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物的担保による優先弁済~債務者への貸倒れを予防する

この記事で分かること

  • 物的担保は優先弁済を受けるための権利
  • 契約における物的担保は質権と抵当権だが、モノ以外に設定することもできる
  • 担保物権を実行するときは裁判所に申し立てよう 

貸し倒れを防ぐためには担保を設定しておきましょう。担保とはお金が支払えない時に備えたもので、よく「借金のカタに〇〇を…」という話を聞きますね。すでにお金に換えられるものを差し押さえておけば債務不履行によって被るリスクが減ります。債務者にとっては与信を広くできるメリットになるでしょう。

物的担保とは物で債務を優先的に弁済してもらうこと

借金のカタに家や車を差し押さえられたという話をよく聞きますが、債務を支払えない時に提供されるものを担保と言います。契約の時に担保を設定していればそこから弁済してもらえるので借金や売掛金を一切支払ってもらえないという悲劇をまぬがれます。

担保には物的担保と人的担保がある

担保は大きく分けて物的担保と人的担保があります

物的担保

ものを担保にする制度です。家や土地、車、そのた様々な財物を担保に契約をするのでいざという時はそれらをお金に換えて、あるいはそれらをそのまま受け取って債権を充当します。金銭債権についても物的担保として扱われることがあります。

人的担保

人を担保にするといっても全時代的な身売りではありません。保証人や連帯保証人など別の誰かに借金を肩代わりしてもらう制度の総称です。つまり、信頼おける他人の資力を担保に契約をしているわけです。

学生の一人暮らしで連帯保証人が必要だったのも、しっかり家賃を払える人を確保するためというわけです。

お金がない時に物で弁済するのは当たり前。では担保権の意義は?

ただ、通常の債権回収でもお金以外のものを差し押さえることはできますし自己破産や個人再生をした場合も物を売り払っての弁済は当たり前に行われます。そうなると担保権の意義はなんなのでしょうか?

その答えは、優先弁済権にあります。

たとえばAさんがBさんにお金を500万円貸したとします。Aさんは「Bさんは1000万円の土地を持っているのでいざという時はそれを差押えよう」と思っていたのですが債務不履行になった時、BさんがCさんにも800万円お金を借りていたことが明らかになりました。しかも、Cさんは土地を担保にしてお金を借りていたのでCさんには800万円返ってくるのにAさんは残りの200万円しか返してもらえませんでした。

もし、Cさんより先に担保の契約をしてその旨を登記していればAさんが500万円、Cさんも500万円弁済されていました。

この違いこそが物的担保の意義です。

担保契約の前には入念な下調べを

担保契約をする前にはしっかりと下調べをしてください。財産はあってもすでに誰かの弁済に充てられるような契約になっているなら不利です。そもそも取引をするなら経営に余裕があって不払いを起こしていない取引先を選ぶべきですが、信頼できない場合は担保が安全な取引のよりどころになります。

ワンポイントアドバイス
物的担保とは優先弁済の権利をある財物に設定するもので、その権利を担保物権と呼びます。担保物権を設定できるものは不動産や動産のほか金銭債権も該当します。担保があるとそこからお金を払ってもらえるため貸し倒れを防げます。信用できない取引先に対しては忘れずに担保を設定しておきましょう。

物的担保の権利は4種類。契約で決められる担保物権はそのうち2種類

物的担保と一口に言ってもその客体となるものや担保物権の形は様々です。担保物権は大きく分けて法廷担保物権と約定担保物権に分けられます。

法廷担保物権とはなんの合意なしに発生している担保物権のことで先取特権と留置権があります。

約定担保物権とは合意によって定められる担保物権のことで抵当権と質権がこれに当たります。

そのほかにも譲渡担保契約などの非典型担保権が認められています。

先取特権

先取特権とはある財物や債権に対して当然に認められる優先弁済権です。例えば売買契約をしたのに売掛金が払われなければ、売り渡したものから優先的に弁済を受けることが認められています。

他には不動産を貸している人は共益費や賃借人が備え付けた家具に対しての先取特権を持っています。労働者が優先的に給与を支払ってもらえるのも実は先取特権が関わっています。

留置権

留置権とはそのものが原因で発生した債権について支払ってもらうまで当該動産を留置しておく権利です。例えば車の修理をした時お金を支払ってもらうまで引き渡さなくて良いのは留置権の典型です。留置権も契約での取り決めなしで認められる法廷担保物権です。

抵当権

抵当権とは主に不動産に対して設定される担保で、債務を支払えない時にその抵当不動産(車や船など動産の場合もあり)を売り払ったお金から弁済を受ける権利のことを言います。よく、借金のカタに土地や家を取られてしまうような表現がありますが実際にそのものが奪われるのではありません。

抵当権は複数設定することができ、優先弁済を受けられる順番を抵当順位と言います。抵当権を設定するためには登記が必要です。抵当権は複雑な制度で取引先の企業が多重債務に陥っているときは抵当権を設定できないこともあります。

相手の不動産を担保に契約したい時はよく弁護士と相談してください。

質権

質権は動産を預かる代わりにお金を貸す契約です。質権は債務を履行するまで対象となる財物が債権者の手の内にあることが特徴的です。「信用のためにこの〇〇を預かっておくぞ」というやりとりは質権の契約と言えますね。質権は物を引き渡すことで成り立つ契約ですが複数の債権者が質権を設定できるようです。

質権が設定された財産は債務不履行によって競売にかけられます。

債務者が第三債務者に対して持っている債権を質に入れるときは債務不履行を理由に債権者が第三債務者に対する取り立てをできるようになります。

譲渡担保

譲渡担保は担保とされた目的物から弁済するのではなく目的物そのものを相手に譲りわたすものです。債権についても譲渡担保の一つとして契約が可能です。債権を譲渡担保にした場合は将来発生する債権もひとまとめにできます。

抵当権は設定できないし質権を設定するにはあまりに大きすぎるものに対しては譲渡担保の契約をしておくと便利です。

ワンポイントアドバイス
物的担保と一口に言ってもいくつかの種類があります。契約で問題となるのは約定担保である抵当権や質権、そして譲渡担保ですが法律問題となれば先取特権や留置権も関わってきます。物件は制度が複雑であるため担保契約で迷ったら弁護士に頼りましょう。

物的担保で貸し倒れを防ぐには裁判所へ申し立てを

物的担保を設定したからと言って債務不履行が起きたらすぐに担保物権を行使できるわけではありません。それでは債務者の安全が守られません。例外として譲渡担保など非典型担保物権の場合は法律で決められていないため裁判所の手続きなしで担保物権を実行できます。

不動産の場合は競売して収益を得る

不動産の場合は競売してその収益を弁済に充てます。競売とは裁判所が行うオークション形式のものですが、任意売却に比べて金額が安くなりがちです。そこまで踏まえて抵当権を設定するようにしてください。

競売の申し立ては裁判所に行います。担保物権の証明が必要なので契約時の手続きは怠らないでください。

ちなみに、賃貸不動産が担保になっている場合は担保不動産収益執行という形で賃料を回収できます。(物上代位も可能です。)

動産の場合も競売をして収益を得る

不動産の競売はよく聞きますが、動産も競売が行われます。動産の競売も不動産のお競売と同じく裁判所への申し立てが必要です。ただ、動産は不動産のように必ずしも効果になると限らないし時には競売の価格が安すぎて十分に債権回収できないことも考えられます。

例えば質権を実行する場合、競売をすることによって収益が大幅に少なくなってしまう恐れがある場合は競売にかけず動産そのものを得られます。

担保物権を行使できるのは債権を補填できる分だけ

担保物権を行使して目的物をお金に換えた結果、債権を持つ金額より高額になることがあります。担保物権はあくまで債務を実行するためのものですから債権を補ってあまりある分は債務者に返さなくてはいけません。

債権を担保にする場合も、こちらに支払われるべき金額以上の取り立てはできません。

意外と気をつけたい詐害行為取消権とは

担保を設定できれば絶対に貸し倒れを防げると言いたいところですが、必ずしもそうとは限りません。なぜなら、他の債権者に大きく不利益を与える債務者の行為は詐害行為取消権で阻止できるからです。詐害行為取消権は別名債権者取消権とも言います。

詐害行為取消権は債務者が詐害行為をした時にそれを取り消す権利で、物的担保については「すでに複数の債権者がいるにも関わらず新しい債権者にだけ抵当権を認めた」ような場合に問題となります。他の債権者に不利益を与えることや詐害行為の前に債権が存在したことが要件となります。

そのため、担保権を設定したのに詐害行為取消権でなかったことにされてしまわないよう注意してください。逆に抵当権設定者としては「抵当権を設定した土地が相場より大幅に安い価格で売り渡された」ような場合に不利益を被るので詐害行為取消権を行使して自分の権利を守れます。

担保物権を行使できないときは物上代位

物上代位とは担保物権を行使できなくなった時に、その原因に対する賠償金などの請求権を行使できる制度のことです。例えば家屋が放火で燃やされてしまったら抵当権を設定した人が放火した犯人に損害賠償を請求できます。動産の場合も同様で盗まれた、壊されたときは失った価値に応じて賠償してもらえます。

ワンポイントアドバイス
担保物権は好き勝手に目的物を差し押さえる権利ではありません。あくまでも裁判上の手続きを簡便にすること、優先的に弁済を受けられることがメリットです。基本的には裁判所への申し立てを自分で行えば良いのですが、契約に不備が見られるときや詐害行為取消権を行使された時などはすぐに弁護士へ相談してください。

物的担保は便利だが制度が複雑。制度を使いこなせる弁護士への相談が大切です

物的担保は債権回収の確実性を大幅にアップさせてくれる制度ですが、契約内容や登記の仕方、対抗要件や他の債権者への対策など予め知っておくべきことがいくつもあります。決して簡単な制度ではないため債権の貸し倒れを防ぎたいなら契約をする前に弁護士と相談してください。

債権回収を弁護士に相談するメリット
  • 状況にあわせた適切な回収方法を実行できる
  • 債務者に<回収する意思>がハッキリ伝わる
  • スピーディーな債権回収が期待できる
  • 当事者交渉に比べ、精神的負担を低減できる
  • 法的見地から冷静な交渉が可能
  • あきらめていた債権が回収できる可能性も
上記に当てはまるなら弁護士に相談