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明け渡し訴訟とは?手続きの流れと注意点をわかりやすく解説
この記事で分かること
- 「明け渡し訴訟」は、家賃を滞納した借主を法律の力で強制的に退去させる手続き
- まずは任意交渉で家賃の支払いを催告しなければならない
- 滞納者は他にも借金を抱えている可能性大!破産されたら、回収できないかも
入居者から家賃を支払ってもらえない時は、まず任意交渉をしてから、最終手段として明け渡し訴訟を行います。ご自分で家財道具・荷物を撤去したり入居者を追い出したりすることは禁止されていますので、ご注意ください。 なお明け渡し訴訟を行うために必要な滞納期間の目安は、半年程度とされています。1~2ヶ月程度の滞納では、認められない可能性が高いでしょう。
明け渡し訴訟とはどんな手続き?
家賃滞納者を法律の力で強制退去させるための訴訟手続き
明け渡し訴訟とは、「家賃滞納者を法律の力で強制退去させる手続き」のこと。明け渡し訴訟で勝訴すると、裁判所から「滞納者を強制的に退去させて良い」という許可を得られることになります。
アパート・マンションの入居者が何か月も家賃を滞納しているからといって、大家さんが自力で家財道具を撤去したり、入居者をつまみ出したりすることは法律上認められていません。このルールは「自力救済の禁止」と呼ばれており、世の中の秩序を維持するために必要なのです。
そこで家賃滞納者を強制的に退去させるためには、裁判所に明け渡し訴訟を提起することになります。
家主は明け渡し訴訟の判決を根拠に、明け渡しの強制執行の申立てを行い、業者に頼んで家財道具などを強制的に撤去する作業を行います。
明け渡しが完了すると、無事に次の入居者を迎えることが可能になるということです。
家賃滞納でよくあるトラブルの例
家賃滞納者は、単に支払いをしてくれないだけでなく、他にも何らかのトラブルを抱えていることが非常に多いです。
たとえば、
- 急に連絡が取れなくなる
- 行方不明になった
- 逮捕されてしまった
などのケースも少なくありません。
満額での賃料回収が期待できない場合には、なおさら早期の損切りと新規入居者を優先することが大切となります。そうすることで、損失を最小限に抑えることができるでしょう。
明け渡し訴訟を検討した方がいいケースとは?
半年ぐらいの家賃滞納が明け渡し訴訟の目安
日本の法律では、借主の権利が非常に強く守られています。人間にとって住む場所というのは生きていく上で非常に大切ですから、簡単に奪ってはならないとされているのです。
具体的には、「1~2ヶ月程度の家賃滞納」では明け渡し訴訟を提起できない可能性が高いでしょう。過去の判例によると、たった数回の滞納では“賃貸人と賃借人との信頼関係が損なわれた”とは認められていないからです。
明け渡し訴訟を提起できる滞納期間の目安は、だいたい半年程度とされています。
滞納期間が3か月を過ぎた頃から、弁護士に相談するなりして、訴訟の準備に取り掛かると良いでしょう。
騒音・異臭・嫌がらせなど近隣住民からの苦情が半年継続
家賃滞納以外のケースとしては、近隣住民からの苦情が寄せられるというものもあります。
たとえば、
- 奇声を発する
- 大量のゴミを放置して異臭を発生させている
- 近隣住民に嫌がらせをする
など生活態度が非常に悪い場合、近隣住民とのトラブルを引き起こすことになります。
そうなると、当該入居者以外の近隣住民は安心して暮らすことができず、アパート・マンションの価値も下がってしまうでしょう。
こうした近隣住民とのトラブルが理由の場合でも、明け渡し訴訟の提起が認められるのは半年程度が目安とされています。
半年が近づいてきたら、明け渡し訴訟を扱っている弁護士に、早めに相談してみましょう。
明け渡し訴訟の基本的な流れ
明け渡し訴訟を行う場合の基本的な流れは下記の通りです。
- 滞納者との任意交渉
- 建物明渡し請求訴訟を管轄裁判所に提起する
- 確定判決に基づき強制執行申立てを行う
滞納者との任意交渉
支払い催告の送付
家賃を滞納されていても、いきなり明け渡し訴訟を提起することはできません。まずは「滞納家賃を期日までに支払ってくれないと賃貸借契約を解除します」という旨の支払い催告を送り、最後の説得を試みます。
保証人への連絡
次に、賃貸借契約の際に保証契約を結んだ保証会社か連帯保証人に連絡を取りましょう。保証会社や連帯保証人には、滞納者の債務を代わりに支払う義務があります。きちんとした保証会社であれば支払ってくれる可能性が高いですが、場合によっては連帯保証人すらも行方不明になってしまうことがあります。
内容証明郵便での解除通知書の送付
連帯保証人も支払ってくれなければ、「賃貸借契約の解除通知書」を送ります(その際は証拠能力の高い内容証明郵便を活用します)。
賃貸借契約の解除までの手続きが完了してはじめて、明け渡し訴訟を提起することが可能となるのです。
家賃滞納への対応ははじめから弁護士に相談した方がスムーズ
これらの手続きは自力でもできますが、なるべく弁護士に最初から全て任せたほうがスムーズに進行すると期待できます。
支払い催告と解除通知の送付を弁護士に依頼する場合、必要となる書類は以下の通りです。
- 賃貸借契約書
- 滞納明細
- 不動産登記簿謄本
- 固定資産税評価証明書
- 物件見取り図
- 弁護士への委任契約書
建物明渡し請求訴訟を管轄裁判所に提起する
前述の通り、賃貸借契約が解除されたからといって、家主が自力で入居者を追い出すことは法律で禁止されています。
賃貸借契約の解除通知を送っても入居者が任意で出ていかない場合は、建物の明け渡し訴訟と滞納家賃の支払い請求訴訟を裁判所に提起することになります。
明け渡し訴訟に滞納者が出席してくれないケースもしばしば見られますが、その場合には被告が原告の言い分を全て認めたことになり、原告勝訴の判決が言い渡される可能性が非常に高いです。
なお明け渡し訴訟では、被告と和解に至るケースもあります。和解した場合には確定判決と同等の強制執行力を持つ和解調書が作成され、これをもとに明け渡しの強制執行をすることが可能となります。
明け渡し訴訟に必要な書類は、以下の通りです。
- 賃貸借契約書
- 不動産登記簿謄本(登記事項証明書)
- 支払い催告・解除通知(内容証明郵便)
- 配達証明書(上記内容証明郵便についての)
- 固定資産税評価証明書
- 予納郵便切手、訴額に応じた収入印紙
確定判決に基づき強制執行申立てを行う
明け渡しを認める判決が下されても入居者が出ていかない場合や行方不明になってしまった場合には、強制執行の申立てを行います。
確定判決に基づき強制執行を申立てると、裁判所の職員である執行官立会いのもとで、部屋から強制的に荷物を運び出す作業を行うことになります。
と言ってもいきなり押し入って撤去する訳ではありません。
まず入居者に「約1ヶ月の猶予を与えるので、その間に任意で退去してください」という旨の通知を送ります。それにも従わない場合にはじめて、強制的に撤去することになります。開錠技術者や運送業者などにも依頼することになるため、その分の費用もかかることに注意が必要です。
明け渡し訴訟をする場合の注意点
滞納者が破産するリスクも考えておくこと
家賃滞納者は、他にも借金を抱えているケースが非常に多いです。自己破産すると滞納家賃の支払い義務も逃れることができますから、家主にとっては非常に不利になります。
前述の通り、「半年の滞納期間」が明け渡し訴訟の目安となっていますが、なるべく早い段階から準備をしておくことが理想です。
執行費用は法律上滞納者負担だが、期待できない可能性
強制執行にかかる費用は、法律上は債務者(滞納者)負担と定められています(民事執行法42条)。しかし、家賃滞納者には充分な支払能力がないことが多く、結局は家主の負担となる可能性もあります。
あらかじめ保証会社や連帯保証人と契約しておくことで、こういったリスクを軽減させることができるでしょう。
明け渡し訴訟を検討するなら、弁護士に相談を
自力での対応だと損失が膨らむリスクも
弁護士に頼らず自力で手続きを進めようとする方も多いですが、明け渡しの手続きではとにかくスピードがモノを言います。
前述の通り、多くの家賃滞納者にはもはや滞納分を支払う能力が残されておらず、支払手続きが長引けば長引くほどどんどん損失が膨らむリスクがあります。
弁護士に依頼することでスピーディーな解決が期待できる
明け渡しの実務に慣れている弁護士に最初から一任してしまった方が、上記のリスクを最小限に抑えることができるでしょう。
初回無料で法律相談を受け付けている弁護士も多いので、明け渡し訴訟をご検討されている方はお気軽に相談してみましょう。
- 状況にあわせた適切な回収方法を実行できる
- 債務者に<回収する意思>がハッキリ伝わる
- スピーディーな債権回収が期待できる
- 当事者交渉に比べ、精神的負担を低減できる
- 法的見地から冷静な交渉が可能
- あきらめていた債権が回収できる可能性も