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債務名義とは?種類と取り方、差し押さえまでの流れ

債務名義とは?種類と取り方、差し押さえまでの流れ

この記事で分かること

  • 債務名義とは、強制執行を申し立てる資格を示す文書のことである。
  • 債務名義には、確定判決をはじめとする11の種類がある。
  • 強制執行の申立てには、執行文の付いた債務名義の正本が必要となる。
  • 強制執行を行うなら、その分野に詳しい弁護士に相談するのが一番である。

強制執行の申立てには、執行文の付いた債務名義の正本が必要で、裁判所からもらう必要があります。そのあとの強制執行申立て、強制執行手続の進行も含め、慣れない人が取り組むと、思わぬ失敗につながりかねません。債務名義の取得に始まる強制執行については、その分野に詳しい弁護士への相談から始めましょう。

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「債務名義がないと差し押さえられない」とはどういうことか

取引先が代金を払わない。相手の口座も分かっている。それなら、すぐにでも預金を差し押さえたい。そう考えて裁判所に問い合わせると、「まず債務名義を取ってください」と言われる。債権回収の相談で、多くの方が最初につまずくのがこの言葉です。

債務名義とは、相手の財産を差し押さえる強制執行の根拠になる、公的な書面のことです。判決がその代表ですが、ほかにもいくつもの種類があります。どれだけ確かな請求であっても、この書面がなければ、裁判所は差押えを認めてくれません。

反対にいえば、債権回収の手続きの多くは、この債務名義を手に入れるための手段だと考えることができます。支払督促も、少額訴訟も、調停も、公正証書も、目的地は同じです。どの手段で債務名義を取るかによって、かかる時間も費用も、相手との関係も変わってきます。

この記事では、債権回収の依頼を受けている弁護士の立場から、債務名義とは何か、その種類と取り方、執行文との関係、時効との関わり、状況に合った取り方の選び方までを説明していきます。

債務名義という言葉は、日常ではまず使いません。けれども、債権回収に取り組むなら、この言葉の意味と、どうすれば手に入るのかを知っておくことが欠かせません。仕組みが分かれば、どの手続きを選ぶべきかも自然と見えてきます。

債務名義とは|強制執行の「通行手形」

強制執行は、国家の力で相手の財産を取り上げる強い手続きです。間違った請求で財産を奪われることがあってはならないので、民事執行法は、強制執行を始められるのは、請求の存在と内容が公的に確かめられた書面がある場合に限る、と定めています。この書面が債務名義です。

債務名義には、誰が、誰に対して、いくらを請求できるのかが書かれています。執行の機関である裁判所や執行官は、請求が本当に正しいかをあらためて調べることはせず、債務名義に書かれた内容に従って手続きを進めます。そのため、強制執行の手続きは速く進められるのです。

契約書や借用書は債務名義にならない

よく誤解されるのが、契約書や借用書、請求書との関係です。これらはどれだけしっかりしたものでも、当事者が作った私的な書面にすぎず、債務名義にはなりません。相手が署名押印した借用書があっても、それだけでは差押えはできないのです。

こうした書面は、債務名義を取るための証拠として使います。訴訟や支払督促で請求の根拠として示し、判決などの債務名義を手に入れたうえで、差押えに進むという順序になります。

債務名義は回収のゴールではない

債務名義を取ったことで、回収が終わるわけではありません。債務名義は、あくまで差押えができる状態になったことを示すものです。実際にお金を回収するには、相手の財産を見つけ、差押えを申し立て、取り立てを終える必要があります。債務名義を取る段階から、その後の差押えまで見通しておくことが大切です。

債務名義があっても執行できない財産

債務名義があれば、相手のどんな財産でも差し押さえられるわけではありません。生活に欠かせない家財道具や、一定額までの現金、給料の大部分、年金などは、法律で差押えが禁じられています。債務名義は差押えの資格を与えるものであって、差し押さえる財産そのものは、法律の範囲内で債権者が探す必要があります。

債務名義の種類

民事執行法22条は、債務名義になる書面を列挙しています。ここに挙げられていない書面は、どれほど確かなものでも債務名義にはなりません。債権回収の場面でよく使われるものを整理すると、次のようになります。

債務名義 どうやって手に入れるか 特徴
確定判決 訴訟で勝訴し、控訴などの期間が過ぎて確定したもの 最も基本的な債務名義
仮執行宣言つきの判決 確定前でも執行できる旨の宣言がついた判決 相手が控訴しても執行できる
仮執行宣言つきの支払督促 支払督促に相手が異議を出さず、仮執行宣言を得たもの 書類審査だけで手に入る
和解調書 訴訟の中や、訴えを起こす前の手続き(即決和解)で和解が成立したときに作られる 確定判決と同じ効力を持つ
調停調書 民事調停で合意が成立したときに作られる 確定判決と同じ効力を持つ
執行証書(公正証書) 公証人が作り、強制執行を受け入れる文言が入ったもの 裁判を経ずに手に入る。お金などの支払いに限られる
労働審判 労働審判で出された審判や、成立した調停 未払い賃金などの回収に使える

確定判決と仮執行宣言つき判決

訴訟の判決は、控訴や上告ができる期間が過ぎるか、上級の裁判所で結論が出て、はじめて確定します。確定までには時間がかかることもあるため、お金の支払いを命じる判決には、確定を待たずに強制執行できる仮執行宣言がつけられることが多くあります。相手が控訴しても、仮執行宣言つきの判決があれば差押えを進められます。相手の側は、担保を積んで執行の停止を求めることで、これに対抗します。

労働審判や外国の判決

従業員が未払いの賃金を請求する場合などは、労働審判で出された審判や成立した調停も、債務名義になります。また、外国の裁判所の判決や、仲裁の判断も、日本の裁判所で執行を認める手続きを経れば、債務名義として使えます。海外の取引先との紛争では、この点が回収の見通しを左右します。

確定判決と同じ効力を持つもの

和解調書や調停調書は、裁判所で当事者が合意した内容を記録したもので、確定判決と同じ効力を持ちます。判決と違い、双方が納得して決めた内容なので、相手が自分から約束を守る可能性が高いのが利点です。分割払いの合意であっても、支払いが止まれば、この調書で差押えに進めます。

和解調書は、訴訟の途中で当事者が歩み寄ったときにも作られます。判決まで争うより早く解決でき、相手も自分で納得した内容なので、約束を守りやすくなります。裁判官から和解を勧められたときは、請求額の一部を譲っても、確実に払ってもらえる条件になっているかを基準に判断するとよいでしょう。

執行証書は裁判を経ずに作れる唯一の債務名義

公正証書のうち、一定額のお金の支払いについて、相手が「支払わないときは直ちに強制執行を受けても異議はない」と認める文言(強制執行認諾文言)を入れたものを、執行証書といいます。執行証書は、裁判所の手続きを経ずに、当事者の合意だけで作れる唯一の債務名義です。

ただし、執行証書で強制執行できるのは、お金や一定の数量の物の支払いに限られます。建物の明渡しや、特定の物の引渡しを求めることはできません。賃貸借契約を公正証書にしていても、明渡しを強制するには、あらためて訴訟を起こす必要があります。

調停調書を取る場面

民事調停は、簡易裁判所で調停委員が当事者の間に入り、話し合いで解決を目指す手続きです。相手と直接話すと感情的になってしまう場合や、請求額に多少の争いがあって、ある程度譲歩してでも早く解決したい場合に向いています。合意が成立すれば調停調書が作られ、判決と同じように差押えの根拠になります。相手が話し合いに応じなければ調停は不成立で終わり、債務名義は得られない点に注意が必要です。

債務名義の取り方と選び方

債務名義を手に入れる方法はいくつもあり、それぞれ向いている場面が違います。一つの方法にこだわらず、状況に応じて使い分けることが大切です。相手の出方と請求の内容を見て、最も早く確実に取れる方法を選びます。

方法 向いている場面 取得までの目安
公正証書(執行証書) 相手が支払いに合意しているが、将来の不払いが心配 公証役場の予約から数日から数週間
支払督促 相手が請求を争っていない 申立てから1〜2か月
少額訴訟 60万円以下で、証拠がそろっている 訴えを起こしてから1〜2か月
即決和解 当事者で合意ができていて、裁判所で調書にしたい 申立てから1か月ほど
民事調停 話し合いで解決したいが、当事者だけでは進まない 数か月
通常の訴訟 相手が請求を争っている、請求額が大きい 数か月から1年以上

主な方法の費用の目安

方法 裁判所などに納める費用
支払督促 訴訟の手数料の半額と郵便切手代
少額訴訟・通常の訴訟 請求額に応じた手数料と郵便切手代
民事調停 訴訟の手数料のおよそ半額と郵便切手代
即決和解 2,000円と郵便切手代
公正証書 請求額に応じて法令で決まった公証人の手数料

いずれも、弁護士に依頼すれば別に弁護士費用がかかります。相手との関係や争いの程度を考えて、費用と時間のつり合いが最もよい方法を選んでください。

方法を選ぶときは、相手が争うかどうかに加えて、相手の財産が失われるおそれがあるかどうかも考えます。財産が失われそうなら、どの方法で債務名義を取るにしても、その前に仮差押えで財産を押さえておくことを検討してください。債務名義を取るまでの時間が長いほど、仮差押えの意味は大きくなります。

相手が支払いに合意しているなら公正証書

相手が支払うこと自体は認めていて、分割払いの交渉がまとまった場合などは、その合意を公正証書にしておくのが最善です。裁判所の手続きを経ずに債務名義が手に入り、相手が支払いを怠ったときに、すぐに差押えに進めます。公証人の手数料は、請求額に応じて法令で決まっています。

公正証書の作り方

公正証書を作るには、次の手順を踏みます。

  1. 相手と、支払額、支払期日、分割の方法、遅れたときの扱いなどの条件を決める。
  2. 公証役場に連絡し、合意の内容を伝えて文案を作ってもらう。
  3. 本人確認書類、印鑑証明書、会社なら登記事項証明書などをそろえる。
  4. 当事者がそろって公証役場に行き、公証人が読み上げる内容を確認して署名押印する。
  5. 公正証書の正本を受け取り、相手に謄本を交付してもらう。

相手が公証役場に行けない場合は、代理人に委任状を渡して手続きをしてもらう方法もあります。公正証書の原本は公証役場に保管されるので、正本を失くしても再発行を求められます。

合意を裁判所で固める即決和解

即決和解は、訴えを起こす前に、当事者の間でできている合意を、簡易裁判所で和解調書にしてもらう手続きです。正式には「訴え提起前の和解」といいます。公正証書と違って、建物の明渡しなど、お金以外の約束についても債務名義にできるのが特長です。申立ての手数料は2,000円です。

即決和解は、次のような流れで進みます。まず、相手方の住所地を管轄する簡易裁判所に、合意の内容を書いた申立書を出します。裁判所が期日を決めて当事者を呼び出し、期日に双方が出頭して合意の内容を確かめると、和解が成立し、和解調書が作られます。期日は通常1回で終わります。家賃を滞納している借主と、滞納分の分割払いと、支払いが止まったときの明渡しを約束する場面などで、よく使われています。

争いがあるなら訴訟

相手が請求の存在や金額を争っている場合は、支払督促や少額訴訟を選んでも、結局は通常の訴訟に移ることになります。争いがはっきりしているなら、最初から訴訟を起こしたほうが、遠回りになりません。

ワンポイントアドバイス
分割払いの交渉では、「合意書を交わすだけ」で終わらせず、公正証書にするか、即決和解の手続きを使うことを相手に提案してみてください。相手が支払いを本気で約束しているなら、断る理由はないはずです。拒まれた場合は、相手の支払いの意思を疑うきっかけにもなります。

債務名義だけでは差し押さえられない|執行文と送達

債務名義を手に入れても、それだけで強制執行を申し立てられるわけではありません。ここでつまずく方も少なくありません。原則として、執行文を付けてもらい、債務名義が相手に届いたことの証明を用意する必要があります。

執行文は、判決などを出した裁判所の書記官に、公正証書は作成した公証人に申請して付けてもらいます。裁判所に申請する場合の手数料は、300円の収入印紙です。申請には債務名義の正本が必要で、確定判決の場合は、確定したことを示す確定証明書もあわせて取り寄せておきます。

執行文の種類

執行文 付けてもらう場面
通常の執行文 債務名義のとおりに強制執行する一般的な場合
条件成就執行文 「支払いを2回怠ったとき」など、一定の条件が満たされたときに執行できる債務名義で、条件が満たされたことを示して付けてもらう
承継執行文 相手が亡くなって相続人が引き継いだ場合など、当事者が変わったときに付けてもらう

分割払いの和解調書や公正証書で、「2回分以上の支払いを怠ったときは残額を一括で支払う」と定めている場合、残額について強制執行するには、支払いが滞ったことを示して執行文を付けてもらう必要があるかどうかが問題になります。条項の書き方によって扱いが変わるので、和解や公正証書を作る段階で、弁護士に確認しておくと安心です。

送達証明書も忘れずに

強制執行を申し立てるには、債務名義が相手に届いていることの証明も必要です。判決や和解調書は、裁判所から相手に送られているので、裁判所に送達証明書を申請します。公正証書の場合は、作成の時に相手に謄本が交付されていれば、そのことの証明を公証役場で受けられます。交付されていなければ、公証役場を通じて相手に送る手続きが必要です。

執行文の付与を受けたら、債務名義の正本に執行文が綴じ込まれた状態で返されます。この正本は、差押えを申し立てるたびに裁判所に提出し、手続きが終わると返してもらいます。複数の財産を同時に差し押さえたい場合は、正本をもう1通交付してもらう手続きもあります。

執行文が要らない債務名義

少額訴訟の判決と、仮執行宣言つきの支払督促は、原則として執行文がなくても強制執行ができます。手続きの簡単さを生かすための特別な扱いです。ただし、当事者に相続などの変更があれば、承継執行文が必要になります。

条件をつけた債務名義の注意点

分割払いの約束に「2回分を怠ったとき」といった条件をつける場合、条件が満たされたことを誰が証明するのかが問題になります。支払いを怠ったかどうかは、支払ったと主張する相手の側が証明すべきことだと考えられているため、通常は、残額の一括請求のために特別な執行文は必要ないとされています。一方で、債権者の側で何かをすることが条件になっている場合は、その証明をして執行文を付けてもらう必要があります。条項の文言一つで手続きが変わるので、慎重に作ってください。

執行文を付けてもらうときに、債務名義の正本に書かれた当事者の表示と、実際の相手が一致しているかも確かめられます。相手の会社が合併して別の会社になった場合なども、承継執行文が必要です。相手の状況が変わったときは、早めに登記簿などで確かめておきましょう。

債務名義と時効の関係

債務名義を手に入れることには、時効の面でも大きな意味があります。判決や和解調書、調停調書などで確定した権利は、もともとの時効の期間にかかわらず、確定から10年の時効になります。

債務名義 時効の期間
確定判決 確定から10年
和解調書、調停調書 成立から10年
仮執行宣言つきの支払督促 確定から10年
執行証書(公正証書) もとの債権の時効のまま(原則5年)

見落とされやすいのが、公正証書の扱いです。公正証書は裁判所の手続きで権利が確定したものではないので、時効の期間は10年に延びません。支払期日から原則5年で時効を迎えるので、公正証書を持っているからと安心せず、支払いが止まったら早めに差押えなどの手続きをとってください。

たとえば、2026年10月に確定した判決であれば、時効が完成するのは2036年10月です。その間に一度でも差押えをすれば、差押えの手続きが終わった時から、あらためて時効が進み始めます。判決を取った後に回収が進まない場合でも、期限を一覧にして管理しておけば、権利を失わずに済みます。

10年が近づいたら

判決を取っても相手に財産がなく、回収できないまま10年が近づくことがあります。この場合、差押えなどの強制執行の手続きをとれば、時効は更新されます。差し押さえる財産がない場合でも、財産開示手続を申し立てる、時効を止めるためにあらためて訴訟を起こすといった方法で、権利を守ることができます。

公正証書の時効に備える方法

公正証書の時効が近づいても、相手からの一部の支払いや、支払いの約束があれば、時効は更新されます。分割払いが続いている間は、毎回の支払いが承認にあたるので、時効の心配はほとんどありません。問題になるのは支払いが止まった後で、最後の支払いから5年以内に差押えなどの手続きをとる必要があります。差し押さえる財産がない場合は、訴訟を起こして判決を取れば、そこから10年の時効に切り替えられます。

債務名義の種類によって、強制執行の申立ての準備にかかる手間も変わります。仮執行宣言つきの支払督促や少額訴訟の判決は執行文が不要なので、手元に届けばすぐに差押えの申立てに進めます。一方、公正証書は、執行文と送達の証明を公証役場で整える必要があります。どの債務名義を選ぶかは、差押えまでの早さにも関わってきます。

債務名義を取った後の流れ

債務名義を手に入れたら、回収に向けて次のように進めます。どの段階でも、スピードを意識することが大切です。

  1. 相手に、債務名義に基づいて支払いを求める書面を送る(財産を隠すおそれがあれば省く)。
  2. 執行文と送達証明書をそろえる。
  3. 相手の財産を調べ、差し押さえる財産を決める。
  4. 強制執行を申し立て、財産を差し押さえる。
  5. 取り立てや配当を受け、回収を終える。

相手の財産が分からない場合は、債務名義に基づいて、財産開示手続や、銀行などから情報を取り寄せる手続きを使えます。これらの手続きも、債務名義を持っていることが前提です。

相手が破産したら債務名義はどうなるか

相手が破産した場合、債務名義を持っていても、個別に差押えをすることはできなくなります。破産手続の中で債権を届け出て、配当を受けることになります。相手が個人で、破産の後に免責が認められると、債務名義があっても原則として請求できなくなります。債務名義を取った後は、相手の状況が悪化する前に、速やかに差押えまで進めることが大切です。

具体例で考える|分割払いの合意を債務名義にしたケース

ある機械部品の商社は、取引先の町工場に対する売掛金360万円の回収に苦労していました。町工場の社長は支払う意思を見せていましたが、一括では払えないとして、月30万円の12回払いを申し出てきました。

商社の担当者は、当初、社内で作った合意書に社長の署名をもらうだけで済ませようとしていました。相談を受けた弁護士は、合意書だけでは支払いが止まったときにすぐに差押えができないこと、訴訟を起こして判決を取るまでに数か月かかることを説明し、公正証書にすることを勧めました。

町工場の社長も同意し、二人で公証役場に行って、12回の分割払いと、2回分以上怠ったときは残額を一括で支払う旨、強制執行を受け入れる文言を入れた公正証書を作りました。社長個人も連帯保証人として加わっています。

町工場は8回目まで順調に支払いましたが、主な取引先を失って9回目と10回目の支払いが止まりました。商社は、公正証書に基づいて、すぐに町工場の預金と、社長個人の預金を差し押さえ、残りの120万円を回収しました。訴訟を起こしていれば、その間に町工場の預金はほかの支払いに消えていたかもしれません。

個人の例も挙げておきます。自宅の一部屋を貸していた方が、借主の家賃滞納に悩んでいました。借主は滞納分を分割で払うと約束しましたが、過去にも約束を破ったことがありました。

この方は、借主と話し合い、滞納分の分割払いと、支払いを2回怠ったら部屋を明け渡すという内容で、簡易裁判所の即決和解を申し立てました。和解調書ができた後、借主は再び支払いを怠ったため、和解調書に基づいて明渡しの強制執行を申し立て、部屋を取り戻すことができました。公正証書では明渡しの強制執行はできないので、即決和解を選んだことが決め手になった例です。

二つの例に共通しているのは、相手との合意がまとまった段階で、それを債務名義にしておいたことです。合意がまとまると安心してしまいがちですが、約束が守られなかったときに備えるのが、債権回収の基本です。合意書を作る手間に、あと一歩だけ手間を加えて債務名義にしておくことで、回収の確実さは大きく変わります。

債務名義を取るときに気をつけたいこと

債務名義は、強制執行の出発点です。取り方を誤ると、いざというときに差押えができなかったり、思ったとおりに回収できなかったりします。次の点に気をつけてください。

  • 当事者の名前や住所を正確に書く(会社なら登記簿どおりの商号と本店所在地)
  • 請求の金額と、遅延損害金の率と起算日を明確にする
  • 分割払いなら、遅れたときに残額を一括で請求できる条項を入れる
  • 連帯保証人がいるなら、保証人も当事者に加える
  • 債務名義の正本は大切に保管し、紛失しないようにする

とくに連帯保証人の扱いは重要です。会社だけを相手にした債務名義では、保証人の財産を差し押さえることはできません。保証人からも回収したいなら、保証人を当事者に含めて債務名義を取る必要があります。

相手の住所や名前が変わったとき

債務名義を取った後に、相手が引っ越したり、会社が商号を変えたりすることがあります。この場合でも、債務名義はそのまま使えますが、差押えを申し立てるときに、債務名義に書かれた相手と、今の相手が同じであることを示す必要があります。個人なら住民票や戸籍の附票、会社なら履歴事項全部証明書を取り寄せて、住所や商号のつながりを証明します。

遅延損害金の書き方

債務名義に遅延損害金の定めがないと、差押えで請求できるのは元本だけになります。判決の請求や公正証書の文案では、「令和○年○月○日から支払済みまで年○%の割合による遅延損害金」のように、起算日と率を必ず書いておきましょう。分割払いの場合は、支払いを怠って残額を一括で請求するときの、遅延損害金の起算日も決めておく必要があります。

債務名義の内容は、相手と交渉するときの材料にもなります。差押えに進む前に、債務名義の写しを添えて支払いを求めれば、相手は差押えが現実に迫っていることを理解し、支払いに応じることも少なくありません。債務名義は、回収の交渉力を高める道具でもあると考えてください。

正本を失くしたら

債務名義の正本を紛失した場合は、作成した裁判所や公証役場に、あらためて正本の交付を申請できます。ただし、手続きに時間がかかることがあるので、差押えのたびに必要になる正本は、原本を保管する場所を決めて管理してください。

債務名義を取るかどうか迷ったときは、相手が約束を破った場合に、すぐに差押えに進める状態にしておきたいかどうかを考えてみてください。相手の支払いに少しでも不安があるなら、債務名義にしておく価値は十分にあります。とくに分割払いの期間が長い場合や、金額が大きい場合は、合意の段階で弁護士に相談し、最適な形を選ぶことをおすすめします。

債務名義に関するよくある質問

内容証明郵便は債務名義になりますか

なりません。内容証明郵便は、請求をしたことの証拠にはなりますが、差押えの根拠にはなりません。支払いがない場合は、支払督促や訴訟などで債務名義を取る必要があります。

公正証書があれば、すぐに給料を差し押さえられますか

強制執行を受け入れる文言が入った公正証書であれば、執行文を付けてもらい、相手に届いたことを証明すれば、訴訟を経ずに給料などを差し押さえられます。強制執行を受け入れる文言がない公正証書は、債務名義になりません。

判決を取ったのに相手が払いません。判決は無意味ですか

無意味ではありません。判決は債務名義として、相手の財産を差し押さえる根拠になります。相手の財産を調べ、強制執行を申し立てることで回収を目指します。判決で確定した権利は10年間有効です。

相手が亡くなった場合、債務名義は使えますか

使えます。相続人が債務を引き継ぐので、承継執行文を付けてもらえば、相続人の財産を差し押さえることができます。もっとも、相続放棄をした相続人は、はじめから相続人でなかったことになるため、その人の財産は差し押さえられません。

債務名義を取るのに弁護士は必要ですか

支払督促や少額訴訟、即決和解は、自分で申し立てる人も多い手続きです。公正証書も、公証役場で相談しながら作ることができます。ただし、相手が争っている場合の訴訟や、分割払いの条項の書き方など、後の差押えに影響する部分は、弁護士に確認してもらうと安心です。

一つの債権について、複数の債務名義を取ることはできますか

同じ請求について、判決と公正証書を二重に取る必要はありません。すでに債務名義があるのに、あらためて訴訟を起こすことは、時効を止める必要があるなど特別な事情がなければ認められないのが原則です。

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