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相手が自分の権利を使わないとき、代わりに使えないか
お金を貸した相手が、「返したくても手元にお金がない」と言う。ところが、よく聞いてみると、相手自身も別の人にお金を貸していて、その返済を受けられる状態にあるのに、請求しようとしない。あるいは、相手が交通事故の被害に遭って、加害者から賠償金を受け取れるはずなのに、手続きを放置している。こうした場面で、債権者が相手に代わって、その権利を使うことができる制度が、債権者代位権です。
債権者代位権は、債務者が自分の財産を守るための権利を使わないときに、債権者が債務者に代わってその権利を行使し、債務者の財産を確保する制度です。判決などを取らなくても使えるのが特徴で、金銭の支払いを求める権利であれば、代わりに取り立てたお金を、債権者が直接受け取ることもできます。
2020年4月の民法改正で、債権者代位権のルールは大きく整理されました。代位できる範囲や、取り立てたお金の受け取り方、代位した後の債務者の立場などが、法律にはっきり書かれるようになりました。
この記事では、債権回収の相談を受ける弁護士の立場から、債権者代位権の仕組み、使うための条件、使える権利と使えない権利、実際の使い方、差押えや詐害行為取消権との違いまでを、具体例を交えて説明していきます。
債権者代位権は、日常の債権回収ではあまり耳にしない制度かもしれません。けれども、債務者の財産を調べていく中で、債務者自身が持っている権利が見つかることは珍しくありません。そうしたときに、この制度を知っているかどうかで、回収の選択肢が大きく変わります。
債権者代位権とは|債務者の権利を代わりに使う制度
債権者代位権は、民法423条に定められた制度です。古くからある制度ですが、2020年の改正で内容が大きく整理されました。債権者は、自分の債権を守るために必要があるときは、債務者が第三者に対して持っている権利を、債務者に代わって行使することができます。
| 立場 | 役割 | 例 |
|---|---|---|
| 債権者 | 債務者の権利を代わりに使う人 | 知人にお金を貸した人 |
| 債務者 | 権利を持っているのに使わない人 | 借りたお金を返さない知人 |
| 第三債務者 | 債務者に対して義務を負っている人 | 知人がお金を貸している別の人 |
| 被代位権利 | 債権者が代わりに使う、債務者の権利 | 知人が別の人に対して持つ貸金の返還請求権 |
2020年の改正で変わった点
| 項目 | 改正前 | 2020年4月以降 |
|---|---|---|
| 代位できる額 | 判例で自分の債権の額までとされていた | 自分の債権の額までと明記 |
| 直接の引渡しの請求 | 判例で認められていた | お金や動産は自分に直接渡すよう求められると明記 |
| 代位した後の債務者 | 債務者は権利を処分できないとされていた | 債務者は権利を使い、処分できる。第三債務者も債務者に支払える |
| 代位の訴えを起こしたとき | 債務者への告知の定めがなかった | 債務者に訴訟を知らせる義務 |
| 登記の請求権の代位 | 判例で認められていた | 無資力でなくても代位できると明記 |
とくに実務への影響が大きいのが、代位した後も債務者が権利を処分できるようになった点です。以前は、代位の通知をすれば債務者の権利を事実上止められましたが、今はそれができません。この点を踏まえて、代位を使うか、仮差押えなどの手続きを使うかを判断する必要があります。
なぜこうした制度があるのか
債務者の財産は、すべての債権者にとって、回収の引き当てになるものです。法律の言葉では、これを責任財産と呼びます。債務者が自分の権利を使わずに放置していると、その権利が時効で消えたり、第三者が財産を処分したりして、債務者の財産が減ってしまいます。債権者代位権は、こうした事態を防ぎ、債務者の財産を守るための制度です。
債務者が自分の権利を使わない理由は、実にさまざまです。手続きが面倒だから、どうせ取り立てても債権者に持っていかれるから、親しい相手に請求したくないから。いずれにしても、債務者が動かないことで債権者が損をするのは不公平だ、という考え方がこの制度の根底にあります。
債権者代位権が使われる典型的な場面
実務で債権者代位権が使われるのは、主に次のような場面です。債務者が第三者に対して売掛金や貸金を持っているのに請求しない場合、債務者が受け取れるはずの保険金や損害賠償金を放置している場合、債務者が払いすぎたお金の返還を求めていない場合、債務者の債務が時効にかかっているのに時効を主張しない場合などです。いずれも、債務者の財産を増やしたり、減るのを防いだりすることで、債権者の回収の引き当てを確保します。
なお、債権者代位権は、債権者の債権を守るために、債務者の財産の管理に介入する制度です。債務者の自由な財産の管理を制限することにもなるため、使える場面は法律で慎重に限られています。次に、その条件を見ていきます。
債権者代位権を使うための条件
債権者代位権を使うには、次の条件を満たす必要があります。どれか一つでも欠ければ、代位は認められません。
| 条件 | 内容 |
|---|---|
| 債権を守る必要があること | 金銭債権の場合、債務者にほかに十分な財産がない(無資力である)こと |
| 債務者が自分で権利を使っていないこと | 債務者がすでに権利を使っている場合は、代位できない |
| 自分の債権の支払期日が来ていること | ただし、時効を止めるなど財産を守るための行為(保存行為)は、期日前でもできる |
| 代わりに使う権利が、代位できる権利であること | 債務者本人しか使えない権利などは除かれる |
「無資力」とはどういう状態か
お金の支払いを求める債権を守るために代位する場合は、債務者が無資力であることが必要です。この要件が、実務では最も問題になります。無資力とは、債務者の財産が、すべての債務を払うのに足りない状態をいいます。債務者に十分な財産があるなら、債権者はその財産を差し押さえればよく、債務者の権利にまで踏み込む必要はない、という考え方です。
無資力であることは、債権者の側で示す必要があります。債務者の不動産の登記簿、預金の差押えの結果、ほかの債権者からの請求の状況など、債務者の財産が足りないことをうかがわせる資料をそろえておきましょう。
無資力かどうかは、債権者が代位の権利を行使する時点で判断されます。債権を持った当時は財産があったとしても、その後に財産が減って無資力になっていれば、代位できます。反対に、代位の途中で債務者が財産を得て無資力でなくなれば、代位は認められなくなることがあります。
支払期日前でもできること
原則として、自分の債権の支払期日が来る前は代位できません。まだ請求できない債権のために、債務者の権利に介入するのは行き過ぎだからです。ただし、債務者の権利が時効で消えそうなときに時効を止める、債務者の不動産の登記を守るといった、財産の現状を守るための行為は、期日前でも行えます。
自分の債権の証明も必要
代位するには、そもそも自分が債務者に対して債権を持っていることが前提です。第三債務者から「本当に債権があるのか」と問われたときに示せるよう、契約書、請求書、借用書、振込の記録など、自分の債権を裏付ける資料をそろえておきましょう。訴えを起こす場合も、自分の債権の存在を証明する必要があります。
代位できる権利、できない権利
債務者が持っている権利であれば何でも代位できるわけではありません。権利の性質によって、代位できるかどうかが分かれます。
| 代位できる主な権利 | 代位できない主な権利 |
|---|---|
| 債務者が第三者に持つ売掛金、貸金の返還請求権 | 離婚や親子関係など、身分に関する権利 |
| 損害賠償請求権 | 慰謝料の請求権(金額が確定する前) |
| 払いすぎたお金の返還を求める権利 | 年金、生活保護の受給権など、差押えが禁じられた権利 |
| 契約の解除権、取消権 | 債務者本人の意思を尊重すべき権利 |
| 登記の請求権 | |
| 時効を主張する権利 |
代位できない権利の代表が、債務者本人しか使えない一身専属権です。たとえば、名誉を傷つけられた慰謝料を請求するかどうかは、本人の気持ちに委ねるべき事柄なので、債権者が代わりに請求することはできません。ただし、慰謝料の額が合意や判決で確定すれば、それはお金の支払いを求める権利になるので、代位できるようになります。
契約の解除や取消しの代位
債務者が第三者と結んだ契約に、解除や取消しの理由があるのに、債務者がそれを使わない場合も、代位できることがあります。たとえば、債務者が第三者に商品を売ったのに代金が払われず、契約を解除すれば商品を取り戻せる場面で、債務者が解除をしないときです。ただし、解除や取消しは債務者の取引関係に大きな影響を与えるため、代位が認められるかは慎重に判断されます。
差押えが禁じられた権利
年金や生活保護の受給権、給料のうち差押えが禁じられた部分などは、代位することもできません。これらは、債務者の生活を守るために、法律で差押えが禁じられている権利です。債権者代位権で差押えの禁止をすり抜けることはできない、ということです。
時効の援用も代位できる
債務者が第三者に対して負っている債務が時効にかかっているのに、債務者が時効を主張しない場合、債権者が代わりに時効を主張できることがあります。債務者の債務が消えれば、債務者の財産が増え、ほかの債権者の回収の引き当てが増えるからです。
保険金や払戻金の代位
債務者が受け取れるはずの保険金を、手続きをせずに放置している場合も、代位の対象になります。たとえば、債務者の建物が火事で焼け、火災保険金を受け取れるのに請求していないといった場面です。ただし、保険金の請求には、保険契約の内容や、請求の手続きの期限が関わるので、保険会社に確かめながら進める必要があります。
権利が代位できるかどうかの判断は、権利の性質によって分かれ、判例の積み重ねで決まってきたものも多くあります。代位しようとしている権利が微妙な位置にある場合は、事前に弁護士に確かめてもらうと安心です。
代位の使い方と、取り立てたお金の扱い
債権者代位権は、裁判所の手続きを経ずに使うことができます。この手軽さが、債権者代位権の大きな特長です。第三債務者に対して、書面で「債務者に代わって、債務者のあなたに対する債権を行使します」と通知し、支払いを求めることから始めるのが一般的です。第三債務者が応じなければ、代位の訴えを起こします。
- 債務者の財産を調べ、債務者が使っていない権利(第三者への債権など)を見つける。
- 債務者が無資力であることを示す資料をそろえる。
- 第三債務者に、代位して権利を行使する旨を書面で通知し、支払いを求める。
- 第三債務者が応じなければ、代位の訴えを起こす(債務者に訴訟を知らせる必要がある)。
- 取り立てたお金を受け取り、自分の債権に充てる。
代位の訴えは、第三債務者の住所地の裁判所などに起こします。訴えの中では、自分の債権があること、債務者が無資力であること、債務者が第三債務者に対して権利を持っていることを、それぞれ証明する必要があります。通常の訴訟より証明すべきことが多いので、準備は念入りに行います。
代位できる額には限りがある
代位できるのは、自分の債権の額の範囲に限られます。必要以上に債務者の権利に踏み込まないための決まりです。債務者が第三者に1,000万円の債権を持っていても、自分の債権が300万円であれば、代位して請求できるのは300万円までです。
債務者が第三債務者に複数の債権を持っている場合でも、代位できる合計額は自分の債権の額までです。自分の債権を超える部分まで取り立てても、その部分は債務者に返さなければなりません。請求額は、元本に遅延損害金を加えた、自分の債権の額に合わせて計算してください。
取り立てたお金を直接受け取れる
代位して請求するのがお金の支払いや動産の引渡しであれば、債権者は、第三債務者に対して、自分に直接支払うよう求めることができます。2020年の改正で、このことが法律に明記されました。
受け取ったお金は、本来は債務者に返すべきものですが、債権者は、債務者に対して持っている自分の債権と相殺することで、事実上、ほかの債権者より先に回収できます。差押えのように、ほかの債権者と分け合う必要がないのが、債権者代位権の大きな利点です。
受け取ったお金の精算
代位して受け取ったお金が自分の債権の額を下回れば、その分だけ自分の債権が消え、残りは引き続き債務者に請求できます。受け取ったお金と、それをどの債権に充てたかは、債務者にも書面で知らせておきましょう。後で債務者から、受け取ったお金の返還を求められるといった争いを防ぐためです。
第三債務者に送る通知の書き方
第三債務者への通知には、自分が債務者に対して持つ債権の内容と額、債務者が第三債務者に対して持つ権利の内容、債務者が無資力であること、債務者に代わってその権利を行使すること、自分に直接支払うよう求めることを書きます。根拠となる資料の写しを添えておくと、第三債務者も支払いに応じやすくなります。通知は、届いたことを示せるよう、内容証明郵便で送るのが一般的です。
債務者が破産した場合
債務者が破産の手続きに入ると、債務者の財産は破産管財人が管理し、債務者の権利も破産管財人が行使することになります。そのため、債権者が代位することはできなくなります。代位の訴えが続いている場合は、訴訟が中断し、破産管財人が引き継ぐかどうかを判断します。債務者の経営が危うい場合は、代位による回収を急ぐ必要があります。
代位にかかった費用
代位のために使った費用、たとえば第三債務者への通知の費用や、訴えの費用は、債務者に請求することができます。債務者の財産を守るための支出なので、債務者が負担すべきものと考えられているからです。
差押えや詐害行為取消権との違い
債務者の財産から回収する手段には、債権者代位権のほかに、差押え(強制執行)と詐害行為取消権があります。三つの違いを押さえておくと、場面に応じた使い分けができます。
| 比べる点 | 債権者代位権 | 差押え | 詐害行為取消権 |
|---|---|---|---|
| 使う場面 | 債務者が権利を使わない | 債務者の財産から強制的に回収する | 債務者が財産を不当に処分した |
| 判決などの債務名義 | 不要 | 必要 | 不要(ただし訴えが必要) |
| 裁判所の手続き | 不要(相手が応じなければ訴え) | 必要 | 必ず訴えが必要 |
| 債務者の処分の制限 | なし(債務者は権利を処分できる) | あり(処分が禁じられる) | 取り消された財産は債務者に戻る |
| 期間の制限 | 債権の時効による | 債務名義の時効による | 知った時から2年、行為の時から10年 |
差押えとの使い分け
判決などの債務名義をすでに持っているなら、債権者代位権より差押えのほうが確実です。差押えをすれば、債務者も第三債務者も、その権利を処分したり支払ったりできなくなります。一方、債務名義を取るまでに時間がかかる場合や、差押えの手続きが使いにくい権利(登記の請求権など)については、債権者代位権が役に立ちます。
債権譲渡との使い分け
債務者が協力的で、第三者に対する債権を譲り渡すことに同意するなら、債権者代位権より、債権譲渡を受けるほうが確実です。譲渡を受けて第三債務者に通知すれば、その債権は自分のものになり、債務者が後から処分することもできません。債権者代位権は、債務者が協力しない場合や、連絡がつかない場合に、とくに力を発揮する制度といえます。
詐害行為取消権との使い分け
債務者が、債権者を害することを知りながら、財産を安く売ったり、親族に贈与したりした場合は、詐害行為取消権を使って、その行為を取り消すよう求めます。こちらは必ず裁判所に訴えを起こす必要があり、期間の制限もあります。債務者が権利を使わずに放置しているのか、積極的に財産を減らしたのかによって、使う制度が変わります。
三つの制度は、どれか一つを選ばなければならないものではありません。債務者の財産の状況に応じて、債権者代位権で権利を確保しながら、訴訟で債務名義を取って差押えに進む、というように組み合わせて使うこともあります。どの手段が最適かは、弁護士と相談して判断してください。
登記の請求権を代位する場合
債権者代位権は、お金の回収だけでなく、登記を正しい状態に戻すためにも使われます。これを、債権者代位権の転用と呼ぶこともあります。
たとえば、ある土地が、最初の所有者から二番目の人に売られ、さらに二番目の人から三番目の人に売られたとします。登記は、最初の所有者から二番目の人へ、二番目の人から三番目の人へと、順番に移していく必要があります。ところが、二番目の人が最初の所有者に対する登記の手続きをしないと、三番目の人は登記を受けられません。この場合、三番目の人は、二番目の人に代わって、最初の所有者に対する登記の請求権を行使できます。
この場合は、お金の回収のための代位と違い、債務者が無資力であることは必要ありません。2020年の改正で、このことが明文化されました。自社が不動産を買ったのに、前の所有者の間で登記が止まっているといった場面では、この使い方を検討する価値があります。
登記の請求権を代位する場合も、代位の通知や訴えの進め方は、お金の回収の場合と同じです。登記を移すには、登記所に申請する必要があるので、司法書士と連携して進めます。判決を得た場合は、その判決に基づいて、代位による登記を申請することができます。
賃借人が不法占拠者を追い出す場合
建物を借りている人が、その建物に無断で入り込んだ人を追い出したいのに、貸主が動いてくれない場合、借主が貸主に代わって、貸主の持つ明渡しの請求権を行使できると考えられてきました。現在は、登記された賃借権などについて、借主自身が妨害の排除を求められることが法律で定められています。
債権者代位権は、条文の上では単純に見えますが、実際に使う場面では、無資力の証明、代位できる権利かどうかの判断、第三債務者との交渉と、専門的な判断が続きます。債務者の権利を見つけたら、まず弁護士に相談して、代位が使えるか、ほかの手段のほうがよいかを判断してもらいましょう。
債権者代位権を使うときの注意点
債権者代位権は、判決がなくても使える便利な制度ですが、使う前に確かめておきたいことがあります。確認を怠ると、せっかく代位しても回収につながらないことがあります。
- 債務者が本当に無資力か。資料で示せるか
- 債務者がその権利をすでに使っていないか、使おうとしていないか
- 代位する権利が、一身専属権や差押えが禁じられた権利にあたらないか
- 第三債務者が、債務者に対して相殺などの反論を持っていないか
- 代位する権利が時効にかかっていないか
また、代位は、債務者の財産の状況を丁寧に調べたうえで行うことが大切です。債務者にほかに十分な財産があるのに代位すると、無資力の要件を満たさないとして、第三債務者から代位を拒まれることがあります。財産の調査の結果は、書面にまとめて残しておきましょう。
第三債務者が持つ反論
代位して請求しても、第三債務者は、債務者に対して主張できた反論を、債権者に対しても主張できます。たとえば、第三債務者が「債務者から納めてもらった商品に欠陥があったので、代金を減らしてほしい」と主張していれば、債権者もその主張を受けることになります。第三債務者が債務者に対して別の債権を持っていれば、相殺を主張されることもあります。代位する前に、債務者と第三債務者の関係を確かめておくことが大切です。
代位する権利の時効
代位する権利そのものにも時効があります。債務者が長く放置していた権利は、時効が迫っていることがあります。債権者代位権には、債務者の権利の時効を止めるために使うという役割もあります。時効が迫っているなら、まず時効を止める手を打ち、そのうえで回収を進めます。
具体例で考える|債務者の売掛金を代位して回収したケース
ある建材の卸売会社は、小さな工務店に対して、建材の代金200万円を請求していました。工務店は「元請けから工事代金が入らないので払えない」と言い続けていました。調べてみると、工務店は元請けの建設会社に対して、工事代金350万円の支払いを求められる状態にあるのに、元請けとの関係を気にして、請求しようとしていないことが分かりました。工務店にはほかにめぼしい財産がなく、ほかの取引先への支払いも滞っていました。
卸売会社は、弁護士と相談し、債権者代位権を使うことにしました。まず、工務店の財産の状況をまとめ、無資力であることを示す資料をそろえました。そのうえで、元請けの建設会社に対して、工務店に代わって工事代金のうち200万円を卸売会社に直接支払うよう、内容証明郵便で通知しました。
建設会社は当初、工務店との関係を理由に支払いを渋りましたが、法律上の根拠を示して重ねて求めたところ、200万円を卸売会社に振り込みました。卸売会社は、受け取った200万円を工務店への代金債権と相殺し、回収を終えました。
この例では、卸売会社は判決を取っておらず、差押えはできませんでした。債権者代位権を使ったことで、訴訟を起こさずに、短期間で回収できたのです。ただ、工務店が先に元請けから代金を受け取ってしまえば、代位はできなくなっていました。代位の通知だけでは工務店の権利を止められないことを踏まえ、スピードを重視して動いたことが成功につながりました。
もう一つ、個人の例も挙げておきます。知人に150万円を貸していた方が、知人から「今は払えない」と言われていました。知人は交通事故の被害に遭っていて、加害者の保険会社との間で賠償金の額はまとまっていたのに、支払いを受ける手続きを進めずにいました。
この方は、弁護士と相談し、知人が保険会社から受け取る賠償金について、すでに額が確定していることを確かめたうえで、知人に代わって保険会社に支払いを求めました。慰謝料の部分も含めて示談で額が確定していたため、代位の対象になりました。保険会社から150万円の支払いを受け、貸金の回収を終えています。
二つの例に共通しているのは、債務者自身が、第三者に対して確実に支払いを受けられる権利を持っていたことです。債務者の財産を調べるときは、預金や不動産だけでなく、債務者が誰かに対して持っている権利にも目を向けてみてください。思わぬところに、回収の手がかりが見つかることがあります。
債権者代位権に関するよくある質問
債権者代位権を使うのに、判決は必要ですか
必要ありません。債権者代位権は、判決などの債務名義がなくても使えます。ただし、第三債務者が支払いに応じない場合は、代位の訴えを起こして判決を得る必要があります。
代位して受け取ったお金は、ほかの債権者と分けなければなりませんか
受け取ったお金は、本来は債務者に返すべきものですが、債権者は自分の債権と相殺することで、事実上、優先して回収できます。ほかの債権者と分け合う必要はありません。ただし、債務者が破産した場合は、扱いが変わることがあります。
債務者が代位に反対した場合はどうなりますか
条件を満たしていれば、債務者の同意がなくても代位できます。ただし、改正後は、代位の後も債務者が自分で権利を使えるため、債務者が先に第三債務者から支払いを受けてしまうと、代位による回収はできなくなります。
代位して訴えを起こすときに、債務者に知らせる必要はありますか
必要です。債権者が代位の訴えを起こしたときは、遅滞なく債務者に訴訟を知らせなければなりません。債務者にも訴訟に参加する機会を与えるための決まりです。
債務者が複数の人に債権を持っている場合、どれでも代位できますか
自分の債権の額の範囲であれば、どの債権を代位するかは債権者が選べます。回収の確実さを考えて、支払い能力の高い第三債務者に対する債権を選ぶのが合理的です。
代位の訴えで負けた場合、債務者はどうなりますか
代位の訴えの判決は、訴訟を知らされた債務者にも効力が及ぶと考えられています。債権者が負けた場合、債務者も同じ権利について改めて争うことが難しくなることがあるため、代位の訴えは、勝てる見込みを慎重に見きわめてから起こす必要があります。
