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担保権とは? 担保権を確保して債権回収をするには?

この記事で分かること

  • 「担保」と言っても様々な種類があり、目的・用途に合ったものを選ぶことが大事
  • 抵当権が担保の「女王」であり、利用される頻度が高い
  • 非典型担保では譲渡担保が一般的だが、民法の条文には規定がない
  • 人的担保という手段もある

担保には様々な種類があり、抵当権以外にも債権を担保する方法は多くあります。その目的と用途に合った担保を選択することが大切で、そのためにも、債権回収の経験が豊富な弁護士に相談することがすすめられます。法律のプロの意見を聞くことで、トラブルを未然に防げます。

こんなにある債権回収を確保する担保権

まずは、担保にはどのようなものがあるのか、詳しく見てみましょう。借金を担保する方法は当事者のニーズに合わせて様々に用意されていることが分かります。

担保の分類

数多くの担保をカテゴライズしてみましょう。
まずは物的担保と人的担保です。物的担保は物(動産、不動産)で担保し、人的担保は人が担保する、つまり保証するものです。人的担保としては保証(民法、以下条文番号のみの時は同法、446条以下)、連帯債務(432条以下)があります。

典型担保と非典型担保

物的担保は典型担保と非典型担保に分類されます。
典型担保とは民法に定める担保物権です。
非典型担保は民法に規定のない担保物権で、譲渡担保、仮登記担保、所有権留保、買戻・再売買の予約、代理受領、振込指定などです。

法定担保物権と約定担保物権

典型担保は、法定担保物権と約定担保物権に分けられます。前者は一定の要件を満たせば、当事者の契約を必要とせずに生ずる担保物権で、先取特権(303条)、留置権(295条)があります。約定担保物権は当事者の契約によって生ずる担保物権で、抵当権(369条)、質権(342条)があります。

ワンポイントアドバイス
人的担保というのはあまりあてにならないものです。債務を負担する能力のない者同士が集まって連帯保証して、結局、誰も弁済できないというのはよくある話です。昔から「物による担保は人による担保にまさる」という法諺(ほうげん)がありますが、実情をよく示しています。まずは物的担保を考え、ダメな場合に人的担保とするのが普通です。

債権回収を確保する担保権の詳細

物的担保の詳細を見ていきましょう。

典型担保

典型担保について説明します。抵当権は後述します。

留置権

留置権は、他人の物の占有者が、その物に関して生じた債権を有するときは、その債権の弁済を受けるまで、その物を留置できる権利です(295条1項)。

具体例を出した方が分かりやすいでしょう。

時計屋の甲さんは顧客乙さんから時計の修理を頼まれ、無事に終えました。代金は1万円です。ところが乙さんはあれこれ難癖をつけて代金を支払わず、その上、「その時計は自分の物だから返してくれ」と言ってきました。この場合、甲さんは「代金を支払うまで時計は返さない」と言えます。このように甲さんが時計を手元に置いておく権利が留置権です。

先取特権

先取特権(303条)は、特定の債権を持つ者が、債務者の総財産や、特定の動産、不動産について、他の債権者に優先して弁済を受けることができる権利です。

一般先取特権(総財産)、動産先取特権(特定の動産)、不動産先取特権(特定の不動産)の3種類があります。一般先取特権は、たとえば個人に雇われていた人が、その給料をもらえるはずなのにもらっていない場合、その個人のすべての財産から優先的に支払いを受けることができます(306条2号)。

動産の先取特権では、たとえば旅館の宿泊費を未払いの客がいた場合、旅館は客の手荷物から優先的に支払いを受けることができます(311条2号、317条)。こうした先取特権は抵当権などと違って登記はありません。他の債権者は突然優先権を持つ債権者が登場するわけですから脅威になります。

質権

民法の質権(342条)は質屋の営業形態とほぼ同じと考えていいでしょう。目的物を債権者に預け、債権者は弁済があるまで目的物を留置し、弁済がない場合には競売して優先弁済を受けるというものです。質屋の場合は、弁済がないと質屋が質物を自分の物にできます(いわゆる質流れ)。これは質屋営業法19条に基づくもので、民法上の質権では認められていません。

非典型担保

非典型担保について説明します。譲渡担保は後述します。

買戻・再売買の予約

買戻とは代金を買った人に返還することで売買契約を解除して、目的物を取り戻すことです。動産、不動産を問わずに利用されますが、不動産については579条以下に詳細な規定が置かれています。買戻しの期間は10年を超えることができない(580条1項)、買戻権の代位行使(582条)などが定められています。再売買の予約とは、債務者の不動産の所有権を担保目的で債権者に移転し、債務の弁済があれば予約完結権が行使されて買い戻されるというものです。

仮登記担保

仮登記担保とは、債務が不履行になることに備えて代物弁済の予約をし、債権者に所有権移転請求保全の仮登記(不動産登記法105条2号)をするものです。つまり、債務者が借金を払えなかったら仮登記を本登記にして、所有権を移転させるものです。ただし、清算義務があり、少ない債権で高額な不動産を丸取りすることは許されない制度になっています。

所有権留保

所有権留保は、買った人が代金を全額支払うまで、目的物の所有権を留保しておくものです。不動産でも利用されますが、動産で用いられることが多くなっています。担保権としての実行方法は、売買契約を解除して目的物を引き上げるということで、譲渡担保と大差ありません。

ワンポイントアドバイス
留置権は物を留置して弁済について圧力をかけるというものですから、担保としての有効性に疑問が残ります。先取特権は追及効がありません。典型担保でも抵当権以外の2つはそれぞれ弱点を抱えているのは確かです。ただし、先取特権は公示がないので、他の債権者にとっては脅威になる部分があります。

債権回収を確保する担保権の「女王」抵当権

担保権では抵当権が「担保の女王(王様)」などと呼ばれることがあります。抵当権は被保全債権を担保する手段として広く利用されているためです。

抵当権の仕組み

まずは抵当権の仕組みから説明します。抵当権は、目的物の占有を伴わない非占有型担保です。

抵当権の設定、非占有型

抵当権は、抵当権者と抵当権設定者との間で設定契約によって締結されます。つまりお金を借りる人が「返せない場合は手持ちの不動産から、貸した分だけ持っていっていいですよ」というものです。もちろん抵当権設定者は債務者には限りません。息子の借金を、父親の土地に抵当権を設定して担保というのはよく聞く話です。そしてその不動産は抵当権設定者が引き続き占有します。つまり抵当権は非占有型担保権です。

第三者対抗要件は登記

抵当権は合意だけで成立します。しかし、登記を経由しないと第三者に対抗できません。登記がされていれば、たとえばその不動産が他者に売却されても抵当権はそれに伴ってついていきます。これを追及力(追及効)と呼びます。

抵当権の実行

被保全債権が弁済されないと、民事執行法180条以下の手続きに従い、目的物の所在地を管轄する裁判所に抵当権の実行としての競売申し立てを行います。競売開始決定がされると、差し押さえの効力が発生します(民事執行法45条1項、46条1項)。競売が実施されて買受人が決まると、買受人は代金を納付して目的物の所有権を取得し、抵当権は消滅します。抵当権者は代金から優先弁済を受けます。

根抵当権

根抵当権とは「一定の範囲に属する不特定の債権を極度額の限度において担保するため」に設定される抵当権のことです(398条2項1号)。たとえば、自分の家と土地に抵当権を設定し、商品の仕入れのための債務について1000万円(極度額)の限度で担保するという場合です。商品の仕入れのための債務は、発生と消滅を繰り返しますから、そのためにいちいち、抵当権の設定をしていてはとても煩雑です。そこで、一定の範囲の債権をすべて担保すると決める「根」抵当権が誕生したわけです。

抵当権の効力の拡大

抵当権の効力は判例によって拡大されています。特に問題となったのが不動産賃料に抵当権が及ぶかという問題です。

賃料に及ぶ抵当権

抵当権は、対象となる不動産の賃料にも及ぶことは「その担保する債権について不履行があったときは、その後に生じた抵当不動産の果実に及ぶ」(371条)と条文で定められています。もっともこれは2003年の改正で導入されたもので、それ以前は差し押さえ後には及ぶとされていました。

債権譲渡に優先、転付命令に劣後

実業界に衝撃を与えたのが最判平成10年1月30日です。

これは抵当権者による不動産賃料の差し押さえを免れようと、差し押さえ前に債権譲渡が行われた事例です。ところが最高裁は「抵当権者は、物上代位の目的債権が譲渡され第三者に対する対抗要件が備えられた後においても、自ら目的債権を差し押さえて物上代位権を行使することができる」としました。つまり、債権譲渡で抵当権者の差し押さえを逃れることを許さないとしたのです。

一方で、転付命令(民事執行法159条)については、第三債務者への送達までに物上代位による差し押さえをしていなければ、転付命令が優先するとしました(最判平成14年3月12日)。債権譲渡や一般債権者の差し押さえに対しては抵当権の設定登記が先にあれば抵当権者が優先しますが、転付命令については差し押さえをしていなければ転付命令が優先されます。

抵当権と妨害排除請求

抵当権は非占有型の担保権ですが、抵当権設定者が不法占有を許している、あるいは賃貸借契約でも競売手続を妨害する意図がある場合には目的不動産の価値が下がってしまいます。

競売しようと思っても、不法占有者、妨害目的の賃借人がいれば競売価格は下がることが予想され、抵当権者の権利を害してしまいます。そこでそのような場合には「抵当権者は当該占有者に対し、抵当権に基づく妨害排除請求として…排除を求めることができる‥」とし、さらに「抵当権者は、占有者に対し、直接自己への抵当不動産の明渡しを求めることができる」(最判平成17年3月10日)としました。非占有型担保権の抵当権ですが、このように強い効力が認められています。

ワンポイントアドバイス
抵当権は頻繁に利用されますし、効力も強いです。また、根抵当権という便利な制度もあります。非占有型の担保ですが、不法占有者等に対しては強力な措置も取れますから、非常に便利な担保と言えます。まさに担保権の女王に相応しいと言うべきでしょう。

譲渡担保で債権回収を確保、利用頻度高い担保権

非典型担保として譲渡担保は利用頻度が非常に高い担保物権です。もっとも民法には規定がないため、判例準則で発展してきたという経緯があります。

譲渡担保の法的性質

まずは譲渡担保とはどういうものかという点から見ていきましょう。

譲渡担保とは

動産に関する譲渡担保を極めて分かりやすく説明すると「動産に対する抵当権」と考えればいいでしょう。動産の占有は譲渡担保設定者のままで、債務が弁済できない時はそれが譲渡担保権者に移転するという形の担保です。不動産の譲渡担保は後述します。

所有権的構成

譲渡担保は民法の条文になく、判例の積み重ねでルールが形成されてきたという経緯があります。そのため、その法的性質も考え方が分かれます。その1つが所有権的構成です。これは目的物の所有権は完全に譲渡担保権者に移転すると考えます。しかし譲渡担保権者は、所有権を担保目的以外に行使しない義務を負うというものです。判例は一応、この所有権的構成をとっています。

担保権的構成

担保権的構成は、譲渡担保の担保としての実質に注目し、譲渡担保の設定は担保権の設定と考えます。そのため所有権は譲渡担保設定者に残ると考えます。

譲渡担保の仕組み

譲渡担保の仕組みについて説明します。

不動産は仮登記担保とほぼ同じ

不動産の譲渡担保は仮登記担保とほぼ同じです。ただし、仮登記担保と違って本登記を経由します。そのため仮登記担保のように、仮登記から本登記にする面倒な手続きが回避できます。通常は売買を原因とする所有権移転がされますが、買戻しの付記登記、または再売買の予約の仮登記がされる場合もあります。通常は債務者が不動産の占有を続け、その占有権原として賃貸借契約が結ばれる場合が多いようです。

動産は設定者使用が通常の方法

動産についても占有が譲渡担保設定者に残ります。たとえば工場の機械を購入する時にその資金を得るために機会を譲渡担保に入れる場合が考えられます。その場合、譲渡担保設定者は機械を使って仕事をしますから、機械を手元においておかないと意味がありません。所有権は譲渡担保権者にありますが、占有と使用は譲渡担保設定者(通常は債務者)に残ります。

優先弁済方法は帰属型と処分型

譲渡担保権者が優先弁済を受ける方法として、帰属型と処分型の2つがあります。帰属型は目的物の所有権を自分に移転させて、代物弁済的に満足を得ます。処分型は譲渡担保権者が目的物を処分して、その代金から弁済を受けます。どちらにするかは事前の契約によります。いずれの場合でも清算義務があり(最判昭和45年3月25日)、わずかな債権で過大な担保物を得ることはできないようになっています。

ワンポイントアドバイス
債務者が目的物の所有権を取り戻すことが受戻しです。弁済期(借金を支払う期限)に弁済を行わない場合でも直ちに受戻しができなくなるわけではありません。弁済期の経過後でも、債権者が担保権の実行を完了するまでの間は、債務者は債務を弁済して譲渡担保権を消滅させて目的物の所有権を回復できると、最高裁は判断しています(最判昭和62年2月12日)。

債権回収の確保のため、人に対する担保権

最後に人的担保について触れます。

人的担保の種類

代表的な人的担保には保証と連帯債務があります。

保証

保証は主たる債務者が債務を弁済できなくなった時に、保証人が代わって債務を履行するものです(446条1項)。保証は保証人と債権者の間の契約で成立します。ここで重要なのは、債務者が支払えるのに保証人に支払わせてしまえ、というのは認められないということです。債権者が保証人に債務の履行を求めてきた時に「先に債務者に払えと言いなさい」あるいは「先に債務者の財産に対して執行しなさい」と反論できます。前者を催告の抗弁権(452条)、後者を検索の抗弁権(453条)と言います。

連帯保証

そもそも債権者が保証人を求めるのは「債務者が支払わないかもしれない」と考えていることが多いものでしょう。そうなると、保証人をつけて催告の抗弁、検索の抗弁をされても「どうせ債務者には大した財産はないから払えない」と思っても、そのような抗弁があると、まずお金を払えないであろう債務者に請求をしなければならず、債権の回収が遅くなってしまいます。

そのため、そうした抗弁権がない保証の方が債権者にとっては便利です。それが連帯保証(454条等参照)です。テレビのドラマなどで「父が連帯保証人になって、財産を失って…」というセリフを耳にすることがあると思います。その連帯保証のことです。つまり保証人にはそれだけ厳しい条件の保証と言えるでしょう。

連帯債務

連帯債務を分かりやすく説明すれば、複数の人間で1つの債務を支払う義務を負うことです。たとえばA、B、Cの3人でXから900万円を借り連帯債務とした場合、3人とも900万円を支払う義務を負います。そのうちAが1人で全額を支払えば債務は消滅します。後は、A、B、Cの内部関係での処理となります。

ワンポイントアドバイス
保証と連帯保証の違いは十分に理解すべきです。連帯保証は特に保証人にとって厳しい内容ですから、安易に連帯保証人にならないことが重要です。逆に債権者の立場であれば、保証をつけるなら連帯保証を心がけるべきです。

担保権の確保による債権回収については弁護士に相談

担保権の行使として、一般的なのは抵当権からの回収になることが多いでしょう。しかし、回収方法については注意が必要です。特に、競売を通じた回収は市場価格より低めの金額で売買されたり、裁判所の預託金などの額が大きくなったりすることもあります。回収方法ひとつとっても、いろいろな注意点があるものです。債権回収については、法律のプロであり、経験や実績の多い弁護士に相談することをおすすめします。

債権回収を弁護士に相談するメリット
  • 状況にあわせた適切な回収方法を実行できる
  • 債務者に<回収する意思>がハッキリ伝わる
  • スピーディーな債権回収が期待できる
  • 当事者交渉に比べ、精神的負担を低減できる
  • 法的見地から冷静な交渉が可能
  • あきらめていた債権が回収できる可能性も
上記に当てはまるなら弁護士に相談