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債権譲渡とは? 債権譲渡の手続きはどうする?

この記事で分かること

  • 債権譲渡とは、債権者の意思で債権の同一性を変えずに他人に移転させる手段です。
  • 債権譲渡は債権の譲渡人と譲受人の合意で成立します
  • 債権譲渡の事実について債務者へ通知する必要があります。

債権譲渡とは、債権者が債権を第三者に譲渡する行為で、債権者の裁量で判断することができます。しかし、債務者にとっては、急に債権者が変わるのでは不安に感じるでしょう。そこで、債権譲渡では、譲渡人が債務者にその旨を通知するか、債務者が承諾をしなければ、債務者その他の第三者に対抗できないことになっています。

債権譲渡の基本的知識

「債権譲渡」は一般の人にとっては聞きなれない言葉かもしれません。しかし債権回収の有力な方法の1つで、その方法を覚えておくといざという時に役立ちます。

債権譲渡とは

まずは債権譲渡とは何かという基本的な部分から説明します。
債権譲渡とは、債権者の意思で債権の同一性を変えずに他人に移転させる手段です。

債権譲渡の分かりやすい例

債権譲渡を例の中で詳しく見てみましょう。

太郎君は花子さんから借りていた1万円の返済を求められました。あいにく持ち合わせがなかったので「次郎君に1万円貸しているから、彼からもらってくれないか? 次郎君には僕から花子さんに支払うように言っておくから」と言いました。花子さんはその日、太郎君から連絡を受けた次郎君から1万円を受け取りました。これは太郎君が次郎君に1万円の債権を持っていたところ、その1万円の債権を花子さんに譲ったものです。これが債権譲渡です。

債権譲渡の定義

このような債権譲渡は「債権の同一性を保ちながら契約によって債権を移転させること」(民法Ⅲ第3版p201、内田貴著 東京大学出版会)と定義されます。冒頭の例に当てはめれば「太郎君の次郎君に対する1万円の貸金債権」という同一性を保ちながら、その債権を花子さんに移転(譲渡)したことになります。花子さんは次郎君に対して「あなたが太郎君に借りた1万円を、私に支払って」と言うでしょう。つまり、花子さんが債権者になるわけではありません。債権者はあくまでも太郎君で、それは変化しません。つまり債権の同一性を保つということです。

債権譲渡の根拠条文

債権が移転できることは、債権が譲り渡すことができるという規定(民法、以下、条文番号のみの時は同法、466条1項本文)が根拠になります。もっとも466条1項には但し書きもあれば、同2項で効力が生じない場合が規定され、さらにその但し書きもあり、様々な状況が生じる可能性があります。

債権回収と債権譲渡

太郎君らの具体例で示したように、債権譲渡は個人の間で有効な決済の手段になりますが、ビジネスでも使われることが少なくありません。たとえば債務の弁済を求められた太郎君が会社の社長で、決算前のため資金がギリギリしかなく期限内に花子さんの会社に弁済できない時に、次郎君の会社への債権を花子社長に譲渡して不渡りを回避するという方法が考えられます。花子さんにしてみれば、太郎君の会社の財務状態より次郎君の会社の財務状態の方がよければ回収リスクが軽減する分、好都合という側面はあります。

ワンポイントアドバイス
通知に必要な確定日付とは、内容証明郵便に記載される(郵便局による)日付や公正証書の日付のことで、あとで変更することができないものです。

債権譲渡の効力と対抗要件

債権譲渡が債権者と譲受人間の合意だけで効力が生じると、債務者にとって都合が悪いことが起きます。

債権譲渡は原則として、債権者と譲受人との間で合意が成立すれば効力が生じます。しかし、それだけでは債務者と第三者に対抗できません。

債務者が知らない債権譲渡

債権者と譲受人との間だけで債権譲渡が効力を生じるわけですから、花子さんと次郎君が全く面識のない場合、次郎君はいきなり知らない人(花子さん)から「太郎君に借りているお金を私に支払いなさい」と言われることになります。そうなると次郎君は花子さんに支払っても本当に太郎君への債務の弁済になるのか疑うでしょうから、普通なら「いや、太郎君に払うから」と断るでしょう。それが認められなければ、債権譲渡されたと虚偽を述べて、他人が有する債権を盗み取る行為が横行しかねません。そこで民法は「効力は発生しても対抗できない」という考え方を取り入れています。

債務者への通知

債権譲渡の対抗要件とはどのようなものなのでしょうか。また二重譲渡の場合の優劣の決し方について説明します。

債権譲渡は債権者(譲渡人)と譲受人の間の合意で効力を生じますが、それだけでは債務者や第三者に対抗できません。譲渡人が債務者にその旨を通知するか、または債務者が承諾をしなければ、債務者その他の第三者に対抗できないことになっています(467条1項)。

その通知と承諾は、確定日付のある証書によってしなければ、債務者以外の第三者に対抗できません(同条2項)。前回の例で言えば、つまり、次郎君は花子さんからの督促に対して太郎君からの通知がなければ「債権譲渡なんて話は太郎君から聞いてないから、払いません」と言うことができるわけです。それに対して花子さんは対抗要件を具備していませんから、次郎君の不払いに対して対抗できません。

確定日付の持つ意味

通知と承諾については確定日付のある証書が要求されています(467条2項)。つまり、通知をしても確定日付のあるものでなければ対抗力が生じないということです。これは債権がA、Bに二重譲渡された時に、Aがもう1人の譲受人Bに対して、債権者、債務者らが結束して「BよりAの通知の方が早く到達したから、Aが優先すべきだ」と虚偽の事実を述べさせることを主張させない趣旨と言われています。

二重譲渡の場合の優劣の決し方

それでは債権が二重に譲渡された場合、どのようにその優劣を決するべきなのでしょうか。結論を言えば「確定日付のある証書が債務者に到達した日時、または、確定日付のある債務者の承諾の日時の先後によって決すべき」(最判昭和49年3月7日)とされています。一般に到達時説と呼ばれます。確定日付の先後で決めないのは、債務者に後から届いた証書の方が確定日付が早く、そちらが優先するのであれば、債務者は「後からまた、債権譲渡の通知が来るのでは」と思って支払えなくなってしまうという事情があります。それならば到達時で決めた方がというのが最高裁の判断のバックボーンにあったのでしょう。なお、同時到達の場合は双方が請求することができます(最判昭和55年1月11日)。

ワンポイントアドバイス
債権譲渡通知書は債権の譲渡を債務者に知らせるもののため、新しい契約がここで発生したわけではありません。そのため、印紙税はかかりません。

債権譲渡と譲渡の制限

債権には譲渡ができないもの、あるいは当事者間で譲渡を禁止したものもあります。そのような場合の債権譲渡を見てみましょう。

譲渡の制限

債権の中には性質上、譲渡することができないものもあります。

譲渡が許されない債権

性質上、譲渡が許されない債権の代表的存在は法律で譲渡が禁止されている債権です。具体的には年金受給権、健康保険の保険給付などです。これらは特定の人のために支給されるものですから、譲渡はできません。また、債権の性質上、譲渡が許されないものとしては「ある有名な画家に自分の肖像画を描かせる」債権があります。これは債権が譲渡されると債権の内容が変わってしまうからです。また、当事者が譲渡を禁止した債権も譲渡できません。銀行預金債権が代表例です。

譲渡禁止特約の効力

法律上譲渡できない債権、性質上、譲渡できない債権を債権譲渡しても無効です。しかし、当事者が譲渡を禁止した場合の債権を譲渡した場合はどうでしょうか。その場合は善意の第三者には対抗することができません(466条2項)。

善意の第三者と第三者の無過失

もし、第三者が善意であることに過失があった場合はどうでしょうか。466条2項但し書きは「善意の第三者に対抗することができない」とのみ規定されているため、無過失までは要求されていないように読めます。しかし、「重大な過失は悪意と同様に取り扱うべきものであるから、譲渡禁止の特約の存在を知らずに債権を譲り受けた場合であっても、これにつき譲受人に重大な過失があるときは、悪意の譲受人と同様、譲渡によってその債権を取得しえない」(最判昭和48年7月19日)と最高裁は判断しました。この事案は銀行の預金債権に関する譲渡という事案でした。この判例を前提にすれば、ほとんどの場合、銀行預金については譲受人の重過失が認定されることになるでしょう。

ワンポイントアドバイス
債権譲渡には、譲渡を制限するものがあります。どういうものがあるかを確認しておきましょう。
扶養請求権(民法881条)、災害補償を受ける権利(労働基準法第83条)なども譲渡を禁止されています。

債権譲渡における転付命令と譲渡禁止特約の関係

転付命令と譲渡禁止特約の関係を考えてみましょう。双方が相反する効果を有するだけに難しい問題があります。

転付命令とは

転付命令(民事執行法159条)とは、債権の執行における換価・満足の方法の一種です。差し押さえられた債権について、裁判所が執行債権の支払いに替え、被差押債権を券面額で差押債権者に移す命令です。これではわかりにくいので、具体的に見てみましょう。

花子さんが太郎さんへの1万円貸していて、裁判で勝訴した場合を考えてください。花子さんは太郎さんの財産から例えばテレビや高価な時計などを差し押さえてお金にするよりも、次郎さんへの債権1万円から回収した方が確実と考えるでしょう。その場合、裁判所に申し出て、太郎さんの次郎さんへの債権1万円を自分に付け替える、つまり太郎さんの次郎さんへの債権1万円を自分が次郎さんへの債権者となるようにするわけです。

そして次郎さんから1万円を回収することで、花子さんが太郎さんに有する債権が弁済されるのと同じ効果が得られるというものです。転付命令は債権譲渡と代物弁済を同時に行うようなもの、とする考えもできます(基礎からわかる民事執行法 民事保全法 初版p151 和田吉弘著 弘文堂)。

転付命令と譲渡禁止特約

転付命令と譲渡禁止特約の関係をどのように考えればいいのでしょうか。

たとえば太郎さんの次郎さんに対する債権1万円について当事者間で譲渡禁止特約が付されていたとします。そこへ花子さんがその債権を差し押さえて転付命令を申し立ててきました。太郎さんと次郎さんは譲渡禁止特約を理由に転付命令を無効とできるでしょうか。最高裁は花子さんの勝ちとしました。「譲渡禁止特約のある債権であっても、差押債権者の善意・悪意を問わず、これを差し押さえ、かつ転付命令によって移転することができる・・。譲渡禁止の特約のある債権に対して発せられた転付命令について、466条2項の準用があると解すると・・私人がその意思表示によって債権から強制執行の客体たる性質を奪い、あるいはそれを制限できることを認めることになる・・」(最判昭和45年4月10日)としました。

つまり、私人間で譲渡禁止特約を結べば公権的な債権の執行についても制限ができることができるのであれば、民事執行制度そのものが揺らいでしまうということでしょう。

譲渡禁止特約と債務者の承諾

譲渡禁止特約のある債権を知って譲り受けた場合、その後、債務者が譲渡について承諾を与えた場合は、その債権譲渡は譲渡の時にさかのぼって有効となります(最判昭和52年3月17日)。譲渡禁止特約が債務者を保護するための制度と言えますから、その債務者が承諾を与えた以上、譲渡制限は解消されると考えるのは当然です。ただし、それによって第三者の利益を害することはできません(116条の法理から=最判平成9年6月5日)。

債権譲渡における異議を留めない承諾

債権譲渡においては債務者が「異議を留(とど)めない承諾」をすることがあります。そのような承諾があると、法的にどのような効果が出るのか説明します。

異議を留めない承諾とは

異議を留めない承諾とはどういうことでしょうか。

債権譲渡における債務者が持っている権利の帰趨

債権譲渡をする場合、債権の同一性を保って譲渡されますから、債務者が債権者に対抗できる事由(たとえば同時履行の抗弁等)があれば、それもそのまま譲受人に移転します。「譲渡人が譲渡の通知をしたにとどまるときは、債務者は、その通知を受けるまでに譲渡人に対して生じた事由をもって譲受人に対抗することできる」(468条2項)というのは、そのことを規定しています。

例えば太郎さんの次郎さんに対する債権には「商品を渡すまで、1万円を支払わない」という同時履行の抗弁権(533条)が付着していたとします。そうなると単純に太郎さんから花子さんに債権譲渡がされた場合であれば、次郎さんは「商品をもらうまでは1万円を支払わない」ということが花子さんに対しても言えるということです。

異議を留めない承諾の効力

こうした同時履行の抗弁権が付着していたら、花子さんはたまったものではありません。次郎さんは太郎さんが商品を渡すまで1万円が回収できないからです。そのような場合、次郎さんが債権譲渡に対して「異議を留めない承諾」をすれば、そのような同時履行の抗弁権は花子さんに対して主張できなくなります(468条1項)。実際に債権譲渡を受ける場合には、債権にそのような抗弁権が付着している場合もありますから、よく確認し、債務者が異議を留めない承諾をするように注意しないと思わぬ損害を被ることもあるから注意が必要です。

債権譲渡の通知について

債権譲渡は債務者への通知又は債務者の承諾が対抗要件ですが、債権譲渡登記制度を利用すれば、対抗要件を具備することができます。

債権譲渡登記制度

債権譲渡登記制度は1998年に「債権譲渡特例法」によって新設され、2004年に動産・債権譲渡登記制度に改められました。企業が資金調達のために債権譲渡を積極的に利用できるようにする目的です。譲渡される債権の債権者が法人の場合に限定されています(債権譲渡特例法1条)。

債権譲渡登記制度の対抗要件

この制度は対抗要件を第三者と債務者に対するものとで区別しています。第三者との関係では債権譲渡登記ファイルに譲渡の登記がされた時に、467条に定める確定日付のある通知がされたものとみなされます(債権譲渡特例法4条1項)。

467条の債務者への通知との優劣は、登記の日と通知の到達日の先後で決します。また、債務者に対する対抗要件は譲渡人又は譲受人から債務者に登記事項証明書を交付して登記されたことの通知がなされるか、債務者が承諾した時に、債務者との関係で譲渡が対抗できます(同条2項)。

ワンポイントアドバイス
譲受人は「代理人として」通知書を債務者へ郵送することができます。そのためには、債権譲渡契約書に譲渡人の代理人となる項目を含めてから、譲渡人の署名と捺印を貰うようにするとよいでしょう。

債権譲渡通知の作成などは弁護士に相談

債権譲渡通知書は、債権の効力を発揮するために必要なものであり、口頭でもかまいませんが、債権者が第三者に主張するためには、譲渡人かその代理人が郵送で債務者に送らなければならないことになっています。通知書は自分で作成することもできますが、法律のプロである弁護士に依頼した方がスムーズでしょう。債権譲渡を含め、債権回収について分からないことは、債権回収の実績のある弁護士に相談してみることをおすすめします。

債権回収を弁護士に相談するメリット
  • 状況にあわせた適切な回収方法を実行できる
  • 債務者に<回収する意思>がハッキリ伝わる
  • スピーディーな債権回収が期待できる
  • 当事者交渉に比べ、精神的負担を低減できる
  • 法的見地から冷静な交渉が可能
  • あきらめていた債権が回収できる可能性も
上記に当てはまるなら弁護士に相談