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支払督促とは?流れと費用、異議が出たときの対応

支払督促とは?流れと費用、異議が出たときの対応

この記事で分かること

  • 支払督促をすれば債務者と話し合わずに債務名義を得られる
  • 支払督促は不良債権を償却する目的でも使われる
  • 支払督促は債務者の異議申し立てがあると不成立

支払督促は裁判所に申し立てて行う手続きの一つで、極端な話、全く争わずに強制執行の権利を得ることが可能です。ただしそれだけ強い効力を持ち得る手続きですから相手が異議申し立てしないという相応に高いハードルがあります。 したがって、使われるケースは意外と限られます。また異議申し立てがあれば債務者の管轄裁判所で争うことになる点も要注意です。

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裁判を起こさずに、裁判所から支払いを命じてもらう方法

取引先に何度請求しても支払いがない。内容証明郵便も送ったけれど、返事すらない。かといって、訴訟を起こすとなると、何度も裁判所に通い、証人を立て、判決まで何か月もかかるのではないか。そんな不安から、次の一手を踏み出せずにいる方は多いはずです。

こうした場面で、まず検討していただきたいのが支払督促です。支払督促は、簡易裁判所の書記官が、申立書の書類だけを審査して、相手に支払いを命じる手続きです。裁判所に出向く必要はなく、相手が異議を出さなければ、判決と同じように相手の財産を差し押さえることができます。

費用も訴訟より安く、手数料は通常の訴訟の半額です。請求できる金額に上限はなく、数万円の売掛金から数千万円の貸金まで、お金の支払いを求めるものであれば幅広く使えます。

一方で、支払督促には、相手が異議を出すと通常の訴訟に移ってしまう、相手の住所が分からないと使えない、といった弱点もあります。使うべき場面と、避けるべき場面を見きわめることが大切です。

この記事では、債権回収の依頼を受けている弁護士の立場から、支払督促の仕組み、申立てから差押えまでの流れ、必要な書類と費用、異議が出たときの対応、使うべき場面と向かない場面までを、具体例を交えて説明していきます。

支払督促とは|書類審査だけで支払いを命じる手続き

支払督促は、民事訴訟法に定められた手続きで、お金の支払いなどを求める債権者の申立てに基づいて、裁判所書記官が債務者に支払いを命じるものです。裁判官が当事者の言い分を聞いて判断する訴訟と違い、書記官が申立書の形式や内容を審査するだけで発付されます。

支払督促を受け取った相手は、2週間以内であれば異議を申し立てることができます。異議がなければ、債権者はさらに手続きを進めて、差押えができる状態にまで持っていけます。相手が異議を出せば、通常の訴訟に移ります。

書類だけで支払いを命じられるのは、相手に異議を出す機会が必ず保障されているからです。相手が債権の存在を認めているなら、わざわざ法廷で言い分を聞く必要はありません。争いたい相手には異議という形で訴訟への道が開かれているので、手続きを簡単にしても不公平にはならない、という考え方です。

支払督促の主な特徴

項目 内容
申立先 相手の住所地(会社なら本店所在地など)を管轄する簡易裁判所の書記官
対象 お金の支払いなど、一定の数量の物の給付を求める請求
金額の上限 なし(140万円を超える請求でも簡易裁判所に申し立てる)
審理 書類の審査のみ。債権者も債務者も裁判所に出向かない
手数料 通常の訴訟の半額
相手の異議 異議が出れば通常の訴訟に移る
効力 仮執行宣言がつけば差押えが可能。確定すれば確定判決と同じ効力

どんな請求に使えるか

支払督促で求められるのは、お金の支払いのほか、米や燃料など、一定の数量の物の引渡しです。売掛金、請負代金、貸金、立替金、家賃、未払いの給料、損害賠償金など、お金の支払いを求める請求であれば、ほとんどの場合に使えます。一方で、建物の明渡しや、特定の品物の引渡し、登記の手続きなどは、支払督促では求められません。

「督促状」との違い

名前が似ているため、会社が取引先に送る督促状と混同されることがあります。督促状は、債権者が自分で作って送る私的な書面で、法的な強制力はありません。支払督促は、裁判所書記官の名前で発付される公的な書面で、相手が放っておけば差押えにつながります。受け取った相手が感じる重みは、まったく違います。

会社の支店や営業所との取引の場合

相手が会社で、取引が支店や営業所を窓口に行われていた場合は、本店所在地だけでなく、その支店や営業所の所在地を管轄する簡易裁判所にも申し立てることができます。本店が遠方でも、実際に取引をしていた営業所が近くにあれば、そちらの裁判所を選べることがあるので、取引の窓口がどこだったかを確かめておきましょう。

支払督促のメリット

支払督促には、訴訟にはない利点がいくつもあります。

裁判所に行かずに済む

支払督促は書類の審査だけで進むので、債権者が裁判所に出向く必要はありません。申立書は、郵送でも提出できますし、インターネットで申し立てる仕組みも用意されています。本業が忙しい会社にとって、担当者が裁判所に何度も足を運ばずに済むのは大きな利点です。

早く結果が出る

相手が異議を出さなければ、申立てから1か月から2か月ほどで、差押えができる状態になります。訴訟であれば、第1回の期日が開かれるまでに1か月以上かかり、相手が争えば判決まで半年以上かかることも珍しくありません。

費用が安い

裁判所に納める手数料は、通常の訴訟の半額です。請求額ごとの手数料は、次のとおりです。

請求額 通常の訴訟の手数料 支払督促の手数料
50万円 5,000円 2,500円
100万円 1万円 5,000円
300万円 2万円 1万円
500万円 3万円 1万5,000円

このほかに、書類を相手に送るための郵便切手代などがかかります。自分で申し立てるなら、数千円から数万円の費用で、差押えに使える書面を手に入れることができます。

申立書を自分で作るのが不安な場合は、簡易裁判所の窓口で書き方の案内を受けることもできます。窓口では、法的な助言まではしてもらえませんが、書式の記入の仕方や、必要な書類、納める切手の額などを教えてもらえます。

相手に強い心理的な圧力がかかる

裁判所から届く「支払督促」という書面は、受け取った相手に強い印象を与えます。書面には、2週間以内に異議を出さなければ強制執行を受けることがあると明記されています。支払いを後回しにしていた相手が、この書面を受け取ってすぐに連絡してくることはよくあります。

インターネットでの申立て

支払督促は、紙の申立書を郵送する方法のほか、インターネットを通じて申し立てる仕組みも用意されています。事前に利用の登録が必要ですが、画面の案内に沿って入力でき、手数料も電子納付で支払えます。取引先が多く、支払督促を繰り返し使う会社であれば、申立ての手間を大きく減らせます。

支払督促のデメリットと注意点

便利な支払督促にも、弱点があります。弱点を知らずに申し立てると、かえって回収が遠回りになることもあります。申し立てる前に、次の点を確かめておいてください。

注意点 内容 考えられる対策
異議で訴訟に移る 相手が異議を出すと、相手の住所地の裁判所で通常の訴訟になる 相手が争いそうなら、最初から訴訟を選ぶ
相手の住所地が管轄 遠方の相手なら、訴訟に移った後の期日に出向く負担が生じる ウェブ会議での参加や、現地の弁護士への依頼を考える
公示送達が使えない 相手の住所が分からず、書類を届けられない場合は使えない 住所を調べてから申し立てるか、訴訟を選ぶ
お金などの請求に限られる 建物の明渡しや、物の引渡しなどは求められない 明渡しなどは訴訟で求める

異議が出ると、かえって時間がかかることもある

支払督促に対する異議には、理由を書く必要がありません。「異議があります」と書いて出すだけで、手続きは訴訟に移ります。そのため、少しでも争う気のある相手や、時間を稼ぎたい相手は、ほぼ確実に異議を出してきます。

訴訟に移った後は、あらためて訴状にあたる書面や証拠を出して、通常の裁判として進めることになります。最初から訴訟を起こしていた場合と比べて、支払督促の分だけ時間が余計にかかったことになります。相手が品質への不満や金額の違いを主張している場合は、支払督促は避け、最初から訴訟を選んだほうが結果的に早く終わります。

相手の住所地の裁判所になる

支払督促は、相手の住所地を管轄する簡易裁判所に申し立てなければなりません。訴訟に移った場合も、原則としてその地域の裁判所で審理されます。東京の会社が福岡の取引先に支払督促を出し、異議が出れば、福岡の裁判所で訴訟が進むことになります。

2026年5月から民事裁判の手続きが全面的にオンライン化され、ウェブ会議で期日に参加できる場面が広がりました。遠方の裁判所であることの負担は以前より小さくなっていますが、証人尋問など、出頭が求められる場面もあることは覚えておいてください。

書類が相手に届かないとき

支払督促は、相手に特別送達という方法で届けられます。相手が不在で郵便局に保管されたまま期間が過ぎると、書類は裁判所に戻ってきます。この場合、裁判所から、相手の勤務先に送る、休日に送り直すなどの方法を検討するよう求められます。

相手が住所地に住んでいないことが分かった場合は、支払督促を取り下げて、訴訟を起こすことを考えます。訴訟であれば、住所を調べても分からないときに、裁判所の掲示板に書類を掲示して届いたものとみなす公示送達を使えるからです。相手の所在がはっきりしない場合は、はじめから訴訟を選んだほうが遠回りになりません。

申し立てる前に確かめること

支払督促を申し立てる前に、次の点を確かめておくと、手続きがスムーズに進みます。

  1. 相手の正確な住所(会社なら登記簿上の本店所在地)が分かっているか
  2. 相手が債権の存在や金額を争っていないか
  3. 請求の根拠となる契約書や請求書が手元にあるか
  4. 時効が完成していないか、完成が迫っていないか
  5. 相手に差し押さえられる財産の見込みがあるか

とくに最後の点は大切です。支払督促で差押えができる書面を手に入れても、相手に財産がなければ回収はできません。取引銀行や、相手の取引先、所有する不動産など、差押えの手がかりをあらかじめ控えておきましょう。

申立てから差押えまでの流れ

支払督促は、次のような流れで進みます。期限がいくつもあるので、日付の管理が欠かせません。裁判所から届く書類は、封筒ごと保管しておきましょう。

  1. 相手の住所地を管轄する簡易裁判所に、支払督促の申立書を出す。
  2. 書記官が審査し、支払督促を発付して、相手に特別送達で届ける。
  3. 相手が支払督促を受け取ってから2週間、異議を待つ。
  4. 異議がなければ、その後30日以内に仮執行宣言の申立てをする。
  5. 仮執行宣言つきの支払督促が、相手に届けられる。
  6. この時点で、相手の財産を差し押さえる強制執行の申立てができる。
  7. 仮執行宣言つきの支払督促を受け取ってから2週間、相手の異議がなければ、支払督促は確定する。

仮執行宣言の申立てを忘れない

見落とされやすいのが、4の仮執行宣言の申立てです。相手が異議を出さずに2週間が過ぎても、それだけで差押えができるようになるわけではありません。債権者が、その後30日以内に仮執行宣言の申立てをしなければ、支払督促そのものが効力を失ってしまいます。

せっかく支払督促を出しても、この申立てを忘れると、最初からやり直しです。相手に支払督促が届いた日を裁判所に確かめ、期限を必ず管理してください。

注意
仮執行宣言の申立ては、相手の異議の期間が過ぎてから30日以内です。期間が過ぎる前に申し立てることはできません。早すぎても遅すぎても申立てが認められないので、裁判所から届く通知で日付を確かめてから手続きをしてください。

申立てから確定までの期間の目安

書記官の審査が順調であれば、申立てから1〜2週間ほどで支払督促が発付され、相手に届きます。そこから異議の期間が2週間、仮執行宣言の申立てと発付に1〜2週間ほどかかり、仮執行宣言つきの支払督促が相手に届いた時点で差押えができるようになります。全体として、申立てから1か月半から2か月ほどが目安です。

仮執行宣言がつけば差押えができる

仮執行宣言つきの支払督促は、強制執行の根拠となる債務名義になります。相手が改めて異議を出しても、それだけでは差押えは止まりません。相手が差押えを止めるには、裁判所に執行の停止を申し立て、担保を積む必要があります。

そのため、仮執行宣言がついた段階で、すぐに相手の預金や売掛金の差押えに進むことができます。相手がこの段階で異議を出してきた場合は、差押えを進めながら、訴訟の中で決着をつけることになります。

差押えに進むときの手順

仮執行宣言つきの支払督促を手に入れたら、差し押さえる財産を決めて、強制執行を申し立てます。最もよく使われるのは預金の差押えで、相手の口座がある銀行と支店を特定して、相手の住所地を管轄する地方裁判所に申し立てます。差押命令が銀行に届くと、その時点の預金残高のうち請求額までが凍結され、一定の期間が過ぎれば、債権者が銀行から直接受け取ることができます。

相手の口座が分からない場合は、財産開示手続や、金融機関から預金の情報を取り寄せる手続きを使うことができます。2020年4月の民事執行法の改正で、仮執行宣言つきの支払督促を持つ債権者も、財産開示手続を申し立てられるようになりました。

申立書の書き方と必要な書類

支払督促の申立書は、裁判所の窓口やウェブサイトで書式を手に入れることができます。書式は取引の種類ごとに用意されています。書式に沿って、次の事項を記入します。

記入する事項 書き方のポイント
当事者の表示 債権者と債務者の住所、氏名(会社なら商号と代表者名)を正確に
請求の趣旨 「債務者は債権者に対し、金○○円及びこれに対する令和○年○月○日から支払済みまで年3%の割合による金員を支払え」など
請求の原因 いつ、どんな契約をして、いくらの代金が、いつ支払期日を迎えたのかを具体的に
申立手続費用 手数料、郵便切手代などを書く。これらは相手の負担として請求できる

申立書のほかに、次の書類を用意します。

  • 収入印紙(手数料の分)と郵便切手
  • 当事者が会社の場合は、商業登記簿の登記事項証明書
  • 代理人が申し立てる場合は委任状

支払督促は書類審査だけで進むので、契約書や請求書などの証拠を添付する必要はありません。ただし、異議が出て訴訟に移ったときには証拠が必要になるので、手元に整理しておいてください。

請求の原因は具体的に書く

書記官は、申立書の記載から、請求に法的な根拠があるかを審査します。「商品代金として500万円」とだけ書いたのでは不十分で、いつ、どの商品を、いくらで売り、いつが支払期日だったのかを書く必要があります。取引が複数ある場合は、請求書ごとに一覧にまとめると分かりやすくなります。

記載が不十分だと、書記官から補正を求められ、発付までに時間がかかります。申立書の書き方に不安があれば、弁護士に確かめてもらうとよいでしょう。

遅延損害金と手続費用も請求できる

請求の趣旨には、元本だけでなく、支払期日の翌日から支払済みまでの遅延損害金を含めることができます。契約で遅延損害金の率を定めていればその率で、定めがなければ法定利率の年3%で計算します。複数の請求書がある場合は、支払期日が違うので、請求書ごとに起算日を分けて書きます。

申立てにかかった手数料や郵便切手代などの手続費用も、相手の負担として請求できます。申立書の所定の欄に金額を書いておけば、支払督促の中で相手に支払いが命じられます。

保証人にも同時に請求できる

契約に連帯保証人がいる場合は、主たる債務者と連帯保証人の両方を相手にして、一つの申立書で支払督促を申し立てることができます。ただし、支払督促は相手の住所地の裁判所に申し立てるため、債務者と保証人の住所地が別の裁判所の管轄になる場合は、それぞれに申し立てる必要があります。

申立書の控えは、必ず手元に残しておいてください。異議が出て訴訟に移ったとき、支払督促の申立書に書いた内容と、訴訟で主張する内容が食い違うと、相手に反論の材料を与えてしまいます。申立書の控えをもとに主張を組み立てれば、一貫した説明ができます。

相手から異議が出たときの対応

相手が異議を出すと、支払督促は効力を失い、通常の訴訟に移ります。請求額が140万円以下であれば簡易裁判所、140万円を超えれば地方裁判所で審理されます。

訴訟に移ったら、裁判所から、訴状にあたる書面と証拠を出すよう求められます。支払督促の申立書に書いた内容を、証拠とともに詳しく主張し直す必要があります。

訴訟に移るときは、手数料の差額を追加で納める必要があります。支払督促の手数料は訴訟の半額なので、訴訟の手数料との差額を収入印紙で納めます。あわせて、訴訟の準備として次のものを整理しておきましょう。

  • 契約書、発注書、納品書、受領書など、取引があったことを示す書類
  • 請求書と、相手が請求書を受け取ったことが分かる記録
  • 支払いの遅れについて相手とやり取りしたメールや手紙
  • 一部の入金があれば、その記録

相手が異議を出してきたことで、かえって相手の言い分が明らかになるという面もあります。何を争っているのかが分かれば、それに合わせて証拠を準備し、訴訟の中で反論できます。何の反応もないまま時間が過ぎるより、状況が前に進んだと前向きに受け止めてください。

異議の期間と出し方

相手が異議を出せるのは、支払督促を受け取った日から2週間以内です。異議の申立書は裁判所から支払督促と一緒に送られてくる書式を使うのが一般的で、理由を書く必要はありません。2週間が過ぎた後でも、仮執行宣言が発付される前であれば、異議は受け付けられます。債権者としては、2週間が過ぎたらすぐに仮執行宣言を申し立てることで、相手が遅れて異議を出す余地を小さくできます。

異議の中で分割払いを申し出てくることもある

相手が異議を出す理由は、債権の存在を争うためとは限りません。実際には、「支払う意思はあるが、一括では払えない」という理由で異議を出してくる相手も多くいます。異議の申立書に、分割払いの希望を書いてくることもあります。

この場合は、訴訟に移った後の第1回の期日で、和解の話し合いをすることになります。分割払いで合意すれば、和解調書が作られ、これも判決と同じように差押えの根拠になります。相手が支払いを怠れば、すぐに差押えに進めます。

仮執行宣言がついた後の異議

仮執行宣言つきの支払督促が届いた後に相手が異議を出した場合も、訴訟に移ります。ただし、仮執行宣言の効力はそのまま残るので、差押えを進めることができます。訴訟で相手の主張が認められなければ、差押えで回収したお金はそのまま債権者のものになります。

具体例で考える|支払督促で売掛金を回収したケース

ある印刷会社は、地方のイベント会社に対して、パンフレットとポスターの印刷代金180万円を請求していました。支払期日から3か月が過ぎても入金はなく、担当者に連絡しても「近いうちに」と言われるばかりです。内容証明郵便を送っても、反応はありませんでした。

印刷会社の担当者は、弁護士に相談しました。弁護士は、イベント会社が納品物の品質に不満を述べたことはなく、代金を争う様子もないことから、支払督促が向いていると判断しました。イベント会社の本店所在地を管轄する簡易裁判所に申し立て、請求の原因には、注文の日付、印刷物の内容と部数、請求書の番号と金額、支払期日を具体的に記載しました。

支払督促がイベント会社に届いてから10日後、社長から印刷会社に直接電話がありました。「裁判所から書類が届いて驚いた。一括は難しいが、3回に分けて払いたい」という申し出です。印刷会社は、弁護士と相談のうえ、1回でも遅れたら残額を一括で払うという条項を入れた合意書を交わし、念のため仮執行宣言の申立ても予定どおり行いました。

その後、イベント会社は3回の分割を約束どおり支払い、差押えに進むことなく全額が回収されました。仮執行宣言つきの支払督促という、いつでも差押えに進める書面があったことが、相手に約束を守らせる力になった例です。

個人の例も一つ挙げておきます。知人に貸した70万円が返ってこなかった方が、借用書と振込の記録をもとに、自分で支払督促を申し立てました。相手は異議を出し、「借りたのではなくもらった」と主張して訴訟に移りました。

訴訟では、借用書に相手の署名があり、返済期日も書かれていたため、相手の主張は通りませんでした。第2回の期日で、月5万円ずつ返済する内容の和解が成立しています。相手が異議を出したことで時間はかかりましたが、支払督促の段階で請求の内容を整理していたことが、訴訟でもそのまま役に立ちました。

ワンポイントアドバイス
支払督促が届いた後に相手から分割払いの申し出があっても、仮執行宣言の申立ては予定どおり進めておきましょう。分割払いが途中で止まったときに、すぐに差押えに進めるからです。合意した分割払いを守っている限り、差押えはしないと相手に伝えておけば、関係もこじれません。

この二つの例に共通するのは、支払督促を申し立てる前に、請求の根拠となる書類をきちんと整理していたことです。支払督促そのものは証拠を出さずに進みますが、相手が異議を出せば、その時点から証拠がものをいいます。「どうせ書類審査だけだから」と準備を省かず、訴訟になっても困らない状態で申し立てることが、結果として回収を早めます。

支払督促が向いている場面、向かない場面

ここまでの内容を踏まえて、支払督促を使うかどうかの判断の目安をまとめます。迷ったときは、相手が争ってくるかどうかを第一の基準にしてください。

向いている場面 向かない場面
相手が債権の存在や金額を争っていない 相手が品質や数量、金額について争っている
相手が支払いを後回しにしているだけ 相手が時間稼ぎのために異議を出すと予想される
相手の住所が分かっている 相手の住所が分からない
相手が近くにいる、または遠方でも訴訟になる可能性が低い 相手が遠方で、訴訟になれば負担が大きい
時効が迫っていて、すぐに手続きをとりたい 建物の明渡しや物の引渡しを求めたい

請求額が60万円以下で、相手が何らかの言い分を述べてきそうな場合は、少額訴訟も選択肢になります。少額訴訟は原則1回の期日で判決が出るので、支払督促で異議が出て訴訟に移るより早く決着することがあります。

ほかの手続きとの比べ方

比べる点 支払督促 少額訴訟 通常の訴訟
請求額 制限なし 60万円以下 制限なし
裁判所への出頭 不要 原則1回 複数回のことが多い
相手が争った場合 通常の訴訟に移る 相手が望めば通常の訴訟に移る そのまま審理が続く
申立先 相手の住所地の簡易裁判所 原則として相手の住所地の簡易裁判所 請求額に応じて簡易裁判所か地方裁判所
手数料 訴訟の半額 通常の訴訟と同じ 請求額に応じた額

弁護士に任せるべき場面

支払督促は、自分で申し立てることも十分にできる手続きです。ただし、請求の原因の書き方に不安がある場合、相手が異議を出して訴訟に移る可能性が高い場合、仮執行宣言の後の差押えまで見据えている場合は、弁護士に任せたほうが確実です。訴訟に移ったときの対応や、差押えのための財産の調査まで、一貫して進めることができます。

弁護士に依頼した場合の費用は、支払督促の申立てだけを頼むのか、異議が出た後の訴訟や差押えまで任せるのかによって変わります。依頼の範囲と費用の見通しを、最初に確かめておくと安心です。支払督促の段階で相手が支払いに応じれば、訴訟まで依頼した場合より費用を抑えられることもあります。

支払督促に関するよくある質問

支払督促を無視されたらどうなりますか

相手が支払督促を受け取って2週間、異議を出さなければ、債権者は仮執行宣言を申し立てることができます。仮執行宣言つきの支払督促が届けば、相手の財産を差し押さえることができます。無視を続けた相手は、最終的に差押えを受けることになります。

支払督促は、自分の会社の近くの裁判所に申し立てられますか

できません。支払督促は、相手の住所地(会社なら本店所在地など)を管轄する簡易裁判所の書記官に申し立てる必要があります。遠方の相手でも、郵送やインターネットで申し立てることは可能です。

支払督促で時効を止めることはできますか

できます。支払督促を申し立てると、手続きが続く間は時効の完成が猶予されます。支払督促が確定すれば、そこから新たに10年の時効期間が始まります。ただし、仮執行宣言の申立てを期限内にしなかったなどの理由で支払督促が効力を失うと、猶予は手続きが終わってから6か月に限られます。

相手の会社が倒産しそうなときも、支払督促でよいですか

相手の財産が失われそうなときは、支払督促だけでは間に合わないことがあります。差押えができるまでに1か月以上かかる間に、相手が財産を処分したり、ほかの債権者に先を越されたりするおそれがあるからです。その場合は、仮差押えで先に財産を押さえることを検討してください。

支払督促を出した後に、相手から全額が支払われました

相手が全額を支払えば、目的は達しているので、支払督促を取り下げます。仮執行宣言の申立ての前であれば、取下書を裁判所に出すだけで手続きは終わります。支払われたのが一部だけなら、残りの額について手続きを続けることもできます。

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