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支払督促とは?制度の仕組みと注意したいデメリット

この記事で分かること

  • 支払督促をすれば債務者と話し合わずに債務名義を得られる
  • 支払督促は不良債権を償却する目的でも使われる
  • 支払督促は債務者の異議申し立てがあると不成立

支払督促は裁判所に申し立てて行う手続きの一つで、極端な話、全く争わずに強制執行の権利を得ることが可能です。ただしそれだけ強い効力を持ち得る手続きですから相手が異議申し立てしないという相応に高いハードルがあります。 したがって、使われるケースは意外と限られます。また異議申し立てがあれば債務者の管轄裁判所で争うことになる点も要注意です。

支払督促とは?成立の流れを紹介

支払督促とは、債権者の申し立てによって”裁判所が”債務者に支払いを督促する手続きです。手続きをする場所は債務者の住所がある地域を管轄する簡易裁判所で、裁判所書記官の名のもとに出されます。

支払督促は、書面を送るだけの手続きですが、相手が異議を申し立てなければ仮執行宣言の申し立てができ。仮執行の宣言がされれば強制執行ができるようになります。

一般的に督促と言えば金融業者が送る督促状をイメージされるかもしれませんが、あれは金融業者が自ら送っているものですから裁判所に申し立てる支払督促と全く異なります。
つまり、裁判所を通さずに督促状を出しても正当な支払督促にならないわけです。

支払督促の簡単な流れを紹介します。

  1. 支払督促の申し立て
  2. 裁判所が支払督促を送付
  3. 仮執行宣言の申し立て
  4. 裁判所が仮執行を宣言
  5. 強制執行

支払督促の申し立て

支払督促の申し立ては債務者の住所を管轄する簡易裁判所に対し、郵送または直接の提出で行います。債権の金額によって申し立て手数料が変わるため、こちらは収入印紙で納めます。手数料は訴訟の場合の半額です。

それ以外の実費に関しては現金あるいは所定の形で予納します。

住所に関して、法人であれば事業所の住所を管轄する簡易裁判所が申し立て先となり登記事項証明書が必要となります。

オンライン申請も可能に

オンラインでの支払督促も可能です。申し立てられるのは貸金、立替金、求償金、売買代金、通信料、リース量の6種類です。ただし、使える環境が限られているので紙での手続きをした方が無難です。

裁判所が支払督促を送付

申し立てが適法だと判断されれば、支払督促が債務者の住所に送付されます。支払督促を送付する前に、裁判所が債務者に意見を聞くことはありません。
債務者は、届いた支払督促に対して督促異議という形で反論を申し立てます。

督促異議が違法でないと認められた場合は通常訴訟に移行します。したがって支払督促は効力を失います。ちなみに督促異議が認められるのは「内容に異議がある場合」「債務をすぐに履行できない場合」です。

仮執行宣言の申し立て

支払督促に対し債務者に到達してから2週間以内の督促異議がなければ、仮執行宣言の申し立てが可能となります。
仮執行宣言の申し立ては、裁判所に「仮執行宣言付の支払督促」を発布してもらうために必要な手続です。「仮執行宣言付の支払督促」は債務名義として認められ、最終的に債務者への強制執行・財産差し押さえを行う際の要件となります。

裁判所が仮執行を宣言

債権者からの仮執行宣言の申し立てを認めた場合、裁判所は仮執行宣言付支払督促を債務者に対して送達します。
仮執行宣言付支払督促の送達からさらに2週間、債務者からの支払いや督促異議の申し立てがなければ、債権者は訴訟なく強制執行を行うことが可能になります。

仕組みとしては仮執行宣言付支払督促が債務者の元に到着した時点で強制執行を行うことも可能です。
しかし、この段階で債権者からの督促異議の申し立てがあり、通常訴訟へ移行する可能性もあるため、債務者の督促異議が認められる2週間の期間を待って、強制執行を行うのが通常です。

強制執行

債務名義が得られれば、強制執行が可能です。

2020年4月より強制執行における財産特定が容易に

従来、強制執行は、相手に財産があることを確認した上で行わなければ、無駄なコストとなっていました。
こうした状況をふまえ、2020年4月の法改正では、預貯金や有価証券など債務者の財産について、裁判所が第三者に命令し、情報提供を受けることができるようになりました。
法的な仕組みで財産の特定が行いやすくなることで、今後は多少の改善が見られるでしょう。

ワンポイントアドバイス
支払督促は、申し立てが手軽な分効力を失いやすいという特徴があります。状況を見極めた利用が大切です。債権回収の進め方がわからない時は、行動を起こす前に弁護士へ相談しましょう。

支払督促を利用するのはどんなとき?

支払督促は利用件数が多いものの、必ずしも実効性が高いと言えません。また督促異議一つで訴訟に移行することからも安易な使用は控えるべきです。

ここでは実際どのような時に支払督促の利用が望ましいのか紹介します。

相手が督促異議申し立てをするメリットが薄い

督促異議を是非とも避けたいのであれば、督促異議を申し立てづらい状態にすることが望ましいです。
たとえば「支払督促の内容に合意している」という証拠を確保しておくと有利です。

債務者が債務を承認している場合は、争う理由がなくなります。また、債務者が債務の一部だけ弁済していた場合も、債務を承認したものとみなされます。
債務者が債務を承認している状態では、債務者にとって裁判するメリットが少なく、結果的に、異議申立は行いづらくなります。

支払督促の確実性を高めたい場合は、督促の過程で債務者に債務の承認を確保することをおすすめします。

大量の債権を持っている

大量の債権を持っている場合には一件一件訴訟することはコストがかかります。少額訴訟も簡便な手続きと言えますが、支払督促の方がより少ない労力でできます。

具体的に言えば、多数の利用者を抱え、大量の債権を持っている金融会社などがこのケースに当たります。未払いの債務者ひとりひとりに対して訴訟を行うのは非現実的なため、金融会社は支払督促を利用します。
特に債務者が一般個人の場合は、督促異議を申し立てないことも考えられるため、効率的な債権回収方法として支払督促を選択することが多いようです。

債務者が近所に住んでいる

詳しくは後ほど解説しますが、債権回収の支払督促に対して督促異議が申し立てられた場合は、債務者の住所の管轄裁判所で裁判が行われます。
債務者が近くに住んでいる場合、万一、訴訟になった場合でも遠方での対応は不要となります。遠方に住む債務者よりは、近くに住む債務者の方が、支払督促は利用しやすいと言えます。

ワンポイントアドバイス
支払督促をすべき場合は大きく分けて支払督促のデメリットを減らせる場合と、他の手続きでもあまりメリットに差が見られない場合です。

支払督促のメリット

支払督促のメリットを紹介します。

申し立て料が訴訟より安い

支払督促は簡素な手続きである分、申し立て料が訴訟の場合に比べて半額です。手続きの中身も申し立ての書面だけですから、訴訟のように細かい資料を用意する必要はありません。

裁判所への申し立てだけで行える

裁判所への申し立てだけで行えます。調停でも示談でも債権者と債務者の話し合いが基本となりますが、支払督促は書面で申し立て、裁判所が債務者に支払督促を送ることで成り立ちます。

また、郵送やオンラインで手続きできる点もメリットです。

少ない労力で債務名義が得られる

支払督促のメリットはなんといっても、債務名義が得られることです。他の手続きに比べてだいぶ負担が少ないです。

ワンポイントアドバイス
支払督促は労力が少なく、督促異議さえなければ債務名義を得られます。次に紹介するデメリットの心配がなければ十分に使うべき選択肢となるでしょう。

支払督促のデメリット

支払督促には労力が少ない分、このようなデメリットがあります。

債務者の住所を管轄する裁判所が中心となる

支払督促の申し立ては必ず債務者の住所を管轄する裁判所に行います。契約によって管轄合意があっても支払督促の申し立て先は変わりません。
そのため、遠方の債務者に対しては郵送での申し立てが原則です。

督促異議一つで無効になる

書面一つで手続きが始まる支払督促は、債務者の督促異議一つで無効になります。異議の理由は問われません。つまり債務者に勝ち目がなくても時間稼ぎで異議申し立てが可能というわけです。
証拠の確認を行わないのですから当然と言えば当然です。

異議申し立てされるなら初めから訴訟した方が楽

督促異議があれば通常訴訟に移行するわけですが、こちらも債務者の住所を管轄する裁判所で行われます。これは遠方であるほど面倒です。しかも、訴訟する場合はそれに応じてしっかり証拠を集める必要があります。
逆にはじめから訴訟を辞さないのであれば支払督促をした分、純粋に時間をロスします。

ワンポイントアドバイス
簡単な手続きは簡単に覆される。支払督促にはこのような側面があります。使える状態は限られているというのも分かりますね。

支払督促をする前に、必ず弁護士へ相談を

支払督促は便利で効果的な手続きである一方、思わぬデメリットがつきものです。
簡単にできる手続きであるがゆえ、自己判断で進めたくなるものですが、時間の無駄になったり、遠方での訴訟対応が求められたりと、支払督促特有のリスクが伴います。

よく知らない法的手続きをする前には必ず弁護士に相談しましょう。ひょっとしたら支払督促より良い方法で解決するかもしれません。

債権回収を弁護士に相談するメリット
  • 状況にあわせた適切な回収方法を実行できる
  • 債務者に<回収する意思>がハッキリ伝わる
  • スピーディーな債権回収が期待できる
  • 当事者交渉に比べ、精神的負担を低減できる
  • 法的見地から冷静な交渉が可能
  • あきらめていた債権が回収できる可能性も
上記に当てはまるなら弁護士に相談