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家賃の値上げ・値下げは拒否できる?増減請求の条件と手続き

家賃の値上げ・値下げは拒否できる?増減請求の条件と手続き

この記事で分かること

  • 家賃の値上げや値下げが認められるには一定の条件が必要です。
  • 当事者同士で話が付かない場合は調停、それでもまとまらなければ訴訟になる。
  • 値上げ請求の際は後に揉めない様、内容証明郵便で借主に通知することが大切です。

一般的に貸主は家賃をあげ、借主は下げたくなるものです。基本的に家賃の交渉は当事者同士での話し合いで決めることになりますが、まとまらない場合は訴訟になることもあり得ます。家賃の増減をするのにも条件があり、たとえ正当な理由があったとしても、双方の合意が必要です。

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家賃の値上げを求められたら、応じなければならないのか

更新の時期が近づいたころ、大家さんから「来月から家賃を1万円上げたい」と書かれた通知が届いた。物価も上がっているし仕方ないのかもしれないが、急な値上げには納得できない。反対に、貸主の立場では、固定資産税や修繕の費用が上がっているのに、何年も前の家賃のままで困っている。店舗を借りている事業者なら、売上が落ち込んで、家賃を下げてもらえないかと考えることもあるでしょう。

家賃は、契約で決めた額が原則です。一方が勝手に変えることはできません。けれども、長く貸し借りを続けていると、税金の額や土地の価格、周辺の家賃の相場が変わり、契約で決めた額が実情に合わなくなることがあります。借地借家法は、こうした場合に、貸主と借主のどちらからでも、家賃の増額や減額を求めることができると定めています。

ただし、増額や減額を求めても、相手が同意しなければ、すぐに家賃が変わるわけではありません。話し合いがまとまらなければ、調停や訴訟で、相当な家賃を決めてもらうことになります。値上げの通知を受けても、借主が同意しない限り、今の家賃を払い続けていれば、すぐに契約を解除されることはありません。

この記事では、不動産のトラブルの相談を受ける弁護士の立場から、家賃の増減を求められる条件、値上げや値下げの交渉の進め方、話し合いがまとまらない場合の手続き、決着するまでの家賃の払い方、相当な家賃の決め方までを、貸主と借主それぞれの立場から説明していきます。

家賃の増減をめぐる話し合いは、貸主と借主の双方にとって、関係を続けながら行う交渉です。どちらかが一方的に押し切ろうとすると、関係がこじれ、調停や訴訟にまで発展することもあります。法律の考え方を知ったうえで、根拠を示して話し合うことが、納得のいく解決への近道です。

家賃の増減を求められる条件

家賃の増減の基本となるのが、借地借家法の規定です。借地借家法32条は、建物の家賃が、次のような事情によって不相当になったときは、契約の条件にかかわらず、当事者は将来に向かって家賃の増額や減額を求めることができると定めています。

考慮される事情 増額の方向 減額の方向
土地や建物の税金などの負担 固定資産税などが上がった 固定資産税などが下がった
土地や建物の価格 地価が上がった 地価が下がった
経済の事情の変動 物価が上がった 物価が下がった、景気が悪化した
近くの似た建物の家賃 周辺の家賃の相場より安い 周辺の家賃の相場より高い

最後に家賃を決めた時点から考える

増減の判断では、最後に家賃を合意した時点が基準になります。契約の当初の家賃ではなく、途中で改定したことがあれば、その改定の時点からの事情の変化が問題になります。前回の改定がいつだったのか、そのときにどんな事情を考えて額を決めたのかを確かめておくと、交渉の根拠を整理しやすくなります。

普通の建物賃貸借と定期建物賃貸借

建物の賃貸借には、期間が満了しても原則として更新される普通の建物賃貸借と、更新がなく期間の満了で終わる定期建物賃貸借があります。家賃の増減のルールは、両者で少し違います。自分の契約がどちらにあたるかは、契約書に「定期建物賃貸借」と書かれているか、契約の前に更新がないことの説明を書面で受けたかで確かめられます。

「不相当になった」とは

家賃の増減が認められるには、今の家賃が、これらの事情に照らして不相当になっていることが必要です。前回家賃を決めてからの事情の変化が重視されます。わずかな物価の上昇だけでは、不相当とまではいえないこともあります。反対に、長い期間家賃が据え置かれ、その間に周辺の相場が大きく変わっていれば、増減が認められやすくなります。

家賃を自動的に改定する特約

契約に、物価の変動に合わせて家賃を自動的に改定する、あるいは数年ごとに一定の割合で家賃を上げるといった特約が入っていることがあります。こうした特約も原則として有効ですが、特約に従って改定した結果、家賃が経済の事情に照らして不相当になった場合は、借地借家法に基づいて、増減を求めることができると考えられています。

減額の方向でも同じ考え方

減額の求めについても、考え方は同じです。前回家賃を決めた後に、周辺の相場が大きく下がった、固定資産税が下がった、といった事情があり、今の家賃が不相当になっていれば、借主は減額を求めることができます。建物が古くなって価値が下がったことも、減額を求める理由の一つになりえます。

増額しない特約と減額しない特約

契約に、一定の期間は家賃を増額しないという特約がある場合は、その特約が優先され、その期間中は増額を求めることができません。一方、家賃を減額しないという特約は、借主に不利なものとして、普通の建物賃貸借では効力が認められないのが原則です。

特約 普通の建物賃貸借 定期建物賃貸借
一定期間増額しない特約 有効 有効
減額しない特約 無効(借主は減額を求められる) 家賃の改定についての特約として有効になりうる

定期建物賃貸借では、家賃の改定についての特約を定めておけば、増減の求めを排除することができます。

値上げを求められた借主の対応

貸主から値上げの通知を受けた場合、借主は慌てずに、次のように対応します。

  1. 通知の内容(値上げの額、理由、開始の時期)を確かめる。
  2. 契約書に、増額しない特約や、家賃の改定の定めがないかを確かめる。
  3. 周辺の似た物件の家賃の相場を調べる。
  4. 値上げの理由の説明を求め、納得できなければ、話し合いで額や時期を調整する。
  5. 合意できなければ、今の家賃を払い続けながら、調停などの手続きを待つ。

通知には、値上げに同意するかどうかの回答を求められていることもありますが、回答の期限までに返事をしなかったからといって、値上げに同意したことにはなりません。ただし、新しい額で家賃を払い始めると、値上げに同意したものと受け取られることがあるので、同意していない場合は、今までの額で払い続けましょう。

同意しなければ家賃は上がらない

貸主からの値上げの通知は、家賃の増額を求める意思表示です。借主が同意しなければ、その時点で家賃が変わるわけではありません。貸主が調停や訴訟を起こし、裁判所が相当な家賃を決めるまでは、借主は、自分が相当と考える額を払っていればよいとされています。通常は、今までの家賃を払い続けることになります。

管理会社からの通知

値上げの通知は、貸主本人ではなく、管理会社から届くことも多いでしょう。管理会社は、貸主の代わりに通知や交渉の窓口になっていることが一般的です。値上げの理由や根拠について質問したい場合は、管理会社を通じて貸主に確かめてもらうことができます。

相場を調べる方法

周辺の家賃の相場は、不動産の情報サイトで、同じ地域、同じくらいの広さ、築年数、駅からの距離の物件を探すと、おおよそ把握できます。いくつかの物件の家賃を一覧にしておくと、貸主との話し合いの材料になります。ただし、広告に出ている家賃は新しく入居する場合の家賃なので、長く住んでいる借主の家賃とそのまま比べられないことにも注意しましょう。

値上げの理由を確かめる

値上げの通知に、理由が書かれていない、あるいは「物価の上昇のため」といった抽象的な理由しか書かれていない場合は、具体的な根拠を示すよう求めましょう。固定資産税がどれだけ上がったのか、周辺の相場がいくらなのかを知ることで、値上げが妥当かどうかを判断できます。

一部だけ受け入れる選択

値上げを求められたとき、全面的に受け入れるか、全面的に拒むかの二択で考える必要はありません。値上げの必要性に一定の理解を示しつつ、上げ幅を小さくする、値上げの開始を次の更新まで待ってもらう、段階的に上げてもらう、といった提案をすることもできます。借主にとっても、調停や訴訟に進むより、話し合いで決めるほうが、負担は少なく済みます。

供託の手続き

家賃の供託は、物件の所在地の法務局などの供託所で行います。供託書に、貸主の氏名、物件、家賃の額と対象の月を書き、家賃を納めます。供託した後は、貸主に供託したことが通知されます。毎月の支払日ごとに供託を続ける必要があり、途中でやめると滞納とされるおそれがあります。

値上げに応じないと、契約を解除されるか

借主が値上げに応じないことを理由に、貸主が契約を解除したり、更新を拒んだりすることは、原則として認められません。今までの家賃をきちんと払い続けていれば、家賃の滞納にはあたりません。ただし、貸主が値上げを求めているのに、借主が今までより少ない額しか払わない場合は、滞納とされるおそれがあるので注意が必要です。

注意
貸主が値上げに応じない借主の家賃を受け取らないことがあります。この場合でも、家賃を払わずにいると、滞納として契約を解除される口実を与えてしまいます。貸主が受け取りを拒んだら、法務局に家賃を供託しましょう。供託すれば、家賃を払ったのと同じ扱いになります。

値下げを求める借主の対応

家賃の見直しは、値上げだけではありません。借主の側から家賃の減額を求めることもできます。周辺の家賃の相場が下がっている、建物が古くなって設備が劣化している、といった場合です。

減額を求める根拠を集める

減額を求めるには、今の家賃が不相当であることを示す根拠が必要です。

  • 周辺の似た条件の物件の家賃(広告や不動産会社の資料)
  • 建物や設備の劣化の状況(写真、修繕の記録)
  • 入居してからの家賃の推移と、周辺の相場の推移
  • 固定資産税の額の変化(分かる範囲で)

減額を求める通知の書き方

減額を求めるときは、書面で、求める家賃の額、減額を求める理由、減額の開始の時期を伝えます。周辺の家賃の相場の資料や、設備の劣化の写真を添えると、説得力が増します。減額の効果は、減額を求める意思表示が相手に届いた時から生じるので、届いた日が分かるよう、内容証明郵便で送っておくと確実です。

減額が決まるまでの家賃

借主が減額を求めても、貸主が同意しなければ、すぐに家賃が下がるわけではありません。裁判所が相当な家賃を決めるまでは、貸主は、自分が相当と考える額を請求でき、借主はそれを払う必要があります。通常は、今までの家賃を払い続けることになります。その後、裁判で減額が認められれば、払いすぎた分に、年1割の利息をつけて返してもらうことができます。

災害や設備の不具合による減額

建物の一部が使えなくなった場合は、家賃の増減の規定とは別に、民法の規定によって家賃が減額されることがあります。2020年の民法改正で、借主の責任によらずに建物の一部が使えなくなった場合は、使えない部分の割合に応じて、家賃が当然に減額されることが定められました。雨漏りで部屋の一部が使えない、設備が故障して使えないといった場合には、貸主に修繕を求めるとともに、減額についても話し合ってみましょう。

減額の交渉で気をつけたいこと

減額を求めると、貸主との関係がぎくしゃくすることを心配する方もいるでしょう。減額の交渉は、法律で認められた借主の権利ですが、根拠のない減額の要求は、貸主の反発を招くだけです。周辺の相場の資料を示し、貸主の事情にも配慮しながら話し合うことで、関係を損なわずに解決できることが多くなります。

借主が減額を求めているのに、貸主が話し合いに応じない場合は、借主の側から調停を申し立てることもできます。減額の調停も、値上げの場合と同じく、訴訟の前に必ず経る必要があります。

事業用の物件の減額

店舗や事務所の家賃は、住宅の家賃より額が大きく、景気の変動の影響も受けやすいため、減額の交渉が行われることがよくあります。売上の減少は、それだけでは家賃の減額の理由にならないことが多いのですが、周辺の家賃の相場が下がっている場合は、減額が認められる余地があります。

話し合いがまとまらない場合の手続き

どれだけ話し合っても折り合えないこともあります。家賃の増額や減額について、当事者の話し合いがまとまらない場合は、裁判所の手続きで決着をつけます。

段階 内容
1. 民事調停 家賃の増減の争いは、訴訟の前に、まず調停を申し立てなければならない(調停前置)
2. 調停での話し合い 調停委員が双方の言い分を聞き、不動産鑑定士などの意見も踏まえて解決案を示す
3. 調停に代わる決定 わずかな差で合意できない場合などに、裁判所が相当な家賃を決定する。2週間以内に異議が出なければ確定する
4. 訴訟 調停が成立しなければ、訴訟を起こし、判決で相当な家賃を決めてもらう

調停は、物件の所在地を管轄する簡易裁判所に申し立てます。申立ての手数料は、求める家賃の差額などをもとに計算され、訴訟よりも低い額で済みます。弁護士に依頼せずに、自分で申し立てることもできます。

いつから新しい家賃になるか

調停や訴訟で家賃の増減が認められた場合、新しい家賃が適用されるのは、増額や減額を求める意思表示が相手に届いた時からです。調停を申し立てた時や、判決が出た時からではありません。そのため、増減を求める通知を送った日が、精算の起算点として重要になります。

調停を先にする理由

家賃の増減の争いは、貸主と借主という継続的な関係の中の争いであり、話し合いで解決するのが望ましいと考えられています。そのため、いきなり訴訟を起こすことはできず、まず調停を申し立てる必要があります。調停では、不動産の専門家が調停委員として関わることも多く、専門的な見地から解決案が示されます。

調停で示される解決案

調停では、調停委員が、双方から提出された資料をもとに、相当と考える家賃の案を示します。必要に応じて、不動産鑑定士である調停委員が意見を述べることもあります。調停の段階で不動産鑑定を正式に行うと費用がかかるため、まずは調停委員の意見を参考に、双方が歩み寄れる額を探るのが一般的です。

調停が成立した場合

調停で家賃の額について合意が成立すれば、調停調書が作られ、その額が新しい家賃になります。合意の中で、いつから新しい家賃にするのか、それまでの差額をどう精算するのかも決めておきます。調停調書は判決と同じ効力を持つので、決めた内容が守られなければ、強制執行をすることもできます。

決着した後の精算

場合 決着するまでの支払い 決着した後の精算
増額が認められた 借主は、自分が相当と考える額を払っていればよい 不足額に年1割の利息をつけて、借主が貸主に支払う
減額が認められた 貸主は、自分が相当と考える額を請求できる 払いすぎた額に年1割の利息をつけて、貸主が借主に返す

年1割の利息は、決着までの間に相手に負担をかけたことへの調整です。増減の額が大きく、決着までに時間がかかるほど、精算の額も大きくなるので、見通しを立てて対応することが大切です。

相当な家賃はどう決まるか

では、相当な家賃は、どのように決められるのでしょうか。調停や訴訟では、不動産鑑定士の鑑定などをもとに、相当な家賃が決められます。継続して貸している建物の家賃を見直す場合、新しく貸す場合の家賃(新規賃料)とは異なる考え方がとられます。

方法 考え方
差額配分法 今の市場の家賃と実際の家賃の差額のうち、一定の割合を加減する
利回り法 建物や土地の価格に、前回家賃を決めたときの利回りを掛けて求める
スライド法 前回家賃を決めたときからの物価などの変動率を、今の家賃に掛けて求める
賃貸事例比較法 似た条件で継続して貸している物件の家賃の改定の例と比べる

これらの方法で求めた額を総合して、相当な家賃が判断されます。継続している賃貸借では、新規賃料の相場との差額の一部だけを反映させることが多く、相場と同じ水準まで一気に上げたり下げたりすることは、認められにくいのが一般的です。

鑑定の費用

訴訟で相当な家賃を決める場合は、裁判所が不動産鑑定士に鑑定を依頼することが多く、その費用は、原則として鑑定を申し出た当事者が予納します。鑑定の費用は、家賃の差額に比べて大きくなることもあるので、訴訟に進む前に、費用とのつり合いを考えることが大切です。

継続賃料と新規賃料の違い

新しく入居する人との間で決める家賃を新規賃料、すでに住んでいる借主との間で見直す家賃を継続賃料と呼びます。継続賃料は、これまでの契約の経緯や、借主が長く住み続けてきたことも考えて決められるため、新規賃料と同じ水準になるとは限りません。貸主が「新しく入る人はこの家賃だから」と言って、同じ額への値上げを求めても、そのまま認められるわけではないのです。

借主の側が鑑定を依頼する場合

調停や訴訟の前に、借主が自分で不動産鑑定士に家賃の鑑定を依頼することもできます。鑑定書は、自分の主張の根拠として示すことができ、相手との話し合いでも説得力を持ちます。費用はかかりますが、事業用の物件のように家賃の額が大きい場合は、鑑定を依頼する価値があります。

サブリースの場合

建物を一括で借り上げて転貸するサブリースの契約でも、借地借家法の家賃の増減の規定が適用されると考えられています。最高裁は、家賃を保証する約束があるサブリースでも、借り上げる会社からの減額の求めを認める余地があると判断しています。家賃の保証があるからといって、家賃が将来も変わらないとは限らない点に注意が必要です。

貸主が値上げを進めるときの手順

ここからは貸主の立場から見ていきます。貸主の立場から家賃の値上げを求める場合は、借主の理解を得られるよう、手順を踏んで進めることが大切です。

段階 内容
1. 根拠の準備 固定資産税の額の推移、周辺の家賃の相場、修繕の費用の増加などを資料にまとめる
2. 値上げの額の検討 新規の相場との差額の一部を反映させるなど、借主が受け入れやすい額を考える
3. 通知 値上げの額、理由、開始の時期を書面で伝える。更新の時期に合わせると話し合いやすい
4. 話し合い 借主の意見を聞き、額や時期を調整する
5. 合意の書面化 合意した額と開始の時期を、覚書や更新の契約書に書く
6. 調停 合意できなければ、調停を申し立てる
ワンポイントアドバイス
値上げの通知は、少なくとも更新の数か月前には送り、借主が考える時間を確保しましょう。通知の中で、周辺の相場や税金の上昇の資料を示し、借主の事情も聞く姿勢を見せると、話し合いがスムーズに進みます。一方的な通知は、かえって借主の反発を招き、調停に持ち込まれる原因になります。

値上げの根拠として示したい資料

  • 固定資産税・都市計画税の納税通知書(前回の改定の時と今)
  • 周辺の似た物件の募集の家賃
  • 建物の修繕や設備の更新にかかった費用
  • 前回家賃を改定した時期と、その後の物価の動き

複数の借主がいる物件

アパートやマンションで複数の借主に値上げを求める場合は、借主の間で家賃に不公平が生じないよう配慮が必要です。入居の時期によって家賃が違うのは珍しくありませんが、同じ条件の部屋で差が大きすぎると、借主の不満の原因になります。値上げの方針を物件全体で決め、それぞれの借主に丁寧に説明することが大切です。

値上げが空室につながるリスク

家賃を上げすぎると、借主が退去し、空室が増えるリスクがあります。空室の期間の損失や、新しい入居者を募集するための費用を考えると、少しの値上げのために長く住む借主を失うのは得策ではないこともあります。値上げの額は、物件の競争力と、借主の住み続ける意思を踏まえて判断しましょう。

具体例で考える|家賃の値上げを話し合いで調整したケース

よくある相談の例を見てみましょう。ある会社員の方は、築20年の賃貸マンションに10年住んでいました。更新の時期に、管理会社から、家賃を月9万円から10万5千円に値上げするという通知が届きました。理由は、固定資産税の上昇と、周辺の家賃の相場の上昇とされていました。

この方は、急な値上げに納得できず、弁護士に相談しました。弁護士は、周辺の似た条件の物件の家賃を調べ、新しく入居する場合の家賃は確かに10万円前後に上がっていることを確かめました。一方で、10年間住み続けている借主の家賃を、新規の相場まで一気に引き上げることは、調停や訴訟では認められにくいことを説明しました。

この方は、弁護士のアドバイスを受けて、管理会社に書面で回答しました。値上げの必要性は理解できるものの、上げ幅が大きすぎることを伝え、9万6千円への値上げであれば応じると提案しました。貸主も、調停に進むより話し合いで解決したいと考え、提案を受け入れました。合意の内容は、更新の契約書に書き加えられました。

値上げの通知を受けたとき、すぐに同意するのでも、頭ごなしに拒むのでもなく、相場を調べたうえで、根拠のある額を示して話し合ったことが、双方が納得できる解決につながった例です。

共益費や更新料との関係

家賃のほかにも、借主が毎月、あるいは更新のたびに払うお金には、共益費や管理費、更新料などがあります。これらの扱いも確かめておきましょう。

お金 性質 増減の扱い
共益費・管理費 共用部分の清掃や電気代などに充てる費用 実際にかかる費用が増えれば、増額を求めることがある。契約の定めを確かめる
更新料 契約を更新するときに支払うお金 契約に明確な定めがあり、額が高すぎなければ有効とされる
駐車場の使用料 建物と別に借りる駐車場の料金 建物の賃貸借とは別の契約として扱われることが多い

共益費の値上げを求められたら

共益費の値上げを求められた場合は、共用部分の清掃や電気代などの費用が実際に増えているのかを、貸主に確かめましょう。共益費は、共用部分の維持にかかる実費に充てるものなので、実費の増加の根拠がなければ、値上げに応じる必要はありません。

更新料の有効性

最高裁は、平成23年7月15日の判決で、更新料の条項が契約書にはっきり書かれ、更新料の額が家賃の額や更新の期間に照らして高すぎなければ、消費者契約法に反せず有効であると判断しました。更新料を家賃の値上げの代わりとして使うことは、借主にとって実質的な負担の増加になるので、更新料の額にも注意を払いましょう。

更新の時期と値上げの関係

家賃の値上げは、更新の時期に合わせて求められることが多いのですが、法律上は、更新の時期でなくても増減を求めることができます。一方、借主の側から見ると、更新の契約書に新しい家賃が書かれている場合、署名すれば値上げに同意したことになります。更新の書類に署名する前に、家賃の額を必ず確かめてください。

家賃に含まれる費用の見直し

家賃に、共益費や水道代などが含まれている場合は、その内訳を確かめることが大切です。家賃の値上げを求められたときも、どの費用が上がったのかが分かれば、交渉の材料になります。

家賃の増減は、法律で認められた権利ですが、最終的には、貸主と借主が納得できるかどうかで決まる面も大きいものです。互いの事情を理解し、根拠を示して話し合うことが、長く良好な関係を続けるための基本です。

この例では、借主が相場を自分で調べ、根拠のある額を示したことが決め手になりました。貸主にとっても、調停の手間と費用を考えれば、話し合いで一定の値上げを実現できたことには意味がありました。

弁護士に相談するタイミング

値上げや値下げの額が大きい場合、事業用の物件で家賃の総額が大きい場合、相手が調停を申し立ててきた場合は、弁護士に相談することをおすすめします。相場の見方や、調停での主張の組み立て方について助言を受けられ、不利な条件で合意してしまうことを防げます。

家賃の値上げ・値下げに関するよくある質問

更新のときに値上げを拒んだら、更新できなくなりますか

普通の建物賃貸借では、借主が更新を望めば、貸主に正当な理由がない限り、契約は更新されます。値上げに応じないことは、更新を拒む正当な理由にはなりません。合意がないまま更新の時期を過ぎても、以前と同じ条件で更新されたものとみなされます。

値上げの通知に同意していないのに、新しい額が請求されています

同意していなければ、家賃は変わっていません。今までの家賃を払い続け、請求された額に同意していないことを、書面で伝えておきましょう。貸主が受け取りを拒む場合は、供託を検討してください。

家賃の値上げは、年に何回まで求められますか

回数の制限はありませんが、家賃の増額が認められるには、前回家賃を決めてから事情が変わって、今の家賃が不相当になっていることが必要です。短い期間に繰り返し値上げを求めても、事情の変化がなければ、認められにくいでしょう。

貸主の側から、家賃の値上げの交渉をするときのポイントはありますか

値上げの理由を、固定資産税の額や周辺の家賃の相場などの資料で具体的に示すことが大切です。一度に大きく上げるより、段階的に上げる、更新の時期に合わせて提案するといった工夫も、借主の理解を得やすくなります。長く住んでいる借主との関係を大切にすることが、空室のリスクを避けることにもつながります。

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