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財産開示手続きによって債権回収は確実なものになるのか?

この記事で分かること

  • 財産開示請求手続きは債務名義を根拠に行える
  • 財産開示で嘘をついても30万円の過料しか払わなくて良い
  • 財産開示請求手続きに頼らず強気の交渉と調査をしよう

財産開示請求手続きによって相手に財産の内容を陳述させることが可能ですが財産開示請求手続きはすぐに行えるものではなく、その場で嘘をついた時のペナルティが小さいことも知られています。したがって財産開示請求手続きをするだけでなく独自の財産調査やその他の材料を用いた交渉も検討することが大切です。

財産開示請求手続きとは?

財産開示請求手続きとは裁判所に申し立てて、債務者に財産の所在を陳述させるための手続きです。

債権者にとって債権回収の悩みどころは「無い袖は振れない」という点です。本来は債権者として債務者からお金を支払ってもらう権利を持っているのですが、財産を持っていない債務者からは何も回収できません。

わが国では強制労働も臓器売買も認められていませんから、無資力の債務者はある意味”無敵の人”といえます。

財産開示請求手続きを申し立てるためには債務名義が必要

債務を履行しない不届き者の財産など開示するのが当然…という気持ちはよくわかります。しかし、財産状況はプライバシーに関わる情報であり、本当の法律関係は裁判をするまで確定しない点にも注意が必要です。

実務上は裁判をしなかった場合でも確定判決と同じ効力を持つ書類を作れますが、あくまで「その法律関係だったことにする」ための手続きです。万が一、契約書があるのに裁判に負けたとなってしまえば財産開示した債務者が一方的な不利益を被ってしまう点にも注目しましょう。

そこで財産開示請求のためには確定判決など債権者と債務者の関係を確定させる書類が必要です。これを債務名義と呼びます。

確定判決

裁判所から出た判決のうち、上訴期限を過ぎたものをいいます。上訴できるうちは判決が確定していないので財産開示請求手続きもできません。一応、強制執行だけなら未確定でも仮執行宣言が付いていれば可能ですが仮執行宣言付き判決を根拠とした財産開示請求はできません。

調停調書

調停によって合意した内容をまとめた書類です。確定判決と同じ効力を持ちますが、お互いに妥協し合っているため本来の法律関係と異なる場合が多いです。調停調書によって法律関係が上書きされるというイメージが近いと思います。

和解調書

私的な話し合いによって作成した書類を裁判所に持ち込み裁判上の和解とした場合、訴訟の最中にお互いが妥協して和解とした場合は裁判上の和解として和解調書が作られます。和解調書も確定判決と同じ効力を持ちます。

公正証書だけでは財産開示請求手続きできない

一切裁判所を通さずに作成できる債務名義といえば公正証書ですが、財産開示請求手続きをするためには使えません。ちなみに、公正証書を債務名義として扱うためには強制執行をする旨の文言が必要です。特に賃貸借における公正証書は条文のチェックを念入りに行いましょう。

仮執行宣言付き支払督促も財産開示請求手続きに使えない

支払督促も強制執行をする上では便利な手続きの一つですが仮執行宣言付き支払督促による財産開示請求手続きは行えません。

仮執行宣言について確定するまで待ちましょう。

財産開示請求手続きは判決後、即、行えるわけではない

財産開示請求手続きに必要なものは債務名義ですが、債務名義さえあれば支払督促をできるわけではありません。

支払督促ができるのは債務名義の正本を有する金銭債権の債権者に限定されます。次に執行開始要件を備えていること(執行文付与されている、確定期限到来など)、そして以下のいずれかに該当する場合に限られます。

  • 強制執行で財産を回収できなかった
  • 強制執行の成果が見込めない

強制執行で財産を回収できなかった

強制執行をしても差し押さえるべき財産がなければ回収のしようがありません。しかし、世の中にはうまいこと財産を隠して難を逃れる債務者もいるものです。そこで財産開示請求を用いて隠している財産について明かしてもらおうというのが制度の趣旨です。

いうまでもなく強制執行で財産を回収した後に財産開示請求手続きをすることは認められません。

強制執行の成果が見込めない

債務者によっては強制執行する前から賞賛が薄い場合もあるでしょう。このときは強制執行の前に財産開示請求手続きを行えます。そこで財産の所在がわかってから強制執行を選択するというわけです。

財産開示請求手続きをするために必要な書類は?

財産開示請求に必要な書類には次のようなものがあります。あなたのケースで必要な書類とそれを取り寄せるプロセスは弁護士にご確認ください。

  • 申立書
  • 債務名義および送達証明書
  • 当事者目録(当事者を把握するもの)
  • 請求債権目録(債権の内容を把握するもの)
  • 担保権・被担保債権目録(担保権の内容を把握するもの)
  • 仮執行宣言付き正本の確定証明書(支払督促も確定すれば可能)
  • 証拠書類

財産開示請求はどのような形で行われるのか?

財産開示請求はこちらが申し立て、裁判所が実施決定をしたら財産開示期日が決まります。その期日までに債務者は財産目録を提出します。

財産開示期日になれば裁判所に債権者と債務者が出頭します。そして債権者が債務者に対して質問を行います。財産開示が行われても目立った財産が出てこないことはよくあります。もし債務者が出頭しなければそこで終了となります。

財産開示請求を行った場合は3年以内に再び財産開示請求をすることができません。慎重に選択してください。

ワンポイントアドバイス
財産開示請求は債務名義を取得した後にしか行えません。もし、裁判を起こす前に相手の財産状況を知りたいとお考えなら交渉によって引き出すか独自に調査することが望ましいです。

財産の所在がわかったら仮差し押さえをして処分を妨げましょう。

財産開示請求が無意味と言われるのはどうして?

財産開示請求で債務者の財産が明らかになれば、あとはそれを指定して差し押さえるだけです。ところが財産開示請求は実務上行われることが少なく無意味と言われることさえあります。いったいどうして財産開示請求の実行力が弱いのか解説します。

財産開示請求は自己申告

財産開示請求は自己申告です。だれも債務者の財産を調査しないため自由に嘘を書くことができてしまいます。本当であれば誰かが財産を調査した上で財産開示する方が望ましいですが現制度においては債務者の気前に委ねられています。

いざ債務者が出頭しても効果的な質問ができなければ望ましい答えを得られないし、相手としては嘘をつき通したいわけですからうまく矛盾を暴き出すことも必要です。

債務者が非協力で嘘をついても30万円の過料で済む

債務者が嘘をつかないような罰則があれば良いのですが、財産開示請求についての罰則は30万円の過料に止まります。

これは債務の金額によらないためたとえ数億の財産をかくしもち、数千万円の債務不履行で争っていたとしても30万円払ってシラを切った方が良いと考える債務者が現れます。

財産開示請求手続きをしても空振りする可能性がある

財産開示請求手続きをしたからといって財産が湧いて出てくるとは限りません。結局空振りに終わってしまうデメリットも踏まえて選択しましょう。ここでいうデメリットとは次の財産開示請求まで3年の期間が必要であることです。

ワンポイントアドバイス
財産開示請求は債務者の人権保護の観点からか罰則が弱く、裁判所は財産調査に非協力的です。したがって、財産開示請求をするときはある程度の賞賛が必要となります。自力救済もできず財産開示請求も役に立たないとなれば、それ以外の解決方法を見出したいところです。

財産開示請求が難しいときにできることは?

財産開示請求で債務者の財産を明らかにするためには、しっかりとした質問力が問われます。また、事件の規模が大きければうまく質問しても30万円の過料でお茶を濁されてしまう可能性が高いです。

財産開示請求が難しい。そもそも債務名義を取得する前段階であるという場合にどのような手段を取れるのでしょうか?

弁護士照会は利用できるのか

預金について日弁連の弁護士紹介を利用できるかもしれません。しかし、日弁連のスタンスから確実に預金を明らかにできるわけではありません。回答を拒否されるかもしれないという前提での手続きをしてみましょう。

探偵に頼むことも一つの手

自分では調べられない、裁判所も頼りにならないとなれば民間業者に調査を依頼することが選択肢になります。探偵としてのノウハウが高く公的機関のような制限もないためかなり有力な証拠が期待できます。

その一方で探偵には質の担保がなされていないため業者選びに力を入れるようにしてください。弁護士事務所と探偵事務所が提携していることもあります。弁護士提携している探偵事務所から弁護士を紹介されるいこともあります。しかし無料あっせん禁止のルールがある以上紹介料を取っていないはず。

正直なところ訴訟より前に債権回収したい

財産開示請求が難しいということは、それ以前の段階での解決が求められることを意味します。できれば債権回収を始める前に相手の財産を把握しましょう。債権回収は示談で決着できると手間と費用の節約になります。

示談では相手の重要視している論点に合わせて交渉材料を提示します。

ワンポイントアドバイス
財産開示請求手続きをするより調査会社へ依頼した方が財産を暴きやすいというのが我が国の現状です。残念なことですが、債務名義の取得をする際も強制執行の実効性や社会的なメリットを比較衡量した上での選択が重要なのです。

財産開示請求手続きの実行力は弱い、より良い債権回収方法は弁護士へ相談を

債権回収の目的は裁判に勝つことでも強制執行をすることでもありません。払ってもらうべきお金をしっかり回収することです。

財産開示請求は強制執行の実行力を高める手続きですが、それだけを信用するのはやめた方が良いでしょう。

資産隠しが疑われる債務者からの債権回収を検討しているなら、その道に詳しい弁護士へご相談ください。早期解決の道筋を作ってくれるはずです。

債権回収を弁護士に相談するメリット
  • 状況にあわせた適切な回収方法を実行できる
  • 債務者に<回収する意思>がハッキリ伝わる
  • スピーディーな債権回収が期待できる
  • 当事者交渉に比べ、精神的負担を低減できる
  • 法的見地から冷静な交渉が可能
  • あきらめていた債権が回収できる可能性も
上記に当てはまるなら弁護士に相談