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少額訴訟と通常訴訟の違いは?通常訴訟では弁護士が必要に!

この記事で分かること

  • 少額訴訟は簡易で迅速な手続きで、行われる便利な制度
  • 少額訴訟は判決で分割払いなどを命じられることもある
  • 少額訴訟は通常訴訟に移行する可能性がある
  • 通常訴訟で弁護士は不可欠の存在、少額訴訟でも備えは必要

60万円以下の請求を行う場合に少額訴訟制度が利用できます。面倒な手続きが不要で費用もそれほどかからず、簡易・迅速に判決が得られます。基本的には本人訴訟で足りますが、少額訴訟は通常訴訟へ移行する可能性がありますから、弁護士を最初から頼むのもひとつの方法です。通常訴訟では弁護士の力を借りないと、勝訴することはかなり困難です。

少額訴訟と通常訴訟との違い

まずは少額訴訟とは何か、通常訴訟との違いはどこにあるのか説明します。

少額訴訟の基本的事項

少額訴訟の基本的な事項から解説します。

少額訴訟(民事訴訟法、以下、条文番号のみの場合は同法、368条以下)は、少額の紛争においてコストをかけずに、迅速かつ効果的な解決を裁判所に求めることができるように創設された制度です。

少額訴訟の利用要件

少額訴訟の要件は、簡易裁判所で、訴訟の目的の価額が60万円以下の金銭の支払の請求を目的とする訴えについて求めることができます(368条1項)。ただし、同一の簡易裁判所においては同一年に10回以下という制限がかけられています(同項、民事訴訟規則223条)。この回数制限は、少額訴訟制度が債権を回収する業者のツールとなることを防ぐ趣旨と言われています。

通常訴訟手続きとの関係

原告は60万円以下の請求であっても通常の訴訟手続きを利用することができます。また、少額訴訟の開始の時に、被告が通常の手続きに移行することを申述できます(373条1項2項)。裁判所は一定の場合には、通常訴訟の手続きによることを決定しなければなりません(同3項)。

少額訴訟の審判手続き、通常訴訟との違い

少額訴訟の審判手続きを通常訴訟との違いを示しながら説明します。

まず、少額訴訟では反訴を提起することができません(369条)。反訴とは、ある訴訟で被告になっている者が、同じ手続きの中で原告を相手に訴えを起こすことです(146条1項)。つまり少額訴訟で提訴された者が、同じ訴訟で「自分が貸した金を返せ」という訴えを起こすことはできないということです。これは迅速かつ効果的な手続きという少額訴訟の趣旨に反するからです。

口頭弁論期日は1回のみ

少額訴訟は、原則として口頭弁論期日は1回で終了します(370条)。迅速な手続きという制度の趣旨から当然でしょう。

証拠調べの手続き

証拠調べは即時に取り調べることができるものに限られます(371条)。証人尋問は宣誓を省略することができます(372条1項)。また電話会議の方法で証人尋問ができます(372条3項)。いずれも審理が簡易に迅速にできるようになっています。

ワンポイントアドバイス
少額訴訟の審理は「一体型審理」と呼ばれる、弁論と証拠調べを明確に分けずに行います。当事者の話を適宜拾いあげて、審理されますから、本人もあまり形式にこだわらずに主張をしていけばいいでしょう。

少額訴訟の判決・執行、通常訴訟との違い

少額訴訟は判決、執行についても通常訴訟と大きな違いがあります。
それでは、少額訴訟の判決や債権執行について詳しく見ていきましょう。

少額訴訟の判決

少額訴訟の判決は通常訴訟のそれが白黒をはっきりとつけるのに比べて、実社会に即した柔軟な性質を有しています。

判決言い渡し

少額訴訟の判決は、原則として口頭弁論終結後、直ちに行われます(374条1項)。請求認容判決には職権で担保を立てて、もしくは立てないで、仮執行できることを宣言しなければなりません(376条1項)。

支払いの猶予や分割払いもあり

少額訴訟の判決の最大の特徴と言えるのが、請求認容判決で支払いを猶予することができる点です。裁判所は、被告の資力その他の事情を考慮して、判決の言い渡しの日から3年を超えない範囲内において、金銭の支払いについて期限を定めることや、分割の支払いを定めることができます(375条1項)。少額訴訟においては、より現実的な解決がなされるということです。

控訴は認められず、異議申し立てのみ

少額訴訟の判決に対して控訴することはできません(377条)。判決をした簡易裁判所に対して異議の申し立てのみ行うことができます(378条1項)。

少額訴訟の債権執行

少額訴訟制度は簡易、迅速な解決を図るものですから、その執行も簡易・迅速でなければ債権者には意味がありません。その趣旨で民事執行法も改正され167条の2以下が新設されました。

新制度では担当するのが裁判所書記官で、執行裁判所はその書記官が所属する簡易裁判所です。執行は裁判所書記官による差押処分によって始まります(民事執行法167条の2第2項)。これに対して執行の不許を求める第三者異議の訴えは、簡易裁判所の所在地を管轄する地方裁判所に対して行います(民事執行法167条の7)。

ワンポイントアドバイス
少額訴訟の執行は裁判所書記官が担当します。もっとも、転付命令や配当等の場合は地方裁判所の債権執行手続きに移行します(167条の10、167条の11)。その場合の執行は執行裁判所(地方裁判所)になるため注意が必要です。

少額訴訟のメリット・デメリット、通常訴訟との違い

少額訴訟の特徴を明らかにしたところで、そのメリットとデメリットについて説明します。

少額訴訟のメリット

まずはメリットについて見ていきましょう。やはり制度趣旨にあるように手続きが簡易・迅速に行われる部分にあります。

手続きが簡単

証拠は即時に取り調べることができるものに限られ、原則として口頭弁論が原則として1回しかなく、終了直後に判決が出るため訴訟の手続きが非常に簡易で、迅速に行われるのは大きなメリットです。60万円以下の請求に限られますから、回収にコストをかけていられない債権者にとっては非常に便利です。

訴訟費用が少ない

即日で判決が出されるため、訴訟にかかる費用が少なくすみます。仮に弁護士に頼んでも、通常訴訟よりは安い値段で受けてもらえます。

仮執行宣言がつくので執行が容易

手続きは簡単な上、請求認容判決に対しては仮執行宣言が付きますから、簡単に強制執行を申し立てることができます。つまり、判決を受けた後に直ちに、仮執行の宣言を付した少額訴訟の判決を債務名義にして強制執行の申し立てができます(民事執行法167条の2第1項2号)。

分割での支払い等がある

判決では通常訴訟にない分割での支払いを命ずる場合もあります。これはデメリットとも考えられますが、債権者が効果的に債権を回収できるように考えられたものです。通常訴訟で勝訴しても、債務者に執行すべき財産がなければ勝訴する意味がありません。裁判所がより現実的な解決を示してくれるのはメリットと言っていいでしょう。

少額訴訟のデメリット

こうした簡易・迅速な少額訴訟ですがデメリットも存在します。

利用制限の存在、1年に10回以内

大きなデメリットとして利用回数が1年に10回以内という制限があることです。これは債権回収業者が制度を独占的に使用して、一般の人の利用に影響が及ぶのを防ぐ趣旨と言われています。もっとも一般の人でもこの制度は1年に10回しか使えないため、頻繁に利用すると、いざという時に利用できないということもあり得ます。

相手の居場所が分からないと訴訟提起は困難

債務者の行方が分からない場合、通常訴訟であれば公示送達(110条)という手段があります。これは裁判所書記官が送達すべき書類を保管して、いつでも送達を受けるべき者に交付すべき旨を裁判所の掲示場に掲示するというものです(111条)。少額訴訟ではその制度が使えないため、債務者の行方が分からない場合は書類を送れません。そこで通常訴訟にするなど、対応を考える必要があります。

相手の同意が不可欠、職権で通常訴訟の場合も

原告が少額訴訟を提起した場合でも、被告は通常訴訟への移行を申述できます(373条1項)。申述があれば、通常訴訟へ移行します(同2項)。また、裁判所も少額訴訟は適当でないと考えた場合などには、通常訴訟の手続きをすることを決定しなければなりません(同3項)。つまり、訴えを提起したからといって、必ず少額訴訟で行われる保障はありません。

ワンポイントアドバイス
少額訴訟の終局判決の最大の特徴は、支払いの猶予や分割払いなどができることです。債務者に資力がない場合には、そのような方法でも回収ができるのなら債権者にとっては悪くない方法でしょう。もっとも少額訴訟を提起されるような被告が本当に分割払いを誠実に行うかは疑問が残る点ではあります。そのあたりもよく考えた上での主張が求められます。

少額訴訟と弁護士、通常訴訟との違い

少額訴訟でも弁護士を頼むことは可能です。そして通常訴訟になれば、弁護士なしに訴訟を行うのは、勝訴ということを考えればかなり無謀な行為と言えるでしょう。

少額訴訟と弁護士

少額訴訟における弁護士のかかわりを説明します。

少額訴訟での弁護士依頼は少数

これまで説明してきたように、少額訴訟の手続きは極めて簡易な手続きで行われます。審理は1日で終わりますし、必要な書類の書き方などは裁判所が教えてくれます。そのため弁護士を依頼するまでもないというのが実情でしょう。実際に弁護士が依頼されるのは少数にとどまっているようです。

請求金額少なく依頼のメリット少ない

少額訴訟は60万円以下の請求に限られますから、手続きは簡易とはいえ弁護士に依頼する費用もそれなりにかかります。そうであればわざわざ依頼するメリットはないでしょう。ただし、前述したように少額訴訟を提起しても、相手方が通常訴訟で争うと申述してくる可能性があります。その場合は、弁護士を頼まないと勝訴するのは困難でしょう。

通常訴訟と弁護士

通常訴訟では弁護士代理の原則(54条)が働きます。原則として弁護士でなければ代理人にはなれません。

通常訴訟でも本人訴訟は可能も勝訴は困難

通常訴訟においても弁護士を頼まずに本人訴訟は可能です。しかし訴訟という極めて専門的な知識を必要とする行為を、専門的知識のない者が行うのは無理があります。勝訴することは相当高いハードルになります。

通常訴訟ではまず弁護士に依頼を、少額訴訟でも検討を

本人訴訟をする場合、そもそも請求をするためにはどのような事実を主張すればいいのか(請求原因)、相手の主張に対して否認すべきか、再抗弁すべきか、再抗弁するとしてどのような主張をすればいいのかなど分からないのが普通です。

そうしたことを的確に処理してくれる弁護士を頼まなければ、実体的な権利はあるのに手続き法の理解が不十分で敗訴してしまう可能性があります。通常訴訟では弁護士への依頼は必須と考えていいでしょう。また、少額訴訟であっても、相手次第では通常訴訟に移行しますし、異議の申し立てがあれば通常訴訟の手続きで行われます。少額訴訟と軽く考えずに、弁護士への依頼も検討しておくことが重要でしょう。

ワンポイントアドバイス
制度上、被告の同意がなければ少額訴訟制度は利用できません。そのため、被告が相手に弁護士がいないとみて通常訴訟に持ち込むという、制度を無力化する方法に出ないとも限りません。そういったことのためにも、少額訴訟の段階で弁護士に声をかけておくのは一つの方法として有効でしょう。
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