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立ち退き料は、いくらが妥当なのか
貸主から建物の建て替えを理由に退去を求められ、「立ち退き料として○万円を支払う」と提示された。この額は妥当なのだろうか、もっと求めてもよいのだろうか。反対に、貸主の立場では、借主に出てもらうために、どれくらいの額を用意すればよいのか見当がつかない。立ち退き料をめぐる悩みは、借主と貸主の双方にあります。
立ち退き料とは、一般に、貸主の都合で借主に退去してもらう場合に、貸主が借主に支払うお金です。法律に「立ち退き料を払わなければならない」という規定があるわけではありませんが、借地借家法は、貸主が立ち退きを求めるための正当な理由を判断する事情の一つとして、立ち退き料の支払いを挙げています。
立ち退き料の額には、法律で決まった相場や計算式があるわけではありません。インターネットで見かける目安も、あくまで一例にすぎません。引越しの費用、新しい住まいの家賃との差額、店舗であれば営業の損失など、借主が立ち退きによって受ける損失をもとに、個別の事情に応じて決まります。立ち退き料の額は、借主の損失をどれだけ具体的に示せるか、そして貸主の立ち退きの必要性がどれだけ強いかによって大きく変わります。
この記事では、不動産のトラブルの相談を受ける弁護士の立場から、立ち退き料の意味、額を決める要素、住宅と店舗での違い、交渉の進め方、受け取ったときの税金、支払う側の注意点までを説明していきます。立ち退きのルールや正当な理由の判断については、別の記事で詳しく解説しています。
立ち退き料の交渉は、借主にとっては生活や事業を立て直すための資金を確保する機会であり、貸主にとっては計画を進めるための必要な投資です。双方が納得できる額を見つけるには、立ち退き料の考え方を知り、根拠を示して話し合うことが欠かせません。
立ち退き料とは
まずは、立ち退き料の基本的な性質を確かめておきましょう。立ち退き料は、貸主の都合による立ち退きで、借主が受ける損失を補うために支払われるお金です。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 法律上の位置づけ | 貸主の立ち退きの求めに正当な理由があるかを判断するための事情の一つ(財産上の給付) |
| 支払いの義務 | 法律で義務づけられているわけではなく、当事者の合意や、判決で決まる |
| 支払う場面 | 建て替え、貸主の自己使用、売却など、借主に落ち度がない立ち退き |
| 支払わない場面 | 家賃の滞納などの借主の契約違反による解除、有効な定期借家の期間満了 |
正当な理由との関係
ここで押さえておきたいのは、立ち退き料は、それだけで立ち退きを正当化するものではなく、貸主の側の必要性を補う役割を果たします。貸主の必要性が強ければ、立ち退き料は少なくて済み、必要性が弱ければ、多額の立ち退き料が必要になります。必要性がほとんどない場合は、立ち退き料をいくら積んでも、立ち退きが認められないこともあります。
立ち退き料の意味を借主の立場から見る
借主の立場から見れば、立ち退き料は、立ち退きに同意するかどうかを判断するための大切な条件です。普通の賃貸借では、借主は正当な理由がなければ立ち退く必要がないので、立ち退き料の額に納得できなければ、住み続けるという選択肢もあります。立ち退き料は、借主が自分の意思で立ち退きに応じるための対価と考えることもできます。
立ち退き料が不要な場合
借主が家賃を何か月も滞納している、無断で部屋を又貸ししている、近隣に迷惑をかけ続けているなど、借主に契約違反がある場合は、貸主は契約を解除して明け渡しを求めることができ、立ち退き料を支払う必要は原則としてありません。定期建物賃貸借が有効に成立していて、期間が満了した場合も同じです。
立ち退き料の支払いを申し出る時期
貸主は、立ち退き料の支払いの申し出を、更新しない旨の通知や解約の申入れの時点でしておくのが望ましいのですが、訴訟になってから申し出たり、増額したりすることも認められています。訴訟の途中で、裁判所の判断を見ながら、立ち退き料の額を見直すこともあります。
名目の違い
立ち退き料は、立退料、移転料、明渡し料、移転補償金など、さまざまな名目で呼ばれます。また、引越しの費用を貸主が直接負担する、敷金を全額返す、明け渡しまでの家賃を免除する、といった形で、実質的な立ち退き料を支払うこともあります。名目にかかわらず、借主が受け取る利益の総額で考えることが大切です。
立ち退き料が問題になる時期
立ち退き料の話が出るのは、多くの場合、貸主が更新しないことを通知したときや、解約を申し入れたときです。ただし、法律上の通知の前に、貸主から「建て替えの予定があるので、退去を考えてもらえないか」と相談の形で打診されることもあります。こうした早い段階の打診でも、立ち退き料の条件を確かめておくことが大切です。
立ち退き料の額を決める要素
立ち退き料の額は、主に次のような要素を積み上げて考えます。一つの要素だけで決まるのではなく、これらを総合して判断されます。
| 要素 | 内容 |
|---|---|
| 移転にかかる費用 | 引越しの費用、新しい住まいの敷金・礼金・仲介手数料、家具や設備の買い替え |
| 家賃の差額 | 新しい住まいの家賃が今より高い場合の、一定期間分の差額 |
| 借家権の価格 | 借主がその建物を借り続けられる権利の経済的な価値 |
| 営業の損失(店舗など) | 休業の間の利益の減少、移転の後の売上の減少、内装の工事の費用 |
| 精神的な負担 | 長年住んだ場所を離れる負担(独立した項目として認められることは少ない) |
借家権の価格とは
借家権の価格は、簡単にいえば、借主が、今の家賃で長く借り続けられることによって得ている経済的な利益を評価したものです。今の家賃が周辺の相場より安い場合、借主は、その差額の分だけ利益を得ていることになり、立ち退きによってその利益を失います。不動産鑑定士は、今の家賃と相場の家賃の差額などをもとに、借家権の価格を評価します。
移転の費用に含まれるもの
移転の費用には、引越しの業者への支払いのほか、新しい住まいの敷金、礼金、仲介手数料、火災保険料、家賃保証会社の保証料、エアコンやカーテンなどの設置や買い替えの費用、住所の変更の手続きにかかる費用なども含まれます。細かな費用も漏れなく積み上げることで、必要な額を正確に示せます。
家賃の差額を何年分とするか
新しい住まいとの家賃の差額を何年分補償するかは、交渉の大きな論点です。借主が今の住まいにどれだけ長く住み続ける見込みだったか、借主の年齢や生活の状況、建物の残りの耐用年数などが考慮されます。数年分とされることが多いものの、事案によって大きく異なります。
借家権の価格の考え方
借家権の価格は、国税庁の財産評価の基準では、借家権割合として一定の割合が示されていますが、立ち退き料の算定では、この割合がそのまま使われるわけではありません。不動産鑑定士は、今の家賃と相場の家賃の差額が、今後どれだけの期間続くと見込まれるかを考えて、借家権の価格を評価します。
営業の損失の考え方
店舗の営業の損失は、移転のために店を閉める期間の利益と、移転の後に売上が元に戻るまでの減収を合わせて考えます。過去の決算書から1か月あたりの利益を求め、休業の期間や、売上が回復するまでの期間を見積もって計算します。見積もりの根拠を示せるよう、会計の資料を整理しておくことが大切です。
貸主の必要性の強さ
同じような借主の損失でも、貸主の立ち退きの必要性が強いほど、立ち退き料は少なくなる傾向があります。建物が倒壊の危険があるほど古い場合は、借主の損失の一部を補う額で足りるとされることもあります。反対に、建物にまだ十分な耐用年数があり、貸主が高く売りたいという理由だけであれば、借主の損失を大きく上回る額が必要になることもあります。
要素ごとの考え方の例
たとえば、家賃が相場より安い住宅に長く住んでいる借主の場合、新しい住まいで同じ広さの部屋を借りると、家賃が上がります。その差額を、何年分補償するかが、立ち退き料の大きな部分になります。一方、家賃が相場と同じ程度であれば、家賃の差額はほとんど生じず、立ち退き料は引越しの費用と初期費用が中心になります。
住宅と店舗での違い
立ち退き料の考え方は、住宅と店舗・事務所とで大きく異なります。事業の損失が加わるかどうかが、最も大きな違いです。
| 比べる点 | 住宅 | 店舗・事務所 |
|---|---|---|
| 主な損失 | 引越しの費用、新しい住まいの初期費用と家賃の差額 | 移転の費用、内装の工事の費用、休業と売上の減少 |
| 額の傾向 | 比較的少額になりやすい | 高額になりやすい |
| 立地の重要性 | 通勤や通学、通院の便 | 顧客の来店、取引先との距離、看板の効果 |
| 資料 | 引越しの見積もり、新しい住まいの募集条件 | 決算書、売上の記録、内装の工事の見積もり |
住宅の立ち退き料
住宅の立ち退き料は、主に、引越しの費用と、新しい住まいを借りるための初期費用、そして一定期間の家賃の差額を中心に考えられます。長く住んでいて家賃が相場より安い場合は、家賃の差額の補償が大きくなり、立ち退き料も高くなる傾向があります。高齢や病気などで転居が難しい事情がある場合も、額に影響します。
住宅の立ち退き料の交渉では、転居先の紹介を受けることも一つの方法です。貸主が近くに別の物件を持っている場合や、不動産会社と連携して転居先を探してくれる場合は、立ち退き料の額を抑えつつ、借主の負担を小さくできます。
借主の年齢や家族の事情
高齢の借主は、新しい住まいを借りる際に、入居の審査が通りにくいことがあります。そうした事情がある場合は、転居先の確保そのものが難しくなるため、立ち退き料の額だけでなく、貸主が転居先を用意することが求められることもあります。子どもが学校に通っている家庭では、学区が変わらない範囲で転居先を探す必要があるなど、家族の事情も考慮されます。
店舗の立ち退き料
店舗の立ち退き料は、移転そのものの費用に加えて、営業の損失の補償が大きな部分を占めます。とくに、立地そのものが集客の源になっている飲食店や小売店では、移転によって常連客を失うおそれがあり、その損失をどう評価するかが争点になります。内装に多額の投資をしている場合は、まだ使える内装を残して退去することによる損失も考慮されます。
事務所の立ち退き料
事務所の場合は、店舗ほど立地による集客の影響は大きくないことが多いものの、移転の費用、内装や通信の設備の工事、名刺や印刷物の変更、取引先への通知などの費用がかかります。顧客が来訪する業種では、立地の変化による影響も考慮されます。
立ち退き料の見積もりに必要な資料
立ち退き料の交渉で説得力を持つのは、損失を裏付ける具体的な資料です。借主の立場では、次のような資料を集めておきましょう。
住宅の借主がそろえたい資料
- 引越しの業者の見積書(複数の業者から取ると妥当性を示しやすい)
- 新しい住まいの候補の募集条件(家賃、敷金、礼金、仲介手数料)
- 今の賃貸借契約書と、家賃の支払いの記録
- 通院先や勤務先、子どもの学校など、今の場所に住む必要性を示す資料
新しい住まいの候補は、今の住まいと同じ地域、同じくらいの広さ、同じくらいの駅からの距離の物件を選んで調べます。条件を大きく良くした物件を基準にすると、貸主から過大な要求だと受け取られ、交渉がこじれることがあります。今の生活の水準を保つのに必要な物件を基準に考えましょう。
店舗や事務所の借主がそろえたい資料
- 直近数年分の決算書、確定申告書、月ごとの売上の記録
- 今の店舗の内装の工事の費用の記録と、移転先での内装の工事の見積書
- 設備の移設や買い替えの見積書
- 移転先の候補の募集条件と、周辺の同じ条件の店舗の家賃
- 顧客の多くが近隣に住んでいることなど、立地の重要性を示す資料
貸主が準備したい資料
貸主の側では、立ち退きの必要性を示す資料が中心になります。建物の築年数、耐震診断の結果、修繕にかかる費用の見積もり、建て替えの計画の図面や資金の計画などです。借主の損失についても、周辺の家賃の相場や、引越しの費用の一般的な水準を調べておくと、提示する額の根拠を説明しやすくなります。
資料は交渉の前に整理しておく
資料は、交渉の場で慌てて集めるのではなく、立ち退きを求められた段階から整理しておきましょう。見積書は、日付と業者の名前が分かるものを取り、損失の計算の根拠が相手にも伝わる形にまとめておくと、交渉がスムーズに進みます。
不動産鑑定士の意見
立ち退き料の額が大きくなりそうな場合や、借主と貸主の考える額に大きな開きがある場合は、不動産鑑定士に借家権の価格の評価を依頼する方法もあります。第三者の専門家の評価は、交渉でも、調停や訴訟でも、有力な根拠になります。
立ち退き料の交渉の進め方
立ち退き料は、ほとんどの場合、訴訟ではなく、貸主と借主の交渉で決まります。
借主の立場での進め方
- 立ち退きの理由と、提示された立ち退き料の額と内訳を確かめる。
- 引越しの費用、新しい住まいの初期費用と家賃、店舗なら営業の損失を見積もる。
- 提示された額で損失をまかなえるかを比べ、不足する額と根拠をまとめる。
- 根拠を示して増額を求め、退去の時期などの条件も含めて交渉する。
- 合意できたら、合意書に立ち退き料の額と支払いの時期を明記する。
貸主の立場での進め方
貸主の側は、いきなり金額を示すのではなく、まず借主の事情を聞き取り、借主が受ける損失を具体的に把握することから始めます。そのうえで、立ち退きの必要性を示す資料(建物の老朽化の調査、耐震診断の結果など)とあわせて、立ち退き料の額を提示します。最初から上限の額を示すのではなく、交渉の余地を残した額から始めるのが一般的です。
一度の提示で決めない
立ち退き料の交渉は、一度の提示で決まることはまれです。借主は、提示された額にすぐに同意せず、自分の損失の見積もりを示して、増額を求めるのが通常の流れです。貸主の側も、交渉の過程で額を調整することを前提に、段階的に条件を示していきます。
交渉のタイミング
立ち退き料の交渉は、貸主の建て替えの計画の時期と深く関わっています。貸主にとって、工事の着工の時期が迫っているほど、早く合意したいという事情が強くなります。借主にとっては、貸主の計画の時期を確かめておくことで、交渉の進め方を考えやすくなります。ただし、足元を見るような過大な要求は、かえって交渉を長引かせるので、根拠のある額を示すことが大切です。
合意書に定める事項
| 事項 | 内容 |
|---|---|
| 立ち退き料の額 | 総額と、内訳(必要なら) |
| 支払いの時期と方法 | 合意の時と明け渡しの時の分け方、振込先 |
| 明け渡しの期日 | いつまでに退去するか |
| 家賃と敷金 | 明け渡しまでの家賃の扱い、敷金の返還 |
| 原状回復 | 原状回復の義務を免除するか |
| 期日までに退去しない場合 | 立ち退き料の減額、損害金など |
交渉で避けたいこと
借主の側が、根拠を示さずに高額な立ち退き料を求め続けると、貸主が交渉をあきらめて訴訟に進むことがあります。訴訟では、借主の損失を具体的に示せなければ、期待した額が認められないこともあります。貸主の側も、低すぎる額を示して話し合いを打ち切るような姿勢は、交渉を長引かせる原因になります。
転居先の紹介と立ち退き料の組み合わせ
貸主が転居先を紹介したり、転居先の家賃を一定期間負担したりする場合は、その分だけ立ち退き料の額を抑えることができます。借主にとっても、転居先を自分で探す手間が省け、転居の後の生活の見通しが立ちやすくなります。金銭だけでなく、こうした支援を組み合わせることで、双方にとって負担の少ない解決が見つかることがあります。
貸主が複数の借主と交渉する場合
一つの建物に複数の借主がいる場合、借主ごとに立ち退き料の額が違うことがあります。住んでいる期間、部屋の広さ、借主の事情が違えば、損失の大きさも違うからです。ただし、額の差が大きすぎると、借主の間で不公平感が生まれ、交渉がこじれることもあります。額を決める考え方をそろえておき、借主ごとの事情で調整するのが望ましいでしょう。
支払いの時期と方法
立ち退き料は、実務では、合意の時に一部を、明け渡しの時に残りを支払う形が多く見られます。全額を先に払ってしまうと、借主が退去しないおそれがあり、全額を明け渡しの後に払う約束では、借主が引越しの費用を用意できないことがあるからです。支払いの時期と方法は、双方の不安を解消できるように決めましょう。
立ち退き料を受け取ったときの税金
見落としがちなのが、税金の問題です。借主が受け取った立ち退き料には、原則として所得税がかかります。どの所得にあたるかは、立ち退き料の性質によって変わります。
| 立ち退き料の性質 | 所得の区分 |
|---|---|
| 住宅の借主が受け取る、移転の費用などを補うもの | 一時所得(特別控除50万円があり、その残りの2分の1が課税の対象) |
| 借家権の消滅の対価として受け取るもの | 譲渡所得 |
| 事業の借主が受け取る、休業による収益の減少を補うもの | 事業所得などの収入 |
住宅の借主の場合
住宅の借主が受け取る立ち退き料は、一時所得として扱われることが多く、ほかの一時所得と合わせて50万円の特別控除を差し引き、残りの2分の1が課税の対象になります。立ち退きのためにかかった引越しの費用などは、収入を得るために支出した金額として差し引ける場合があります。額が大きい場合は、確定申告が必要になることもあるので、税理士に確かめておきましょう。
消費税の扱い
立ち退き料は、借主が賃借権を失うことへの補償として支払われるもので、一般には、資産の譲渡などの対価にあたらないとして、消費税の課税の対象にはならないとされています。ただし、事業者の間で、立ち退き料の名目で実際には別の取引の対価が支払われる場合などは、扱いが変わることもあります。
立ち退き料と住民税・社会保険料
立ち退き料を受け取って所得が増えると、所得税だけでなく、翌年の住民税や、国民健康保険料などにも影響することがあります。受け取る額が大きい場合は、こうした負担の増加も見込んでおきましょう。
貸主の側の税金
貸主が支払った立ち退き料は、賃貸の事業を続けるためのものであれば、事業の必要経費になります。建物を取り壊して土地を売るためのものであれば、土地の譲渡の費用として扱われることがあります。どの扱いになるかによって税金の額が変わるので、支払う前に税理士に相談しておくと安心です。
立ち退き料の税金の扱いは、受け取った名目や、合意書の書き方によって変わることがあります。合意書を作る段階で、立ち退き料の内訳を書き分けておくと、後で税金の申告をするときに役立ちます。
話し合いがまとまらない場合
立ち退き料の額で合意できない場合は、調停や訴訟で決着をつけることになります。ただ、そこでも最終的には和解で終わることが多いのが実情です。
訴訟での立ち退き料の判断
話し合いがつかず、貸主が明け渡しを求めて訴訟を起こした場合、裁判所は、貸主の必要性と借主の必要性を比べたうえで、立ち退き料の支払いによって正当な理由が補われるかを判断します。貸主が申し出た額では足りなくても、裁判所が相当と考える額の支払いと引き換えに、明け渡しを命じることもあります。
引換給付判決とは
裁判所が、立ち退き料の支払いと引き換えに明け渡しを命じる判決を、引換給付判決といいます。この判決では、貸主が判決で定められた立ち退き料を支払うまで、借主は明け渡しを拒むことができます。貸主が明け渡しの強制執行をするには、立ち退き料を支払ったか、支払いの提供をしたことを示す必要があります。
鑑定による評価
訴訟では、立ち退き料の適正な額を判断するために、不動産鑑定士による借家権の価格や、営業の損失の鑑定が行われることがあります。鑑定の結果は、裁判所の判断に大きな影響を与えます。鑑定の費用は高額になることもあるので、訴訟に進む前に、交渉や調停でまとめられないかを検討することが大切です。
訴訟で認められる立ち退き料の額は、事案によって大きく異なり、予測が難しいのが実情です。借主の損失を大きく上回る額が認められることもあれば、借主の期待を下回ることもあります。訴訟に進むかどうかは、この不確実さも考えて判断する必要があります。
調停では、調停委員が双方の資料を見たうえで、立ち退き料の額の目安を示してくれることがあります。訴訟より費用が少なく、非公開の場で話し合えるので、借主にとっても貸主にとっても利用しやすい手続きです。
判決と和解
明け渡しの訴訟の多くは、判決まで進まず、訴訟の途中で和解によって解決します。裁判官が双方の主張と証拠を踏まえて和解案を示し、立ち退き料の額と退去の時期を調整します。判決に比べて、双方が納得しやすい条件で解決できることが多いのが和解の利点です。
具体例で考える|店舗の立ち退き料を交渉したケース
店舗の立ち退き料の交渉の例を見てみましょう。ある夫婦は、駅前の古いビルの1階で、20年以上小さな喫茶店を営んでいました。ビルのオーナーから、建物の老朽化を理由に建て替えを行うので、1年後までに退去してほしいと求められ、立ち退き料として家賃の6か月分を提示されました。
納得できなかった夫婦は、弁護士に相談しました。弁護士は、まず、店舗の移転にかかる費用を見積もりました。近くで同じ広さの空き店舗を探し、その家賃と初期費用、内装の工事の費用、厨房の設備の移設の費用、移転の間の休業の期間の損失を積み上げました。さらに、直近3年分の決算書をもとに、移転の後に常連客が戻るまでの売上の減少も見積もりました。
弁護士は、これらの損失をまとめた書面をオーナーに示し、提示された額では移転の費用の一部しかまかなえないことを説明しました。オーナーも、建て替えの計画を遅らせたくないと考え、話し合いに応じました。数回の交渉の結果、立ち退き料は当初の提示のおよそ3倍の額となり、あわせて明け渡しまでの3か月分の家賃の免除と、原状回復の免除で合意しました。
夫婦は、近くの空き店舗に移転し、以前と変わらず営業を続けることができました。損失を具体的な数字で示したことが、交渉を有利に進める決め手になりました。
この例では、夫婦が決算書などの資料をきちんと保管していたことが、損失の立証を可能にしました。店舗を営んでいる方は、日ごろから売上の記録や、内装の工事の費用の資料を整理しておくと、万一の立ち退きの交渉で役立ちます。
弁護士に依頼するメリット
立ち退き料の交渉を弁護士に依頼すると、損失の見積もりの方法や、交渉での主張の組み立て方について、専門的な助言を受けられます。貸主と直接やり取りする必要もなくなり、精神的な負担も軽くなります。立ち退き料の額が大きい店舗の立ち退きでは、弁護士が入ることで、受け取る額が大きく変わることもあります。
立ち退き料は、立ち退きという大きな出来事を、双方が納得できる形で終えるための調整の手段です。額の多寡だけにこだわらず、借主の生活や事業が立ち退きの後も続けられるかという視点で、条件を考えることが大切です。
立ち退き料に関するよくある質問
立ち退き料の相場はいくらですか
立ち退き料には、決まった相場はありません。家賃の数か月分という話を耳にすることもありますが、実際には、借主の損失の大きさと、貸主の必要性の強さによって、大きく変わります。自分の場合にどれだけの損失があるかを具体的に積み上げて考えることが大切です。
立ち退き料を受け取らずに退去することはできますか
できます。立ち退き料は、借主が受け取る権利を持つものではなく、交渉で決まるものです。借主が自ら希望して退去する場合や、立ち退き料なしで退去することに同意した場合は、受け取らないこともあります。ただ、貸主の都合による立ち退きであれば、少なくとも引越しの費用などの負担を求めることは、ごく一般的な交渉です。
立ち退き料をもらった後で、退去の時期を延ばせますか
合意書で定めた明け渡しの期日は守る必要があります。期日までに退去しないと、立ち退き料の減額や、損害金の支払いを求められることがあります。どうしても期日に間に合わない事情があれば、早めに貸主に相談しましょう。
貸主が倒産したり、建物が売られたりした場合はどうなりますか
合意した立ち退き料の支払いの前に、貸主が倒産したり、建物が売られたりすると、立ち退き料を受け取れなくなるおそれがあります。合意の時に一部を受け取っておく、明け渡しと引き換えに残りを受け取るなど、支払いの方法を工夫しておくことが大切です。
