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代物弁済とは? 代物弁済による債権回収で抵当権との違いは?

この記事で分かること

  • 代物返済は債務の返済の代わりに特定の資産を債権者へ譲渡する手続きです。
  • 債権回収のための代物返済にはいくつか4つの要件があります。
  • 対象物の評価の価格と債権の価格に差が出たときの清算についても考えておく必要があります。

代物弁済では、動産や不動産、債権など代物返済における資産の対象になります。

代物弁済の基本的知識

代物弁済とは、債務者が債権者の承諾を得た上で、債務者の資産を債権者に譲渡し、債務を弁済したことと同一の効力を与えるものです。具体的な例で言えば、100万円を借りた人に現金がないため、貸した人の承諾を得て100万円相当のダイヤの指輪を与えて返済したなどが、これにあたります。様々な考え方がありますが「債権者の同意を得て」という部分が債権者・債務者の合意を意味すると考えられることから、代物弁済は契約と考えるのが一般的です。

代物弁済の効果は、債務が消滅することです。上記の要物契約の考えに立てば、現実の代物の給付が契約の成立には必要となります。そのため、不動産であれば移転登記が必要になります。

代物弁済の4つの要件

代物弁済には、4つの要件があります。

XがYに1000万円を貸し付けて、その返還を求めた場合を想定します。Yは所有する甲土地で代物弁済したと主張する場合を例にあげて説明しましょう。

要物契約の場合

要物契約で考えた場合、裁判で原告Xが「貸したお金を返してください」という主張(請求原因)に対して、Yは以下を主張することになります。

  1. Yが甲土地を所有していること
  2. XY間で債務の弁済に代えて甲土地の所有権移転の合意をして、YからXに移転登記

 要物契約のため、合意と登記を1個の事実として扱います。登記までして契約が成立し、契約が成立すると債権が消滅するという考えです。

諾成契約の場合

 一方、諾成契約の場合はYは以下のように主張することになります。

  1. Yが甲土地を所有していること
  2. XY間で債務の弁済に代えて甲土地の所有権移転の合意
  3. 合意に基づいて甲土地についてYからXに移転登記

 所有権移転の合意と、登記を別個の事実として扱い、登記を合意に基づいて行うということになります。こちらは②の段階で契約が成立し、代物弁済の効果が出るために移転登記が必要という考え方です。こちらは移転登記が完了した(給付が完了)時に債権消滅の効果が生じると考えます。

民法改正案では諾成契約に

要物契約と諾成契約、一般人には大きな影響はないでしょう。ただし、諾成契約で考えれば登記がなくても契約は成立していたということになります。要物契約では登記がされてないから契約は成立していないと、みなされる違いはあります。民法改正案では代物弁済は諾成契約とされていますから、施行された場合、その点には注意が必要でしょう。

代物弁済が活用される場面

それでは代物弁済が実際に活用される場面を考えてみましょう。

破綻に瀕した会社への未収金がある場合、その会社が保有する商品を代物弁済として受け取るということがあります。そのような場合、破綻後に特定の債権者による抜け駆け的な行為の効力を否定する否認権の対象とされ、無効にされる場合もあります。ただし、善意の場合(事実を知らないこと)は否認権の対象とはなりません。すなわち「(抜け駆け的回収により)利益を受けた者が、その行為の当時、支払の停止等があったこと及び再生債権者を害する事実を知らなかったときは、この限りではない」(民事再生法127条1項2号但し書き)と規定されているからです。

ワンポイントアドバイス
債務者がお金を返せなくなった時に備えて、その場合は不動産で代物弁済するという約束をすることがあります。不動産の代物弁済の予約は仮登記担保として、実質的には抵当権などの担保と同じ機能を果たします。仮登記担保の詳細については後述します。

不動産の代物返済で利用する仮登記担保制度

不動産で代物弁済をする場合、その予約として仮登記担保が利用されます。
仮登記担保とは、債務不履行に備えて代物弁済の予約をして、債権者に所有権移転請求保全の仮登記(不動産登記法105条2号)をするものです。

仮登記担保は、広い意味での代物弁済の合意と言えるでしょう。金銭債務を担保するために、不履行があった場合に、当該不動産の所有権その他の権利の移転等をすることを目的としています。代物弁済の予約、停止条件付き代物弁済契約(債務不履行があった場合に代物弁済がなされるという契約)などが該当しますから、広い意味での「代物弁済の合意」と考えるのが適切でしょう。

仮登記担保の歴史

仮登記担保は、抵当権の実行手続きのような面倒な手続きが必要なく、また、目的不動産を完全に手に入れられることから、広く利用されていました。しかし、例えば1000万円の借金が返せずに5000万円の土地を手放すようなことになれば、これは暴利行為として公序良俗に反して無効と考えるのが普通です(90条)。暴利と言えないまでも、1000万円の借金に対して1500万円の土地を手渡すのも、不当なのは明らかです。そこで最高裁が判例で大胆に介入して、そのような場合には清算義務があるとしました(最判昭和49年10月23日)。それに対応して、1978年に仮登記担保契約に関する法律(以下、仮担法)が制定されて規制が強化され、一定の手続きが法定されました。

仮登記担保制度の実際

仮登記担保が実際にどのように実行されるのかを見てみましょう。

仮登記担保権の実行は「通知」から

債権者は債務不履行があった日にただちに不動産の所有権を得られるわけではありません。契約上、所有権が得られる日以後に、不動産を価額評価して、被担保債権との清算金見積もり額を債務者に通知する必要があります(仮担法2条1項)。

清算期間の経過後に所有権を取得

通知から2か月が「清算期間」です。債務者がその価額に満足する場合には、期間経過後に清算金を支払って不動産の本登記と引き渡しを受けます。

債務者が不満の場合は弁済、受戻し可

債務者が債権者の清算金に納得がいかない場合等には、清算期間内であれば債務を弁済できます。また、清算期間後であっても、債権者が清算金を支払うまでは債務と同額の金額を支払うことで、不動産を取り戻すことができます。

後順位担保権者との調整

仮登記担保がされた後に、同じ不動産に抵当権などが設定される場合があります。そのような場合の調整を見てみましょう。

仮登記担保と抵当権者との優先順位

仮登記担保は抵当権とみなされます。「担保仮登記のされた時にその抵当権の登記がされたものとみなす」(仮担法13条1項、20条)という規定が根拠です。そのため仮登記担保がされた後に抵当権が設定されても、仮登記担保権は抵当権に優先して本登記手続をすることができます。

後順位担保権者への通知

債権者は債務者に「通知」(仮担法2条1項)をした時に、当該不動産に後順位担保権者(抵当権者、質権者等)がいれば、それにも通知をしなければなりません(同法5条1項)。債権者の示した清算金に満足であれば、清算金が債務者に払渡しされる前に差押えて優先弁済を受けることになります。その場合、担保権者がいれば、登記の順序によって弁済を受けます。

ワンポイントアドバイス
仮に債権者が提示した清算金の見積もり額に満足しない時は競売を請求できます(仮担法12条)。ただし、後順位の担保仮登記権利者は競売請求できません。強制競売になった場合、仮登記担保を設定した債権者は優先弁済を受けます。これは、仮登記担保権が抵当権とみなされ、登記された時に抵当権の設定登記がされたものとみなさられるという既出の規定によります。

代物弁済の問題

代物弁済の目的物に瑕疵がある場合です。
目的物に瑕疵があるとは、たとえば500万円の債務に替えて500万円相当のサラブレッドで代物弁済した場合を考えましょう。せっかく受け取ったサレブレッドですが、脚部に古傷があって競走馬としてのデビューはできない「欠陥品」だったことが後から判明しました。サラブレッドは通常、競走馬にするために取引されますから、競走馬になれないサラブレッドは「瑕疵ある」サラブレッドと言えるでしょう。しかし、代物弁済は弁済と同一の効力を有するため、代物を交付することで債権が消滅します。そうであれば、債権の存在を前提とした請求、たとえば瑕疵のない物を請求したり、本来の給付(金銭)も請求はできません。

瑕疵担保の規定の活用

 競走馬になれないサラブレッドをもらって債権が消滅してしまった者への救済は、瑕疵担保責任(570条、559条)で追及することになります。代物弁済は有償契約ですから、売買の規定が準用される(559条)ことで瑕疵担保責任の追及ができます。具体的には解除や、損害賠償請求などが可能でしょう(566条、570条)。

代物弁済の価値が過小、過大

代物弁済の目的物が被保全債権の価額と釣り合わない場合も問題となります。

代物弁済の価値が過大な場合は無効の場合も

不動産の場合、仮登記担保であれば仮担法で清算が義務付けられますが、動産にはそのような規定はありません。そのため、100万円の債権に対して、1000万円の市場価値のある絵画で代物弁済ということも起こり得ます。そのような極端な場合は、債権者に不当利益返還請求が可能ですが、暴利行為、公序良俗違反で代物返済そのものが無効とされる可能性があります(90条)。

代物弁済の価値が少ない場合、契約書に明記を

逆に100万円の債権に対して、70万円の価値しかない小さなダイヤモンドの指輪で代物弁済した場合、債権者が了解すれば100万円の債権が消滅してしまいます。そのような場合には債権の一部(具体的には100万円のうち70万円分)について代物弁済を受けることを確認し、契約書に明記するなどの手当が必要でしょう。

ワンポイントアドバイス
差額が出た場合、債権者にとってはその差額分も支払ってもらいたいのは当然です。代物返済では、契約書を作成する段階で、差額分の弁済に関しての特約を設けて記載しておく方がよいでしょう。事前に資産の価値を定めておくことで、資産価格と債権額の開きを防ぐことができます。

代物弁済についてわからないことを弁護士に相談

代物返済を考えたら、まず、債権回収に強い弁護士に相談することがとても大切です。債権回収に強いかどうかは、法律事務所のホームページを見ることで分かることがあるので、見てみましょう。また、代物弁済を行うと、債権者、債務者ともに税金がかかります。債権者には、贈与税や不動産産取得税など、債務者には消費税や譲渡所得税が発生することがあり複雑です。そのため、税理士との連携がとれている法律事務所を選ぶことをおすすめします。

債権回収を弁護士に相談するメリット
  • 状況にあわせた適切な回収方法を実行できる
  • 債務者に<回収する意思>がハッキリ伝わる
  • スピーディーな債権回収が期待できる
  • 当事者交渉に比べ、精神的負担を低減できる
  • 法的見地から冷静な交渉が可能
  • あきらめていた債権が回収できる可能性も
上記に当てはまるなら弁護士に相談