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債権回収とは?未払い金を取り戻す方法と手順

債権回収とは?未払い金を取り戻す方法と手順

この記事で分かること

  • 債権回収とは債権を回収すること。その方法はいろいろある
  • 債権回収は必ずしも裁判によらない。弁護士を使わない方法も選べる
  • 債権回収で最も効果的なのは差し押さえだが、無い袖は振れない

債権回収と一口に言っても方法はいろいろあって、必ずしも差し押さえをするわけではありません。少なくとも裁判による解決とそうでない解決があることは覚えておきましょう。また、債権回収といえば必ずお金が返ってくるように連想されますが無資力の相手からは回収が不可能です。相手が財産の隠匿や浪費、破産をする前に素早く手続きを進めましょう。

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払ってもらえないお金を、どう取り戻すか

納品は済ませたのに、請求書の支払期日を過ぎても入金がない。貸したお金の返済日が過ぎたのに、相手からは何の連絡もない。何度か電話をしても「来週には」と言われるばかりで、話が前に進まない。こうした状況に置かれると、どこから手をつければよいのか分からず、ずるずると時間だけが過ぎていきがちです。

払ってもらうべきお金を、相手から実際に払ってもらうこと。これが債権回収です。言葉にすると単純ですが、実際には相手の状況を読み、手段と順番を選ぶ判断の積み重ねです。会社どうしの取引の売掛金、個人間の貸金、家賃、工事代金、損害賠償金など、お金を払ってもらう権利を持っている人は、誰でも債権回収の当事者になりえます。

債権回収で最も大切なのは、早く動くことです。支払いが遅れている相手は、ほかの債権者にも支払いを遅らせていることが少なくありません。相手に残っているお金や財産は限られていて、先に動いた債権者から回収していきます。様子を見ている間に、相手の財産はほかの債権者への支払いに消え、最後には何も残っていない、ということが実際に起こります。

もう一つ大切なのは、相手の状況に合わせて手段を選ぶことです。電話一本で解決する相手もいれば、裁判所の手続きを使わなければ動かない相手もいます。すべての相手にいきなり訴訟を起こすのは費用も時間もかかりすぎますし、逆に、財産を隠そうとしている相手に悠長に交渉を続けていては手遅れになります。

この記事では、会社の売掛金から個人の貸金まで、債権回収の相談を数多く受けてきた弁護士の立場から、債権回収とは何か、回収の全体の流れ、相手の状況に応じた手段の選び方、裁判所の手続き、回収を成功させるための備えまでを、ひととおり説明していきます。個別の手段については、それぞれを詳しく解説した記事もあわせて参照してください。

債権回収とは|払ってもらう権利を実際のお金にすること

債権とは、特定の相手に対して、何かをしてもらうよう求める権利のことです。反対に、相手に何かをしなければならない義務を債務といいます。そのうち、お金を払ってもらう権利を金銭債権といい、債権回収というときは、ほとんどの場合この金銭債権の回収を指します。

権利を持っているだけでは、お金は手元に入ってきません。相手が自分から払ってくれればよいのですが、払わない相手に対しては、請求し、交渉し、必要なら裁判所の力を借りて、権利を現実のお金に変える必要があります。この一連の活動が債権回収です。

回収の対象になる主な債権

債権の種類 具体例 主な当事者
売掛金 商品の代金、サービスの料金 取引先の会社、個人事業主
請負代金 工事代金、制作費、システム開発費 元請け、発注者
貸金 会社や個人に貸したお金 取引先、知人、親族、従業員
賃料 家賃、地代、テナント料 借主
損害賠償金 事故や契約違反による損害の賠償 加害者、契約の相手方
立替金・未収金 立て替えた費用、本業以外の取引の代金 取引先、個人

会計の上では、本業の取引から生じた代金を売掛金、それ以外の取引から生じた代金を未収金と区別します。たとえば、会社が持っている遊休地を貸して得る地代や、取引先に材料を有償で支給した代金は未収金です。ただ、回収の方法や法律の考え方は、売掛金も未収金も基本的に同じです。

回収できないとどうなるか

回収できない債権は、会社の資金繰りを直撃します。売上として計上していても、現金が入ってこなければ、仕入れの代金も、従業員の給料も払えません。売上が伸びているのに資金が足りなくなる、いわゆる黒字倒産の多くは、売掛金の回収が滞ったことが原因です。

また、回収できないまま時間が経てば、債権は時効にかかります。2020年4月以降に生じた債権は、原則として支払期日から5年で時効を迎えます。時効を相手に主張されれば、請求そのものができなくなります。

個人の方の債権回収

債権回収というと会社の売掛金を思い浮かべがちですが、個人の方が当事者になる場面も少なくありません。知人に貸したお金が返ってこない、退去した借主が家賃を払わずに連絡を絶った、事故の加害者が賠償金を払わない。いずれも、考え方と手段は会社の債権回収と同じです。

個人間の貸し借りでは、借用書を作っていないことが多く、貸した事実をどう示すかが最初の関門になります。振込の記録や、相手が借りたことを認めるメッセージが残っていれば、それを証拠に請求を進められます。

まず見きわめたい|相手は「払えない」のか「払わない」のか

回収の手段を選ぶ前に、必ず見きわめておきたいことがあります。相手がお金を払わない理由です。支払いには、払う力と、払う意思の二つが必要です。どちらが欠けているかによって、とるべき手段がまったく変わります。

相手の状況 よくある場面 有効な手段
払う力も意思もある 単純な支払い忘れ、事務処理のミス 電話やメールで知らせるだけで解決することが多い
払う力はあるが、意思がない 商品に不満がある、支払いを後回しにしている 内容証明郵便で強く請求し、応じなければ支払督促や訴訟
払う意思はあるが、力がない 資金繰りが苦しい、売上が落ち込んでいる 分割払いの合意、担保や保証人の追加、相殺の検討
払う力も意思もない 経営が破綻しかけている、財産を隠そうとしている 仮差押えで財産を押さえ、訴訟から強制執行へ急ぐ

たとえば、払う力はあるのに、納品物の品質に不満があって支払いを止めている相手であれば、まず不満の中身を聞き、どこまでが正当な主張なのかを確かめることが先です。相手の言い分にも理があるなら、代金の一部を調整してでも早く合意したほうが、訴訟で争うより早く、費用も少なく回収できます。

反対に、資金繰りが苦しく、ほかの債権者からも取り立てを受けている相手であれば、交渉に時間をかけるのは危険です。相手に残っている財産を、ほかの債権者より先に押さえる必要があります。

相手の状況を知るための手がかり

相手の状況は、次のような手がかりから推し量ることができます。

  • 支払いの遅れが初めてか、以前から繰り返されているか
  • 担当者に連絡がつくか、電話に出なくなっていないか
  • ほかの取引先からも取り立てを受けているという噂がないか
  • 事務所や店舗の様子、従業員の数に変化がないか
  • 登記簿で、本店の移転や役員の交代、不動産への差押えがないか

不動産の登記簿は、法務局で誰でも取り寄せることができます。相手の会社の本店や工場の土地建物に、最近になって差押えや仮差押えの登記がついていれば、ほかの債権者がすでに動き始めているサインです。

保証人がいるかどうかも確かめる

契約に連帯保証人がついていれば、本人が払わなくても、保証人に全額を請求できます。会社どうしの取引では、取引先の代表者が個人で連帯保証していることがよくあります。会社の経営が傾いていても、代表者個人に財産があれば、そこから回収できる可能性があります。

ただし、2020年4月以降に結んだ個人の根保証(継続的な取引の債務をまとめて保証するもの)は、保証の上限額(極度額)を定めていなければ無効です。取引基本契約で代表者に保証してもらっている場合は、極度額が書かれているかを確かめてください。

契約書や請求書をそろえておく

回収の手段を選ぶ段階では、債権があることを示す資料が手元にそろっているかも確かめておきます。契約書、発注書、納品書、請求書、受領書、相手とのメールなどです。相手が「そんな注文はしていない」「その金額では合意していない」と争ってきたとき、これらの資料が回収の成否を左右します。資料が足りない場合は、相手に残高を確認する書面を送り、署名して返してもらうことで、債権の存在と金額を確定させる方法もあります。

債権回収の全体の流れ

債権回収は、相手への負担が軽い手段から、強い手段へと段階を追って進めるのが基本です。ただし、相手の状況によっては、途中の段階を飛ばして一気に強い手段に進むこともあります。

  1. 電話、メール、請求書の再送で、支払いが遅れていることを知らせる。
  2. 相手の事情を聞き、分割払いや支払期日の延長などの条件を話し合う。
  3. 内容証明郵便で、期限を区切って正式に支払いを請求する。
  4. 支払督促、少額訴訟、民事調停、通常の訴訟など、裁判所の手続きを使う。
  5. 判決などを得ても払われなければ、強制執行で相手の財産を差し押さえる。

この流れのどこかで、相手の財産が失われそうな兆しが見えたら、裁判所の手続きの前に仮差押えで財産を押さえておきます。また、相手に支払うべき自社の債務があるなら、相殺によってその範囲で回収することも考えます。

最初の督促で伝えること

支払いが遅れていると気づいたら、その日のうちに連絡するのが理想です。最初の連絡では、相手を責めるより、事実を確かめる姿勢で臨むと、相手も本当の事情を話しやすくなります。

  • どの請求書の、いくらが、いつの期日で未入金になっているか
  • 入金の予定日をいつにできるか
  • 支払いが遅れている理由(処理の遅れか、資金の問題か、商品への不満か)

やり取りの内容は、日付とともに記録しておきます。相手が「来週払う」と約束したなら、その旨をメールで送り返して確認しておくと、約束を守らなかったときの次の一手が打ちやすくなります。

任意の交渉で決着させるのが理想

裁判所の手続きを使えば、確実に回収できる可能性は高まりますが、時間と費用がかかります。相手が払う力を持っているなら、交渉で合意して払ってもらうのが、最も早く、費用も少ない解決です。

交渉がまとまったら、合意の内容を書面に残しておくことが欠かせません。分割払いにするなら、毎回の支払額と期日、1回でも遅れたら残りを一括で払うという条項を入れた合意書を作ります。可能であれば、強制執行を受け入れる旨の文言を入れた公正証書にしておくと、支払いが止まったときに、すぐに差押えに進めます。

ワンポイントアドバイス
交渉の場で相手が支払いを約束したら、その場で書面かメールで確認をとりましょう。支払いの約束は、時効を振り出しに戻す効果もあります。口頭の約束だけで終わらせないことが、回収の成否を分けます。

裁判所を使わずに回収する手段

交渉と裁判の間には、裁判所を使わずに回収する手段もいくつかあります。相手の状況によっては、これらのほうが早く確実に回収できます。

手段 内容 使える場面
相殺 相手に払う予定のお金と差し引く 相手からも仕入れをしている、相手に預り金がある
債権譲渡を受ける 相手が持っている売掛金を、支払いの代わりに譲ってもらう 相手に現金はないが、相手の取引先への売掛金がある
代物弁済 お金の代わりに、相手の商品や設備、不動産を受け取る 相手に換金できる物がある
担保の実行 抵当権などの担保から回収する 取引の開始時に担保を取っている

相手の財産を、相手の同意なく勝手に持ち出すことは許されません。納品した商品を倉庫から引き揚げる、相手の事務所の設備を運び出すといった行為は、たとえ代金が未払いでも、自力救済として違法になり、窃盗や不法行為の責任を問われることがあります。物を受け取って回収に充てるなら、必ず相手と合意書を交わしてからにしてください。

裁判所を使う回収の手段

任意の交渉で払ってもらえない場合は、裁判所の手続きを使います。手続きにはいくつかの種類があり、請求の額や、相手が争ってくるかどうかによって使い分けます。

手段 向いている場面 特徴
支払督促 相手が債権の存在を争わない見込み 書類の審査だけで支払いが命じられる。相手が2週間以内に異議を出すと訴訟に移る
少額訴訟 請求額が60万円以下 原則1回の審理で判決が出る。分割払いの判決もありうる
民事調停 話し合いで解決したいが、当事者だけでは進まない 調停委員が間に入る。合意すれば判決と同じ効力を持つ調書ができる
通常の訴訟 相手が争ってくる、請求額が大きい 時間はかかるが、判決で確実に支払いを命じてもらえる
仮差押え 相手が財産を処分しそう 訴訟の前に財産を凍結できる。担保金を積む必要がある

訴訟を起こす裁判所は、請求額によって分かれます。140万円以下の請求は簡易裁判所、140万円を超える請求は地方裁判所が扱います。支払督促は、相手の住所地を管轄する簡易裁判所の書記官に申し立てます。どの裁判所に申し立てるかで、手続きの進め方や、弁護士以外の代理人が認められるかどうかも変わってきます。

判決などの「債務名義」を取ることが目標

裁判所の手続きの目標は、相手の財産を差し押さえるための書面を手に入れることです。この書面を債務名義といい、確定判決のほか、仮執行宣言のついた支払督促、裁判上の和解調書、調停調書、強制執行を受け入れる文言のある公正証書などがこれにあたります。

債務名義を取った時点で、相手が自分から支払ってくることも少なくありません。差押えを受ければ、取引先や金融機関からの信用を失うため、それを避けたいと考えるからです。

2026年5月から裁判の手続きがオンライン化

民事裁判の手続きは、2026年5月21日から全面的にオンライン化されました。訴状や証拠をインターネットで提出したり、裁判の記録をオンラインで閲覧したりできるようになり、弁護士が代理する事件では、書面をオンラインで提出することが義務づけられています。遠方の裁判所の事件でも、ウェブ会議で期日に参加できる場面が増え、回収にかかる時間や移動の負担は小さくなっています。

手続きにかかる費用

裁判所に納める手数料は、請求額に応じて法律で決まっています。支払督促の手数料は通常の訴訟の半額で、たとえば100万円を請求する場合、訴訟なら1万円、支払督促なら5,000円です。このほか、書類を相手に送るための郵便切手を納めます。弁護士に依頼する場合の費用は別にかかりますが、自分で申し立てるなら、比較的少ない費用で手続きを始められます。

強制執行|最後の手段として相手の財産を差し押さえる

債務名義を取っても相手が払わない場合は、強制執行によって相手の財産を差し押さえ、そこから回収します。差し押さえる財産の種類によって、手続きが分かれます。

差し押さえる財産 手続き ポイント
預金、給料、取引先への売掛金 債権執行 最もよく使われる。銀行や支店、勤務先を特定する必要がある
土地、建物 不動産執行 競売で売却して回収する。時間がかかり、先に抵当権があると配当が少ない
商品、機械、現金など 動産執行 執行官が現場に行って差し押さえる。換金できる価値が低いことも多い

強制執行で一番の壁になるのが、相手の財産がどこにあるか分からないことです。預金を差し押さえるには銀行と支店を、給料を差し押さえるには勤務先を、こちらで特定しなければなりません。

この壁を低くするため、2020年4月から、裁判所を通じて相手の財産の情報を取り寄せる手続きが強化されました。相手本人を裁判所に呼び出して財産を明らかにさせる財産開示手続は、正当な理由なく出頭しなかったり、うその説明をしたりすると刑事罰の対象になりました。さらに、金融機関から預金の情報を、登記所から不動産の情報を取り寄せる、第三者からの情報取得手続も使えるようになっています。

財産開示手続で呼び出された相手が、正当な理由なく出頭しなかったり、うその陳述をしたりした場合は、6か月以下の拘禁刑または50万円以下の罰金が科されます。この罰則ができてから、手続きに応じる相手は増えています。

補足
給料を差し押さえる場合、差し押さえられるのは原則として手取り額の4分の1までです(手取りが44万円を超える場合は、33万円を超える部分の全額)。相手が同じ勤務先で働いている限り、毎月の給料日に勤務先から直接受け取れるので、少しずつでも確実に回収できます。

相手が倒産したときの回収

相手が破産を申し立てた場合、個別の取り立てや差押えはできなくなります。裁判所の定める期間内に債権を届け出て、破産管財人が相手の財産を換金して行う配当を受けることになります。一般の債権者に回ってくる配当は、多くの場合、債権額のごく一部です。

それでも、あきらめずに確かめたいことがあります。相手に払う自社の債務があれば、相殺による回収は破産の後でも認められることがあります。納品した商品が相手の倉庫にまだ残っていれば、その商品を競売にかけて優先的に回収できる、動産売買の先取特権という権利が使える場合もあります。担保や保証人があれば、そこからの回収も可能です。

強制執行にかかる費用も押さえておきましょう。預金や給料の差押えであれば、申立ての手数料と郵便切手程度で済みますが、不動産の競売では、評価や売却の手続きのためにまとまった額の予納金を先に納める必要があります。予納金は、裁判所や不動産の数によって異なります。回収できる見込みの額と、費用のつり合いを考えて、どの財産を差し押さえるかを選ぶことが大切です。

回収を成功させるための日ごろの備え

債権回収は、支払いが遅れてから始まるものではありません。取引を始める段階から備えておくことで、いざというときの回収のしやすさは大きく変わります。

取引を始める前にしておきたいこと

  • 相手の登記簿を取り寄せ、本店、代表者、資本金、役員の変化を確かめる
  • 取引基本契約書を交わし、支払期日、遅延損害金、期限の利益の喪失を定める
  • 取引の規模に応じて、代表者の連帯保証や担保を求める
  • 取引の上限額(与信枠)を決め、それを超えないよう管理する

取引中に続けたいこと

  • 売掛金の残高と支払期日を取引先ごとに一覧で管理する
  • 支払いが1日でも遅れたら、すぐに連絡する
  • 年に一度は残高確認書を送り、署名して返送してもらう
  • 相手の預金口座、主要な取引先、勤務先など、差押えの手がかりを記録しておく

とくに、相手が支払いに使っている銀行口座の情報は、差押えのときに大きな手がかりになります。入金の記録から、相手がどの銀行のどの支店から振り込んでいるかを控えておきましょう。

支払いが遅れ始めた取引先に対しては、新たな納品を止めることも考えます。代金が回収できていないのに取引を続ければ、未回収の額が増えるばかりです。取引基本契約に、支払いが遅れたときは出荷を止められるという条項を入れておくと、相手との関係をこじらせずに止めやすくなります。

回収できなかった債権の会計処理

手を尽くしても回収できなかった債権は、貸倒れとして損失に計上することを検討します。税務上、貸倒損失として認められるには、相手の破産や、債権の切り捨て、相当期間の取引停止など、一定の事情が必要です。回収の努力の記録は、貸倒れを認めてもらうための資料にもなるので、請求書や内容証明郵便の控えは保管しておいてください。

契約書に入れておきたい条項

取引基本契約書には、回収に役立つ条項を入れておきます。支払期日を過ぎたときの遅延損害金の率、相手に信用不安が生じたときに支払期日の猶予を失わせる期限の利益喪失条項、未払いがあるときに出荷を止められる条項、相手に払う債務と差し引ける相殺の条項などです。これらがあるかないかで、支払いが遅れたときにとれる手段の幅が大きく変わります。

具体例で考える|支払いが止まった取引先からの回収

ある食品卸の会社は、地元の飲食チェーンに毎月食材を納めていました。3か月前から支払いが遅れ始め、未回収の売掛金は合計450万円にまで膨らんでいます。先方の経理担当者は「本部の資金繰りが落ち着けば払う」と言うものの、具体的な予定は示されません。

会社から相談を受けた弁護士は、まず相手の状況を確かめました。登記簿を見ると、本店の建物には銀行の抵当権が設定されていますが、ほかの債権者による差押えはまだありません。店舗は通常どおり営業していて、売上は日々入っているようでした。払う力はあるものの、支払いの優先順位が低くされている、という見立てです。

弁護士は、新たな納品をいったん止めたうえで、内容証明郵便で450万円と遅延損害金を2週間以内に支払うよう求めました。あわせて、応じなければ法的な手続きをとること、分割払いを希望するなら相談に応じることを伝えました。

すると、先方の社長から直接連絡があり、月に90万円ずつ5回で支払う分割払いを申し出てきました。合意書には、1回でも遅れたら残りを一括で支払う条項と、社長個人の連帯保証を入れ、公証役場で強制執行を受け入れる文言つきの公正証書にしました。先方は5か月で完済し、取引も条件を見直して再開されています。

この例で回収がうまくいったのは、相手の状況を見きわめて、交渉と法的手続きの圧力を組み合わせたからです。いきなり訴訟を起こしていれば、取引関係は終わり、判決まで数か月かかっていたはずです。反対に、何もしないまま納品を続けていれば、未回収の額はさらに膨らんでいたでしょう。

個人の方の例も挙げておきます。自宅の一室を月8万円で貸していた方が、借主に家賃を半年分滞納されたまま、退去されてしまいました。電話はつながらず、保証人もいません。

弁護士は、住民票の移転先から借主の新しい住所を確かめるとともに、賃貸借契約書に書かれた借主の勤務先に着目しました。まず少額訴訟で48万円の支払いを求め、借主が期日に出頭しなかったため、請求どおりの判決が出ました。その判決をもとに勤務先の給料を差し押さえ、数か月かけて全額を回収しています。連絡が取れなくても、住民票で住所をたどり、契約の時に控えておいた勤務先の情報を使うことで、回収まで進めた例です。

債権回収を弁護士に任せるという選択

債権回収は、自社だけで進めることもできます。請求書の送付や内容証明郵便の作成、支払督促の申立てなどは、手順を調べれば自分でも行えます。一方で、次のような場面では、弁護士に任せたほうが回収の見込みが高まります。

  • 相手が支払いを拒み、債権の存在や金額を争っている
  • 相手の経営が危うく、ほかの債権者と競争になっている
  • 相手が財産を隠したり、移したりしている疑いがある
  • 請求額が大きく、訴訟や強制執行まで見込まれる
  • 時効が迫っていて、手続きを急ぐ必要がある

弁護士の名前で請求書を送るだけで、相手の対応が変わることは珍しくありません。支払いを後回しにしていた相手も、法的な手続きが現実に迫っていると感じれば、優先して支払うようになります。

費用が気になる方も多いと思います。弁護士費用は、相談料、着手金、回収できた額に応じた報酬金などで構成され、事務所によって異なります。回収の見込みと費用のバランスは、最初の相談の段階で確かめることができます。請求額が小さい場合には、内容証明郵便の作成だけを依頼するといった関わり方もあります。

債権回収に関するよくある質問

債権回収は、まず何から始めればよいですか

契約書、請求書、納品書、入金の記録など、債権があることを示す資料をそろえ、未回収の額と支払期日を整理してください。そのうえで、電話や書面で支払いを求め、相手が払わない理由を探ります。理由によって、次にとるべき手段が変わります。

内容証明郵便を送れば、相手は払わざるを得なくなりますか

内容証明郵便そのものに、支払いを強制する力はありません。ただ、正式に請求したことが証拠として残り、相手に本気で回収する意思が伝わるため、支払いにつながることが多くあります。時効の完成を6か月遅らせる効果もあります。

相手に財産がないと言われたら、あきらめるしかありませんか

本当に財産がないのかを確かめる手段があります。判決などの債務名義があれば、財産開示手続や第三者からの情報取得手続で、相手の預金や不動産を調べることができます。相手に支払う自社の債務があれば、相殺による回収も考えられます。

小さな金額でも、裁判所の手続きを使えますか

使えます。60万円以下であれば少額訴訟、金額にかかわらず相手が争わない見込みなら支払督促が手軽です。どちらも費用が比較的少なく、弁護士に依頼せずに自分で申し立てる人も多い手続きです。

回収を業者に頼むことはできますか

他人の債権の回収を、報酬を得て代わりに行うことは、弁護士か、法務大臣の許可を受けた債権回収会社(サービサー)にしか認められていません。無資格の業者に回収を任せると、違法な取り立てに巻き込まれたり、依頼した側まで責任を問われたりするおそれがあります。サービサーが扱える債権は、金融機関の貸付債権などに限られているため、一般の売掛金の回収は弁護士に相談するのが基本です。

回収にはどれくらいの期間がかかりますか

相手が交渉に応じれば数週間で終わることもありますが、支払督促で1〜2か月、訴訟で半年から1年程度、強制執行まで進めばさらに数か月かかるのが目安です。相手の状況や争いの有無によって大きく変わるので、最初の段階で見通しを立てておくことが大切です。

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