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強制執行の1種「動産執行」とは?手続き内容と流れを解説

この記事で分かること

  • 動産執行では色々なものが差し押さえられる。現金も動産執行で差し押さえる
  • 動産執行は申し立て手数料がかからず予納金も安い。
  • 動産執行で差し押さえられる財産が必ずしも価値があるとは限らない

不動産や債権に対する執行に比べて動産は動かせるもののほとんどがこれに当たります。つまり債務者が持っているもののほとんどが動産なのです。動産執行は不動産執行に比べて手続きが簡単で安い点がメリットですが、必ずしもお金になる動産ばかりと限りません。不動産執行や債権執行よりもリスキーになることもあり得ます。

動産執行とは個人や法人の持ち物を差し押さえること

民事執行の手段には不動産執行、債権執行、動産執行があります。動産執行は動産であれば差押え禁止財産を除いて回収できます。どんな債務者でも一つや二つは動産を持っているはずです。

ただし民事執行の目的はあくまで債権回収であることを忘れず、債務者の持っている動産の換金性もしっかり検討して下さい。

動かせるものはだいたい動産

動産とは動かせるものです。対になる概念の不動産が家や土地など限定的だったのに対し、動産の範囲は非常に広いです。例えば車、家電、家具などにはじまりアクセサリーや筆記用具、ティッシュやハンカチなども動産です。

ただし動かすのが容易でない船舶や航空機、大きな機械などは動産であるものの民事執行においては不動産執行に準じます。このようなものを準不動産と呼びます。また、自動車を差し押さえる時も通常の動産執行とは少し異なる手続きがあります。

現金は動産、預金は債権

民事執行で気になるのはお金の扱いですが、実体のある現金や有価証券は動産執行で銀行に預けている預金は債権執行で差し押さえます。

差押え禁止財産とは

モノであればあらゆるものが動産に分類されるといって差し支えないでしょう。もし、なんの救済もなく動産執行すれば債務者は身ぐるみ全て剥がされ生活できなくなってしまいます。そこで、我が国は差押え禁止財産というものを定めています。

差押えが禁止されている財産は生活や仕事に欠かせないもの、そして66万円までの現金です。また、仕事が継続できたとしても個人情報を管理しているパソコンなども差し押さえることができません。

ゆえに動産執行ができる相手はある程度生活に余裕がある人と考えられます。

動産執行をするために必要なもの

相手の財産を取り上げる民事執行をするためには相当の根拠が必要です。
動産執行をする場合には質権の実行と強制執行の2通りが考えられます。

質権の実行

あらかじめ質権を定めていた場合は預かっていた動産と根拠となる契約書があれば目的物を換金できます。動産は競売にかけても大した金額で売れないことが多く、正当な理由を以って自由な換金を認められます。

強制執行

強制執行をするためには債務名義と呼ばれる差押えの根拠が必要です。債務名義として使えるものにはこのようなものがあり、執行文の付与を忘れずに行いましょう。

  • 判決(上訴中でも仮執行宣言があれば可能)
  • 和解調書、調停長所
  • 差押えについての承諾が認められる公正証書
ワンポイントアドバイス
動産執行は執行できる財産が多い反面、不動産執行のようにまとまったお金を得られる保証がありません。ただ、貴金属や宝石のように換金性の高い動産がある時や現金を隠している場合なら動産執行が有効です。

動産執行をするためには債務名義に執行文付与の手続きを忘れずに行いましょう。

動産執行の流れを紹介

動産手続きの流れはこちらです。

  1. 申し立て
  2. 差押えの手配
  3. 差押え
  4. 債権の充当

動産は持ち運べるので差押えとともに没収します。この点が不動産執行と比べて大きく異なる点です。

1.申立て

動産執行の申し立ては管轄の地方裁判所で行います。

以下の書類を提出します

  • 民事執行申立書(不動産執行の場合と共通)
  • 資格証明書(法人の場合)
  • 債務名義(正本)
  • 執行場所の地図(債務者の家など)
  • 当事者目録

その他、債務名義と住所氏名が違う場合は住民票や戸籍謄本が、申し立てを弁護士にお願いする場合は委任状が必要になります。

執行官に支払う予納金は3〜4万円が相場です。

2.差押えの手配

差押えの手配を行います。執行官と面談をして日程と待ち合わせ場所を決めましょう。差押えの現場には債権者も立ち会うことが可能です。動産を運ぶ車両は債権者が準備します。金庫の会場が必要な時には債権者が業者を手配します。

債務者に対しては事前の通知が送られます。

3.差押え

差押えを行います。現場に立ち入り動産を持ち帰ります。この時、債権者自身は建物内に乗り込めないので注意してください。執行官が調査した結果見つかった財産から指定して差押えます。

執行官が立ち入るといっても税務調査のように大掛かりなことはしません。床下や壁まで無理やり掘り返すことはないです。

差し押さえが終わったらトラックなどに載せて持ち帰ります。

4.債権の充当

差押えた動産は売却され、その売り上げから債権回収ができます。債権者が複数いるときは債権者平等の原則により平等に配当されます。

そのものを受け取ることも可能です。

ワンポイントアドバイス
動産執行をするときは財産を持ち帰る用意も必要です。トラックの手配を忘れずに行いましょう。また、債務者がいなければ立ち入れない点もご注意ください。

余裕がない債務者には動産執行が空振りしやすい?

動産執行は空振りするリスクが高いです。なぜなら資力のない人はそもそも多くのものを持っていないし仮に差し押さえられそうな動産が多い人であっても生活に困ったからと売り飛ばしている場合が考えられます。

また、動産執行が失敗しやすい理由にはこのような理由もあります。

動産の価値がない

まず、動産の価値がないことです。宝石や貴金属であればそれなりの価値が見込めるのですが、家具や機材、電化製品などは劣化していきます。その結果購入価格の10分の1くらいの値段なることも珍しくありません。リサイクルショップに行けばいかに中古品の価格が安いかわかるはずです。

たとえ法人相手に大きめの機材を差し押さえられたとしてもそれを正価で換金できるかわからないし買い手が見つからないことさえあります。

差し押さえる財産は基本的に換金して5000円以上になるものだけです。

めぼしい財産が借り物

リースで設備を借りている場合は差し押さえができません。債務者の所有物でないから当然ですね。ただし借り物であることを証明できない場合は債務者の財産として差し押さえることが可能です。

執行官の調査がゆるい

執行官の調査といえばドラマティックなものを想像しがちですが、動産執行の場合は家を傷つけるような調査をしません。税務署の査察とはまるで違います。だから債務者が財産を隠してしまった場合は差し押さえしづらいです。

もし、隠し財産を差し押さえる場合は隠し場所を見つけてその住所で裁判所に申し立てる必要があります。

ワンポイントアドバイス
動産は差し押さえやすい反面、処分や隠匿しやすいという特徴を持っています。したがって動産執行を考えているなら仮差押をした方が良いでしょう。ただし仮差押をしたところで換金価値の低い財産ばかりでは身も蓋もありません。やはり財務調査が実現性のカギを握ります。

動産執行しかない?という場合は弁護士に依頼してしっかり財産調査しよう

民事執行の目的は債務者を困らせることでなく債権者の損失を補うことにあります。動産執行をするなら前以て財産調査をし、財産を処分できないよう仮差押の手続きをしましょう。動産執行の流れや債務者との駆け引きにお困りならぜひ弁護士へ相談しましょう。

債権回収を弁護士に相談するメリット
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