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交渉で払ってもらえないとき、裁判という選択肢
取引先に何度請求しても支払いがない。支払督促を出したら、相手は異議を出してきた。代金の額や商品の品質について、相手は自分の言い分を曲げようとしない。ここまで来ると、残された手段は裁判、つまり訴訟です。
訴訟と聞くと、何年もかかる、費用がかさむ、法廷で争うのは気が重い、といった印象を持つ方も多いでしょう。けれども、実際の債権回収の訴訟は、多くが1年以内に終わり、その多くは判決ではなく和解で決着しています。相手が争ってくる場面でも、訴訟は回収を前に進めるための確実な手段です。
訴訟を起こせば、相手はもう支払いを先延ばしにできません。期日に出てこなければ、こちらの言い分どおりの判決が出ます。争えば、裁判官の前で証拠をもとに判断されます。そして判決が出れば、相手の財産を差し押さえることができます。
2026年5月からは民事裁判の手続きが全面的にオンライン化され、訴状や証拠をインターネットで出したり、ウェブ会議で期日に参加したりできる場面が広がりました。遠方の相手に対する訴訟の負担も、以前より小さくなっています。
この記事では、債権回収の依頼を受けている弁護士の立場から、債権回収の訴訟の流れ、訴状の書き方と費用、勝つための証拠の準備、和解と判決、判決の後の回収までを、具体例を交えて説明していきます。
訴訟は、相手と対立する手続きだと思われがちですが、実際には、裁判所という中立の場で、相手と話し合う機会でもあります。当事者だけでは平行線だった話し合いが、裁判官が間に入ることで一気にまとまることも少なくありません。訴訟を、回収のための話し合いを前に進める場と捉えると、ためらいも少し和らぐはずです。
訴訟を選ぶべき場面
債権回収の手段には、支払督促、少額訴訟、民事調停など、訴訟より手軽なものもあります。手軽な手段で済むなら、それに越したことはありません。まずは、どんな場面で訴訟を選ぶべきかを整理しておきましょう。
| 状況 | 向いている手段 |
|---|---|
| 相手が請求を争っていない | 支払督促 |
| 60万円以下で、証拠がそろっている | 少額訴訟 |
| 話し合いの余地があり、柔軟に解決したい | 民事調停 |
| 相手が請求の存在や金額を争っている | 通常の訴訟 |
| 請求額が大きく、確実に判決を得たい | 通常の訴訟 |
| 支払督促に異議が出た、少額訴訟から移された | 通常の訴訟(自動的に移る) |
相手が「商品に欠陥があったから払わない」「そんな金額で合意した覚えはない」と争っている場合は、支払督促を出しても異議が出て、結局訴訟になります。争いがはっきりしているなら、最初から訴訟を選んだほうが、時間の無駄がありません。
争いがある場合でも、請求額が小さく、証拠が明確なら、少額訴訟で1回の期日で決着させる道もあります。ただ、相手が通常の訴訟への移行を求めれば、結局は通常の訴訟になります。相手の争い方が強い場合は、通常の訴訟を前提に準備しておくほうが確実です。
訴えを起こす裁判所
訴訟は、請求額によって裁判所が分かれます。請求額には、遅延損害金は含めずに計算します。
- 請求額が140万円以下:簡易裁判所
- 請求額が140万円を超える:地方裁判所
場所については、原則として相手の住所地を管轄する裁判所ですが、お金の支払いの請求では、支払う場所、つまり特に決めていなければ債権者の住所地の裁判所にも訴えることができます。契約書に「紛争が生じたときは○○地方裁判所を管轄裁判所とする」という合意があれば、その裁判所に訴えることもできます。
訴えを起こす前にしておくこと
- 内容証明郵便で支払いを請求し、相手の言い分を確かめておく
- 契約書、請求書、メールなど、証拠を一か所に集めて整理する
- 時効の完成日を確かめ、訴えを起こす期限を把握する
- 相手の財産の手がかり(取引銀行、取引先、不動産)を控えておく
- 相手の財産が失われそうなら、仮差押えを先に検討する
管轄の合意に注意する
取引基本契約に、紛争を扱う裁判所の定めがある場合は、その内容を確かめます。「○○地方裁判所のみを管轄裁判所とする」という書き方なら、原則としてその裁判所にしか訴えられません。相手のひな形の契約書では、相手の本店所在地の裁判所が指定されていることも多いので、契約を結ぶ段階で、自社に近い裁判所を指定するか、少なくとも自社の所在地でも訴えられるように交渉しておくと安心です。
訴訟を起こすかどうかの判断材料
訴訟を起こすかどうかは、次の三つを比べて判断します。一つ目は、訴訟で勝てる見込みです。証拠がそろっていれば見込みは高くなります。二つ目は、判決を取った後に回収できる見込みです。相手に財産がなければ、勝っても回収できません。三つ目は、費用と時間です。請求額に比べて費用がかかりすぎないか、判決までの時間に相手の財産が失われないかを考えます。三つのうちどれかに不安があれば、訴訟の前に弁護士に見通しを相談してください。
訴訟の流れ
債権回収の訴訟は、一般的に次のような流れで進みます。全体の流れを知っておくと、各段階で何を準備すべきかが見えてきます。
- 訴状と証拠を裁判所に提出する(手数料と郵便切手を納める)。
- 裁判所が第1回の期日を決め、相手に訴状を送る。
- 相手が答弁書を出す。
- 第1回の期日が開かれる(訴えを起こしてから1か月から1か月半ほど後)。
- 争点を整理するための期日が、1か月から1か月半おきに開かれる。
- 必要に応じて、証人や当事者の尋問が行われる。
- 和解が成立するか、判決が言い渡される。
相手から届く答弁書
訴状が届いた相手は、第1回の期日の前に答弁書を出すよう求められます。答弁書には、訴状に書かれた事実を認めるか争うか、相手の言い分が書かれます。第1回の期日だけは、答弁書を出していれば相手が欠席しても、答弁書の内容を述べたものとして扱われます。そのため、第1回の期日には、相手が来ないまま、答弁書の内容を踏まえて次回の期日が決まる、ということもよくあります。
相手が期日に来なかったら
相手が答弁書も出さず、第1回の期日にも来なかった場合は、こちらの主張を認めたものとみなされ、その日のうちに、または短期間で、請求どおりの判決が出ます。支払いを先延ばしにしているだけの相手に対しては、訴訟が思いのほか早く決着することもあるのです。
相手が争ってきたら
相手が答弁書で請求を争ってきた場合は、争点を整理する期日が続きます。期日ごとに、双方が準備書面で主張を述べ、証拠を出し合います。争点がはっきりしたところで、必要なら証人尋問を行い、裁判官が判決を出します。
争点を整理する期日は、法廷ではなく、会議室のような部屋や、ウェブ会議で行われることが多くなっています。弁護士に依頼していれば、依頼者本人が毎回出席する必要はありません。
準備書面と証拠の出し方
第2回以降の期日では、相手の答弁書や準備書面に対する反論を、準備書面という書面で出します。準備書面には、相手の主張のどこが誤っているのか、それをどの証拠で示すのかを、項目ごとに整理して書きます。証拠は、原告が出すものに「甲第1号証」、被告が出すものに「乙第1号証」と番号をつけて提出します。証拠の説明書を添えて、何を証明するための証拠かを示しておくと、裁判官に伝わりやすくなります。
訴訟にかかる期間の目安
期日は、おおむね1か月から1か月半に1回のペースで開かれます。争点の整理に数回の期日がかかり、証人尋問を経て判決まで進むと、訴えを起こしてから1年ほどかかることも珍しくありません。途中で和解が成立すれば、数か月で終わることも多くあります。
相手から逆に訴えられることもある
相手が、同じ取引について、商品の欠陥による損害賠償を求めて逆に訴えてくることがあります。これを反訴といい、同じ訴訟の中で一緒に審理されます。相手の反訴が認められれば、その分だけこちらの請求が差し引かれることもあります。取引の中で相手から苦情を受けていた場合は、その経緯と対応の記録も整理しておきましょう。
期日の間にしておくこと
期日と期日の間には、相手の書面を読み、反論と追加の証拠を準備します。裁判所から次回までに出すよう求められた書面は、期限を守って提出します。期限の直前になって慌てないよう、期日が終わったらすぐに、次に何を準備するかを弁護士と確かめておくのが効率的です。
訴状の書き方
訴訟は、訴状を裁判所に出すことから始まります。訴状には、法律で決められた事項を書く必要があります。簡易裁判所には、定型の訴状の書式も用意されています。
| 記載する事項 | 内容 |
|---|---|
| 当事者 | 原告と被告の住所、氏名(会社なら商号と代表者名) |
| 請求の趣旨 | 判決で求める結論。「被告は原告に対し、金○○円及びこれに対する令和○年○月○日から支払済みまで年3%の割合による金員を支払え」など |
| 請求の原因 | 請求の根拠となる事実。いつ、どんな契約をして、いくらの代金が、いつ支払期日を迎えたか |
| 証拠 | 主張を裏付ける書類の一覧(契約書、納品書、請求書など) |
| 付属書類 | 当事者が会社なら登記事項証明書など |
訴状を出した後、書き方に不備があれば、裁判所から補正を求められます。当事者の住所や代表者の表示、手数料の額の誤りなどが多いので、提出の前に登記簿や住民票で確かめておきましょう。
請求の原因は具体的に
請求の原因は、裁判官が読んで、請求の根拠がすぐに分かるように書きます。「商品を売ったが代金が払われない」だけでは足りず、契約の日付、商品の内容、数量、単価、納品の日、請求書を送った日、支払期日などを、証拠と対応させながら時系列で書きます。
取引が継続的で、請求書が何枚もある場合は、請求書ごとに一覧表を作って添付すると、裁判官にも相手にも分かりやすくなります。
遅延損害金も忘れずに求める
請求の趣旨には、元本だけでなく、支払期日の翌日から支払済みまでの遅延損害金を含めておきます。契約書に遅延損害金の率の定めがあればその率で、なければ法定利率の年3%で計算します。訴訟が長引くほど遅延損害金は増えていくので、相手が早く和解に応じる動機にもなります。
相手の反論を先回りして書く
交渉の段階で相手が反論していた内容があれば、訴状の中で先に触れておくと効果的です。たとえば、相手が「商品に欠陥があった」と言っていたなら、納品の際に検収を受けて問題がなかったこと、欠陥の指摘を受けたのは支払いを求めた後だったことなどを、証拠とともに示しておきます。
2026年5月からのオンライン化で変わったこと
2026年5月21日、改正民事訴訟法が全面的に施行され、民事裁判はオンラインで進められるようになりました。債権回収の訴訟の進め方も、いくつかの点で大きく変わっています。今後の訴訟は、この新しい仕組みを前提に考える必要があります。
| 項目 | オンライン化の後 |
|---|---|
| 訴状や証拠の提出 | インターネットで提出できる。弁護士が代理する場合は、オンラインでの提出が義務 |
| 手数料の納付 | 電子納付ができる |
| 期日への参加 | 口頭弁論も含め、ウェブ会議で参加できる場面が広がった |
| 訴訟の記録 | 電子データで管理され、当事者はオンラインで閲覧できる |
| 判決 | 電子データで作成される |
弁護士に依頼せずに自分で訴訟を進める場合は、これまでどおり紙の書面で提出することもできます。とはいえ、オンラインで提出すれば、裁判所への郵送や持参の手間が省け、相手の書面もすぐに確認できます。
とくに影響が大きいのは、遠方の裁判所で訴訟を進める場合です。以前は、相手の住所地の裁判所まで期日のたびに出向く必要がありましたが、ウェブ会議で参加できる場面が増えたことで、移動の時間と費用が大きく減りました。相手が遠方にいることを理由に訴訟をためらっていた債権も、あらためて回収を検討する価値があります。
オンラインで手続きを進めるには、裁判所のシステムの利用者登録が必要です。自分で訴訟を進める方は、登録の方法や使い方を裁判所のウェブサイトで確かめておきましょう。紙で提出した書面も、裁判所の側で電子データに変換して記録に取り込まれます。
訴訟にかかる費用
訴訟にかかる費用は、裁判所に納める費用と、弁護士に依頼する場合の弁護士費用に分けられます。費用の見通しは、訴えを起こすかどうかを決める大切な材料です。
裁判所に納める手数料
訴えを起こすときに、請求額に応じた手数料を収入印紙で納めます。
| 請求額 | 手数料 |
|---|---|
| 100万円 | 1万円 |
| 300万円 | 2万円 |
| 500万円 | 3万円 |
| 1,000万円 | 5万円 |
| 3,000万円 | 11万円 |
このほかに、書類を相手に送るための郵便切手を予納します。証人を呼ぶ場合は、証人の旅費や日当がかかることもあります。
訴訟に勝てば、手数料や郵便切手代などの訴訟費用は、判決で相手の負担とされるのが通常です。一部だけ勝った場合は、割合に応じて分担が決められます。ただし、弁護士費用は原則として訴訟費用に含まれず、相手に負担させることはできません。
訴訟費用の中で、郵便切手代は裁判所ごと、相手の数ごとに額が決まっています。使われなかった分は、訴訟が終わった後に返還されます。
弁護士費用
弁護士に依頼する場合は、着手金と、回収できた額に応じた報酬金がかかるのが一般的です。金額は事務所によって異なるので、依頼する前に、見積もりと、訴訟が長引いた場合の追加費用を確かめておきましょう。
請求額が大きく、相手が争っている訴訟では、弁護士に依頼するほうが、主張や証拠の組み立て、和解の交渉の面で有利に進めやすくなります。
なお、相手の不法行為による損害賠償を請求する訴訟では、弁護士費用の一部が、損害の一部として認められることがあります。代金の請求のような契約に基づく請求では、原則として認められません。
費用の面で迷う場合は、まず自分で訴えを起こし、相手が弁護士を立ててきた段階で依頼する、という進め方もあります。ただ、訴状の書き方や最初に出す証拠の選び方は、その後の審理に大きく影響します。最初の段階だけでも弁護士に相談しておくと、後から方針を修正する手間が省けます。
訴訟で勝つための証拠の準備
訴訟では、自分の主張を証拠で裏付けなければなりません。主張だけで証拠がなければ、裁判官は事実と認めてくれません。お金を請求する側は、契約があったこと、代金が発生したこと、支払期日が来たことを証明する必要があります。
| 証明すべきこと | 主な証拠 |
|---|---|
| 契約があったこと | 契約書、取引基本契約書、発注書、注文請書、見積書に対する承諾のメール |
| 商品やサービスを提供したこと | 納品書、受領書、検収書、作業報告書、配送の記録 |
| 代金の額 | 請求書、見積書、単価表 |
| 支払期日が来たこと | 契約書の支払条件、請求書の支払期日の記載 |
| 相手が債務を認めていたこと | 支払いを待ってほしいというメール、一部の入金、残高確認書 |
証拠は、訴状を出す段階で主なものをそろえて提出するのが基本です。後から新しい証拠を出すことも認められていますが、訴訟の終盤になって出すと、なぜもっと早く出さなかったのかと問われ、信用を損ねることがあります。手元にある証拠は、最初の段階で弁護士にすべて見せておきましょう。
メールやメッセージも大切な証拠
契約書を交わしていない取引でも、メールやチャットのやり取りから、注文があったこと、代金の額に合意していたことを証明できることがあります。相手が「支払いは来月まで待ってほしい」と書いたメールは、債務を認めていたことを示す強い証拠です。
こうしたやり取りは、画面の写真だけでなく、送受信の日時や相手のアドレスが分かる形で印刷しておきます。社内の担当者が退職すると、メールが消えてしまうこともあるので、訴訟を考え始めたら、早めに保存しておいてください。
社内の担当者の負担
訴訟になると、取引を担当した社員には、経緯を説明する陳述書の作成や、証人尋問への準備で、一定の時間を割いてもらうことになります。担当者が異動や退職をしていると、記憶があいまいになったり、協力が得にくくなったりします。取引の経緯は、担当者の記憶に頼らず、日ごろから記録に残しておくことが、訴訟の負担を軽くする何よりの備えです。
証人尋問
書類だけでは事実が確定しない場合は、取引を担当した社員や、相手の担当者を証人として尋問します。証人尋問では、事前に陳述書で話す内容を整理しておき、弁護士の質問に答える形で証言します。相手の弁護士からの反対尋問にも備える必要があるので、証人との打ち合わせは念入りに行います。
本人で訴訟を進めるときの注意
自分で訴訟を進める場合は、期日の日時と、書面を出す期限を必ず守ってください。準備書面の提出が遅れると、主張が認められにくくなることがあります。裁判所の書記官は、手続きについての質問には答えてくれますが、どんな主張をすれば勝てるかといった助言はしてくれません。争点が複雑になってきたら、その時点で弁護士に相談することも考えてください。
相手の証人への反対尋問
相手の側も、担当者を証人として立ててきます。相手の証人に対しては、こちらの弁護士が反対尋問を行い、証言の矛盾や、書類との食い違いを指摘します。反対尋問の準備には、相手の担当者と交わしたメールや、面談の記録が役に立ちます。社内の担当者が、相手の担当者の発言を細かく覚えていれば、それも弁護士に伝えてください。
和解か判決か
訴訟の終わり方には、和解と判決があります。どちらで終わるかは、訴訟の進み具合と、双方の考え方によって決まります。債権回収では、どちらで終わらせるかを、回収の見込みという観点から考えることが大切です。
| 比べる点 | 和解 | 判決 |
|---|---|---|
| 金額 | 請求額より減ることが多い | 請求どおりか、裁判所が認めた額 |
| 支払い方法 | 分割払いなど、柔軟に決められる | 原則として一括払い |
| 相手が支払う可能性 | 自分で合意したので高い | 相手が納得していないと払わないことも |
| 時間 | 早く終わる | 判決まで時間がかかり、控訴されるとさらに延びる |
| 差押え | 和解調書で可能 | 判決で可能 |
判決で全額の支払いが命じられても、相手に財産がなければ回収はできません。反対に、多少減額しても、相手が確実に払える和解であれば、実際に手元に入る額は大きくなることもあります。和解の提案があったら、請求額との差だけでなく、実際に回収できる見込みで判断してください。
和解の条項で気をつけること
和解で分割払いにする場合は、次の点を条項に入れておくと、支払いが止まったときにすぐに差押えに進めます。
- 相手が支払うべき総額を認める一文
- 毎回の支払額、支払日、振込先
- 支払いを一定回数怠ったときは、残額を一括で支払う旨
- その場合の遅延損害金の率と起算日
- 相手の代表者などを保証人として和解に加えること
代表者を保証人にする場合は、代表者にも和解の当事者として加わってもらいます。そうすれば、会社が払わないときに、代表者個人の財産も差し押さえることができます。
判決に不服があるとき
判決に不服がある当事者は、判決書を受け取ってから2週間以内に控訴できます。相手が控訴すると、上級の裁判所で審理が続き、決着まで時間がかかります。ただし、仮執行宣言がついた判決であれば、控訴されても差押えを進めることができます。
控訴された場合
相手が控訴すると、簡易裁判所の判決なら地方裁判所で、地方裁判所の判決なら高等裁判所で審理が続きます。控訴審は、第一審の記録をもとに、主張や証拠を補う形で進むのが通常で、多くは数か月から半年ほどで決着します。控訴審でも和解の勧めがあることが多く、第一審の判決の内容を踏まえて、条件を詰めることになります。
和解を勧められたときに迷うのは、どこまで譲るかです。判断の目安としては、判決まで進んだ場合に認められそうな額、判決までにかかる時間と費用、相手が判決に従って払う見込みを、弁護士と一緒に見積もってみることです。そのうえで、和解案で実際に回収できる額と比べれば、応じるべきかどうかが見えてきます。
具体例で考える|品質を理由に支払いを拒まれたケース
ある食品加工の会社は、飲食チェーンに業務用の調味料を納めていましたが、3か月分の代金560万円が支払われませんでした。飲食チェーンは「一部のロットで味が違っていたので、代金の全額は払えない」と主張していました。支払督促を出したところ、案の定、異議が出され、訴訟に移りました。
弁護士は、訴訟の準備として、納品の際に飲食チェーンが検収書に押印していたこと、味の違いを指摘されたのは支払いを督促した後だったこと、指摘されたロットの出荷前の検査記録に問題がなかったことを、証拠として整理しました。あわせて、飲食チェーンの担当者が「月末まで待ってほしい」と送っていたメールも提出しました。
第2回の期日の後、裁判官から和解の勧めがありました。裁判官は、証拠から見て、品質の問題で代金を大きく減らすことは難しいとの見方を示しました。最終的に、飲食チェーンが530万円を3回に分けて支払う内容で和解が成立しました。訴えを起こしてから和解まで、4か月ほどでした。
判決まで争えば全額が認められた可能性もありましたが、控訴されれば決着はさらに半年以上先になります。わずかな減額で早く確実な支払いを得られたことを考えると、和解は合理的な判断でした。
個人間の貸金の例も挙げておきます。友人に貸した200万円の返済を求めて訴えた方の事件では、相手は答弁書も出さず、第1回の期日にも来ませんでした。借用書と振込の記録を証拠として出していたので、その日のうちに弁論が終わり、2週間後に請求どおりの判決が言い渡されました。
判決は仮執行宣言つきだったので、相手の勤務先の給料を差し押さえ、毎月の回収が始まりました。相手が訴訟を放っておいたことで、かえって早く債務名義を手に入れられた例です。相手が争わない見込みでも、住所が分かっていれば、訴訟は思いのほか短期間で終わることがあります。
判決の後、相手が払わないとき
判決が出ても相手が払わなければ、判決を債務名義として強制執行を申し立てます。相手の預金、給料、取引先への売掛金などを差し押さえて回収します。訴訟にかかった手数料などの訴訟費用は、訴訟費用額の確定の手続きを経て、相手に請求できます。
相手の会社が訴訟の途中で倒産したら
訴訟の途中で相手が破産すると、訴訟は中断し、破産手続の中で債権の有無や額が確かめられます。債権者は、破産手続に債権を届け出て、配当を受けることになります。相手の経営が危ういと感じたら、訴訟と並行して仮差押えで財産を押さえておくことが重要です。
二つの例から分かるのは、訴訟の結果を左右するのは、法廷での弁論の上手さより、訴える前にどれだけ証拠をそろえていたかだということです。取引の段階から契約書や納品の記録、相手とのやり取りを残しておくことが、いざ訴訟になったときの一番の武器になります。
訴訟に関するよくある質問
訴訟は、弁護士に頼まずに自分でできますか
できます。本人が訴訟を進めることも認められていて、簡易裁判所の訴訟では、会社の社員が裁判所の許可を得て代理人になることもできます。ただし、相手に弁護士がついて争ってくる場合は、主張や証拠の組み立てで不利になりやすいので、弁護士への依頼を検討してください。
訴訟にはどのくらいの期間がかかりますか
相手が争わなければ、1〜2か月で判決が出ることもあります。相手が争う場合は、半年から1年ほどかかるのが一般的です。和解で終われば、それより早く決着することも少なくありません。
相手の住所が分からなくても訴えられますか
訴えられます。住所を調べても分からない場合は、裁判所の掲示板に書類を掲示して、相手に届いたものとみなす公示送達を使うことができます。ただし、判決を取った後の差押えでは、相手の財産を見つける必要があります。
訴訟を起こすと、時効は止まりますか
止まります。訴えを起こすと、訴訟が続く間は時効の完成が猶予され、判決や和解で権利が確定すれば、そこから新たに10年の時効期間が始まります。
訴えを起こした後で、相手が全額を払ってきました
全額の支払いを受けたら、訴えを取り下げます。相手が答弁書などで請求の中身について反論した後は、取り下げに相手の同意が必要です。訴訟費用をどちらが負担するかも含めて、相手と和解の形で終わらせることもあります。
