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相手の土地や建物から回収する
判決を取ったのに、相手はいっこうに支払わない。預金の口座を差し押さえてみたが、残高はほとんどなかった。けれども、相手は自宅や工場の土地建物を持っている。こうした場合に検討するのが、不動産執行です。
不動産執行は、相手の土地や建物を差し押さえ、裁判所の手続きで売却し、その代金から回収する手続きです。売却の手続きはすべて裁判所が進めます。一般に「競売」と呼ばれるもので、不動産は価値が大きいため、うまくいけばまとまった額を一度に回収できます。
その一方で、不動産執行は、強制執行の中でも時間と費用がかかる手続きです。申立てから配当まで1年近くかかることも珍しくなく、裁判所に納める予納金も高額になりがちです。さらに、相手の不動産に銀行の抵当権がついていれば、売却代金はまず銀行に配当され、一般の債権者には何も残らないこともあります。不動産執行を申し立てる前に、回収できる見込みを見きわめることが何より大切です。
この記事では、債権回収の依頼を受けている弁護士の立場から、不動産執行の種類と仕組み、申立ての要件と費用、競売の流れ、配当の順位、回収の見込みの判断、任意売却との比較までを説明していきます。
不動産執行は、強制執行の中で最後に検討されることの多い手続きです。預金や給料の差押えで回収できない相手でも、不動産を持っていれば、まだ回収の道は残っています。手続きの特徴を知ったうえで、使うべき場面を見きわめてください。
不動産執行の種類
不動産から回収する手続きには、判決などに基づく強制執行と、抵当権などの担保権に基づく担保権の実行があります。どちらを使えるかは、担保を取っているかどうかで決まります。さらに、それぞれに、不動産を売却する方法と、家賃などの収益から回収する方法があります。
| 手続き | 根拠 | 回収の方法 |
|---|---|---|
| 強制競売 | 判決などの債務名義 | 不動産を売却し、代金から配当を受ける |
| 強制管理 | 判決などの債務名義 | 不動産の家賃などの収益から配当を受ける |
| 担保不動産競売 | 抵当権などの担保権 | 不動産を売却し、代金から優先して配当を受ける |
| 担保不動産収益執行 | 抵当権などの担保権 | 不動産の家賃などの収益から優先して配当を受ける |
担保を取っていない債権者が使うのは、判決などに基づく強制競売か強制管理です。この記事では、主に強制競売を中心に説明します。担保を取っている債権者は、判決を取らなくても、担保権に基づいて競売を申し立てられます。
差し押さえられるのは、土地や一戸建ての建物だけではありません。分譲マンションの一室、借地の上に建てた建物、相手が共有する土地の持分なども対象になります。借地の上の建物を競売にかけた場合、買受人は借地権も一緒に引き継ぐことになるので、地主の承諾をめぐる手続きが必要になることもあります。
強制競売と担保不動産競売の違い
二つの手続きは、売却の流れはほぼ同じですが、申し立てるために必要なものと、配当での扱いが違います。
| 比べる点 | 強制競売 | 担保不動産競売 |
|---|---|---|
| 申し立てるのに必要なもの | 判決などの債務名義 | 担保権があることを示す書面(登記事項証明書など) |
| 配当の順位 | 担保権を持つ債権者の後 | 登記の順位に応じて優先される |
| 判決を取る手間 | 必要 | 不要 |
家賃から回収する強制管理
相手がアパートや貸しビルを持っている場合は、売却せずに、家賃から回収する強制管理という方法もあります。裁判所が選んだ管理人が、相手に代わって不動産を管理し、借主から家賃を受け取って、管理の費用を差し引いた残りを債権者に配当します。売却に比べて一度に回収できる額は少ないものの、毎月の家賃から継続的に回収でき、競売のように価格が下がる心配もありません。家賃の差押えという債権執行の方法と比べて、借主が入れ替わっても効力が続く点が特徴です。
申し立てる前に確かめたいこと
不動産執行は、申し立てれば必ず回収できる手続きではありません。むしろ、申し立てても回収できない場面のほうが多いと考えておくくらいが安全です。申し立てる前に、次の点を必ず確かめてください。
差押えの効果
競売の開始が決まり、差押えの登記がされると、相手はその不動産を売ったり、新たに担保に入れたりしても、差押えをした債権者に対抗できなくなります。一方で、相手は売却が終わるまで、その不動産に住み続けたり、事業に使い続けたりすることができます。差押えの登記がつくと、相手は金融機関から新たな借入れを受けることも難しくなるので、支払いの話し合いに応じるきっかけになることがあります。
登記簿で所有者と担保を確かめる
まず、法務局で不動産の登記簿を取り寄せ、所有者が相手本人であることを確かめます。登記簿は、誰でも手数料を払えば取得できます。相手が住んでいる家でも、名義が家族のものであれば、差し押さえることはできません。
次に、抵当権や根抵当権がついていないか、ついていればその額と順位を確かめます。登記簿に記載された額は設定した当初の額なので、実際の借入れの残高はそれより少ないこともありますが、目安にはなります。
相手の不動産を探す方法
相手がどこに不動産を持っているか分からない場合は、相手の住所や本店所在地の土地建物の登記簿から調べ始めます。それで見つからなければ、財産開示手続を経たうえで、登記所から相手が所有する不動産の情報を取り寄せる手続きを使うことができます。この手続きを使えば、全国の不動産を対象に調べられるので、相手が遠方に土地を持っていても見つけられます。
不動産の価値を見積もる
不動産の価値は、不動産会社の査定や、周辺の取引事例、固定資産税の評価額などから見積もります。競売での売却価格は、一般の市場での価格より低くなるのが通常なので、見積もった価値から差し引いて考える必要があります。
固定資産税の評価額は、固定資産評価証明書で確かめられます。この証明書は、所有者でなくても、判決などの債務名義を持つ債権者であれば、市町村の窓口で取得できることがあります。申立てにも必要な書類なので、早めに取り寄せておきましょう。
回収の見込みを計算する
見積もった価値から、先の順位の抵当権の額と、手続きの費用を差し引いて、自社に回ってくる額がどれだけ残るかを計算します。
| 項目 | 例 |
|---|---|
| 不動産の見込み売却額 | 2,500万円 |
| 先の順位の抵当権(銀行の残高) | -1,800万円 |
| 手続きの費用など | -100万円 |
| 一般の債権者に回る可能性がある額 | 600万円 |
計算してみて、この額がほとんど残らない場合は、不動産執行を申し立てても、回収できないばかりか、手続きが途中で取り消されることもあります。
計算の結果、回収の見込みが小さいと分かった場合でも、あきらめる前に確かめたいことがあります。銀行の抵当権の実際の残高は、登記簿の設定額よりずっと少ないことがよくあります。住宅ローンなら、設定からの年数で残高をおおよそ推し量れます。また、相手が複数の不動産を持っていれば、抵当権のついていない物件があるかもしれません。
弁護士と一緒に判断する
不動産執行を申し立てるかどうかは、回収の見込み、費用、時間、相手との関係を総合して判断する必要があります。とくに、先の抵当権の残高や、競売での売却価格の見込みは、経験がないと見積もりにくいものです。弁護士に登記簿と査定の資料を見せ、申し立てる価値があるかを一緒に検討してください。見込みが低ければ、ほかの財産の差押えや、相手との分割払いの交渉を優先するほうが合理的なこともあります。
申立てに必要な書類と費用
強制競売は、不動産の所在地を管轄する地方裁判所に申し立てます。相手の住所地ではなく、不動産がある場所の裁判所である点に注意してください。
| 必要なもの | 内容 |
|---|---|
| 強制競売申立書 | 当事者、請求債権、差し押さえる不動産を書く |
| 執行力のある債務名義の正本 | 判決などに執行文を付けたもの |
| 送達証明書 | 債務名義が相手に届いたことの証明 |
| 不動産の登記事項証明書 | 差し押さえる土地建物のもの |
| 固定資産評価証明書 | 登録免許税の計算などに使う |
| 公図、建物図面など | 不動産の位置や形を示すもの |
申立書には、差し押さえる不動産を、登記簿の記載どおりに正確に書く必要があります。土地なら所在、地番、地目、地積、建物なら所在、家屋番号、種類、構造、床面積です。記載が登記簿と食い違うと、差押えの登記ができないことがあるので、登記事項証明書を見ながら書き写してください。
費用
| 費用 | 内容 |
|---|---|
| 申立ての手数料 | 4,000円 |
| 差押えの登記の登録免許税 | 請求債権額の1,000分の4 |
| 予納金 | 執行官の現況調査や評価人の評価、売却の手続きのための費用。請求額や裁判所によって異なる |
| 郵便切手 | 通知などのための切手 |
予納金は、不動産執行の費用の中で最も大きなものです。金額は申し立てる裁判所に確かめてください。売却が終われば、使われなかった分は返ってきますし、手続きの費用は配当の際に優先して回収できますが、申立ての時点では、まとまった額を用意しなければなりません。
執行官の現況調査
競売の開始が決まると、執行官が不動産を訪れて、建物の中の様子や、誰が住んでいるか、借主がいるかといった現況を調べます。相手が不在でも、執行官は鍵を開けて中に入ることができます。調査の結果は現況調査報告書にまとめられ、買い手が入札を判断する資料になります。借主がいる場合は、その賃貸借が買受人に引き継がれるかどうかも、ここで確かめられます。
競売の流れ
強制競売は、一般的に次のような流れで進みます。担保不動産競売も、ほぼ同じ流れです。
- 債権者が申立てをし、裁判所が競売の開始を決定して、差押えの登記がされる。
- 執行官が不動産の現況を調べ、評価人が不動産の価値を評価する。
- 裁判所が売却の基準となる価額を決め、物件の資料(いわゆる3点セット)を公開する。
- 一定の期間、入札を受け付ける。
- 開札で最も高い額を入れた人が買受人に決まり、裁判所が売却を許可する。
- 買受人が代金を納め、所有権が移る。
- 裁判所が配当表を作り、債権者に配当する。
申立てから開札までは半年ほど、配当までは8か月から1年ほどかかるのが一般的です。裁判所の混み具合や、物件の状況によっても変わります。
相手に届く通知と相手の動き
競売の開始が決まると、その決定は相手にも届けられます。多くの相手は、この段階で、自宅や事業所を失う現実を目の前にして、支払いの話し合いを求めてきます。任意売却や分割払いの申し出があれば、競売を続けながら話し合いを進めることができます。相手が何の反応も示さない場合は、そのまま売却の手続きが進みます。
入札の期間と開札
売却の日程が決まると、裁判所は入札を受け付ける期間と、開札の日を公告します。物件の情報は裁判所のウェブサイトなどで公開され、誰でも3点セットを見て入札できます。入札の期間は通常1週間から1か月ほどで、期間が終わった後に開札が行われ、最も高い額を入れた人が買受人の候補になります。
競売の手続きは、裁判所が主導して進めます。申し立てた債権者が、買い手を探したり、売却の価格を決めたりすることはありません。その分、債権者の手間は少ないのですが、手続きの進み具合を自分で早めることもできません。回収を急ぐ場合は、任意売却の話し合いを並行して進めることが重要になります。
3点セットと売却基準価額
裁判所は、売却の前に、物件明細書、現況調査報告書、評価書の三つの資料を公開します。これらは3点セットと呼ばれ、買い手は、これを見て入札するかどうかを判断します。
評価人の評価をもとに、裁判所は売却基準価額を決めます。入札は、売却基準価額の8割の額(買受可能価額)以上でしなければなりません。競売の不動産は、市場で売られる不動産と比べて、内部を見られない、占有者がいることがあるといった事情から、価額が低めに設定されています。
2020年4月からは、暴力団員やその関係者が競売で不動産を買い受けることが禁止されました。入札する人は、自分が暴力団員などでないことを陳述する必要があり、裁判所は警察に照会して確かめます。
買受人への引渡し
買受人が代金を納めると、不動産の所有権は買受人に移ります。相手が退去しない場合、買受人は、代金の納付から一定の期間内に、裁判所に引渡命令を申し立てることができ、これに基づいて明渡しの強制執行をすることができます。競売の不動産が市場より安く売られる理由の一つは、こうした引渡しの手間と費用を買受人が負うことにあります。
買受人が決まらなかったら
入札が一件もなければ、特別売却という方法で、買受可能価額以上で先着順に買い手を探します。それでも売れなければ、売却基準価額を下げて、あらためて入札を行います。何度やっても売れない場合は、手続きが取り消されることもあります。
競売の手続きの間、債権者がすることはそれほど多くありません。裁判所から求められた書類を出し、配当の期日に出頭して配当を受け取るのが主な役割です。ただし、相手からの任意売却の申し出や、ほかの債権者の動きには、その都度対応が必要になるので、弁護士と連絡を取り合いながら進めます。
配当の順位|誰から先に受け取れるか
売却代金は、法律で決められた順位に従って配当されます。この順位を知っておくことが、回収の見込みを判断する前提になります。
| 順位 | 受け取る人 |
|---|---|
| 1 | 手続きにかかった費用(申立てをした債権者が立て替えた予納金など) |
| 2 | 抵当権などの担保権を持つ債権者(登記の順番に従う) |
| 3 | 税金や社会保険料(法定納期限が抵当権の設定より前のものは、抵当権より先に配当されることがある) |
| 4 | 担保を持たない一般の債権者(債権額に応じて按分) |
担保を持たない一般の債権者は、順位の最後に置かれます。判決を持っていても、この順位は変わりません。申し立てた債権者であっても、ほかの一般の債権者より優先されるわけではありません。ほかの債権者が配当を求めてくれば、債権額に応じて分け合うことになります。
ほかの債権者の配当要求
自社が申し立てた競売に、ほかの債権者が配当を求めて加わってくることがあります。配当を求められるのは、判決などの債務名義を持つ債権者、差押えの登記より前に仮差押えの登記をしていた債権者、先取特権を持つ債権者などです。配当要求には期限があり、裁判所が定めた終期までに申し出なければなりません。反対に、自社がほかの債権者の申し立てた競売に加わりたい場合も、この期限を守る必要があります。
税金の滞納に注意
相手が税金を滞納していると、税務署や自治体が配当を求めてきます。税金は、法定納期限が抵当権の設定より前であれば、抵当権より先に配当されることもあり、一般の債権者に回る額は、さらに減ります。相手の税金の滞納は、登記簿に差押えの登記がされていることで分かることがあります。
配当の順位を踏まえると、担保を持たない一般の債権者が不動産執行で多く回収できるのは、抵当権がついていないか、残高が小さい不動産に限られます。担保を取っていれば順位は大きく上がるので、取引の段階で担保を取っておく意味が、ここでもはっきり表れます。
相手が破産した場合
強制競売の途中で相手が破産すると、強制競売は効力を失い、不動産は破産管財人の管理に移ります。一般の債権者は、破産手続の中で配当を受けることになります。一方、抵当権に基づく担保不動産競売は、相手が破産しても続けることができます。担保を持っているかどうかで、相手の破産の影響が大きく違ってくるのです。
配当に異議があるとき
配当表に納得できない場合は、配当期日に異議を申し出ることができます。ほかの債権者の債権が実際には存在しない、額が水増しされている、といった場合です。異議を申し出た後、1週間以内に配当異議の訴えを起こす必要があります。
配当を受けても債権の全額を回収できなかった場合、残りの債権は消えません。引き続き相手に請求でき、相手のほかの財産を差し押さえることもできます。判決などで確定した権利は10年間有効なので、相手の状況が変わったときに、あらためて回収を試みることができます。
配当を受けるには、配当期日に裁判所に出頭するか、事前に書面で手続きをしておく必要があります。配当金は、裁判所から債権者の口座に振り込まれるのが一般的です。配当を受けたら、残った債権の額を確かめ、次の回収の手段を考えます。
任意売却という選択肢
競売のほかに、相手に不動産を市場で売ってもらい、その代金から支払いを受ける方法もあります。これを任意売却といいます。実務では、競売より任意売却で決着することのほうが多いくらいです。
| 比べる点 | 競売 | 任意売却 |
|---|---|---|
| 売却の価格 | 市場の価格より低くなりやすい | 市場の価格に近い額で売れやすい |
| 時間 | 配当まで1年近くかかることも | 買い手が見つかれば数か月で終わる |
| 費用 | 予納金が必要 | 仲介手数料などを売却代金から支払う |
| 相手の協力 | 不要 | 必要 |
| 担保権者の同意 | 不要 | 抵当権を消すために必要 |
任意売却は、相手の協力と、抵当権を持つ銀行などの同意が必要です。それでも、競売より高く、早く売れることが多いので、債権者にとっても相手にとっても得になることがあります。競売の申立てをしたうえで、並行して任意売却の話し合いを進めることもよくあります。競売が進んでいるという事実が、相手に任意売却への協力を促すきっかけになるからです。
任意売却で売れた代金は、抵当権を持つ債権者に配当した残りを、一般の債権者で分け合います。一般の債権者に配当する額は、抵当権者や相手との話し合いで決まるので、弁護士を通じて交渉するのが一般的です。
任意売却は、相手にとっても利点があります。競売で安く売られるより高く売れれば、残る借金が少なくなります。引越しの時期もある程度調整でき、近所に競売の事実が知られることも避けられます。こうした相手の利点を伝えることで、協力を得やすくなります。
任意売却で一般の債権者に配当されるには
任意売却の代金が、抵当権を持つ銀行の残高を上回らない場合でも、銀行が抵当権を消すことに同意すれば売却はできます。このとき、差押えや仮差押えをしている一般の債権者にも、登記を消してもらうための配当、いわゆるハンコ代が支払われることがあります。差押えの登記をしておくことは、任意売却の場面でも、配当を受ける立場を確保する意味があります。
任意売却の進め方
- 相手に任意売却の意思を確かめ、不動産会社に売却を依頼してもらう。
- 抵当権を持つ銀行などに、売却価格と配当の案を示して同意を得る。
- 買い手を探し、売買契約を結ぶ。
- 決済の日に、売却代金から抵当権者と一般の債権者に配当し、抵当権と差押えの登記を消す。
決済の場には債権者も立ち会い、売却代金の配分を確かめます。競売を申し立てている場合は、決済と同時に申立てを取り下げます。
具体例で考える|相手の自宅を競売にかけたケース
ある建設会社は、個人で内装業を営む相手に対して、貸付金800万円の返済を求める判決を得ていました。相手の預金はほとんどなく、給料もないため差し押さえられませんでしたが、相手は自宅の土地建物を所有していました。
弁護士は登記簿を取り寄せ、銀行の住宅ローンの抵当権が設定されていることを確かめました。設定額は3,000万円でしたが、設定から15年以上が過ぎていて、残高は1,000万円ほどと見込まれました。不動産会社の査定では、自宅の価値は2,800万円ほどでした。競売で市場の価格より下がることを考えても、銀行に配当した後に、一定の額が残る見込みがありました。
建設会社は強制競売を申し立て、予納金を納めました。競売の開始が決まり、差押えの登記がされると、相手から連絡があり、自宅を任意売却して返済したいという申し出がありました。銀行も任意売却に同意し、自宅は市場の価格に近い2,600万円で売れました。銀行への返済と売却の費用を差し引いた残りから、建設会社は800万円と遅延損害金の全額を回収し、競売は取り下げました。
競売の申立てが、相手に任意売却を決断させるきっかけになった例です。競売で売れていれば、価格はもっと低く、回収できる額も少なかったかもしれません。
この例では、相手の自宅の価値と銀行の残高を事前に見積もったことで、回収できる見込みがあると判断できました。見積もりをせずに申し立てていれば、無剰余で取り消されるのではないかという不安を抱えたまま手続きを進めることになったでしょう。申し立てる前の計算が、手続きを安心して進める土台になります。
不動産執行で回収を確実にするための工夫
不動産執行は、時間と費用がかかる分、準備と見きわめが成否を分けます。次の点を意識すると、回収の確実さが高まります。
- 申し立てる前に、登記簿、査定、先の抵当権の残高から、回収の見込みを計算する
- 相手の不動産が複数あれば、抵当権のついていない物件や、価値の高い物件を優先する
- 競売の申立てと並行して、任意売却の話し合いの余地を探る
- 相手の税金の滞納や、ほかの債権者の差押えがないかを確かめる
- 相手が収益物件を持っていれば、強制管理や家賃の差押えも検討する
相手が法人か個人かで変わること
相手が会社であれば、本社や工場の土地建物、社宅などが対象になります。会社の不動産には、金融機関の根抵当権がついていることが多く、一般の債権者に回る額は限られがちです。相手が個人であれば、自宅が主な対象になりますが、住宅ローンの残高が大きいと、回収の見込みは下がります。どちらの場合も、登記簿の抵当権の設定時期と額から、残高を推し量ることが第一歩です。
もう一つ、収益物件を持つ相手の例も挙げておきます。取引先の社長が個人で貸しアパートを持っていたため、社長の保証債務について判決を得た債権者が、アパートの強制管理を申し立てました。管理人が家賃を受け取り、管理の費用を差し引いた残りが毎月配当され、2年ほどで全額を回収できました。アパートには銀行の抵当権がついていましたが、家賃の収入が安定していたため、売却するより、家賃から回収するほうが確実だと判断した例です。
三つの例を見ると、不動産執行は、競売で売り切ることだけが目的ではないことが分かります。競売の申立てをきっかけに任意売却へ進む、売らずに家賃から回収する、というように、相手の状況に合わせて最も多く回収できる方法を選ぶことが大切です。
不動産執行に関するよくある質問
相手が住んでいる家でも、競売にかけられますか
かけられます。相手の名義の不動産であれば、住んでいるかどうかにかかわらず、差し押さえて競売にかけることができます。買受人が決まった後、相手が退去しなければ、買受人は裁判所の引渡命令を得て、明渡しの強制執行をすることができます。
抵当権がついている不動産でも、差し押さえられますか
差し押さえることはできます。ただし、売却代金はまず抵当権を持つ債権者に配当されるので、残りがなければ回収できず、手続きが取り消されることもあります。申し立てる前に、回収の見込みを計算してください。
相手が共有している不動産は、どうなりますか
相手が家族と共有している不動産は、相手の持分だけを差し押さえることができます。ただし、持分だけでは買い手がつきにくく、売却価格も低くなりがちです。共有者に持分を買い取ってもらうよう交渉する方法も考えられます。
競売の手続き中に、相手が支払ってきたらどうなりますか
相手が請求額の全額と手続きの費用を支払えば、申立てを取り下げて手続きを終わらせます。買受人が代金を納める前であれば、取り下げが可能です。ただし、買受人が決まった後に取り下げるには、買受人の同意が必要になることがあります。
予納金は返ってきますか
手続きが終わった後、実際に使われなかった分は返還されます。また、手続きにかかった費用は、売却代金から最優先で配当されるので、売却が成立すれば、立て替えた費用の多くを取り戻せます。売却に至らずに手続きが取り消された場合は、使われた分は戻らないことがあります。
競売にはどのくらいの期間がかかりますか
申立てから開札までは半年ほど、配当までは8か月から1年ほどが目安です。買い手がつかずに売却をやり直すと、さらに時間がかかります。
