申し立て、書類の確認だけを依頼する
- 複数の取引先に対する債権をまとめて依頼し、費用の割引を相談する
- 顧問契約を結んでいる場合は、顧問料の範囲で対応できる部分を確かめる
回収にかかった弁護士費用を、相手に負担させることは原則としてできません。ただし、契約書に「回収に要した弁護士費用は債務者の負担とする」という条項があれば、その範囲で請求できる余地があります。取引基本契約を作るときに、入れておきたい条項の一つです。
個人の方が使える公的な支援
個人の方が、貸したお金や未払いの賃金などを回収する場合、収入や資産が一定の基準以下であれば、法テラス(日本司法支援センター)の民事法律扶助を利用できることがあります。無料の法律相談を受けられるほか、弁護士費用を法テラスが立て替え、分割で返していく仕組みです。会社の債権回収には原則として使えませんが、個人事業主の方でも、個人としての条件を満たせば利用できる場合があります。
着手金と報酬金の組み合わせ
債権回収の費用の決め方には、いくつかの型があります。着手金を抑えて報酬金の割合を高くする型、着手金をなくして回収できた額からだけ報酬を受け取る成功報酬型、手続きごとに定額を決める型などです。どの型が有利かは、回収の見込みと請求額によって変わります。回収の見込みが高い案件では、着手金を払って報酬金の割合を抑えるほうが、最終的な負担は小さくなることが多いでしょう。
会社が支払った弁護士費用は、事業のための支出として経費に計上できます。回収できた額だけでなく、費用の扱いも含めて、手元に残る金額を考えておくとよいでしょう。
依頼から回収までの流れ
弁護士に債権回収を依頼した場合、一般的には次のような流れで進みます。
- 法律相談で、債権の内容、相手の状況、これまでのやり取りを伝える。
- 弁護士が回収の見込みと方針、費用の見積もりを示す。
- 委任契約を結び、着手金を支払う。
- 弁護士名で内容証明郵便を送り、支払いを請求する。
- 相手と交渉し、合意できれば合意書や公正証書を作る。
- 合意できなければ、支払督促や訴訟などの手続きをとる。
- 判決などを得ても払われなければ、財産を調べて強制執行をする。
- 回収できたお金から報酬金などを精算し、残りを受け取る。
相手の財産が失われそうな場合は、4の前に仮差押えをすることもあります。また、相手が交渉に応じて早い段階で支払えば、5で終わることも少なくありません。
依頼者がしておくこと
弁護士に任せた後も、依頼者にしかできないことがあります。相手から直接連絡があったら、自分では返事をせず、弁護士に伝えてください。相手からの入金があれば、すぐに弁護士に知らせます。取引先の噂や、相手の事業所の様子など、現場で得られる情報も、回収の方針を考えるうえで役に立ちます。
回収したお金の受け取り方
相手からの支払いは、弁護士の預り金口座に振り込んでもらうのが一般的です。弁護士は、入金を確かめたうえで、委任契約で決めた報酬金や実費を差し引き、残りを依頼者の口座に送金します。精算の内訳は書面で示されるので、差し引かれた金額に疑問があれば、その場で確かめてください。
分割払いで合意した場合は、毎月の入金を弁護士が確認し、遅れがあればすぐに督促します。支払いが止まったときに、合意書や公正証書に基づいてすぐに差押えに進めるのも、弁護士に任せている利点です。
回収までにかかる期間の目安
相手が弁護士名の請求に応じれば、数日から数週間で入金されることもあります。支払督促に進めば、申立てから差押えができる状態になるまでに1〜2か月ほど、相手が異議を出して訴訟に移れば、判決まで半年ほどかかることが多いでしょう。強制執行まで進む場合は、さらに数か月を見込んでおきます。
期間が長くなるほど、相手の財産が減っていくおそれがあります。弁護士は、期間を短くするために、相手が争わない見込みなら支払督促を、財産が失われそうなら仮差押えを先に、というように手段を組み合わせます。
取引を続けたい相手への依頼の仕方
取引を続けたい相手に対しては、弁護士の名前を出さずに、弁護士が作った文案で自社名義の請求書を送る方法もあります。内容は法的に整えられていますが、相手には弁護士の関与が見えないので、関係を大きく損なわずに済みます。それでも応じなければ、次の段階で弁護士名の請求に切り替える、という二段構えをとることができます。
債権回収に強い弁護士の選び方
弁護士であれば誰でも債権回収を扱えますが、経験や得意分野には差があります。事務所のウェブサイトの取扱分野や解決事例も参考になります。次の点を確かめると、自社に合った弁護士を選びやすくなります。
| 確かめる点 | 見るべきところ |
|---|---|
| 債権回収の経験 | 企業の売掛金や貸金の回収を扱った件数、強制執行まで進めた経験 |
| 業界への理解 | 建設、製造、卸売など、自社の業界の取引慣行を知っているか |
| 費用の説明 | 着手金、報酬金、追加費用を分かりやすく説明してくれるか |
| 見通しの示し方 | 回収の見込みを、よい面も悪い面も率直に伝えてくれるか |
| 連絡のとりやすさ | 進み具合の報告の頻度、問い合わせへの返事の早さ |
とくに大切なのは、見通しを率直に伝えてくれるかどうかです。相談の場で、こちらの話をよく聞き、疑問に丁寧に答えてくれるかも見ておきましょう。「必ず回収できます」と請け合う弁護士より、相手の資産状況や証拠の弱点を踏まえて、回収できない可能性も含めて説明してくれる弁護士のほうが、信頼できます。
取引先が多く、未払いが繰り返し起こる業種であれば、顧問弁護士を持っておくのも一つの方法です。取引基本契約の作成から、未払いが起きたときの初動まで、日ごろから相談できる体制があれば、回収の成功率は大きく上がります。
初回の相談で聞いておきたいこと
初めての相談では、次のことを尋ねておくと、依頼するかどうかを判断しやすくなります。
- この債権は回収できる見込みがあるか、その理由は何か
- 最初に何をするのか、その後どう進む可能性があるか
- 費用はいくらかかるのか、途中で追加の費用が生じるのはどんなときか
- 回収までにどのくらいの期間を見込んでおけばよいか
- 自社でしておくべきことは何か
これらの質問に、分かりやすく具体的に答えてくれるかどうかは、弁護士を選ぶうえでの大切な目安になります。遠方の事務所でも、オンラインでの相談に応じているところが増えています。裁判の手続きも2026年5月から全面的にオンライン化されたため、事務所の所在地にこだわらず、債権回収の経験が豊富な弁護士を選べるようになっています。
具体例で考える|弁護士に依頼して回収できたケース
ある建設資材の販売会社は、中堅の工務店に対する売掛金1,200万円を回収できずにいました。工務店は「元請けからの入金が遅れている」と言い続け、半年間で一度も入金がありません。社内の担当者が何度も足を運びましたが、社長には会えず、経理担当者に言い訳を聞かされるばかりでした。
依頼を受けた弁護士は、まず工務店の登記簿と、現在進めている工事の情報を調べました。すると、工務店が大手の元請けから大型の工事を請け負っていて、近く工事代金の支払いを受ける予定であることが分かりました。弁護士は、この工事代金、つまり工務店が元請けに対して持つ売掛金を仮差押えしました。
仮差押えの通知が元請けに届くと、元請けは工務店への支払いを止めます。工務店にとっては、元請けとの信用に関わる重大な事態です。工務店の社長はすぐに弁護士に連絡してきて、1,200万円のうち800万円を一括で、残りを4か月の分割で支払う内容で和解が成立しました。和解の内容を確認した後、仮差押えを取り下げ、半年近く止まっていた回収は、わずか1か月ほどで大きく前進しました。
社内の担当者だけでは、相手の取引先の情報まで調べ、仮差押えという手段を選ぶことは難しかったはずです。相手の財産がどこにあるかを見つけ、そこに手を打つことが、回収の決め手になった例です。
この例では、相手の元請けに対する売掛金が差押えの対象になりました。相手に目立った財産がないように見えても、相手がほかの会社に対して持っている売掛金は、立派な回収の引き当てになります。相手の取引先や、進めている事業の情報は、日ごろの取引の中で得られることが多いので、担当者が見聞きしたことを記録しておくと役に立ちます。
もう一つ付け加えると、仮差押えには、裁判所が定める担保金を積む必要があります。この例でも、会社は担保金を用意したうえで申し立てています。担保金は、仮差押えが不当だった場合に相手の損害を賠償するためのもので、事件が終われば手続きを経て返ってきます。こうした資金の準備も含めて、弁護士と事前に相談しておくことが大切です。
相談の前に準備しておくこと
弁護士への相談を実りのあるものにするには、事前の準備が欠かせません。次の資料をそろえておくと、初回の相談で、回収の見込みと方針をかなり具体的に示してもらえます。
- 契約書、取引基本契約書、発注書、納品書
- 請求書の控えと、未払いの一覧(金額、支払期日)
- これまでの入金の記録
- 相手とのやり取り(メール、手紙、面談のメモ)
- 相手の会社の登記簿、代表者の情報、取引銀行や主要な取引先の情報
- 保証人や担保があれば、その契約書
資料がそろっていなくても、相談することはできます。とくに、時効が迫っている場合や、相手の財産が失われそうな場合は、資料を集めるより先に相談することを優先してください。一日の遅れが、回収できるかどうかを分けることもあります。
相談の際には、相手とのこれまでの経緯を、時系列で整理したメモを用意しておくと話が早く進みます。いつ取引を始め、いつから支払いが遅れ、どのような言い訳をされてきたのか。弁護士は、この経緯から相手の状況と意思を読み取り、方針を組み立てます。
証拠の扱いにも気をつけてください。相手とのメールやメッセージは、消さずにそのまま残しておきます。相手の事務所を訪ねたときの様子や、電話で話した内容は、日付を入れてメモにしておきましょう。相手が送ってきた書面は、封筒も含めて保管してください。後で相手の主張が変わったとき、当時のやり取りが証拠として力を持ちます。
また、相談の前に、自社で相手に強く迫ったり、相手の財産を勝手に持ち出したりすることは避けてください。違法な取り立てと受け取られると、回収の交渉で相手に口実を与えることになります。
債権回収の弁護士への相談に関するよくある質問
どのくらいの金額から弁護士に依頼すべきですか
決まった基準はありませんが、請求額が数十万円程度であれば、弁護士費用とのつり合いを慎重に考える必要があります。内容証明郵便の作成だけを依頼するなど、部分的な関わり方も検討してください。数百万円を超える債権や、相手が争っている債権であれば、弁護士に依頼する意味は大きくなります。
相手に財産があるか分からなくても依頼できますか
依頼できます。弁護士は、登記簿や取引の情報から相手の財産を調べ、判決などを得た後は裁判所の手続きを使って預金や不動産を調べることもできます。ただし、調べても財産が見つからない場合もあるため、見通しを相談の段階で確かめておくことが大切です。
弁護士に依頼したことは、取引先に知られますか
弁護士が相手に連絡をとる段階で、相手には分かります。一方、相談しただけで相手に知られることはありません。弁護士には守秘義務があるので、相談の内容が外部に漏れることもありません。
回収できなかった場合、費用は返ってきますか
着手金は、回収の結果にかかわらず返ってこないのが一般的です。報酬金は、回収できた額に応じて支払うので、回収できなければ発生しません。委任契約を結ぶ前に、費用の扱いを書面で確かめておいてください。
社内で途中まで進めた案件でも、依頼できますか
依頼できます。自社で送った請求書や内容証明郵便、相手とのやり取りの記録があれば、弁護士はそこから引き継いで進めます。むしろ、これまでの経緯が分かる資料がそろっているほうが、相手の言い分の矛盾を指摘しやすくなります。
複数の取引先の未払いをまとめて相談できますか
できます。取引先ごとに、回収の見込みや優先順位を整理し、時効が近いものや、相手の経営が危ういものから順に手を打つことができます。まとめて依頼することで、費用の相談がしやすくなる場合もあります。
